小鳥遊ホシノのうんちを手に入れなきゃ死ぬらしい   作:カスのゲマトリア

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 ――――――気がつくと、砂漠を歩いていた。

 

 見渡す限り――360°が果てしない砂の海であり、そしてそれは俺にとって非常に見覚えのある光景だった。

 

 キヴォトス広しと言えど――ここまで広大な砂漠は1つしかない。

 

「アビドス砂漠……? な、なぜ?」

 

 いつ――?どうやって――?

 先程まで俺がいたのはアビドス学区内の広間であり、隣接しているとはいえアビドス砂漠まで行くのには相当な距離があるはずである。

 

直近の記憶は――迫ってきた謎の桃色の光源が俺のケツに直撃し、激痛に悶え、意識を失った所までであり――まさかのたうち回った末にここまで転がってきた訳ではあるまい。

 

 後方に続く自身の足跡を見る限り、夢遊病患者のようにここまでフラフラと歩いて来たと言うのか。

 

とはいえ状況を不審がっていられる余裕は、ない。

 

 現状アビドス砂漠を抜け出す為に有用そうな手荷物はなく――というか手ぶらで――武器すらも持っていない貧弱な装備だからだ。

 

 水や食糧などの補給物資も無いまま砂漠を彷徨うのは無謀を通り越して自殺行為であり――状況だけ見つめれば遭難した要救助者という様相を呈していた。

 

 ど、どうする――?うんちを手に入れる所の騒ぎじゃない。

 それ以前にこのままじゃ干からびて死ぬのを待つだけだぞ。

 

なにか、なにか砂漠を抜け出す目印となる様な高い建物は見えないか――。

 

ここが砂漠のど真ん中ではなく、学区内に近い場所であれば――まだ生存の芽はある。

その為には、進む方向を間違えてはならない。

 

真っ直ぐ直進してきたかは定かでは無いが、一先ず残っている足跡の方面になにか見えないだろうか。

 

 そう思い注意深く視線をさ迷わせていると、視界の端に何かが写った。目を細めてよく見つめてみる。

 豆粒ほどの小ささに見えるほど遠方に――なにか人影らしきものが見えた。

 

 ――――ひとまず、安心できそうか?

 

 自らの僥倖に感謝した。

 まさか自分と同じ様な遭難者では無いだろう。

明確な目的がありここに来ているのなら、帰る手段を持っているはずだ。

 

 状況を説明して、保護してもらおう。

 

「おーーーい!助けてくれ!遭難したんだ!!」

 

 俺は声を張り上げてその人物に向かって進んでいった。

 

 すると、件の人物もこちらに気が付いてくれた様で、こちらに向かって近づいてきてくれた。

 

 ――にしても、こちらに駆けてくる動きがやけに素早い。

ヘイロー持ちであろうか。とてつもない身体能力を持っているようだ。

 

 件の人物がどんどん近づいて来るにつれて――徐々にその輪郭がはっきりとしてくる。

 ――――その姿をどこかで見たような気がするのは、気のせいだろうか。

 

 だんだんとその人物の全体像がハッキリしてゆくにつれて――俺はその容姿に対する既視感が段々と強くなってゆくのを感じた。

 

「――――小鳥遊ホシノ……?」

 

 疑問符が付いたのは――その容姿が現在の自分と全く同じであったためだ。

 

 より正確に言えば、服装がアビドス高等学校の制服なので俺とは違うのだが、それ以外――つまり頭髪が今の俺のそれと全く同じであり、短くなっていた。

 

 小鳥遊ホシノは――最早しっかりと視認できる距離にまで此方に近づいて来ており、そのままこちらに砂煙を撒き散らしながら駆けてくる。

 

 すると――――手に持っていたなにかを勢いよく振りかぶり――こちらに投げ付けてきた――!?

