間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第5幕『戦火呼びし黄金のアポカリプス』④

時間は少し遡る.....。

 

 

ゼーレが階段を降りていく姿を見ていて、完全に見えなくなったら、空とパイモンは、エウルアを背負いながら、西風騎士団本部を目指す。

 

 

そんな時、階段を登っている途中、近くから鐘の音が聞こえた。西風教会の鐘だ。カーンカーンと澄んだ音色が、モンド城全体に響き渡る。

 

 

パイモン「おっ....この鐘の音ってちょうど正午を知らせる鐘だよな.....。もうそんな時間か.....。船乗りで体が疲れたし、何よりオイラ、お腹が空いたぞ......」

 

 

パイモンが自分の腹に手をあてる。

 

 

空「俺もだよ。エウルアを届けた後、鹿狩りで食べようか」

 

 

パイモン「おお!ご馳走だ!」

 

 

パイモンは手足を動かして精一杯喜びを表現した。

 

 

パイモン「....だけど旅人、エウルアを何て言いながら身を引き渡せばいんだ?」

 

 

空「あ.....確かに.....」

 

 

パイモン「正直に言うか.....?」

 

 

空「うーん......」

 

 

パイモン「絶対になんで旅人がエウルアを連れてきた事となんでエウルアの意識がないことジンに聞かされそうだよな.....」

 

 

空「正直に言えば、ジンとアンバーが心配するし....嘘をついても2人に申し訳なさがあるし......うーん.....」

 

 

パイモン「....エウルアは確か休みを取ってスメールに飛んできたんだよな.....?オイラ達は何も知らない状態でスメールで倒れてた。そしてオイラ達はエウルアをガンダルヴァー村に運んで、エウルアはそこで治療された。それで騎士団に運んできた......どうだ?」

 

 

空「.....それしかないよね。そうだね、それでいこう。それでエウルアが本当の事を喋るってなったら....その時は土下座する勢いで謝ろう」

 

 

そうして2人は騎士団本部にたどり着いた。

 

 

積み重なった石畳で出来た建物は牧歌的なモンドの中で圧倒的な存在を放っている。

 

 

数段の階段を登ると格子状の鉄で覆ってある扉が構えていた。

 

 

扉を触ると冷たい金属の感触が伝わってくる。片手に力を入れると重々しい扉が開き、2人は騎士団に足を踏み入れた。

 

 

騎士団の内部の様子は数日前同様、ガラガラで静かなものだった。ホールを照らす明かりも消え、誰1人居ない。隙間から流れてくる風の音しか聞こえなかった。

 

 

パイモンがまさかという顔をする。

 

 

パイモン「おいおい...もしかして.....」

 

 

空「あの日と同じ休みなのかもね.....門番がいなかったから何となく察したけど.....逆に団員の目を引かないから好都合だね」

 

 

間違いなく今自分の状態は奇妙で、人の目を引いてしまう。ここに来るまでも一般人の目線が痛いほど刺さったのだ。

 

 

その時左側にある部屋の扉がガチャりと開く。そこからジンが出てきた。

 

 

ジンは、静かな場所に2人がいる事と中身が入っている白い布が空の背中にあるという奇妙な状況に口をあんぐりしている。

 

 

パイモン「ジン....!」

 

 

ジン「聞き覚えのある喋り声が聞こえてきたから、様子を見に行ったらやはり、名誉騎士だったか。今日はどのような用事だろうか.......」

 

 

空「ジン.....エウルアのことだけど.....」と、今にも消えそうな声で空が声を出す。

 

 

ジン「エウルア?エウルアに用があるのか?残念だが彼女は今スメールにいる」

 

 

空「いや......エウルアは今俺の背中にいるよ.....」

 

 

ジン「.........?というと?」

 

 

ジンが首を傾げる。

 

 

意味をあまり理解出来ていないと思ったパイモンは白い布を僅かにたくし上げ、眠っているエウルアの顔を見せる。

 

 

ジン「.....!」

 

 

 

 

 

ジン「........。もう一度聞くが......本当の眠っているだけなのか?」

 

 

救護室のベッドの上で寝ているエウルアの傍で立っているジンがそう言った。

 

 

彼女はエウルアの脈を取り、瞼を触れて確認している。

 

