間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第5幕『戦火呼びし黄金のアポカリプス』⑤

ジンと会話した日から1週間経った。ジンに言った通り、ゼーレは旅人と一緒にアビス教団の足取りを探していたが、未だに尻尾を掴めていない。人語を話すヒルチャールの正体、そこから出てきた黒いカスの正体が分からなかった。

 

 

調査したヒルチャール集落にあったなぎ倒された木から入り、小道を辿ったが、終着に見つけたのは人型の骨だけだった。大きさから巨大化したヒルチャールで間違いないだろう。そして、その残骸からもあの時拾った黒いカスを拾った。

 

 

それからは特に何も見つからず今に至る。

 

 

ゼーレ「結局......あの日以降有力な手がかりは見つけれてないみたいね........」

 

 

ゼーレは地図を見ながらそう呟く。ただ見ているだけでなく、自分の指の爪を噛みながら、貧乏ゆすりをしていた。

 

 

彼女が今持っている地図にはヒルチャールの骨があった場所を赤バッテンをつけている。

 

 

ゼーレ「あの骨を盈月に診てもらったら、骨が折れている箇所があった......。これは筋肉が急激に成長した反動で骨が折れてしまった....らしいわよ。急激に成長して骨が折れたヒルチャールの死骸....そしてこの前私が殺したヒルチャール.....。どちらも図体が大きくなるというが共通点ね。このことから私は骨が折れたヒルチャールもあの黒い球を飲ましたと思うわ」

 

 

パイモン「2体とも黒い玉をアビス教団に飲まれた結果暴走した......か......。オイラ、アビス教団がそんなおぞましいものを作り出したって考えると恐ろしいぞ」

 

 

パイモンは口に両手を近づけ、戦慄している。

 

 

空「その黒い球には力を助長させる力があったんだろうね.......。その結果、肉体も急成長した.....ってことなんじゃないの?」

 

 

ゼーレ「おそらく.....ね。それに力だけじゃない......知能も飛躍してる。そうだったら、ヒルチャールが言語を話すわけがない」

 

 

空「......理由は?」

 

 

ゼーレ「団員の証言とあの日のヒルチャールが合致するからよ。.......後これが気になるわ」

 

 

彼女はポケットに手を突っ込むと、そこから折りたたまれた小さな四角形の白い紙を取り出した。中には黒いススのようなものが包まれていた。

 

 

パイモン「これか?」

 

 

空「砂......?みたいにも見えるね.......」

 

 

ゼーレ「この物質も2匹のヒルチャールの死骸から出てきた。多分だけど......あの黒い球の残骸かなにかだと思うわ.....」

 

 

パイモン「なるほどなぁ........。ゼーレ的にはあの黒い球の詳細は分からないのか?」

 

 

ゼーレ「.......いいえ分からないわ。あれから、じっくり観察したり、徹底的に世界樹の記憶とイポスルが見せてくれた未来の内容にヒントが隠されてなかったか洗い出したけど検討もつかなかった........」

 

 

パイモン「世界樹でも引っかからなかったのか........」

 

 

空「記憶に引っかからなかったということは少なくともあの黒い球の計画は数百年単位で行われてなかったということだね」

 

 

ゼーレ「いや....そうとは限らないわよ旅人」

 

 

空「どういうこと?」

 

 

ゼーレ「ブエルの世界樹と律者の世界樹の機能は一緒だけど、保存されている量に差があるわ。律者の世界樹は分化してできた存在.....。だから基本的にカーンルイアの厄災から現在までの500年間の記憶しか見れない。だから記憶に引っかからないからってこれが大昔になかったとはならないわ」

 

 

空「ん?じゃあ、ゼーレと終焉機の壁画があったピラミッドを探索した時に厄災以前の話をしていたのはどういう理屈なの?」

 

 

ゼーレ「あくまでも''基本的に''よ。分化した際に本体の世界樹からいくつかの記憶も連れて行っちゃったんでしょ。それでカーンルイア関係の記憶は厄災の時に傷がついてノイズが入った.......っていう私の推測かしら」

 

 

空「なるほど.......」

 

 

パイモン「じゃあ......ナヒーダの世界樹にお邪魔するか........?」

 

 

ゼーレ「それはいい案ね.......。彼女の世界樹になにかしら引っかかるのがあるかもしれない。だけど........今モンドを離れるのは相当リスキーだわ.......」

 

 

パイモン「そうだとしても.......だろ?」

 

 

空「謎の黒球.......喋るヒルチャール.......まだまだ情報は少ない。アビス教団側の思惑も分からない状況で迎撃するのは悪手過ぎると思う」

 

