台本書き
駄文
オリキャラ(複数人)
独自設定
意識が精神の中に吸い込まれると、輝かしい内装から、目まぐるしい渦の中に放り出された。
その渦の中で、記憶と声が混ざりあった、不気味な事象がゼーレの目と耳に届いてくる。
それが治まったと思ったら次にやってきたのは海の中だった。
突然の出来事に驚く。
ゼーレ「......!?(海......?どういうこと!?何が起きてるの.....)」
自分が溺れてしまうのではないかと思ったが、ふと冷静になってここが自分の精神世界なのだと思い出す。
ゼーレ「(そうだった.....。現実の海では無いのだし溺れることなんてほぼないから....。一応だけど呼吸はできるし.....)」
上から下、そして右から左を見渡したが、ただひたすら薄暗い海の世界が広がっているだけだ。
上は太陽の光が降り注ぎ、銀色の波模様が映し出されるのを見て、ゼーレは海面に行けば何か分かるかもしれないと思い、必死に足を動かす。
だが、いつまで立っても水面に出ることは出来なかった。むしろ逆に上昇すればするほど、波模様が遠ざかっているように見えた。
ゼーレ「(上に行こうとしても脱出は不可能....。むしろ下に潜った方がいいのかな.....?この精神世界は記憶と声が入り交じる不可解な層が1番表面にあって、その次にこの不思議な海の世界が広がっている可能性があるのかも....。この仮説が正しいのなら私が行くべきは最深部....!)」
そうするべきだと考えたゼーレがこの海の深淵部分に行こうと足を動かした瞬間、突然海流が現れ、体全体を飲み込んだ。
ゼーレ「(....!これは何.....?)」
海流はそのまま深海部分まで続いていき、なすがままに連れ去られていく。
ゼーレ「(私を案内してくれてる.....?)」
しばらくすると、突然水面に出てきた。世界が切り替わったことに焦ったが、受身を取りながら白い地面に着地する。
周りを見渡しながら、先程の仮説が正しいのだと確信した。
ゼーレ「(やっぱりね。精神世界はミルフィーユみたいに何層も存在しているみたい.....。だけど、お目当ての盈月って人はいないから、もっと下に潜っていかないといけないようね.....)」
やってきた世界は白い世界。ただそれだけだった。物も人影もなく、ゼーレはたった1人その侘しい世界にぽつんと立ちすくんでいた。
何もしない訳には行かないので、地平線まで続いている世界で深層に向かうための鍵がないか手当たり次第に探し始めた。
だが、そこから数分歩き探しても何も無い。ただただ無しか残っていないのだ。
ゼーレ「何も無いじゃない!」
あまりに腹が立ってしまったゼーレはその場に座り込んで対策を考え始める。
ゼーレ「(さっきのでこの世界の構造はあらかた把握した。いっその事ここに穴を開けて無理やりにでも突入するか.....?だけど、私の魂もうひとつくっついているのなら、どこかにその魂の世界があるはずよ....。それにあくまでブエルが切り離したの私の意思以外のならどこかに.....!魂同士の境界線を自ら破壊すれば.....)」
思い立ったゼーレはすぐに立ち上がり、地平線に向かってゆっくりと手を伸ばす。
しばらくすると指先の空間にガラスが割れたような亀裂が入り始める。
ゼーレ「!(ドンピシャ....!!)」
さらにゼーレが腕に力を込めるとその亀裂は世界全体を包み込み、崩壊した。
●
崩壊した無の世界から一変し、景色が具現化した肉体の内側に変化した。何かに覆われているかのような薄暗さの中、大小様々の岩が無造作に置かれている。その岩と岩の間からは足首が浸かる程度の水が貼っていた。
ゼーレ「(水....?)」
透き通った水に反射した物体に気づき、上を見あげると、そこには何か巨大な動物の脊髄のようなものが浮かんでいる。
ゼーレ「(なんとも言い難い奇妙な世界ね....。でも間違いなく異質な精神とも言えるわ....。明らかに空気が変わった...
