間章3幕『苦海にもがく黒氷』   作:せっせこパパイヤ

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第2幕『塵名に埋もれし常磐の陽炎』⑤

ゼーレ「よいしょっと....」

 

 

ゼーレは、自分に覆い被さっていた大きな瓦礫と砂を押し上げて出てきた。

 

 

ゼーレ「うげ......口に砂入ってる......」

 

 

口の中に残る不快感に思わずしかめ面を浮かべる。そして、自分の服や髪についた砂粒を払った。

 

 

周りを見渡すと神殿の瓦礫がそこらじゅうに散らばっている。あの謎の生物を上に突き飛ばしながら出てきたためだ。

 

 

今度は自分が今どこにいるのか確認するために上を向いた。

 

 

ゼーレ「(ここは......聖顕殿の底のようね.....。随分と上に来たな......)」

 

 

閉じ込めるかのような茶色の石壁の情景から自分がどこにいるのか判断した。

 

 

そして、視線を落とし、先程起きた出来事について考え始める。

 

 

ゼーレ「(しかし、あの化け物は何なのかしら........。あの棺から現れて、襲ってきたから思わず突き飛ばしちゃったけど.......。あれ?どこいった?)」

 

 

地下から地上に来るまでにしっかりと怪物の首を掴んでいたはずだが、いつしか姿を見失っていたようだ。

 

 

だが、数秒もしない内にここから10m先の瓦礫が蠢き始め、そこから緑色の巨人が出てきた。

 

 

そして、怪物を改めて見ると、あることに気づく。

 

 

ゼーレ「(傷が......治ってる....?)」

 

 

押し上げる時につけた傷が何事も無かったかのように消えていたのだ。

 

 

少なくとも数十回は切り刻んだつもりだったが........。

 

 

全快した化け物は静かな敵意をこちらに向けながらどう攻撃しようか虎視眈々としている。

 

 

ゼーレ「(私が切り刻んだつもりだったけど元素の無効化が起きてた.....ってとこかしら?んー....正体も何もかも分からない...。とりあえず様子見ってところね..... )ねえ、あなた誰なの?急にあそこから出てきたけれど......。もしかしてコアを守ってる護衛.......的な?」

 

 

ゼーレが疑問を投げかけるも、返答は虚しくもなかった。緑色の巨人は依然ゼーレを見つめている。

 

 

この様子を見る限り、言葉自体を理解していない可能性すら出てきた。

 

 

ゼーレ「(言語能力はなし.....。さっき聞こえた声は気の所為だった.........?)」

 

 

あの時聞こえた声はたしかにその場にいた人物とは全く別のもの....。ゼーレには検討がつかなかったが、理性がないながらも本能で出した....的なものだろうかと推測で考えている。

 

 

そうこう考えているうちに、緑色の巨人がズシンズシンと足を動かし始め、砂の大地に足跡を刻みながらこっちに近づいてきた。

 

 

大きな腕を振り上げ、人の顔より何倍も広い拳を自分に当ててくることを感知するとゼーレの左腕でそれを防ぐ。その上からの衝撃で砂が舞い上がり、足が軽く地面にめり込んだ。

 

 

巨人はそのまま空いた片方の拳をゼーレの胴体に打ち込み、ゼーレを後方に吹き飛ばした。

 

 

3回程、地面にバウンドした後、空中で姿勢を正し、スライドで減速する。

 

 

ゼーレ「(ほー....軽く人をこんなに飛ばせるとは.....。神殿を一撃で崩壊させたから、さほど不思議なことではないわね)」

 

 

怪物がその場でかがみ、そして大きくジャンプし、ゼーレの目の前に着地する。そして、腕を伸ばして人間を掴もうとするが、それを回避し、胸に3本の切断傷をつけた。斬撃の威力は怪物の巨体だけに留まらず、後面の壁にまでその跡が荒々しく刻まれた。

 

 

そして、怯んだ隙に顔面目掛けて蹴りあげ、逆に緑色の巨人を勢い良く吹き飛ばした。

 

 

ゼーレ「(なりふり構わず攻撃してくるな......。ん....?草......?)」

 

 

ふと、怪物が突っ込んできたところを見ると、陥没した部分に草と花が生えていた。だが、それはすぐに枯れて、いつも通りの砂に元通りなってしまった。

 