 

パイモン「そ、そうだな....。ガンダルヴァー村の医者がそう言ってたぞ。体のどこにも異常はないし、眠っているだけだって。流石にジン達が心配してるだろうからオイラ達が運んできたんだ」

 

 

ジン「ガンダルヴァー村......。確かスメールにある村の名前だったな.....。偶然、倒れているエウルアを発見した......との事だが、それは確かか?他になにか知っていることはないか?」

 

 

パイモン「えーっと.....うーん....そうだな......」

 

 

パイモンは考える素振りを見せる。その間にジンに気づかれないように空に目配せをする。空も同様にバレないよう小さくうなづいた。

 

 

空「そうだね。俺達は偶然遭遇しただけだよ」

 

 

ジン「そうか.....」

 

 

答えを受け入れたジンはしょんぼりした顔でベッド横に置いてあった背もたれのない椅子に腰掛ける。

 

 

ジン「エウルアはとある理由でスメールに単独で向かっていた....。彼女と文通していたが、ばったりと返信が止まったので、内心何かあったのではないかと心配したが、こうしてエウルアが帰ってきたことは安心した」

 

 

パイモン「そうだったんだな......」

 

 

ジン「だが、困ったな.....。これだとますます騎士団に負担にかかる.....」

 

 

空「ん?どういうこと.....?」

 

 

ジン「あっ......いやただの独り言だ。気にしないでくれ」

 

 

ジンが焦って訂正する。だが、当然それで2人が納得する訳がなく、パイモンが食い気味で喋った。

 

 

パイモン「おいおい....独り言で済まないだろ.....何か起きたんだろ?オイラ達に気兼ねなく話してみろって!」

 

 

ジン「......」

 

 

ジンは黙って俯いた。そして、正直に話す。

 

 

ジン「今日は本来......仕事の日だ。だけど、騎士団のホールは静かだっただろう?」

 

 

空「え?仕事の日なの?前みたいに休日だから人が居ないと思ってた」

 

 

パイモン「門番も居ないし、ホールには誰も居なかったよな......。なんだ?モンド城の巡回にでも行っているのか?」

 

 

ジン「いや....違う....。実は数日前エウルアが隊長の遊撃隊をヒルチャールのとある任務に配置したのだが、8割程の団員が怪我を負う結果になってしまったんだ.......」

 

 

パイモン「え.......なんでなんだ....?」

 

 

ジン「未知のヒルチャールが現れたのが原因だ....。そのヒルチャールは人間の言葉を喋り、そして精鋭揃いの遊撃隊をいとも簡単に壊滅させた.....」

 

 

空「人間の言葉を喋るヒルチャール......!?」

 

 

パイモン「そ、そいつにやられたから怪我をしたのか.....!」

 

 

ジン「......私が原因だ」

 

 

空「え?」

 

 

ジンが自分の太ももの上に乗せていた手を力強く握りしめた。血が流れてきてしまうような力だ。

 

 

ジン「私の配置ミスなんだ.....!隊長が不在の遊撃隊を普段よりも簡単な任務に派遣すれば良いと自分の中で思っていた.....。だけど、結果はこれだ.....!完全に私の怠慢が原因で怪我を招いてしまった.....!」

 

 

空「そんな突然変異のヒルチャールが出現するなんて誰も予想出来ないからジンがそう思いつめる必要なんてないよ.......」

 

 

パイモン「そうだぞ!お前は悪くない!」

 

 

2人でジンに励ましの言葉を掛けるが、弱々しい態度とかぼそい声は改善しない。

 

 

ここまで自信がないジンを見るのは初めてだった。

 

 

ジン「だが、責任がある立場の私が何とかしなければ......。部下に示しがつかない.....。今は怪我を負った団員は快調に向かっているが、療法の途中だ。だから必然と人手不足が前よりも深刻になってな....。私も団員と一緒に門の警備や見回りをしているんだ.......。.......あ、済まない、つい喋りすぎた。君たちには関係ない話だったな。私の愚痴を聞いてくれてありがとう」

 

 

空「.....関係ないよ」

 

 

ジン「え?」

 

 

思わずジンの顔が上がる。

 

 

空「その事件俺達に引き受けさせてよ。必ず解決させてみせる」

 

