間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第1幕『忘らるる怨恨の砂』①

ある日、読んだ本の文章中に初めて摩訶不思議という単語を見た。はなはだ不思議なことーーー、テイワットを旅する中で起きた出来事を表すのにこれ以上適切な言葉はあるのだろうか...。床に就き、意識が暗闇の底に沈んでいく間、今まで遭遇した出来事を思い出すのは今までに何回も合った。

 

 

最初はモンドの砂浜で意識を取り戻した。何も知らない土地で右も左も分からない中、その砂浜で釣りをしていると偶然、パイモンを引き上げてしまう。小さくて、浮かんでいるその姿は不思議な生命体と言っても差し支えない。そして、そのパイモンと名乗る人物は魚を追いかけている内に、自分が海に落ちて、溺れてしまったそうだ。それがパイモンとの初めての出会いだった。

 

 

自分の案内役となったパイモンと共に、最初に足を踏み入れた国がモンドだ。アンバーという少女にモンドのあれこれを教えて貰いながら、初めてモンド城に入った時、暴走した、東風の龍トワリンが出現するという事件が起きてしまう。凶暴になってしまったトワリンを鎮めるため、吟遊詩人と名乗るウェンティ、ジンとディルックと力を合わせて、無事トワリンの暴走を止めることができた。

 

 

次に行った国が璃月。岩王帝君が俗世に姿を現す送仙儀式の際に、岩王帝君が何者かによって殺害される事件が起きる。ファデュイ執行官タルタルヤと往生堂の客卿鍾離と出会い、秘密裏に送仙儀式を行うことで真実にたどり着こうとした。だが、タルタルヤが呼び覚ました潮の魔神オセルが璃月港を襲来。これを仙人と璃月七星が協力して撃破し、仙人から人間へと世代交代を見届けた。

 

 

3つ目の来訪国が稲妻。雷神・雷電将軍が命じた鎖国令と目狩り令によって、幕府軍と反乱軍が日々、お互い血を流していた。反乱軍と八重神子の出会いによって、人々の願いを知り、それを背負って、雷電将軍との御前試合に勝利する。そうして、雷電将軍が悪政を廃止し、再び稲妻の民に心が宿った。

 

 

そして今訪れている国が知識の国スメール。大賢者アザールとファデュイが結託し、草神ブエルに取って代わる神を創りあげようとしていた。囚われていたナヒーダを救出し、人々の夢を取り返すため、ブエル1人目の賢者として神に成り上がろうとしていたスカラマシュを倒す。

 

 

だが、自分もただただ旅するために7国を巡っている訳じゃない。稲妻に来訪する直前、モンドでアビス教団を追っているダインスレイヴという人物と接触する。彼と共に、逆様の七天神像がある遺跡を発見し、そこで、自分の片割れであり、血縁者である蛍と再び巡り会った。そこで、彼女は既にアビス教団の姫として君臨している事を知り、真相が分からぬまま別れてしまった。妹と再開するためーーー、このテイワットの真相を知るためーーー、神と接触しながらパイモンと一緒に旅を続けているのである。

 

 

スメールの創神計画を阻止し、いよいよとフォンテーヌにでも行こうかと思って日々を過ごしていると、偶然オルモス港でダインスレイヴと再開した。どうやら、彼はスメールで片割れの痕跡があることを思い出して調査に向かう途中らしい。当然、自分とパイモンも同行する。そして、彼に案内された所はアビディアの森にある廃れた小屋だった。地脈が乱れた場所を調査するということで、パイモンとダインスレイヴに別れを告げ、自分は小屋に待機していた。だが、いつの間にか小屋前にある畑の上で寝てしまったのだ。そして、夢を見た。小屋の中に立っていた。自分の目の前には、背の高い中年の男性。そして、隣にあったベッドの上には1匹のヒルチャールが自分に背を向けて寝ている。その男性に喋りかけられた。今でも何を言われたのか覚えていない。記憶に霧がかかっているかのようだ...。続いて、ゆっくりと自分の手は机の上に置いてある手鏡に伸びる。割れた鏡を見る。そこに自分の片割れの顔が移った瞬間、夢は途切れてしまった。

