間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第4幕『流離の死魂に穿つ決別の炎』⑦

ゼーレ「何この石....。明らかに人の手が加わっているのだけど....」

 

 

相も変わらず青白い蛍の明かりだけが頼りの暗い道を歩いている時、壁の特徴が気になったようで立ち止まった。左手で壁を優しく数回ノックすると、案の定叩いた数の分、石の音が反響して帰ってきた。

 

 

巨大なキノコエリアを通り過ぎて、底が見えない穴を慎重に降りた後の光景はガラッと変わっていた。生物に富んだ先程の世界とは打って変わって、植物が一切生えておらず岩しか存在していない。水が流れているのにも関わらず、植物も生物も居ないのは何とも不気味で、冷たい空気が流れてきているのも相まって背筋がゾクゾクする。

 

 

足首が浸かる程度の池を迂回して、いよいよ層岩巨淵の最深部に到着する寸前で、ゼーレが気になっていた壁に到着した。

 

 

大小様々な岩ではなく、全てが均一の厚さ、そして細長い長方形の形を成した岩が通路を形成している。ゼーレの言った通り、これは自然に出来たとは考えにくく明らかな人工物だと考えられる。

 

 

ゼーレ「逆さまの建造物も....この不思議な岩手もそうだけど、この層岩巨淵は光景に飽きがないわね...。もしかして大昔にあった文明がここに来てこれを掘ったのかしら」

 

 

パイモン「これが人間の手で作られたのは分からないけど、確かに不思議だよな。オイラ、そんなこと気にしたこと無かったぞ....」

 

 

魈「お前達」

 

 

 立ち止まって喋っている中、魈は少し遠いところでそれを見ていたが、痺れを切らしたようで少し大きな声で3人を呼ぶ。

 

 

魈「そのようなものは今どうでもいいだろう。浮舎を見失ってしまう。それにここを通ればいよいよ最深部だ」

 

 

ゼーレ「....分かったわよ」

 

 

何か不満を持っていたようだったが、渋々そこから歩き出し、距離が離れてしまった浮舎の後ろを着いていく。

 

 

暗い通路の終わりが見えてくると同時に、その先から光が漏れ出している。通路をいよいよ抜けると、逆さまの都市があった空間よりよりも更に数倍広い空間に出た。

 

 

細長い長方形の岩とは違い、大小様々のキューブ状の岩が群れを成して、壁から無数に突き出ている。そして、何よりも目を見張るのが空間の真ん中に浮いている白色の柱だった。上に金色の羽の装飾が着いたその柱は、小さな青色の透明のキューブを周りにまといながら、大きな存在感を示している。漏れ出ていた光はきっとこの柱から出た光なんだろう。

 

 

ゼーレ「......これは」

 

 

パイモン「すごいだろ?ドラゴンスパインにも同じものがあったんだ。どこからやってきたのか疑問だよなぁ....」

 

 

ゼーレ「うっ.....!痛い.....」

 

 

その柱を見ていたゼーレが突然、おでこに左手を当て始め、苦悩の顔に変化する。

 

 

パイモン「ゼーレ、大丈夫か?また声が聞こえてきたのか?」

 

 

ゼーレ「ここに来る前よりも数倍強く聞こえてくる.....。あの柱の下にある光に私を導こうとしてるみたい....」

 

 

パイモン「柱の下?あの陥没しているところか?」

 

 

今いる位置から柱の下に目線を移すと、円形のスペースを存在していた。その周りには、何があったのか分からないが地面が盛り上がり中心が陥没している。そして、その陥没している中心部分はナヒーダがゼーレの精神世界と現実世界の境界線を分断した時に出ていた亀裂が黒い霧を排出しながら出現していた。

 

 

パイモン「あっ...!旅人、あれって....!」

 

 

空「あの時と同じ亀裂だね」

 

 

パイモン「つまりあれにゼーレが近づくと共に声も大きくなるってことか....?」

 

 

ゼーレ「そういうことになる...わね...。うっ....」

 

 

魈「旅人、何が起きている?この女は深い所に来てるから、気でも狂ったのか?」

 