 

ゼーレ「.......」

 

 

ゼーレの目線はずっと地図を捉えていた。だが、ふとモンド城に視線が移る。ここからモンド城は少し遠いところにある。

 

 

今日の昼は快晴だったが、気がつくと灰色の空に変化していた。

 

 

そして、そんなモンド城の橋周辺にはひっきりなしに人が交わっている。西風騎士団の団員達だ。その中にはジンやリサも混じってるだろう。

 

 

その人達は柵を設置したりして、いつ、魔物の群れが出現してもいいように準備をしている。僅か1週間である程度迎撃できる体勢まで揃ったらしい。

 

 

だが、そんな中事件が起きた。数匹のヒルチャールが変則的に橋前に出現するようになったのだ。ただ、これと言って襲ってこないし、15分程モンド城の様子を観察した後、そそくさと逃げていく。そんな不思議な現象がいくつも起きていた。ゼーレ自身も思わず驚いてしまった。

 

 

ゼーレ「(本当、あれはなんだったんだろう。こんな行動ヒルチャールがするわけが無い。十中八九裏にアビス教団がいる.....。早く......一掃しないと.......。あんな未来はごめんよ.......)」

 

 

そんなことを考えながら、地図に視線を落し、貧乏ゆすりの勢いは増した。

 

 

 

 

灰色の空の下、騎士団の団員達はせわしない顔を浮かべながら石橋の周辺で作業をしている。棘付きの防壁を地面と橋に一定間隔に設置していったり、地面を掘ったりなど防衛体制は着々と進んでいた。

 

 

この石橋はモンド城に繋がる1本の道なので、平常時は数分に1、2人は通る程度の交通量だが、今は人が極端に減ってしまった。

 

 

作業している者達はジンに説明されているとしても、不安は払拭できないようで団員同士でヒソヒソ話をしている。

 

 

ジンはそれを分かっていた。その様子を片目に、必死に脳内で考えている。彼女の前に置かれた木箱の上にある地図と睨めっこしながらも、時々団員達の作業風景に視線を移したり、そうしたと思ったら今度は遠い所を見た。傍から見ても落ち着きがない。それを見かねたリサが話しかけてきた。

 

 

リサ「ジン?落ち着きがないわよ?焦る気持ちはわかるけど、責任ある立場のあなたが不安な態度を見せてしまっては、団員にもそれが移ってしまうわよ」

 

 

 

ジン「リサ......。.....ああ、その通りだな」

 

 

リサ「また、作戦の練り直しでもしているの?」

 

 

ジン「いや....それもそうだが、脳内でシミュレーションをして作戦に不備がないか確かめているだけだ」

 

 

リサ「そう.......」

 

 

ジン「正直この作戦はアビスの予測できない動きに弱い......。それに初動を間違えてしまっては後手に回ってしまうのも難点だ........。.....ガイア!」

 

 

すると、ジンはガイアを呼んだ。ガイアは少し遠いところで団員と作業会話をしていたのだが、それを切り上げた。

 

 

ガイア「呼んだか?」

 

 

ジン「作業をしていた所呼んでしまって申し訳ない。この前話した騎兵隊と遊撃隊の作戦が完成したから見て欲しい」

 

 

ガイア「ほう......?どれどれ.........」

 

 

彼は渡された資料をじっくりと読み始める。読む終えるのに数分はかかった。

 

 

ガイア「.......。そうだな......大方は理解した。不安要素もなかなかあるが........」

 

 

ジン「......やはりか?」

 

 

ガイア「1つでもしくじれば簡単に崩壊してしまうのが予想できるな。魔物の大群が大人しく陸からやってくるとは思えない。相手はアビス教団だぞ.......?」

 

 

ジン「.......。今の騎士団は猫の手も借りたいのが正直なところだ.......。陸から攻めてくるのを見越すしかないんだ......」

 

 

リサ「あなた達どんな作戦を立てたのよ........。私、用事が重なってジンからその作戦を伝えられていないのだけれども詳しく説明してくれない?」

 

 

ジン「ああ.....」

 

 

ジンが木箱の地図をリサに見せる。

 

 

ジン「アビス教団はヒルチャールを操れる......。だが、あちら側も少数で襲撃しても門前払いされるのはわかっているはずだ。必ず大量の魔物を投入してくる。このことから、1秒でも早く魔物側の動きを探知し、そして本陣に迅速な情報伝達することが重要だと考えた」

 

 

リサ「......なるほど?」

 

 

地図はモンド全域を記している。そこの森の部分にバツ印が点在している。それは、モンド城に近いほど少なく、逆に遠ざかるほど多くなっていた。ジンはそれに指を指す。

 