 

「――へぶっ!?」

 

 どうやら――柔らかい素材だったようでこちらに怪我はないが――それでも豪速で投げ飛ばされたなにかは正鵠に俺の顔面を打ち付けて、尻もちをつかせた。

 

 そうして俺の元まで来た小鳥遊ホシノは堪えきれない何か吐き出すように――尻もちをつく俺を見下しながら――言った。

 

「下品です――!最低です――!何を考えてるんですか!この変態――!!」

 

 なにか俺に小鳥遊ホシノは激しているようだった。

 だが、心当たりは…………1つしかない。

 

「わ、わたしのっ……う、あ、あんな方法、絶対許しませんから!」

 

 

 ――全て、露見してしまったようである。

 

 ……どうやら俺は目の前の少女に――謝罪と、そして命乞いと――なにより変態であるという誤解を解かなければならないようだった。

 

 

 

 ■

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 ■■■

 

 

 

 目の前で大きなクジラのぬいぐるみを抱えながら――どうやら投げ付けられたのはこれらしい――頬を膨らませて怒っている小鳥遊ホシノに、俺は土下座の姿勢を作りながら弁解をはじめた。

 

「も、申し訳ありませんでした……!

 ですが黒服が……!全部黒服のせいなんです……!

 私はあの糞野郎に貴女のうんちを手に入れなければ死ぬ体にされてしまったんです!

 貴女のうんちを狙って動いていたのは、断じて私の本意ではありません……!

 ――――ですから私を殺すのはやめてください。お願いします」

 

「え? こ、殺す……?」

 

「………その為にアビドス砂漠に連れてきたんでしょう?」

 

 

 何故俺がアビドス砂漠にいたのか――。その結論は付いていた。

 

 どういった経緯で俺が小鳥遊ホシノのうんちを欲しているのを知ったのかは分からないが―――この場所にいる理由は小鳥遊ホシノの私刑が目的である事に間違いなかった。

 

 自身のうんちを狙っている不審者を屠るために、まず人の来ないアビドス砂漠に意識を失い自失している俺を連れて来たのだ。

 遠くにいたは身体能力の高さゆえ、行動範囲が広かったからだろう。

 

「……違いますけど」

 

 違うらしい。

 

「ここは……あなたと私の共通したトラウマ――心に根差した、後悔の象徴です」

 

 心……?象徴……?一体何を言ってるんだ?

 

「気が付きませんか? 日差しは全く暑くないですし、風だって少しも吹いていません。

 ―――ハリボテなんですよ。ここは」

 

「……………………?…………???」

 

「なんで全然ピンと来てないんですか!

 要するに……ここは夢――というか心の中みたいなものです」

 

 夢……?心の中?全くそんな気がしないが……。

 

 しかし――目が覚めたら見知らぬ少女になっていた俺である。――もはや胡乱な出来事に対する耐性が付いてきたのか、にわかに信じ難い状況も割と受け入れることが出来た。

 

「つまり……君は小鳥遊ホシノではないのか?

 俺の作りだした妄想?それにしては……うんちに随分怒っていたみたいだけれど」

 

「あ。私も小鳥遊ホシノなので敬語を止めないで謝意を示してください。

私にもそれは怒る権利があります」

 

「あ、はい。すいません……」

 

 こ、こわ。眼前の少女の眼光が鷹のように鋭くなりこちらを睨めつけてきた。

 銃口を頬に突きつけられた時に見た小鳥遊ホシノを思わせる目つきだ。――確かに、目の前の少女は小鳥遊ホシノ本人で間違いがないのだろう。

 

「正確には……私は小鳥遊ホシノが切り捨てて、不要になった私です」

 

「不要になった……? ヘイロー持ちって皆そんな感じで自分を切り捨てられるんですか……?」

 

 だとしたら便利だ。

 生きていくことが随分楽になるだろう。

 嫌な自分を切り捨てたいなんて欲求は生きる中で一度は感じるであろう事柄だ。

 

 そんな事を考えていると、小鳥遊ホシノはぎゅっとクジラを抱えて否定した。

 

「そんなわけがないでしょう……!