 

パイモン「狂ってないって....。ゼーレは理由は分からないけど何故か声が急に聞こえてくるがあるんだ....。けどその度に頭痛がしてくるから苦しんでいるんだぞ」

 

 

魈「.....。記憶の再現か?」

 

 

パイモン「ん?記憶の再現?どういうことだ?」

 

 

魈「いや....なんでもない。ただの独り言だ。ふと、故人を思い出してな....」

 

 

パイモン「?」

 

 

ゼーレ「分かった.....。地脈と私の世界樹の共鳴....!」

 

 

ゼーレは突如、頭を抱えながら、喋る。

 

 

ゼーレ「清原節の日に力が増した魔物が出るのは怨念が地脈を刺激してしまうから....。この層岩巨淵にも地脈があって記憶が詰まっている地脈がある状態で私がここに足を踏み入れてしまった....」

 

 

パイモン「つまりその地脈とゼーレの世界樹がリンクしてしまったってことか?」

 

 

ゼーレ「おそらく....。あの浮舎っていう人もあれは亡霊なんかじゃない。記憶の地脈が作り出した残影よ仙人さん」

 

 

魈「....。そうか。それなら逆に安心した」

 

 

パイモン「んー....じゃあ一応行ってみるか...?」

 

 

ゼーレ「....そうね」

 

 

パイモン「でも大丈夫なのか?頭が痛くなるんだろ?ここまで離れていてもそんな感じならあそこに行ったらどうなってしまうんだ?凶暴化したりとかしないよな....?」

 

 

ゼーレ「何かあったらすぐ退散しましょう。それにあれは少なからず汚染されているはず...。あなた達を危険に巻き込むつもりはないわ」

 

 

降りられる場所を探すのに時間がかかったため、目的の場所にたどり着くのにかなりの労力がかかったが、無事陥没している場所にやってきた。

 

 

ゼーレ以外の人は、地面が盛り上がっている場所に半分体を出して、地脈が露出している部分に近づくゼーレをそっと見守っていた。

 

 

パイモン「おいおい.....何もあいつが行くことないだろ.....。別にオイラ達は近づいても何も無いから本来はオイラ達が行くべきじゃないのか?」

 

 

空「じゃあパイモンは行って、見たところで何がわかるの?」

 

 

パイモン「ん?んー....分からない.....」

 

 

空「でしょ?地脈に関してはゼーレにしか分からないんだし、彼女が適任だよ。それにもし何かあっても、俺と魈も居るからすぐ駆けつけれるしね.....」

 

 

パイモン「まあ.....それもそうか....」

 

 

 律者と地脈との共鳴という結論で結びついたことで、謎がひとつ解決したのはいいが、共鳴することで何が起きるか具体的なことが分からない以上、ここから先は未知の世界だ。まるで、壁に張り付いている虫を刺激しないよう1歩1歩ずつ進んでいくように、ゆっくりそして慎重に光があるところに足を動かしていく。そして、とうとう地脈の所まで来てしまった。

 

 

ゼーレ「(これが地脈の露出部分ね...。すごい......。ここからでも凄いものだとわかる...)」

 

 

空間の空気が亀裂に流れているのか、ヒュオオオという音が耳に届いてきた。その時、黒い靄が微かに顔に当たると、今まで体験してきたことがない頭痛に見舞われ、地面に膝を着く。

 

 

ゼーレ「うっ.....!!!」

 

 

空「ゼーレ!」

 

 

頭痛と共に、この地脈に詰まった記憶と亡霊の声達が脳内で乱反射してくる。脳内は既に混乱状態が続いていて、頭痛に収まらず、視界も方向感覚も定まらくなってきた。

 

 

ゼーレ「(尋常じゃない声量....!やばい....頭が割れそう....!)」

 

 

パイモン「うわああ!まずいぞ!確実にまずいって!」

 

 

空「脱出しよう!このままだとゼーレの体が持たない!」

 

 

ただならぬことが起きていることを察した空と魈は地面を乗り上げ、急いでゼーレを回収しようとこちらに向かってくる。

 

 

