間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第3幕『終焉の胎音、巡り駆け抜ける嵐』①

3回目の不思議な体験だ。床に入り、目を瞑ったその次には自分が森の真ん中にポツンと座っていることに気づいた。空は明日のことを話し合って、眠りについたのだが、それがこれである。

 

 

もう空は驚きもしない。今回もゼーレの世界樹に触れてしまったのだろう。さっきまでゼーレとやり合っていたんだ。その時に触れたと考えれば合致する。しかし、今回は白一色の世界とは異なり、草原が広がっていることを不思議に思った。

 

 

渋々、周りを見渡して自分がいる場所を確認した。木と木の間から見えるモンド城が見えるので、すぐさまここが囁きの森ということが分かった。

 

 

分かったのはいいものの、肝心の本人がどこにも見当たらない。世界樹に触れてしまったことが原因でゼーレの精神世界に入ってしまったのならば必ず姿を現すはずなのだ。

 

 

空「(ゼーレの姿が見つからない.......。前は目の前に立っていたのに......。仕方がない.....。探すか.......)」

 

 

そうして重い足取りで、ゼーレを探すために森を抜けた。

 

 

囁きの森を抜けるとすぐに1本の舗装された道に出る。その道は一直線にモンド城の橋へと繋がるのだ。空はそこを歩きながら、くまなく人を探す。

 

 

ついには、橋の入口まで後10m程度に来た時、空はふと草原の方向を見た。草の中に赤い斑点らしきものが目に止まったのだ。気になって近づいて確かめる。

 

 

空「........!血痕だ....!」

 

 

その赤い斑点の正体は血だったのだ。草を上から覆い被さるように、鮮血が地面にこびりついている。そんなのが、至る所にあった。

 

 

明らかな異常事態に空の心臓はバクバクと鳴る。気づいた時には足が動いていた。

 

 

血の量は城に近づく事に増えていき、いつしか血の池が形成されるようになっている。そして、橋前にたどり着いた時、空は信じられない光景に目を見張った。

 

 

血まみれの人間が山のように積み重なっている光景が広がっている。よく見ると、死体のほとんどが騎士団の人達のようだ。その周辺の地面は血でドロドロに染まり、まるで赤色の絨毯のようだった。騎士団の鎧は血でべっとりしていて、赤黒く輝いている。身につけている銀色の鎧とそれにこびりついている血の赤色が混ざり合い、モンド城まで続いていた。

 

 

死んだ顔には恐怖で引きつった口角と、見開かれた瞳が最後の瞬間の絶望を物語っていた。その中には最後まで剣を握っている者もいる。彼らの体には無数の痛々しい傷が刻まれていて、どれだけここで激しい戦いが起きたのかひしひしと感じた。

 

 

空「(そうだ....落ち着け.....これはゼーレの精神世界なんだ.....現実じゃない)」

 

 

あまりの惨状で錯乱しそうだったがこれはまやかしだと言い聞かせる。

 

 

ふと、モンド城の状態はどうなのかと疑問が走り、橋を見る。

 

 

石橋も同様、血がこびりつき、ヒビが走っていた。そんな橋の真ん中に生きた人間が立っていることに気づく。ゼーレだ。

 

 

こちらに背を向け、モンド城を傍観している。ゼーレのすぐ傍に目をやると、そこにはプカプカ浮かぶ青色の光の玉があった。

 

 

空「(ゼーレ....!?それに....なんだあれ....)」

 

 

一瞬仙霊かと思ったが光量が桁違いなので、その推測はすぐに屑となった。

 

 

ゼーレ「はぁ.....はぁ....はぁ.....。い、嫌....エル.....!」

 

 

表情は見えずとも声色で目の前の光景に酷く驚きそして怯えていることがわかる。

 

 

ゼーレは足をもたつかせながらモンド城へ走っていったので、それに続いていこうとした途端周りの景色が黒ずみ、足元が崩れていく。

 

 

空「.....ここまでか」

 

 

きっと誰かに起こされているのだろう。それが原因で記憶が中断されてしまった.....。

そして、ゆっくりと目を開ける。木の暖かみを感じられる天井が最初に目に飛び込んできた。右手を見ると、すりガラスから朝日の眩しい光が差し込んでいる。

 

 

すると、逆に左手からパイモンの声が聞こえてきた。

 

 

パイモン「あ、起きたぞ.....。おはよう旅人」

 

 

自分のベッドのそばにはエウルアとパイモンが立っていて、パイモンに関しては心配そうに空を見つめていた。

 

 

空「.......」

 

 

空は体を起こして、伸びをする。そして、さっきの見たことを思い出そうとした。あの光景は数秒前に見たこともあってか鮮明に記憶している。

 

 

考えている姿がパイモンにとっては更に心配になることなんだろう。手を後ろに回し、首を傾げている。

 

 

パイモン「エウルアと一緒に何回か呼んでも起きなかったから心配したぞ.....」

 

 

空「パイモンが俺より先に起きるなんて珍しいね」

 

 

パイモン「流石にオイラでも明日とんでもないことが起きるって考えたら眠れなかったぞ......」

 

 

エウルア「私もパイモンと一緒だったわ.....。仮眠は取れたけど、朝日が昇る前に起きたの。君がまだ起きてないことに気がついて、それで、パイモンと2人で起こしに行ったのよ?」

 

 

空「そうなんだ.....。ありがとう......」

 

 

パイモン「そんな考え事をしてどうしたんだ?悪い夢でも見たのか?」

 