 

ジン「まず、アンバーの協力の元、モンド全域を効率よく監視出来る監視塔を立て、そこに最低でも2人の団員を配置させる。そして、万が一魔物の群れや不審な動きを察知したら、信号拳銃で煙を上げる、その情報を我々側が受け取り、即座に迎撃体勢をとるんだ」

 

 

リサ「......もし、その監視塔が魔物の襲撃にあった場合はどうするのかしら........」

 

 

ジン「それは......これの出番だ」

 

 

ジンはそういうと資料の横に置いてあった大きなカメラをリサとガイアに見せた。

 

 

ガイア「それは.....カメラか......?」

 

 

リサ「何、そのカメラ......?あっ、もしかしてフォンテーヌ科学院とのプロジェクトで貰ったカメラかしら?」

 

 

ジン「その通りだ。魔物を探知すると自動的に撮ってくれる優れものでな。前々からなにかに応用できないか考えていた。数日前、たまたまフォンテーヌ科学院の人と喋っていた時にどうか魔物の動きを探知すると遠隔でこちらに知らせることはできないかと提案したところなんと数台のカメラを数時間で改造してくれた.....。これのおかげで魔物を探知すると信号がこちらにやってくるという代物だ......。それを監視塔では監視が難しい場所に設置している。備えあれば憂いなしだ......このカメラと信号で魔物の大きな動きを察知する」

 

 

ガイア「なるほどな......。それは確かに安心だ.......。それで情報を受け取った騎士団側が兵力を迅速に橋前に集め、それで一網打尽だと?」

 

 

ジン「ああ。それに加えて、モンド城前に落とし穴をいくつか設置してある。その落とし穴の中にレバーで起動できる炎元素の樽を大量に仕掛けておいて、爆破する事で少しでもアビス教団側の兵力を削る。それで残った魔物に包囲網で殲滅する......。これが私が考えた作戦だ。正直言って上手くいくとは微塵も思っていない。騎士団が一致団結して死ぬ気で城を防衛するのに尽力し、そして騎兵隊は魔物の後衛を荒らすのを意識してくれ」

 

 

リサ「.....もしアビス教団が橋を突破し、モンド城に侵入した場合は?」

 

 

ジン「..........」

 

 

ジンが急に黙る。ただただ唇を噛み、血が出そうな勢いの力で拳を握っている。

 

 

そんな様子を見て、リサとガイアも口を閉ざしているしかなかった。

 

 

ジン「湖に浮かんでいるモンド城は橋が最終防衛だ......。ここが突破されてしまってはモンドの民は殺されてしまう......。だから......死んでもここを通すつもりは無い......!」

 

 

ガイア「..........。住民の避難の状況は?」

 

 

ジン「今私が清泉町の人たちと交渉したり、避難キャンプを建てたりして避難先をどんどん拡張すると共に避難してもらう形だ。今はそうだな....大体60〜80名程避難している状況だ」

 

 

リサ「敵が陸だけから攻めてくるとは思えないわ.......。湖側から攻めて来た場合はどうするの?」

 

 

ジン「それも安心してくれリサ。城壁を簡単に登れないように細工してある。すぐさま侵入できない」

 

 

リサ「.........わかったわ。あなたがそこまで覚悟があるのなら........後は死闘あるのみね......」

 

 

青空に曇天が覆っている今日、靡く風はいつも通り城の風車を回す。だが、騎士団、住民、そして3人の心に不安が募るばかりであった。

 

 

 

ゼーレ「はぁ.......。何も手がかりがないまま地図と睨めっこしていても意味が無いわね.......。もう少しだけ変な事がないか確かめるためにモンド中を回ってみましょう?もし今この瞬間もアビス教団が着々と進めているのなら小さな手がかりが見つかるかも......」

 

 

そうして徐ろにゼーレが立ち上がり、服についた草を手で払い始めた。

 

 

パイモン「そうだな.....。旅人はどう思う?」

 

 

空「そうだね......。俺もゼーレに賛成だよ」

 

 

各々が重い腰をあげて、伸びをする。

 

 

確かにこんなことをしても進まない。しらみ潰しに見ていかないとしょうがないな......とそんなことを思っていた。

 

 

パイモン「モンド中を見て回るって言っても、モンドは広いぞ?どこから行くんだ?」

 

 

ゼーレ「そうねぇ.......。効率的に探すならやっぱり骨があった場所かしら......」

 

 

パイモン「なんでだ?」

 

 

