小鳥遊ホシノのうんちを手に入れなきゃ死ぬらしい   作:カスのゲマトリア

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ちょっと先の展開練り練りしたいから幕間です。
扱い的にはunp.10.5的な位置づけです



unp.幕間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小鳥遊ホシノとの一応の和解が成立し――。

俺はアビドス高等学校の在校生としての立場を、他でもない小鳥遊ホシノ本人から改めて認めて貰うことが出来た。

 

これは非常に喜ばしい事だ。

既に書類上、形式的に俺の所属がアビドスにあるとはいえ――この学校の上長的な立場にある小鳥遊ホシノが俺への不信を理由に退学を迫ればどうなるかは分からない。

 

そもそも――この学校に近づいた理由は小鳥遊ホシノのうんちを手に入れるためである。

 

 彼女に警戒され続けていては意味が無いのだ。

事情を全て打ち明けることが出来、尚且つ受け入れて貰えたのは考うる限り最良の結果であると言えた。

 

一先ず、今すぐ命がどうこうという所からは脱することが出来たと言っていいだろう。

 

とはいえ――。

 

 

「すまない小鳥遊ホシノ。

 実はさっきので腰をやったらしい……。

 手を貸して貰えないか?」

 

「うへ~、やり過ぎちゃったみたい。

 ……ごめんね」

 

 

鉛玉と蹴手繰りを受けて地に伏せた所に、床面が割れるレベルの膝プレスを喰らった俺の体はそれなりに重傷だった。

腰を痛めてしまったようで、自力での歩行は難しそうだ。

 

服も砂だらけで所々破れているから、余計に痛ましい見かけをしているのかもしれない。

 

小鳥遊ホシノが申し訳なさそうに謝ってきた。

 

 

「いいさ、気にしてない。誰だってうんちが欲しいなんて言われたら怒るよ。

それに――理不尽には最近慣れて来た所さ」

 

「……私の顔でクサい台詞言わないでくんない?」

 

「それは……どっちの意味だ?」

 

「うっさいなー ほら、肩貸して」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

小鳥遊ホシノの肩を借りて、歩き出す――。

 

歩く度にズキズキと腰が痛むが、なんとなく数時間中に治るような予感もした。

 

改めて自身の肉体の変質を実感する。

そもそもこの程度の怪我で済んでいるのは――この身体の頑強さに寄るところが大きいのだろう。

もしや――見た目だけじゃなく、小鳥遊ホシノの身体機能までそれに準じているのだろうか。

 

心の小鳥遊ホシノが編入テストの時に見せた工作機械じみたあの動きも……そういえば動かしていたのはこの体である。

 

いや――おそらく違うか。

腹部を蹴られた時に見せた小鳥遊ホシノの俊敏さはとても目で追い切れるものじゃなかった。

同じ肉体性能ならそれはおかしい。

この体は元のソレよりは頑強だが、それだけに過ぎないのだろう。

 

心の小鳥遊ホシノは小鳥遊ホシノと変わらぬ動きが出来そうではあるが、「なにか」のとてつもない消費を代償にしているように思う。

 

 

「君が――どこから来た何者なのかは、今は不問にしてあげるよ」

 

 

そんなことを考えていると小鳥遊ホシノが先制する様にこちらへそう伝えてきた。

 

やはり――俺の経歴が嘘であることを確信しているようだ。

「男」というのを明かしたのも、その確信を強めた理由なのかもしれない。

 

しかし、真相を深く追求するつもりはないらしい。

それを秘密にする理由はないでもないが、特に隠さねばならないうんち周りの事情を知っている小鳥遊ホシノに、俺の経歴を明かす事へそこまでの忌避感は無かった。

 

 

「いいのか?俺は――」

 

「これ以上変に混乱したくないんだよ~。

 正直もう頭がおかしくなりそうだし……。

君が『黒服の敵』で『アビドスの味方』って事実は、まぁハッキリしてるしねぇ」

 

「そう言ってくれるなら、分かったよ」

 

 

『アビドスの味方』か。

そう明言することにこちらへの牽制も含まれてはいそうだが……思ったより俺の存在を好意的に解釈してくれているようで何よりだ。

 

実際……俺がアビドスを害する理由はなく、俺の生命活動の維持に小鳥遊ホシノの協力が必要な以上、むしろアビドスへ積極的に俺の有用性を示さなければならない立場とも言える。

 

 

 

「それよりさ――覚悟した方がいいよ~」

 

ふと、――小鳥遊ホシノがいたずらっ子のような笑みを浮かべてこちらを試すように笑った。

 

 

「1つの自治区をたった5人で維持する事の意味を……これから君は体感するんだからねぇ」

 

 

 ………なるほど。それは確かに、大変そうだ。

だがまぁ――しかし。ちょっとだけ違うな。

 

 

「これからは6人だ」

 

 

俺が苦笑しながらそう伝えた時の――

彼女の少し驚いたような顔は、今日見せたどの表情よりも年齢相応に感じられた。

 

痛すぎる腰の、ちょっとした意趣返しのつもりだったが。

 

少女のその顔を見て―――大言壮語だったと前言を撤回するには、あまりに自分が情けなく思えてしまい――照れ隠しの様にそのまま言葉を続けた。

 

 

 

「こちらこそ改めてよろしく頼むぜ。ホシノ先輩」

 

 

 

 

 

■■

■■■

 

 

 

 

 

「が、があぁぁぁああ!?腰が!もうちょっと!!

