小鳥遊ホシノのうんちを手に入れなきゃ死ぬらしい 作:カスのゲマトリア
「はぁ……!はぁ!畜生……!どうしてっ……!どうしてこうなった……!」
『……………。………………自業自得では?』
俺は、殺されかけていた――。
「さぁねー。自分の胸に聞いてみればいいんじゃない~? そんな暇あったらだけ――どっ!」
丁度、今しがた腹部を強烈に蹴り上げられており、それは例えるならダンプカーと生身の正面衝突だろうか。あまりに強い衝撃だとその瞬間は痛がる声すらあげられないのだな――という、どこか自身の状態を他人事の様に見つめている最中である。
全ての内臓が口から飛び出てくるような最悪の心地になりつつ、しかしそれでも未だ致命的な外傷が無い理由は、一重に変貌した自身の肉体が元のそれよりも遥かに頑丈である為でしか無かった。
「げっほ、げほ、おぇえ!はぁ――はぁ……はぁ」
腹部を抑え横向きに倒れ込み、呻く事しかできない俺を、なおも冷めた目で見下すのは、他でもない――小鳥遊ホシノだ。
こ、このままでは、本当に殺されてしまう……!
本当に……!本当にどうしてこうなった……!
俺は自らの選択の誤りを懺悔するかのように、ここまでの経緯を想起するのだった。
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俺の編入試験合格を祝って、ささやかながらパーティを行いたいと言い出したのは十六夜ノノミであった。
「可愛い新人さんと仲良くなる良いキッカケになると思うんです☆ ね? ホシノ先輩!」
「ま。う~ん、そうだねぇ。初対面じゃちょっと手荒くしすぎたし、本当にいいキッカケかも」
「はは……全然気にしてないですよ」
そう言って気まずそうに頬をかく小鳥遊ホシノと恐縮する俺の事を微笑ましそうに眺めている十六夜ノノミ。
どうも小鳥遊ホシノが俺と接しづらそうにしていたのを察してか、橋渡し的なことをしてくれているらしい。
確かに、現状の俺と小鳥遊ホシノはお互いにどこか固さを感じる対応になってしまっている。
片や命綱の蜘蛛の糸であり、片や昔の自分の容姿をしている存在。どうにもぎこちなくなってしまうのも頷けてしまう間柄だ。
しかし俺の命の為にも、今後の関係性は良好であり続けるのが望ましく、親睦を深める機会に恵まれるのは有難い話だった。
「ん……丁度お腹も空いてきた」
「あはは~。シロコちゃんもこう言ってるし、それじゃあ歓迎会?合格祝い?は外食にしよっかぁ」
あ、それなら!と黒見セリカが言う。
「行きつけのラーメン屋さんがあるんだけど、そことかどう?」
そんな鶴の一声も手伝って、俺たち一同は柴関ラーメンなるラーメン屋に向かう運びとなった。
アビドス高等学校が所有する車両での移動中、隣の座席に座る小鳥遊ホシノは、それまでしていた他愛無い雑談を切り上げると、意を決したように語り始めた。
「いやさ~おじさん割と本当に君には申し訳ないなぁと思ってるんだよねぇ」
「いやいや。黒服みたいなクソ怪しい奴と話してたんだから疑うのも無理ないですよ」
「それだけじゃなくてさー。君をウチで預かるのって、ぶっちゃけ政治的な理由も絡んでるんだよねー」
……ふむ。政治的な理由。
俺は
「今、連邦生徒会で色々あったらしくて、イマイチちゃんと機能してないのさ。
連邦生徒会の会長さんが行方不明ってウワサがあったり……混乱してるみたい。
まぁ、そこで私に似てる君がトリニティ所属だったり、他所に行ってゴタゴタに巻き込まれちゃうと……あんまり良くない」
「あぁ、なるほど……」
小鳥遊ホシノはアビドス自治区で実質の上長的な存在であるらしい。
そんな小鳥遊ホシノと見紛うほど似ているが、小鳥遊ホシノ程の力は持っていないただのソックリさん。
―――そんな存在が、潜在的な敵の目にどう映るのか。
頭の回る悪い奴に俺が捕まったら――軽く考えつくだけでも吐き気を催すような想像がいくつも浮かんでくる。
つまり、小鳥遊ホシノは俺を利用した政争絡みの何事かが起こることを懸念しているのか。
……確かに、俺の存在は色んな意味で厄種になりそうだ。
俺が今更ながらに自身の危機的な立場に身を震わせていると――、小鳥遊ホシノが微小を浮かべながら俺の頭を撫でた。
「まっ、そういう訳で君はアビドスで預かるのが色々丸いのさ~。
大丈夫。何かあってもおじさんが守っちゃうから」
「…………ありがとうございます」
恐らくは――少なくない感情を飲み下して、この言葉を言ってくれているのだと思った。
どこから来たのかも、どういう目的なのかも不透明な自分そっくりの存在。
普通なら毛嫌いして遠ざけてもおかしくはない――そんな俺を、小鳥遊ホシノは「守る」と言ってくれた。
そこには――間違いなく複雑な葛藤があったはずであり、その上でそういう選択肢を取れる彼女の事を俺は少なからず尊敬してしまう。
俺、この人のうんちを狙ってるんだな……と、軽くない罪悪感に苛まれていると車が止まった。
無事、柴関ラーメンに着いたようである。
「ここのラーメンは本当に美味しいんだから!コウも一度食べたら病みつきになるわよ!」
「二郎系かぁ……楽しみですね」
「オススメはね…!」
対面に座る俺に向かって得意げに胸を張り自分事の様にいかにここのラーメンは美味いのかと語る黒見セリカに、キッチン越しに店主と思われる柴犬の男性が嬉しそうにしているのが見えた。
それを見て、俺もまた微笑ましい気持ちになる。
先程柴犬の店主が水を置いていった時にも俺と小鳥遊ホシノの容姿が似ている事に気が付いた様子なのに努めて平静に接してくれたり―――この店の最大の魅力は店主の人好きをする性格なのかもしれない。
ラーメンを食べる前ではあるが、俺は密かにこのラーメン屋のことが気に入り始めていた。
しかし――二郎系か。最近は胃に油っこい物が受け付けなくなっていたが、この体なら大丈夫だろうか。
やはりここは黒見セリカおすすめの柴関ラーメンにしてみようか……と考えていた時のことである――。
「あ。ちょっとおじさんお手洗い借りるねー」
…………俺の内にある「なにか」は実はもうそこまで余裕のある残量ではなかった。