 

空「.....ゼーレの精神世界にまた行ってしまった」

 

 

パイモン「えっ!またかよ!」と驚きの声を上げる。

 

 

空「昨日、聖鍵殿で戦った時に触れてしまったんだと思う。だから、夢に出てきたんだ.....」

 

 

エウルア「姉さんの.....精神世界......?どういうこと.....?」

 

 

エウルアがすかさず反応する。

 

 

パイモン「エウルアにはまだ言ってなかったな......。実は前々からこいつが寝ている間にゼーレの記憶的な物が見えるんだ。ゼーレの中にある世界樹と旅人が通信してしまうのが原因らしいぞ」

 

 

エウルア「本当!?さっき何が見えたの!?教えて!」

 

 

エウルアは空に詰め寄って、肩を掴み、催促する。

 

 

彼女は両手に黒い手袋をはめているのだが、手の暖かさが伝わって来るほど力強く掴まれていた。

 

 

空「.....地獄みたいな光景だったよ。出来ることなら二度と見たくない........」

 

 

パイモン「地獄.....?どういうことだ?」

 

 

空「今までは何も無い白色の世界でゼーレと喋っていたんだけど、今回はモンドだった。城の周辺に沢山の騎士団の人が死んでた......。それだけじゃない......。モンド城がもうボロボロだったんだ......」

 

 

パイモン「あわわ......」

 

 

エウルア「嘘......でしょ.......?」

 

 

空の言葉に2人は言葉を失った。時が止まったようにも思える。

 

 

パイモン「ほ、本当に精神世界でそれを見たのか?旅人が夢と間違ってないのか......?」

 

 

空「うん....。夢と違って意識ははっきりとあった。体も自由に動かせる。だけど、何か引っかかるんだ......」

 

 

エウルア「引っかかる......?」

 

 

空「今までの精神世界なら彼女と話すことができたし、すぐに彼女の姿が見つかったんだ。だけど、さっきのは彼女は俺の存在に気づかなかった。かなり近くまで行ったのにね......。これは、記憶の世界に似てる」

 

 

エウルア「記憶.....。その精神世界とやらとはまた別物なのかしら?」

 

 

空「うん......。似てるようで似てない」

 

 

パイモン「じゃあ、それは精神世界じゃなくてゼーレの記憶だったってわけか?」

 

 

空「おそらくね......(あれは一体....。さっきの記憶はゼーレが終焉機を起動させたあとの世界なんだろうか.....。だとしたらあの怯え様は説明がつかない....)」

 

 

そう思慮に耽っていると、突如3人の脳内に声が聞こえてきた。幼い女の子の声だ。

 

 

「みんな聞こえるかしら?」

 

 

パイモン「ナヒーダ!」

 

 

「良かった.....。本当は直々に伝えたかったのだけれども、時間が無いから手短に伝えるわね。パイモン、他2人は揃ってる?」

 

 

パイモン「おう!大丈夫だぞ!」

 

 

「そう.....。今すぐ武器を持ってデーヴァーンタカ山に来てちょうだい.....。彼女が......動き始めたわ」

空はベッドから跳ね起きて、急いで服を着替えて、武器を握って、デーヴァーンタカ山を目指した。

 

 

刻一刻と朝日が昇り、山に近づくほど、森の野生動物たちが慌ててる様子を見ることがあった。リシュボラン虎、駄獣、キノシシが自分の住処から飛び出し、暝彩鳥が木から羽ばたいている。

 

 

そんな異様な光景を目に入れた全員がただならぬ状況だということを肌で感じていた。

 

 

パイモン「お、おい!見ろよ!デーヴァーンタカ山にいる野生動物の様子がおかしいぞ!」とパイモンが指さして、叫ぶ。

 

 

ナヒーダ「そのようね。わたくしもここまで慌てふためている動物を見るのは指で数える程度よ。だけどこれで確定したわ」

 

 

変わらずナヒーダは自分達の脳内で会話している。彼女はスメールシティからここに来るまで通信を閉ざすことは無かった。

 

 

パイモン「ん?何をだ?」

 

 

ナヒーダ「この先に彼女が待っているということよパイモン。良かった....これで彼女の言葉が嘘だったらどうなっていたことか....」

 

 

空「山に着いたけどこれでどこに行けばいいの?」

 

 

パイモン「2人の姿が見えないぞ......」

 

 

3人は山の麓に到着した。だが、周りを見渡してもナヒーダとスカラマシュの姿は見えない。

 

 

「到着したのね.....。わたくし達は山頂にいるわ。今の場所から左手に行けば、比較的楽に山頂に着くわよ」

 

 

パイモン「分かったぞ!」

 

 

そうして、3人は再び歩き始める。舗装はされていなかったものの、獣道が広かったおかげで、15分程度で山頂に到着した。

 

 

到着すると2人はすぐ見つかった。ナヒーダとスカラマシュはデーヴァーンタカ山の底が見えない谷を見つめながら、何やら喋っていた。

 

 

スカラマシュ「凄まじい量の元素だね.....。こんなの今までなかったさ」

 

 

ナヒーダ「そうね.....。こんなの自然現象で片付けるにはおかしすぎるわ......」

 

 

スカラマシュ「おや?まさかビビっているとは言わないだろうね?冷や汗が垂れている......。怖気付いて逃げ出すなら今のうちだよ」

 

 

