間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第5幕『戦火呼びし黄金のアポカリプス』⑫

ジンの掛け声で始まった戦いはまだまだ終わりが見えそうにない。いつも通り、モンドには心地よい風が吹いている。だが、今日は違う。その風は錆びた鉄のような匂いを放つ血と戦士の叫び声をモンド全域に運んでいた。それは休むことを知らない。時を刻む事に緑地に鮮血と切り裂かれた魔物の死体が転がっていく。

 

 

まさにここは地獄だ。団員の叫び声、武器と武器がぶつかっていく音で満ちている。今、この場にいる全員が勝利を手に入れるためにただひたすら魔物を狩るロボットと化していた。それはジンも空も変わらない。

 

 

空「はぁ!」

 

 

見た目とは似つかない野太い声でいとも簡単に魔物を縦方向に切り裂く。痛みで叫ぶことなく、地面に倒れた魔物はこの世にサヨナラを告げた。

 

 

空「ふっ......ふっ......ふっ.......」

 

 

短い呼吸で息継ぎをしながら、斬った魔物の状態をチラリと確認する。即死だ。それだけを確認すると空はさっさと次の目標を探し始める。

 

 

命を奪った余韻を感じることは無い。というよりその暇すらないし、感じているところではない。魔物はまだまだいる。一息つく暇もなしに魔物が襲ってくる。たとえ、着いている時間があったとしてもほかのみんなは戦っている。できるはずがなかった。

 

 

一体どれだけの、魔物を斬ったんだろうか......。10回程で数えるのをやめてしまった。100は確定で超えてるか?いやもっと多いんじゃないか?もしかすると1000は行ってる......?そんなことが頭の片隅で浮かんだ。

 

 

片手剣のグリップを握っている右腕はもはや感覚がなくなっている。手と剣が合体したかのように、離したくても言うことを聞かず離せない様な気がする。そんな腕と剣も返り血で真っ赤に染まっている。空の首に巻き付けてあった、金の輪の装飾があるマフラーも赤くなっていた。

 

 

空「(そういえばさっき起きた炎の柱......もう20分位は経ってるよね......?パッと見、地下で発生させた炎よりも何十倍も規模が大きい.......。さすがにあれで決着が着いたのかな?......だけど、決着が着いたのならまっさきにゼーレが来るはずだ。ゼーレの身体能力を考えると走って1分......かな?来ないってことは.......そういうこと?それに城から聞こえてくる大きな音も考えるとやっぱり倒しきれなかった.......?)」

 

 

十数分前に目と耳に届いた天まで伸びていく火の柱と鼓膜を突き破りそうな衝撃音。皆が戦いに集中していたが、このインパクトに負け、アビスでさえも呆気に取られていた。

火柱が出現した8秒後にはモンド全域に生ぬるい風と圧力波が伝播する。それのおかげかアビスの陣形が崩れ、停滞していた戦況が大きく動くことになった。

 

 

今でも火で貫かれた雲は埋められることなく、ドーナツの穴のようにそこから太陽の光が見えた。

 

 

空は腕を動かしながら、ちらっとジンの様子を見る。ジンは戦いの最初から今の今までずっと最前線を維持し続けている。門番のようなものだった。休む暇なくジンと後ろで援護している団員に襲いかかる魔物達を一撃で粉砕しているのだ。突撃してきたヒルチャール王者を素手で殴り殺した時はさすがに空も驚いた。

 

 

空「(さすがは遺跡守衛を素手で破壊する人だな......)」

 

 

そんなジンも、空と同様真っ赤に染まっている。金色の鷹模様が彫ってある片手剣の刃も上半身のトラクトも元々赤色だったのではないかと思えるほど血を浴びていた。

 

 

戦いの最初の時は魔物の郡勢に押されつつあった。前線が橋手前まで後退した際には空は大焦りしたが、何とかここまでやってきている。

 

 

空「(魔物の数が.......減りつつある......!!)」

 

 

果てしない魔物の数が騎士団の奮闘によって、時間が進む事に減少していた。山のように思えた数も今では川の幅の厚さまでに討伐した。

 

 

空「(行ける.....!勝てる....!!)」

 

 

それは空以外の人間も気づいている。勝利の希望はあるんだ。戦士の闘志が更に燃え上がろうとしていた。ーーーーだが、そんな好都合にこの場が終わるわけがなかった。

 

 

空「!!」

 

 

肉壁と化していた魔物の群れがジンによって、ついに穴が生じた時、ジンから10m先に空間の亀裂が生じた。ガラス同士が摩擦する甲高い音が戦場に木霊する。その場にいる騎士団の全員がその方向を見た。亀裂は秒を刻む事に広がっていき、ついにはモンド城の風車と同じ高さに到達する。そして、亀裂は中心から門のように左右に切り裂かれ、異質の空間が広がった。

 

 

ジン「.......!?なんだ......あれは......!」

 

 

ジンは突如現れた灰色の亀裂に驚きを示しつつも、決して襲いかかる魔物の対応の手を止めずにいた。だが、後線の兵士は完全に武器を振るうのをやめ、ざわめている。

 

 