 

ジン「いや.....そうもいかないだろう。自分のまいた種は自分で刈り取らなければ.......」

 

 

空「俺を名誉騎士として任命したのはジンだよ?名誉騎士としてモンドの危機を救う」

 

 

ジンは思わず唇を噛んだ。空のそんな言葉に湧き出てくる感情を必死に押さえつけているように見える。

 

 

ジン「......ありがとう」

パイモン「ここが人語を話すヒルチャールが出現した場所か?」

 

 

ジン「ああ......ちょうどあそこから出現したと団員達が証言してくれた」

 

 

凄惨な現場が未だに残っているヒルチャールの部落にやってくると、ジンがとある場所を指差す。

 

 

その方向を見ると、少し盛り上がった小さな崖があり、その上に森があるのだが、木がなぎ倒されていた。それは、ヒルチャール王者がちょうど入る隙間だ。

 

 

その隙間は森の奥深くまで続いている。

 

 

ジン「確か、木をなぎ倒してそのヒルチャールが逃げていったらしい.....」

 

 

パイモン「ひえ.......。木が根元から折れてるぞ.......」

 

 

何百年も人の手が加わってないであろう幹が太い木が無惨にも折られている。

 

 

説明しているジンとそれに恐怖するパイモンを片目に空は集落全体を見渡した。

 

 

血痕が染み付いている地面、地面に突き刺さった武器、そして、折れた部落の備品。これだけの情報だけでもこの場で起きたことが簡単に想像出来る。

 

 

そして、自分達以外に人もヒルチャールも居なかった。集落の残骸だけがそこにあるだけだ。

 

 

パイモン「そういえばなんでヒルチャールがいないんだ?」

 

 

ジン「流石にここまで崩壊した部落にはヒルチャールは住み着かないと思う。逆にその方が好都合ではあるが......」

 

 

パイモン「ここら一帯がモンド城から近いし、ヒルチャールが少ないのもあるんじゃないか?」

 

 

空「とりあえず二手に別れて部落を探してみよう」

 

 

ジン「ああ....。数日前騎士団が調査に入っているが、見落としているかもしれない。探してみよう」

 

 

そうして、ジンと一緒に部落の隅々まで何か手がかりになるものがないか探していると、パイモンが喋りかけてきた。

 

 

パイモン「なぁ旅人、オイラ達なんだかすごい事件に首を突っ込んでしまったよな......」

 

 

空「そうだね......」

 

 

パイモン「言語を話すヒルチャール......オイラ何となくアビス教団の手がかかってると思うぞ......」

 

 

空「パイモンもそう思う?実は俺も同じ事考えていたんだ。今は断定はできないけど......」

 

 

パイモン「今までの経験からか?」

 

 

空「うん......」

 

 

アビス教団はヒルチャールを操れる。それを今までの旅で経験してきた。それに、ゼーレが見たモンドの未来は数年後に必ず起きる未来......。時間に余裕はない。もしかしたら、これがテイワットに牙を剥く計画の始まりでは無いのか.......?そう考えてしまう。

 

 

パイモン「どうする?このことをゼーレにも喋っておくか?」

 

 

空「もちろん。ゼーレの記憶を見た時のあのアビス教団の計画......もしこの事件の裏にアビス教団がいるなら、計画は既に始まってしまったことになるからね」

 

 

パイモン「そうだな......」

 

 

そこから、隅から隅まで部落を調べたが、特にこれといった手がかりは見つからなかった。

 

 

集落にある大きな櫓に入ったが、粉々に破壊された木箱、床に散乱している木片しかない。

 

 

それはジンも同様だったようだ。

 

 

パイモン「ジン!どうだった?そっちは何か見つかったか?」

 

 

ジン「いや、済まない......。私も頑張って探して見たが見つからなかったようだ.....」

 

 

パイモン「そっか.....」

 

 

空「騎士団は1回ここを調べたんでしょ?その時に押収したものってまだ残ってる?」

 

 

ジン「その時のか?ああ、まだある」

 

 

空「それに何か手がかりがあるかもしれない」

 

 

ジン「そういう事か。それなら気兼ねなく見て行ってくれ」

 

 

3人がモンド城の方向に振り向き、足を動かし始める。だがその時、空とジンが森を見た。

 