 

 

「た.......旅......旅人......旅人!」

 

 

「旅人?おーい、旅人!起きろって!」

 

 

耳に2人分の自分を呼ぶ声が聞こえる。目をゆっくりと開けると、目の前に自分の顔を覗き込んでいるダインスレた。それと同時に自分が畑の上で寝ている事に初めて気がついた。

 

 

空「え?なんで...」

 

 

ダインスレイヴ「まさか帰ってきたら寝ているとは......」

 

 

パイモン「おいおい.....旅人何してるんだ?」

 

 

ダインスレイヴは畑に寝ている自分に呆れ、パイモンは自分が起きたことにほっとしている。

 

 

空「夢を...見てた......」

 

 

パイモン「夢?」

 

 

空「...いや。夢かどうかは今は重要じゃないか.......」

 

 

不思議な夢を見ていたせいか、目を開けた直後は頭がぼんやりしていた。だが、それも次第に収まり、冷静になってくると、あの夢の整理がついた。これはダインスレイヴに伝えなければならないーーー。

 

 

急いでその場から立ち上がり、服に着いている土を払う。そんな時、ふと2人の後ろに、女性が立っていることに気づいた。青色の長髪をなびかせている大人の女性だ。空は一体誰なのか分からないので、パイモンに聞こうとする前にパイモンがその女性に喋りかける。

 

 

パイモン「ちょ、ちょっとだけ待っててくれないか?すぐに終わると思う...」

 

 

??「まぁ...別に....」

 

 

パイモンが焦り気味で喋っていたが、対しての女性は満更でも無い様子だ。そして、その女性は自分の髪を指で弄りながら、少し先の木株に腰を落とす。どうやら、自分達の話が終わるまで待つつもりのようだ。

 

 

空「(まぁいいか...後でパイモンに聞くとしよう)」

 

 

空はそれを一旦頭の片隅に追いやり、ダインスレイヴに夢の内容を話すことにした。この夢の内容はアビス教団の本質に近づくための鍵になるかもしれない。

 

 

 

 

2人が調査している間に見た夢を説明した...。数百年の記憶だったこと、この小屋でアビス教団の創設者コロタール・アルベルヒと会話したこと、1匹の不思議なヒルチャールがいたこと...そんなことを事細かく喋った。ダインスレイヴは顎に手を当て、下を見つめ、考え事をしながら話を聞いていた。

 

 

彼と夢の内容についていくつか話をした後、突如自分は立っている場所の下に何かがあると察知する。そして、一緒に畑の下を掘ると2人分の白骨死体を見つけた......。

 

 

パイモン「うぅ...本当に怖かったぞ。おまえら、も...もう埋め直したか?」と、弱々しく言葉を吐く。パイモンはずっと目を瞑っていた。

 

 

空「埋めたから開けていいよ」

 

 

ダインスレイヴ「男と女の遺骨が1つずつ、同じ場所に埋まっているとはな...。しかも、この男の遺骨の正体がコロタール・アルベルヒと来た...。有り得ん......奴が不死の呪いを解かない限り、有り得ない事だ......」

 

 

空「これからどうする?」

 

 

ダインスレイヴ「あらゆる情報が交錯している。整理する時間も必要だろう。ここで私は失礼する」

 

 

パイモン「ダインもう行っちゃうのか?オイラ達と一緒に居てもいいんだぞ!」

 

 

ダインスレイヴ「いややめておこう...。【やつ】が私達を見ているかもしれん」

 

 

パイモン「やつ?」

 

 

ダインスレイヴ「いずれ話す。さらばだ」

 

 

踵を返しながら、空とパイモンに別れを告げ、森の中に姿を溶け込ました......。

 

 

パイモン「行っちゃったぞ....」

 

 

空「だね...」

 

 

パイモン「えーとだな旅人」

 

 

 

