小鳥遊ホシノのうんちを手に入れなきゃ死ぬらしい 作:カスのゲマトリア
しばらく書き溜めます
いっぱい溜めてドバーッと出すから待ってて
「――これよりアビドス廃校対策委員会、本日の活動内容の会議を始めます」
あの激動の一日から、翌日の事――。
アビドス高等学校の面々が集まると、今日の活動について書記の奥空アヤネが厳粛な声色で音頭を取った。
彼女の凛とした声はよく通り、眼鏡姿もあってか聞く者に居住まいを正すような力がある気がする。
昨日小鳥遊ホシノに言われていた活動内容の過酷さのこともあり――俺は改めて気を引き締めた。
「おぉ~いつになく本格的だねぇ。アヤネちゃん」
「コ、コウちゃんは初めてなので分かりやすい方が良いかと……」
「あはは~大丈夫ですよ。そんなに固くならなくて」
「え、ええ。どうも」
な、なるほど。
どうにも気を使われているみたいだ。
十六夜ノノミに肩の力を抜く様言われてしまった。
……毎朝この感じでやっているのかと思ったが実際はもうちょっと緩い空気感で進行するらしい。
少し肩透かしのような心地にさせられたが、何分自治区の管理など初めての経験だ。俺が必要以上に気を弛めることはしなくていいだろう。
――まぁ、いい意味で力が抜けた気もしたが。
「ん……私はいつも通り見回りをしてくる」
「私、今日は弾薬の買い出しに行きます~
荷物が多くなりそうだから誰か一緒に来てくれると嬉しいです☆」
「あ! それなら私が……コウも行く?」
「いや……私は」
今日――俺にはアビドス高等学校から離れる訳にいかない事情があった。
しかし、自然に断る様な言い訳が思い浮かばず言い淀んでいると――。
「あ~、コウくんちゃんには教えたい事があるから。
今日は私とお留守番ね」
「コ、コウくんちゃん……?
まぁ、ホシノ先輩がそう言うなら……」
「あはは~悪いねぇ。
それにほら、私に似てるのもあるし今はまだあんまり自治区の外に連れ出すのも……ね?
その辺のお話もちゃんとしときたいんだよー」
――小鳥遊ホシノが助け舟を出してくれた。
黒見セリカも尤もらしい言い分にそれ以上口を挟む事はせず、不承不承といった感じで頷いた。
俺の不自由を思っての事だろうか。
この子もまた、優しい子だな。
「………セリカさん、私は大丈夫です。
別に外に出れないってワケじゃないですしね。
また一緒に、柴関ラーメンに行きましょう」
「コウ……。うん、そうね! 絶対よ」
思わず――そうフォローしてしまったが。
彼女の中の俺と、真実の俺との落差を――いつか知らせる時が来るのだろうか。
勘違いされる認識を作ったことは自業自得とはいえ、かなり身の竦む話だ。
俺が本当は小鳥遊ホシノうんちを狙って近づいてきた成人済みの男性と知られたら、八つ裂きにされても文句は言えないな……。
その後、つつがなく会議は進行し――。
砂狼シロコは自治区内のパトロール。
十六夜ノノミと黒見セリカは買い出し。
俺と小鳥遊ホシノ、奥空アヤネは校舎内で待機。
――事務作業と不測の事態に備える事が仕事になるという話だ。
そういう内訳で動くことになった。
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書類の作成法やソフトの扱い方などを奥空アヤネに教わりながら黙々と作業に取り組んでいた――。
……あまり戦闘自体は好きでは無いが、細やかな頭脳労働よりも単純に肉体を動かせば良かったかつての職場が、少しだけ恋しくなる。
「すごいです!思ったより覚えるのがずっと早い!
