台本書き
駄文
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キャラ崩壊
ゼーレ「ぐっ...!(しまった...!!)」
もう1人の旅人の登場という予期せぬ出来事に完全に気を取られていた。刃の侵入を容易く許してしまい、片手剣の刃は完全に根元まで突き刺さっている。心臓が貫かれ、胸からは刃先が飛び出した。口と刃先からゆっくりと鮮血が地面に垂れ落ちる。
ナヒーダ「(...!成功したわね!)」
奇襲作戦が成功したことを感じ取るとナヒーダは心の内で確かなる実感を手に入れた。そして、東西南北、360度の空間にヒビが入り、そして崩壊する。今までゼーレが破壊してきた地形は諸共リセットされていた。それと同時に自分を貫いていた剣と空の姿も煙のように消滅する。
ゼーレ「(消え...た...!)」
偽物だった空は消滅し、たった今、夢境に侵入してきた本物であろう空ともう1人パイモンがナヒーダ達に合流した。
心臓を貫かれてしまったゼーレは重大なダメージを負ってしまう。血が絶え間なく流れ出ている傷口に左手を抑えながら、ゆっくりと後ずさりで距離を取る。
ゼーレ「ふぅ...ふぅ...ふぅ...」
ふと、傷口を抑えていた手を離し、手のひらを見る。肌にはびっしりと赤い血が付着していた。依然、出血は止まることを知らない。
ゼーレ「(傷が......再生しない!?何が起きているの......?)」
たかが、刺された程度だ。こんな物、さっさと再生してしまおうと思ったが、いつまで経っても心臓の傷が癒えることは無かった。
ナヒーダ「...傷が消えなくて焦っているのでしょう」
ゼーレ「......。はっ...。やってくれたわね。まさか、夢境が''二重に仕掛けられている''とは...予想だにしなかった」
ナヒーダ「旅人の剣があなたの世界樹に干渉できるようにわたくしが改造してあるわ。そして、干渉と同時に律者の力を妨害する因子を打ち込む...。だから、今あなたは弱体化しているのよ」
ゼーレ「(妨害...。なるほど...。この輪廻の目的は私の消耗ではなく、あくまで奇襲を仕掛けるため...!)」
元から夢境は二重に設置されていた。内側の輪廻をゼーレの手によって破壊させ、油断した所に現実世界から空が侵入することによって、ゼーレに奇襲をかけるというのがナヒーダが一瞬で組み立てた作戦だった。更に、夢境には輪廻を繰り返すと、その人物の代わりの人形を作り出すという特性がある。現実世界と夢境の境界を認知できる空達は空だけの人形を作り出したのだ。
空「(ゼーレが弱体化している実感はある。だけど、まだだ...!これで勝負が決まった訳じゃない...)」
彼女の胸から垂れてくる血はまだまだ止まることを知らない。阻害因子が上手く働いている証拠だ。だが、ここで油断してしまい、逆転されてしまえば元も子もない。それほど警戒しなければならない相手だ。
ゼーレは息を整え、ゆっくりと立ち上がる。憔悴しながらも、目はしっかりと全員を睨みつけていた。
空「(阻害が食いこんだとは言え、再生能力も斬撃も封じ込めた訳じゃない。あともう一息...!心臓に届かせる!)」
それは全員が分かっていた。空、スカラマシュ、エウルアが構え、ジリジリとゼーレに詰め寄る。その時、空が急接近して、片手剣を横に振った。ヒュンと刃が空気を切り裂く音が一瞬鳴ったが、ゼーレはそれをいとも簡単に足で刃を受け止める。
空「!」
その刹那、空は隙が生じる。次には顔面に拳を叩き込まれていた。じんわりと伝わる衝撃と痛み。だが、意識が飛ぶことは無かった。
ゼーレ「!?(耐えた!?)」
今まで、打撃によって空達をいなしてきたゼーレだったが、それを受け止められてしまった。その事にゼーレは驚いてしまう。それ程、今のゼーレは格段に弱ってきているのだ。
ゼーレの攻撃が一瞬止まったことを察知したスカラマシュは彼女の背後に回り込み、服を掴んで拘束する。
ゼーレ「何を!」
スカラマシュ「やれ!!!」
大きな声を出して、エウルアに合図を出す。それを受け取ったエウルアが勢い付けて青色の大剣をゼーレの横腹から突き刺す。
ゼーレ「うぐっ!!」
