間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第5幕『戦火呼びし黄金のアポカリプス』⑦

律者の力の発動には、神の目と近い機能を持つ律者のマークと力の根源である世界樹のエネルギーが必要である。神の目がなくとも元素力を扱える空は、マーク無しで斬撃が扱えるのだ。そして、肝心のエネルギーは実はゼーレから染み出たエネルギーを使っている。それを前々から自分の体にそれがあることを自覚していた。

 

 

空「はぁ......!はぁ......!(つ、使えた.......!)」

 

 

斬撃は効果覿面(てきめん)だった。だが、それよりも数日働き続けてろくに寝てない時のような疲労がドッと体に襲いかかる。更には息切れを起こしていた。

 

 

「ゼーレはずっとこれを使ってたのか......」とそう思いながら、悶え苦しむ怪物を見た。

 

 

そんな疲労感と同時に律者の斬撃の恐ろしさを感じていた。染み出ていた律者の力を使ったと言ってもそれは僅かな量のみ。空は斬撃を放つ寸前、これでダメージが通るのかと不安になっていたが、それは払拭された。ごく僅かな力でさえも、こう簡単に肉体を破損させてしまうのか.....。

 

 

空「(コントロールが........難しい.....!斬撃を剣に伝わせて放ったのは正解だった.....。ゼーレみたいに手で放つことなんて絶対無理だ......。ゼーレが1年間練習していたのも頷ける.......!)」

 

 

その時、突如魔物の体中から勢いよく煙が吹き出した。

 

 

空「!」

 

 

空が思わず顔を覆う。

 

 

空「(煙.......!いや....これは.....再生能力.....!)」

 

 

そう判断たらしめたのは煙だ。ゼーレが再生能力を使った時に出る煙と一緒だったからだ。

 

 

半分消し飛ばされた胴体は瞬く間に再生され、胴体も復活していた。そう、欠損再生ーーー。

 

 

空「傷が.......!」

 

 

3度目の絶望が空を襲う。だが、その時。

 

 

ズドンーーーー。そんな生々しい音が響き、黒色の生物の腹から1本の腕が飛び出した。

 

 

真っ赤な血で染まるその腕はそのまま下に振り落とし、いとも簡単に腹を切り裂く。怪物の腹に大きな縦線が出来上がるとそこから血まみれのゼーレが姿を現した。

 

 

空「ゼーレ!!」

 

 

ゼーレの体は胃液と血に染まっている。この世の者とは思えない。だが、彼女の腹の穴が綺麗に塞がっていた。

 

 

それを見た空は胸を撫で下ろした。

 

 

ゼーレ「ごめん、ちょっと寝てた」

 

 

荒い息を吐き、まとわりついている液体を取り払っている途中、空にそう言う。

 

 

空「.......おはよう」

 

 

そんな返答をしながら、空はゼーレの横に立った。

 

 

空「傷治ってるね。よかったよかった......」

 

 

ゼーレ「急に斬撃が使えなくなったから焦ったけど、再生能力は何とか使えたわ.....。穴が開いた腹を治すのに時間がかかっちゃった.....。......それよりさっき旅人から律者の力の気配を感じたのだけど気のせい?」

 

 

空「気のせいじゃない。ちょっとだけだけど俺も律者の斬撃を使えるようになったんだ」

 

 

ゼーレ「えっ.....!?」と、思わず驚愕の声を挙げ、視線が魔物から空に向く。

 

 

ゼーレ「どういうこと.....!?」

 

 

ゼーレは思わず問いただそうとしたが、前方にいる怪物が立ち上がったことでそれは中断された。

 

 

空「詳しいことはまた後で。今は敵に集中しよう」

 

 

ゼーレ「......そうね」

 

 

腹の傷を修復させ、爪を支えに大きな図体を起き上がらせた。自分をここまでコケにした2人の人間を兎に角殺そうと息を巻いている。

 

 

ゼーレ「(さっきの大ダメージとこいつの体内に駆け巡った斬撃は旅人がやったに違いないわね.......。それが綺麗さっぱり消えているということは欠損を再生するほどの精密さって事か....。それならこいつは今相当弱ってるはず......。それに、なぜか知らないけどちょっとだけ力が戻ってる.....。今がチャンス......!)」

 

 

空とゼーレが目で合図を出す。

 

 

空「3......2......1.......」と、魔物に聞こえない声量でカウントダウンが始まる。それと同時にジリジリと2人の手と足が動く。

 

 

パン!!