 

ゼーレ「(草元素か.....。元素攻撃もできるってわけ?)」

 

 

巨体に似つかない機敏力と草元素生物ということが確定した........と内心思いながら、魔物が不時着した時に発生した砂埃に向かって歩く。

 

 

だが、砂煙が収まった際には既にいなかった。

 

 

ゼーレ「居ない.......!?」

 

 

不自然なことにそこから姿を消していて、周りを見渡しても見つからなかった。一瞬脳内で逃げた....?と思考を巡らせるがあんな敵意剥き出し状態で尻尾を巻くとは考えにくい。

 

 

すると、突然ゼーレの足元から円形の影が急激に広がっていくのが見えた。

 

 

まさかと思い、上を見上げると緑の魔物が襲いかからんとしている。

 

 

ゼーレ「!」

 

 

顔面に迫り来る拳を受け止め、追撃の牽制のために片腕を切断した。巨人が自分の襟首をつかもうとしていたので軽く蹴り上げそのまま指を横に線を切り、巨人の左足のふくらはぎも断切する。

 

 

体勢を崩した巨人が地面に倒れ込んだのだが、すぐに切断部位が泡状にブクブクと音を鳴らし、腕と足を再生させた。

 

 

ゼーレ「(まさかの再生能力持ち....!とりあえずこいつがアビスに近しいものだということは確定した。押し上げた時の傷も瓦礫に埋まってる間に再生させたんだろうな.....。それにしてもさっきの何.......?瞬間移動でもないし、忽然とそこから現れたように見えた。分からない........。現段階でこいつの判断材料がない!)」

 

 

ゼーレ「!」

 

 

再生が終わった瞬間、魔物は自分の腕をこちらに向けると、徐々に赤みを帯び始めたことに気づいた。それは高温度の熱を所持しているように見える。

 

 

緑色から赤色に完全に変化すると、その熱は腕から飛び出して、ゼーレ目掛けて襲いかかる。

 

 

それが直撃したのだが、まるで何もダメージが通らなかったか。

 

 

黒煙のせいで咳き込みながら脱出する。

 

 

ゼーレ「(熱いな....。それよりもあの怪物の元素攻撃は草のみならず、火すらも出すの....?分からない....分からないことばかりすぎる....)」

 

 

再生し終えた怪物は飄々と立ち上がり、ゼーレを睨みつけていた。その顔には次はどう行こうか考えている風にも見える。

 

 

ゼーレ「(それに、首根っこを切断しても意味がないな。あくまであれは飾りで、スライムみたいにあれでひとつの生命なのかも。.....ん?あれは....)」

 

 

巨人の腹の中に赤色の光が僅かながらあることに気づき、目を凝らすとそれはゼーレが探していた最後のコアだった。

 

 

ゼーレ「(コア....!?いつの間に....。もしかしたらこいつには周囲のものを吸収する力があるのかも?何がどうであれコアを傷つけないようにしないと....)」

 

 

怪物がその場で腰を低くし、大きな軌跡を描くジャンプをした。大きな隙が出来た魔物に対してゼーレは腰に身につけていた氷の神の目を光らせ、氷元素を目の前に集中させる。すると、地面から巨大な氷塊を出現させ、それは怪物の胸目掛けて突き刺し、そのまま勢いで魔物は連れていく。

 

 

だが、気づいた時には緑色の巨人はゼーレの真横に立っていたのだ。

 

 

巨人がすかさず攻撃してくるのが見えたので、怪物の腹から上を一瞬で消し飛ばした。そして、再生される直前怪物の足首を掴み、はるか遠くの岩壁にぶん投げ、ついでに自分の何倍もある重量の瓦礫も着弾地点に投げる。

 

 

ゼーレ「(今のでわかった.....こいつ地脈があるところから出てきたな......)」

 

 

二度の不自然な出現。そして草元素の使用。既に結論は出ていた。

 

 

当たり前のように、岩壁の中にはいなかったが今回は異なったようで、ゼーレから5m程の距離に現れた。

 

 

ゼーレ「(上半身消し飛ばしたのに生えてきてる.....。結構面倒だなこいつ....)」

 

 

その時、ゼーレの鼻から鼻血がゆっくりと肌を伝って垂れてきた。それを吹くと手のひらに鮮血がびっしり染み付いている。

 