……実際のところ、私も私自身についてよく知らないんです。

 

 私なんか死んじゃえ、居なくなっちゃえ……そう思っていたら私は私自身から抜け出るような感覚になって。

 

――気がついたら、1人この空間にいました。」

 

「それは……」

 

 ――なんとも奇怪な現象だ。

 

 自分自身の死を望むほど憎しむ…………まあ覚えのある感情ではあるが――その結果、自分自身と分離して異空間に飛ばされてしまうというのは、同情を禁じ得ない。

 

 なぜ俺の中にいるのかは――まぁ、あの黒尽くめの異形が悪さをしたのだろう。

 

「最初は……死んだのかと思ったんです。現実感のない場所で――少しずつ、私自身が消えていく感覚もありましたし。

 

そのまま消えてしまおうと思っていたら、急にあなたの視界が現れて――。

私の、その。アレの為に私のところに行って……そして――そして私は今の小鳥遊ホシノを見ました。

 

 …………まるで別人でした。

 その時に気がついたんです――私は私が嫌いだから、私以外の何かになったんだって」

 

 広間で小鳥遊ホシノと会話した時のことを思い出すと、確かに一人称からしておじさんであったり――全体的に大人びている……どこか老成したような柔らかさを感じる人物だった。

 

 反対に――眼前の少女と比べると、なるほど確かに別人と言える変貌なのかもしれない。

 激しやすく――感情的で。実際に対面した小鳥遊ホシノと比べると、なんというか。言葉を選ばずに言ってしまえば未熟というような印象を受ける。

 

 

「私は、私自身が――切り捨てた私です。だからこのまま、消えるのがいいんです……」

 

 

 ―――眼前の少女が見過ごせないことを言ったので慌てて止めに入る。

 

「それ……俺も死なない?俺も常に何かが抜けてる感覚がしてたんだけど」

 

 常に俺の体から抜けていた「なにか」は――普通に考えてこの少女に由来しているものに思える。

 ――現状は、何故か「なにか」が霧散する気配は薄いがそれはここが心の中だからかもしれない。

 

 なにあれ、彼女が「消える」という選択肢をとった時に自分も存在ごと消えてなくなるような気がしてならないのだ。

 

「……分かんないです。…………多分大丈夫なんじゃないですか。別人ですし」

 

「いや多分って困るよ!俺はなんとしてでも死にたくないんだ!」

 

「っていうか、敬語……、もういいですけど。

 ………………そんなに生きたいんですか?

 あなたの過去は、あなたが入ってくると同時に私にも伝わって来ました。

 あんまりこういうこと言いたくないですけど、死にたくならないんですか?」

 

 なんだそれ。俺の過去が全部伝わってるとかガチで嫌だな。

 まあ、なんにせよ、返答は――。

 

「――ならないね。全く、これっぽっちも。

 死にたくない。絶対に俺は死にたくない。

 例え明日世界が滅ぶのだとしても、俺は明後日まで生き続けたいよ」

 

「……はぁ、そうですか。分かりましたよ」

 

 小鳥遊ホシノはしばし嘆息すると、こう続けた。

 

「――じゃあ、交換条件です。アビドス高等学校の様子を詳しく見せて下さい。

あなたがちょっと話してた私の後輩の方も気になりますし……」

 

「分かった、やってみるよ。」

 

 好都合ではある。小鳥遊ホシノのうんちを手に入れる為には、アビドス高等学校に近づく必要があった。

 現状の俺の立場は不明瞭だが――まぁ、やってやれない事はないんじゃないかと思っている。

 

「業腹ですけど……!業腹ですけど!

あなたが生きるためにそう動くのであれば。その。私の、アレを手に入れる事を許可します。私も介入しますが」

 

 協力ではなく、介入?妙な言い回しだ。

 

「私のアレを桃色の光に変えたのは――私です。

そのものを見られるのが嫌すぎて、こう……念じたら出来ました。まさかあなたに向かって行くとは思いませんでしたが」

 

「え!?あれやっぱうんちだったの!?」

 

黒服に対して――あの人物と相対した時に感じた事だが、アレは自身の興味の為なら安寧など選ばない手合いだ。

あいつは取引の際、小鳥遊ホシノ達に見られている事に気がついているふしがあった。

 そんな奴がリスクを負ってまで俺に近づいてきたのに、騙してケツを爆撃する理由がないとは思っていたのだ。

 

 あの桃色の燐光は――うんちだったのだ!

 

「でも……ん?おかしいぞ。小鳥遊ホシノのうんちを手に入れたら――俺は助かるんじゃないのか?

 なんで俺はまた小鳥遊ホシノのうんちを手に入れる事になるんだ」

 

「そもそもそれで助かる方がおかしいんです!

