台本書き
駄文
オリキャラ(複数人)
独自設定
ゼーレ「くっ...ふっ.......はぁ......はぁ......はぁ.........」
ゼーレはひたすらモンド城の下を目指して降りていく。そこにまだ怪物がいる。
あの自由の国の都モンド城も戦いによって一気に様変わりしている。教会へ登っていく階段はひび割れて段がない部分があり、所々の家は完全に破壊されて押しつぶされていた。石柵もボロボロに破壊され、そこをせき止めるものは無い。地面には小石サイズの瓦礫が散らばっていて、素足ならまず切れるのは免れないほどだ。
機能していない階段を降りるのは諦め、段々構造になっている壁から直接降りていく。そして、いよいよと怪物が直撃したと思われる所まで降りた時、不意にゼーレが体勢を崩してしまった。よろめきながら、近くの壁にぶつかって地面に倒れ込む。
ゼーレ「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」
倒れ込むな否やゼーレは咳き込んでしまう。口から血の味を感じると、それを地面に撒き散らした。
ゼーレ「(この感じ.......折れた肋骨が肺に刺さってるわね.......)」
きっと体にパンチを食らった時の衝撃で刺さったのだろう。よく思えば、先程から息が苦しい。指先が震えている。視界も正常じゃない。目の前の景色が霞んで見えた。
ゼーレ「(あまり時間は残されていない.......!何とか突破口を切り開かないと.......!)」
「倒れているな......。手助けしてやろうか.......?」
ゼーレ「!」
立ち上がろうとした時右手から声が聞こえてくる。そこにはゼーレを見下している怪物が立っていた。
「もちろん、あの世に送ってやる手助けだがな........」
すると、魔物は自分の片足を振り上げると、ゼーレの顔を踏んづけ始める。思いっきり振り落とすことなく、ゆっくりと足裏を左右に揺らし、地面にすり減らすかのようにゼーレを圧潰す。
「ほら、どうした?さっきの生意気な態度はどこにいったんだ?この私に教えてくれよ.......。なぁ!!!!」
ねっとりとした口調でゼーレを挑発していたかと思えば、急に怒り狂ったかのように語気を強めてゼーレの腹を蹴りあげた。ゼーレの体は後方に飛んでいく。だが、すぐに立ち上がり、怪物を睨みつけた。
「おや.....立ち上がる元気はあったようだな」
だが、立ち上がったのはいいものの、依然として足の震えは止まらない。吐血、骨折、臓器の損傷。これらの要因が足を引っ張っている。更には、貫かれた左胸の出血は未だ止まっていない。
あまり攻撃が飛んでこないことを察した灰色の魔物はゼーレに差し迫る。対してのぜーレは氷の神の目を光らせ、左手を振り上げた。
「させるかぁ!」
己に降り掛かってくる攻撃を予測した魔物はすぐさま迫る。だが、左手から飛び出した冷気は怪物よりも早く通り過ぎ、氷を顕現する。たちまち辺り1面のが豹変し、怪物が凍りついた。威力としては十分だ。だが、ゼーレはとてつもない違和感を覚えていた。
ゼーレ「(........!?威力が落ちてる.......!?)」
「ククク.......!!」
すると、前方の巨大な氷の岩から不敵な笑い声が聞こえてくる。
「甘いな....」
ピキッ。と、氷に亀裂が入る音が聞こえると、一気にそれは崩れ去り、そこから灰色の姿が現れた。
「抵抗はそこまでか?」
そう冷たく言い放つと、再びゼーレに襲いかかる。
ゼーレ「(まずい.......!まさか神の目の力も弱くなっているとは.......!!誤ったわね.....!!!さっきので氷元素が底を尽きてる.......。基本的な運用でしか使えない.......!!)」
氷元素でさえも底を尽きかけている状況でゼーレは自分の腕に氷元素を纏わせることでしか使えなくなっていた。
咄嗟に左腕で自分の体を守るためにガードしたがその左腕ごと顔を殴られてしまう。そして、その場に尻もちをついてしまったのだ。
「はっ!はっ!はっ!はっ!」
魔物は高々に笑う。すぐさま、鋭い指先を立て、ゼーレの喉笛目掛けて向かわせる。
その時だった。ゼーレは咄嗟に腰に身につけていた氷の神の目を掴むとベルトと神の目にある金具を引きちぎった。そして、それを怪物の指先まで持ってくる。
「!?」
ゼーレも内心驚いていた。何故自分がこんな行動をとったのか分からなかったのだ。接近する指先を見て、勝手に腕が動いていた。人間の本能的な防衛行動に近い気がする。
指先と氷の神の目が接触する寸前、青色のガラス玉が急激に光り始める。辺り一面が目に染みるほど鮮やかな青色の光によって照らされた。まるで、神の目にも魂があり、その魂が最期の輝きを放っているようだった。
ゼーレ「........!」
「何っ」
ゼーレはこれがなんなのか分からなかった。口をあんぐり開けながら、事の顛末を見ている。
その光と共に氷の冷気が迫り来る指先をゆっくりと押し返すほど放出され、ついには怪物の攻撃を弾き返す。
「........!?くっ......!」
怪物の攻撃を弾き返した。これは確かに嬉しいことだ。だが、同時にゼーレにとって最悪の出来事だった。
ピキッーーーー。
怪物を怯ましたと同時に神の目からそんな小さなヒビが入る音が聞こえる。見ると、神の目のガラス玉に三方向に迸る亀裂が入っていた。海よりも澄んだ水色は徐々に陰りを持ち、最終的には灰色になっている。
ゼーレ「(氷の......神の目が........消えた.........!?)」
全身から力が消えていく実感がある。栓を抜かれた風呂のように、灰色になってしまった神の目と同様に内側の青色が霞んでいく。
「(氷の神の目の活気が消えた......!何が起きているのかわからんが利用させていただく......!!!)」
ゼーレから氷の気配が消えた。そのことは灰色の魔物も感じ取った。すぐさま攻撃を仕掛ける。
ゼーレ「ちっ.....!何が起きてるの......!!」
