間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第5幕『戦火呼びし黄金のアポカリプス』②

ティナリ「うん........!傷が完治してるね。おめでとう」

 

 

と、ティナリは空の体の状況を見て、そう呟く。

 

 

出発する前に空とパイモンはガンダルヴァー村に訪れ、ティナリに体の状況を診て貰った。

 

 

上半身の服を脱ぎ、体に巻き付けてあった包帯を外して、半裸の状態で肉体を見たが、すっかり傷は収まっていた。

 

 

一生傷だと覚悟していた斬撃の後もすっかり戻っている。

 

 

空「(よ、良かった......。ゼーレが手加減したって言ってたけど、あれは本当だった.......)」

 

 

パイモン「ふぅ......旅人良かったな!」

 

 

空「そうだね」

 

 

ティナリ「それにしても........おかしいね」

 

 

パイモン「ん?何がだ?」

 

 

ティナリ「僕はそれなりに治療行為をしてきたから、この傷はどれだけの日数をかければ完治するとか予想できるんだけど......やけに遅いね......。.....もしかしてまだ完治していないのに激しい運動をしたとか言わないだろうね?」

 

 

ティナリの問いかけに2人ともギクリとたじろいでしまった。

 

 

ティナリはそんな様子を見て、やれやれと首を横に振る。

 

 

ティナリ「やっぱり......。そんなことだろうと思った。完治したからまぁいいけど」

 

 

パイモン「え、えへへへへ.....」

 

 

ティナリ「もうこれで包帯を巻く必要もないわけだね。お疲れ様」

 

 

パイモン「そうだな........。あ、そうだティナリ。エウルアの状況はどうなってるんだ?」

 

 

ティナリ「エウルア?ああ、あの人か。そうだね、現状変わらず.....ってとこかな。どこにも異常がない。だけど、変わらず眠っている......。そうと言うしかないよ」

 

 

空「.........。ティナリ、これ以上世話になるのも申し訳ないし、エウルアをこっちに渡してくれないかな?」

 

 

ティナリ「えっ......。うーん......」

 

 

空「異常も何も無いし、ティナリ達の負担になっていると思うからさ.......」

 

 

ティナリ「渡すって.......君達はどこにあのエウルアっていう女性を連れていこうって思うっているの?」

 

 

空「モンドに連れていくよ。彼女は西風騎士団の騎士だからさ.....。みんな心配していると思う........」

 

 

ティナリ「........。分かったよ。本当は不本意だけど、君を信用するよ」

 

 

パイモン「ありがとう!ティナリ!」

 

 

そうして、空は未だ覚めないエウルアを抱き抱えると、ガンダルヴァー村を去っていった。

 

 

これから、ゼーレと約束している時間までにオルモス港を目指す。

 

 

村の入口でティナリとコレイが見送りをしていたが、いつまでもコレイから不安は消えていなかった。

 

 

ティナリ「コレイ、どうしたの?」

 

 

コレイ「ティ、ティナリ師匠、あ、あたし、エウルアがずっとあのまま目覚めないままだったらと考えると焦るんだ.......」

 

 

ティナリ「コレイ、君の友達を心配するつもりは分かるけど、復帰を信じるのも友達なんじゃないかな?」

 

 

コレイ「.......はい」

まだ朝日が登って時間が経っていない頃、スメール港を見れる所にゼーレとナヒーダが会話をしていた。

 

 

誰も居ない時間帯なのも相まって、ナヒーダは別れに多少の心残りがあった。

 

 

ナヒーダ「....もう行っちゃうのね。少し寂しいわ.....」

 

 

ゼーレ「いつまでもあなた達に世話になるのも申し訳ないしね....」

 

 

ナヒーダ「これで、あなたと会話するのも最後と考えるとどうしても胸が苦しくなる....。あなたの心の成長を見てきて、私も何か感じるところがあったわ」

 

 

ゼーレ「そんな最後の別れみたいな事言わないでよ.........。たまには顔を出すつもりで居るから、それでいいでしょう?」

 

 

ナヒーダ「....分かったわ。これからモンドに行くんですって?」

 

 