これならこっちの仕事も――」
まぁ……見かけより歳も食ってるし、編入試験での様子から阿呆の様に思われていたのかもしれないが、教えてくれればある程度はこなせる。
それ以上におだててくれてる感じも否めないが。
「なんか……あの、これ。最近の弾薬の消費すげぇ増えてません?」
ふと――帳簿の違和感に気がつく。
弾薬だけではなく、戦闘に必要な物資の消費量が過去の記録よりも明らかに激増していた。
「あぁ……それは。ヘルメット団のせいですね」
「ヘルメット団?」
「――三流のチンピラ集団だよ~。
強い敵じゃないけどやけにしつこくてねぇ。
校舎をよこせーって」
枕にしていたクジラからムクリと顔を離した小鳥遊ホシノが、ヘルメット団の説明をしてくれた。
眠たげだが、声にはうんざりした響きが含まれている。
「あ、ホシノ先輩。起こしちゃいました?」
「や~、いいのいいの。
なんか真面目に仕事してるのに寝るの居心地悪かったしね……場所を変えるよ」
「け、結局寝るんですか……」
そう言うと、小鳥遊ホシノはふらふらと教室の外へ出て行ってしまった。
それを見送ると――奥空アヤネは口をもごもごとさせた後、中空に視線を彷徨わせてから、こちらに向き直る。
「あんまり……ホシノ先輩の事を悪く思わないであげてくださいね」
そして神妙な面持ちで――俺にそう伝えてきた。
「コウちゃんにとって――ホシノ先輩はアビドスに閉じ込める様な事を言ったり、眠ってばかりで怠けているような……。
そういう……良くないイメージを持ってしまっているかもしれません」
「い、いや――」
いや違うんだ。あれは助け舟で……。
昼寝の方はよく分からんけども。
「でも、いざとなれば頼りになる――凄く良い先輩なんです。
それに………本人は上手く隠してるつもりみたいですが、夜遅くまで自治区の見回りをしているらしくて……ええと、だからその――」
「――大丈夫です、アヤネさん」
その昼寝の背景は今知ったけども。
まぁ。それにも「そんな所だろうな」という――納得めいた気持ちしか湧くことはない。
「ホシノ先輩がすげぇ優しいのは、ちゃんと分かってます」
まじで……ほんとに……。頭が上がらない位には。
「……! それは良かったです!」
心の底から嬉しそうに、奥空アヤネは笑った。
随分真っ直ぐに――後輩から慕われているようで、こちらまで清々しい気分にさせられてしまう。
『宝物』……か。
彼女の守りたい物の一端が、俺にも少しだけ分かった気がした。
ここにきてから、随分と人の善性に触れる機会に恵まれている。
…………自分がこれからする事を思うと、比較して悲しい気持ちになってしまうな。
――さりげなく、机の上に残されたぬいぐるみを見やる。
クジラは机に背中を向けていて――つまり逆位置の状態で置かれていた。
「アヤネさん。ちょっと私、トイレ行ってきますね」
――小鳥遊ホシノのうんちの補給方法。
モモトークや口頭での情報共有は事が露見する危険性があり(なによりトーク画面に「うんち」という文字列を残したくないらしい)。
また、うんちはタイミングを選べる行為では無い為――突発的な状況下でも情報をすぐ伝えられる符号が必要になった。
何より全く同じタイミングでトイレへと向かい――同じ空間で他者にうんち待ちを続けられる小鳥遊ホシノの精神的負荷は計り知れない。
よって――小鳥遊ホシノとの相談の結果、
クジラのぬいぐるみを裏返した時に元々決めていたトイレへと向かい、事が終わった後に入れ替わりで俺がトイレへ入るという手段をとる事になった。
俺は決められていた――校舎三階のトイレ付近へと足を運ぶと、小鳥遊ホシノの精神の安寧とこれからのご多幸をお祈りし、静かにその時を待つ。
今はただ君に――幸あらんことを。
『なんか……なんか思い出を汚されたみたいですごい嫌です……』
(あのクジラ……君も持ってたな)
『こっちに持ってこられたと思ったんですけどね。
……私本人がこちらに居ますし、その限りではないんでしょう……。はぁ 私のバカ』
(そう言うな……あのクジラが一番視認性が良くてメッセンジャーとして適任だったんだよ)
それっきり、心の小鳥遊ホシノはむっつりと口を閉ざしてしまった。
……そんなに思い出深い一品なのだろうか。
考えてみれば自らと分離してすら持っていた物だ。
どうでもいい物のはずも無いか。
よし、次からは符号の方法を変えよう。
この様子じゃ小鳥遊ホシノも混沌とした状況に流されただけで、内心はぬいぐるみを符号に使う決定をした事に少なくない後悔がありそうだ……。
………しばらく待っていると、トイレから小鳥遊ホシノが出て来た。
目と目が合い、彼女がこちらの存在を認めると、思わずと言った風に小さく呻く。
「う、うへ……」
「その、なんていうか――」
「なにも、なにも言わないで」
そう言うと――身を震わせて赤い顔で俯いたまま、とぼとぼと彼女は屋上の方面に向かって行く。
その背中にはとんでもない哀愁が篭っており、心做しか煤けているようですらある。
「絶対っ!」
ぴたり、と急に歩みを止めた小鳥遊ホシノは強い決意を塗り固めた声色で続けた。
「絶対……黒服を……見つけ出して、ぐちゃぐちゃにしてやろうね……」
「あ、ああ。勿論だ……」
大人として、未来ある若者の殺人を止めるか否かは非常に迷ったが、あまりに怨嗟の籠ったその決意表明に――ただ頷いてしまう。
奴の命ひとつで救われる心があるなら安いものだ。
せめて、彼女の見ている前でトイレには入るまいと――俺は心の中で敬礼をしながら小鳥遊ホシノの背中が見えなくなるまで見送るのだった。
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俺はトイレに足を踏み入れ、そして止まった。
一番奥の個室に「それ」がある事は事前の打ち合わせで決めていた事なので、別にどの個室なのか分からなくて足を止めたという訳では無い。
ひとえに距離的な制限を確かめる為と――そしてもう一つ試したいことがあったからだ。
(小鳥遊ホシノ……ここから光に出来るか?)