 

 

カウンドダウンが0になった瞬間空が勢い良く手を叩く。それと同時に2人が魔物目掛けて走り出した。

 

 

迫り来る2人を見るな否や怪物の爪が襲いかかる。ゼーレが魔物の周りを駆け出し、空が爪に突っ込んだ。

 

 

空「(ここ数週間、ずっと対応できない技ばっか食らってきたんだ......!そんな攻撃あくびが出る.......!)」

 

 

理屈では説明つかない事象を連続で体験してきた空にとって、単純な攻撃なんて簡単に回避出来る。

 

 

黒色の魔物の気が空に向いている間、ゼーレは勢いよく飛び跳ね、魔物に対して手を突き出した。

 

 

次の瞬間、魔物の体は粉微塵に吹き飛び、細かくなった肉片は地面に落ちてしまう。だが、1秒もしないうちに肉片が次第に振動し始め、そこから再生し始めていく。

 

 

ゼーレ「(......!やっぱり死なない.......!!!)」

 

 

すかさず、ゼーレは空に向かって叫んだ。

 

 

ゼーレ「旅人!!!私の服を掴んで!!今からこいつを焼き払う!!!!」

 

 

空の耳に指示が届いた途端、ゼーレの元に全力でダッシュする。そして、滑り込む形でロングスカートの端を掴む。

 

 

それと同時だった。ゼーレの左腕から燃え上がる炎が手のひらから発射され、肉片にぶつかった瞬間、それが爆発した。瞬く間にこの空間内に熱波と衝撃波が乱反射する。

 

 

視界が赤い炎で覆われると思わず目を閉じる。すると、暗い世界で肌にひんやりとした冷たい感触がするのが分かった。きっと、ゼーレの氷元素だ。彼女から漏れ出ている冷気が自分を覆っているおかげで焼かれずに済んでいるのだと感じた。

 

 

熱波はこれで解決したものの、衝撃波で体が吹き飛ばされそうだ。掴んでいる服を離してしまっては暴風の中を舞う紙切れのようにひとたまりも無い。そう思い、必死に命綱を掴んだ。

 

 

数秒後ぱたりと耳の中で渦巻いていた轟音が止む。ようやく炎が収まったと思った空は、恐る恐る目を開ける。光景は一変していた。

 

 

壁はかつて石畳だったものが、剥がれ落ちて、全てが土に変貌している。天井を見上げると、熱波が空まで伝わったのか、綺麗に円形に突き破られ、そこから日光が差し込んでいた。

 

 

肝心の魔物は原型を留めておらず変わり果てた姿になっていた。黒い小さな山から異常なほどの白い煙と匂いが発生している。

 

 

空「ゲホッ!ゲホッ!」

 

 

煙の多さのあまり、吸い込んだ空が思わず咳き込む。

 

 

ゼーレ「旅人、大丈夫?怪我は無い?」

 

 

空「だ、大丈夫......。怪我もない......。というか自然な流れで炎元素使ってたけどどういうこと?デーヴァーンタカ山でも使ってたよね」

 

 

ゼーレ「あれ?言ってなかった?端的に言えば終焉機のコアと浮舎の力が融合した結果、炎元素を使えるようになった.....って感じね」

 

 

空「なるほど......」

 

 

空はその時、層岩巨淵の地下で地脈が作り出した浮舎と遭遇したことを思い出す。あの仙人の力によって連鎖して燃えていく遺跡守衛を片目で見ていた。あれがコアに保存されていたのか......。

 

 