 

パイモンは2人の様子に首を傾げる。

 

 

パイモン「ん?2人とも何をしているんだ?」

 

 

パイモンの視線は2人と森を交互に動いている。

 

 

ジン「名誉騎士....聞こえてただろうか.....」

 

 

空「うん.....。何かくる」

 

 

パイモン「来る?何のことだ?何が来るんだ?」

 

 

2人の耳には微かに森の奥から木がなぎ倒される音が聞こえてきたのだ。しかもその音が真っ直ぐにこちらに近づいてくる。

 

 

初めは森の住民が木こりをしている音だと思っていたが、連続してその物音が鳴っている。人間では到底ありえない。それに、とてつもなく、おぞましい''何か''が一瞬にして巨木をちぎり取っているようにも聞こえる。

 

 

時間と共にそれは大きくなり、ついにはパイモンの耳にもそれは届いたようだ。

 

 

パイモン「........!?なんだなんだ!?」

 

 

木から鳥が飛び立ち、小動物が巣穴から出てきて避難している光景に不気味に思ったパイモンは急いで空の後ろに隠れた。

 

 

そして、ついにその正体が判明する。

 

 

巨大なヒルチャールだった。それを見た瞬間、3人は驚愕する。

 

 

空「ヒルチャール!?」

 

 

ジン「なんだあれは......!大きすぎる!」

 

 

パイモン「な、なんだよあれ!!」

 

 

森から飛び出してきたそのヒルチャールは崖から転げ落ちてしまい、ヒルチャール集落にあった櫓の上に不時着した。重量に耐えきれない櫓は一瞬にして粉々に砕け散る。

 

 

ゆっくりと立ち上がったヒルチャールは後方にある崖よりも遥かに大きい。見たことがないサイズだった。

 

 

2人は片手剣を取り出し、いつ襲いかかってきてもいいように構える。だが、未だに闘争心よりも驚嘆の方が勝っていた。

 

 

「待ちなさい!!!!!」

 

 

続いて、ヒルチャールが出てきた場所から声が聞こえてきた。3人の視線はそっちにむく。

 

 

なんと、そこからゼーレが飛び出してきた。

 

 

一目散に怪物の姿を確認すると、崖先から高く跳躍し、怪物の背中に勢いよくドロップキックをかましあげた。まるで、ボールかのよう、3人がいる場所よりも向こうまでふきとぶ。

 

 

巨大なヒルチャールの出現、そして、それがいとも簡単に吹き飛んだということに3人はただただ見ているしかない。パイモンに関しては空いた口が塞がらなかった。

 

 

その時、ゼーレはようやく自分の他に人がいることに気づく。

 

 

ゼーレ「.......!旅人.......!?」

 

 

そして、空に向かって手で必死に避けるようにジェスチャーを渡す。だが、それよりも前に怪物が何事もなかったかのように立ち上がった。そして、大岩よりも遥かに大きな拳を振り上げ、容赦なくそれを3人に向かって叩きつけた。

 

 

空「危ない!」

 

 

思わず空がそう叫ぶ。

 

 

空がパイモンの服を掴んで、後ろに回避し、ジンは体を翻し、地面に転がる形で直撃を避けた。

 

 

拳が地面に衝突すると同時に、土埃が舞う。衝突箇所を中心に大きな亀裂が入り、小さなクレーターが出来上がっている。

 

 

空「(!?)」

 

 

ジン「(なんてパワーだ........!)」

 

 

2人して予想よりも遥かに強大なパワーに驚愕している。だが、怪物はそれ以降攻撃してこない。

 

 

代わりに体が左右に揺れ、今にも倒れそうだ。仮面から大量に漏れてくる涎は地面に池を作っている。

 

 

そんな時、更に3人が目を見張ることが起きた。

 

 

「ヨス......デーガーバンハ.......キヌ......ウボゴハン....ハゴノ.......ウョキ...........!!!!!」

 

 

はっきりと聞こえた。目の前にいるヒルチャールが人間の言語を話す瞬間が。

 

 

空「.........!」

 

 

ジン「喋った.......!?」

 

 

パイモン「(もしかしてこのヒルチャールが.......!)」

 

 