ゼーレ「そうよ。私の生まれた故郷で少しやりたいことがある。その後の事は.......まぁ、考えられていないけれど....」

 

 

ナヒーダ「あなたが見たテイワットの未来のことを考えると、わたくしもすこしでも良い未来になるように動かないと....」

 

 

ゼーレ「........。私の覚悟は変わらない....。これからも私はアビスを殺し続ける。だけど、困った時はあなたに頼るかもね。周りを頼る力が必要.....そうでしょ?」

 

 

ナヒーダ「ちゃんとわたくしの言葉覚えていたのね.......。本当、あなた変わったわね。いい顔をしている....」

 

 

ゼーレ「そ、そんなことないと思うけど.....」

 

 

ナヒーダ「誰が見ても分かるわ.....。前のあなたは生気が無かったけれど、今のあなたの希望に満ちて、心に芯があるわ」

 

 

ゼーレ「そうかな.....。ありがとう....。あっ、そうだこれ。あなたにあげる」

 

 

そう言うと、ゼーレが漁る動作をし、「じゃじゃーん」と小言と共に花冠が出てきた。

 

 

8本のピンクのカーネーションが着いた、甘い香りを放つ花冠。それを見たナヒーダは嬉々として喜んでいる。

 

 

頭にちょうど嵌った花冠を被った見た目が幼女の彼女は花冠も相まって、更に可愛らしい見た目に磨きをかけた。

 

 

ゼーレ「似合ってる」

 

 

ナヒーダ「これはいい物貰ってしまったわね。いつ編んだのかしら?」

 

 

ゼーレ「昨日の夜よ。本を見ながら自分で編んだわ。あなたが私にしてくれたことを考えるとこれじゃ全然足りないことは分かっているけど、せめてお礼だけはさせて欲しい」

 

 

ナヒーダ「いいえ、足りないなんて微塵も思っていないわ。それに私は見返りを求めるために助けた訳じゃない。あなたが神として救うべき人間だった.....ただそれだけよ.....」

 

 

ゼーレ「.........。そろそろ行かなくちゃ....2人が待ってる....」

 

 

ゼーレが左手でナヒーダの小さな両手を掴むと、口角を上げて微笑む。

 

 

ゼーレ「さようなら、ブエル。またどこかで」

 

 

ナヒーダ「ええ、さようなら。そして、行ってらっしゃい。.....ゼーレ」

 

 

手を振りながらナヒーダに別れを告げ、姿が消えるまでずっとナヒーダは遠い所を見ていた。

 

 

ナヒーダ「.....ずっと後ろで聞いていたのでしょう」

 

 

スカラマシュ「ちっ.....」

 

 

そして、とうとうゼーレが姿が消えたことを確認したナヒーダは静かに目を瞑ると、後ろからの気配に言葉をかける。

 

 

すると、建物の物陰からスカラマシュが出てきた。

 

 

スカラマシュ「偶然を装って出てこようと思っていたけど、バレていたのか......。相変わらず君は察知する能力だけは立派だね」

 

 

ナヒーダ「ふふ、あの子は心が正直になったけど、あなたはまだまだ素直じゃないわね」

 

 

スカラマシュ「はぁ....僕はあの女が遂に居なくなって清々したけどね。肩が軽くなったさ」

 

 

ナヒーダ「....実際の所はどうなのかしら。少し寂しく思っているのでしょう?」

 

 

スカラマシュ「そんなわけないだろう....。さぁ、早くスラサナンタ聖処に戻った方がいいんじゃないか?こんな目立った所にいると、君の熱心的な信者が集まってきて少々面倒くさいことになるからね」

 

 

ナヒーダ「........そうね」

オルモス港に無事集合出来た3人はモンドのドーンマンポートに出港する船に乗った。

 

 

空はこの船に乗る前にゼーレがまた商人と交渉するのでは無いかと思っていたが、案の定その行動に移したので2人で半場強引に正規の船に乗らす。

 

 

そうして、船に数時間揺られて、ドーンマンポートに到着。そこからモンド城が見える位置まで歩いてきた。

 

 

パイモン「ふぅーーー....ようやくモンド城に着いたな!のどかな草原に、牧歌的な風車!これぞモンドって感じだよな!」

 