大剣が貫通することはなかったが、刃の半分程まで食いこんだ。筋肉と腸を刃先で切り裂き、肝臓などの臓器を圧迫する。
ゼーレの動きは完全に止まった。その時、満を持して登場したのはナヒーダだった。
ナヒーダ「2人とも!避けて!」
土と瓦礫が混ざりあった小山からナヒーダがゼーレの目の前に飛び出し、エウルアと空に合図を出す。それを聞いた、2人は一目散にナヒーダの視界から消えた。そして、ナヒーダは新型アーカーシャ端末をゼーレに向ける。
ゼーレ「(あれは...!!)」
ナヒーダ「輪廻は奇襲する為だけに行われた訳じゃないわ。''これ''の存在をあなたは忘れているようね」
数百回行われた輪廻によってゼーレ・ローレンスの夢収穫のエネルギーはアーカーシャ端末に保存されている。それをたった今、ゼーレ目掛けて発射するというのだ。
ぬいぐるみのガラスで出来た一つ目にキラリと閃光が走り、そこから濃縮されたエネルギーが射出される。ゼーレは為す術なくそれに直撃した。
濃縮された草元素が炸裂し、緑色の煙が一瞬にして天高く登る。そのエネルギー弾はゼーレの精神世界に入り込み、草元素の烙印を刻み込む。そして、すかさずそこに空が腕に草元素を纏い、心臓に打撃を食らわした。
草元素エネルギー弾にはナヒーダの権能の力が入り込んでいる。それが直撃してしまったゼーレは精神世界の入口が強制的に開いた状態になった。空がそこに草元素を打ち込むことによって空はゼーレの精神世界に入ることが可能となった。
空「(よし、ゼーレの精神世界に入り込んだ.....!)」
ゼーレの内側から破壊し、戦いの勝負を決める。これがナヒーダ陣営が考えた作戦であった。
目まぐるしい渦が巻く深海へ潜っていき、そして、無機質な白色の世界にたどり着く。だが、その時予想外のことが起きる。
「こっちに...来たんだね」
空「え...。誰...?」
突如、右手から知らない声が聞こえ、そちらを向くと、そこには黒髪の少女が立っていた。後ろに手を回し、興味を持った子供が物を見つめているかのように空を見ている。絶対にゼーレでは無い。知らない少女だ。少女と言うよりも成人手前の女性だった。
思わぬ出来事に空は手を止めて、その少女を眺めている。脳の思考が止まってしまったかのようにーー。
その時、空は気づいた。この少女はゼーレの精神世界に映るもう1つの魂だということに。ーーーゼーレ・ローレンスには2つ目の魂が存在していたのだ。
もう1つの魂の出現によって、完全に手を止めてしまった空。そんな時、白い床に大きな亀裂が入ったことに気づく。
空「!まさか...!」
亀裂は四方八方へと広がっていき、そして、空の体は無重力状態のように浮く。
空「(やらかした!弾き出されたか!)」
浮いている状態でちらりと黒髪の少女を見る。彼女がゆっくりとこちらに手を振る光景を最後に空は精神世界から強制脱出させられた。
空「うぐっ!」
現実に戻った途端、頭に頭痛が走り、思わず地面に倒れ込む。
ナヒーダ「!?旅人!どうしたの!?」
空「ナヒーダ...!今気づいた...。ゼーレにはもう1つの魂が...存在してる...!!」
ナヒーダ「もう1つの......魂.....!?」
ゼーレ「邪魔!!!!!」
その時、ゼーレが山に木霊する声量で叫び、拘束下していたスカラマシュの腕をがっしりと掴んだ。
スカラマシュ「こいつ!!」
そして、そのまま背負い投げの要領で人形を軽く吹き飛ばす。横腹を突き刺していたエウルアも事態をいち早く飲み込み、大剣をゼーレから引き抜き、2、3歩後ろに下がる。
ゼーレはそのままスカラマシュに攻撃を仕掛ける。対してのスカラマシュも離れたことを利用し、圧縮した風元素を打ち込もうとした。
スカラマシュは聖鍵殿の地下、そして直前の洞窟で2度吹き飛ばされた経験則から直感的に3度目の吹き飛ばしが来ることが分かっていた。彼も元はファデュイの執行官。風玉から飛ばされるように飛行モードに瞬間的に切り替える。
スカラマシュ「(どうせ、どう頑張っても飛ばされるんだ。飛ばされたあとの復帰に全力を注ぐ...!)」
スカラマシュの図体に飛んできたのはフルスイングの足でも拳でもなかった。飛んできたのはなんと火だったーーー。
スカラマシュ「は?」