あの日の証言と一致する。もしや、この魔物が団員を襲ったヒルチャールなのではーーーー。

 

 

ゼーレ「どいてどいて!!!」

 

 

埒が明かないと判断したゼーレは、3人に向かって叫びながら、怪物に向かって走り出した。

 

 

ジン「離れた方がいい!!死ぬぞ!」

 

 

あの怪物に立ち向かうことが分かるとジンが叫び返す。だが、ゼーレはその静止を振り切り、怪物の懐に潜り込む。

 

 

一瞬だった。ジンが瞬きした時には巨体が切り刻まれる光景が目に入ってきた。

 

 

ゼーレ「(こいつは尋常じゃない再生能力を持ってる.....。だけど感じた.....。こいつの力が消えつつあるのを......。この斬撃でどうなる.....?)」

 

 

血が吹き出ながら腕などが地面に落ちていく様を思慮深く観察していた。

 

 

だが、突如腕の1本の断面が水が沸騰したかのようにブクブクと音を立てる。

 

 

空「(.........!なんだ.....?)」

 

 

腕の断面から、腹の断面から次第に肉体が沸騰して、そこから部位が再生する。それは、空中に浮き始め、突然、合体した。先程の怪物の姿に戻る。

 

 

ゼーレ「(ダメだったか......!それに見たことがない再生の仕方ね......。やっぱり吸収されたあの球体が関係しているのかも......!........やるしかない)」

 

 

再生よりも上回る攻撃を仕掛けるしかない。それは聖鍵殿でもやったことだ。単純明快で、一点突破の方法で今からこの魔物を焼却する。

 

 

巨大なヒルチャールの攻撃を躱し、そのまま首根っこを掴む。地面に叩きつけて、土にめり込ませる勢いで引きずり、崖に押さえつけた。当然、怪物は暴れ回ったがそれより勝る怪力でにげださないようにしている。

 

 

 

次の瞬間、巨大なヒルチャールが勢いよく燃え上がった。

 

 

「グオアアアア''アアアアア''アア!!!」

 

 

ヒルチャールは熱すぎる火に苦しみの雄叫びを上げ、何とかここから脱出しようと更にもがきの激しさを増す。

 

 

パイモン「うおわ!!なんだ!?あっち!!あっつい!!」

 

 

空「何だこの熱さ.....!?」

 

 

高火力の熱は波として3人がいる場所にも到達している。火が見えたと同時にパイモンが暑がり始めた。ジェットエンジンかのような勢いで燃え盛る焔は一歩でも踏み出せばこちらも巻き込まれそうなほどだ。

 

 

ついには炎が朱色から青色に変化した。

 

 

その時、パイモンと空は後ろに引っ張られる。ジンだ。あの火に巻き込まれては一溜りもないと判断したのだろう。その場から10歩程度下がる。

 

 

空「(ゼーレが自分の周りに熱を放出しているんだ......。もう少しでも近づけばこっちが巻き込まれる.....)」

 

 

熱は躯体を中心に周りに伝播していく。高火力の熱は怪物の後ろにある崖にも蓄積していて、次第にゼーレの周りにある岩石が赤みを帯びる。そして、真っ赤に光った。

 

 

最初こそ抵抗していたヒルチャールだったが、焼かれると共に力を無くしていた。

 

 

そして、とうとう事切れる音が響く。

 

 

バシュン!ーーー

 

 

そんな音響はほぼ同時にゼーレの炎も一瞬にして消える。代わりに這い出てきたのは白煙と肉が焦げた鼻がねじ曲げる勢いの匂いだけだった。

 

 

煙がついに落ち着いた。その場から見えたのは、熱によって変形した凹んだ崖肌と、そこにへばりついている僅かな血。

 

 

ゼーレ「........」

 

 

事が終わるな否や急いで3人の方向を向く。

 

 

ゼーレ「(怪我は......なし.....)」

 

 

他の人が自分の火で火傷していないことを確認したゼーレはまだほんのり温かい感触が残っている左手で岩を調べ始めた。

 

 

ゼーレ「(.....良かった。火で完全に消えてくれた......。本当にこいつの再生能力は一体......。......ん?)」

 

 

そんな時、ゼーレはふと変形した岩の表面に黒い塊のようなものを発見した。手のひらに収まる程の小さい残骸がそこにはある。

 