 

空「そうだね....。ゼーレはモンドに来るのは数年ぶりだっけ」

 

 

ゼーレ「そんな数年ぶりとまでは行かないけど、少なくとも2年以上はモンドの地に足を踏み入れてないわ」

 

 

パイモン「えーっとそれで、まずはエウルアを西風騎士団に預けないと行けないよな....。そうだろ?ゼーレ」

 

 

ゼーレ「そうね....。それでそのことなんだけどあなた達がエルを騎士団に渡してくれないかしら....」

 

 

パイモン「え?なんでだ?船じゃ私がエルを届けるとか言ってたのに.......」

 

 

ゼーレ「私も最初そう考えていたけれど、よくよく考えたらあなた達がいいと思って....。騎士団からすればエルは仕事を投げ出してスメールにやってきたのでしょう?騎士団側も妹を心配してるはず....。それに、浮浪者の私なんかより、名誉騎士と持て囃されているあなたの方がスムーズに話は通ると予想できるわ。だから....お願い」

 

 

空「そこまで言うなら.....。分かったよ」

 

 

パイモン「確かゼーレもやることがあったんだよな」

 

 

ゼーレ「.....ちょっとね。モンド城の途中まであなた達を見送ってから、私の用事を済ますわ」

 

 

そうして、綺麗に塗装された石橋を通り、モンド城の門をくぐる。

 

 

西風大聖堂に続く、人通りの少ない階段まで来るとここでゼーレは別れるようだ。

 

 

別れる寸前、エウルアを包んでいた白い布を捲って、そして頭を優しく抱きしめた。

 

 

ゼーレ「お願い、早く目覚めてエル.....。あなたに謝らないといけない.......それにいっぱいあなたと積もった話したいから....」

 

 

空「.......」

 

 

耳元で小さくそう呟いて、しばらく抱きしめていたが、離れ、ゼーレは手を振りながら階段を逆方向に降りていった。

階段を降りると、右手には家壁のせいで影になっている暗い路地裏がある。そして、そこを抜けると門前にやってきた。

 

 

モンドの主要都市ということもあって、かぼちゃやじゃがいを乗せた荷車を運んでいる商人や陶磁器を売っている屋台など、市場でそこは繁盛している。

 

 

そんな中、低い石垣のそばには花屋が開かれていることをゼーレは再確認した。

 

 

背の低い木の机が並び、その上にオレンジ色の花が売られていて、さらにその前には4つの花瓶が地面に置かれている。

 

 

そんなひっそりと開いている花屋をゼーレは階段を登る時に見ていた。

 

 

ゼーレ「(あった.......)」

 

 

花の甘い香りに導かれるまま、そのこじんまりとした花屋に近づく。

 

 

そこでは、フローラという小さな少女とドンナという大人の女性が喋っていた。

 

 

ドンナ「フローラさん、結局この前言っていた、ドラゴンスパインに生け花を植える実験は失敗でしたね」

 

 

フローラ「ふふ、そうだね。フローラはいい案だと思っていたんだけどね」

 

 

ドンナ「発想自体は面白いと思いますが、ドラゴンスパインには魔物が沢山居ますし、花も破壊されちゃいます.....あれ、いらっしゃいませ」

 

 

他愛もない会話をしていると、ドンナがこちらに近づいてくるゼーレに気づいた。

 

 

フローラ「お客さんだね。いらっしゃいませ、花言葉にようこそ」

 

 

ゼーレ「(....子供?)あら、お嬢さん。お母さんのお手伝い?偉いわね」

 

 

ゼーレはフローラの目線に合うようにしゃがみこみ、そして売られている花を間近で見始めた。

 

 

フローラ「ふふ、違うよ。花言葉の店主が私だよ」

 

 

ゼーレ「えっ...そうなの?」

 

 

ドンナ「よく間違えられるんです。フローラさんはこの年で花に精通しているので、花屋を開店したんですよ。私はアルバイトとして働いています」

 

 

ゼーレ「へぇ....。(不卜㢒もそうだったわね.......。偶然なのか知らないけど、子供が店に携わっているところが多いわね....)」

 

 

フローラ「それで、あなたは花言葉に花を買いに来たの?」

 