亀裂の中にうごめているのは奇天烈だった。深淵の中心に輝く緑白色の光源は、周囲の青や紫の色彩と調和しながら、静かに脈動している。深い青から濃い紫への色の移ろいは、凡人には計り知れない深淵を示唆している。確かなる恐怖を感じながらも、神秘のベールを纏っているそれは人を惹きつけるものがあった。その亀裂から一般人でもわかるほどアビスの瘴気を放っている。

 

 

空「アビスの.......境界門......!!」

 

 

空はすぐにあの亀裂の正体に気づいた。あの虫が育てられていた地下施設で見た、あれとほぼ一致している。あの時、続々とアビスの使徒が出てきたことを考えると嫌な予感が過ぎった。

 

 

それは合っていた。縦に切り裂かれているアビスの境界門から続々と瘴気を放つ魔物が姿を現す。小型の敵に限らず、アビスの使徒やアビスの魔術師までも居る。最後に出てきたのは数十体のヒルチャール王者だ。

 

 

空「増援......!やっぱり一筋縄では行かないよね.......」

 

 

突然、騎士団に告げられた絶望。それは瞬く間に兵士に伝播していく。後方支援をしている団員達もざわめき始め、闘志はどんどんと鎮火している。

 

 

そんな中、戦場にとある男の金切り声に見た声が届く。

 

 

「お、おい!どんどん亀裂が増えていってるぞ!!」

 

 

ジンの目の前の境界門だけに限らず、戦場に複数の小さな亀裂が生じた。そこからどんどんと湧き出てくるアビス。時間が経つと共に魔物は補充されていく。そして、再び団員達はアビスによって取り囲まれた。

 

 

ジン「(しまった......!囲まれたか......)」

 

 

戦闘開始前の状況とは違い、兵士の士気も、戦力も底を尽きつつある。更には埋め込んだ地雷もとっくに使い切った。今からこの数の量を捌き切るのはほぼ不可能だ......。

 

 

「お、おわった........」

 

 

「そんな.....!」

 

 

「ひ、ひい!」

 

 

次々と湧いてくる絶望の声。中には思わず地面に武器を落としてしまう兵士も居た。

 

 

ジン「(........!まずい状況だ.......。団員の士気が急激に落ちている.......!)」

 

 

兵力と作戦も大切だが、戦場で1番重要なのは空気だ。群れた人間はその場の雰囲気に流されやすい。そもそもの士気がなければどれだけ兵力があろうとも簡単に崩れ去ることをジンは理解していた。

 

 

ジン「(どうすればこの場を切り抜けられる.....!?考えなければ.....!)」

 

 

唐突に訪れた絶体絶命のピンチ。これをどう切り抜けられるかどうか、ジンの頭はフル回転していた。そんな時、阿鼻叫喚の戦場に知っている声が響き渡る。

 

 

「オイラ達もいるぞ!!」

 

 

空「!」

 

 

その声は亀裂の奥から聞こえてきた。聞き馴染みのある声だ。空だけに限らずこの場にいた兵士全員がその方向を向いた。

 

 

小さな丘に浮遊している白い生き物ーーーーパイモンがそこには居たのだ。

 

 

空「......!?パイモン......!」

 

 

今まで姿を見せなかったので空は心配していた。だが、相変わらずな元気な姿を見ると自然と笑みが零れてくる。

 

 

「パイモン殿!危険だ!早く隠れて!」

 

 

すると、姿は見えないがパイモンを心配する声が聞こえる。そして、小さな丘をよじ登って、次々と騎士団の団員が姿を現す。各々武器を持って、いざ戦場に馳せ参じんとしていた。

 

 

ジン「あれは......監視棟の見張り班......!合流できたのか......!」

 

 

そう、パイモンを含めた監視棟に配属されていた人員がたった今、モンド城に集合できた。中にはアンバーも居る。弓の弦を極限まで引き、戦闘態勢はバッチリだ。

 

 

空「(見張り組が合流できたのはいいけどやっぱり不安だ......!)」

 

 

見張り班はざっと数えて40〜50名。魔物の増援を考えるとそれでも頼りない。焼け石に水だ。

 

 

その時、火の鳥が戦場を駆け巡ったのをジンは見逃さなかった。その火は充分に存在感を示している。どよめいた雰囲気に包まれた草原を一直線に切り裂き、翼を大きく広げた鳥が魔物の群れを焼き尽くした。一瞬だった。刹那に魔物の陣形が崩れ去る。阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

ジン「な、なんだ......!?火......!?」

 

 

空「この火...!もしかして......!」

 

 

次々と舞い込んでくる予測不能な出来事。だが、この2人だけはこの炎の鳥に身に覚えがあった。

 

 

火の鳥が充分に陣形を掻き乱し、空中に飛来し、消滅したと同時に煙が舞い上がる。その煙から真っ赤な髪をなびかせた男性が大剣を握って出てきた。

 

 

パイモン「えぇ!?ディ、ディルックの旦那!?!?」

 

 

その男の正体はアカツキワイナリーの貴公子・ディルックだった。パイモンに限らず、空とジンも同じ反応になる。

 

 