)」
きっとここに目的の人物がいるーーーー。ピリつく空気に警戒心を最大限に引き上げながらゼーレは世界の主を見つけるためにその場を動き出したが、その必要は無くなった。
初めの1歩を前に出した時、足元から何かを踏んづけた感触が伝わってきた。
急いで足をどかし、その場を確認するとそこに人間が水の中に横たわっていた。
「......踏んづけてるよ」
その人間はゼーレに思いっきり踏まれながらも真顔のまま返答した。
ゼーレ「!(うわ!びっくりした......)」
驚いたポーズを取ったゼーレを見ながら、ゆっくりと水から上半身だけを起こし、なんとも怠そうな態度を取る。
ゼーレ「ご、ごめんなさい....よく見てなかったら踏みつけてしまった.....。というかそこで何をしているの?」
「分からないって言えばいい?何かが抜けたかのように正気がないの」
ゼーレ「....そう」
あまりに急な出来事にゼーレは脊髄反射で返事したが、とある事に気がついた。
ゼーレ「(ん.....?待って....。精神世界は基本的に外部の人間は入れないはず。つまりここに私以外の人がいるということはこの人が.....!)」
全てを察したゼーレが、急いでその場から距離を取る。
その様子を見た盈月が少し驚いたが冷静になって不敵な笑みを浮かべる。
虧欺「あ、やっと分かったんだね。そう、私が君が求めていた人だよ」
池から立ち上がった虧欺が、服に染み付いた水を絞りながらしっかりとゼーレを見つめ直す。
黒髪で、赤い目をしている女性は目の前にたっているゼーレよりも背が一回り低い。パッと見たところ肉体の年齢は15歳の近いと見える。
ゼーレ「驚いた.....。まさか水浴び中だったなんて誰も予想できないわよ」
虧欺「水浴びじゃないよ。ただひたすらその場で動きたくなかっただけだよ」
ゼーレ「......それを水浴びって言うんじゃないの?あなた何歳?」
虧欺「まだまだピチピチの518歳だよ」
ゼーレ「.....」
虧欺「というのは冗談。魂が死んだ時、肉体の情報はそこで止まってしまう。だから私の今の年齢は18だと思うよ」
ゼーレ「なるほど.....(ああ!違う違う.....。そんな世間話をするためにここに来たんじゃない....。でも話は通じるな.....)」
今のところは会話はできている。この場は本当に盈月の精神世界なのか確認することにした。
ゼーレ「ねえ、盈月。とりあえず、ここはどこ?」
虧欺「その名前は辞めて....それはもう捨てた。今は虧欺....空っぽの月だよ。.....あなたもここがどこか分かってるよね?私の魂の世界だよ」
ゼーレ「ここがあなたの精神世界....。やっぱり、私が魂同士の境界線を破壊したのは正解だったのね。私の魂にあなたの魂がくっついているのなら、噛み砕くと、あなたは私の精神世界に寄生してるプー太郎ってことね」
虧欺「正解」
ゼーレ「(やけに軽いな....)やっぱり、あの時の声はあなたのことね。そういえばあなた、必ず私との間に契約を結ぶって言っていたでしょう?それなら話が早いわ。早速私の汚染を浄化してちょうだい」
虧欺「そうだね。うーん.....」
が、虧欺が黙り、何か考えている素振りを見せる。
数秒後、考え終わったのか突然合点が行ったように手を叩いた。
虧欺「いやだ!」
ゼーレ「......はぁ?」
虧欺「気が変わった。単純に君をこのまま帰すのは癪に障るというか....」
ゼーレ「つまりは力ずくで.....ということね」
虧欺「そういうことなのかもしれないね」
ゼーレ「(結局はこうなるのね.....)」
ゼーレが片手剣を構えると同時に、虧欺も不敵な笑みを浮かべながら戦闘態勢に入った。
ゼーレ「(まずは小手調べ.....)」
すると、ゼーレが徐ろに地面に落ちていた小石を拾い上げると、それを空中に軽く投げた。宙に舞った石は軽い放物線を描く。その刹那、視線がそちらに向いてしまった虧欺を見逃さなかったゼーレが一瞬で詰め寄り、重い拳を虧欺の顔面に叩きつける勢いで放つ。
虧欺は遅れて拳を受け止めたが、衝撃で体が下がり、隙が出来た。そこにすかさず、首目掛けてキックすると、今度こそヒットし、勢いよく岩に激突した。岩は粉々に粉砕され、粉塵がその周りを漂う。
しばらくすると煙の中から首に手を当てた虧欺が出てきた。蹴られた部分は青痣ができている。
ゼーレ「(青あざだけ...。生首をそのまま蹴りちぎる勢いで蹴ったけど、瞬間的に元素で肉体を強化したな...)」
虧欺「イタタ...(元素で強化したのにこの威力...。覚悟はしてたけど、やっぱり重い...!)」
首にジンジンとした痛みが残っているものの、依然、不敵な笑みが収まらない虧欺が突如指先をゼーレに向ける。
正体不明の攻撃が発動する前にゼーレが腕事を蹴り上げた。
虧欺「ぐっ!」
そのまま入り乱れる接近戦に持ち込んだが、終始ゼーレが圧倒し、再び虧欺の体を吹き飛ばす。
ゼーレ「(接近戦がはっきり言って弱い!ゴミ以下だ...!まだ神の目の元素の余力もある...!身体能力とこれで一気にーーー!)」