迫り来る拳を避け、左腕でその腕の手首を掴む。そして、魔物の肩を足で押し付けると一気に左手を後ろに引いた。肩で足を引っ掛けるとそれがストッパーになり、そのまま肩から腕が引きちぎられる。ブチブチと筋肉が引き裂かれる音が響いた。
「グオアア''アアア''!!!!」
そのままゼーレは怪物の胸部に爪を立てたまま、打撃と同じ要領で殴る。すると、爪が硬い皮膚を突破し、指がするすると突き破り、筋肉にめり込んでいく。指の第1関節までくい込んだ時、指の皮膚から温もりと共にドクンドクンと一定間隔で動いている感触が伝わってくる。
ゼーレ「(この感触は心臓.......!このまま切り裂いてあげるわ......!!)」
一切の容赦なくゼーレはさらに爪を立て、そのまま腕ごと下方向に下げる。心臓はゴムのように伸縮性を持ち合わせている。すぐに切り裂くことはできなくとも少しづつゼーレは手応えを感じていた。
その時、ひきちぎった怪物の腕の肩からぶくぶくと沸騰する音が聞こえる。欠損した腕を再生させようとしていた。
ゼーレ「(さすが超再生!すぐに再生する!)」
ならば、再生される前にせめて心臓を裂いてしまおうと腕を更に下げようとした時沸騰し、1秒後には完全回復しようと予定していた肩の再生が完全に止まったのを見た。
ゼーレ「(.....!再生が......止まった.......?)」
「ぐっ.....!邪魔だああああ!!!!!」
痛みのあまり、怪物が一心不乱に体を揺らし、ゼーレの腹に足蹴りを食らわせる。こうなったら、攻撃を諦めざるを得ない。だが、今確かに感じた手応え。それをゼーレは見逃すはずがない。
ゼーレ「(今のは......?心臓を攻撃したら途端にこいつの再生が止まったわね........!弱点は.......心臓........!?)」
そんな時、ゼーレは盈月のとある言葉を思い出す。
ーーー『心臓は現実世界と精神世界の境界線....。そこからは分かるよね?』ーーー
ゼーレ「(そういう事ね.......!!心臓はまさに境界線......!そこを傷つけば精神世界も傷ついてしまう.....!精神世界が傷つけば少なからず律者の力にも影響を及ぼす.....。だから、再生スピードが極端に減った.......。見えた.......突破口が........!)」
前が見えなくて、暗い暗い霧の中で見えた一筋の光。その時のゼーレは森の中で迷い、出口を見つけた時のような幸福感に包まれた。
ゼーレ「(あっちが私の力を押さえつけているのなら、こっちも傷つけてしまえばいい........!!)」
魔物の弱点は見つけた。ならば、それにもっと深く攻撃できるように動くだけだ。
ゼーレ「.....!くっ....!」
だが、それは体が万全であるのが前提条件だ。
ゼーレの体は刻一刻と限界に近づいている。もしそのラインを超えてしまえば、体が動かなくなってバットエンドだろう。
今この戦いは律者の力が復活するまでの時間稼ぎからゼーレの体が終わるかその前に怪物の精神世界を破壊するか.....その戦いに代わりつつある。
ゼーレ「はーーーーー.......ふーーーー.......」
ゼーレが大きな深呼吸をして、息を整える。すると、自然と痛みで震えていた体が落ち着いていく。指先の感覚を取り戻すことができた。
怪物の腕は再生しつつある。きっとこの間に指でえぐられた心臓が戻ってきているのだ。
思わぬダメージに怪物もゼーレに対する追撃を一旦やめた。虎視眈々と目の前で拳を構えている人間を見つめている。
と、その時ゼーレの背後から懐かしい声が聞こえてきた。
「姉さん!これを使って!」
ゼーレ「!」
ゼーレはその声に本能的に振り返った。そして、見えたのはこちらに回転しながら飛んでくる大剣と青髪の女性の姿。
大剣のグリップを掴んだ。ずっしりと重量感のある大剣だ。だが、それは一切の装飾が存在せず、ただただ斬るとしての役割でしかない訓練用の大剣だった。
ゼーレ「(大剣........!?)」
自然とゼーレの目線は大剣が飛んできた方に移る。少し遠くの位置にエウルアが立っていた。
ゼーレ「エル.........!?なんで...?」
大剣の持ち主がエウルアであることがわかった瞬間、ゼーレの思考は止まってしまった。なんでここに彼女がいる?寝ていたはずでは?まさか、戦いの余波で目覚めた?そんな事が頭に過る。
対してのエウルアも同じような考えをしていた。衝動に駆られ戦場に突っ込んできたものはいいものの、なぜここが戦場になってしまったのかも知らない。何より今目の前にたっている姉は服がボロボロになり、体が土埃で汚れ、全身が血で汚れている姿に驚いている。
エウルア「姉さん......!」
エウルアはなぜ自ら武器を投げ飛ばしたのか分からなかった。本能がそう言っていたに違いない。
そんな時、ゼーレの真横を何かが横切り、風が吹く。気づくとゼーレを無視して真っ先にエウルアに怪物が攻撃を仕掛けた。それをみたゼーレは一気に現実に引き戻される。
「わざわざ出向いてくれるとはな!」
ついに鋭い爪がエウルアに刺さろうとしたその瞬間ーーー。
ガキィィィン!!ーーーー。
爪と大剣の刃がぶつかる音が聞こえる。何とかゼーレが間に合った。
大剣の刃を横にして、爪の全てをその剣に受け止めている。
エウルアは目を瞑っていたが、庇われたことに気づいて、ゆっくりと目を開ける。
エウルア「ね、姉さん........!そんな......!」
だが、この時間も長くは続かない。4本の腕の全ての爪を受け止めるには片腕だけでは足りないのだ。徐々にゼーレの位置は下がっていく。
ゼーレ「(まずい.......。力だけじゃ解決できない......。どうすれば......。エルにはこの場から逃げてもらおう.....。........いや)」
ゼーレは必死にどうしようか考えていた。しかし、ふと脳内でとあることが過る。そのことを考えた途端、焦っていた顔が急に笑顔になった。
ゼーレ「(いや......ここは........)」
一刻の猶予もない状況の中、ゼーレが後ろにいるエウルアだけに聞こえるように喋りかけた。
ゼーレ「エル」
短く、そして力強く、妹の名前を言う。
エウルア「な、何.......?」
エウルアもすかさず喋り返す。