ゼーレ「(旅人の声が....聞こえなくなっていく....)」

 

 

次第に瞼が下がっていき、こちらに向かってくる足音が消えてしまった時、ゼーレは暗黒の世界に投げ飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは記憶の心象風景?ーーーーー。

 

 

階段を駆け落ちるような感覚ともに、ゼーレは再び層岩巨淵の大地に立っていた。だが、空の姿は見えない。それに加え、頭が割れるような痛さも声もとっくに消えていて、ここにあるのは不気味なほどの静かさとそれに響く少女の泣き声だけだった。

 

 

少女が地面に座り込み、血だらけの4本腕の男を抱き抱え、ただひたすらそこで泣いていたーーーー。

 

 

ゼーレ「(これは....浮舎....?)」

 

 

紫の肌にたくましい4本腕ーーー間違いない魈が言っていた浮舎だ。

 

 

浮舎と女の子の周りには大量の魔物の死体が山になっていて、きっと浮舎が血だらけになりながらも全て討伐してくれたんだろう。

 

 

ゼーレ「(どうやら....カーンルイアの厄災が起きた時の層岩巨淵のようね...)」

 

 

その時柱があった方向からこの世のものとは思えない悲鳴が響き渡り、ゼーレが思わず顔をしかめてしまう。

 

 

ゼーレ「....!?なにあれ....!」

 

 

深淵部の空間を丸ごと飲み込んでしまいそうな勢いの巨大な黒影は咆哮をあげると、あまりの声量で石にヒビが入ってしまうのではないかと考えるほどだ。

 

 

ゼーレ「(.....!あれが...終焉機....!)」

 

 

咆哮と共に記憶の空間は再び黒い霧にかかっていき、それと同時にゼーレの意識にもモヤがかかり始めた。

 

 

ゼーレ「(意識が....。記憶の途切れ途切れで終わってしまう....)」

 

 

視界が薄暗く変化し、パイモンの呼びかけによって目が覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

パイモン「ゼーレ!ゼーレ!!起きろって!!!」

 

 

ゼーレ「はっ!」

 

 

パイモンの必死の声がけと全力の体の揺すりで意識が現実世界に戻ってきた。体が地脈に覆い被さる形で倒れ込んでいたようで、パイモンの顔を見る。

 

 

ゼーレ「ごめんなさい!気絶してた!」

 

 

パイモン「それどころじゃないぞ!!」

 

 

ゼーレ「.....え?」

 

 

パイモンが指さす所を見ると、阿鼻叫喚の光景がそこには広がっている。

 

 

大量のヒルチャール等の魔物達がこちらに砂埃を上げながらこちらの向かってきていた。

魔物の一番の目的はゼーレのようで、魔物達が飛びかかり、それを魈と空が武器で阻止した。

 

 

その時、空がゼーレがようやく起きたことに気づく。

 

 

空「!やっと起きた!?」

 

 

ゼーレ「何が...起きたの!?」

 

 

パイモン「そんなのオイラが聞きたいぞ!ゼーレが気絶した途端一斉に魔物が襲いかかってきたんだ!」

 

 

ゼーレ「そんな....」

 

 

空と魈は冷静に1匹ずつ魔物を対処しているが、明らかに魔物の量が多いため、いつ陣形が崩れてもおかしくなく、時間の問題だろう。

 

 

ゼーレ「(まずい.....!私も加わらなくちゃいけないのに何故か体に力が入らない....!)」

 

 

片手剣を支えに地面から立ち上がろうとしたが、全身に力が入らずストンと尻餅をついた。

 

 

ゼーレ「(声のせいなのかはたまた....。どうする......)」

 

 

2人が魔物と戦っている間に、自分に出来ることはないかと考えている中あることを思いついた。仮にこの地脈によって魔物達がよってきているのであればこの地脈自体を塞いでしまえばとりあえず魔物の群れが来ることを止めれるのではないか?そう思いたって旅人の名前を戦況の中聞こえるように呼び止めた。

 

 

ゼーレ「旅人!」

 

 

空「何!?」

 

 