一瞬で勝利までのプロセスが見えたゼーレは、自分の足を地面に軽く叩くと、一瞬で周りの池諸共凍らせる。当然その凍結範囲は虧欺の足まで届いていて、身動きが取れなくなっていた。
虧欺「(......!?氷!?一瞬で凍結させたのか!)」
突然の凍結に驚いたのも束の間、瞬きすると目の前に大岩が真っ直ぐこちらに飛んでくる。
飛んできた岩を細かく切りつけると、周りの氷から異常な濃さの霜霧が放出される。それが原因で虧欺の視界は一気に悪くなった。
虧欺「(視界が!何!?目眩し...?)」
それがゼーレの作戦だった。凍結した氷から出る過剰な霜霧で一時的に視界を奪う。その瞬、立地ごと吹き飛ばす威力にまで達した氷元素を手に纏い、圧縮する。
律者の斬撃が圧縮した氷元素より場を決定する力を有しているが、身体が限界状態であるゼーレにとって律者の元素を極力温存し、使わない選択を取った。
これ以上圧縮することが不可能となった瞬間、指向性を定め、氷球は真っ直ぐ吹き飛ぶ。指から解き放たれた氷は忽ち膨張する冷気と共に、地面を抉り取りながら虧欺の体を飲み込んだ。
確かに膨張する氷は虧欺を飲み込み、巨大な氷山を形成した。
ーーーだが、数秒もしないうちに氷に亀裂が入り、崩壊する。
ゼーレ「なっ...」
氷の欠片が降る中、怪我ひとつない虧欺が姿を表す。
ゼーレ「(氷が崩れた!?というか、傷1つない...!?直撃した時、確かに手応えを感じた!だけど、凍傷すら着いていないなんて有り得るの!?)」
ゼーレ自身、これで決着がつくまでは行かなくとも、致命傷は与えられると予想していた。だが、目の前に立っている少女は目立った傷もダメージもないようだ。
虧欺「危ない危ない...。だけど...その攻撃、意味ないよ」
ゼーレ「(氷本体が当たらないのなら分かる!だけど、そのあとの氷から発生する冷気は範囲内に居れば避けられない.....!私の氷元素は侵食性が高い故、冷気を吸ったら忽ち肺が凍りつくけれど、あの様子だと冷気も防いだの...?)」
もしかして、氷と虧欺の間に壁があるように、何もかもが防がれたーーー?
そんな考えが頭の片隅に浮かび上がってきた。
虧欺「神の目の所有者の元素攻撃は、それぞれ個性という物を持っているけれど、あなたの氷はかなり凶悪だね。氷から発する大量の冷気が体内に入り込んだり、皮膚に吸着するとそこから凍結する....。本当に秩序側が持っていていい力じゃないよ」
ゼーレ「それ、褒めてる?」
虧欺「ふふっ...。どっちでしょう?」
ゼーレ「相も変わらず掴みにくいな...」と、普通に会話をしているが、ゼーレの脳内では先程の出来事の整理が行われている。
ゼーレ「(予想外の出来事が起きてしまった以上、何が起きているのか見極めないとね...。さっきので決める気概でいたけど思った以上に長期戦になりそう...。...まずは小手調べといこうかしら)」
そうして、ゼーレは足元に落ちていた小石を拾い上げ、再び空中に投擲した。今度は前よりも更に高く、そして冗長な軌道を描いた。
虧欺「(また、あの小石で私の気を引こうとする魂胆...?同じ手は引っかからないのにね)」
だが、虧欺の反応は冷めていた。案の定、小石を投げると同時にその場からゼーレが走り出す。
虧欺「(やっぱり!)」
小石の存在を頭から消し去り、ゼーレの動きを捉えることに全リソースを割くことにした。だが、その判断が間違っていた。
無視した小石は虧欺の頭上まで来ると、突如速度を落とし、岩肌からつららが伸び始め、虧欺の体を貫こうと急降下で落ちてきた。それに気づくことなく、肩に突き刺さる。
虧欺「っ!(つらら...!?)」
ゼーレ「残念、2回とも読み間違えたわね」
虧欺「(そうか!2回目は無視するということを見越しての攻撃...!やばい...!来るっ...!)」
両腕で攻撃を防ぐ寸前、ゼーレの拳が正確に虧欺の顔面を捉えた。そのままの勢いで地面に叩きつけると、地面に大きなヒビが入る。
虧欺「(この威力...!一瞬でも気を抜くと意識を持っていかれてしまう...!)」
ゼーレ「(近接戦ではこっちが有利!そのまま叩く...!)」
吹き飛んだ肉体に数発蹴りを入れた後、近くの岩を持ち上げて、虧欺に放り投げようとした。だがその瞬間、ゼーレの体中にサイレンが鳴り響く。体が逸早く回避せよ警告する。見ると、虧欺が指ピストルをゼーレに向けていて、指先から音速の斬撃が出現した。
ゼーレ「!」
致命傷を避けたが、それでも回避は出来なかった。腕と腹に斬撃の端が当たり、そこから血がポタポタと滴り落ちる。
ゼーレ「はぁ...はぁ...(危なかった....!撤退の判断が遅れていたら致命傷になる寸前だった.....)」
虧欺「(うーん...致命傷は避けられたか。というか、普通あの距離から被弾を抑えて距離を取れる?)」
打撃によって傷つけられた部位は煙と共に再生する。虧欺は先程の場面を思い出しながら、思慮した。
ゼーレ「あなた.....やっぱり斬撃使えるのね。正直驚いたわ」
虧欺「今の私はこの世界樹から投影された魂の輪郭持ったホログラムみたいな存在だよ。律者の力を持ってても違和感はないでしょ?」