『……やってみます』
彼女にとっても――あまり近寄られたくはないのだろう。異論は出なかった。
そして小鳥遊ホシノが念じたと思われる幾ばくかが経ち、パッと個室の隙間から桃色の煌めきが見えた。
どうやら距離的な制限はそこまで厳しくないようだ。
燐光は――奥の個室からふよふよと不規則に部屋に広がってゆく。
俺はそれを認めると――
「俺に少しずつ吸収されてくれ!」
そう言葉を発した。
『え。いや――私、この前に操るのは無理って言ったじゃないですか』
(いや、君に言ったわけじゃない。
うんちに――話しかけたんだ)
『あぁ……とうとう気が……』
心の小鳥遊ホシノが絶句するような気配がしたが。
――なにも悪ふざけや冗句でこんな事をしている訳では無い。
明確な根拠と考えをもって今回の試みを実行しているのだ。
一度目の広間でのうんちの補充。
巨大な光が尻に炸裂し――悶絶し地獄のような痛みと熱さと苦しみに意識まで失った。
思い返してみれば――あの時俺は「うんち」を死ぬほど望んでいた。
それこそ人生で一番うんちに飢えていて、熱量のある瞬間だったと言っていい。
桃色の光の事をうんちでは無いと絶望し、俺はこの身にうんちを望んだ。
二回目の柴崎ラーメンでの一件。
あの時俺は一度目の経験を踏まえ、苦し紛れに心の小鳥遊ホシノに「少しずつ吸収出来ないか」と相談した。
すると……心の小鳥遊ホシノは介入してはいなかったというのに全身を包むように少しずつ吸収されていった。
まるで、俺が望んだ通りのように。
一度目も二度目も、思い返せば俺の意思が桃色の光の挙動に少なからず影響を与えているように思える。
つまり――。
俺は――うんちを、操れるかもしれないのだ。
『あなたの落ち度は……そこまでないと思います。仕方がなかったんだと思います。
……思えば私も辛く当たり過ぎましたね、すいませんでした』
(……?? 何を言ってるんだ??)
『もう言葉も解せませんか……痛ましい……』
心の小鳥遊ホシノが今まで聞いたことが無い位に優しい声色で喋りかけて来たが――気にかけている余裕は無い。
桃色の燐光が一斉に収束を始め――ひとつの大きな球体になっていったからだ。
燐光同士のぶつかり合いの末――重なり合って出来上がったそれは眩いくらいの光を放ち始めている。
例えるなら桃色の太陽、だろうか。
相変わらず無駄に荘厳だ……。うんちなのに。
一回目の補給を思い出すような形態だが――あの時と違ってすぐに唸りを上げてこちらにぶつかってくる気配はない。
じわじわと……少しずつこちらに寄ってきている。
冷や汗が流れた……。果たしてこの挙動は俺の意思によるものなのか、それともうんちの気紛れなのか――それを判断する材料は、無い。
「ゆっくりと……いい子だから……少しずつ、な?
ちょっとずつ俺に吸収されてくれ……」
『…………見てられません……』
少しずつ、俺と太陽との距離は近づいていく。
お互いを確かめ合う様に、ゆっくりと、しかし確かに距離を詰めて――そして――、
そして俺は、太陽に触れた――。
瞬間――ひと塊になっていた巨大な桃光が弾け、色のついた煙が如く俺の辺りを囲ってゆく。
ぐるぐると旋回を始めた桃色の光に――戦慄する。
―――こんな挙動は望んじゃいない。
やはり、うんちを操るなんて不可能なのか!?
俺はうんちの気紛れで生かされていたに過ぎないのか!?
痛いのは嫌だ!もうアレは嫌だ!やめてくれ!
半ば半狂乱になりながら――周囲を囲む桃色の粒子を手で払おうとするも、実体など無いかのように空振るのみであり――そして。
桃色の粒子は一斉に、俺の尻を目掛けて。
―――ぶつかって来た!