 

ゼーレ「(これは.....。炭.......?だとしても変だけど.......)」

 

 

結論付ける前にパイモンと空が近づいてきたので、一旦それを忘れることにして、ポケットにそれをしまう。

 

 

ゼーレ「あなた達怪我は無い?」

 

 

空「大丈夫だよ。服の端がちょっとだけ焦げたぐらいかな?」

 

 

パイモン「オイラも大丈夫だけど.....。というかゼーレ!今の大きい化け物はなんなんだ!?」

 

 

ゼーレ「結論から言うと私が偶然、アビス教団を見つけたから、後をつけたの。そこで何か変なものをヒルチャールに飲ませてた......。そうしたら急にヒルチャールが急成長して......」

 

 

パイモン「それで今に至る.....って感じか?」

 

ゼーレ「ええ.....。逆にあなた達は何をしているの?」

 

 

ジン「名誉騎士、パイモン.....怪我はないだろうか?それにあなたも......」

 

 

その時、ジンが遅れて近づいてくる。

 

 

ジンはその時ゼーレの顔を見て、何かに気づいたようだ。

 

 

パイモン「オイラはこいつの頼みでここにやってきたんだ。お前は初めて会うよな?紹介するぜ!西風騎士団の代理団長ジンだ!」

 

 

ゼーレ「はじめま.....(ジン......?ジン........どこかで聞いた名前が.......あ)」

 

 

ゼーレも相手が誰なのかを理解するとジン同様内心驚愕する。

 

 

パイモン「ん.....?お前らどうしたんだ?そんな急に黙って.....」

 

 

ジン「......ゼーレ.......ローレンス.....だな?」

 

 

ゼーレ「ジン.......グンヒルド.....」

 

 

ジン「前から君と話がしたかった.......少し付き合ってはくれないだろうか?」

 

 

ジンの顔はなにかを決めた顔になっていた。それはゼーレも同様だった。

 

 

ゼーレ「.....。いいわよ」

ジン「どうぞ、ここに座ってくれ」

 

 

ゼーレを自身の執務室に案内し、予備の椅子を机の傍に置き、そこに座るよう促す。

 

 

その机は乱雑に積まれた本、インク瓶に突っ込まれた羽根ペン、そして大量の資料があった。

 

 

ジン「リサ、悪いが2人分の紅茶を入れてくれ」

 

 

ゼーレはこの部屋に入る時にジンとは他に魔女帽子を被った女性が居ることに気づいた。リサは針時計の左右にびっしりと本が詰まっている本棚に向かって何か探し物をしているようだった。

 

 

そして、紅茶を淹れるためにこの部屋を退出した。

 

 

その間、2人とも無言のままだった。互いに見つめ合いながら何を話そうか考え、ただただ時間が過ぎていく。

 

 

ゼーレ「(騎士団の内部に入ったのは数年ぶりね......。この雰囲気.....あまり変わってない......)」

 

 

あの日、騎士団に出頭した際に入った騎士団。その時の記憶を頼りにちらっと執務室の内装を見る。

 

 

本棚のその反対側の壁には2本の片手剣とライオンの顔の装飾が施されている盾が飾ってあり、その近くに長机に4脚の椅子が無造作においてある。そんなモンド城の中でも特段存在感を放つ建物が期待通りである内装を豪華なシャンデリアが照らしていた。この部屋のドアの近くにはモンドの全体を映す地図がある。

 

 

その時、コンコンとノックする音が聞こえ、金色の装飾のコップに注がれた。アップルティーが運ばれてくる。そして、静かにそれがそれぞれジンとゼーレの前に置かれた。

 

 

リサ「モンド名物の紅茶よ。ごゆっくり」

 

 

リサが一瞬ジンに目配せすると、部屋を出ていった。

 

 

ジン「さぁ、遠慮なく飲んでくれ。おかわりはまだまだある」

 

 

ジンはリサが運んできたティーポットを揺らしながら、ポットに入っていることを主張する。そんなティーポットをすみに置くと、散らかった机を片付け始める。

 

 

ジン「申し訳ない。客人をもてなすような机では無いな......」

 

 

ゼーレ「いや、きにしてないわよ。それに急なことなんだから綺麗じゃなくて当然」

 