ゼーレ「私が地脈の穴を塞ぐから時間を頂戴!」

 

 

空「え!?穴を塞ぐ!?」

 

 

ゼーレ「多分この魔物は地脈の穴に群がってきてる!だから私が地脈を塞ぐからその間耐えれる!?」

 

 

空「そんなことできるの?」

 

 

ゼーレ「やってみなきゃわからないでしょう!」

 

 

空「....分かった」

 

 

空がゼーレの作戦の意図を汲み取ると頷き、片手剣のグリップを強く握りしめ、再び目の前に戦いに集中し始める。

 

 

2人に自分の意図が伝わったことを感じたゼーレは自分の体に喝を入れ、飛び込む形で地脈の露出点に再び辿り着く。

 

 

パイモン「お、おい!亀裂を塞ぐことなんて本当にできるのか!?」

 

 

ゼーレ「ええ、ブエルが私の精神世界の境界線を曖昧にした時の記憶と感覚を頼りに再現してみせる。ブエルが出来る精神操作は私でも大抵できるはず...。彼女の草神の権能を除いてね」

 

 

パイモン「さ、再現....?というかナヒーダがお前にした事覚えてるのかよ!」

 

 

ゼーレ「それはそうでしょう。意識が精神世界に沈んでいた時に境界線を切断されたら嫌でも覚えるわ。それに、私は生まれた時から感覚を頼りにやってきたから今度もやってみせる」

 

 

パイモン「お前を信じない訳では無いけどこうしている間にもお前への汚染は進んでいるんだぞ!?これ以上侵食が進んじゃったら今度こそ死ぬぞ!」

 

 

ゼーレ「....。これは私にしかできないのパイモン。この地脈を塞がない限り魔物は絶えずここに押し寄せる。いずれ前線が崩壊してしまうには目に見えているわ。旅人にも、あの仙人さんにも....もちろんパイモンにもこれを塞ぐ術は持ち合わせてない。だから私がやるの。私にしかできないの」

 

 

パイモン「......」

 

 

ゼーレ「さぁ、あなたも体調を崩したくなかったら戦いの余波が届かない場所に避難しておいて」

 

 

パイモン「......し、死んだら知らないからな......!」

 

 

 

 

 

 

空「ふぅ....ふぅ...ふぅ....(やっぱり数が多い....!個々なら楽勝だけどやっぱり数の暴力で来られるとしんどいな....。それに怨恨の影響か、普段よりも魔物の力が増してる....。あまり時間はかけれないな.....ゼーレもまだ時間がかかりそうだし....)」

 

 

魔物を始末した直後、チラッとゼーレの様子を見ると、作業に行き詰まっているようで、まだまだ地脈が塞がりそうなことはないことが分かる。

 

 

空「(けど明らか、ゼーレが気絶していた時よりも魔物の数と力が徐々に減ってる.....。よし....!これは時間との戦いだ。頑張れ自分.....!)」

 

 

自分の両頬を強く叩き、疲労感が溜まってきた身体に鼓舞をかけた。そして、再び片手剣を握り目の前の戦場に集中する。

 

 

その時、魈が複数の魔物を同時に倒すところを目撃する。まるで体が疾風そのものになったかのように華麗に空中を舞い、大地を駆け回り、意志を失った作業のように敵を屠っていく姿はまさに夜叉だ。

 

 

空「(魈はすごいな....。数千年璃月を守ってきた夜叉なんだから当然か....。魔物に対する戦闘経験も場数も魈の方が断然上だ....。俺ももっと頑張らなくちゃ...)」

 

 

2人共、一心不乱に刃を降り続け、いつしか魔物の数も減っていく。そのおかげか周りの状況整理にも余裕ができていく。

 

 

空「(魔物の数も減っていってる....!ゼーレが地脈の穴が徐々に塞がれていってる証拠だ....!)」

 

 

残り数体まで魔物の群れが減っていったせいか、空はようやく終わると油断してしまった。視界の死角から突如数個のミサイルが飛んで来ていることに反応が遅れる。

 

 

空「(!?)」

 

 

空は目と鼻の先のところで気づき、地面に自ら叩き付けられる勢いで体を捻り回避する。

 