完全に姿が消え、小鳥が泣く音が溢れかえった時、パイモンが子株に座っている女性を横目に言い始めた。そうだ、思い出した。謎の女性の事について聞かなければ。今までの事で完全に忘れていた。頭を切り替え、女性の所まで歩く。

 

 

彼女は小さな革袋の中身を漁っていたが、2人が近づいてきたことに気がつくと、それを仕舞い、木株から立ち上がる。

 

 

「終わったの?」

 

 

待たされた女性の開口一言目がそれだった。嫌な顔をすることなく、ただただ真顔で2人を見つめている。

 

 

パイモン「ごめん!待たせちゃった...」

 

 

「まぁ...別に...」

 

 

空「パイモン、この人は?」

 

 

パイモン「地脈が乱れている場所を調査するために旅人と別れただろ?その後、ヒルチャールの群れと遭遇したんだ...。ダインも武器を持ってなくて、囲まれて絶体絶命だったぞ...」

 

 

空「そんな時、この人に助けられたと?」

 

 

パイモン「端的に言えばそういうことだな!助かったぞ...。中にはアビスの使徒も居たんだ。それを簡単に討伐してくれた」

 

 

空「パイモンを助けてくれてありがとう」

 

 

「気にしないで。偶々、出会したから助けただけよ」

 

 

傍から見ても、助けたことぐらいどうでもいいと考えていてそうな青髪の女性は間が抜けた返事をした。

 

 

ちらっと女性の腰を見ると、鞘に収められた片手剣があることに気づいた。何の装飾も施されていない無垢な鞘だ。きっと訓練用の片手剣だろう。

 

 

空「(これでパイモン達を助けてくれたのかな....。訓練用の剣を実践で使うなんて刃が潰れてまともに使えないだろうに......)」

 

 

そんな事をぼんやり思いながら、視線は女性の顔に移る。その時、不意にその女性と目が合った。その女性の顔はとある人に非常に似ていた。いや、ほぼほぼ合ってると言っていいだろう。

 

 

空「(ん....?え....?エウルア.....?)」

 

 

「何か、私の顔にゴミでも?」

 

 

内心で驚いたつもりだったが、他人から見たらそれが顔に出ていたのだろう。不思議な女性が首を傾げながら、問いかけた。

 

 

空「(いや....よく見たら違う....。エウルアは短髪だ。服装も何もかも違う......。単純に俺が勘違いしただけかな.....)いや.....特に」

 

 

無理やり、そう結論付けたとしてもどこか心の内側で引っかかる。空は上の空とでも言うかのような返事をした。

 

 

「そう。それなら良かったわ」

 

 

対しての女性も特段追求することなく、素っ気ない返答をする。そして、その場から立ち去ろうとしたので、慌てて空が呼び止める。

 

 

空「ま、待って。お名前は?」

 

 

「......」

 

 

空の質問に彼女はすぐに返答しなかった。ただ、黙って2人の顔を見ている。変な間が開いてしまった。だが、すぐにそれは消えた。

 

 

メルビレイ「......ヌーヴィアン・メルビレイ」

 

 

空「(名前が違った......。やっぱり別人?だけど何か引っかかるな....)」

 

 

メルビレイ「さて...私は忙しいから特に何も無いなら帰るわよ。ここら辺は魔物の群れが多いから気をつける事ね」

 

 

パイモン「待ってくれ!何かお礼を....!」と、今度はパイモンが呼び止める。

 

 

メルビレイ「お礼?いらないわ」

 

 

空「このままお礼をしないままだったら、俺達が不完全燃焼だから......。だからーーー」

 

 

メルビレイ「だから、大したこともしてないわよ......。じゃあね」

 

 

メルビレイと名乗る女性は半場強引にこの場の会話を終了させ、2人に対して踵を返す。パイモンは口を半開きにさせながら、彼女の背中に腕を一瞬伸ばそうとしたが、ズンズンと進んでいくメルビレイにそれはすぐに直された。

 

 