 

ジン「そうか......」

 

 

ジンに勧められたアップルティーを軽く啜る。すぐに口の中に芳醇な香り、甘すぎるりんごの味が舌に染み渡った。初めて飲んだ味だった。

 

 

ジン「貴族間の宴会などで用いられる高い紅茶だ。懐かしい味だろう?」

 

 

ゼーレ「......?懐かしいというか.......。初めて飲んだ味ね......まぁ美味しいわよ。こんな上品な紅茶飲んだの初めて....」

 

 

ジン「そうだったのか.....」

 

 

ゼーレ「.....それでお話って?大体検討は着くけど......」

 

 

ジン「それなら話は早い。私の母の素行不良が原因で君達の家にヒビを入れてしまった.......。娘として改めて謝罪したい」

 

 

ゼーレ「..........。やっぱりね。別にあなたが謝ることじゃない。どの道、ローレンス家が崩壊することが確定してたし.......。あの事件が起きてローレンス家が没落したことは分かったけど、逆にグンヒルド家にどんな影響があったの........?」

 

 

ジン「最終的に離婚した.......。私に妹がいたのだが、離婚が影響して今もギクシャクした関係だ......。今もグンヒルド家は健在だが、徐々に対立が起きようとしている......」

 

 

ジンの言葉にゼーレは自分の心がキュッと締め付けられる気がした。自分も妹がいるからこそ、ジンが今置かれている逆境に同情してしまう。

 

 

ゼーレ「ごめんなさい.....!私のせいで......!」

 

 

ゼーレはジンの言葉が終わり前に思わず頭を下げる。それを見たジンが慌てる。

 

 

ジン「頭を上げてくれ......!」

 

 

ゼーレ「私が父親を殺ってしまったばかりに.........。それのせいで自分の家も.....あなたの人生を狂わせてしまった......!」

 

 

ジン「......!とにかく頭を上げてくれ......!私は君を責めるために付き合ったわけじゃない.......」

 

 

ゼーレ「えっ.....?」

 

 

ジン「君が父を殺めてしまったことは別として私の母と君の父が姦通したことは君が苦悩することも私に謝ることじゃない」

 

 

ゼーレ「.......本当に?私の事恨んでない.....?」

 

 

ジン「なぜそうなる......。君が気に病むことは無い」

 

 

ゼーレ「そう.....それだといいんだけど......」

 

 

そこから先は2人は少しだけ溶け合った気がした。他愛もない会話をしていると、ゼーレは気になったことを聴く。

 

 

ゼーレ「そういえば.....エウルアは.......騎士として仕事を頑張っているの.......?私どうしてもそこが気になって......」

 

 

ジン「エウルアか?私は彼女のことを勤勉で、心に芯がある優秀な人物だと評価している。逆境に立っていたとしても、障害を跳ね除け、我を突き通す力が彼女にはあるんだ。私もそういう所を見習っていきたい」

 

 

ゼーレ「そう......?それなら良かった......。(良かった.......花売りの女の子もそうだし.....代理団長がそう評価しているのなら安心しても良さそうね......)」

 

 

ジン「だが、そこが彼女の強みと同時に弱点でもあるな......。彼女はひとりで突き進むあまり、嫌なところことを溜め込みやすい......。私も彼女が病まぬよう度々話を聞いていてな.....。よく君のことを喋っている」

 

 

ゼーレ「わ、私の事......?」

 

 

ジン「突如として姿を消してしまった姉のことが気がかり........1度だけでも話をしてみたい.....こんなことを言っている......。彼女が姉のことを喋っていると強面の顔が和らいでいるんだ.....。多分これは彼女自身気づいていないだろう。姉のことを考えると楽しい......姉の安否が分からず心配している......。彼女は思った以上に寂しがり屋なんだ」

 

 

ゼーレ「..........」

 

 

ジン「私も大切な妹を持つ姉として彼女の気持ちがよくわかる......。そしていつしか彼女にできることはないのかと考えるようになった.....。....そこでだ私から1つ提案がある」

 

 

ゼーレ「......何?」

 

 

急におくぶかしい雰囲気になった。

 

 

ゼーレは思わず紅茶が残っているコップを持ち上げ、口にアップルティーを流し込む。

 