ゼーレ「(魂の輪郭を持ったホログラム....。あの層岩巨淵で見たあれと同じパターンね....)」
虧欺「思ったけど、君は本当人間じゃないよね。遥かに超越した力を持っている。腐らせるのにはもったいない」
ゼーレ「....絵本に出てくる悪役みたいなこと言ってくれるわね」
虧欺「そうかな?」
ゼーレ「(斬撃が使えるとなると、これじゃ無理に近づけないわね。今の私に状況を覆す武器は自分の身体能力だけ....。氷はさっきみたいに当たってない事になったら無駄打ちになるし....。律者の使用は極力再生能力だけの使用にしたい.....!あっちも再生能力のリソースはまだまだ残っているだろう....。元素の量はあっちに旗が上がって....近接はこっちに分がある。私の持ち前の身体能力でこの状況を一気にひっくり返す.....!!!)」
斬撃を食らうのは避けたいが、近接戦に持ち込まないと状況は変わらない。そう判断したゼーレは2〜3個の小石を拾い上げる。
虧欺「(また拾った....。やっぱりこれが有効打ってことを理解したな。でも正解だよ。正直これをやられると混乱するんだよね...!)」
虧欺は攻撃に備えて、全身に力を入れて身構える。あの打撃の威力を体験した上で、投石した小石さえも、臓器を欠損させる威力を誇るのではないのかと警戒してしまう。
1つを空中に投げ、2つが虧欺に向かって全力で投げつけた。最後の小石はゼーレの手の中で温存しながら、3度目の殴り合いを始める。
虧欺「(あの空中に舞った小石もあれはブラフなのか、はたまた攻撃用なのか見極めないと行けない...。前者でもこの人から攻撃されて....後者でも攻撃される....。どの道全ての石と目の前の人に集中しないと行けないルーレット攻撃.....!)」
ゼーレ「(4パターンの攻撃を用意したら、混乱して防御に徹するしかないでしょう....!!!)」
虧欺「(石を撃ち落としてもいいけど、一瞬でも目を離したら、餌食だ.....!)」
ゼーレに向かって再び斬撃を4発放つ。だが、それを身軽に避けた。
虧欺「斬撃を避けた....!?」
急接近されキックしたが、ゼーレの姿が一瞬で消えた。
虧欺「(消えた.....!)」
ゼーレ「残念、後ろよ」
背後からゼーレの声が聞こえてくると同時に、背中に激痛が走る。
虧欺「いっ.....!(背後に....!?そうか.....!私に向けて投げた小石に氷元素を含ませて、接近した時に同元素の引力で背後に回り込んだ.....!)」
すかさず背後にいるゼーレに攻撃仕掛けたが、空中に舞った小石から再びつららが降り注ぐ。それを間一髪で避けた。
ゼーレ「(避けた.....!もし壁があるなら、避ける必要なんてないはず....。避けたということは、何らかの条件下で壁が今offになっている.....?)」
チャンスだと感じ取ったゼーレが、攻撃に転じようと腕に氷元素を纏ったその瞬間。
ドサッーーー。
ゼーレ「!?」
ゼーレはその場で膝を着いてしまった。
ゼーレ「(これは.....!)」
まるで上から何かに押さえつけられているかのように、その場から動くことはできなかったのだ。
虧欺「危ない...危ない...」
体が上手く動かない状況にあるゼーレを見て、今まで笑顔が消えていた虧欺が不敵な笑みを浮かべた。
虧欺「動けないでしょ?」
ゼーレ「(攻撃が来る!)」
地割れした部分から斬撃が飛んでくる。踏ん張って、それをなんとか寸前で避けたが、ゼーレの右耳がポトリと静かに落ちた。
虧欺「........」
ゼーレ「ふぅ...ふぅ....ふぅ.....」
突如、虧欺の攻撃の手を止んだ。ゼーレの耳が千切れ、一瞬ひるんだのにも関わらずだ。
考えているかのように、その場に停止していたが、口を開きはじめる。
虧欺「....見えているよね?」
ゼーレ「....何?」
虧欺「やっぱり見えてるよね。私の斬撃の軌道」
ゼーレ「.....さあね。知らないわ」
虧欺「図星のようだね」
ゼーレ「バレたか....。そうよ、あなたの斬撃は現に私の右目で捉えることが出来た。初めは驚いたけどすぐに理解が追いついたわ」
虧欺「へぇ...(律者のマークは神の目と似て非なるもの....。だけどあの右目が神の目で言う元素視覚の役割を担っているんだ....。右目で斬撃の発生と軌道を捉えてるんだね。なるほど....道理で上から押さえつけないと斬撃自体当てにくいわけだ....。右目は失明していることを考えると本当にこの為だけに存在しているみたい.....)」
ゼーレ「(まさかこのポンコツの右目にも使い道ができるとはね....)」
虧欺「しかし.....ますます面白いね。あなた」
ゼーレ「......」
虧欺「今までの律者では見られなかった、律者のマークが目に刻まれる.....。それが回りに回って私をメタりに来たわけだね。面白い」
ゼーレ「は、はぁ.....」
虧欺「普通なら律者はここに刻まれるんだよ?」
服の衿元を指で下げると、1部だけだが、胸に律者のマークが見えた。
ゼーレ「普通はそこにマークが着くのね.....。なんで私だけ目に.....?」