ナヒーダ「あら?随分と無駄口を叩けるぐらいには余裕があるのね。わたくしも安心したわ」

 

 

スカラマシュ「.....そうかな」

 

 

パイモン「ナヒーダ!スカラマシュ!来たぞ!」

 

 

ナヒーダ「来たわね。感謝するわ」

 

 

エウルア「今どんな感じなの?」

 

 

ナヒーダ「それは見てくれればわかるわ」

 

 

そうして、ナヒーダは体を横にして、3人に今の山の状況を見せた。それを見た途端、驚愕する。

 

 

空「.....!なにこれ.....」

 

 

エウルア「すごい高密度の元素......。どうなっているの?それとも元々ここはこういう場所なの?」

 

 

ナヒーダ「いいえ......」

 

 

ナヒーダは首を横に振る。

 

 

ナヒーダ「この仕業は彼女で間違いない。ここら一帯の地脈から元素が盛れ出してこうなっているのでしょうね。それにこの地形が原因で貯まりやすい....。もしかしたら彼女はこの地形を利用したいからここを戦いの場に決めたのかしら.....」

 

 

空「ゼーレは一年前からこの計画に注力しているって言ってたような気がする。だから、ここに目をつけたのも不自然じゃない」

 

 

エウルア「だとしてもなんで姉さんはわざわざこんな大量の元素を必要としているの?その正機の神というものは起動にリソースを割く必要があるのかしら」

 

 

ナヒーダ「.......。現時点では断定はできないけれど、あなたが言っているのが1番正しいとも言える。ほら、あれを見てちょうだい」

 

 

そういうとナヒーダの小さな手でデーヴァーンタカ山の遺跡の入口を指さした。

 

 

デーヴァーンタカ山の内部には巨大な地下遺跡がある。その遺跡の入口は崖の表面に存在している。

 

 

ナヒーダ「地脈から漏れだした元素は全てあの入口に流れている。あの大きな機体が谷底にないということは消極的に考えると遺跡の中だと思われるわ。.....つまりはそういう事ね」

 

 

ナヒーダの言う通りだった。

 

 

地脈から漏れ出ている元素は1つの束のようになって、遺跡の入口に入っていくのが見えた。

 

 

パイモン「うう....起動される前に何とかオイラ達がやらないと....!」

 

 

空「そういえばなんで2人はこの山に先に居たの?」

 

 

スカラマシュ「監視さ。クラクサナリデビの提案でね......」

 

 

ナヒーダ「昨日の夜から張り込みをしていたの。朝日が昇ったと同時に突然、元素が溜まり始めた......。だから、急いであなた達3人を呼んだのよ?」

 

 

パイモン「な、なあナヒーダ。もし仮に終焉機がスメールシティに接近したらどうするんだ......?ここからスメールシティの距離なんて歩いて1時間ぐらいだし.....。オイラ、あんな恐ろしいものが暴れる光景を想像するだけで背筋が凍るぞ.....」

 

 

パイモンの言葉の端々に震えが混ざっている。本当に迫りかかってきた危機に怯えているのが分かった。

 

 

ナヒーダ「それは安心してちょうだいパイモン。わたくしは人に直接会わなくても人間の意識に接続できるわ。幸い今日の教令院にほとんどの役職者がいることが分かっているから、いざとなればその人たちに危機を教えることが出来る....。それに、最初からスメールの民に伝えるのも考えたのだけれども、民衆が混乱してかえって教令院の負担が大きくなると思って」

 

 

パイモン「な、なるほど......。ナヒーダが考えてることがわかって一応安心したぞ......」

 

 

ナヒーダ「あら、わたくしがそこまで考えが至っていない愚かな神だと思っているの?」

 

 

パイモン「あーいや!そんなつもりじゃないんだ」

 

 

エウルア「その地脈が漏出した以外に何も無かったの?」

 

 

ナヒーダ「ええ....。交代しながら監視していたのだけど、彼女の姿が見えなかったわ......。それで突然こうなって......。それに元素だけじゃないわ」

 

 

エウルア「元素......だけじゃない?」

 

 

ナヒーダ「見ていてちょうだい」

 

 

ナヒーダはそういうと、ゆっくりと崖に近付いていく。落ちるギリギリのところで立ち止まると、腕を伸ばす。すると、何かに触れたかのようにナヒーダの小さな腕の動きが止まった。

 

 

ナヒーダ「この山を取り囲むように元素のバリアが貼られているわ.....」

 

 

エウルア「バリア.....!?」

 

 

エウルアが続いてバリアが思われる場所に手の甲でドアをノックするかのように軽く叩く。そこから、分厚いガラスかのような音が返ってきた。

 

 

パイモンと空も確認する。透明だが、そこに壁があるかのように思えた。

 

 

パイモン「ええ!?ど、どうするんだこれ.....。これじゃ入れないぞ.....!」

 

 

ナヒーダ「まるで侵入者を拒むように貼られている.......。少しでも時間稼ぎをするために貼ったのかしら.......」

 

 

空「どうする.....?」

 

 

思わぬ障壁に空は焦った。

 

 

ナヒーダ「これに関しては焦らなくても大丈夫よ。流石に彼女でも急いでこの範囲を防ぐのは厳しかったようね。一見分厚くて頑丈なものでもどうしてもムラができてしまう。この程度ならわたくしの草元素で中和すれば何とか入れるわ」

 

 

そういうとナヒーダは再びバリアに触れると、彼女の体と目が緑色に光る。すると、目の前のバリアにシミのようなものができて人1人が入れる程度のスペースが確保出来た。

 