空「.......それで、あの怪物は死んだの......?」

 

 

ゼーレ「恐らく......。再生する素振りも見せないし.......」

 

 

空「どれどれ.......」

 

 

念の為にと、空は黒い塊に近づき、持っていた片手剣でツンツンとつついて反応を見た。

だが、反応がなかった。いくらつつこうが魔物は微塵たりとも動くことは無い。

 

 

空「(やっぱりぽっくり逝ったみたいだね......。流石に、あの炎を耐えれる魔物はいないか......)」

 

 

そう思いながら、魔物の背中だと思われるところをつついた途端、とてつもない違和感が剣先から伝わってくる。

 

 

空「.......?」

 

 

他の部分よりも柔らかかった。そこが1番刃先が沈む。ーーーまるで中身がないかのように......。急いで背中を目を凝らしてじっくりと見る。

 

 

空「あれ.....体が......破れてる......?」

 

 

白煙から出てきたのは頭から尾に向かって綺麗な一直線が出来ているという情報だった。切り抜かれたかのように中身がない。

 

 

すかさず、その言葉にゼーレが反応する。

 

 

ゼーレ「.......は?」

 

 

彼女も慌ててその場に近づいて、魔物を見た。

 

 

ゼーレ「......!?この魔物って最初からこんな切傷ついてたっけ!?」

 

 

空はまだ怪訝な気持ちに駆り立てられていたが、ゼーレに関しては自分よりも更に驚き、慌てふためいている。

 

 

空「少なくともゼーレの炎の前からはなかったはず.......?」

 

 

ゼーレ「焼傷だとしてもこんな綺麗な傷なんてありえない.......!」

 

 

ゼーレがついに魔物の体内に手を突っ込んで必死に調べ始めた。忘れ物に気づいて焦燥感の中カバンを見る人間のように死に物狂いで見ている。

 

 

その一瞬だった。空は天井から得体の知れない気配を感じた。それと同時に全身の毛が逆立ち、鳥肌が立つ。心臓が直接冷たい手で掴まれているようだ。重苦しい空気が天井から地面へと徐々に流れてきている。

 

 

間違いないーー。上に''何か''が居る。

 

 

恐る恐る目を穴に向ける。

 

 

空「......!!」

 

 

もはや言葉すら出なかった。空は人生の中で今日が1番口が塞がらなかっただろう。

 

 

ゼーレはそれに気づいていない。傷の真相を探すべく、気配を感じていないようだ。思わず、彼女に素肌が見えている背中を軽く2、3回叩いた。

 

 

人間に存在を教えるために叩く必要はない。その是非を今は考えてる暇がないほど逼迫しているのだ。

 

 

ゼーレ「痛!何?」

 

 

空「あれ.......!」

 

 

叩かれたことで当然ゼーレは眉間に皺を寄せた。だが、空が天井を見て驚愕の表情をしているので、つられてゆっくりと目線はその先を行く。

 

 

ゼーレ「........!」

 

 

穴近くに紫色の物体が張り付いていた。その大きさは、目の前に横たわっている魔物より小さく、その躯体を支えるために物体から無数の手のようなものが壁に張り付いている。

先程よりも更に不気味で、魔物の顔や手足などが存在していない。

 

 

ゼーレ「(まさか........!これから飛び出したって言うの........!?)」

 

 

更におぞましさを増した存在に立ちすくんでいると、突如紫色の物体の上辺から口が生えてきた。

 

 

口の隙間からはギザギザしていて、20本ほど不規則で並んでいる鋭い歯が垣間見える。

 

 

「ケ.......ケケケケケ........オソ......カッタヨウダナ......ゼーレ......ローレンス」

 

 

空「!(喋った.......!)」

 

 

ゼーレ「(あの時と同じように......!)」

 

 

ヒルチャールの集落で遭遇したあの魔物とは違い、ちゃんとした人語として機能している。流暢ではないが、確かに意味が通じる言葉を喋ったのだ。

 

 