 

ゼーレ「ちょっと気になってね....。ここは何を売っているの?」

 

 

フローラ「ふふ、モンド特有の花なら全部売ってるよ。イグサ、セシリア、ドドリアン.....いっぱい。後、時期によっては他国の花も売ってるよ」

 

 

ゼーレ「そうね....人に贈るのに適した花はある?」

 

 

フローラ「定番はセシリアかな。モンドの花ってどれも素敵だから、極論どれでもいいよ」

 

 

ゼーレ「じゃあセシリアを....あ、待って....それでいいのかな....」

 

 

フローラ「ん、どうしたの?」

 

 

ゼーレ「ああ、いや....。私が花を送りたい人はどうしても花を好きということを想像できないの」

 

 

フローラ「フローラは花を贈られて嫌いな人は居ないと思うよ。花には人を魅力する力があるの。だから、言葉を乗せた花はきっと素敵なものになるよ」

 

 

フローラの花の魅力を伝える言葉とは裏腹に、ゼーレの脳内では男性が悪酔いして虚ろな言葉を吐き、机と床には空いた酒瓶が散乱している光景がフラッシュバックしていた。

 

 

この印象が強い人に花なんて似合うのかどうか分からなかったが、とりあえず相槌を打っておく。

 

 

ゼーレ「.....そうね」

 

 

フローラ「ん?あれ....?」

 

 

ゼーレ「どうしたの?」

 

 

突然、フローラが口に指を当てて、ゼーレの顔をまじまじと見始めた。

 

 

フローラ「フローラが一瞬見間違えただけみたい.....。あなたが青色のお姉ちゃんに似てたから....」

 

 

ゼーレ「青色のお姉ちゃん....?」

 

 

フローラ「毎月、花言葉に同じ花を買いに来る騎士のお姉ちゃんがいるの。その人にあなたがかなり似てたから一瞬同じ人だと勘違いしちゃった」

 

 

ドンナ「フローラさん、もしかしてその人エウルアさんって人ですか?確かに、今月はまだ買いに来ていませんね....。もうとっくに訪れていてもおかしくはないのに....」

 

 

ゼーレ「......!ちなみになんでその人は毎月花を買いに来ているの?」

 

 

フローラ「毎月会いに来ているからフローラはそのお姉ちゃんと仲良くなったの。私は花を買う理由は、離れ離れになった姉に思いを届けるためだって言ってたよ。いつか、会える日がありますようにって....。優しいお姉ちゃんだよね」

 

 

ドンナ「私が最初出会った時も印象とは裏腹に誠実な印象だったことを今でも覚えてます」

 

 

ゼーレ「印象とは裏腹....?どういうこと?」

 

 

ドンナ「モンドに生まれた人なら知っていると思いますけど、あの騎士の人はローレンス家の出身なんです。ローレンス家の人間が騎士団に入ることになると、モンド城の住人が猛反対したんです。私も正直警戒していました。だけど、知り合っていく内に彼女の内側にある優しさを知ったんです。彼女よりも他者を思いやれる人は居ないと思いますよ」

 

 

ゼーレ「.......。じゃあ、折角だからそのエウルアって人と同じ花を買おうかな.....」

 

 

フローラ「いい案だね」

 

 

ゼーレ「その人はまだ今月買いに来ていないのでしょう?代わりに私が買っておくわ」

 

 

フローラ「はい、これ」

 

 

後ろの樽から白いスズランを持つと、それをゼーレに見せつけた。

 

 

2枚の倒披針形の葉に、茎から生えている10個の白い花。純白の花にゼーレの心はどこか落ち着いた。

 

 

ゼーレ「(これがエルが買ってた花.....)」

 

 

それを貰うと、フローラの小さな手のひらに数枚のモラを払った。

 

 

門をくぐり、モンド城とは逆方向に歩き出していく。モンドの自然の中を歩いている途中、先程の会話を思い出した。

 

 

ゼーレ「(エルが優しいことは小さい時から私がそばに居たから....だけど、そんなのモンドの人達は知らない。そんな中でエルは戦っていたんだ.....。ごめんね...辛い思いをさせて....)」

第5幕②[完]

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