 

空「(危ない!もう少し気づくのが遅かったら直撃してた......)」

 

 

避けたミサイルは空の肩を通り過ぎると目標を見失なった。そのミサイルは次第に軌道が荒れ、壁や地面に直撃すると、そこから黒煙を上げる。

 

 

飛んできた方向を見ると丁度、遺跡守衛や遺跡重機が数体、地ならしをしながら、明らかこちらを排除しようとこちらに向かってくる。

 

 

魈「旅人!怪我ないか?」

 

 

空「大丈夫!(遺跡守衛....!てっきり魔物だけだと思ってたけど暴走した機械も余波で呼び込まれたのか....。まずい数が多い....!)」

 

 

巨大な頭部に閃く黄色の目が不気味なオーブ音を立てて、再び魈と空をロックオンする。すると遺跡守衛がギギギと錆れた音を共に上半身が回転し、ミサイルが発射される背中を見せつけた。

 

 

空「(またミサイルがくる.....。どうしようあの数を捌くのは厳しい....!それに、さっきの爆発の余波で足が痺れて.....)」

 

 

背中に付いている煙突状の突起が黒煙をあげミサイルが数発発射され、数多のミサイルが真っ直ぐ空に狙いを定め飛んでくる。

 

 

歯を食いしばり、飛んでくるミサイルを片手剣を半分に斬ったが、それもすぐに終わってしまう。切り損ねたミサイルが空の後ろ側に飛んでいき、地面に直撃して爆発したが、その余波で一瞬体勢が崩れた。それを待っていたかのように遺跡守衛が再びミサイルを発射する 。

 

 

空「(しまっ....)」

 

 

魈「!」

 

 

空がミサイルに耐えられると判断していた魈は、遺跡守衛を片付けるために素早く回りこむ所だった。だが、予想は大きく外れ、空がミサイルに被弾する直前を見てしまった彼はいつ間にか空の目の前に移動していた。

 

 

空「魈!?」

 

 

直撃する寸前魈によって突き飛ばされた空は怪我もなく、すぐ立ち上がることが出来た。

 

 

数多のミサイルを直撃してしまった魈は黒煙の中から数回地面のバウントしながら姿を表した。

 

 

魈「ぐっ.....」

 

 

空「(まずい状況だ.....遺跡守衛が間髪入れずに魈に攻撃を仕掛けてる....!)」

 

 

遺跡守衛のターゲットは空から魈に変更し、ゆっくりと歩みを進め、ついに目の前にやってきた。

 

 

魈はまだギリギリ動ける状況ではあったが、あの振り上げられた長い腕から今すぐ逃げることは出来ないだろう。

 

 

空「魈!今助けにいく!」

 

 

全速力で魈を救出するために動き出した空だが、逆に魈に呼び止められてしまう。

 

 

魈「何をしている....!我に構うな!」

 

 

空「そんな.....!」

 

 

長い腕は勢いよく魈に落とされ、轟音と共に瓦礫が飛び跳ねる。

 

 

誰しも魈がやられると思ってしまった.......。

 

 

だが、そんな事が起きるはずがなくーーーーー。

 

 

空「!」

 

 

魈「浮舎.....!?」

 

 

白煙の中出てきた光景は浮舎が魈の目の前に立ち、遺跡守衛の腕の軌道をズラして庇っていたのだった。

 

 

ゼーレ「(記憶の残影が.....人を庇った.....!?)」

 

 

その光景を遠目から見ていたゼーレは、起きた出来事に思わず開いた口が塞がらない。

 

 

ゼーレ「(記憶の残影が独りでに動くことなんて有り得るの....?...!いや違う.....!あれは記憶の残影じゃない.....魂と記憶の地脈が融合した姿....!そうか....!私が思っている以上に世界樹と地脈のリンクに齎される活性化は効果が絶大なのね....。あれは肉体は死ねど、精神が確立された地脈が作り出したホログラム....!)」

 

 

魈「浮舎.....お前なのか....?」

 

 