ゼーレの左手から発射された炎は横方向の竜巻のようにスカラマシュに襲い掛かる。スカラマシュの視界は一瞬にして赤色の世界に染まった。前方向にある草やツタや木を焼き付くし、スカラマシュの図体も押し上げていく。そして、抵抗虚しく、デーヴァーンタカ山の地平線彼方に吹き飛ばされて行った。
ナヒーダ「炎元素!?」
空「火!?」
地面がドロドロに溶けた事、何よりもいきなり現れた炎に驚いたのはスカラマシュだけじゃない。空もナヒーダ、そしてエウルアも理解が追いついていなかった。
ゼーレ「ちっ....炎元素か....」
空「(ゼーレの手から火が飛び出してきた!?もしかしてこれが終焉機を取り込んだ影響!?けどそんなこと考えてる場合じゃない...。1人欠けた状態だとまずい!)」
急いで頭痛を振り払い、立ち上がろうとした次の瞬間、自分の体から血が吹き出した。
空「えっ」
脳の処理よりも先に、痛みのあまり片膝を着いてしまう。両肩、脇腹、太ももの3箇所からとめどなく血が溢れてきた。
さらに、空に絶望を与えたのはぽっくり折れてしまった剣の存在だ。さっきの斬撃を受けたせいで刀身ごと綺麗に真っ二つになっていた。
エウルア「旅人!」
ゼーレの後ろから大剣をフルスイングしたが、右腕でそれをガードされてしまう。金属と金属がぶつかる音を盛大に立てた後、そのままゼーレが膝蹴りによってエウルアの大剣の粉砕した。
かつて刃だった鉄の塊が地面に無造作に散らばり、彼女の手にはグリップしか残されていない。次第に手がぷるぷると震え、生気が消えたかのようにゆっくりと尻もちを着いた。
ゼーレ「はい、全員終わり」
ナヒーダ「まだ...わたくしがいるわ」
いても立ってもいられなくなったナヒーダはその場から駆け出して、空の前に立つ。そして、ゼーレの目の前で両腕を目いっぱいに広げ、空を庇った。
しかし、ゼーレはそれを冷めた目で見つめていた。何の感情も持ち合わせていない、道端の石ころを見るような目だ。ナヒーダの服の背中に着いていた紐のような物を鷲掴みすると、いとも簡単にナヒーダを自分の目線の所まで持ち上げる。
ゼーレ「...情けない事この上ないわね、ブエル。本当にあなただけで何ができるというの?」
ナヒーダ「言ったでしょう...。必ず、あなたを止めると」
ゼーレ「...ふん」
ナヒーダを軽く小馬鹿にするように小さく鼻息を出すと、横にある土山にナヒーダを放り投げた。
ゼーレ「動いたら余計に出血するからやめた方がいいわよ」
横目でそれを見届けたゼーレは今度は無防備になった空に話しかける。
悲鳴を上げる体を無理やり起こして応戦しようとしていた空だったが、片手剣の刃を喉に軽く当てられた。
ゼーレ「本来まともに喰らえば腕が簡単に吹き飛ぶ位の斬撃だけど、圧縮する元素の量と圧縮する具合を減らすことによって結果的に威力を調整出来る。あのお人形さんが風元素を凝縮させて放っていたように、小さくすればするほど反発で速度と威力が跳ね上がる。だから、誰も私の斬撃を見抜けないし、避けれない」
パイモン「や、やめろよ!」
遠い所で瓦礫に隠れながら見ていたパイモンが飛び出してきて、ゼーレの服を一生懸命に引っ張る。
空「パイモン.....!出てきたらダメでしょ...!」
ゼーレ「ふん」
ゼーレはそれに動ずることなく、パイモンの黒色の羽らしきものを掴んで、ナヒーダと同じ方向の土山につまみ飛ばした。
ゼーレ「ふう...これで正真正銘全員ね。あの人形さんも帰って来ないってことは相当あの炎元素が効いたらしい。まあいいか、意識さえ残っていれば肉体はいくらでも作れるし.....(やはり輪廻の影響か、かなり体力を消耗しているな...)」
平穏をなるべく保つようにしていた彼女だったが、心臓の鼓動が通常よりも落ちているような気がする。それに加え、再生能力の精度も劣っているのだ。
エウルア「ね、姉さん...もうやめて...。お願い...。もう....耐えられない」
唯一の武器が破壊され、絶望に突き落とされたエウルアが取った行動は姉に語りかけることだった。俯きながら、悲しい声色でそう喋る。
ゼーレ「......。結局、あなたの覚悟っていうのはその程度だったの?最終的に出てきたのは泣き落とし...とはね...。あなたの作戦なのかしら?」