 

ゼーレ「(鼻血が......。使いすぎたか......。もっと節約しておけば良かったな........。まだまだこいつの再生能力はまだ底はついてないはず....。だからと言ってちまちまやっていたら、地下からエル達が脱出してくる......。それは避けたい......!.........やるしかない)」

 

 

今、ゼーレの肉体は律者の力の代償によって、損傷している。

 

 

空達が地上に出てくるよりも早く怪物からコアを強奪する方法は単純明快。再生能力も上回る攻撃で屠るしかない。

 

 

ゼーレはポケットから元素が詰まった銀色の注射器を取り出すと、針先を勢いよく首元に突き刺した。注射器の内容物が並々と体内へと混入していく。

 

 

律者の力はアビス由来のため、力を行使する度に体が壊れていく。仮に使用しなかったとしても、日に日にアビスの侵食が肉体に留まらず、精神にまで蝕んでいくのだ。アビスの侵食が脳内にまで達すると、人間は凶暴性と殺戮性を伴った怪物へと成り果てる。そして、ゼーレはその1歩手前だ。

 

 

だが、これを一時的に防ぐ手段として元素の中和がある。律者の力は、七元素とほぼ同様のもので、律者の肉体に刻まれているマークが神の目の役割を担う。しかし、律者の元素が七元素と混じり合うことは無い。混じりあってしまったら律者の力が薄くなってしまう。それを応用して、他元素を体内に注入することで律者の侵食をくいとめていた。だがしかし、それは付け焼き刃でしかない。

 

 

律者の力は斬撃ーーー。律者の元素を攻撃性を伴う形に変形させ、放出する。

 

 

500年前のカーンルイアの厄災後、帰離原で勃発した盈月による反乱によって律者の力は斬撃だと魔神の間でそう知られていた。

 

 

盈月の死後、地脈に息を潜めていた律者のエネルギーは''とある事象''を境に急速に別次元の成長を遂げ透明な斬撃を習得した。それは前にした無機物・有機物見境なく切り刻み塵も残らない。

 

 

ゼーレは静かに左腕を伸ばすと、腕に力が漲ってくる。そして、それは溢れださんとした瞬間、それを放出した。

 

 

瞬く間に無数の斬撃が怪物に襲いかかる。肩に、肋骨に、そして足に。あらゆる体の部位に斬撃の雨が降り注ぐ。

 

 

斬撃の範囲が地下のいる空達とコアが存在している腹部以外に指定したため、攻撃が止んだ時にはかつて魔物だった何かだった物が地面に置かれている。

 

 

ゼーレ「ふー......ふー.....」

 

 

スライム程のサイズになるまで切り刻まれ、その中にあるコアを見た時ゼーレは反動で、地面に尻もちを着いた。

 

 

周りを見ると、神殿の欠片や岩壁が無造作に散らばっている。どうやら、空中に浮いていた遺跡さえも巻き込んでしまったようだ。

 

 

ゼーレ「これで......コアも.....私の物......!」

 

 

息を整えながら、ゼーレはついにコアに手をかけた。

あれからどれぐらい時間が経ったのだろうか。意識が少し飛んでいたため時間感覚が分からない。生き埋めになった時から数分しか経っていないのかもしれないし、数時間なのかもしれない。

 

 

意識が戻った時には視界は真っ暗だった。それに自分の上に大きな瓦礫が大きくのっかっているようで、簡単に動かせそうにない。一瞬、助けを呼ぼうかと思ったが、他のみんなも同じ状況に陥っている可能性もある。

 

 

空は僅かな隙間を頼りに体を動かした。体力が消耗している。その状態でこれを動かすのに時間がかかるなぁと思っていたら、突然自分に覆いかぶさっていた瓦礫がどかされ、体が自由になった。

 

 

スカラマシュ「やぁ、無事だったかい?哀れな姿だね」

 

 

呆気に取られている空を覗き込む形でスカラマシュが立っていた。

 

 

人形の体は砂と埃にいる。まるでボロ雑巾のようだ。

 

 

空「スカラマシュ.....?無事だったの?」

 

 

スカラマシュ「生憎.......。あの女に吹っ飛ばされた後、神殿が崩れる前に視界が復活したんだ。戻ってきたらこのザマかい?」

 

