台本書き
駄文
オリキャラ(複数人)
独自設定
空「(まずい.....!)」
これから起きる出来事を安易に予想出来た空は反射的に、パイモンを掴んで後ろに下がろうとしたが遅かった。自分の体が動く前に、ゼーレの左腕が空の首を強く握りしめる。
空「うがっ.....」
パイモン「!?ゼーレ!?何をしてるんだ!?」
空「ぐっ!パ、パイモン逃げて....!律者の....侵食が人格まで....乗っ取ろうとしてる.....!!!」
パイモン「逃げろって.....!ええ!?オ、オイラどうすれば....!」
空「(力が強すぎて手が離れない.....!やばい....意識が......!)」
ゼーレ「ふーっ!!ふーっ!!ふーっ!!」
何とかここから脱出しようと、首を掴んでいる手の指を強引に剥がしたり、足をジタバタさせているが、地面に根を張った木株のようにうんともすんとも言わない。逆にもがけばもがくほど絞める力が更に増していく。
その時風を切るようにゼーレの後ろに、槍を持った魈が周りこみ、そして遠慮なく心臓部分に槍を突き刺した。
ゼーレ「がっ...!」
槍の刃先はゼーレの肉体を貫通し、血まみれの槍が突き出た。その衝撃で、不意に首を掴んでいる手が離れ、空の体が地面に倒れ込む。
空「ゲホッ....!ゲホッ...!ゲホッ!!」
パイモン「旅人!大丈夫か!?」
魈「(なっ.....!心臓を刺しても平気だと....!?人間の構造上有り得ぬが....!)」
空よりも魈が自分を害する存在だと判断したゼーレが拳を振り被りながら飛びついたが、冷静に槍で首を掻き切った。だが、槍の刃が完全に首を貫通することはなく、途中で止まってしまう。
魈「!?(それに異様に肉体が硬い.....!我の技量で人間の首を跳ねれないなど不可能.....)」
胸と首から煙が出始め、傷つけられた部位を再生している隙に魈が空とパイモンの服を掴み、距離を取る。
魈「旅人、武器を構えろ」
空「...!でも!」
魈「でもではない。やつは今、お前の知っている人間では無く、怪物になった。手加減をしていたら逆に命を取られるぞ」
空「......ぐっ」
そうだーーー。ここで生半可な心を持っていたら逆にやられるのはこちら側だ。
空も心の中で覚悟を決めると冷静に片手剣の刃を向ける。
修復が完了したゼーレはこちらの方向に向いて睨みつけたが依然として息が荒く、万全な状態では無いことが分かる。
ゼーレ「はぁ....はぁ....はぁ....。ぐっ...!あああ''あああ''!!」
ゼーレが突然頭を抱え、疎い足取りでとある瓦礫の元に近づくと、頭を力強く打ち付けた。
空「!?」
魈「....」
何度も打ち付けるせいか、岩肌に血痕が付着し、額から止めどなく血が流れてくる。だが、それでもお構い無しに頭が動き続けた。次第に大岩に亀裂が入り、数回程で轟音と共に粉々になる。
ゼーレ「ふーっ!!ふーっ!!落ち着け.....。持っていかれるな私.....!!!」
ブツブツと自分を制止する言葉を言い聞かせ、胸の皮膚に自分の指が食い込む勢いで押さえつける。
空「あれは....デーヴァーンタカ山と同じことだ...。ゼーレが必死に人格が乗っ取られないように抑えてる....」
魈「何だと....?(瘴障に抵抗しているのか.....?我は他の夜叉とは違い瘴気に抵抗する術を持っているが、人間がそれに抗っているだと....?''奴''は為す術もなく、律者に飲み込まれて行った.....。つまりこの女は完全に律者を操れる可能性を秘めているのか.....)」
ゼーレ「はぁ....はぁ....はぁ....」
すると、荒い息から自分を落ち着かせる深呼吸に変化すると共に、壁にもたれ掛かりながら地面に座り込んだ。
ゼーレ「あ.........はぁ........ふぅ....」
空「ゼーレ....?正気...取り戻せた?」
遠目からでも明らか先程の様子とは違い、落ち着いているようなので武器をしまい、恐る恐るゼーレの元に近づいていく。首を絞められたことによってできた青痣を抑えながら、彼女の目の前にしゃがみ、優しく肩を揺すった。
ゼーレ「あ.....ああ....」