エウルア「...」
すると、悲しみの感情から一転、ギリギリとエウルアが歯軋りを始めた。それを横目にゼーレはどんどん口から言葉が飛び出してくる。
ゼーレ「お姉ちゃん、ちょっとは期待したのに...。スメールシティで言った言葉は嘘だったの?絶対に姉さんを止めるってーーー」
エウルア「うるさい!!!」
ゼーレの言葉を遮って、エウルアの怒号が飛んだ。山に木霊する程の声量だった。そして、先程までが嘘だったかのように立ち上がり、ゼーレの胸ぐらを掴む。
ゼーレ「...!」
マグマのように湧き出てくる怒りを顔に露わに、逆にゼーレを圧倒した。そんなエウルアの様子にゼーレの顔は困惑が浮かび上がる。
エウルア「これが作戦!?泣き落とし!?ふざけないで!!!!どれだけ私を子供扱いしたら気が済むの!?本心よ!!十年前!忽然と姿を消して!そんな自分の姉が世界をめちゃくちゃにしようとしてるなんて!!誰が納得するの!?誰が理解しようとするの!?妹が黙っているわけがないじゃない!!!」
ゼーレ「エル...」
彼女に鬼神の如く気圧され、聞いているしか無かった。
エウルア「覚悟とか...自分が全部背負うとか...別に自分をなんとも思っていないとか.....!薄い箔をつけただけの言葉になんの意味があるの?私は妹よ?姉さんが自分に言い聞かせていることぐらい分かる。今の時ぐらい心の底から自分を剥き出しにして喋ってよ!!!」
エウルアの言葉がついには終わる。ゼーレは何か思い当たる部分があるのか、しばらく黙っていた。だが、返ってきたのは芳しくない反応だった。
ゼーレ「......うるさい」
そう言い放ち、自分の胸からエウルアの手をぶっきらぼうに離す。そんなエウルアはその場からゆっくりと後ずさりで離れる。依然、ゼーレを睨みつけたままだった。
対してのゼーレは、露骨に無視し、バツが悪そうに首裏に手を当てながら、喋り始める。
ゼーレ「ふぅ.....これで全員ね。夢境も発動してないから安心したわ。一日に何度も夢境を展開出来るわけ.......が......」
だが、そんな時、ゼーレが突然呂律が回らなくなる。
ゼーレ「(え...?)」
違和感を感じた時には遅かった。瞬きをした時には全身から力が抜け、片膝を地面についた。
ゼーレ「なっ...!」
全身から骨が抜けたかのように、全く足に力が入らず、剣で体を支えないと地面を倒れてしまいそうだ。そして、次にゼーレに襲って来たのは吐き気と目眩だった。
ゼーレ「ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ!!!」
咳き込み、口から大量の血を地面に撒き散らす。尋常じゃないダメージがゼーレを襲った。確実に今までよりも傷が深い。
ゼーレ「はーーっ.....はーーっ....はーーっ....!!!」
手で胸を抑えながら、いつの間にか自分の目の前に立っていたナヒーダを睨み始めた。
ゼーレ「何か...したわね......!!(まずい.....力が全く出ない.....!何が...起きたの?急に....!)」
ナヒーダ「良かった....''サブプラン''を用意していて.....。終焉機のコアの解析は済んだわ。これもみんなの力のおかげよ」
ゼーレ「何を...!」
ナヒーダ「そもそも夢境の主をあなたに決定したのは気づかれないためじゃない。''あの子達''の解析が済んだおかげでいとも簡単にあなたに夢境の主を讓渡できたのよ?」
ゼーレ「あの子...達......?」
その時、ゼーレはナヒーダの言葉の意味を理解する。地下の洞窟から複数の草元素の存在を拾いとった。一瞬にして背筋に怖気が走り出す。
ゼーレ「アランナラ...!!!(気づいたの...!?コアの特性に...!?)」
ナヒーダ「前からあの子達には協力を仰いでいたの。そして、あなたと戦っている間に私の意識とアランナラの総力をあげて突破口を探していた」
ゼーレ「解析.....!?今の短時間で...!?」
ナヒーダ「本来なら数時間はかかるけれども、あなたが世界樹と終焉機をリンクさせてくれたおかげで10分もかからなかったの」
ゼーレ「!(世界樹とリンクしたのを逆手に...取られた...!)」