 

空「...君に言われたくない。というかよく俺が埋もれている場所が分かったね」

 

 

スカラマシュ「ここに戻ってきた時に瓦礫が少しだけど動いてる所を見つけたんだ。それで退けてみたら君が居たってことだね」

 

 

空「そうなんだ.....ありがとう......」

 

 

空は感謝を述べる。それ聞いたスカラマシュはそっぽを向いた。なんだか、照れているようにも見えた。

 

 

スカラマシュ「こほん......。僕に感謝を綴る前に助ける人がいるんじゃないのか?例えば......そこに埋もれてるパイモンとやらね.......」

 

 

スカラマシュが背を向けながらとある所に指さす。

 

 

空「えっ?」

 

 

空は思わず声を上げる。

 

 

指の先を見ると、ここから2m先にパイモンが逆さまに、砂山に刺さってるのが見えた。

 

 

耳を澄ますと微かにパイモンが助けを求める声が聞こえる。

 

 

パイモン「旅人!旅人!助けてくれ〜!」

 

 

空「パイモン!今助ける!!」

 

 

その場から立ち上がる。

 

 

そして、何枚もの積み重なっている瓦礫の不安定な足場をジャンプする勢いでパイモンの元へ近づいた。細くて短い足を大根を引き抜くかのように力を込めた。

 

 

パイモンはついに抜けた。だが、勢いで尻もちをつく。

 

 

何が起きたのか分かっていないような表情を浮かべていたパイモンだが、空の姿を見ると、次第に目に涙を浮かべた。

 

 

パイモン「うおおお旅人!オイラは絶対に助けてくれると信じてたぞ......!」

 

 

空「怪我はない?パイモン」

 

 

そんな様子のパイモンにやれやれと小言を呟きながら、パイモンの心配をする。

 

 

パイモン「今のところはないぞ!」

 

 

空「そっか。エウルアとナヒーダどこか分からない?」

 

 

パイモン「うぅ...わかんないぞ...一緒に探すか?」

 

 

ナヒーダ「パイモン、その必要は無いわ」

 

 

その時、左から声が聞こえてきた。その方向を見るとちょうど、瓦礫を押し上げナヒーダを担いでいるエウルアが姿を現した。2人もスカラマシュ同様、服が汚れているが、特に怪我は無い。

 

 

パイモン「エウルア!ナヒーダ!大丈夫なのか?」

 

 

パイモンが空の体から飛び上がり、2人の心配をする。

 

 

エウルア「えぇ、何とか.....。この人が瓦礫から守ってくれて....助かった」

 

 

エウルアがナヒーダを横目に喋る。

 

 

ナヒーダ「寸前に気を取り戻して.....。彼女を守るのはギリギリ間に合ったわね」

 

 

スカラマシュ「スメールの偉大な神でもこんなボロボロになるなんてしょげたものだね!」

 

 

ナヒーダ「....あなた最初にやられたでしょう。体の方は大丈夫なの?動ける?」

 

 

ナヒーダは自分の体を抱えている腕をトントンと優しく叩くと、エウルアは静かにナヒーダを地面に下ろす。

 

 

下ろした瞬間、ナヒーダはさっき受けたダメージのせいで体勢を崩したがすぐにそれを直した。

 

 

スカラマシュ「スラサナンタの時よりかはマシさ。体も動く」

 

 

ナヒーダ「そう....それは良かった」

 

 

パイモン「それはよりなんだあの怪物....!棺から出てきたぞ....何かナヒーダは知ってないのか?」

 

 

ナヒーダ「.....」

 

 

ナヒーダは問いかけに考える素振りを見せた。

 

 

ナヒーダ「....いいえ。検討もつかないわ。これも諸々あの子達に聞かないと...」

 

 

パイモン「そっか....なぁ、これからどうするんだ?」

 

 

ナヒーダ「コアもあの衝撃でどっかに行ってしまった...おそらく彼女があの魔物と共に持って行ったようね。そうね.....とりあえずここから脱出することを考えましょう?」

緑色のスライムに手を入れて、硬い感触がするコアを触れた時に、ゼーレはふと、疑問が思い浮かんだ。

 

 

ゼーレ「....?(この魔物は死んだはずなのにまだ周囲を取り込む能力は終わってない....?)」

 

 

生命現象は終わったはずなのに、依然として粘性の液体は赤色のコアを飲み込んでいる。そのことに、ゼーレは強烈な違和感を覚えた。

 

 

ゼーレの予想では、怪物が死んでしまった時点で、残りの液体も形を保てずに崩壊してしまうのではないかと思っていた。

 

 

ーーーーーまさか、周囲の物体を取り込む能力はまだ続いているの........?