意識を取り返したゼーレがゆっくりと顔を上げ、周りを見渡すと、粉々になった岩に地面にある数々の血痕の跡。そして、空の首元にある青痣が目に入ってきた。
自分がしてしまった出来事を思い出すと、突如左手で勢いよく髪を掻き乱し、被っていた黒色のベレー帽が落ちる。
ゼーレ「ごめんなさい...!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!」
絶望や後悔、屈辱といったこの世の負の感情を詰め込んだ表情を浮かべ目の前に立っている人間を見た。空とパイモンは心配そうな目で見ているが、今のゼーレにとってそれさえもむしろ自分の負の側面を増幅させてしまっている。
この場にいること自体恥だと自覚した時、ゼーレの足は勝手に動いてしまった。
パイモン「あ、おい!待ってくれよ!」
ゼーレの足は止まることなくただひたすらに道無き道を走り、この場を去っていった。
パイモン「行っちゃったぞ...」
空「追いかけるよパイモン」
パイモン「えっ?」
空「足跡が残ってるし、まだそう遠くに行ってない」
●
ゼーレ「うっ...うぷ....おえええええ」
先程起きた出来事を思い出し、そしてそれに絶望すると思わず胃の中の内容物が全て川に流れていく。
全身が小刻みに震えている状態で川の堀部に突っ伏しているが、さらに悪寒が襲ってきた。
ゼーレ「ううう....」
ただただ今自分が許せない。大切な人を守りたい、それだけなのになぜそれさえできないのか。
いつだってそうだ....心で描い続けてきた理想は現実のいつも3歩後ろを歩き続けている。それを自覚する度自分の精神も肉体も全て壊れていくんだーーーー。
悔しさで手に力を込めて何度も地面を掻きむしった。何度も何度もそれを繰り返していると次第にえぐれた跡に赤色が添えられていく。
手の皮膚が取れ、露出した筋肉に砂と石が着いていたとしても、一瞬で治ってしまう。
ゼーレ「なんで治るの.....。なんで!!!!!」
無意識の内に自傷することで自分の罪悪感が消えて行くと思っていた。自分の罪が清算されるのだとーーー。だけどゼーレ自身それで肯定されるとは微塵も思っていない。ただひたすらそんな無意味な行為でも救済になるのでは......。
空「ゼーレ....」
皮膚が再生した片手で顔を覆った時、足跡を辿ってきた空達が砂利を踏みながらこちらにやってきた。
ゼーレ「なんで来たの.....?なんで!?来ないで!!!」
空「君が心配だから....」
ゼーレ「私はあなたを傷つけた!!どれだけ心に誓ったとしても無意味なの!!!自分が憎い!この力が憎い!!心も体も!!全部!!全部が憎い!!」
すると突然ゼーレが頭を打ち付け始め、後悔や絶望、屈辱を込めるかのようにして、再度叫び続ける。
パイモン「お、おい!やめろって!落ち着け!」
パイモンと空が肩を掴み、壁際で落ち着かせる。
ゼーレ「なんでこの期に及んでここまでしてくれるの....。なんで....なんで....」
空「君のことを大切に思ってるからだよ。だったらこんなことしない」
ゼーレ「いっその事見捨ててくれた方が心が楽になる!!!」
空「.....。ゼーレ。君のその言葉は本心から来てるわけじゃない。今は一旦落ち着いて。落ち着かないと次に進めないから」
ゼーレ「.....そんな哀れみの目で見ないで....」
次第にゼーレの荒い息が収まり、震えも止まっていった。
パイモン「あ...やっと落ち着いたぞ....」
空「とりあえずここから出て帰ろう」
ゼーレ「.....分かった。だけど私が先に帰らせてもらう.....」
空「それはなんで?」
ゼーレ「今は単純にあなたの隣に居れない....。帰離原で待ってる」
そう言うと早足で岩と岩の上を飛んで層岩巨淵から去っていった。
●
パイモン「なぁゼーレ元気だせって!失敗なんて誰にもあるからな!ほら、美味しい屋台がオイラ達を待ってるぞ?」
ゼーレ「......」
魈と層岩巨淵の入口で別れ、2人が帰離原の祭り会場に戻ってきた時には、ゼーレ自身の姿が見えなかった。
だが、自分には彼女がいる場所がすぐに検討がついたので、その場所に赴くと案の定そこに居た。
会場の炎から少し離れたところの川の畔に殿位で顔をうずめている。