大剣を軽々と持ち上げ、ジンと同じようにバッサバッサと敵を斬りつけていく。火の鳥による強襲で掻き乱された魔物は為す術なく死んで行った。

 

 

ディルック「まさか......騎士団が苦戦しているとは......」

 

 

ディルックは自分の手首に手を当てながら、そう呟く。

 

 

ジン「どうしてディルック先輩が......。...!まさか、ガイアか......!?」

 

 

ガイア「ふっ.......。さぁな......。俺は知らないぜ?」

 

 

ガイアはジンの問いかけにあまり明確に答えなかった。だが、ガイアの目線は遠いディルックを見ている。そこにあるのは隠している驚きか、もしくはやっぱり来てくれたのかという安心感なのか...。

 

 

思わぬ助っ人の登場によって団員の士気は上がりつつある。チャンスとだと感じたジンは立ち上がり、剣を天高く突き上げる。

 

 

ジン「まだ絶望するときでは無い!!」

 

 

ジンの声は戦場に瞬く間に響き渡る。武器を握っている者も、落としてしまった者もジンに注目していた。

 

 

ジン「たとえ絶望の闇に包まれたとしても私たちの心には風が吹いている!自由を奪うものに私たちは屈しない!私たち西風騎士団は剣であり、盾であり.......そして、モンドの希望である!今ここが踏ん張り時だ!立ち上がれ!共に戦おう、モンドのために!自由の栄光のために!!」

 

 

鼓舞する言葉が自由の風に運ばれ、団員にのしかかった闇を切り裂いていく。

 

 

「あ、ああ.......!!」

 

 

「行ける......!!俺たちはまだ戦えるぞ!」

 

 

そして、次々と武器を握る音が響いてきた。

不安がり、今にも逃げ出そうにする人は1人もいない。武器を手に取り、守るためにこの場に立っている者しか居なかった。この瞬間、全員が騎士になった。

 

 

怪我が治った訳でもないのに、心の底から力が湧いてくる。それは空も一緒だった。

 

 

そして、ジンが再び魔物の群れに駆け出す。団員も続いた。

 

 

さっきとは戦況が大違いだった。押されつつも拮抗していた数分前とは違い、数少ない人間が大量の魔物を押していく。それがはっきりとわかる。

 

 

そんな様子を片目で見ていたディルックはひたすら魔物の前線を下げていく。ヒルチャール王者三体を大剣一振で葬り去った時、ガイアがこちらに近づいてきていることに気づいた。それを見たディルックはあからさまに嫌な表情を浮かべる。

 

 

ディルック「こんな緊迫した状況でも戦闘をすっぽ抜かしているとは......。騎士団の責任者にまともな人は居ないのか?」

 

 

ガイア「ふっ...。すっぽ抜かすとは人が悪いことを言ってくるな。俺は突然現れた孤独の助っ人をサポートしにきた心優しき人物だ。それに、俺の部下は粒ぞろい......。あんな魔物にやられるタマじゃない。それとも俺が嫌なだけか?闇夜の英雄さん」

 

 

ディルック「煽りに来たのなら......さっさ持ち場に戻ってくれないか?僕は君とは違って魔物の処理で忙しい」

 

 

ディルックはひたすら魔物を斬っていく。その背後から襲ってくるヒルチャールをガイアは処理していた。

 

 

ガイア「お前なら...来てくれると確信していたさ。やっぱりお前も感じていたんだろう?いずれこの事態が起きるって......」

 

 

ディルック「僕はただ、自分自身で動いただけさ。決して君が僕のワイナリーにやってきたから訳じゃない」

 

 

ガイア「やっぱり素直じゃないな。お前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイモン「旅人、横!.......その次、後ろ!」

 

 

次々と湧いてくるアビスを淡々と処理する空にパイモンが指示を出す。

 

 

空「.......分かってるよ!」

 

 

空の近くには亀裂がある。そこから一定間隔で魔物が湧いているせいか、休む暇がない。だが、湧いてくる間隔よりも空が攻撃する回数が多い。一瞬、亀裂の周りに魔物が居ない隙ができた。

 

 

空「はぁ...はぁ...はぁ...」

 

 

空は息を切らしながら、深淵を渦巻く亀裂の前で立ちすくんでいる。

 

 

パイモン「...!?旅人!?なんでぼーっとしてるんだ!?魔物が来るぞ!」と、思わずパイモンが叫ぶ。

 

 

空「(当たり前だけどアビスで満ちてる...。アビスが際限なく湧いてくる亀裂自体が消えないとこの戦いは終わらない......!なら...!)」

 

 

空は両手で片手剣のグリップを強く握ると、剣に力を集中させる。体の中で拳に流れるようにしている川のようだ。そして、赤色に染まった剣は次第に光り始めた。

 

 

パイモン「...!?旅人の......剣が光って...!?これってトワリンの汚染を浄化した光か!?」

 

 

パイモンの見立て通り、空が持っているアビスを浄化する力を刀身に集中させている。そして、剣は黄金に輝く光に変化した。曇天に覆われている戦場に輝く剣は存在感を示している。

 

 

空「ふん!!」

 