目をぎゅっと瞑り、苦痛に備えた。
しかし――いくら待ってもあの痛みは来ない。
「ぷはぁ!……はぁ……なんだ……なんなんだよぉ」
思わず息を止めて居たらしい。
今回は絶対ダメだと思っていたばかりに状況の果てしなさに思わず悪態を吐く。
自身の状態を改めて見ると――確かに、桃色の粒子は俺にぶつかっていっているようだった。
いや、違う。これは――吸い込まれている。
桃色の粒子が、俺のケツに少しずつ吸い込まれていっているのだ。
痛みどころか――なにも感じない。
ただ、自身の「なにか」が補充されてゆく充足感のみが胸の内を満たしてゆくのみだ。
まるで――尻からピンクの煙が吹き出ているかの様な有り様だが、実際は入っていっている。
これは――成功なのか? 失敗なのか?
おれはうんちを操れてるのか?
それともうんちに操られているのか?
確かに……ゆっくりと吸収されていってはいるが。
なんにせよ――なんにせよ、痛くなくてよかった。
今はそれを、喜ぼう。
俺の意思と小鳥遊ホシノのうんちとの相関性はイマイチよく分からなかったが――今後は絶対に同じように言葉を発しながらの補給をする事に決めた。
『えっ……本当に言うことを聞いたんですか!?
気が狂ったわけじゃなく?』
(君は……さっきから何言ってんの……)
『これ私がおかしいんですか!?
あなたの様子の方がおかしかったですよね!?
――ていうかこの状況がおかしいんですよ!!』
その後――なんとか心の小鳥遊ホシノを宥め、俺の気が狂った訳では無いことと、今回の試みの事を説明し、この状況は確かに狂っている事を認める。
イカれてるよな。普通に。
その際――俺は心の小鳥遊ホシノに改めて感謝の言葉を伝える事にした。
うんちもそうだが――彼女が光に変えてくれなければ、補給を出来るのかどうかも分からない。
そもそも――彼女が生きるという選択肢を取ってくれているだけで、俺は感謝を捧げねばならなかった。
(なぁ……いつもありがとな……。
本意じゃないだろうにさ……。
正直、俺の気が狂ってないのは君の存在がデカいよ。マジで。ずっと一人なら分からなかった)
『別に私は……私の、その。アレを見られたくないだけですし――ですが、そこまで言うなら条件を追加してください』
(条件……?)
『シロコさんもノノミさんもセリカさんもアヤネさんも……私の知らない私の後輩達は、みんな優しい方ばかりでした』
(小鳥遊ホシノ……)
『守ってあげてください。いえ、守りたいんです。 私が作った、新しい宝物を……。』
(――分かった。全力を尽くすよ)
『じゃあ、よろしくお願いします……。
……あんまこういうの気恥ずかしいんで、もう、いいです……』
そう言うと、さっさと心の小鳥遊ホシノは俺の内へと戻り――引っ込んでしまった。
本当に、お前はどこまで小鳥遊ホシノなんだ。
どんだけ他人の為を思って動けるんだよ。
もっと自分の為のワガママくらい言っていいのに。
だが……そうだな。あの子達を守るくらいの働きをしなければ、俺はもう一生小鳥遊ホシノという存在に足を向けて眠ることは出来なくなるだろう。
……まぁ既になってはいそうだが。
とにかく、腐っても元々は戦闘職だったのだ。
小鳥遊ホシノは規格外だったが、そこまで戦闘が出来ないって訳じゃない。
機会が来たら、恩に報いるとしよう。
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今回は買い出しに付き合えなかったが、補給のタイミングによっては――まぁ行ける時もあるだろう。
その辺は自身の損耗率と相談しなければならない。
俺は小鳥遊ホシノにモモトークで意識を自失していない旨を伝えた。
もしかしたら意識を失う可能性があることは事前に伝えていたので、既読のついた現在、小鳥遊ホシノのうんちに関する今回のタスクは満了したと言えるだろう。
ふと、――なにやら喧騒の様なものが聞こえた気がした。
怒号のような――ノイズ混じりのそれは、拡声器で大きくなった人間の声に聞こえた。
疑問に思いよく耳を澄ませていると――。
奥空アヤネからの着信が来た。
『コウちゃん!今どこにいるんですか!?
――いえ、それよりヘルメット団です!
ヘルメット団がまた攻めてきたのでどこか安全なところに隠れてて下さい! いいですか?
絶対出てきちゃダメですからね!』
「分かりました――。すぐ向かいます」
『ちょ――!?』
随分早いな。――機会。
まぁ、チンピラなら余裕だろう。
お前の宝物を守らせてもらうぜ。
小鳥遊ホシノ。