田舎の鼻たれ小僧が金持ちお嬢様に食わせまくるだけ

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ネタが思いつかないので短編


ザリガニ

「釣れないなあ」

 

底が濁って見えない汚え側溝に垂らして待つこと数分。酒カスおやじのスルメイカを餌にした釣りは芳しくなかった。

 

頭上でじりじりじりと喧しいセミ共はどいつもこいつもふん捕まえるには僕の手に届かないところで泣き喚くチキンばかり。なので蝉取りに現を抜かすをこともかなわない。それにこのザリガニ釣りには今日の昼飯がかかっているのだ。諦めるわけにはいくまいて。

 

しかしそう憤ろうとも結局のところ釣りとは攻守で言う守り。どれだけ怒ろうが喚こうが我々人間は待ちに徹することしかできないのだ。

 

「何をしているの?」

 

だんだんとむわりとした暑さにやられ顔を洗おうかと目の前の水に手を伸ばしかけるがすんでのところで手を止める。あぶないあぶない今僕の周囲には泥や虫の糞で汚染されたであろう黒に近い茶色の泥水しかないのだった。周りのセミや虫共の舌打ちをする音が聞こえる。その手にはのるもんかいと、ちゃんと気をしっかり持とうと顔を上げた僕は突然、後ろからの声に一瞬反応ができなかった。

 

後ろを振り向くとそこには巨大な太陽があった。いや違う。これは白いワンピースだ。余りある光が泥水ばかりに目を向けていた僕の目を焼いたのだ。

 

そんな太陽が僕に話しかけてきたようで、僕のしていることを気になっている様子。太陽は誰のものでもないと僕は知っている。僕の事ばかり見ているようで、実は誰もが目を追っているのだ。なので僕のしていることを見ていながらも知らないのは何も不思議な事じゃない。なのでぼくは手元の小枝を動かさぬよう慎重に口を動かした。

 

「ザリガニ釣りをしてるんだ」

 

「ざりがに釣り、なのですわ?」

 

「そう。ザリガニ釣り」

 

とてとてと僕の隣にしゃがみ僕と同じように汚い水面を覗く。太陽が僕を見ていたことは知っていたが、まさか泥水なんかも見るとは。しかし泥水は見られることを拒んでいるようで、その水底は太陽が照らしてなお見通せない。贅沢な奴、と僕はスルメイカを噛んだ。

 

「ザリガニ釣りしらない?こう、その辺の枝に糸を結び付けて餌を垂らすやつ」

 

「釣りはわかるけれど、ざりがにというのは、なんなのですわ?」

 

「しらないの?」

 

そこまで会話してはたと気づく。この太陽を僕は知っている。彼女は先日、僕も通うこの町唯一の汚い校舎にやってきた真珠のように輝いていたひとだ。

 

『今日からここに通わせていただく、霞沢 志乃です。よろしくお願いしますわ』

 

僕は生まれて初めて太陽を直視した。いやさせられたと言うべきか。シルクのような肌と芸術品の一つと言われて納得してしまうような様々な表情、胸より下までのばされた輝く白い髪がクラス中に光を放つ。

 

そのひとは静水域、大量にいるボラの中に生まれたクロマグロだった。いやロバ小屋唯一のユニコーンか?とにかく一瞬で僕たち先生問わず周りを魅了し虜にした、薔薇のような存在だった。幸いなことに僕と彼女は席が遠く僕はまだその毒棘(どくきょく)にかかっていないのでまだ彼女の事を具体的にどうとは思っていないが、このままだと危ない気がする。彼女の隣に座る僕の友達は既に目が焼けてしまっていた。

 

「ふーん。ならこれ持って」

 

「いいの?」

 

「うん。どうせ釣れないから」

 

そんな太陽が僕の目の前にいる。あんなに手を伸ばして届かなかった、僕を見下ろしてばかりの太陽が、僕の前に。

 

僕は思う。これはチャンスじゃないか?前々から思っていたのだ。太陽になんの抵抗もせず無様にその光を浴びせさせられ続けるというのは、ダサい。僕の流儀に反する行いだ。

こうして太陽の方から近づいてきてくれたのだ。敵に対抗するためには敵を知らなくちゃいけない。存分に弱点を探ってやろうではないか。

 

「僕がさっきから垂らしてるのに、なんも来ないからここにはいないかもね」

 

「あっ、なにか、ぴくぴくしだしていますわ!」

 

「え、」

 

見ると、水面が激しく揺れ出し泥水中に赤い何かがじたばたと暴れている。

 

「引っ張って!」

 

「は、はいですわ!」

 

ぶんと勢いよく腕を引くとじゃばと水面からザリガニが顔を出し、空中で宙づりになる。

 

「へんなのが釣れましたわ!へんなのが釣れましたわ!」

 

「すごい!ザリガニ2匹釣れてるじゃん!」

 

しかも、2匹が我先にと餌へとハサミで挟みこんで宙づりになっていた。僕は興奮して手づかみでがしっと掴み引きはがす。

 

「ほら!すごい!2匹同時に釣れてるじゃん!」

 

「すごいですわ!へんなの二匹釣れましたわ!」

 

興奮して両手でザリガニをぶんぶん振り回しているうちに気づく。この太陽、僕より釣りが上手い。なんと弱点を探そうと思っていたらまさか僕の長所が負けるとは思わなかった。しかし、そうか、これは調査ではない、既に闘いのゴングはなっていたのか。

 

「太陽さん!今からコレ茹でて食べようよ!どっちがおいしくできるか勝負だ!」

 

「望むところですわ!」

 

竿をほっぽりだしてたいして整備されていない道を走り出す。この時の僕たちは正に風だった。かつてない闘争心に全身が呼応しびゅおおと鳴らして駆けていく。

 