「貴様.....達ガ.....時間ヲ.......カケテクレタ....オカゲデ......私ハ進化シタ.........!私ハ.......破滅ヲ呼ブ者........!!!!」

 

 

再び、気味の悪い笑い声をあげると、へばりついていた手足を外すと、そのまま穴に通って、この空間を後にした。

 

 

ゼーレ「待ちなさい!!!!!!」

 

 

すかさず、ゼーレが叫ぶ。だが、当然それで止まることなく、怪物が歩いている音はどんどんと遠ざかっていく。

 

 

次の瞬間、ゼーレは空の腕を強く握った。

 

 

空「........!?何!?」

 

 

突然、自分の腕を握られた空は訳が分からず、語気を強めて言い放つ。

 

 

ゼーレ「追って!」

 

 

対してのゼーレもそんな一言を乱暴に告げると、片腕だけで空を上方向に投げ飛ばした。

 

 

空「(そういうこと......!?)」

 

 

いとも簡単に自分が投げ飛ばされたことに驚きを示すも空中でゼーレの意図を理解した。

 

 

そのまま、穴を通り過ぎ、地面に受身を取った。急いで音のする方向を見ると、もうとっくにあの魔物は巨大な穴から徐々に遠ざかっている。

 

 

空「(早い.....!ん.......待って......あの方向は......!!!)」

 

 

怪物の姿を視認したと同時にゼーレが穴から這い出てきた。

 

 

ゼーレ「あいつは!?」

 

 

空「ゼーレ!!まずい!!!モンド城に向かってる!!」

 

 

ゼーレ「!?」

 

 

ゼーレも怪物の進行方向を見た。体から大量出ている白煙の塊は確かにモンド城に行っている。

 

 

怪物の目的が判明した途端、2人の脳裏に壊滅したモンドの未来がフラシュバックする。全身から血の気が引ける感覚がした。

 

 

ゼーレ「追うわよ!絶対にモンド城に行くのを阻止しなくちゃ!!!」

 

 

空とゼーレは一目散に怪物の後を追う。

 

 

なぎ倒された木を飛び越え、崖を越え、魔物の動きを追跡する。

 

 

その時、突然ゼーレの脳内に声が聞こえてくる。ゼーレが知っている声だった。

 

 

??「(ーーーレさん!ゼーレさん!!!聞こえる!?)」

 

 

ゼーレ「!!!」

 

 

聞こえてきたのは今まで連絡がつかなかった盈月だった。いつもの声とは違い声色に焦燥感が混じっている。

 

 

ゼーレ「盈月!?」

 

 

空「!(盈月!ゼーレのもうひとつの魂か!)」

 

 

ゼーレ「ちょっとあなた!今まで何していていたの!?!?」

 

 

少しながら語尾を強めて盈月を責める。

 

 

盈月「(ごめん!魂からの通信が遮断されてたみたい!)」

 

 

ゼーレ「遮断.....?どういうこと?」

 

 

盈月「(あの魔物に食われる寸前、斬撃が使えなかったでしょ?あれは結論から言うと魔物の力があなたの世界樹に影響していたせいで使えなかったんだ!だから、ゼーレさんが私の声を拾うのが困難だったってわけ!)」

 

 

ゼーレ「律者の世界樹に影響を及ぼしてた!?」

 

 

盈月「(通信は諦めて、必死になんで力が出ないのか調べてたんだ!そしたらあの魔物の正体がわかった!)」

 

 

ゼーレ「何........!?」

 

 

盈月「(あの怪物は.......!律者だよ.........!!)」

 

 

ゼーレ「.........え?あの怪物が.......律者.....!?」

 

 

空「!」

 

 

ゼーレ「ど、どういうこと!?」

 

 

盈月「(律者のエネルギーは本来4つに分割されているってのは知ってる!?)」

 

 

ゼーレ「ええ......。.......!まさか!!」

 

 

盈月「(そのまさかだよ.......。あの怪物の魂には封印された3つの律者の世界樹があるんだ........!)」

 

 