ナヒーダ「終焉機のコアは完全な独立を果たしていない。4つのコア全てが揃っている状態で完全な威力を発揮するの。つまりは赤色のコア以外を封印してしまえば力は一気に尽きるってことかしら」
ゼーレ「くそっ....!くそっ!!くそっ!!!!!こんなもので.....!」
ナヒーダ「力を失ってしまった今、代償しかあなたの体には残らない。あなたの体はとっくに限界を超えていたの...。それをあなたはコアを取り込んだ高揚感で興奮して気づいていなかっただけよ。あなたはまだまだ我慢の範疇だと勘違いしていたけれど、先に音を上げたのは...体だったようね」
視界の隅に赤色の霧がかかり、体の言うことが聞かず、呼吸も上手くできない状態だ。一つ一つの内臓が、もうこれ以上限界だと悲鳴をあげている。格好の的だ。
空「(チャンスだ...!この機会を逃しちゃダメだ...!!)」
千載一遇のチャンスを逃すまいと刃が僅かに残っている片手剣を強く握り、体に鞭を打って、ゼーレの元に走り出した。
ゼーレ「ああ''あああ''!!!!」
鼓舞なのか悲鳴なのか分からない咆哮を上げながら、ゼーレは体を無理やり起こす。そして、空の片手剣を左腕で受け止めると、がら空きになった胴体に蹴りを食らわした。
空「うっ!!(まだ動ける元気が...!!)」
嫌な予感が頭に過ぎり、咄嗟に体を引っ込めたおかげで、大ダメージを負わなかった。蹴られた衝撃で2、3回地面をバウントし、ナヒーダの所に戻ってくる。
ゼーレは空に追撃しようと足を動かそうとした。だが、突如彼女は背後を振り向く。気配を感じたからだ。空中に浮き、こちらに迫り来る白い服装の少年、スカラマシュだ。
ゼーレ「ちっ......!!」
スカラマシュ「やあ、地獄から戻ってきたよ」
彼の服と体には黒すすが付着している。服の隅には焦げた痕が見えた。
ゼーレは氷元素の力で周囲の空気を急激に冷やし、それを凝縮して鋭利で巨大なつららを作ると、スカラマシュ目掛けて全速力で投げつけた。
それを軽々と避けたスカラマシュは寸前で体を仰け反らせ、足裏をゼーレの顔に見せつける。
パァン!!!ーーー
大きな破裂音と共に圧縮された風元素をゼーレの顔面を打ち込み、衝撃でゼーレの体が仰け反る。だが、1秒もしない内にゼーレがスカラマシュの服を掴み、まるで雑巾を振り回すように地面に叩きつける。追撃を間一髪のところで空がゼーレの腕を掴み、それを防ぐ。
ゼーレ「は、離しなさい!」
空「ぐっ...!離さない!」
腕を掴んでいる手を死んでも離さないつもりでいた。腕の皮膚を突き破る勢いで手を握る。そのせいか、手を振りほどこうと必死になっているゼーレにある程度、時間稼ぎが出来た。そんな時、一瞬、空の体とゼーレの腹の間にある程度の隙間ができた。すかさず、空が腰を落とし拳を構え出す。
空「(どれだけ強い人でも弱点は存在する。それを教えてくれたのはゼーレ自身だ。これに全部を乗せる.....!)」
空の服の胸部分にある石が黄色に変化し、片手に岩元素を纏わせる。
ゼーレ「(岩元素......!?)」
そして、全力でゼーレの腹に拳を打ち込んだ。
グチャッーーー。肉が潰れる生々しい音が聞こえる。
ゼーレ「っーーー!」
腹に入り込んだ岩元素が体内で爆発し、岩の結晶が背中にまで飛び出した。ゼーレの頬が風船のように膨らみ、口の隙間から血が大量に溢れかえる。
流石のゼーレでもこれは致命傷だったようで、一瞬白目をむく。だが、まだ気絶に持っていくのには足らなかったようだ。黒色と灰色の瞳孔が復活し、空の頭を掴み、全力で頭突きをした。
脳に直接、棒で殴られた感覚が襲い、地面に崩れ落ちる。視界が霞み、どこが前でどこが後ろなのか分からない中、見えたのは後ろからスカラマシュがゼーレを拘束している姿だった。
諦めがつかないゼーレが、スカラマシュの腕を噛みちぎろうとしていたので、ナヒーダがすかさず腕を伸ばして、地面から木の根を生やし、羽交い締めをした。
ゼーレ「がああ''ぁあ''あ''ぁぁ!!!!」
声にならない悲鳴でナヒーダを全力に睨む。その目は説明がつかない悲哀と怒り、そして狂気で満ちていた。ただならぬ殺気が空間を覆い尽くす。