ゼーレ「当たり前だけどアビス教団は人間に見つからないように計画を進めてる。だから、奴らのアジトからそう遠くないところで実験を始めてると思うの。骨のある場所から近いとこまで探していけば見つかるかなーって........」

 

 

そうして、ゼーレは我先に歩いていく。はぐれないように2人が後をついて行く。

 

 

そんな時、彼女の耳の鼓膜に何かが引っかかった。

 

 

 

 

ミシッーーーー。そんな音が聞こえてきたのだ。

 

 

 

その音は森から聞こえてきた。ゼーレにとってはその音はとんでもなく違和感を持つものだ。その方向を振り向く。

 

 

空「ゼーレ.......?」

 

 

パイモン「ゼーレどうしたんだ?突然森を見て....」

 

 

2人はそんな彼女の様子を不思議がった。2人から見れば、ゼーレが突然森の方向をずっと見ているのだ。

 

 

ゼーレ「今何か聞こえなかった?」

 

 

 

空「え?」

 

 

パイモン「うん?何も聞こえなかったぞ?」

 

 

その静音は2人には聞こえてなかった。

 

 

ゼーレ「今ミシッて聞こえたような.......」

 

 

パイモン「ミシッ?そんなのリスが小枝を踏んだとかそんなんだろ?」

 

 

ゼーレ「いや、そんな軽いものじゃない......!何か、地面の下から大地が避けるような音が聞こえるの......!」

 

 

何かに引かれるかのようにゼーレは森に歩き始める。

 

 

パイモン「お、おい!ゼーレ!?」

 

 

空「どこに行くの!?」

 

 

2人は慌ててゼーレを止めようとする。

 

 

その瞬間。

 

 

 

 

 

ウォォアァァァァァァァアァァァ!!!!!ーーーーー。

 

 

 

 

ゼーレが向いていた方向から空間を切り裂くような轟音が鳴り響いた。今度は2人にも聞こえた。いや、モンド全域にそれは響き渡っている。

 

 

轟音というより悲鳴に近い気がする。思わず、パイモンと空は耳を塞いでしまった。

 

 

そして、次の瞬間にやってきたのは突風だった。人を簡単に吹き飛ばしてしまいそうな勢いの風だ。木と木の間を通り抜け、草原は強く揺れ、木の葉っぱはざわめく。

 

 

パイモン「うわぁ!!!なんだ!?!?」

 

 

ゼーレ「くっ......!」

 

 

3人は吹き飛ばされないように必死に木にしがみついた。

 

 

だが、それは突然止んだ。いつもの森の静寂が訪れた。

 

 

だが、起きた現象に3人は思考が定まっておらず、ただただ木を掴んだ体勢を保ったまま森を見ている。

 

 

空「今のは.....何!?」

 

 

ゼーレ「はぁ......!はぁ......!はぁ......!」

 

 

その場から急な運動をした訳でもなくゼーレは勝手に息が上がっていた。3人は驚愕していた。だが、ゼーレだけは驚愕の他に焦りの感情が混じっている。

 

 

突然モンド中に鳴り響いた轟音、そして、吹き飛んでいきそうな突風。1ミリ足りともこの現象の原因を理解しているつもりではないが、何か漠然と嫌な予感が脳裏をよぎって離れない。

 

 

ふと、モンド城側を見てみる。ここからは人が砂粒程度にしか見えない距離だが、遠くから見ても、現場が混乱していることがわかった。

 

 

ゼーレ「まずい.....!」

 

 

パイモン「何がまずいんだ!?」

 

 

ゼーレ「分からない!だけど、今とんでもないことが始まろうとしているのが分かるわ!旅人!早く行きましょう!」

 

 

そんな彼女は2人にそう言うと、そのあとの反応に目にくれず、森の中へ走って行った。

 

 

パイモン「ま、待ってくれよゼーレ!旅人!早く後を着いてみようぜ!」

獣道を縦断し、ゼーレはどんどんと森林の奥へ突き進んでいく。2人は焦っている彼女の背中を追うのに必死だった。いつしか3人は息が上がっていた。

 

 

ふと、空は騒がしい音が上から聞こえ、そこを見る。その音の正体は灰色の空に飛び立っていく鳥だったようだった。何かから逃げるかのように、群れを成しながらモンド城の方向へ羽ばたいている。更に、鳥だけに留まらず、リス等の小動物も避難を始めている。それは果たして3人のせいなのか、はたまた.......。これだけでも異常事態が発生したことがわかる。

 

 

ゼーレ「森の生き物が逃げ始めてる.......!なにかあるわね......!やっぱり私の予想はあってた.......!」

 

 