ゼーレ「.......!」

 

 

盈月「(本来なら私達以外の律者は封印されてるはずなのに.......!なんでアビスの手に渡ってるんだ........)」

 

 

盈月「(どうする.......?)」

 

 

ゼーレ「どうするって......!こうなった以上やるしかない!!あなたは引き続き、あいつの解読とやらに全力を尽くして!」

 

 

盈月「(いや.....もうそれは出来ない......)」

 

 

ゼーレ「なんで!?」

 

 

盈月「(もうあいつに情報を読み取ってることに気づかれて一方的に遮断された.......。力の強弱の関係で力の強い怪物があなたに一方的に影響を与えてる........!)」

 

 

ゼーレ「.......。わかったわ........!」

 

 

そういうとゼーレは盈月との会話を終了させた。

 

 

空「律者云々聞こえたけどなんだったの!?」

 

 

ゼーレ「律者の力は分割されていることは知ってる!?」

 

 

空「うん!それがどうかしたの?」

 

 

ゼーレ「盈月によれば、4つのうち3つの律者の力があの魔物にあるらしいわ!!」

 

 

空「え!?!?」

 

 

空もゼーレと同様の驚愕を示す。

 

 

ゼーレ「これだけ知れただけでも良いわ!旅人!また私が吹き飛ばすからこのことを騎士団に伝えてちょうだい!私は何とかこの怪物をモンド城に侵攻できないように食い止める!」

 

 

空「.......!わかった!」

 

 

空が走りながら、ゼーレに向かって腕を出す。すかさず彼女が腕を掴み、やり投げのように人間の体をモンド城方向に投げ飛ばした。

 

 

瞬く間に空の彼方に消えていった。

パイモン「うぅ.....あいつら大丈夫かな.......」

 

 

住人がとっくに避難し終えた静かな森の中、パイモンは一人浮かんでいた。木々の間を抜ける微かな風が、葉を揺らしながらささやくように音を立てる。遠くから聞こえる小川のせせらぎが、静寂をさらに際立たせていた。

 

 

空とゼーレの2人の心配事を呟きながら、ひたすら監視塔を目指す。

 

 

自分の小さな体では真っ先に塔を見つけることはできない。だから、1回高いところに登った。そのため、状況を伝えるのに時間がかかってしまった。

 

 

1番近い塔に移動している途中、不気味で、今すぐにでも逃げ出してしまいそうな場面はいくらでもあった。だけど、2人がもしかしたらあの地下で死闘しているかもしれない。今自分ができることを全力でやろう。そう思いながら、ようやく監視塔に着いた。

 

 

監視塔は木を縄で括りつけてある簡易的なものだった。梯子を登った先にあるスペースに騎士団の団員の2人が会話をしていた。

 

 

「お、おい......。さっきの音凄まじかったな......」と、なよなよした口調の男がもう1人の男に話しかける。

 

 

「ああ.....。あんなの大きな音初めて聞いた。思わず耳を塞いじまった.......」

 

 

肝心のもう1人の男は心ここに在らずという様子でひたすらモンドの森を監視している。

 

 

「どうする.......?発煙筒使うか......?」

 

 

ガチャりと木箱が開く音がする。そこから信号拳銃を取り出した。小さいながらも重量感のある代物だ。

 

 

その音でようやくもう1人の男がこちらを向く。

 

 

「ん?なんでだ?」

 

 

「だ、だってよ......!あんなの明らかに異常だろ......!ジン団長から少しでも怪しい動きがあったら教えてくれって言ってただろ......!」

 

 

「それはそうだが......。ただ、あれから20分ぐらい経った。その間に魔物の襲撃の動きも見れないし、一旦様子見でいいだろう......。モンド城が襲われている....という訳でもない」

 

 

この監視塔はモンド城から1番近い。だから、目を凝らすとモンド城の門が見える。

 

 

「それにほかの監視塔から煙がたっているわけではない」

 

 

そう説明したが、相変わらず不安は払拭できないようで、さらになよなよしさが増す。

 