 

重量感のある浄化の剣を大きく振りかぶり、そして振り落とす。亀裂は斜めに切り裂かれ、ミシミシという音と共に亀裂が消滅した。

 

 

パイモン「亀裂が消えた....!おお!すごいぞ旅人!」

 

 

空「行ける...!着いてきてパイモン!今から発破をかけるよ」

 

 

確かなる実感を確保した空はパイモンに合図を出す。そんな、パイモンも否応が無しに頷いた。

 

 

パイモン「お、おう!!」

 

 

旅人は剣を光らしたまま次なる亀裂に向かって、縦横無尽に駆け巡る。パイモンも全速力で空について行く。棍棒を持ってくるヒルチャールも、斧を振り上げたヒルチャール暴徒も、手剣を突き刺そうとしてくるアビスの使徒も黄金に輝く剣には無力だった。皆、たった一突きで消滅していく。流れ作業かのように亀裂を一太刀で消し去った。最後までそれを見届けずにどんどんと戦場に湧いた亀裂を斬っていく。そして、草原の中央にある今までとは比較にならない巨大な亀裂を切ろうと足の回転を更に加速していく。

 

 

あれさえ破壊すれば、後は消化試合だ。そう思い、大きくジャンプして降りかかろうとした時、深淵から出現したヒルチャール王者が空に一直線にタックルしてきていることに気づく。

 

 

空「!!」

 

 

それは山の塊のように動いている。迷うことなく迫る速度と空中にいた空は回避できることなく衝突した。

 

 

空「うぐ!」

 

 

パイモン「うわぁ!!」

 

 

空とヒルチャール王者が衝突した余波で体の軽いパイモンも一緒に吹き飛ばされた。

 

 

ジン「名誉騎士!パイモン!」

 

 

タックルで容赦なく吹き飛ばされた2人を見たジンは襲ってきた魔物を斬り捨てると、落下地点にまで移動し、体全体で空とパイモンを受け止めた。

 

 

ジン「大丈夫か!?」

 

 

空「うっ...くっ...何とか...」

 

 

パイモン「オ、オイラも...」

 

 

あんな重量感のあるタックルを食らったせいか頭がクラクラする。だが、それが何とか収まり、すぐに立ち上がった。

 

 

ジン「やはり、あの亀裂がアビスの増援の本体のようだな...。数が多い分、守りも強固だ」

 

 

パイモン「あ...でも旅人が消した亀裂の数が多くなっていくほど本体の亀裂から湧いてくる魔物の数が減ってないか!?なんでか分からないけどなにか関連性があるんだろうな......」

 

 

パイモンの気づいたことの通り、あの亀裂から湧いてくる魔物の数が明らかに増えている。明らかに弱体化している。

 

 

ジン「その通りだな...。アビスの力が弱体化している...。また新たに裂け目が出てくる気配もない....。あれで最後だ...!」

 

 

中にはかつて亀裂があった場所にいた魔物を完全に殲滅しているところも出始め、もう少しすればジンの手助けに来るだろう。

 

 

ジン「名誉騎士、裂け目を消していたがやはりアビスを浄化する力で...?」

 

 

空「うん...有効打なのが助かったよ」

 

 

ジン「まだそれを維持できるのか?」

 

 

空「......不安だけど...まだ...行けると思うよ」

 

 

ジン「よし...。後はあの亀裂だけだ...。あれさえ破壊出来れば自由の勝利だ...!名誉騎士、私たちがサポートする。あなたはあの亀裂を斬ることに注力してくれ」

 

 

空「わかった...!」

 

 

ジンと空が互いに目配せして合図を出すと同時に駆け出す。それに反応した亀裂を守っていた魔物も動き出した。

 

 

襲いかかる魔物を一刀両断し、どんどんと群れの中を突き進む。それはまさに一騎当千の無双だった。アビスの群れを成した壁も一点突破のごとく猪突猛進していく。魔物は為す術もない。

 

 

空が斬り捨てる途中、襲ってきた魔物をジンがサポートする。その逆も然り。互いに助け合いながら1歩ずつ巨大な亀裂に近づいていく。だが、そんな時それが崩れることがある。今までは一撃で葬れたのに、たった今、裂け目から湧いてきた魔物は一撃では効かなかった。

 

 

空「!(この魔物...タフだ...!やっぱり亀裂から出てきたアビスは力が強い!)」

 

 

力を増した魔物の登場によって、一瞬、ペースが崩れてしまった空に背後から棍棒を持ったヒルチャールが接近する。空はそれに気づいていない。

 

 

ジン「名誉騎士!後ろ!」

 

 

すかさず、ジンが空に向かって叫び、ヒルチャールの上半身と下半身を切断する。

 

 

空「ありがとうジーーーー」

 

 

カバーを入れてくれたことに感謝を述べようとしたが、今度はジンが次に投入されてきた魔物に気づいていない。

 

 

空「危ない!!」

 

 

ジン「なっーーーー」

 

 

腕と同じぐらいの太さの棍棒が彼女の頭にヒットする寸前、1本の矢が戦場を走った。それはシュッという空気を切る音と共にヒルチャールの仮面に見事的中する。食らった魔物は叫び声をあげることなく絶命し、地面に倒れ込んだ。