ゼーレ「邪魔しないで.......!!!!!アビスのゴミ共を私が全員殺すの!!!!邪魔するならあなた達も...!!!」
ナヒーダ「その様子だと律者の侵食は既に脳に達してしまっているわね...。あなたも分かっているでしょう?徐々に思考が汚染されて最後はただの殺戮の兵器になるだけよ?それにあなたのやり方は間違っているから、わたくし達が止めるだけ」
ゼーレ「はっ...!間違ってる?冷静になりなさいよブエル...!!!いつ、達観できる状況になったの!?スメールに平和が訪れたとしてもすぐにそれは終わる。七神は弱体化した今、誰がやるっていうの!?バルバトスはかつての力を失い、俗世を偽物の神の目で渡り歩いて、モラクスは神の座を降りた!!そこで厄災でも起きてなさいよ!一巻の終わり!そうなったら遅いのよ!!全てが!!!!」
ナヒーダ「......。テイワットのあり方も変化しつつあるわ。魔神だけが守る時代から民と魔神と協力する時代へとね。結局あなたも旧時代と変わらないのよ」
ゼーレ「この...痴愚女神が...!!!」
目の前の人物にありったけの侮辱を浴びせたが、ナヒーダは眉ひとつ反応せず、真顔でゼーレを見つめる。その時、エウルアがナヒーダの横を通り過ぎ、そして、ゼーレの目の前に立ち止まった。手には折れた大剣が握られている。
ゼーレは最初こそエウルアがこちらに近づいてきたことに疑問を持っていたが、手に持っている凶器に気づくと、一気に顔の色が変わった。
ゼーレ「エ、エル...!?本気なの!?」
エウルア「言ったでしょう、姉さん。必ず止めて見せると。躊躇いなんて昨日に捨ててきたわ......!」
ゼーレ「や、やめて...!嫌...!!」
自分に向けられた刃先が近づくことにゼーレの弱音は段々と漏れ出ていく。だが、エウルアは決して足を止めることはない。
エウルアが大剣を持っている腕を引く。とうとう、大剣がゼーレの胸筋目掛けて、突き刺さった。折れたとは言え、鋭さは失ってはいない。皮膚と筋肉を容易に切り裂いた。
ゼーレ「うっ...ぐっ...!!」
当然、ゼーレは痛みによって悶絶する。刃が食い込む度に顔のシワが増えていく。
何とか、引き抜こうと体を動かすが、スカラマシュががっしりとゼーレを拘束している。脱出されないように、全身に全力を掛けていた。ゼーレの首を絞めて、そのまま落とす勢いだ。
だが、その時ーーー。
ゼーレ「う''あ''あ''ぁぁぁぁああ''!!!!」
ゼーレが突然、叫び声をあげる。
エウルア「!」
スカラマシュ「!」
あまりの気迫に2人は気を取られた。
スカラマシュ「この女...!雄叫びか!?」
2人はゼーレが抵抗として叫んだのだと思った。だが、ナヒーダだけはとあることに気づいた。
ナヒーダ「もしかして...アビスの侵食かしら......!?!?」
スカラマシュ「なっ...!!」
痙攣したかのように全身が震え、両目が充血している。更には口から涎が垂れていた。明らかに異常事態だ。
ナヒーダ「律者の汚染が脳に到達していて...彼女の体と人格を乗っ取ろうとしているわ...!!!」
律者の末路は自我を失い、死ぬまで殺戮兵器と化す。たった今、それが自分達の前で起きようとしているのだ。
ナヒーダ「早く、彼女の意識を断たないと...!!わたくし達がやられてしまうわ...!!」
スカラマシュ「おい!!早く、心臓に突き刺せ!後、もう一息だ!」と、エウルアにそう叫ぶ。
エウルアはますますグリップに力を入れ、刃先を心臓に近づかせる。そして、それが到達する寸前、ゼーレの左腕が拘束から逃れてしまった。
エウルア「!」
スカラマシュ「こいつ!!(なんという馬鹿力....!)」
その腕は真っ直ぐ、エウルアは顔面に向かって伸びていく。エウルアは覚悟した。だが、その手はなぜかエウルアの腕を強く握っている。
エウルア「...!?」
ゼーレの目は怒り、憎悪が入り交じっている。歯をむきだしにして、息を荒くしながら、エウルアを睨みつけた。自由になった腕はそのままエウルアの喉元に行ってもおかしくはなかった。だが、それをしなかった理由をエウルアは勘づいている。
エウルア「(きっと、姉さんも律者の乗っ取りに抗っているのね...!!!)帰ってきなさい!!姉さん!!!!」