 

ナヒーダ「成功のようね。ささっ、塞がれる前に全員中に入って」

 

 

パイモン「おおっ!さすがナヒーダ!頼りになるぜ!」

 

 

ナヒーダ「そ、そう?そこまで褒められると鼻が高くなるわね....」

 

 

 

 

 

 

ナヒーダ「なるほど.....確かに.....。旅人の理論に納得が行くところがあるわね。まさか、彼女の律者の能力は切断だったなんて......」と、空の話が終わるな否やナヒーダがそう呟く。ずっと、先頭を歩きながら解析をしていたのだろう。

 

 

空「うん。2回の戦闘の記憶からそう考えてた。アビディアの森で真っ二つになったヒルチャールとか昨日の遺跡のやつもまさにそうだよ」

 

 

空「元素の斬撃は今まで何度も体験してきた。それと似た雰囲気を感じる。律者の斬撃はより殺傷能力を研ぎ澄ました感じだと思ってくれればいい。......しかも目に見えない速さのね......」

 

 

ナヒーダ「.....もしそれが本当ならますます私達の勝利は厳しそうね.....。目にも見えない斬撃をこちらに放たれたらまず無事では済まなさそうだわ」

 

 

どんよりとした雰囲気が更にのしかかった。空は言わなければよかったと一瞬思いかけたが、これは絶対に共有すべき情報だ。

 

 

そんな時、エウルアが口を開ける。

 

 

エウルア「それは....心配ないと思う」

 

 

ナヒーダ「なぜ、そう言えるの?」

 

 

ナヒーダは思わず立ち止まって、後ろを振り向いた。

 

 

エウルア「姉さんの性格は私が1番知ってる。姉さんは人を傷つけることを極力避けたい性格よ。心の奥底ではダメージを与えることに臆病なの。もし、バリア突破の際以外に使ってたのならば、私達が今この場に立っていることが難しいわ。姉さんは使えないんじゃなくて、使いたくなかっただけだと思うの」

 

 

ナヒーダ「なるほど.....。考えてみれば彼女がわたくし達を傷つける理由は無い。彼女の気が変わらないことを祈っておきましょう。それともう1つ。みんなこれをひとつずつ持っておいてちょうだい」

 

 

そういうとナヒーダはポケットからひし形の結晶のようなものを取り出し、それを掌に乗せて全員に見せた。

 

 

パイモン「んん?なんふぁこれ.....。きょうせきか?(んん?なんだこれ.....。宝石か?)」

 

 

パイモンは高濃度の元素を吸い込まないように布で口を抑えながら言っているので、フガフガ声だ。

 

 

ナヒーダ「鉱石のように見えるけれどこれには元素が大量に詰まっている。もし、元素切れを起こしてピンチの時にはここから元素を供給してちょうだい」

 

 

ナヒーダは小さな元素鉱石を全員分に配り始める。色を重ねに重ねたような色合いをしていた石が、手のひらに乗るとそれぞれの神の目の元素と同じ色に変化し始めた。だが、旅人の石だけはみんなのような定まった石の色にはならず、時々緑色、次には黄色....紫色...など不安定のように見える。

 

 

パイモン「むわぁんで、たびびぼのぴしがきふぁってないんふぁ?(なんで、旅人の石が決まってないんだ?)」

 

 

旅人「俺に決まった元素がないからだと思う。神の目もないし」

 

 

パイモン「ふぁー!ふぁるふぉどな!!(あー!なるほどな!)」

 

 

ナヒーダ「突発的な出来事だからあまり対策できなかったけれど......昨日の出来事の記憶を辿りに解析して似たようなものを作ったの」

 

 

パイモン「おぉ....」

 

 

ナヒーダ「正直に言って、この戦いは我慢比べよ。彼女の体にはアビスの侵食が蔓延っている状態.....。彼女が倒れるのが先かわたくし達が力尽きるのが先か.....。から1秒でも立っていられるように元素鉱石を配ったの」

 

 

配り終えたナヒーダは神妙な顔で全員を見る。

 

 

ナヒーダ「さぁ、入口よ。みんな心の準備はいいかしら?」

 

 

スカラマシュを除いて全員がコクリと頷いたのを確認すると、ナヒーダが先陣を切って遺跡に入っていった。

 

 

 

 

 

ゼーレ「来たか.....。まさか七神が私の元素バリアを突破できないわけがないものね。慌てふためく顔を中からじっくり見ておいた方がよかったかしら?」

 

 

ナヒーダ「一瞬であれほどの規模のバリアを張るのは素晴らしい技量だと思うわ。だけど、所々薄いところがあるの。そのおかげで弱いところを突いて突破することができたわ」

 

 

ナヒーダの予想は当たっていた。山の中の遺跡にはボロボロの正機の神が置かれていた。

 

 

それの前にゼーレが立っていて、頭に直接鉱石らしきものを当てていたが、人が来たことを確認すると急いでそれを隠した。

 

 

ナヒーダ「あら.....正機の神の下半身はどこに行ったの?」

 

 

すかさずナヒーダはそう突っ込む。確かに正機の神の下半身が見当たらない。

 

 

ゼーレ「あー.....ご丁寧に切り刻んで適当な場所に捨てておいたわ。私が必要としているのは上半身だけ。足なんてこんな狭い洞窟じゃ邪魔になるだけよ」

 

 