 ………どういうわけか。私のアレが体に入った途端に、消えつつあった私の存在が再び戻りました。

 

 とは言え――今もまた、少しずつ消えていっているのを肌で感じます。

 …………まぁ、定期的に私のアレを体に入れなければならないのでしょう」

 

「な、なんだと……!?」

 

 小鳥遊ホシノがうんざりした――物凄く嫌そうな顔をしているが、俺だって同じ気持ちだ。

 だって――終わりがない。

 まさか一生、小鳥遊ホシノにつき纏える訳じゃないだろう。

 

 ゴールが……ゴールが見えない……。

 俺はいつになったら助かる事が出来るんだ……?

 

「――でも、死にたくないんですよね?」

 

「ん?ああ……」

 

「なら、頑張って下さい。応援はしませんよ……私は、いつ消えたっていいんですから」

 

 そう言ってそっぽを向く小鳥遊ホシノ。

 もしかして、元気付けてくれているのか……?

 

 自殺願望のある子に励まされるくらい、酷い顔をしていただろうか。

 何にせよ、優しい子だなと思う。

 

 ふと、――桃色の燐光が俺を襲った時に小鳥遊ホシノが俺をとっさに大盾で庇ってくれたことを思い出す。

 

 他でもない――昔の自分の容姿をした、何を企んでいるのか分からない俺の事を。

 

「……なぁ、きっとさ。小鳥遊ホシノは君を切り捨てたわけじゃないと思うんだ」

 

「――あなたに何がわかるんですか?」

 

「ただ、……変わっただけなんだと思うよ。

単に自己連続性の問題なんだと思う。たくさんの人と出会って、色んなことに気が付いて。

君は君自身のそういう成長の中で――ただ切り取られてしまっただけなんだと思う」

 

「…………だったら、なんなんですか」

 

「黒服ってやつが全部悪いんだ……! 今度あったらぶっ飛ばそうぜ!ってこと!」

 

 俺の幸福の為に支援を惜しまないって言ってたしな。

 今度あったら俺は俺を好きになる為に顔面を貸して下さいって言おう。

 思いっきり横っ面をぶっ叩いたら、少しはスッキリするだろう。

 ヒビ入りの顔面が砕けてしまうかもしれないが。

 

 

「く、はははっ……。そればっかじゃないですか。いい事言ってんのかなんなのか、訳わかんないですよ」

 

 はじめて――小鳥遊ホシノの笑った顔を見る。

 

 

「でも――ありがとうございます」

 

 

 なんだよ――良い顔できるんじゃないか。

 ずっとその顔でいればいいのに。

 

 

 

 

 

■■

■■■

 

 

 

 

 

「んが……?」

 

 

 目を開けると、犬耳の少女がこちらを覗き込んでいた。

 顔が近くて、俺は思わず硬直してしまう。

 

「ん……目が覚めた。待ってて、今みんなを呼んでくるから」

 

 そう言うと――犬耳の少女はとてとてとどこかに行ってしまった。

 

 ここは――どこであろうか。

 目を擦りながら身を起こすと、俺は見知らぬベッドの上できょろきょろと辺りを見渡す。

 

 部屋の構造から、病院ではない事は分かるので――恐らくはアビドス高等学校のどこかの教室で寝かされているらしかった。

 

 太陽の光が差している窓の様子から、日を跨いでいることが分かる。

 ずっと――見張っていたのだろうか。ご苦労なことである。

 

 それにしても……心の中での会話、か。

 ただの夢では無いことは――俺の体に「なにか」が満ちている事が示していた。

 

 ……どうにもトンチキな事が最近起こりすぎている。

 理不尽の女神というのがいるのならば、俺はそいつにどうも愛されているらしい。

 

 しかし――しかし、まぁ。最近した人間らしい会話の中で、一番楽しめたのは事実だった。

 

 俺は未だに、小鳥遊ホシノのうんちを手に入れなきゃ死ぬらしい。

 

 けれども。あの少女の為にこのアビドス高等学校を見てみようと思えるくらいには、体に活力が入っていた。

 

 

 

 






第1部完的な感じです

しばらく書き貯めるか、そのままぶっ続けで書くは悩みどころですが、少なくとも生きている限りうんちは止まりません。

これからもよろしくお願いします。
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