虧欺「さぁね。それが進化の結果だからなんじゃない?」
ゼーレ「進化.....?」
虧欺「どの生物も進化を経て自分の肉体を1段階上げてきた....それは律者も変わらない。現に、私が死んだ後律者の力の塊は星海に飛び出した。その中に蠢く鯨に飲み込まれた結果、斬撃が透明化に成功した。そういうこと」
ゼーレ「........」
虧欺「心臓は現実世界と精神世界の境界線....。そこからは分かるよね?」
ゼーレ「(心臓が.....境界線?)」
ゼーレの脳内の情報が完結する前に、虧欺が斬撃を飛ばす。
それを避けると共に、攻撃を仕掛けに行く。
ゼーレ「(まぁいい....。斬撃を見れるようになったには好都合.....!好きに近接戦に持ち込める.....!)」
虧欺「(斬撃が可視されるのは予想外....。だけど、今の所問題はないね....。こっちの元素の貯蓄は既に済んである.....!)」
こちらに向かってくるゼーレの姿を見て、虧欺はニヤリと笑った。
ゼーレ「!」
目を見開いた虧欺が突如手を合わせた。
空気が明らか変化する。
虧欺「状況をひっくり返すスパイスが必要だね。聖鍵殿の底のように......」
ゼーレ「(律者の元素が私を取り囲むように充満してる....!)」
何かわかった瞬間、斬撃がゼーレの頸動脈を正確に捉える。
首から血がとめどなく流れてきた。
ゼーレ「っーーーー!!!」
休むことなく、ゼーレの体に無数の斬撃が直撃する。
ゼーレ「(これは.....!あの時の.....!)」
虧欺「あなたのこの技.....少々真似させて貰うよ。再生能力が高い敵にどれだけ単発の斬撃を当てても意味が無いから、多少威力を落として無数の斬撃をひたすら、効果範囲の中に降り注ぐ.....。確かにいいアイデアだね」
虧欺から放出される大量の元素は次第に、領域のようにゼーレを取り囲む。頸動脈に斬撃が直撃した直後、ゼーレは全身に斬撃を食らった。
斬撃の雨を浴びたゼーレの体は血だらけになり、もはや肌色すら見えなくなっていた。だが、猛攻の中でもゼーレは真っ直ぐ虧欺を捉える。
ゼーレ「(ああ......良かった......。私よりも斬撃の威力も精度も劣ってて....。これよりもエルに心臓刺された時の方がよっぽど効いた......!!!!)」
斬撃が一瞬止む刹那、ゼーレは再生能力と同時に元素を放出する。虧欺よりも範囲は劣るものの、斬撃を直撃することは無くなった。
虧欺「!(斬撃が止んだ.....?いや違う.....!互いに拮抗しているのか....!)」
同元素が衝突する時、無効化現象が起きるーーー。それは律者でも例外では無い。境界線では元素の無効化起きている状態でゼーレは再生能力を使用することができる。
元来、元素が充満した空間を作るには元素の溜めが必要である。ゼーレ・ローレンスは今の今まで再生能力を極力使用しなかったおかげですぐに塗りかえが可能となった。
ゼーレ「ふー.....」
虧欺「(私の斬撃の威力が落ちている!範囲同士がぶつかり合う状態だと互いに拮抗状態が出来上がるのか.......!)」
ゼーレ「(ふぅ.....危ない危ない....。まさか私の技がパクられるなんて予想出来なかった....。だけど、極力律者の能力を使わなくて良かったわね....。これがなかったらどうなってたか....。虧欺のスペースのよりも自分のスペースを狭くすることでより境界線を強固にする....。これなら今の所再び虧欺に塗り替えられることもないわ)」
数千の斬撃を受けた体はたった今、修復を完全に終了させる。
ゼーレ「(だけどこの状態を維持するのにそうそこまで長くない....。いずれ押し合いに負けるのは目に見えてる。1に全力で逃走....2に領域の崩壊を狙う.....3に自傷覚悟で自分のテリトリーを拡大し、虧欺を飲み込む....。ああダメね。今の所現実味を帯びてるのが1しかない....。2は近接戦が負けると判明してる状態でそうやすやすと持ち込ませてくれない....。3は今は塗り替えれても今度こそ詰みしか見えない....やはり1で行こう....)」
もし、自分のテリトリーが破壊された場合の対処法を組み立て、いつ虧欺が動き出しても良いように体を構える。
ゼーレ「(さぁどう出る...!?)」
すると突然虧欺がこちらに向かって走り出す。なりふり構わず、自分のテリトリーに突っ込んでくる勢いだ。
ゼーレ「なっ!(気でも狂った!?いくら拮抗状態であっても、こっちのテリトリーに入った瞬間来るのは斬撃よ!?)」
そして、とうとう虧欺が領域に踏み入れたが、特に何も起こることはなかった。
虧欺「ははっ!やっぱり!」
ゼーレ「斬撃が....効いてない.....!」
ゼーレ・ローレンスの斬撃は自分自身の特性上、従来よりも倍以上威力が跳ね上がる。そのため範囲に入ったものは有機物、無機物関係なく塵と化す。だが、足を踏み入れた虧欺の体に変化はなく自由に動き回っていた。
ゼーレが一瞬、物事の処理が追いつかず隙を突かれてしまう。顔面に打撃を食らってしまった。
だが.....