「あと私の事は志乃って呼んでほしいですわ!」

 

「じゃあ僕の事は虎太郎って呼んでね、志乃!とりあえず僕の家に行こう!」

 

僕と志乃は脇目もふらず時間よりも先にその場を後にする。志乃があの場にいたのは車で帰る途中、酔い疲れの休憩で一旦降りただけだということを僕が知るのは翌日なのだった。

 

 

 

 

 

「ここが僕の家だよ」

 

セミよりも大きな声で笑いながら帰ってきたところは一見ボロ屋、そうでなくともボロ屋な僕の家だ。ガラリと足で扉を開けザリガニ2匹を鷲掴みつつ台所に直行する。

 

「ここがキッチンなのですね。初めて見ましたわ」

 

「志乃って台所見たことないんだ。まあ窓とか少ないし遮られて見えないよね」

 

がちゃがちゃとザリガニを水洗いし足の節々に詰まっている泥をこそぎ落とす。ついでに背中をたわしで磨いてピカピカにしてみた。

 

「これが"ザリガニ"なのね…!」

 

「ほんとに見たことないんだ」

 

この辺ならどこにでもいるのに、やはり志乃はまばらに僕たちを見ているから太陽の日の届かない泥の中や口の中を知らないのかもしれない。きっと舌の色が赤色だということも知らないのだろう。ザリガニのハサミにちょいちょいと指を入れている志乃を見て僕はそう思う。

 

「よしっ、水も沸騰してきたし、どっちがおいしく茹でられるか勝負だ」

 

「おっけーですわ」

 

双方ともに鍋にザリガニを入れ蓋を閉じる。僕の体感としては15分も茹でれば中にしっかり火が通っておいしくなる頃合いだ。そうして待つこと15分。「志乃はなんでそんなに光ってるの?」「この白い服はお母さまが着けてくれたのですわ」「なんでいきなり僕を見だしたの?」「たまたまクラスメイトの虎太郎くんがいたのを発見したのですわ」「クラスの皆が志乃に夢中でなんか変だから元に戻してよ」「そ、そんなことないですわ。私が今ザリガニに夢中になってるのと同じようなものですわ、たぶん」と話しているうちに時間は過ぎ去り鍋は煙を吹いている。

 

「僕はもう上げるつもりだけど、志乃はどうする?」

 

「じゃあ私もそうしますわ」

 

ざるに向かって鍋の中身を落とすとざるにはものの見事に赤くなったザリガニたちが残っていた。どちらもしっかりと火が通っているようで食べても問題なさそうである。

 

「これ、どうやって食べるのですわ?硬そうですわ」

 

「これはねー、胴をグリっと回すと…」

 

「わ、白い魚みたいな身が出てきましたわ!」

 

早速皿に2匹分並べて出してみる。量は少ないが二人で味見する分には十分だろう。ついに太陽(志乃)がザリガニの味を知るのだと思うとザリガニに良い事をしたなという気分になる。

 

「じゃあ、いただきます」

 

しっかり手を合わせ感謝、そしてザリガニの身をつまんで半分くらい食べる。小さく、淡白だがエビの風味とぷりぷりした触感がたまらない。

 

「なにしてるの?」

 

「テーブルによく置いてある、しょうゆをかけているのですわ」

 

志乃見ると、クソおやじが時たま魚にかけているよくわからないものを志乃は小皿に出している。今まで手を出していなかったが志乃が知っているということはおいしいのだろうか。

 

「いただきます」

 

志乃はザリガニの身を牛乳のように真っ白な指先でつまみ口元に運ぶ。唇で軽く咥え、歯でそっと噛み切る。半分の身が口の中に吸い込まれると、わずかなしょうゆが唇に触れた。

 

「おいしいですわ!」

 

志乃は目を輝かせて笑った。そのことに何故だか僕は自分の事のように口元が上がり嬉しくなる。いかんいかん、僕もどこかおかしくなっているみたいだ。

 

「ねえ、そのしょうゆついたもう半分ちょうだい。僕のあげるから」

 

「いいですわ!」

 

お互いに己のザリガニを交換して実食。僕は新たなザリガニの味を、志乃は薄味だが根底にあるザリガニという素材の味を。

 

僕はとっくに、競争ということを忘れて志乃と笑いあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうこんな時間かあ」

 

見れば宙に浮かぶ太陽は傾きオレンジ色に輝きだしている。あれはもう身を隠して夜にバトンタッチしますよーという合図だと僕は知っている。

だから志乃も帰る時間なのだろう。志乃はお母様が心配するだろうからと言っていた。

 

「家帰れるの?」

 

「大丈夫ですわ。帰り道も覚えているし、電話も持っていますわ」

 

あっ、なんか電話かかってきていましたわーと画面を見て今更なことを言う志乃。なら猶更早く帰らねばならないだろう。いそいそといろんな靴が散らばった玄関にて靴を履き扉を開け帰ろうとする志乃に手を振ろうとして、志乃はこっちを向く。

 

 

 

「また、遊んでくれる?」

 

 

 

ああ、やはり彼女は太陽だ。斜陽にも関わらず彼女は眩しく光り輝き僕を焼く。思わず全身丸焦げになるところだった。

 

「うん。もちろん」

 

 

 

そういうと彼女は今日一番の笑顔を見せ、扉から出ていった。

薄暗い玄関だが、僕はそこさえも眩しくて目が開けられない。彼女の残像が未だ僕の瞳から離れないからだ。さらに、指一本たりとも動かせない。何故なら僕は灰すらも纏めて消し飛ばされてしまったからだ。

けれどあの笑顔を見れた僕に後悔などあろうはずがなかった。




続き無し

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