魈もゼーレと同じ目の前で起きた光景に信じらないという表情を浮かべ、目を見開いていた。

 

 

浮舎はズラした腕を掴むと、勢いよく遺跡守衛事背負い投げをした。反撃を身軽に交わすと、パチパチと火花が舞う音と共に掴まれていた遺跡守衛のからが突如として燃え上がり、そして灰となる。それに連鎖して残りの遺跡守衛も燃え盛った。

 

 

空「.....遺跡守衛が...燃えた!」

 

 

魈「浮舎は....優秀な炎元素の使い手だ。火の扱いでやつの右に出るものは璃月では居ないほどだ」

 

 

全てが灰になり、安全になったことを確認した浮舎がこちらに振り返り豪快に歯を見せて笑い始めた。

 

 

浮舎「ガハハハハハ!危なかったな降魔大聖!お前がピンチに陥るなんて珍しいじゃないか!」

 

 

魈「浮舎.....。お前喋れるのか?本当にお前なのか....?」

 

 

浮舎「おいおい俺を疑っているのか?太陽のように明るい俺でもそれは結構堪えるぞ?ほら.....騰蛇大元帥、浮舎参上ー!って」

 

 

浮舎は更に高々に笑い、親指を立てる。

 

 

魈「その相も変わらずの馬鹿馬鹿しさは本当に浮舎だ.....」

 

 

浮舎「いや....今の俺は精神こそ俺だが面の皮は別の何かかもしれない」

 

 

魈「....どういうことだ?」

 

 

浮舎「お前の知っている通り俺は500年前この層岩巨淵で命を落とし、魂だけがここに漂っているんだ。ある日突然俺の体が発現して今に至るって感じかな?」

 

 

空「それは記憶の残影のこと?」

 

 

浮舎「おっ、金髪の小僧詳しいな。その通りだ」

 

 

空「まぁね」

 

 

浮舎「夜叉は妖魔を退治する共に、その穢れた魂も浄化し、祓うのが役割だ。だから、魂のこともよく理解している。あの時のお前達と遭遇した時、俺はお前達を認識できたが自我を出すことは不可能だった。そして体が勝手にお前達をここに案内したってわけだ」

 

 

魈「その現象がお前が今喋れている現象と結びつくことはないが...」

 

 

浮舎「まぁ焦んなって....。話はそこからだ。俺があの地脈に近づくことに意志を持てるようになったから今みたいに降魔大聖を助けることができたんだぜ?不思議だろ?俺も肉体が魂が再びこうやって意志を持てるなんてな...」

 

 

魈「魂に再びが意志が宿ることなど有り得るのか.....?にわかには信じられぬが.....」

 

 

浮舎「張本人がそう言ってるから信じろって!」

 

 

浮舎「だがそれも長くは持たないさ。あの地脈も徐々に埋まりつつある。また俺の魂もそこらじゅうに漂うわけだな」

 

 

空「なんで君の魂は祓われずにここに漂っているの?魈が言っていたようにこの世に禍根がない限り基本的に祓われてしまうって.....」

 

 

 

浮舎「俺もそれは最初考えたさ。俺は意外と潔いからな。....そして考えてる内にある結論に至った....」

 

 

魈「.....浮舎」

 

 

浮舎「最後の最後であいつの泣き顔を見ちまったからな.....。それがずっと心の残りだった....」

 

 

浮舎「なぁ降魔大聖...。盈月は元気か?」

 

 

魈「.....」

 

 

浮舎の問いかけに魈から返答が帰ってくることは無い。血が出そうな勢いで拳を握りしめているのを見た浮舎は何かを察した顔になる。

 

 

浮舎「.....。その感じだと何かあったみたいだな....。はぁ....」

 

 

魈「...済まない」

 

 

浮舎「いや....あいつを拾ったのに最期まで面倒を見れなかった俺の方が悪いんだ。あいつは俺に元気そうに振舞っていたが、心のどこかで迷いを持っていた。親にも....村にも.....見捨てられて一人ぼっちなやつに、俺が先にどっか行っちまったんだ」

 

 

魈「......」

 

 