 

ジン「あなたも......どうか西風騎士団に入ってくれないだろうか」

 

 

ゼーレ「ぶっーーーーーー!!!!」

 

 

思わずアップルティーを吹き出す。予想外の言葉を聞いてしまったからだ。

 

 

ジン「......大丈夫か?」

 

 

ゼーレ「はっ?えっ.......何?」

 

 

にわかにも信じられないが聞き間違いかもしれないと思い、聞き返した。

 

 

ジン「だから、あなたもぜひ騎士団に入ってくれないか?」

 

 

ゼーレ「なっ.....はっ.......えっ.......?」

 

 

ジン「.......?どうしたんだ.......?」

 

 

ゼーレ「あ、いや........。(この私が騎士団......??モンドの騎士になるってこと.......!?!?えっ!?私が......!?)」

 

 

ジンのとんでもない提案に深い所まで思考が巡り、上手く整理が追いつかない。

 

 

ゼーレ「....ちなみになんで?」

 

 

ジン「あなたが入れば、エウルアも喜ぶ。そして、先程の強力なヒルチャールを討伐してくれたという恩もある。あなたの実力を買いたいのだ。.........いやこれは、私のほんの些細な提案だ。もちろん決めるのは君だ」

 

 

ゼーレはふと冷静になって考えてみる。

 

 

そして、ひとつの結論を導き出した。

 

 

ゼーレ「........迷ってる。だけど、今の気持ちだと騎士団に入るつもりは....ないかな」

 

 

ジン「理由を聞いても?」

 

 

ゼーレ「きっとエウルアが騎士団に入った時に反対派が多かったのでしょう?月日が流れてもまだまだ納得してない人も多いはず.......。そんな時に私が騎士団に入れば今度こそ暴動が起きるんじゃないのかしら.......。騎士団とモンドの民の間にますます溝を作ることになってしまう。それに私は既に人を殺めた者......もしかしたら、内部であなたに対して不信感を抱いてしまうかも.....だから....やめておく」

 

 

ジン「私がエウルアを騎士団に引き込んだことに後悔なんて1秒たりともしたことなんてなかった。私のモットーは家柄や肩書きに囚われず、その人の実力と信念を正しく評価することだ。彼女の真っ直ぐな心が私は好きだ。どれだけ逆境に立たされようとそれ跳ね除け乗り越えていく姿勢を素敵だと思う」

 

 

ゼーレ「........ごめんなさい。やっぱりやめておく.......」

 

 

ジン「そうか.....それは残念だ。だけど、気持ちが変わったならいつでも来てくれ。私はあなたを歓迎する」

 

 

ゼーレが残っていたぬるいアップルティーを飲み干し、この部屋を出ていこうとした。

 

 

その時、ふと足が止まった。

 

 

ゼーレ「確か、あなた達ヒルチャールの件を旅人にお願いしたのですって?良かったら私もそこに混ざってもいい?」

 

 

ジン「ん?ああ、別にそれは大丈夫だ.......。むしろ、大歓迎する。だが、あなたはこの件と何ら関係ない.......。なぜ......」

 

 

ゼーレ「いや......私はこの件に関して必ず加わらないと行けないの......!」

 

 

ジン「......な、なるほど?」

 

 

ゼーレ「もう......包み隠さず、はっきり言うわ。ジン。このままだと最低でも1年......良くて数年でモンドは滅亡する.......!!」

 

 

ジン「......!?モンドが.......滅亡.......!?ど、どういうことだ!?」

 

 

ゼーレは過去にモンドの未来を覗いたこと。そして未来の詳細を事細かく説明した。

 

 

ジン「そ、そんな........!信じらない......」

 

 

ゼーレ「今からでもいいわ....!お願いだからモンド城の警備を強化して......!魔物の動くを厳重に警戒しないと手遅れになる.......」

 

 

ジン「........分かった。あなたの言葉を信じて今すぐにでも騎士団総員でモンド城の強化を行おう......」

 

 

ゼーレ「私もいち早くアビス教団の足取りを掴んで元凶丸ごと叩くことに尽力する.....」

 

 

ドアノブを掴み、半開きの状態でゼーレはそう告げる。そして、ついにドアが閉まった。

5-4[完]

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