 

 

ジン「弓矢.....!まさか...!」

 

 

ジンが背後をむく。小さな丘から弓を手に持っているアンバーが見えた。頭に赤いリボンを身につけてる彼女はジンに気づかれると天真爛漫な笑顔を見せながら、親指立てる。

 

 

ジン「(射撃の腕はさすがだな。アンバーは...!)」

 

 

それに対してジンは軽く頷き、すぐさま目の前の敵に集中した。

 

 

アンバーの的確な援護射撃によって魔物の処理速度が上がっていく。そこにガイアとリサも加わった。

 

 

ジン「リサ...!ガイア...!?」

 

 

ガイア「俺にも良いとこ取りをさせてくれよ代理団長さん!」

 

 

ジン「持ち場はどうした...!?」

 

 

ガイア「もう俺のところの魔物の群れは殲滅できたらしい。後はこの亀裂だけさ」

 

 

ジンと空が魔物と戦ってる間に襲いかかってきたヒルチャール王者をガイアとリサが斬る。亀裂に近づくにつれ魔物の力も数も増えていくがこの4人の前には無力だった。

 

 

そして、ついに魔物の群れを突破した。深淵が溢れ出す縦方向の裂け目が目の前にある。亀裂の中で脈動している緑白色の光源を見ていると引き込まれてしまいそうだ。

 

 

ジン「名誉騎士!3人で魔物を抑えるから亀裂の消滅を...!」

 

 

空「うん...!」

 

 

今は亀裂の周りには敵が一体も居ないが、いつ湧いてくるか分からない。すぐに斬らないと...。そう強く剣を握った瞬間空とジンが地面に膝を着いた。

 

 

リサ「...!?ジン!?」

 

 

体の内側から響いてきた鈍痛のせいで全身の力が抜け、思わず攻撃の手を止めてしまった。

 

 

空「(うっ...)」

 

 

ジン「(まずい...。こんな時に...!)」

 

 

空は全身から、ジンは背中から痛みが伝わってくる。空はアビス教団の地下施設とモンド城前の橋で1回ずつあの怪物の衝撃波を食らっている。そして、ジンは投げ飛ばされた時の痛みで苦しんでいた。ずっと、我慢してきたが、このダメージは自分が思っているよりも足を引っ張っている。

 

 

そうこうしている内に亀裂から大量の魔物が出現した。

 

 

リサ「アビスが...!ジン!引くわよ!」

 

 

2人はまだ立ち上がれない。痺れを切らしたガイアが2人の元へ駆けつけようと走り出す。2人の服を引っ張ってこの場から脱出しようとしたが、その前に一体のヒルチャール王者の拳がガイアに接近した。

 

 

ガイア「!」

 

 

間一髪だった。スレスレでそれを回避する。だが、ますます空とジンとの距離が空いてしまった。魔物の量が多く、これをすり抜けるのは至難の技だ。

 

 

リサ「ジン!!!動いて!!」

 

 

リサはただ叫ぶしかなかった。だが、その叫びは無情にも2人にも届かない。

 

 

そして、動けない2人に魔物の群れの攻撃が振りかぶられたその時ーーー。

 

 

ガイア「...?なんだ......?」

 

 

突如聞こえてきた''とある音''に全員が手を止める。ライアーの音色だった。

 

 

その音色は鳥のさえずりかのように空気に優しく反響している。雲1つない晴天の下、木陰で横になっているような気分になった。アビスも人間も時が止まったかのように手を止め、その音色を聞き入っていた。

 

 

パイモン「ラ、ライヤーの音だ...。な、なんだ?」

 

 

次第に団員がざわめき始める。各々が首を回し、音の出処はどこなのかと探し始めた。それはアビスも一緒だった。

 

 

音色は草原に響き渡っている。だが、空とジンははっきりとそのライアーの音がどこから発せられたのか感じ取ることができた。

 

 

そして、次の瞬間、そのライアーの聞こえる方向から凝縮した風元素の弾が飛来し、空とジンの目の前に立ちはだかっていた魔物の群れに着弾した。圧縮された風元素は地面との衝突という衝撃によって破裂する。ほぼ爆弾のような威力で魔物の群れを蹴散らし、2人の前に立っていた魔物は後方にまで吹き飛ばされて行った。

 

 

風元素の爆弾が消し去ると同時にジンと空は立ち上がる。先程までの痛みが嘘かのように力が漲っていた。

 

 

空「こ、これって...!」

 

 

ジン「力が溢れてくる...!」

 

 

2人の体の中に高濃度の風元素が巡り、空の胸の石とジンの神の目が過剰な程、翠色に光った。それは他人から見てもわかるほどだった。

 

 

ジン「(感謝します...!バルバトス様...!)」

 

 

2人は急に現れた助っ人に心の底から感謝を示しながら、剣を構える。

 

 

ジン「名誉騎士!しゃがんで!」

 

 

空「!」

 

 