パイモン「行っちゃったぞ......」

 

 

空「パイモン、追うよ」

 

 

パイモン「えっ?なんでだよ?」

 

 

空「......パイモンはあの人がエウルアに似てるって思わなかった?」

 

 

パイモン「エウルアに...?え...?んー......。オイラ、あいつの顔をじっくりと見た訳じゃないからなぁ...。似てると言われれば...似てるような...」

 

 

パイモンは小さくて短い腕で組みながら、必死に考える。

 

 

空「その時、俺思い出したんだ。エウルアには姉がいるってことに」

 

 

モンドでエウルアと仲良くなったそんなある日、酒の場で酔っ払ったエウルアが自分の生い立ちだったり、血縁者について話していたのだ。

 

 

パイモン「あっ、あー!!言ってたなそんな事」

 

 

空「服装が違うし...髪も長いからエウルア本人じゃないことは確定してる。雰囲気も声も彼女に近い...。もしかして、彼女がエウルアの姉...だったとしたら?」

 

 

エウルア「なるほど!もしかしたらオイラ達は離れ離れになった姉を見つけたってわけだな!」

 

 

空「うん。エウルアもきっと...喜ぶと思う」

 

 

パイモン「よーし!見失う前に早速行こうぜ!旅人!」

 

 

 

 

 

 

 

 

メルビレイはすぐに見つかった。周りの景色を見ながら獣の道を歩いているため、速度が通常の人より遅かった。2人は見つからないように木陰に隠れながら後をつける。

 

 

パイモン「案外早く見つかったな....」

 

 

空「.....そうだね」

 

 

アビディアの森は鳥が鳴く音と風が木を揺らす音があるとは言え、ふとした事で気づかれる可能性がある。家に泥棒するかのように、そろりそろりと空は忍び足で音を殺しながら跡をつけた。

 

 

空「(落枝がそこら中にあるな...。間違えて踏まないようにしないと.....)」

 

 

パイモン「でもさ旅人。本当にあいつがエウルアの姉ならなんでオイラ達に偽名を使うんだ?あいつはローレンス家だろ?」

 

 

普段、声が大きいパイモンでも今回は空気を読んで、空に耳打ちする。

 

 

空「ローレンス家の人間なら名前の下にローレンスってつくはずなのに.....ってこと?」

 

 

パイモン「そうそう。それになんでオイラ達に偽名なんか使うんだ?初対面なのに...」

 

 

空「うーん...。忽然と姿を消したらしいし、何か使わざるを得ないんだろうね......」

 

 

パイモン「それよりあいつ、どこに向かってるんだ...?」

 

 

空「さぁ...(この先はスメールシティ....。そこに用でもあるのかな.....?)」

 

 

彼女はどんどんとアビディアの森の小道を歩く。そして、空とパイモンはそれについて行く。それが数分続いた時、突然メルビレイが立ち止まった。

 

 

空「(...!止まった?)」

 

 

一瞬、バレたのではないかとドキンとしたが、彼女はこっちを振り返った訳ではなく、立ちはだかった集団を捉えている。森の草むらが蠢き、そこからヒルチャールの群れが飛び出してきた。そして、メルビレイを取り囲む。その中には数体のアビスの使徒も居る。

 

 

パイモン「ア、アビス....!?」

 

 

空「なんでここに...!」

 

 

だが、メルビレイは焦ることなく、逆にため息をつく。

 

 

メルビレイ「はぁ.....お前達しつこくない?私のファンか何かなの?」

 

 

「ふん。あくまでアビス教団の計画の必要な材料として必要なのは貴様の力だけだ。勘違い甚だしい」

 

 

メルビレイ「お前達が束になってこようが蟻なのは代わりはしないのにね」

 

 

「我々を舐めてもらっては困る...。さぁ、今度こそ神妙にしろ...!」

 

 

メルビレイ「言ってるでしょ?魔物1万体連れてくるか、お前達が言ってる''姫様''を連れてきなさいよ」

 

 