パイモンが、励まそうと明るく話しかけているのだが、帰ってくる返事はどれも乾き切っていた。
パイモン「んー.....困ったな....」
空「パイモン」
パイモン「ん?」
空「ちょっと2人にしてくれない?」
パイモン「え?なんでだ?」
空「俺がゼーレと喋るよ。パイモンはその間屋台で何か買ってきて。ほら、モラあげるから....」
パイモン「わ、わかったぞ....」
チャリンチャリンと数枚のモラがパイモンの小さな手に音を立てて渡ると、美味しそうな空気が流れてきている屋台の方向に消えていった。
依然、しょげているゼーレの隣に座り、話しかけた。
空「ゼーレ?」
ゼーレ「......何?」
空「パイモンも言ってた通り、元気出そうよ」
ゼーレ「....本当はそうしたい。だけど、私はあなたみたいに簡単に切り替えれるような頭は持ち合わせてないの....」
空「俺だって、落ち込む時は落ち込むよ。だけど俺にはパイモンもいるし、友達もいる。そのことを考えたら自然に元気が出てくるんだ」
ゼーレ「私の事....失望したでしょ....?」
空「君にやられちゃ元も子もないけど、君だってあの時抗っていたんだ。そこまで気にしてない」
ゼーレ「.....」
空「君は自分が思っている以上に意思が強いと俺は思う。強くなかったら、とっくに飲み込まれているよ。後は君のその葛藤している心をどう着地させるだけ」
ゼーレ「.....普通の人間は君みたいに心の切り替えができるけど、私は何か必要なパーツを過去に置いてきてしまったみたい」
一瞬、言葉が詰まった。さらにゼーレが体をちぢこませて、黒色のロングスカートを強く握りしめる。
ゼーレ「私のせいで人が苦しむんだ....。私が存在してるから人が傷つく...。私が生きてるから、人が死ぬんだ...」
空「......」
ゼーレ「私なんて生まれなければ良かった...」
空「それは違う」
ゼーレ「何が違うの...」
空「君が言っていた誰しもが役割を持って生まれてくるっていう言葉......今でも覚えてる。君自身がこの言葉を折るつもりなの?」
ゼーレ「もう終わりよ.....生きがいだったエルも自分の手で傷つけた.....信条も自分の手で壊した.....自分で自分を路頭に迷わせた.....もう何もかも終わりよ......。あなた達をもうこれ以上傷付けるつもりはない...ここから先は自分でやるから...」
ゼーレの言葉が終わる寸前に空が突然ゼーレの両肩を強くにぎる。
その勢いは右腕の甲冑がそのまま折られるようだった。
予想外の出来事にゼーレは目を見開いて驚いた。
空「何度も言ってるでしょ?ゼーレ落ち着いて!それじゃまた振り出しに戻るだけだ!君があの時言った、心のあり方を知りたいっていう言葉は嘘だったの!?」
ゼーレ「っ....!」
空「君の生きがいはエウルアだけ!?それしかないの!?これがないと生きていけない、あれがないと希望を見失ってしまう、君の人生はそれだけなの!?もっとあるでしょ!?」
ゼーレ「そんな生き甲斐が沢山生まれたら人生は苦労しない!!あなたに何が分かるの!?」
空「!」
ゼーレ「あなたには沢山友達が居て、沢山大切なものが出来た!!!あなたはさぞかし満足でしょうね!!!」
ゼーレ「じゃあ家の中に居場所がない気持ちは分かる!?自分が実の親から愛されてないって分かった時の気持ちは理解出来る!?!?自分の手で親を殺した時は!?愛する妹と半分しか血が繋がってないって分かった時は!?!?日に日に自分の心と体がボロボロになって壊れていく様子を見ている時は!?何も知らないくせに!!!!!!」
空「俺は蛍と再開するために旅をしてる!だから君の妹を思う気持ちは痛いほどよくわかる!!!だけどそれぐらいで折れないで!君の心は本当は強いはずだよ!!」
お互い荒い息を吐きながら、言い争っていたが、次第にゼーレの顔が悲哀に満ちた顔になり涙が落ちてきた。
ゼーレ「分かってる....。分かってるから....。このままじゃいけないことなんてわかってる....。過去に踏ん切りをつけて前に進まなくちゃ行けないのに.....。こんなことがまた起きるとなると怖くて1歩を踏み出せない....」