腕はがっしりと掴まれており、これ以上の刃の侵入を拒んでいる。それに負けじとエウルアは更に力を込めた。
その時、今まで気絶していた空が目をぱっちりと開ける。視界に飛び込んできたのは、明らかに正常では無いゼーレと必死に大剣を突き刺そうとしているエウルアだった。はっとした空は急いで立ち上がる。
空「何が起きているの...!?」
ナヒーダ「...!旅人、起きたのね!結論から言うと彼女の人格をアビスの侵食が乗っ取ろうとしているの!恐らく、彼女の武器が心臓を貫ければ止まると思ーーー」
空はナヒーダの言葉が終わるよりも、足が動いていた。後ろから、両手でエウルアの大剣のグリップを掴むことで加勢する。
空「ふん!!!!」
空は腹の底から気合いの言葉を上げながら、一生懸命に大剣を押す。暴走しているとしても、弱体化しているゼーレは2人の力に劣勢のようで、ジリジリと刃先の接近を許してしまう。
そしてついにーーー。
ブチッ。そんな音と共に、ゼーレの心臓に大剣が突き刺さる。循環していた血液が傷口から飛び出し、中心から端へと広がっていく。大剣を刺した箇所からも血が一滴ずつ地面に落ちた。
ゼーレ「エ......ル......」
ゼーレは正気を取り戻した。だが、すぐに視界の隅が黒くなっていく。そして、妹の名を小さく呟く。黒く染まっていく視界と傾く世界。
エウルアはゼーレが完全に倒れる寸前、目があった。怨嗟の目つきから一転、瞳に光が反射していない目だった。だが、そこに何か安心したかのような物を感じ取ることが出来た。
そして、ゼーレが意識が途切れる。エウルアの腕を掴んだまま、その場に俯いた。
エウルア「はぁ....はぁ....はぁ....」
静寂がその場を包んだ。時間さえ止まったような気がした。
ようやく終わったんだーーー。空とエウルアは体の力が抜け、地面に尻もちを着いた。
スカラマシュはその場から立ち上がり、黒すすと土汚れをはらい始める。
パイモン「お、終わったのか?」
戦いが終わったことを察したパイモンが空の背中から姿を現した。
ナヒーダ「その様ね....お疲れ様」
地面に座り込んでいたスカラマシュに労りの言葉をかけながら、微笑んだ。
スカラマシュ「ふん。僕が吹き飛ばされたことで君達がボロボロになっているかと思ったけど、案外そんなことなかったようだね。ボロ泣きしている姿を見たかったけど...」
パイモン「結構復帰に時間かかってたよな...。ちなみにどれだけ飛ばされてたんだ?」
スカラマシュ「アパーム叢林の奥深くまで飛ばされた時はさすがに焦ったさ。それに飛ばされて行くうちに服に火が移った。森林の水に着水したから鎮火したけれども....」
パイモン「そ、そうなんだな......だいぶ飛ばされーーー」
その時、突然自分達が座っていた地面に亀裂が入り、大穴が出来た。戦闘の余波で地面が脆弱化して崩れたのだろう。疲労が溜まりきった皆は為す術なく洞窟内に落ちていった。
●
空「うっ...!痛たたた...」
土から染み出てきた水の雫が顔の切り傷に滲み、それのお陰で目を覚ます。土に埋まっているのか、暗闇の世界がそこにはあった。
空「(穴に落ちたってことは...ここは地下遺跡......か)」
今すぐ、自分の体を覆っているこの土と石をどかして、みんなを助けなくちゃと考え、体を動かした時、外から知らない声が聞こえてきた。
誰だ?ーーー
自分より先に這い出て、自分達を探している人がいるのかと思い、僅かに外が見れる場所を見つけ、そこから覗いた。
空の予想通り、ここはデーヴァーンタカ山の地下遺跡だった。視界の右手には既に活動を終えた正機の神。そして、上方向を見ると丁度3人の影がこの遺跡に足を踏み入れる所だ。すぐにその正体が判明する。
空「(アビス.....!?)」
なんとアビスの使徒だった。荒れに荒れた洞窟内を一望すると、すぐさまこちらに接近する。自分達がいるのは青空が見える大穴の元だ。すぐに太陽光に照らされて、何をしているのか分かる。
空「(なんでアビスがここに....?)」
空の視界から魔物の姿は消えた。だが、声は聞こえるので、注意深く聞くことにした。
「タイミングは完璧だったようだな」