ゼーレ「(痛.....くない!全然痛くない.....!)」
怯んでしまったが、予想よりも遥かに劣る打撃だったのですぐに立ち直り、逆に3発ほど拳を叩き込むと吹き飛んでいく。
それのせいか、虧欺の斬撃の雨が崩壊する。それを待っていたかのようにゼーレもそれを解除した。
虧欺「やっぱり無理だったか.....」
ゼーレ「(私の斬撃を無効化したのは予想外だった....。さっきのはその術を持っているから接近戦に持ち込んだのね......)」
無数の斬撃を繰り広げる技は使用後高確率で力が焼き切れ、数分間のインターバルが必要となる。だが、これは元素の濃度、範囲によって左右される。
ゼーレ・ローレンスよりも威力の高い斬撃を放っていた虧欺はインターバルに入っていることを判断し、再び畳み掛けた。
だが、あの時の押し付けられているような感覚が再び襲いかかり、ゼーレはその場から動けなくなる。
ゼーレ「(これっ.....!また!)」
虧欺「やっぱり、これには対応できないんだね!」
口膣から出てきた血を拭きながら、対応できないゼーレを見て、高々に笑う。そして、細かい斬撃を放ってきた。
その斬撃はゼーレの左目に直撃する。
ゼーレ「ぐっ!!!(まずい!目をやられた.....!)」
斬撃は正確にゼーレの左目を切りつけ、視界を奪われてしまう。右目は元々使うことはできないため、ゼーレは視界が真っ黒になり、目の前で何が起きたのかどうかすら分からなかった。
ゼーレ「(来る....。集中しろ.....)」
怯むゼーレに向かってくる足音が耳に入ってくる。
そして、ゼーレは音の情報を頼りにカウンターを繰り出す魂胆でいた。
虧欺「(右目が斬撃の軌道を見れる以上、今ここで斬撃で追撃しても意味が無い!ここは危ない橋を渡るけど近接戦で!)」
そして足音が消えた。全神経を研ぎ澄まし、五感をフル稼働させる。
ゼーレ「そこ!」
背後に微かな気配を感じ、即刻攻撃を仕掛ける。だが、攻撃したのは虧欺の肉体ではなく、岩だった。
虧欺「残念。外れだよ」
耳元で、ゼーレを煽る言葉が聞こえてきた途端ゼーレは左肩に強烈な痛覚が襲われた。
ゼーレ「(何が起きたの....!左腕が....吹き飛んだ.....!?)」
その判断は合っていた。両手で左腕を掴まれ、斬撃を集中させた結果、いとも簡単に腕は吹き飛ぶ。
ゼーレ「はぁ....はぁ....はぁ.....」
顔と肩から血がぽたぽたと滴り落ちる。あまりの痛覚に地面に膝を着いた。
そんなゼーレの喉笛に指がゆっくりと添えられる。
ゼーレ「いつでも私の首を....飛ばせるぞという脅し.....?」
虧欺「.....かな」
ゼーレ「ちっ....」
虧欺「ねぇ、治せるでしょ?」
ゼーレ「何?」
虧欺「その腕再生できるよね?」
ゼーレ「......」
虧欺「箸で針に糸を通すような緻密な元素操作ができるあなたなら欠損部位を生やすことは容易い....。治してよ。できるでしょ?」
ゼーレ「.....ただの傷ならそれの空いた部分を埋めればいい....。それなら今までの律者もそれは簡単にやってのけた。だけど、欠損部位を生やす再生能力はその中でも高度な技術を持ってる者にしかできない....」
虧欺「本来無いものを作り出すからね.....何よりも才能が必要だから。緻密な操作ができる上に、あなたの特性が欠損部位の再生が可能となると思うんだ」
虧欺「やってみてよ。攻撃も何もしないし」
首元から指先を離し、少し離れた所でゼーレの様子を見ることにした。
ゼーレ「.......(簡単に言ってくれるわね...。まぁいい.....斬られた左目も徐々に回復しつつある)」
左肩に体の力全て加え、腕を構築するイメージを頭の中で思い浮かべると、メキメキと肉の音が聞こえてきた。
骨、肉、最後に皮膚の順番で再生し、ゼーレの左腕が完全に再生しきる。
ゼーレ「はぁ.....!はぁ....!はぁ.....!(で、出来た......!!!本当に腕が生えてきた.....!!!)」
腕が再生すると同時に眼球の修復も完了したようで、ようやく視界を取り戻す。
ゆっくりと立ち上がり、一発で欠損部位を再生させたことに驚いている虧欺を睨みつけた。
虧欺「......!(本当に一発で再生させた.......!かなりの精度だね.....。高度の技術を要する上に欠損部位を治すことは予想以上の力を使う....。瀕死の状態で再生出来るという事はやっぱり、元素量の少なさに関わるんだ...)」