そして、ゼーレはまるで子供をあやすかのように喋り始める。かつて、屋敷の木の下でエウルアと喋っていた時のようにーーーー。
ゼーレ「一言だけでいい.......。私に声援を送って.......!」
エウルア「声援......?え、な......え?」
意味がわからなかった。エウルアはてっきり逃げてと言われるのだと思っていた。ふざけているのかと思えてくるようにもなってきた。
ゼーレ「お願い」
軋み合う金属の音。弾ける火花。そんな中で見た姉の瞳。それは真っ直ぐにエウルアを見つめていた。
それを見た時、姉は本気なのだと......そう思った。
エウルア「ね.....姉さん.......頑張って.......!」
ゼーレ「!」
エウルアは小さく、そう言った。その瞬間、ゼーレの様子が一転する。
ゼーレ「うおおおお!!」
エウルアの声援に呼応するかのように体の奥底から湧き出すその声。そして、力強く爪を跳ね除けた。
「..........!?何!?」
素早く怪物の首を掴むと、勢いよくモンド城の城壁目掛けて投げ飛ばした。魔物は地面を跳ね、家を貫通し、城壁に激突した。その軌道には大きな塵の山ができている。
ゼーレ「お姉ちゃんパワー全開!!!!!」
さっきのが嘘かのようにゼーレは希望に満ちていた。一つ一つの細胞が実際に燃えているかのような感覚がする。血液が全身を駆け巡り、体が綿のように軽くなった気がした。実際に体の状態が良くなった訳では無いのだが、今のゼーレの目の前に敵は居ない。まさに絶好調だ。
一連の流れを見ていたエウルアは地面に尻もちを着き、口をあんぐりと開けたままだった。そんなエウルアを気にすることなくゼーレは手をがっしりと握る。
ゼーレ「ありがとう!エル.......!」
血に染った歯を見せながら、ゼーレはにっこりと笑う。そこに感謝という感情以外はあらず、曇りひとつない瞳でエウルアに感謝を述べた。
そして、すぐさま大剣を握ると怪物が吹き飛んで行ったと思われる場所に走り出す。モンド城の大通りをひたすら歩く。体の痛みは消えていた。
ゼーレ「(行ける.......!まだ私は戦える........!!)」
城壁よりも高く舞い上がっている粉塵との距離が近づく度にその中にある影の輪郭が濃くなっていく。そして、ゼーレの足は止まる。
ゼーレ「.........」
「.............」
お互い黙っていた。ゼーレの沈黙は様子見の意味を持つが、怪物の沈黙は困惑を意味していた。この世に生まれ堕ちてまだ数時間しか経たないが目の前の人間の行動に驚かされてきた。だが、たった今起きたことはなんだ?もはや説明がつきやしない。
「(なんなんだ.....。本当になんなんだ........!!!先程までピンチに陥っていた女が妹の声援だけで私を吹き飛ばした........?ありえない........!!.........はっ、これが愛というやつか.......?)」
怪物の脳内で無理やり結論づける。だが、それでもおかしすぎる。すぐに感情は怒り一色に支配された。
「これが愛というやつならば......やはり貴様は気色悪いな.........!」
傍から見れば怪物の口調は冷静だ。しかし、それはすぐに崩れ去る。口を大きく歪ませ、魔物はゼーレに向かってこう叫んだ。
「どれだけシスコン極めてんだ、この気狂い女ァ!!!!!!!!!」
ゼーレ「あーあ、かわいそ........。妹の愛を知らないなんて........。あなたも持ったらわかるわよ。それは今世じゃ期待できないけど!」
「この.......!異常者が!!!!!!」
ゼーレの煽りについに噴火したかのように激昂した怪物は理性も計画性もかなぐり捨て、見境なく殴り掛かる。それを待っていましたかと言うかのよう、ゼーレが足で魔物の顔を踏んずけた。
「ぐっ!!!」
ゼーレ「姉っていうのはね!妹を愛するために生まれてきたの!!!姉は常に妹の歩む道にならなきゃならない!!それは出来ない姉なんかとっとと死んじゃえ!!!」
魔物の顔をグリグリと押し当てた後、今までのお返しと言わんばかり、血が吹き出している心臓部分を踏んずける。
「は!それがなんだ!?そんなもの私に知ったことか!そんな無駄な話をしている暇があったらそのボロボロな体の心配でもした方がいい!!!」
ゼーレの足を鷲掴みにすると、そのまま階段に叩きつけ、蹴り飛ばした。
ゼーレ「ぐっ.....!(まだまだパワーは有
り余ってるな.......!やっぱり心臓を引っ掻いたぐらいじゃあんまり効き目がない......!もっと......!もっと........!!!決定打になるような攻撃を.......!!!!)」
ゼーレが引きちぎった腕は再生完了しつつある。後、数分もすれば完治するだろう。だが、言い換えれば超再生という能力でも精神世界への干渉には抗えないということだ。
隙を見て、心臓への打撃を打ち込もう。そう思いだった時、目の前にいる怪物の様子がおかしくなった。
灰色の肌が岸に打ち上がった波のように動いている。そして、次の瞬間、その怪物は2体に分裂した。
ゼーレ「!?」
2体に増殖した魔物は同じ見た目で、同じ大きさだ。両者がニヤリと笑うと、挟み込む形でゼーレに攻撃を仕掛ける。
2体に分裂しようとゼーレは体を翻していたが、不意にそれは崩れ、隙が出来た。一体の魔物がゼーレの顔を殴り、もう一体の魔物がゼーレの腹に爪を刺す。
ゼーレ「ぐっ......!(強い!分裂しても本体は強いままね!この分裂も律者の能力の内ってわけ!?)」
爪を刺した灰色の魔物はゼーレを地面に叩きつけると、すりおろすかのように引きずり回し、近くにあった家の壁に叩きつけた。
「貴様はこれを新たな律者の能力だと思っているだろう....!違うな........。これは超再生の延長線上だ.......。分裂しても力はそのままだ.......!戦いの中で更に見つけたんだよ........。力とは何かを........!!!」