空「君は独りじゃないんだ。君はエウルアを傷つけたと思ってるけど、エウルアは君を心から心配してる。それだけじゃないパイモンも俺がついてる。だからこれ以上自分を卑下しないでよ.....」
その時、不意にゼーレはナヒーダから言われた言葉を思い出した。
ーーー『困ってる人がいたら体が勝手に動いてしまう性分なの。あなたはもう少し周りを頼るってという力を身につけた方がいいわよ』ーーー
ゼーレ「.....私どうすればいいの....?助けて....旅人....」
空「.....言えたじゃん。やっと君の本音が」
ゼーレ「ごめんなさい、荒い口調を飛ばしてしまって。あなたの言葉に少し苛立ってしまった部分があった。せっかく私のことを元気づけようとしてくれたのに......」
空「いや...俺も大人気なかったよ。ついつい君の言葉に感情を乗せちゃった」
ゼーレ「はぁ....」
ため息を吐きながら首にかけてあった金色のロケットペンダントを取り出し、それを眺め始めた。
空「あれ?それまた君の元に帰っていたんだ」
ゼーレ「.....ガンダルヴァー村に行った時にね。やっぱり贈り物は贈られた人が持ってるべきでしょ?」
空「相当な思い入れがあるんだね....。そんなにボロボロになっても大切に持ってるなんて....」
ゼーレ「当然でしょ...エルから初めて貰ったプレゼントなんだから....。これはエルとの繋がりの1つのような気がして、ボロボロになったとしても持ち続けていくと思う」
空「治さないの?」
ゼーレ「直したいけど時間がね...。あ、接合部分の噛み合わせがまた悪くなってる....。1回直したのに....」
空「1回直してるんだ」
ゼーレ「ええ。直してもらったわ」
空「もらった....?ちゃんとした店に?」
ゼーレ「いや....遠い昔の親友にね」
空「そう....なんだ....」
ゼーレ「獄中で出会った人なんだけど、機械とかこういう工具にただひたすら熱中できる変人だったの。とにかく明るい子で誰とでも仲良くできるような気さくさがあって私とは真反対の人間よ。それが行き過ぎてお転婆になるようなこともあったけどね。先にあっちから話しかけてきて...そこから仲良くなった」
空「...その人は今どこに?」
ゼーレ「さぁね。私より先に牢屋を出ていったからそれから分からないわ。....あ、でも確かフォンテーヌに行きたいとか言ってたな....。フォンテーヌは機械の国だから、そこで私の好きなことをしたいって」
空「その人と仲が良かったみたいだね」
ゼーレ「友達....いや恩人よ。私に役割の意味を教えてくれた命の恩人よ」
空「.......」
ゼーレが珍しく、口角をあげ微笑んだ。その笑顔には心の中からそう信じているーーー。そう思えてくるような心の意志の硬さが伝わってきた。
後ろの方からパイモンが自分達を呼んでいる声が聞こえてきた。巨大な薪火の方向から姿を現し、腕にはいっぱいの屋台の料理を持ちながらこちらに向かってくる。
空「あ、パイモンが帰ってきた」
ゼーレ「思った以上に早かったみたいね....」
空「折角の祭りだよ?ゼーレも楽しまないと損だ。美味しい屋台料理も待ってる」
ゼーレ「そうね...じゃあお言葉に甘えて行こうかな」
空が立ち上がり駆け足でパイモンの元へ駆けつける。
パイモン「おーい旅人。結構買っちゃったぞ。ついつい美味しそうな料理が並んでたからな!ほら、ちゃんと3人分あるぞ?」
空「わっ....多いな.....やっぱりパイモンは食いしん坊だね」
パイモン「へへん!やっぱり祭りには美味しい料理がつきもんだろ?」
空「ほら!ゼーレ!薪火の所に行って食べよう」
ゼーレ「.....」
返答が返ってくることはなかったが、地面から立ち上がり服に着いた土を払い始めた。
パイモン「もう解決したのか?どんな手を使ったんだよ....」
空「.....秘密」
パイモン「なんだよそれ!」
笑顔で会話を始め、ゼーレよりも前を歩いていたが、一向に後方から足音が聞こえてくることはなかった。
気配も感じないので、不思議に思い振り返る。
空「ゼーレ....?」
空の視界に飛び込んできたのは、ゼーレがとめどなく流れてくる鼻血を抑えるために顔を手で覆っているところだった。
【4-8終】