ゼーレ「(私は今までの魔神や神と比べて、体内を巡る元素量は1段階劣る....。そこで、私は出力と自然回復力を鍛えた.....。敢えて元素を全てを出し切ることで瞬間火力で決め切る。だから、瞬間的に欠損部位を直せたのでしょうね)」
虧欺「(元素を全て出し切ると同時にわざと元素出力を下げる。すると、その反動で火力も上がるっていうカラクリだね。面白い.....)」
虧欺は頭の中で一旦整理が着くと、ゼーレのとある場所を見つめ、指先を出すと、口を開く。
虧欺「もうひとつ生やしておくところがあるんじゃない?」
その指先はゼーレの右肩を指していた。
ゼーレ「.......できない」
虧欺「なんで?」と、少し被り気味で聞き返す。
ゼーレ「これは契約で失った腕よ.....!吹き飛んだのと訳が違うわ。あなたなら契約違反の罰はどれだけ重いか分かっているはずよ、虧欺」
虧欺「契約はどちらかが破棄するか、死亡したら無効になる。もうとっくにその魔神は死んでるはずだけど.....」
ゼーレ「イポスルはもう力がない状態で私のために未来を変えてくれた.....。彼女を踏みにじるわけは行かないでしょう......!」
虧欺「ふぅん......。なんで腕を切り落とした時、傷を焼いたの?」
ゼーレ「何の事.....?」
虧欺「あの状態ならまだ何とかできたかもしれないのに.....。テイワットに広く流通している止血効果の有るググプラム...。それを塗りこめばまだ何とかできたのにね.....」
ゼーレ「......。なんだか医者みたいな口振ね」
虧欺「残念、本当に生前は医者でした.....」
ゼーレ「そう...」
虧欺「まぁいいや....。律者の再生能力は、頭の中で強くイメージする力が必要なのに加え、筋肉に刺激を与えることが必要なんだよ?その2つの要素が合わさって初めて欠損修復ができる。覆水盆に返らずだし....。じゃあ、そろそろラウンド2といこう」
ゼーレは立ち上がり、戦闘態勢に入る。
両者、指向性を定めると同時に再び斬撃が満ち満ちとした。
虧欺の前回の出力では、同元素の衝突も相まってゼーレの領分を破壊するのは不可能だった。2度目の展開ではさらに出力を上げると同時に効果範囲を絞ることによって完全破壊を試みる。対してゼーレも同様に範囲を狭めることによって拮抗状態を1秒でも延ばすことにした。
前回同様、互いに腹をさぐり合うと思われた。だがーーー
ゼーレ「!?(私も効果範囲を絞ったのに、破壊されていく......!?)」
予想とは裏腹に、ゼーレのテリトリーが剥がれていく。それに漬け入るかのよう、虧欺の元素が膨張していった。
虧欺「魔物は魔が強いほど力を増す。魔に堕ちた今、あなたが律者の力を使えば使うほど私の力も上がっていくんだよ!!」
そして拮抗状態17秒後、ついにゼーレのテリトリーが崩壊。ゼーレは斬撃の雨の中に再び包み込まれる。
虧欺「(あなたはこんなものじゃないでしょう.....?さあ、どう出る....!?)」
虧欺は正直ここで決まるとは微塵も思っていなかった。むしろゼーレは逆境に立たされてこそ思わぬ真価を発揮するのだと信じている。
その期待通りゼーレは真っ直ぐこちらに迫りかかってきた。
虧欺「(斬撃範囲の中で自由に動けている......!?)」
元素強化した両腕で打撃を受け止めたが、威力を殺し切れることなく、吹き飛ばされた。
そして、打撃を食らった部分から落ちてきた氷の欠片を見て全てを理解する。
虧欺「(体に氷元素を纏っているのか.....!律者の元素は他元素と反応することは無い....!だから纏うことで斬撃の威力を中和すると同時に常に再生能力を回すことで、私の斬撃を凌げている....!)」
ゼーレ「(咄嗟の判断でやってのけたけど100点満点の行動だったようね!包丁で斬られた程度に落ちた斬撃を再生能力で簡単に治す.....。これなら時間稼ぎになる.....!そして、今ので確信した。虧欺は今律者の壁をoffにしている....!この斬撃はタメが必要だから、それに集中するために斬撃の前後は元素を体の周りに展開することを諦めざるを得ない.....!これなら10分程度なら凌ぐことが出来る....!!!あなたが私の装甲を剥がすか、私の拳で決め切るかの勝負ね.....!)」