ナヒーダ「(上半身だけ?なにか引っかかる......。彼女は正機の神を器として終焉機を顕現させることが目的なのに...自ら下半身を捨てた....?これも彼女の作戦のひとつなのかしら....)」

 

 

ゼーレ「で、ここにやってきたってことはつまりそういうことなのね?」

 

 

ゼーレが腰に当てていた片手剣を引き抜いてこちらに構える。反射神経で皆も武器を取り出した。

 

 

ゼーレ「エル。こんなところに来たってことは心の準備はできているの?」

 

 

エウルア「ええ。私が姉さんを斬る覚悟はとっくに済ましてるから」

 

 

ゼーレ「最後の警告よエル。ここから立ち去りなさい。まだ構えるならお姉ちゃん容赦しないよ」

 

 

エウルア「.......頑固者」

 

 

ゼーレ「ははは.....。ローレンス家なんてそんな連中の集まりなのに今更?」と、乾いた笑い声を出す。

 

 

両者睨み合う。いつ斬りあってもおかしくない状況だった。だが、彼女がとった行動は.....。

 

 

ゼーレ「追いかけてみなさい!」

 

 

挑発するかのような声色を出し、背を向けて遺跡の奥に走り出した。

 

 

パイモン「えぇ!?に、逃げた!?」

 

 

エウルア「お、追うわよ!」

 

 

一瞬脳の処理が追いつかなかったが、すぐにハッとなりゼーレを追いかけ始める。だが、その時。

 

 

ブォンーーー。重々しい機械音が洞窟に響き渡る。ついには正機の神が起動した。

 

 

スカラマシュ「ちっ!起動したか!」

 

 

正機の神はボロボロの躯体を動かし敵をロックオンすると、巨腕を動かして壁をえぐり、家ほどのサイズの大岩が落とす。それを間一髪で避けたのだが、ナヒーダとスカラマシュ、空とエウルアとパイモンの間に落下し、分断されてしまう。

 

 

空「........!ナヒーダ!!」

 

 

空は大岩の先に居る2人に叫んだ。

 

 

ナヒーダ「こちらは心配ないわ。正機の神は私たちで何とかする!それよりあなた達は彼女を追って!とにかく時間を稼ぐことを念頭に!」

 

 

空「......わかった」

 

 

空が渋々と了承して駆け出す。だが、エウルアはついて行くことなく大岩を見つめていた。

 

 

空「エウルア。行くよ」

 

 

エウルア「え...あの人たち大丈夫なの?ましてやあの機械相手に2人だけだなんて........」

 

 

空「信じるしかない。ここで全員相手をしていたらゼーレの思う壷だ」

 

 

エウルア「...分かったわ。行きましょう」

 

 

3人が遺跡の奥へ走り出して行ったと同時に、正機の神は完全起動を完了した。上半身だけで機体を浮かせてながら、こちらを向いている。

 

 

ナヒーダ「あら、上半身だけでも浮遊することが出来るの........?」

 

 

スカラマシュ「そうなんじゃないかな。知らないけど。で、天下のクラクサナリデビ様はどういった作戦でこいつを止めるんだい?パッと見たところエネルギーだけ見れば前より数倍だけど」

 

 

ナヒーダ「幸い機体が脆弱しているのと、上半身だけというのがこちらにとって有利な点ね。わたくしが後方支援を行うからあなたが突破口を切り開いてちょうだい。期待しているわよ?」

 

 

スカラマシュ「.....ちっ、減らず口を」

 

 

その時正機の神の胸元にある巴紋から、雷元素のレーザーが飛んできて2人に襲いかかってきた。スカラマシュはナヒーダを抱えて飛行によりそれを回避した。レーザーが着弾した場所は大岩程度の凹みができて黒煙が舞い上がっている。

 

 

スカラマシュ「おかしいな....。あのガラクタは頭に操作する人間がいないとそもそも動かないはずなのに.....」

 

 

ナヒーダ「それも含めて彼女の仕込みでしょう?何らかの方法で遠隔操作を実現させたはずだわ」

 

 

スカラマシュ「遠隔操作?僕は直接操作しかやったことがないけど、そんなことできると思っているのかい?」

 

 

ナヒーダ「あなたは彼女を侮りすぎだわ。律者の力に加えて彼女自身才能があるの。今は方法は分からずとも何か掴んだはずに違いないわ」

 

 

スカラマシュ「ふーん.....。それはいいとしても君はもうちょっと自力で回避してくれないかな!?君を抱えるのが厳しい.....」

 

 

ナヒーダ「ふふ、善処するわ」

 

 

スカラマシュ「ちっ!」

 

 

飛んでいる蚊を撃ち落とすように正機の神はなりふり構わず大きな図体を振り回しているので、接近することが難しい。

 

 

スカラマシュ「君を...抱えて避けてる...せいで!あのガラクタに近づけないじゃないか!」

 

 

ナヒーダ「分かっているわ。今どうやって止めるか考えているからもう少し我慢して....」

 

 

スカラマシュ「まずはあの邪魔な腕を叩き落とせばいいじゃないか?あとは胸元を撃ち抜けばとりあえずガラクタは無力化できる」

 

 

ナヒーダ「.....そうね。一旦それで作戦を立ててみましょう」

 

 

スカラマシュの風元素の浮遊が尽きたようで、一旦岩陰に隠れるようにした。ナヒーダは一瞬袋のネズミのように正確に隠れている2人を撃ち抜いて来ると思ったのだが、追跡機能が機能していないのか、正機の神は2人の存在を視認できてないようでひとまず安心する。