ゼーレ「(超再生の延長線上.....?いや、それは普通に考えて有り得ない。分裂したあいつの力は極わずかに感じた.......。あれは普通に嘘か勘違いの2択ね......。きっと律者の力を分離させて、超再生で一時的に分裂したかのように見せかける...。そして、その力を分裂した肉体に移動する。きっと力を切り分けるのが律者の力ね......。それが2つ目の力.......。三つめが元素反応のエネルギー弾か........)」
ゼーレはムクリと立ち上がり、家から脱出する。
ゼーレ「(なんだ......案外単純じゃない.......。なら.......!)」
大剣のグリップを強く握ると怪物に一目散に戦いを仕掛ける。そのうちの一体に思いっきり大剣を振り回し、一瞬にして魔物を切り刻んだ。
ゼーレ「(やっぱり.......!今切り刻んだのは雑魚の方か!)」
本体と思われる灰色の魔物が切り刻まれた分裂体を見て、狼狽える。
「ぐっ......!」
少しゼーレとの距離を開けながら、苦し紛れに更に2体の分裂体を生み出した。それも躊躇無く切り刻む。
ゼーレ「弱い!」
全身をバラバラにされ、肉体を保持できなくなった分裂体はドロドロに溶けて、地面の中に吸い込まれるかのように消え去った。
「っ......!バレたか!?」
ゼーレ「あら、白状したわね!」
そのままゼーレは左腕を振りかぶり、魔物の心臓部分に迷い無き打撃を叩きつける。皮膚を貫通し、心臓に直接衝撃を与える。そして、打撃によって痙攣する心臓の筋肉。怪物の口からは血が吹き出した。この時のダメージは心臓を引っ掻いた時よりも遥かに凌いでいるだろう。
現に魔物は視界がぐらつき、世界の線全てが二重に見えていた。
だが、その時ゼーレは地面に膝を着いてしまう。
ゼーレ「.......!?いきなり!」
言うことを聞かない体に驚いているようにも見える。そんな様子を見た魔物はすぐにニヤリと笑う。
「はっ!はっ!はっ!惜しい惜しい!」
そう叫びながら地面に蹲るゼーレを蹴り飛ばした。
エウルア「姉さん!大丈夫!?」
先程まで優勢を保っていたゼーレが逆転されたことを見て、エウルアは柵に寄りかかり、心配の声を叫ぶ。
ゼーレ「.........」
ゼーレは腹を抱えながら起き上がる。だが、決してエウルアの方向を見ずに真っ直ぐと魔物を見つめている。
「それがいつまでも続くと思うなよ!ゼーレ・ローレンス!」
再び訪れた優勢の中ゼーレに嘲るような言葉を投げる。そして、ゼーレに向かって走り始めた。
ゼーレとの距離がもう2mもない時、ゼーレの表情が変化したことに魔物は気づく。苦痛の顔から笑顔へと、その微笑みはまるで子供かのように無邪気で、だが、不敵な笑みだった。
「........!」
そんな様子に怪物の足もふと止まる。そして、なんとゼーレは突如、敵の目の前で伸びをし始めた。
ゼーレ「ふー.......やっと痛みが止まった......。これが現実の空気か.......!''500年ぶり''に吸った空気は美味しいね!......まっ、土埃の匂いしかしないけど.......」
ゼーレからは想像もつかないような飄々とした様子に2人の口はあんぐりと開いた。
「ゼーレ・ローレンスではないな...。誰だ........。お前は一体誰だ!!」
ゼーレ「お前は一体誰か......。強いていうならこの肉体の主にへばりついてるもうひとつ魂かな?」
「.......!?もうひとつの.......!?(何を言っているんだこいつは.......。はっ......!あの穴でゼーレ・ローレンスと片割れと戦っている間私の精神世界に干渉してきたやつか.....!それでは......なぜこいつがゼーレ・ローレンスの肉体の主導権を握っている!?)」
魔物の予想は当たっている。今ゼーレの肉体を操作しているのは盈月だった。
「(もしや、急にゼーレ・ローレンスが倒れたのは魂の入れ替えによって発生した同期のダメージか.......!)」
何が起きたのかは理解した。だが、それと同時に強烈に湧いてきたひとつの疑問。それは。ーーー
「(ならば.......ゼーレ・ローレンスは今どこに!?もしや、戦いによってゼーレ・ローレンスの自我が弱まり、代わりにもうひとつの魂が入れ替わったのか.......!?.......もしそれなら.......私にとっては好都合.......!見極めを.......誤ってはダメだ.......)」
エウルア「だっ、誰.....!?」
エウルアはようやく事態を飲み込んだ。今、目の前に立っている人間は姉の面を被った別の誰かだ。
盈月はそれを返答することなく、エウルアの顔を下から眺めている。
ゼーレ「(あれがゼーレさんの妹か........。生で見るけどやっぱり似てる........)」
エウルア「ちょ、ちょっと!聞いてるの?」
中々喋らない盈月に痺れを切らした。
ゼーレ「大丈夫。君の姉さんは大丈夫だよ」
対しての盈月はそう短く返答して、再び怪物に向き直った。
エウルア「だ、大丈夫って......。え、えぇ.......?」
「.......もし、ゼーレ・ローレンスの自我が弱まり........もうひとつの魂が浮世に浮上してきたとなれば.......それは大丈夫ということにはならないのでは?」
灰色の魔物はそう小さく呟く。
「ひとつ、問おう......。ゼーレ・ローレンスは何をしている」
魔物はそうやって近くにあった壁に爪を刺した。そして、それを掴むと、瓦礫を2人の人間に見せつけた。脅しだ。
エウルアは思わず口の中にあった唾を飲み込んだ。ーーだが、盈月の返答は言葉ではない。挑発の意味が込められた不敵な笑みだった。
ゼーレ「さぁ......。それは自分に聞いた方がいいんじゃないかな?」
「そうか。ならば、無理やりにでも吐き出すしかないな」
盈月の対応に難色を示すと、怪物はそのまま瓦礫を持ち上げ、振り被ろうとした。しかし、それが飛んでくることは無かった。
魔物は体内で強烈な違和感に気づく。次の瞬間には全身から力が抜け落ちた。当然、掴んでいた瓦礫も手放してしまった。静寂が流れていたモンド城に豪快に崩れ去る音が鳴り響く。
持ち上げたポーズのまま、全身がトライアングルのように小刻みに震えている。そして、震えた指で自分の心臓を撫でた瞬間、怪物はその場に膝を着いた。