 もうちょっとゆっくり!ゆっくり降りてくれ!」

 

「し、締まんないねぇ~、君って……」

 

 

 その後、痛くないようにかなりゆっくりと階段を降りて――そのままボロボロの格好で戻ると何かがあった事がバレてしまうから、更衣室にある予備の制服にそのまま袖を通してしまおうという話になった。

 

着替えの時に少しジトっとした目で見られたが――俺の種族が犬であった事を伝えると、少しではあるがそれも和らいだ。

こちらもヘイロー持ちの裸に興味は無い。

 

なんであれ、これで見かけ上も――完全にアビドス生徒である。

 

「これ……私のお古だけどあげるよ」

 

「防弾ベストか。いいのか?」

 

「いいよ、実際もう結構古いやつだしね~。

サイズも同じだしリサイクルリサイクル」

 

『…………』

 

「……? そうか。ありがとな」

 

 それなりに質の高そうな装備だし、まだまだ現役で使えそうだが――まぁ、くれると言うのなら貰っておこう。

制服の上からだと流石に嵩張ってしまうため、ワイシャツの上から防弾ベストを着る。

 

小鳥遊ホシノや十六夜ノノミを見る限り、上の制服の着脱は自由な様だし、基本この格好でいいだろう。

 

これで少しは防御力が上がっただろうか。

下がスカートで全然落ち着かないし守られてる感じはあんまりしないが……。

 

 

「……じゃ、みんなのとこ戻ろコウくんちゃん」

 

「そ、その呼び方何とかならないか?」

 

「あれれ? コウちゃんの方が良かったかな~?」

 

「そういうわけじゃないけど、変じゃないか?」

 

「ん~、だめ。

 コウくんちゃんはコウくんちゃんで十分だよ」

 

「どういう理屈なんだ……」

 

 

 か、完全に遊ばれている。

いや、心を開き過ぎないように心理的な防壁を張っているのかもしれない。

それとも泣き顔を見られたことによる意趣返しだろうか。

 

まぁ、なんにせよ……別にいいか。呼び方ぐらい。

 

 

 

『……何を考えてるんですか、私』

 

 (……? なんか言ったか、小鳥遊ホシノ)

 

 

心の小鳥遊ホシノは――何も答えなかった。

 

 

 

 

 

■■

■■■

 

 

 

 

 その後、腰の痛みもそれなりに引き始め――

少なくとも見かけ上は何事も無かったように振る舞えるようになった所で、俺達は再びアビドスの面々と合流した。

 

現状は特にやることの無い空白的な時間なのか――小鳥遊ホシノは合流して一段落が付くと十六夜ノノミの膝の上に吸い込まれてしまった。

 

「ふぃ~。疲れたよ~。極楽、極楽」

 

「あらあら……今日のホシノ先輩は本当におじさんみたいですね~」

 

「およよ……。酷いよノノミちゃん。

ママはそんなことを言う子に育てた覚えは……」

 

 なんというか先程の小鳥遊ホシノを見ている分、落差の激しさに妙な居心地の悪さを感じてしまう。

どうにも気の抜けてしまう和やかな雰囲気だ。

 

というか――活動の覚悟をしておけと言っていた当人が最初に見せる動きはそれでいいのだろうか。

そのまま寝てしまいかねない様子だが……。

 

 

「コウ……耳貸して」

 

「え? なんですか?」

 

 すると――いきなり砂狼シロコがにじり寄ってきて耳打ちをしてきた。

 

 

「……うんちってなに?」

 

 

 ――――――っっ!!?

 

なななななぜ!? もしかして聞かれてた!?

いや!いや!おちつけ!

とにかく――!とにかく現状を把握しろ――!

 

動揺する内心を押えつけ、砂狼シロコに耳打ちを返す。

 

「なんの事か――」

「み、耳が痒いっ……!!」

「げぅ!?」

 

 じゃ、じゃあ耳打ちなんてすんな……!

突き飛ばしてきやがった。信じられねぇ。

いや、それよりも……! 何処まで知ってるんだ。

砂狼シロコ……!?

 

「あっ……ごめん。

 まって、今モモトークで送るから」

 

「わ、分かりました」

 

幸い、他の面々にはふざけ合ってるだけと認識されたのか――不審には思われてないらしい。

俺は砂狼シロコからのモモトークを待った。

 

 『屋上からうんちですって声が聞こえた。

 コウが叫んでたの?なんの為に?』

 

 『叫びたくなっただけです。

  山の頂上で叫びたくなるアレです』

 

 『普通叫ぶ語彙にうんちを選ばないと思う』

 

 『うんち!!!!!』

 『はい、今無意識でうんちって打ちました。

 私はこういう人間です。うんちうんちうんち』

 

 

 おそるおそる――、砂狼シロコの様子を伺う。

ふっと力の抜けた表情でこちらの頭を撫でてきた。

 

な、なんだ……。どういう意味合いなんだ。それ。

 

「私も、自分の好きな事が……人の迷惑になる時があるし、なんでやっちゃいけないのか分からなくなりそうな時もある」

 

「え、あ。はい」

 

「でも――我慢することは大切だと思う。

 うんちは……家で叫ぶべき」

 

「分かりました。次からそうします」

 

「ん……私も大事な事に気がつけた」

 

 

 とりあえず――バレたのは俺の叫び声だけのようで、俺と小鳥遊ホシノの関係性の全貌は秘匿されているようだが。

 

――どっと、疲れてしまった。

 

アビドスでの先行きは――まだまだ前途多難になりそうだ。

 

 

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