 

「で、でもよ.......」

 

 

「おーーーい!!!おーーーい!!いるか!?!?!?」

 

 

その時、下から自分達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

気になって柵から顔を出し、下を見る。パイモンがそこに居た。

 

 

「ありゃ......誰だ?」

 

 

「あれは........えーと.......」

 

 

眉間に皺を寄せ、パイモンをじっくりと見る。

 

 

「あれは名誉騎士の横にいたパイモン殿だ......!どうしたのだろう......」

 

 

とりあえずパイモンの話を聞こう。そう思い、団員2人はゆっくりと梯子を降りた。

 

 

パイモン「ふぅ、良かった.....人が居て......」と、パイモンは胸を撫で下ろす。

 

 

「パイモン殿だったのか.....。それで今日はどの要件で?」

 

 

パイモン「騎士団のみんなに伝えなくちゃ行けないことがあるんだ。実は......」

 

 

パイモンは3人で悲鳴が聞こえた場所に向かったこと、そこで見たことがない巨大な亀裂があったことを事細かく説明した。

 

 

「き、亀裂.......?」と、なよなよしい男が言う。

 

 

「そ、そうか......。事態は把握した。報告感謝するパイモン殿」

 

 

パイモン「お、おう.....。とりあえずこれをモンド本陣に伝えた方がいいんじゃないか?」

 

 

「そうだな..........そうしよう。おい!悪いがこのことをモンド城に行って伝えてきてくれないか?」

 

 

「お、俺.....?」

 

 

弱々しい男が自分の顔に指さす。

 

 

「ああ!ここまでの異常事態となると引き続き監視する人員も必要だ。俺がここにいるよ」

 

 

「あ、ああ.....わかった.......」

 

 

「パイモン殿、あの男に着いてモンド城に帰還してくれ」

 

 

パイモンがそれを了承する。そして、背中を追い始めた時、轟音が鳴り響いた。

 

 

ゴォォォォォォォンーーーーーーー。

 

 

パイモン「!!」

 

 

その音は20分前に聞こえてきた悲鳴よりも遥かに大きな音だった。大地を貫き、山を崩壊させるかのような雑音が響く。まるで、地球が癇癪を起こしたかのような、この世の終わりの音だった。

 

 

そして、それと同時に3人が見たのは空を貫く勢いの巨大な火柱だった。

 

 

パイモン「うわああ!!なんだよあれ.......!」

 

 

そして、数秒後森全体に勢いの良い熱波が襲いかかる。パイモン達のところは風呂の周りを飛ぶ生暖かい風が吹いてきたのだ。立てないほどでは無いが、思わず顔を覆ってしまう。永遠かのように思えた風も次第に止み、目を開ける。風に吹かれ落ちてきた葉っぱでいっぱいだった。

 

 

パイモン「や、止んだ......?」

 

 

明らかな異常事態だと察知した2人の団員はパイモンを引き連れて梯子を登る。そして、火柱が見えた方向を急いでみた。

 

 

あんな巨大な火柱でも、時間と共に勢いを減らし、爆発地点の中心へと収束する。そして、水に落とされた火のようにパタリと消えた。

 

 

火によって発生した黒煙も不思議と止む。そして、そこから見えたのは更地になった一帯だった。

 

 

全てを焼き尽くす炎とそれから発生する熱発と衝撃波のせいでこうなったのだ。綺麗な茶色の円形とその際にある新緑の奇妙な世界が広がっている。

 

 

それに加え、火柱が起きたであろう場所に巨大な穴とその周りに迸るクラックがあった。

 

 

パイモン「多分あそこにさっき言ってたでっかい亀裂があったんだ......!それがさっきの火のせいで穴に.......!」

 

 

「.........!」

 

 

まさに天変地異とも言える現象に2人の男は言葉を失い、唾を飲むことしか出来なかった。

 

 

パイモン「あ!あれを見ろ!!」

 

 

パイモンが何かに気づいたようで、穴の近くを指さす。

 

 