「姫様は計画で忙しい。あの方に貴様みたいな下衆を面々と合わせるのは勿体ないのでな!」

 

 

メルビレイ「アビス教団の中の1派閥であるお前達を勝手に暴れてるのもあるけど...まぁそれを統括する姫様も技量が疑われるわね」

 

 

「貴様....!姫様を愚弄するか!」

 

 

煽りに激昂した魔物は群れに合図を送ると、一斉にヒルチャールとアビスの使徒が襲いかかってきた。

 

 

空は彼女が片手剣を抜いて戦うと思っていた。だが、瞬きした次には襲いかかってきた魔物から血花火が舞った。

 

 

 

空「!?(何が起きた....?剣...抜いたよね....?)」

 

 

パイモン「あっ...!」

 

 

それはパイモンも同じで言葉を失い、口をあんぐりと開けた。

 

 

最期の悲鳴すらも上げぬまま、一瞬で絶命した魔物の体は真っ二つに斬られ、無造作に死体が地面に落ちた。

 

 

メルビレイ「だから言わんこっちゃない。黒色のローブ被ってて良かった。まさかこんなに血を浴びる羽目になるとは.....」

 

 

持っていたハンカチで顔に付着した返り血を吹き始める。純白のハンカチは次第に赤色に変わっていった。

 

 

メルビレイ「それで...いつまでもそこにいるつもり?」

 

 

使い物にならなくなったハンカチを死体に捨てると、2人が潜んでいる草むらに振り返る。

 

 

空「(バ、バレた.....!)」

 

 

一気に心臓が打つ音が跳ね上がる。

 

 

バレたからには仕方ないと思い、2人は諦めて草陰から姿を現した。

 

 

メルビレイ「最初からバレバレよ。私の後をこそこそつけてるけど用でもあるの?」

 

 

空「ごめん。偶然見かけて....その....」

 

 

パイモン「オイラも気になって......つい......」

 

 

2人は無理な言い訳を並べていたが、彼女はますます懐疑的な目で見る。

 

 

メルビレイ「ふーん......。その割には草陰から出てくるなんておかしいわね」

 

 

パイモン「えーと!その!」

 

 

メルビレイ「まぁいいわ。それで?なにか?」

 

 

空「やっぱ大切なパイモンを助けてくれたお礼をさせて欲しい」

 

 

メルビレイ「だからそれはいいって言ってるのよ。無駄な返礼の切り売りは見苦しいわ」

 

 

空「だ、だけど....」

 

 

メルビレイ「ふぅ.......」

 

 

彼女は髪を軽く掻き始める。その時、前髪で隠されていた右目が一瞬見え、空はそのことに何だか違和感を覚えた。

 

 

メルビレイ「...着いていきたいなら勝手にしなさい」

メルビレイ「あなた達名前は?」

 

 

メルビレイの後ろを2人が着いていく。そんな中、急に質問を投げかけられた。突然のことだからパイモンは若干驚いている。

 

 

空「俺は旅人。横に飛んでいるのはパイモン」

 

 

メルビレイ「不思議な生命体よね。小さい身体なのに飛んでいて、どこの世界にも属さない生物。あなた達はどこで会ったの?」

 

 

パイモン「オイラと旅人は浜辺で会ったんだ!溺れてるところに旅人に助けて貰って.......」

 

 

メルビレイ「溺れてるところに....?ふーん.........じゃあ旅人、あなたにとってパイモンの存在は?」

 

 

空「貴重な非常食」

 

 

パイモン「おい!!マスコット以下じゃないか!オイラは非常食じゃないぞ!食わずに立派で可愛いマスコットに育てて欲しいぞ!」

 

 

空「冗談だよ」

 

 

パイモン「それ本気で言ってただろ!やめてくれよ!」

 

 

 

メルビレイ「あなたたち仲が良いのね」

 

 

一向に喋らないので、不機嫌なのではないかと内心思っていたが、口調を聞いてひとまず安心した。

 

 