虧欺「(カラクリがバレた!これがないとまともに近接戦ができない!更に効果範囲を絞ることで壁の形成にリソースを割く.....!)」
半径70mだった領分は更に半径15mに絞られたことによって、再び虧欺はバリアを展開した。だが.......。
虧欺「ぶべっ!!」
バリアを展開したが、ゼーレの拳はそれを貫通して、顔に拳を叩きつけた。
虧欺「(バリアを貫通した...!?なるほど!氷を纏っているからバリアすらもを中和して破ってくる...!今私は卵の殻を被っているのと同じだ!!)」
ゼ ーレが低姿勢で指ピストルの形を作ると、そこからボールサイズの氷の粒が勢いよく発射される。虧欺はそれを軽く避けた。
ゼーレ「(ちっ....!避けられた....!だけど、力の焼き切れをするために、まずは領域の崩壊を狙う!!!)」
この技の発動には少なくとも、元素のタメ、そして斬撃の指向性が発動が不可欠だった。虧欺は両手を合わせ、ゼーレは母指と環指で輪っかを作ることで維持する。聖鍵殿の底で初めて発動した時、ゼーレ・ローレンスは片腕を突き出すことで発動させた。だが、これは片腕がない状態では圧倒的な不利になる。そこでゼーレ・ローレンスは改良の結果、今の形にたどり着いた。
ゼーレ「(どうやら両手を合わせることで指向性を定めてるようね......!律者の壁も今の出力で簡単に貫通できる今、圧倒的に有利なのは私....!)」
千載一遇のチャンスを見逃す訳がない。ここで決着をつける気概で接近し、拳を構える。だが、虧欺の顔面に拳が衝突する寸前、ゼーレは地面に叩きつけられていた。
ゼーレ「ちっ.....芸のない.....!!!(本当これは何....!?上から何かに叩きつけられているかのような感触がする...!!もしかして重力......!?)」
今までの経験からゼーレにはこの謎の攻撃に対処する術がないと判断した虧欺は、悠長に再生能力を回しながらどう対処しようか考えているところだった。
だがそれも裏腹に、あろうことかゼーレは押し付けられながらもゆっくりと体を起こし始める。
虧欺「...!」
ゼーレ「(やっぱりね.....!これは重力とか言う大層なものじゃない.....!ただただの律者の元素を凝縮して質量攻撃として私にぶつけてるだけ....!!だから、肉体と纏っている元素との距離が極限に近い今、それが中和しているからこれさえも無効化してしまう......!!!)」
カラクリを全貌を理解したゼーレは悪魔のような笑い顔を浮かべると、虧欺の合わせている両手にパンチを叩き込み、破壊した。
筋肉と骨の原型がなくなるほど、変形した手にもはや指向性を定める力は残っておらず、これより15秒後、虧欺の領域が完全崩壊を向かえる。
虧欺「しまっーー」
ゼーレ「あなたが詰めが甘いタイプで本当よかった」
虧欺「はっ?」
ゼーレ「さっき放った氷はまだ終わってないわよ」
後ろを振り返った時には、時すでに遅しだった。
指先から放たれた氷の粒は飛距離を上げた後、軌道を変え、持ち主のところに回帰した。
そして、その粒は正確に虧欺の脇腹を貫通する。
ゼーレ「最後の小石はまだ私の手のひらよ。だから氷元素を込めて、引力で軌道を変えた」
虧欺「(しまった......!)」
血が止まらない脇腹の痛みにもがき、地面に崩れ落ちる。
だが次の瞬間、打撃によって潰された片手が再生し、その手がゼーレの胸倉をつかんだ。
その片手から斬撃が繰り出され、掴んだ体を切り刻む。ゼーレは瞬間的に距離を取ったが、体に細かい傷が付き、輪を作っていた環指が地面に落ちる。
両者、指向性を失い、元素が強制解除された。
だが、2人はこの強制解除によって力は焼き切れは起きていなかった。崩壊後の焼き切れはあくまでも、長時間使用した場合のみ。ゼーレは2度目の拮抗で元素を放出していない。そして虧欺も質量攻撃を解除し、全てを斬撃に集中するために行動を移した。
未だ治って居ないもう片方の拳と脇腹をえぐられた虧欺、指と体が斬られたゼーレ。素早く修復作業を終わらせた者が戦況を大きく動かすことは明白だ。
一瞬早く再生したゼーレだったが、次の瞬間、鼻と目から血が流れてきた。
ゼーレ「!?」
2度の高密度の元素の使用。そして度重なる欠損再生。既にゼーレ・ローレンスの体は半分死んでいるとほぼ同義だった。力を使用する度に体が悲鳴を上げ、大きな反動が襲いかかる。
怯んだその刹那、僅かにゼーレの展開が遅れてしまった。