小鳥遊ホシノのうんちを手に入れなきゃ死ぬらしい 作:カスのゲマトリア
アビドス高等学校の面々が集まり、軽い自己紹介を済ませた後に――俺の処遇についての説明がなされた。
結論から言えば、俺の身柄をアビドス高等学校で預かる、という事になった様だ。
俺の手荷物から身分証を改め―――その所属がトリニティの架空の学校であることと、そして意識を失う前の俺の説明を鑑みて、トリニティから来た外部編入生という扱いにするらしい。
ここまでスムーズに話が進むとは思っていなかったが、それはどうも俺の存在が過剰に悲劇的な形で伝わっている事に起因しているらしかった。
「ゆ、許せません……孤児院から、こんなにっ、こんなに小さい子を攫って……実験対象にして、あげく殺そうとするなんて………!」
「えぇ……!こんなに小さいのに、よくっ、よく頑張ったわね。ここに居ればもう、大丈夫だから……!」
「………………」
奥空アヤネと黒見セリカが今にも泣き出しそうな顔で俺を抱き寄せるのを、小鳥遊ホシノが少し微妙そうな顔で見つめていた。
俺との外見的な差異が頭髪の長さだけだものな。
「小さい子」扱いに思うところがあるのかもしれない。
てっきり俺の容姿が小鳥遊ホシノと瓜二つである事への反応が来るかと思っていたが、その辺の認識は俺が意識を失っている間に擦り合わせているようだ。
まぁそれでも中等部所属、という経歴が詐称であるのにも関わらず―――俺が中等部相当の年齢だと認識されているのは、孤児院からの誘拐という前情報と小鳥遊ホシノの幼い容姿が関係しているのだろう。
俺も、成人済みであるという事がバレるのは都合が悪いので年齢について特に否定しなかったが。
俺への共通認識は概ね、怪しげな大人に孤児院から拉致されて小鳥遊ホシノの姿へと変えられ、口封じに殺されかけた哀れな悲劇のヒロイン…………そんな感じに落ち着いていた。
まぁ、そう間違っては無いのが恐ろしいところだが。
なによりあの桃色の燐光――もとい、小鳥遊ホシノのうんちが俺のケツを襲い、そして悶絶する様子が、黒服と繋がっていない証明になっているというのは、あの凄まじい激痛を耐えた甲斐があったというものだ。
あれ以来――俺の中の「なにか」は満たされており、しかし現在もゆるやかに霧散しているのを感じるが、当座の間は余裕がありそうである。
とはいえ補充のために再び小鳥遊ホシノに近づく諸々のリスクを考えた場合、アビドス高校の懐に労せずして入れるのは果てしない幸運に思えた。
「ぐす……こうしては居られません!
コウちゃんがすぐにでもこのアビドス高等学校へ来られるよう、編入手続きを始めましょう。
……中等部からの飛び級になるので、そのための試験を行ってもらう必要がありますが………大丈夫です。思いっきり下駄を履かせますから!」
「あ、ありがとうございます」
コ、コウちゃん……。
いや、それよりも。試験、試験か。大丈夫だろうか。あまり頭の出来に自信はないが……。
■
■■
■■■
…………数十分後、そこにはペンを持ったままテスト用紙の前で1ミリも動けないでいる阿呆がいた。
誰であろうか。そう、俺である。
奥空アヤネもああ言った手前、かなり簡単な問題にしているのだろうが、それでも硬直して動けないでいる俺を見て不安げに眉を潜ませている。
(ちょっと!なんで固まっちゃてるのよあの子! ウンと簡単な問題にするって言ってたじゃない!)
(そ、そのつもりで作ったんです……。中等部初期か、ほとんど小学校で習うような問題ばかりのハズなんですが……)
(うっ。そ、そうなの……)
ヒソヒソと奥空アヤネと黒見セリカが話しているのが聞こえてくる……。
しょ、しょうがないだろ。こちとら底辺ブラックマーケット出身。学校なんて行ったことないし、そりゃ学なんて高尚なもんはちっとも付いてねぇわな。
――――ど、どうしよう……。まさかこんな所で躓くとは。
すまない。心の中の小鳥遊ホシノ。どうやらアビドス高等学校を在校生としてゆっくりと見るのは不可能な様だ。
お詫びに今度忍び込んでゆっくりと見学するから許してくれ。
それとも泣きわめいて試験を免除してもらう様に動いてみるか? いや、これでも大分譲歩してくれているようだし、そうした所で結局試験という壁自体を取り壊すのは難しそうか……?
『はぁ……、なんでこんな簡単な問題も分からないんですか』
(た、小鳥遊ホシノ!? 喋れたのか!)
『出てくるつもりは無かったんですけどね。これ、だいぶ消耗するみたいですし…………というか私も今さっき気が付きました』
確かに、俺の内にある「なにか」が心の小鳥遊ホシノが現れた途端にゴリゴリと削れてゆくのを感じる。
しかし――、しかし今はそれを補充するための手段として、テストを受けなければならないのだ。
(こ、答えを教えてくれるか……?)
『いえ、それは面倒です……。いちいち途中式まで口頭で教えていては時間がかかるでしょうし……。
――代わってください。速攻で終わらせます』
代わる?なにを?そう思った途端、
抵抗しようと思えばできるような気がしたが、意図を察した俺はそのままその感覚に身を預けた。
ぶわり、と湯気の様に桃色の粒子が自身の身体から放たれる。
それが――可視化するくらいに身から散っている「なにか」なのは明らかで――、どうやら意識の浮上とは比にならないくらいの消耗をしている様だ。
『だ、大丈夫なのか小鳥遊ホシノ!?このまま消えてしまわないのか!』
(うるさいです――。気が散ります。速攻で終わらせると言ったでしょう。
――――――ほら。もう、終わりました)
ガガガガッ!と工作機械を思わせるような音を手元から鳴らしていた小鳥遊ホシノがそう言うと、急速に体の感覚が自身に戻ってゆくのを感じた。
しかし、ヘイロー持ちの身体能力に凄まじいものを感じてしまう。それに見合った動体視力もずば抜けて高いのだろう――こんなに高速でテスト用紙を埋めてしまうとは。
『言っておきますけど、本当に簡単な問題だから出来たんですからね。それに、今回だけです。今回は私のわがままを叶えてもらう形だから手を貸したんです』
(あぁ分かってる。ありがとうな小鳥遊ホシノ)
そう返答すると、小鳥遊ホシノが自身の意識から内側へ戻ってゆくのを感じた。
――それにしても、プライベートとかないのであろうか。
全て見られていて、何時でも他人に介入を許してしまう現状は、いまいちぞっとしない気分にさせられる。
「ね、ねぇ。大丈夫……?一瞬光ったように見えたけど……」
そんなことを考えていると、黒見セリカに心配されてしまった。
「気にしないでください。私本気出すと光るんですよ」
「そ、そうなの……」
そんなズレた返答を返すことが、俺に出来る精一杯の反応であった。
なお、テストは見事満点であり――俺はアビドス高等学校に晴れて編入することが確定したのだった。