空はジンの意図を理解する前に反射的に地面にしゃがんでいた。すると、ジンは片手剣に全身に巡っていた風元素の全てを纏う。西風剣の刀身だけに留まらず、そこから風の刃が伸びている。それは木の幹よりも太かった。

 

 

ジン「せいっ!!」

 

 

女性の野太い掛け声と共に風の剣は振るわれた。剣から横長の暴風の斬撃が飛び出し、目の前に居たアビスの群れが一瞬にして殲滅される。ジンのこの攻撃によって再び草原に一体も居ない状況が作り出せた。

 

 

ジン「今のうちだ!」

 

 

ジンのその言葉が喋り終わる寸前には空は動いていた。今がチャンスと言わんばかりに、亀裂の先端よりも上へ高くジャンプする。

 

 

空「うああぁああぁ!!」

 

 

体の奥底からマグマのように湧いてきた魂の叫び声を上げ、浄化の剣でアビスの境界門を縦に斬り裂いた。

 

 

パワーアップによって、アビスの浄化の力も段違いに上がっている。亀裂に容赦なく縦方向に刻まれた浄化の裂け目によって亀裂は徐々に収まっていく。そして、亀裂の最後のヒビが消えたと同時に浄化の裂け目も消滅した。

 

 

空「はぁ...はぁ...はぁ...」

 

 

誰もが2人の戦う姿を見ていた。唾を飲み、攻撃の手を止めながら。最後の亀裂が消える前でジンと空の息切れしか聞こえない。消えた亀裂はいつも通りのモンドの森の情景が見えた。ついに、魔物の全てを退けることができたのだ。それが戦場に伝わると、兵士の勝利の喝采が響き渡った。

 

 

「うおおおおお!!!」ーーー

 

 

「勝った!!勝ったぞ!!」ーーー

 

 

「俺達生きてる!!」ーーー

 

 

武器を天高く挙げる者、近くの人と抱きしめあう者、武器を下ろし苦労した顔で周りを見渡す者、多種多様だった。

 

 

空「はぁ...ふぅ......」

 

 

全てが終わったことを感じ取ると空は大の字で草原に横たわる。ドッと全身に疲労感が襲ってきた。

 

 

まだまだ曇っているモンドの空を眺めていると視界に手が映る。ジンだ。

 

 

ジン「感謝する。名誉騎士」

 

 

口角を上げて、空に手を差し出す。

 

 

空「こちらこそ」

 

 

空も緊張が緩んだ口角を上げて、ジンの手をがっしりと握り、立ち上がった。

 

 

パイモン「旅人ー!!」

 

 

すると、パイモンが遠くから自分の名前を叫びながら、空に抱きついた。

 

 

空「パイモン...!」

 

 

パイモン「オ、オイラ達勝ったんだよな!?オイラはお前がやってくれるって信じてたぞ!」

 

 

空「あ、あはは...。い、痛いよパイモン...」

 

 

すっかり皆は気が抜けている。その時、空の耳にとある言葉が聞こえてきた。

 

 

「歓喜の声だな...。おめでとう。だが、それをすぐ終わらせてやるがな...!」

 

 

空「...!」

 

 

あの地下で魔物が2段階目の進化を果たした時に感じた、同じ怖気が走った。生気が感じられないその声は聞く者の心臓を凍らせようなそんな冷気を放っている。

 

 

恐る恐る後ろを振り向く。背後にある1本の木の後ろから巨大な灰色の魔物が姿を現した。

 

 

空「魔物...!」

 

 

空が思わず剣を構える。自分以外の人も魔物の存在に気づき、明るい雰囲気は一転した。

 

 

パイモン「えっ...!?まだ生き残りが居たのか......!」

 

 

今、この場にいる人間全員が灰色の怪物に刃を向けている。だが、明らかに今までのアビスとは違う雰囲気に静かに気圧された。実際に空気が歪んで見えるほど、周りにどす黒い邪気を纏っている。

 

 

「途中で乱入することもできたが......。これから貴様らに起きる凄惨な未来を考えたら、1種の''ご褒美''という訳だな。例えば...死刑囚の最後の晩餐...というものだ」

 

 

空「......」

 

 

ジン「喋った...!''あれ''と一緒の個体か...!」

 

 

ジンと空はすぐさまこの魔物の正体は何で、何が起きているのか飲み込めた。だが、それ以外の者は魔物が喋ったという予想外のことにざわめいている。

 

 

空「(あの地下で進化した時、どもりながらも人の言葉を話してた...。そして、目の前に立っている魔物は...完全に言葉を喋ってる...!姿も変わってるから...もしかして......3回目の進化...!?)」

 

 

目の前に立っている魔物は戸惑った空の様子をみて、邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「ククク...!思った通りの反応だ......!!」

 

 

空「...。ゼーレは......どうしたの?」

 

 

「はっ...!気になるか?殺した」

 

 

パイモン「えっ!?!?そ、そんな!!」

 

 

ジン「っ...!まさか...」

 

 

「最期は泣き叫んでいたぞ?妹とお前の名前をな...!」

 

 

パイモン「そ、そんなの信じないぞ!ゼーレがお前なんかにやられるもんか!!」

 

 