パイモン「あんなでっかい音が聞こえてきたら誰でも逃げるだろ!」

 

 

足を進める事に周りの景色も変化していく。始めはいつも通りのモンドの森だったが、次第に風にちぎらてれた葉っぱが地面に落ちているのが見え、ついには木が根元から折れていた。

 

 

空「......!こんなに木が折れてる.......!」

 

 

その折られている木は無数にあった。人間の手で折られた訳ではなく、強大な力で一撃でやられたようだ。

 

 

パイモン「や、やっぱり、さっきのやつのせいか!?」

 

 

ゼーレ「こんな太い幹のある木がこんな無惨にも折られているなんて.......。きっとさっきの風の近くは私たちが居た場所より比にならない程強大だったわけね.......」

 

 

そして、いつしか鳥の鳴き声も動物の大移動もなくなり、3人の走る音以外聞こえなくなっていた。全てが不気味だった。こんな事は空は初めてのことだった。明らかな不穏な空気を漂わせる森のせいで更に不安な心は激しさを増す。

 

 

そんな時、突然ゼーレは足を止める。

 

 

空「うおっと.....」

 

 

ゼーレの背中に衝突しないよう、スライディングで勢いを殺した。

 

 

パイモン「どうしたんだ?ゼーレ」

 

 

ゼーレ「あ、あれをみて......!」

 

 

ゼーレが目の前の光景に指を指す。

 

 

空「これは......!」

 

 

すかさず、その先を見る。そこには思わず度肝を抜いてしまう景色が広がっていた。

 

 

森がなかった。そこだけ切り取られたかのように自分達がいる先からは地面の土が露出している。草や木が1本残らず存在していないのだ。当然、生き物の気配もしない。モンド城よりも遥かに大きいと錯覚させるかのような面積だった。

 

 

そして、何よりも3人の目を引くのは岩続きの陸地の真ん中に存在する大きな穴だ。その周りには大小さまざまな岩が積み重なってい

る。

 

 

パイモン「な、なんだこれ.......!」

 

 

3人とも異世界に来たかのように、呆然と立ちすくんでいる。

 

 

空「こんなのモンドに存在してなかった.......!」

 

 

ゼーレ「恐らく......さっきの轟音はこれは出来た音なのね......!」

 

 

これほどの規模を破壊するにはとんでも力が必要だ。この面積を更地にするためにあのような轟音を出したのならば納得だ。

 

想像しただけでも戦慄が走る。しかも、またそれが来るかもしれない。だが、おかまない無しにゼーレは真ん中の穴に向かって走り始めた。

 

 

パイモン「お、おい!ゼーレ!まだ何があるのか分からないのに突っ込んだらダメだぞ!」

 

 

空「行こう.....!パイモン!」

 

 

パイモン「で、でも.....!」

 

 

渋るパイモンに真剣な眼差しを空は向ける。

 

 

パイモン「お、おう......!わ、わかったぞ.......!」

 

 

パイモンはそんな2人に負けて、渋々ついて行く。

 

 

ついに、穴の目の前に来た。深い穴だ。目を凝らしても底が全く見えない。ヒョオオオオという音が暗闇から聞こえてくる。

 

 

そんな時、突然ゼーレが自分の胸に手を当てた。

 

 

ゼーレ「?」

 

 

肝心の彼女はなぜ、そんなことをしたのかわかっていない様子だ。

 

 

空「どうしたの?」

 

 

ゼーレ「いや........何か力が出ない.........」

 

 

胸を手を離すと、今度は左手を見ながら、手を開いたり、閉じたりしている。

 

 

パイモン「力が出ないだって!?」

 

 

思わずパイモンは叫んだ。

 

 

空「どうする?こんなのがあったってジンに伝えるために撤退する?ゼーレが力が出ない状況でこの穴を調べるのは不安だよ」

 

 

ゼーレ「まぁいいや、今はそんなことを考えている必要が無いわ......!パイモン!私と旅人が今からこの穴を降りて、真相究明に向かう.......!パイモンは悪いけどこのまままっすぐモンド城に戻るか、近くに監視塔に行って、いますぐこのことを伝えて......!」

 

 

パイモン「ええ!?オ、オイラが!?それはいいけど、お前らは2人で大丈夫なのかよ!」

 

 

ゼーレ「大丈夫、安心して.......。私を......信じてほしい........!」

 

 

パイモン「......わかったぞ」

 

 

そのままパイモンは自分達に背を向け、真っ直ぐと森の中へ消えていった。

 

 

ゼーレと空は見つめ合い、お互いに頷きながら、まだ見ぬ無知の穴に進入して行った。

5-5[完]

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