3匹の内の1匹のアビスの使徒が瓦礫の山を見て、声を挙げる。
「俺たちがいくら束になろうと勝てないからな.....。こうやってこいつらがゼーレ・ローレンスを潰すのが最善だ」
そう言って、とある魔物が瓦礫の山をどかす。すると、エウルアを掴みあげた。
「あ...?なんだこいつ...。もしかして、こいつがゼーレ・ローレンスか?」
拾い上げた人物の顔を見ると、何やら考え始める。
「随分と顔が似ているが....違うな」
「ややこしい。そいつは適当に捨てておけ」
「ああ」
言われたことを素直に聞いて、適当な場所に投げ捨てようとした時、エウルアの手を摘んでいるアビスの使徒の胸から真っ赤な腕が飛び出す。
「あがっ......!!なっ!?」
目を覚ましたゼーレがアビスの使徒の背中から腕を突き刺して、心臓を握りつぶしている。
「こいつ!!まだ息があったのか!死に損ない!」
他のアビスの使徒が水元素の剣を手から出して、ゼーレに襲いかかったが腕を貫通させた魔物を投げつけた。それによって体勢を崩したアビスの使徒に飛びかかり、心臓に突き刺さった大剣を頭に刺し、2匹目の魔物を絶命させる。
「ちっ...!撤退だ!」
残りの1匹がアビスの境界門を出現させて、逃げようとした。だが、次にはアビスの使徒の体が細かいサイコロ状に切り刻まれ、死体が地面に崩れ落ちた。3匹の魔物はゼーレの手によって葬られた。
ゼーレ「私の...大切な妹に手を出すな...!」
空「(ゼーレが.....助けてくれた?)」
何が起きたのかはっきりと分かっていない。だが、戦闘音とゼーレの声からそう判断する。
エウルア「ね、姉さん...?これは一体...」
目を覚ましたエウルアが、死体を見て、驚愕した。それと同時に、ゼーレがゆっくりだが1歩1歩ずつエウルアの元へ近づき、そして、エウルアの頭を手で撫で始めた。
ゼーレ「私が気絶していても...あなたの危機を感じたの...。いてもたってもいられなくて.....。だけど、お姉ちゃんちょっとしんどいかな」
エウルア「なんで私のためにここまでしてくれるの.....?」
ゼーレ「お姉ちゃんが妹を守るってそんな変なこと?それに、私にはあなたしか居ない.....。あの子はフォンテーヌに行っちゃったし...」
エウルア「あの子...?」
ゼーレ「こっちの話...。あの家で私の味方はエルしかいないの。だから...ね?それに言ったでしょ?覚えているか分からないけど...これから私たちは離れ離れになるけれど、いつ、どこにいても私はあなたの味方だから。あなたは私の大切な妹よって」
エウルア「......」
ゼーレ「生きてて良かった...」
小言を呟き終えると、バタンと盛大な音を立てて、エウルアのそばに倒れた。
エウルア「姉さん.....?」
はっとしたエウルアが必死に姉の肩をゆする。だが、反応が帰ってくることはない。何度も何度も姉の名前を叫んだ。ゼーレは人形のように力が抜け、目を閉じている。
エウルア「(まさか...!?)」
死んだ...?まさか...?
急いでゼーレの胸に耳を当てる。
エウルア「あぁ.....良かった....鼓動がある...」
胸あたりから熱いものが体全体に拡がっていく。そんな感覚がした。
土山から音がし始め、そこから4人が出てきた。スカラマシュはナヒーダをつまみ上げ、空は逆さまになって埋まっているパイモンを拾い上げて、脱出してきた。
周りの状況を確認したナヒーダは魔物の死体と血痕を見つけ、目を見張った。
ナヒーダ「これは......アビス。私たちが埋まっている間に何があったのかしら?」
エウルア「大穴に落ちた後、何故かアビスがやってきた.....。そうしたら姉さんがアビスを始末してくれて.....」
ナヒーダ「アビスが来た.....ですって?まさか彼らはわたくし達の戦闘が終わるまで息を潜めていたのかしら。漁夫の利を狙うために.....?」
空「これに関してはゼーレ自身の口から喋ってもらうしかない。この日より以前にもアビスが居たりしていたからゼーレとアビス教団の間にはなにかあったに違いない」
ナヒーダ「なるほど.....。それはともかく置いておいて、とりあえずここから脱出することを考えましょう」
第3幕【完】