「え.......な.........」
訳が分からなかった。いつの間にか自分から力が抜けているのだから。空腹の時の無力感が全身に襲い、その場から動くことが出来ない。
「(な、なんだ........!?なぜ動かない......!!!)」
ゼーレ「だから、言ったじゃん''自分に聞いた方がいいんじゃないかって''」
「な、何を言って.......。.........!ま、まさか.........!!」
ゼーレ「そう......。そのまさかだよ」
怪物の内側にあった違和感が増幅し、確かな実感と変わる。
「ゼーレ・ローレンスは今........私の精神世界にいる........!?」
ゼーレ「正解」
そう、ゼーレは肉体の主導権を盈月に讓渡し、魂を魔物の内側に潜行していた。
ゼーレ「今あなたの精神世界に侵入して、内側で大暴れしてる途中だろうね.......。たとえ律者の力を3つ持っているあなたでも内側から攻撃されたら効くようだね」
「なっ......何ぃぃ......!?(いつだ!?いつの間に......!?!?!?というか、どうやって.......!?)」
この一瞬で侵入するなんて不可能なはずだ。魔物の脳内は疑問一色に染まっていたが、ふと、とあることを思い出し、そこから芋づる式でゼーレの侵入方法が頭に浮かんできた。
「(まさか........!私の心臓に打撃を繰り出したあの瞬間か.......!!!)」
魔物の予想は当たっていた。打撃の衝撃で揺らいだ心臓と共に境界線は一瞬破壊される。それを感じたゼーレは咄嗟に精神世界に侵入したのだ。
「(あの一瞬で.......!?くそ......!!ゼーレ・ローレンスが倒れたと勘違いしたせいで侵入されたことに気づかなかった.......!!早く追い出さなければ!!!)」
頭をフル回転させて精神世界に居る異物を排除する方法を画作していた時、魔物の頭を盈月が掴んだ。
「!」
次の瞬間には瞬く間に怪物の体全体に切り傷が走る。
「........なっ!?(なにが起きた!?)」
動けない魔物に次に繰り広げられたのは殺傷を伴う蹴りだった。弱体化してる怪物は為す術なく地面を転がっていく。
蹴られた部分は切り傷よりも大きな傷跡が出来上がった。それはまるで斬撃のようだった。
「(これは........斬撃!?なんだ!?ゼーレ・ローレンスは今律者の全ての力が使えないはずでは!?!?)」
ゼーレは代償として一時的に再生能力と斬撃が扱えなくなっている。それなのに確かに今魔物に切り刻まれた力は斬撃だった。
ゼーレ「一時的に力が使えない状況なのになぜ斬撃が使えるのか......みたいな顔してるね。それはあくまで世界樹から供給される分だけ。肉体に残ってる分はまた別だよ」
「肉体に残ってる分だと.......?」
ゼーレ「ゼーレさんがいっぱい力を使ってくれたおかげで肉体にも僅かに律者の力が残ってる........。だから、斬撃の分がつかえるんだよ」
ゼーレ「(とはいえこの状況を長く維持することは難しいね........。指先が震えてる......。これは律者の汚染やダメージによるものじゃない。体が拒絶反応を起こしてるんだ.......。ゼーレさんの肉体が主はこの魂じゃないって言ってる。早く決着をつけないと.......!)」
盈月はその場から未だ蹲っている怪物に走り出した。
ゼーレ「(残量的に斬撃の残り回数は2回ぐらいってとこかな....!未ださっきの傷は治せてない!今がチャンス!)」
急に差し迫った生命の危機。だが、内側で悪さをしている人間が原因で動けずにいた。
ピンチの中で怪物がとったカウンターは......盈月を掴むことだった。
ゼーレ「.......!何を.....!」
「お前もこい!!」
怪物はそう叫び、ゼーレの顔をじっと見る。
盈月はそれと同時に体の力が抜けていく感覚に襲われた。そして、意識ごと魔物の中に行ってしまった。
●
盈月「うっ.......!」
自分の意識が吸い込まれたと思いきや、気づくと盈月は地面に倒れ込んでいた。ゆっくりと体を起こすが、強力な目眩がする。それでも、何とか目を開けて、顔を上げた。
盈月「ここは......」
盈月が今、立っている場所は石で出来た建物の中だった。
盈月「えっ.......!?ここどこ......!?」
人工的に加工され、磨きあげられた石のタイル、等間隔に設置された天井まで伸びている石の柱、そしてその柱につけられたメラメラと燃える松明。それがこの部屋の唯一の明かりだ。それ以外はない。なんとも不気味な部屋だ。
朝起きて、寝ぼけている中、寝坊しそうなことがわかると一気に眠気が取れるのと同じように盈月の視界を覆っていた目眩も晴れた。冷静になって脳みそを動かしていると、とあることを思い出す。
盈月「これ.......層岩巨淵の地下にあった.....」
そう、層岩巨淵の地下に存在していた逆さまの都市の建築様式とほぼ合致していた。
盈月「(もしかしてここは層岩巨淵........?)」
ふと、そんな事を思い過ぎったがそんなはずがない。
盈月「(ここが.......層岩巨淵のはずがない。だって、さっきモンド城にいたんだもん.......。あの魔物に意識を吸われたということは......ここは魔物の精神世界........ってことになるね)」
部屋は縦長く、奥まで続いている。松明の光しかないので、最奥の暗闇には赤色の光が浮かんでいるようにしか見えなかった。ふと、盈月はここから少しの所に穴が空いていることに気づく。もしかしてあれは部屋の出口かもしれない。そう思い、急いでそこに近づいた。
その穴は人間が1人入るのに丁度の大きさだ。そこから覗いて外の様子を伺う。
盈月「.......!なにこれ........」
外の様子はもっとおかしかった。コンテナに近い形の石の部屋が鎖によって吊るされている。その鎖の根元を見ると大きな石の空間の天井にくっついていた。その空間は大きさは層岩巨淵の地下にあった天空の釘よりも倍だ。そんな石の部屋が無数に吊るされている。そして、何よりその空間の中心には巨大な木が生えていた。あの釘に見劣りしないほど背が高く、空間を青白く照らしている。