 

 

スカラマシュ「クラクサナリデビ。僕が叩き落としてくるから、数秒間は耐えられるかい?」

 

 

ナヒーダ「...えぇ。何か考えあるのかしら?」

 

 

スカラマシュ「あぁ......。僕でしか知りえないあのガラクタの弱点というものがあるのさ。君は攻撃を防ぐ術を持っているから気を集中させてくれ。そこを一気に僕が叩く」

 

 

ナヒーダ「分かったわ」

 

 

両者が頷いた後、まず先にナヒーダが岩陰から出てきた。視認した正機の神はギギギッと錆び付いた音を立てながら腕を振り上げてナヒーダに落とした。間一髪ながらナヒーダが草元素のバリアを展開してそれを防ぐ。

 

 

ナヒーダ「(良かった....前日の遺跡でバリアが彼女に一発で割られたから不安だったけれど....)」

 

 

舞う土埃の中からスカラマシュが飛び出してきて、そのままバリアを破壊する右腕の接続部分までやってきた。

 

 

スカラマシュ「(こいつは肩と腕の接続部分を故障させれば無力化できる....。まずは右から....!)」

 

 

足裏に風元素を圧縮して踏んづけようとした....だがその時。

 

 

スカラマシュ「!」

 

 

接続部分に風元素をぶつけたはずだが、そのまま跳ね返って来た。それをもろに受けたスカラマシュは勢い良く吹き飛んでナヒーダの隣に不時着する。

 

 

ナヒーダ「スカラマシュ!?どうしたの!?」

 

 

スカラマシュ「.....ちっ。思った以上にこのガラクタ.......厄介なことになりそうだ」

 

 

ナヒーダ「というと?」

 

 

スカラマシュ「説明が長くなる!それよりこのバリアの耐久性の心配をした方がいいんじゃないか!?」

 

 

ナヒーダ「大丈夫よ!ヒビが入ったそばから修復してるから安心してもいいわ。さっ、話して?」

 

 

スカラマシュ「あいつ、自分の弱点を知っているのか知らないけど、接続部分に風元素を纏っていたのさ」

 

 

ナヒーダ「風元素を....?」

 

 

スカラマシュ「そう言っている!同じ元素同士をぶつけても無効化されるか反発されるかだ!」

 

 

ナヒーダ「そんな....」

 

 

スカラマシュ「厄介だな.....。あいつ学習している。僕が風元素で飛んでいるのを瞬時に理解して接続部分を破壊されんと纏ったんだ。こんなの初めて知ったから、多分コアがある影響だろうね。で、どうするんだいクラクサナリデビ」

 

 

ナヒーダ「要は学習される前に形勢を逆転する物をぶつけることね。少し待ってちょうだい。今考えているから」

 

 

その時、ナヒーダの目に天井から垂れてくる水滴が映った。思うと湿気が高い森林の中の洞窟のためそこら一辺に水元素が豊富に含まれていることに気づく。

 

 

ナヒーダ「水.....?」

 

 

ナヒーダはもう少しのところで勝機の計算を導けそうだったが、スカラマシュの呼びかけにはっとさせられる。

 

 

スカラマシュ「お、おい....少し危ない状況なんじゃないか....?」

 

 

普段の彼に似つかない焦った顔を浮かべているのを見て途端に正機の神を見た。

 

 

ナヒーダ「!」

 

 

痺れを切らしたのか、機体は4本の腕を胸元の巴紋に集めエネルギーを込め始めた。その隙間から火元素が凝集をし始め、小さな火球が出来上がった。そしてそれは次第に大きくなり洞窟の天井を覆い尽くす程の大きさまで成長する。

 

 

ナヒーダ「.....少しどころじゃないかも」

 

 

その火球は花火のような音を立てて、地面に落ちると同時に爆発し洞窟中に熱波を広げた。

 

 

視界が赤色に埋め尽くされたのを感じてスカラマシュは生まれて始めて極限の焦りを見せたが、ナヒーダの草元素のバリアがそれを防いだようだ。確かに防いだのが、それと同時にガラスの割れる音を立ててバリアが崩壊してしまった。

 

 

ナヒーダ「(バリアが......!まさか燃焼反応.....!)」

 

 

運の悪いことに脆弱なバリアに連続の元素反応によって簡単に割れてしまったようだ。すかさず、正機の神の腕が飛んできてスカラマシュが吹っ飛ばされた。

 

 

スカラマシュ「ぐっ...!」

 

 

遺跡の入口を通り越して吹き飛ばされたスカラマシュをどうすることもなく、ナヒーダと正機の神だけがその空間に残ってしまった。

 

 

ナヒーダ「スカラマシュ....!(彼女、あの子が厄介という評価だけは一貫しているようね。わざわざあの子だけを飛ばして分断させるなんて....)」

 

 

ナヒーダはスカラマシュが復帰してくることを信じて耐えることにしたのだが、如何せんバリアを常時貼っていたのが原因なのか元素が底を尽きようとしていた。

自分が意識を取り戻した時には体は空中に浮かんでいた。上には青空が、下には既に戦いによって荒れた森林が見える。その時、脳を頑張って動かし、自分の状況を思い出す。

 

 

ああ、思い出した.......。ゼーレに殴られて投げ飛ばされたんだ.....。

 

 