森の小道から現在地まで、着いていくこと早1時間。そろそろ足に疲労が溜まってきた。

 

 

空「(ここら辺で休憩を....と言いたいところだけど、こっちが無理にお願いして着いていったからなぁ....。パイモンもまだ行けそうだし、俺が我慢すればいいか....)」

 

 

そんな中、よく耳を澄ますと強めの風の音が聞こえる。

 

 

空「(もう森の端っこか........)」

 

 

スメールは、森林地域と砂漠地域に分かれている。その境界線周辺には、砂漠からの強風がやってくるのだ。

 

 

そうして3人は、森林と砂漠の境界線にあるキャラバン宿駅に入っていった。

 

 

空「(キャラバン宿駅...。やっぱり砂漠に行きたいのかな?なんのために?研究目的.....?それとも.....)」

 

 

パイモン「へへ、旅人。とりあえず潜り込めたな。これからどうするんだ?」

 

 

パイモンがメルビレイに聞こえないようにコソコソ話を始める。

 

 

空「ついて行くしかないよ。そもそも彼女がエウルアのお姉さんだとは決まってないから........。別人の可能性もあるし」

 

 

パイモン「そうだとはしても似すぎてないか?」

 

 

空「それはそうだけど....。それでもこの選択はあまりダメージが低くないからいいでしょ」

 

 

パイモン「ダメージ?どういうことだ?」

 

 

空「もし仮に彼女がエウルアのお姉さんなら1番だし、間違っていたとしてもパイモンを助けてくれたお礼をして終われる」

 

 

パイモン「なるほどな!あったまいい!」

 

 

空「ふふん。......うぐっ!」

 

 

コソコソ話をしていると、メルビレイの背中に顔がぶつかった衝撃で地面に倒れ込んでしまった。

 

 

メルビレイ「ん?」

 

 

彼女は誰かと喋っていたのだが、後ろからの衝撃でこちらを向いた。

 

 

尻もちをついている空を見て猜疑深い表情をする。

 

 

メルビレイ「....何してるのよ。よそ見?」

 

 

空「ごめん」

 

 

キャラバン宿駅は商人で人がごった返している。その人達がこちらをジロジロ見ているので、急いで立ち上がって服に着いている埃を払った。

 

 

パイモン「何してるんだよ...」

 

 

空「話すのに気を取られてて.....」

 

 

メルビレイは門番と話しているところだったが、見てる限り何か不穏な空気が流れているようだった。

 

 

門番は気だるそうに会話を続けている。

 

 

門番「今日は特段と砂漠が荒れている。やめておいた方がいい。護衛も付けられない」

 

 

メルビレイ「砂漠が荒れてるなんていつものことじゃない。何がダメなの?」

 

 

門番「あんた外から来た人か?今日は特に風が吹き荒れてる。危険すぎるからやめておけ」

 

 

メルビレイ「そこをなんとかならない?」

 

 

門番「........駄目だ」

 

 

メルビレイ「いつ収まるか分からないの?」

 

 

門番「わからん!とにかく駄目だ」

 

 

門番が凄む。

 

 

通してくれない門番に困った顔を浮かべている時、門の向こうから人が出てきた。その男は砂防ぎのローブを着ながら、門番に話しかける。

 

 

「砂嵐は酷いが数分もしたらいつも通りに戻る予定だ!」

 

 

門番「何?こんな荒れてんだぞ?そんな早く晴れるものか!」

 

 

「教令院の奴らに聞いたらこの地帯に小さい砂嵐が激突してただけらしい。だから、すぐ晴れるってよ」

 

 

門番「その肝心の砂嵐は?」

 

 

「もうここら一帯を抜ける。だから数分って言った」

 

 

門番「はぁ.......わかった。お前は戻れ」

 

 

「言われなくてもな!」

 

 

男は吐き捨てるように言うと、人混みの中へ消えていく。

 

 

メルビレイ「.......コホン」

 

 

わざとらしく咳き込んで目の前の門番の気をこちらへ向けさせる。

 

 