「じゃあ、なぜ私がここに居るのか、その小さな脳みそで考えた方がいい。じゃあ何か?ゼーレ・ローレンスが私を通してくれたというのか?」

 

 

パイモン「そ、それは...!」

 

 

空「(いや...嘘...だね。この魔物が覚えているかどうか分からないけど、俺が律者の斬撃を使ったせいかゼーレの世界樹を感じ取れるようになった...。大丈夫...。ゼーレはまだ城に居る。動いてないってことはなにかあったんだろう。それに...何故かこの魔物と同じ気配が城から感じる...。なんだ...?思えば、この魔物には律者の力が3つある...。ということは3つの能力が使えるってことだ...。もしかしたら......分裂した...?)...それで何しに来たの?」

 

 

「分からない振りをするな片割れ。単純明快、貴様ら全員皆殺しにしてモンドを掌握してやる...!ここからアビス教団の躍進が始まるのだ......!」

 

 

そして、魔物はゆっくりと手を空達に伸ばす。

 

 

「貴様らが疲弊している今、ただの有象無象...!さらばだ!」

 

 

次の瞬間、怪物の大きな手のひらから衝撃波が草原を駆け巡る。圧倒的なエネルギー故、地面に亀裂を走らせ、土にへばりついていた植物や木を引きちぎった。そして、その場にいる全員に強い衝撃が襲いかかる。

 

 

だが、空だけは違った。衝撃波が到達する寸前に体の元素を岩元素に変え、刀身にエネルギーを集中させる。あの地下と同様にカウンターをすぐさまに繰り出したのだ。そのまま、地面に足を踏み込み、魔物に接近する。そして、片手剣の刃を斜めに振り、衝撃波を打ち返した。だが...。

 

 

「おっと!」

 

 

対しての魔物は来ることが分かっていたかのように体を軽く翻し、返ってきた衝撃を回避する。

 

 

空「なっ!」

 

 

「私は2度同じ手に引っかかるほど間抜けではないのでな」

 

 

簡単に避けられたことに驚きを隠せていない空に静かに灰色の指を近づけ、そして小さな衝撃波を瞬く間に放った。

 

 

先程の平地をひっくり返す威力よりも格段に劣るが、空を再起不能にするには十分だ。近距離で全身に衝撃を食らった空は口から血を吐き出す。

 

 

空「あっ......がっ......」

 

 

視界が上手く定まらない。足も酔っ払ったかのようにふらついている。

 

 

クリティカルヒットしたことを確認した魔物は口が歪むほどに笑い、容赦なく空の顔面に拳を叩き込む。

 

 

頭から大量の血を流しながら、ついに空は地面に倒れ込んだ。

 

 

「ふん...。たわいもない!今の姿を見たら、姫様はさぞがっかりするだろうな...!」

 

 

動かなくなった空を片目にそう言葉を吐き捨てながら、衝撃によって散らされた兵士にゆっくりと歩を進める。

 

 

「(ちっ...。とは、言ってもやはり威力が落ちている...!全てはゼーレ・ローレンスのせいだ...!!この様子だと衝撃波で死んだやつは1人もいないと見た....!)」

 

 

そして、地面に片膝を着き、何とか意識を保っているジンの目の前に立つ。接近してきた魔物に気づくと急いで立ち上がり、剣を構えたが、その次には容赦なく腹に拳が打ち込まれた。

 

 

ジン「あがっ......!」

 

 

硬い筋肉の塊が腹にめり込み、臓器と骨を圧迫する。

 

 

「確か貴様が指示系統だな......?クックックッ...!公開処刑だ...!」

 

 

依然、口を歪ませながらジンにそんな言葉を告げる。だが、その時ジンが両手で巨大な魔物の拳を掴んだ。

 

 

「...!なっ.....!?」

 

 

魔物も驚いた。拳に怯んだ女が気づくと自分の拳を掴んでいる。その手ががっしりと力が込められており、離したくても離れない。

 

 

ジン「くっ...ふっ...。ふ、腹筋を......鍛えて置いてよかった...!」

 

 

ジンは痛みで顔を歪ませながらも、確かに口が静かに笑っていた。

 

 

「なっ!ふ、腹筋!?え!?」

 

 

ジン「せいっ!」

 

 

何が起きたのか怪物は理解せぬまま、気づくと体は宙に浮いていた。

 

 

「.....は?」

 

 

怪物の反射神経よりも早く、ジンが魔物の腕を軸に背負い投げをしたのだ。背中が地面に勢いよくつくと、小さなクレーターが出来上がる。

 

 

その時、下から見えたジンの気配が魔物の脳を焼き付けた。心の内側で言葉が思い浮かぶことなく、口を少しだけ開き、ジンの顔に不意にゼーレが重なる。ーーー

 

 

雰囲気も...気配も...。一瞬だけ彼女に近いのを連想してしまった......。

 

 

「(くそっ...!ここの連中は化け物だらけか!?)」

 

 

急いで体を起こす。その時、後ろから声が聞こえてきた。

 

 

「ジン!ナイス!!」

 

 

「(この声...!まさか...!!)」

 

 