前の自分ならそのまま気絶していただろう。しかし、体が慣れたのか、自分が辛抱強くなったのか数秒の気絶に収まったようだ。

 

 

空中で体勢を戻して地面に着地しようとした時、目の前に飛んできたのは不敵な笑みを浮かべて拳を叩きつけてくるゼーレの顔だった。

 

 

空「ぐっ!」

 

 

反射的に剣で受け止める。片手剣と腕に想像を絶する重さが加わり、それに耐えきれなくなると、地面に突っ込んで行った。こんなところで寝てるわけにはいかない。そのままゼーレが落下してくるのが見えたので急いで起き上がり、再び剣を構える。

 

 

ゼーレが地面に着地すると同時に土埃が舞い上がる。そこから出てきた片手剣を刃で受け止めた。

 

 

空「(お、重い.....!油断していると落としてしまいそう...)」

 

 

こちらはしっかりした鍛造武器のはずなのに、相手は刃を潰した訓練用の片手剣。だけど、刃を振るう音はどの真剣より相手を威圧する気概があった。

 

 

その剣の軌跡を肉眼でなんとか捉えられている。

 

 

空「(だけど、前より着いていけてる.....?)」

 

 

エウルア「旅人!」

 

 

エウルアが旅人のピンチをいち早く感じ、持っていた大剣をゼーレ目掛けてフルスイングする。だが、それをジャンプで回避し、2人から少し遠いところに着地した。

 

 

ゼーレ「いい太刀筋じゃない。その調子その調子」

 

 

エウルア「何それ....?まるで子供あやすみたいに....」

 

 

ゼーレ「さぁね。私もわからない」

 

 

エウルア「ぐっ......!.......旅人!大丈夫!?」

 

 

空「うん....何とか....」

 

 

ゼーレ「(妙ね...明らかに2人の元素の量が底上げされてる....。なにか仕込んだな....。十中八九ブエルの仕業かも)」

 

 

ゼーレが落ちていた腕程の厚さがある木の枝を拾い上げて、槍投げの要領で空目掛けて投げつけた。防いだ衝撃で一瞬体勢を崩したのを見逃すはずがなく、手のひらを差し出して息を吹き付けると、辺り一面が凍りつき2人の体が固定されてしまった。

 

 

エウルア「うっ....」

 

 

空「(氷...!?体が動かない....!)」

 

 

何とか氷から脱出しようともがいてる空に向かって走り出したゼーレがドロップキックをかまし、再び遠いところまで吹き飛ばした。

 

 

エウルア「旅人!!!(旅人が......!何で私には姉さんみたいな身体能力がないの....!?何かが足りない....?)」

 

 

自分の体にまとわりついている分厚い氷を剥がそうとしてもうんともすんとも言わない。

 

 

エウルア「(氷が......剥がれない!)」

 

 

そうこうしているうちにゼーレがエウルアの元へ駆けつけてきた。

 

 

ゼーレ「私の氷元素は侵食性があるからすぐに除去しないと命に関わるわ。よいしょっと」

 

 

必死にこの場から脱出しようと体を動かしているエウルアの肩を掴むと、今までのが嘘かのように簡単に引き出した。体勢を整えて、大剣を2、3回振るうが虚しいことに一回も当たることなく逆に大剣を奪われてしまう。

 

 

エウルア「あっ......!」

 

 

そして、その青色の輝きを持つ大剣を投げると、2人から少し遠い地面に突き刺さった。

 

 

ゼーレ「......どうしてお姉ちゃんの言うことが聞けないの?私はあなたと戦う必要はないはずなのに」

 

 

まるで自分を相手していないかのように、作業の如く大剣を奪われたエウルアとは対して、ゼーレはむしろ悲哀に満ちた目でエウルアを見つめる。だが、彼女は真剣な顔で自分の姉を睨みつけていた。

 

 

エウルア「姉さんに無くても私にはある。それに私はもう子供じゃないの。自分なりの理由を持ってこの戦場にやってきた」

 

 

ゼーレ「はぁ....」

 

 

エウルアの気迫は今手に持っていないはずの大剣を喉笛に突きつけられているようだ。そんな様子をゼーレは無言のまま、何もせず見ている。それが何秒か続いた。すると、突然エウルアは背後を振り返った。

 

 

ゼーレ「?」

 

 

そこに何かあるかのようにずっと見ている。

 

 

エウルア「........!」

 

 

何か理解したかのような表情に変化し、盗られた大剣を急いで拾い上げ、どこかへ走っていった。

 

 

ゼーレ「(逃げた......?いや、そうでもなさそう...。この短時間で作戦と言えるものは立ててきたようね。まあいいか....)」

 

 

わざわざ追いかける必要も無い。それよりも自分の元に近づいてくる人物に注意を向けないといけない。

 

 

ゼーレ「で......まだ立つの?あのまま寝ておけば良かったのに」

 

 

空「ふぅ......ふぅ......ふぅ......。当たり前でしょ...!戦いはここからだよ」

 

 

戦線復帰を果たした空は息を切らしながら強気の言葉を放つ。そして、再び片手剣を構える。

 

 

ゼーレ「あなたの味方はどっかいっちゃったけど.....何か企んでるの?」

 

 

空「さあ....どうだろう」

上から迫り来る巨大な手を全力疾走で避ける。手が振り下ろされた地面はいとも簡単に陥没し、土埃はもっと下に落ちていく。あれに当たってしまっては、例え七神でも無傷では済まない。自分は七神の中でも非力だ。戦闘要員をサポートする立場にある。もし、あれに当たってしまったらと考えるだけでも背筋が凍る。