盈月「(あれは.....世界樹......!)」
一発であの木の正体がわかった。だが、それと同時に驚愕に近い疑問が湧いてきた。
盈月「(草神ブエルの世界樹より大きい.......!?)」
本体の世界樹よりも3〜4倍程背が高く、幹も太い。傍から見たら、数百年......数千年.......下手したら数万年の年季を感じるほどだ。しかし、盈月はそれを感じなかった。逆に気持ち悪さが湧き出てくる。樹が無理やり融合させられたような......。
何か全体的に木の輪郭が歪だ。地面に露出している根は極端に細いもの、極端に太い根とバラバラだった。更には、根元の幹にはもう一本の小さな木が貫通しているのが見える。
そんな不正形が無数にあった。
盈月「(なんでこんな.......!..........!そういうことか........!この魔物の魂に3つの律者がくっついているというのと........)」
ーーーー『エネルギー同士をくっつけることが1番難しかったからな.......。独立したエネルギーが存在しているとどうもそれら同士が喧嘩をしてしまう.......』ーーーー
ゼーレが屋敷を訪れた帰りの際、偶然遭遇したアビス教団の言葉を思い出した。
律者の3つの力が魂にあること。それが芋づる式に言葉が思いつく。
盈月「(あれは3つの世界樹が無理やりに融合した結果.......!だから、あんなに歪められて......!)」
何より、その世界樹から薄黄色のシャボン玉が出現し、ふわふわと上昇していき、天井に当たるとパチンと弾け飛ぶ光景を目にした。
盈月「(あのシャボン玉みたいなもの...きっとあれが律者の力の源だ。あれで力の供給をしてるんだね.....。なんで魔物が私も精神世界に引きずり込んだのか分からないけど、これはチャンスだ.......!あの世界樹を破壊すれば確実に弱体化する。ゼーレさんもきっとあれに気づいてるはず.......。早く合流しないと)」
何とかしてゼーレの姿を見つけださんとこの穴から出ようとしたが、案外それはすぐに終わった。
突然、ドォォンと石が割れる音が聞こえる。その音の方向は盈月がいる部屋のすぐに左手の石の小部屋からだ。その壁が破壊され、粉塵の煙が舞い上がる。すると、その破壊された部屋から何かが飛び出し、盈月の部屋に突っ込んだ。
それはゼーレだった。彼女はすぐに盈月がこの部屋にいることに気づく。
ゼーレ「盈月!?あなた.....!何やってるの!?」
盈月「私にも分からないよ.....!」
ゼーレ「分からないって.......!時間稼ぎをしていてって言ったはずよ!」
盈月「いきなり意識をあの魔物に吸われて魂がこの精神世界にねじ込まれた.......!」
ゼーレ「えっ......?」
ゼーレの顔は驚きが浮かんでいたが、すぐに疑問の表情に変化する。そんな時、暗闇から知っている声が聞こえてきた。
「安心しろ、ゼーレ・ローレンスのもうひとつの魂よ.......。ただ貴様を私の内側に招待しただけのことだ」
あの魔物の声だ。その声の振動が暗黒に浮かぶロウソクの輪郭を揺らしている。そして、2人の耳に大きな足音が届き、ついには姿を現した。灰色の肌にはぼんやりと柱のロウソクの火の光が反射している。
ゼーレ「あら.......?ご本人様もはるばるとやってきたのね。......だけど、自分の肉体が内側に潜ることなんてよっぽどのことがない限り不可能なはずよ。どうやってやったの?」
盈月「あ.......確かに........(草神ブエルは確か肉体と精神が混ざりあってしまうって言ってたよね........。どうやって......?)」
「ふん。詳しいことは分からない。そんな細かな理屈など今はどうでもいい。私が己の精神世界に入り込めた。この事実だけが今は重要だ」
ゼーレ「そう......。でもあなたもバカね。あの場にはエルが居た......。そんな状況で精神世界に入るだなんて、どんな思考回路をしているの?別にエルは動けないわけじゃないわよ」
「貴様はとことんあの人間を信じきっているのだな。やつは起きたばかり......言い換えれば無力だ......。何も出来んよ。歯牙にかける価値は無い」
ゼーレ「..........」
魔物の言葉によって少しだけゼーレの眉間が動く。だが、それ以上怒る事無く、淡々と目の前の敵を見ていた。
ゼーレ「それで?なんであなたは盈月ごと精神世界に引きずり込んだの?......もしかして私のせいで余裕がなくなってきたのかしら?」
ゼーレは挑発の意味も込めて、そう言い放つ。しかし、魔物はそれに怒るわけでもなく、ただ哀愁を込めて、こう答える。
「ああ、その通りだ」
ゼーレ「ふふ、図星のようね.......って......え?」
まさかの回答にゼーレは思わず聞き返してしまった。ここまでゼーレにのみならず、人間に舐め腐った態度を示し、倨傲(きょごう)だった魔物はすっかりしおらしくなっている。
「本題に入ろう......。なぜ私がここにやってきたか......。それはゼーレ・ローレンス......貴様に対話を持ち込むためだ」
ゼーレ「対話........?」
怪物から出された奇妙な提案によって2人は思わず眉をしかめる。
「貴様と戦っている時.......お前には不快感しか持っていなかった......。何故か?それを結論づけるにはあの状況では不可能だった。しかし、ふと、冷静に考えると貴様のそのスタンスが気に入らないことに気づいた。........運命への反抗だ」
ゼーレ「運命の......反抗.....ね。それはテイワットはアビスによって滅ぼされるという決定された運命のことを言いたいの?当たり前じゃない。そんな運命です、はいそうですかって納得する人間なんているわけが無いじゃない」
「そうだ......その通りだ。貴様のそれが気に入らないのだ。しかし......それだけじゃない」
ゼーレ「.......というと?」