嫌な予感がよぎった。それは当たっていた。魔物が後ろを振り向くと同時に、背中から剣が突き刺さり、心臓と胸筋の皮膚を食い破ったのだ。

 

 

「がっ....!」

 

 

魔物の口から血を吐き出す。突き刺した片手剣の刃先からも鮮血が滴り落ちた。

 

 

突き刺した犯人は予感通り、空だった。全身が血まみれになろうとも、その剣はしっかりと魔物を捉えている。

 

 

「何ィ....!?片割れ....!?(確かに私はこいつが戦闘不能になったのを確認したはず.......!なぜ....!?.....!!)」

 

 

その時、魔物は気づいた。一瞬、根性で立ち上がってきたのだと思ったが、それは違った。そんな精神論ではなく......もっと理屈によって起きた事象だ。よく見ると、顔を殴った時についた傷が消えている。今ある血は全て出血した時についた血だ。ここから導かれる結論はーーーー。

 

 

「まさか...!再生能力か......!?!?!?」

 

 

魔物の言葉に空は静かにニヤリと笑う。

 

 

「(地下で片割れが発生させた斬撃は所詮、ゼーレ・ローレンスの真似事に過ぎんと思っていた...!まさか、再生もできたとは....!!今この瞬間に掴んだのか!?この一瞬で!?)」

 

 

空は剣のグリップを強く握る。その時、何故か分からないがナヒーダとパイモンの会話を思い出した。デーヴァーンタカ山の戦いが終わった後のことだ。

 

 

 

パイモン『なぁ、ナヒーダ。オイラ気になったんだけどいいか?』

 

 

ナヒーダ『ん?どうしたのかしら?』

 

 

パイモン『ゼーレを夢境の中に閉じ込めて、心臓を刺すことで弱体化を謀ったよな...。それで結果的にコアを封印することによって連動してゼーレは立つこともならなくなった訳だけどそれってどういう理屈なんだ?終焉機のコアと世界樹って別物だろ?』

 

 

ナヒーダ『いい質問ね。答えは簡単よ。コアには周りの物と融合する力があった...。彼女はコアにエネルギーを注ぎ込んで、活発になった状態で飲み込んだことによって急速に彼女の魂とコアが融合し、一体化したの。魂に融合したということはそれは同一物体としてなる....。だから、コアを封印したら連動して魂も弱体化したって感じかしら』

 

 

パイモン『へぇ......』

 

 

空『パイモン、本当に分かったの?』

 

 

パイモン『も、勿論だぞ...!なんたってオイラは天才のパイモン様なんだからな!』

 

 

空『本当かな.....』

 

 

 

 

空「(もし俺の目論見通り、この魔物が本体から分裂したとしたら....!!この攻撃は...通る!!!)」

 

 

全身に力という概念化されたものを実際にそれがあるかのように抽象化していくという無茶な行為をする。

 

 

ーーー思い出せ......。あの時に出来て、今できないはずがない...!ーーー

 

 

ドクンという心臓の鼓動と共に力が際限なく湧いてきた。それを腕に集中させる。そして、目を見開いた瞬間、拳から剣へと力が伝播していき、魔物の心臓の中でそれが炸裂した。力が斬撃へと変化する。無数に飛び出した斬撃が魔物の心臓を切り刻み、いずれ外へと四方八方へと飛来して行った。

 

 

空が突き刺していた怪物は悲鳴をあげる暇もなく斬撃によって一瞬に塵へと貸す。それを見た瞬間、空は地面へと倒れこもうとしていた。

 

 

空「(斬撃が城に伝播したのがわかった...!後は......頼んだ......。ゼ......レ......)」

 

 

 

 

 

 

分身体を一瞬で崩壊させた力は音の速さで城壁を通り過ぎ、いずれ本体に到達する。そして、同様に魔物の体を切り裂いた。

 

 

「ギギャァァァァ!!!!!!!」

 

 

そんな断末魔が精神世界に響き渡る。体の内側からダメージを負った魔物は何が起きたのか理解出来ない状態のまま、口から大量の血とヨダレを垂らしている。

 

 

ゼーレ「......!?!?」

 

 

ゼーレは何が起きたのか分かっていなかった。だが、すぐにこの攻撃の正体を見破る。

 

 

ゼーレ「(旅人...!ありがとう...!!あなたを信じて、本当に良かった...!!!)」

 

 

分裂体の乱入というアクシデントに肝を冷やしたが旅人が勝利を勝ち取ったことに自然と笑みが零れる。

 

 

信じていた...。あなたはやられないってーーー。

 

 

「この!!!クソカス共がぁぁぁ!!!」

 

 

ヨダレを地面に撒き散らしながら、迫り来るゼーレに怒鳴り散らす。だが、返答として帰ってきたのは顔面にめり込む勢いの打撃だった。

 

 

ゼーレ「はっ!完全に舐めきっていたようね!!旅人は...!私に勝った男よ!!」

 

 

空が発生させた内側の斬撃によって大ダメージを負った魔物は律者の能力が使えないほどに追い込まれていた。そして、その時突如魔物の精神世界が外側からの攻撃によって崩壊して行った。

5-12[完]

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