 

 

ナヒーダ「はぁ....はぁ...はぁ...」

 

 

スカラマシュが吹き飛ばされた後ナヒーダはずっと攻撃を躱し、逃げ続けて時が来るのを待っていた。だが、それも時間の問題...。呼吸が荒れ、体が限界を迎えつつある。

 

 

ただ、ナヒーダも無意味に逃げていたわけではない。これも1つの作戦だった。終焉機が元素を学習される前に、死角から一気に詰めるーーー。その作戦は今でも続いていた。そしてそれもたった今、準備を終えた。

 

 

外の状況を感じ取ったナヒーダは何回目なのかも分からない草元素のバリアを自分の周りに展開する。すると、案の定正機の神が火球を巴紋の前で作り出した。

 

 

ナヒーダ「(やっぱり.....!学習と言ってもただただパターンを覚えているだけ....。この対策はこれ以外の行動ができないんだわ....!)」

 

 

ナヒーダが自身の力で外で待機している者に合図を送り出す。そして、数秒後正機の神の真上の洞窟の天井に大穴が開き、そこから巨大な氷が落ちてきた。その氷は火球に近づいた瞬間に溶け、水となり機体に降りかかる。

 

 

ナヒーダ「(充分すぎる水元素の量ね...!これなら行けるわ!)」

 

 

ナヒーダが急いで小さな手で手カメラジェスチャーを作り、その中心に正機の神を捉える。ジェスチャーの輪郭を崩すと同時に草元素の烙印を巨大な機械に刻み込んだ。

 

 

ポンッ!ポンッ!ポンッ!ーーーー

 

 

草元素と水元素が反応して、大量の草原核がコミカルな音を立てながら生成されていく。

そして、火球の熱波を浴びた草の塊は烈開花反応によって膨張し、爆発する。ナヒーダの高濃度の草元素と大量の水元素によって威力が底上げされた草原核は爆弾と言っても過言では無いだろう。耳をつんざく爆発によって正機の神の接続部分が潰れ、4本腕が地面に勢いよく墜落した。

 

 

ナヒーダ「今よ!」

 

 

チャンスだ。ナヒーダは穴に向かって叫んだ。

 

 

スカラマシュ「分かっている!」

 

 

その天井の大穴からスカラマシュが正機の神目掛けて飛んでくる。そして、巴紋まで来ると、凝縮した風元素を放つ準備をし始める。それをぶつけようとした瞬間、巴紋の様子が変化した。

 

 

スカラマシュ「........!何っ!」

 

 

今まで紫色だった巴紋が青緑色に変化していく。正機の神は意志を持って、撃ち抜かれんとスカラマシュの風元素を相殺しようとしていた。

 

 

スカラマシュ「ちっ...!最後の最後で...!!往生際が悪いガラクタが!」

 

 

このままじゃ失敗することを一瞬で理解したナヒーダが腕を伸ばし、圧縮された風元素の表面に草元素を纏う。元素反応が起きない元素同士は、消滅するまで混じり合うことなくそこに存在する。巴紋の風元素と草元素が接触した時、風元素同士の反発を和らげ少しでも通り道を確保した。

 

 

風元素のバリアを通り抜けた元素の弾が機械内で炸裂し、洞窟中に突風が起こり金属のネジ切れる音、錆び付く音が鳴り響く。爆発の威力でついに正機の神の心臓部分に大穴が空き、黒煙を上げながら地面に突っ伏した。

 

 

ナヒーダ「終わった.....のかしら?」

 

 

ナヒーダが多少警戒しながら正機の神に近づくも、それは何も反応しないただのガラクタとなっていた。それを感じたナヒーダはため息を尽き安堵し始める。

 

 

ナヒーダ「ふぅ.....。お疲れ様。そして感謝するわ。わたくしの意図を汲んでくれて」

 

 

スカラマシュ「ふん。あの女の妹とやらに大量の氷を作り出させてから洞窟に落とすなんて....。どうかしてるさ」

 

 

ナヒーダ「わたくしが旅人の実力を信じていなかったら出来なかった事よ。意識を介してあなたに作戦を送った時点でわたくしの中で勝利は確信していた....」

 

 

スカラマシュ「天下のクラクサナリデビ様も危ない橋を渡るのが好きらしい。発想を聞いた時正気かと耳を疑ったさ。結果的に上手くいったからいいものを....」

 

 

ナヒーダ「ふふっ、斬新かつ大胆ないい案でしょう?正しくピキーン!というものよ」

 

 

スカラマシュ「.....そうかい。それでどうするんだい?あれは」

 

 

スカラマシュは腕を組みながら沈黙を続けている正機の神に目を配った。

 

 

見ると大穴から4つのコアが見えた。依然禍々しい光を放っているが、かなり光量が落ちているように見える。

 

 

ナヒーダ「彼女の言う通り、コアを稼働エネルギーとして大きな機体を動かしていた.....。そうね.....これは再びアランナラと共に封印することにするわ。けど今すぐは出来ないし、持っていても荷物になるから今はここに置いておくわね」

 

 

スカラマシュ「そうか。それで上の状況はかなり緊迫していたが......行くかい?」

 

 

ナヒーダ「勿論今すぐ行きましょう。また乗せてくれるわよね?」

 

 

スカラマシュ「......ちっ。乗りたいなら勝手に乗っていればいい」

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