「何故、その力を持っていながらテイワットを守っている.......?律者は故事来歴から人間の秩序からかけ離れた存在だ.......。それを知りながらお前は人間を守るという選択肢を取り続けているのだ?」
ゼーレ「..........。いつの間にか律者の力が芽生えたというものもあるし、何より人間だから......と言えばそこまでだけど.....私の役割はそれだから......。誰かの何者かになりたい......それだけよ。それ以上でも以下でもない」
「.........ほう。やはり.......分かり合えないものなのか?貴様と私は生まれた経緯も違うし、種も違う...。その壁が意志というものを歪めさせていくものか......」
ゼーレ「違うわ。意思は変えられる。それを抑圧する権利なんて誰にもないわ。それが運命だから......。それが決められた道だから......。そうやって諦めて、運命を受け入れたと言い聞かせるのは......私も同じだった。だけど......!そんな理不尽極まりないことを受け入れられるはずがない......!納得できない......!私......いや......。人間は運命の傀儡なんかじゃない........!!」
ゼーレの心から湧き出てきた本音は静かな石の部屋に染み渡っている。それを魔物は静かに聞いていた。
「........そうか。質問を変えよう」
静かに聞いてた魔物だったが、いきなり自分の握りこぶしを目の前に差す出す。そして、それをゆっくりと開いた。だが、その握り拳には何も握られていなかった。
ゼーレ「........?」
てっきりそこで話が終わり、先制攻撃を仕掛けられるのではないか...そう思ってしまったゼーレは身構えていた。しかし、何も握られていない灰色の手のひらに豆鉄砲を食らう。
「ゼーレ・ローレンス.......。もしこの私の手に美しい花が置かれていたらどう思う......?」
ゼーレ「........は?」
「しかも、その花は枯れることなく何千年咲き誇り続けている.......。さあ、どう思う?更にはとある人間は短すぎる寿命に嘆き、自らを寿命さえも超越する者ととした......。その人間についてどう思う?」
盈月「あなた.....対話って言っておきながらそうやって時間稼ぎをしーーーー」
ゼーレ「待って」
怪物の突然の質問に痺れを切らした盈月。それをすかさずゼーレが静止させる。
盈月「ゼーレさん........?」
意味が分からなかった。1秒でも早く決着をつけないと行けない状況でこうやってゼーレが庇うこと自体おかしいことだ。魔物の思う壷ではないか。でも、それをゼーレは真剣にアビスの話を聞こうとしている。不利な状況に置いてもだ。
奇妙な話をし始める魔物、それを聞いているゼーレ。なんとも不可解な光景がそこにはある。
ゼーレ「花は...そうね.......。ずっとそれが咲き続けるのならば......いいんじゃない?私は好きだわ。人間のその話は......凄まじい執念ね」
「お前はそう思うのだな........。ではこの花と人間.......一瞬の輝きという前提で考えてみろ」
盈月「一瞬の.....輝き......」
「よく善に満ちている人間が口にする言葉.......人間は命は短くて、儚い......。その短い時間の中で人間は美しさの軌跡を残す。そこに美学はあるのだと.......。花はどうだ?散りゆく運命にあるからこそ花は美しいと言うならば、数千年咲き誇る花は美しいか.....?人間には脆い美学を持ち合わせていると言うならば、寿命を超えた人間は果たして本当に人間か?これらは運命という絶対があるからこそ美しいと思えるのだ」
ゼーレ「........。何が言いたいの......?」
「簡単な話さゼーレ・ローレンス。貴様のその運命の否定はやはり納得できない。人間の歴史はこの数千年のスケールを誇るテイワットでは一瞬の出来事に過ぎない。セミのようなものだ。もし......その一瞬が汚されたとしたら?救いようのない結末だったとしたら?」
ゼーレ「驚いたわね......。テイワットを滅ぼそうとしている存在が人間の美しさを語るなんて。ただただ私を煽るためなのか、それとも私の持論への詭弁かは分からないけど.....」
「ただ憂いているだけだゼーレ・ローレンス。私はその一瞬を否定する気は無い.....!それさえも否定すればいよいよと我らアビス教団の存在意義は失ってしまうからな」
ゼーレ「存在意義.....?」
「私はアビス教団の.....いや......カーンルイアの代弁者だ.......。500年前、カーンルイアの末路は突如訪れた。文明の地はアビスが湧き出て、民の悲鳴と鮮血で染まり.......空には火花と戦いの軌跡が写った。まさに地獄だ。カーンルイアの国民はどこにも逃げ場は無く、為す術なく死んでいく。駆けつけた七神も大きな傷を残した結果となった。民は呪いによって形を歪められ、死ぬまで苦しむ異形となる........。それは正解なのか?それは素晴らしい一瞬となるのか?.....いや違う。それは間違っている。それは一瞬ではない。私たちカーンルイアは神達によって汚された......壊されたのだ.......!!許せるはずがない........!納得できるはずがない........!!」
いままで冷静に喋っていた魔物は徐々にヒートアップしていく。ゼーレはただひたすら静かに聞いていた。石の部屋は変わらずそこに存在しているが、近くにあった蝋燭の火がゆっくりと揺らいだ。
「だから、私が生まれた......!私は怒りであり.....憎しみであり......恐怖であり.......希望でもある。民の無念を晴らすための器なのだ。このテイワットの統治をひっくり返し、新たな律を作り出す。全ては.....カーンルイアの名のもとに」
ついに魔物の言葉はそこで途切れた。静寂が訪れる。言葉と共に揺らいでいたロウソクでさえも変わらなかった。今まで聞いていたゼーレだったが、ついには口を開く。
ゼーレ「それが自分の運命......自分の役割だって言いたいの?」
「そうだ。それでも貴様は人間の可能性というものを喚き続ける気か?」