門番「えーとだな........。あぁ!まぁいい!通ってもいいぞ!ただし気をつけてな!」

 

 

メルビレイ「どうも」

 

 

彼女が空とパイモンに合図を送り、2人は続いて門をくぐって行った。

 

 

門をくぐった瞬間空はついて行ったことを後悔した。砂嵐が原因で視界不良で見えにくいし、何より砂粒が風で皮膚に食い込み少々痛い。

 

 

1歩1歩足を地面にめり込ませながら歩いていている中、ふと前方にいる彼女を見ると何事もないかのように進んでいた。

 

 

空「(早っ......)」

 

 

パイモン「うぅ........きついぞ旅人......」

 

 

空「俺.....だって.......」

 

 

パイモン「えい!」

 

 

突如として、パイモンが空に抱きついた。

 

 

空「ちょっと!パイモン重い!離れて!」

 

 

パイモン「なっ!失礼だぞ!」

 

 

ただでさえ風で体がふらつくのに、抱きつかれると余計にふらつく。

 

 

さっきより強い風が吹き、ついに体勢が防塵壁側に崩れた。このままだとぶつかってしまう。

 

 

パイモン「うわ!」

 

 

グイッ。

 

 

ぶつかる寸前に自分の襟が掴まれる。

 

 

メルビレイが呆れた表情で立っていた。

 

 

空「あ、ありがとう......」

 

 

メルビレイ「はぁ........だからやめておいた方がいいって......」

 

 

やれやれと首を振りながら空を立たせる。

 

 

彼女が2人の服装をまじまじと見ると、突然黒色のコートを脱ぎ、それを手渡した。

 

 

メルビレイ「その格好で砂嵐の中を突っ込むのは自殺行為よ?外套代わりにしてれば多少違うわ」

 

 

空「いいの?君が大丈夫じゃ無くなる」

 

 

メルビレイ「別に気にしないわ」

 

 

彼女のコートの中はよくある冒険者の軽装だった。

 

 

だが、空は右腕に注目する。肩から指先まで鉄の甲冑で覆われ、固定するために首に数本の釘が刺されている。なんとも痛々しい。

 

 

空「....えっと?」

 

 

ジロジロと右腕を見られていることに気づき、急いで見えないように隠す。

 

 

メルビレイ「見ないで...。気にしなくてもいいわよ...」

 

 

彼女はさっきより早く砂嵐の中へ入っていく。

 

 

空も急いで依然抱きついたままのパイモンごとローブを上から着て、再び歩き始めた。

 

 

ローブが血なまぐさい気がするのは自分の勘違いだろうか。特に......右腕ら辺が。

砂嵐を抜けるとそこは殺風景の砂丘が広がっていた。依然、メルビレイは足を止めることは無く、2人は無風、灼熱の極限環境の中をゆっくり歩いていく。

 

 

空「暑い.........」

 

 

パイモン「も、もう無理......」

 

 

飛んでいるパイモンだったが、暑さのあまりにやられ地面に撃沈する。

 

 

空「パイモン.....!」

 

 

メルビレイ「やれやれ」

 

 

空がパイモンを拾う前に彼女が回収する。そのまま、彼女が歩き出すが流石に呼び止めた。

 

 

空「そろそろ休憩しない?パイモンが限界だし...」

 

 

メルビレイ「..........」

 

 

その言葉に流石に考えがあったのか、周りをキョロキョロ見渡す。

 

 

メルビレイ「そうね....ほらあそこにオアシスがあるからそこに行きましょ?」

澄み切った池に、ヤシの木。まさにオアシスがそこにはあった。

 

 

パイモン「み、水.......!」

 

 

パイモンが水たまりを見て、一目散に飲まんとして手足をジタバタしたが、メルビレイは一向に離そうとしない。

 

 

パイモン「は、離してくれよ!オイラは限界なんだ!」

 

 

メルビレイ「コラ。そのまま飲んだらダメでしょ?」

 

 

パイモン「どういうことだよ!」

 

 