浮舎「あーあ....。何があったかは敢えて聞かないでおこう....。ああ....肉体の崩壊が始まったな...。また、魂が彷徨うまでにそう遅くないだろうな」

 

 

魈「浮舎.....!」

 

 

浮舎「だからそう焦るなって降魔大聖...。なぁ頼みが1つある....。俺の魂を祓ってくれないか?」

 

 

魈「何......だと....?」

 

 

浮舎「俺の心残りも不服だが、晴れてしまった。もう何も不満はない...。いつ俺の魂が妖魔に堕ちるかもしれないから、だから俺を祓え」

 

 

魈「......できない」

 

 

浮舎「おいおい、伝説の夜叉さんが迷ってるのか?俺の夜叉としての役割はこの層岩巨淵で終わった。降魔大聖護とあろう人が夜叉の役割を忘れた訳じゃないだろうな?ほら早く....魂が逃げちまう....」

 

 

浮舎の語気はやんわりそのものだったが、目はしっかりと魈を捉えている。先程の明るすぎたテンションとは違い、今度は覚悟が座った夜叉としての風格を感じた。それを受け取った魈は迷うように目を閉じていたが槍を強く握りしめると崩壊していく浮舎にゆっくりと近づく。

 

 

魈「....済まない浮舎」

 

 

浮舎「.....じゃあな」

 

 

槍の刃先が勢いよく浮舎の心臓に刺さると、体の輪郭が消え始め、それは忽ち蛍の光のように分解されていく。指先で優しく最後の光の粒を触ると空中に消えて行った。

 

 

魈「....さらばだ」

 

 

溢れてきている何かに必死に蓋をするかのような顔を浮かべながら、いよいよ光さえ消えてしまった空間に別れ告げた。

 

 

空「....本当に魂が祓われたの?」

 

 

魈「ああ....。祓われた魂はあのような光に変え、そしてあの世に送り届ける」

 

 

空「蛍みたいに儚いけど...綺麗だったね」

 

 

魈「.....」

 

 

パイモン「お、終わったのか....?」

 

 

こちらの光景を見ていたパイモンが、影から恐る恐る顔を出して様子を伺っている。

 

 

空「うん。出てきていいよパイモン」

 

 

パイモン「ふぅ....。どうなるかと思ったけどこれで一安心だな!」

 

 

空「パイモンは何もしてないでしょ?」

 

 

パイモン「オ、オイラは旅人と魈を応援するっていう大事な仕事があってだな....」

 

 

空「本当に?」

 

 

パイモン「本当だぞ!な、そう思うよなゼーレ。.......あれ?ゼーレ?」

 

 

パイモンが嬉々としてゼーレに問いかけたがそれが帰ってくることはない。

 

 

空「まさか....!」

 

 

空は十分不安要素が心の中にあって、それがまさか的中したのではないかと思った時には勝手に足が動いていた。瓦礫と地面が盛り上がっている場所を乗り越え、地脈があった所にたどり着く。

 

 

パイモン「ゼ、ゼーレ!」

 

 

地脈があった場所で心臓部分を手で抑えながら地べたに倒れ込んでいるゼーレがそこにはいた。

 

 

空「パイモン!見てたんじゃないの!?」

 

 

パイモン「あぁいや!オイラはてっきり大丈夫なのかと思って旅人達を見てたんだぞ!」

 

 

駆け足でゼーレの元に近づいて、肩を揺する。

 

 

空「(呼吸が荒い......。まずい.....)」

 

 

ゼーレ「はぁ...!はぁ....!はぁ...!ゲホッ!!ゲホッ!!」

 

 

空「大丈夫?動ける?」

 

 

パイモン「ゆっくり、深呼吸しろよ?落ち着いて....」

 

 

呼吸が一段落落ち着いたゼーレがようやく、地面から立ち上がり、ゆっくりと空とパイモンの顔を見つめた。

 

 

魈「旅人!!!離れろ!!その女はもう!ーーー」

 

 

パイモン「えっーーー」

 

 

次の瞬間、平穏な目つきから明らかな殺意を込めた目に変化するのを自分が見逃すことはなかった。

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