ゼーレ「.......。何も....感じないわね」と、ゼーレは小さく、冷たく言い放つ。
「......何だと?」
すかさず魔物が反応する。
ゼーレ「あなたの話を聞いていたけど、そこに私の心を揺さぶるものは何も無かったわ。だから何も感じない」
「貴様........!」
ゼーレ「確かにあなたの言うことはわかる。この世に怨恨を持つ理由もわかる。だけど、それは上っ面の言葉で喋っているに過ぎない。ただただ、代弁者として喋っているに過ぎない。カーンルイアのことを喋っているのに他人事みたいわね.......。空っぽなのよ......そこにあなたの意思は存在していない。だから、私はその言葉に何も感じないし.....むしろ所詮はアビス.......傲慢としか思わない」
「.............」
ゼーレの反論に一瞬青筋を立てそうになっていた怪物だったが、なにか思い当たる節があったのか、黙っていた。
ゼーレ「カーンルイアのその意思とやらも結局一瞬の輝きに相反しているわ。500年前の漆黒の厄災こそがカーンルイアの運命だったはずじゃない?それを運命だと受け入れず、その矛先をこの現世に向けている。一丁前に講釈を垂れているくせに、自分達が美しくない存在だと見向きもしない、知りもしない、自分たちが正義だと突き進んできた。......傲慢の他でもない。だけど.......今からでも遅くはないわ」
そうすると、ゼーレはその場から足を進めませ、魔物の目の前に立ちはだかった。そして、左手を差し伸べる。
ゼーレ「私と一緒に可能性とやらを信じてみない?」
「何......だと?」
盈月「えっ......!?」
まさかのゼーレの提案。実質的に魔物に救いの手を差し伸べたのだ。ゼーレの顔に迷いなんてない。純粋な気持ちで魔物に話しかけている。
ゼーレ「正直今、私はあなたをアビスとしてみていない。れっきとした敵として見ている。あなたは知らないだけ......いや知りたくないだけよ、運命に抗える可能性というものを」
敵.........。敵.......か.........。これか......やつに抱いていた違和感というものは........?こいつは私が変わるのだと信じている........。
魔物は差し出されたゼーレの左手をずっと見ていた。迷っているようだった。ーーーだが、返答として出されたのは打撃だった。
ゼーレ「うぐ!」
1本の手のひらが拳に変わると、無防備のゼーレの腹目掛けてぶつける。思わぬ攻撃にゼーレは柱にぶつかりながら壁に激突した。
盈月「......!!ゼーレさん!」
「やはり.........分かり合えないか.......!!!わかっていたことだ!!なんとも言い難い腰抜け具合だなゼーレ・ローレンス!!貴様のその威勢だけは認めてやろうと思っていたというのに!それさえも失っているとはな!撤回するよ........。そんな甘い毒に踊らされながら、無様に死んでいけ.........!!」
舞い上がっている石の残骸と土。そこから、ゼーレの声が聞こえてきた。それは、冬よりも冷たい、生気の感じられない言葉だ。
ゼーレ「そう......。それは残念ね。じゃあ、とっとと死ね」
埃から出てきたゼーレの顔は先程までの慈愛ある顔ではなく、口を固く閉じ、目を細めている真顔だった。それには特に篭っていない感情は微塵も残っていない無。虚無の地平線をひたすら眺めているかのような目だ。
ゼーレ「盈月!一体化するわよ!!」
怪物に攻撃を仕掛ける前に盈月の方向に振り向いて叫ぶ。それと同時にゼーレは自分に1番近い石の柱に走り出す。遅れて盈月も動く。
「(走り出した!魂の同化をするつもりか!)させるかぁ!!!」
2人の目論見を理解すると、焦って魔物もその場に向かう。
「(ゼーレ・ローレンスの強さに少なからずあのもうひとつの魂も関わっているはずだ!この状況でそれをさせては行けない!)」
ゼーレと盈月がちょうど柱の後ろに入り込み、姿が見えなくなった。そこに容赦なく魔物の蹴りが入る。木の枝のように石柱は真っ二つに粉砕された。だが、遅かった。かつて柱の1部だった石が舞うと同時に右手からゼーレが飛び出す。
「!(やつの姿が消えた!)」
柱の後ろには誰もいなかった。こちらに打撃を喰らわせようと迫り来るゼーレの姿のみ。
「(遅かったか!!......ぐあ!)」
そして、怪物の心臓がある肌に重い拳がくい込み、あばら骨を粉砕し、衝撃が心臓に伝わり、筋肉が震え上がる。内側から込み上げて来た吐き気は吐血として魔物の口から噴水のように発射された。魔物は片膝を着いてしまう。
そんな時、ゼーレに更に嬉しい出来事が起きた。突如ゼーレの全身から沸騰したやかんの水蒸気のように煙が立ち込める。
ゼーレ「........!(来た....!!)」
煙と同時に塞がっていく傷跡。この瞬間、ゼーレ・ローレンスの再生能力が復活した。
「煙......!?ま、まさか........!」
魔物に殴られ、蹴られ付いた打撲跡と青あざ、擦り傷、貫かれた左胸の穴という傷という傷が瞬く間に消えていく。外傷だけじゃない。折れた全身の骨もぐちゃぐちゃになった臓器も綺麗さっぱりに治る。傷から流れ出て皮膚にへばりついた血も乾燥し、薄い膜となって地面に落ちた。
「こ、こんな時に......!」
思わず魔物の口から弱音がこぼれ落ちる。
ゼーレ「あら、本当は運の女神は私に微笑んでるらしいわよ?」
「ちっ........!!」
ゼーレ「どうする?」
友達に気さくに話しかけるかのようにそのたった4文字の言葉を喋る。だが、魔物の口はすぐに焦りから、にやけに変化した。
「そういえば貴様はどうして私が己の精神世界に入ったきたか疑問に思っていたな?種明かしは簡単だ。魂を2つに切り裂き、半分の力を持った私を作り出した.....が、正解だ。その2匹目が持っていた魂の1部を使い入り込んだのだ」
ゼーレ「......!その二匹目はどこに!」
「気づかなかったか?ならば、教えてやる。2匹は既に''片割れが戦っている場所"に到着している!」
ゼーレ「なん......ですって!?」
5-11[完]