そこには黒い煙と負けじと白煙がモクモクと登っている。そして、それをまとうかのように黒くて巨大な塊のような物が急スピードで横方向に移動していた。

 

 

「な、ななな、なんだよあれ........!!!」

 

 

なよなよした団員がついにパイモンのような驚き方をする。

 

 

「まずい.....!あの方向はモンド城......!!!」

 

 

呆気に取られていたが、ふとあの怪物の進行方面を見ると、真っ直ぐモンド城にぶち当たることに気づいた。

 

 

「貸せっっっ!!!!」

 

 

1人が持っていた信号拳銃を強奪する形で手に取ると、柵から乗り出す。そして、フリーの片手の指で穴を塞ぎ、拳銃を持っている片腕を耳を塞ぐように天向かって伸ばし、躊躇無くトリガーを引いた。

 

 

パァン!!

 

 

トリガーが引かれると同時に拳銃に込められた発煙弾が飛び出す。焦げた火薬の匂いが漂う。

 

 

信号弾がある一定の高度まで飛行すると、炸裂し、そこから赤色の煙がモクモクと、火柱よりも高い高度まで登って行った。

 

 

自分がいる監視塔から信号が出たと、同時に各所の山々から次々と煙が上がってくる。どうやら、黒い生物の危険性をほかの監視塔も察知したようだ。

 

 

「お、おい......!」

 

 

煙が無事登ったことを確認している途中、ふと他のところを見ている団員が喋りかけた。

 

 

パイモン「ん?どうしたんだ?」

 

 

「あ、あれ.......!!」

 

 

とんでもない事に気づいたようで、声が震えている。

 

 

パイモンともう1人の団員がその方向を見た。

 

 

パイモン「あ、あれは.....!!」

 

 

大量の魔物の群れだった。あの黒い生物から出る白い煙と負けないほどの土埃を空中に舞いながら、モンド城に向かっている。

 

 

一瞬、監視塔にいる人間たちを襲いかかるかと思ったが、それに目もくれることなく、真下を通り過ぎて行った。

 

 

「と、通り過ぎた......!?」

 

 

魔物達が人間を襲ってこないという不可解な現象が起きた。

 

 

パイモン「........!アビス教団だぞ.....!アビス教団が魔物を操っているんだ......!真っ先にモンド城に向かうように......!!」

 

 

「.......!」

 

 

「ひいいい!!もう終わりだ!!」

 

 

ついにしゃがみこんだ。迫り来る絶望に恐怖してしまったのだ。

 

 

「バカもん!!!!しっかりしろ!!!!!」

 

 

すかさず、もう1人の男が怒鳴った。かなりの声量だ。怒号が森中にこだまする。

 

 

「俺達は騎士だぞ!!!騎士が危機に怖気付いてどうするつもりだ!!!!!市民を守るために行動しなければ意味が無い!!!!!」

 

 

しゃがんでいる団員の無理やり立たせ、肩を強く揺すっている。

 

 

「俺達もさっさと本陣に加わるぞ!!!.....パイモン殿、見苦しいところを見せてしまった」

 

 

急にパイモンの方向を振り向く。

 

 

「パイモン殿、俺達はこれからモンド城に向かう。あなたは戦火の影響が出ないところ....そうだな、ここから真っ直ぐ反対側に向かって事が終わるまで避難していてくれ......」

 

 

パイモン「い、嫌だ!オイラもモンド城に行くぞ......!」

 

 

「ダメだ!これからモンド城は戦場になる。そんな危険なところにパイモン殿を同行させる訳にはいかない!」

 

 

パイモン「オイラが無力だからか!?そんなの分かってるぞ!だけど、オイラだって騎士団の1人だ!仲間が戦うのに1人だけ逃げる奴がどこにいるんだよ!」

 

 

「........!......わかった」

 

 

パイモンの真っ直ぐな目に負けたのか渋々了承した。

 

 

そして、3人はすぐに監視塔を降りて、迂回する形でモンド城へ急いだ。

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