メルビレイ「悪いものも一緒に飲むことになるけどいいの?」

 

 

パイモン「そ、そういうことか......うぅ......」

 

 

メルビレイ「1回熱さないと........幸いその道具は揃ってそうね」

 

 

空「?」

 

 

そういうと彼女は放棄されたテントの中にズカズカと入っていき、物色し始める。すると、そこからガラスの破片と鍋を持って出てきた。

 

 

そして、破片を駆使して枝に火を付けると、水を入れた鍋を温め始めたのだ。

 

 

メルビレイ「どんなに水が綺麗でもこれだけはしないとお腹を壊すわよ?」

 

 

十分煮沸消毒が済むと、鍋ごと水の中に突っ込んで沸騰した水を少しでも冷ます。

 

 

メルビレイ「はい」

 

 

若干熱い鍋ごとパイモンに渡すと、すかさず飛びついた。

 

 

パイモン「うはーー!生き返るぞ!」

 

 

空「パイモン。俺の分も残しておいてよ」

 

 

パイモン「わかってる!」

 

 

そんな光景を片目に木陰に寄りかかり、革袋の中から小さな鉄水筒を取り出して飲みはじめた。

 

 

空「持ってたんだ」

 

 

メルビレイ「そりゃあね。元からここに来る予定だったんだから」

 

 

空「それはそうか......」

 

 

そこから30分ぐらいは休憩していただろうか。パイモンと空は放棄されたテントでウトウトしていたのだが、彼女は周囲を警戒していた。

 

 

空「.......休憩しなくていいの?」

 

 

メルビレイ「別に。疲れてないから」

 

 

空「そうなんだ....」

 

 

かくいう自分もパイモンに釣られ、ウトウトし始めている。だが、日光が降り注ぎひとつのミスで命取りの砂漠で眠りに落ちるなんて禁物なので無理やり目を見開き、寝落ちしないように気をつけた。

 

 

何より彼女にエウルアのことと同じぐらい大切なことを聞きたいことがあった。いつ聞くのか考えていると彼女が逆に話しかけきた。

 

 

メルビレイ「そんなに寝たいなら寝ればいいのに。私が見張っておくから」

 

 

空「いや君だけ頑張ってるのもあれだし....。そうだ....あの......1つ聞きたいことはあるけどいい?」

 

 

メルビレイ「.....何?」

 

 

空「なんでアビスに襲われてたの?」

 

 

メルビレイ「なんで私とアビスの間でなにか問題があるのかって話?」

 

 

空「そう」

 

 

メルビレイ「私の存在がアビスに取って不都合だからでしょ」

 

 

空「......と言うと?」

 

 

メルビレイ「話すと長いからなるべく話したくないんだけど.....そんな知りたいの?」

 

 

空「嫌ならいいけど.....大変だなって。.....後、蛍って言ってたよね......どこで知ったの?何かあるなら教えて欲しい」

 

 

メルビレイ「.........?」

 

 

話をしている途中でも警戒の手を緩めなかった彼女だが、空が言った言葉で完全にこっちを見た。

 

 

しばらくの間お互いの顔を見ていたが、聞こえるか聞こえないかの声量で呟かれる。

 

 

メルビレイ「あぁ...そういう事か......。第4降臨者の片割れか.....」

 

 

空「....!?なんでそれを知って....」

 

 

パイモン「暑い!全く寝れないぞ!......ってどうしたんだ?」

 

 

空の言葉は目が覚めたパイモンによって遮られた。

 

 

パイモンもその場がなにか異様な雰囲気に包まれていることに気づく。

 

 

メルビレイ「いや....特になにも?ねっ?」

 

 

明らかに話を切り上げようとしていた。このまま聞いても良かったが、パイモンのいる前で押し問答はしたくないので渋々諦めて重い腰をあげる。

 

 

空「そうだね...パイモンも起きたし...十分休憩したから行こうよ」

 

 

メルビレイ「ええ、もうちょっとここから歩くわよ」

 

 

パイモン「おう!」

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