 

 

ゼーレ「(まさか...なるほど。そういうことか....)」

 

 

ゼーレの脳内にとある仮説が出来上がった。本当にこれが正しいのならば、利便性はかなり上がるはずだ。

 

 

この仮説に魔物の気配も感じないし、おそらくこれが真実なのだろう。

 

 

ゼーレ「(そうとなれば作戦変更と行くか....まぁ何がどうもあれ...入手確保)」

 

 

ゼーレはついに最後のコアを手に入れた。遂に直に触れた時、達成感と優越感がゼーレの心を満たす。

 

 

赤色のコアは真っ赤に燃えているかのように光、その存在感を放っている。

 

 

思った以上に体力を消費してしまった。そのためすぐにも去ろうとしたが、未だに不気味なものをここに置いておくのもあれなので念のためコアを抜き取った残骸を処理することにした。

 

 

ゼーレの目の前の空間にガラスのヒビのようなものを入れるとそれは徐々に広がり人が入れるほどのスペースを確保した。そこに残骸を放り投げようとした時、後方から石が動く音がした。見ると、そこからホコリと砂を被り何とか這い出てきた空達だった。

 

 

パイモン「うぅ...何とか出てきたぞ...。こんなところに地上に出れる隠し通路があって助かった...」

 

 

ナヒーダ「!」

 

 

全員が地上から出ると、真っ先に惨状を目の当たりにした。

 

 

パイモン「な、な、なんだ!?何が起こったんだ!?」

 

 

ナヒーダ「やはり、先程の振動はここで起こったようね.......。まるで戦ったあとみたい.......」

 

 

ゼーレ「あら遅かったわね」

 

 

ナヒーダ「......!あなた......!」

 

 

ゼーレが喋りかけたことによって、一同は彼女の存在に気づいた。

 

 

そして、残骸を空間に放り投げると、徐々に狭くなっていき、いつも通りの景色に元通りだ。こっちに振り返り、わざとコアをこちらに見せびらかす素振りを見せた。

 

 

パイモンは顔が青ざめ、他の4人は身構えた。

 

 

パイモン「あ、あいつ.....!コ、コアを.......!ナヒーダ!どうする.......!?」

 

 

ナヒーダ「っ......!」

 

 

パイモンに返事することなく、真っ直ぐと、そしてひたすらゼーレを見つめていた。だが、真顔ではなく、苦悩するような顔に見える。

 

 

ナヒーダ「......あの魔物と戦ってたの?」

 

 

ゼーレ「ええ。本来なら私とあの怪物がやり合う義理はないけど、あの怪物の中に赤色のコアがあったからやりやったわ」

 

 

ナヒーダ「あの魔物に.....コアが.......!?」

 

 

エウルア「姉さん、鼻血が...?」

 

 

エウルアがゼーレの鼻から垂れている鼻血に気づき、それを指摘した。

 

 

ゼーレ「ん?ああ....」

 

 

今まで忘れていたのか、エウルアの言葉で気づいたようだ。

 

 

左腕でゴシゴシと鼻を擦った。

 

 

ゼーレ「別に気にすることなんてないわ、エル」

 

 

エウルア「何それ....。そもそもなんで鼻血なんか出してるの........」

 

 

ゼーレ「まぁ、簡単に言ったら力の代償ってやつよ、エル。よいしょっと........」

 

 

ゼーレはその場から動き出し、自分から1番近い瓦礫の山に腰掛ける。足を組んで、コアを遊ぶかのように手のひらの上の物体を上に投げたりし始める。

 

 

ゼーレ「本来ならコアを手に入れたら速攻でおさらばする予定だったけどエルの顔を久しぶりに見れて気分がいいし、少しだけおしゃべりしましょうか....。えーとそうね....じゃあまずあの巨人のことから?」

 

 

そうして、話し始めようとした時、突然、ゼーレがスカラマシュを指さす。

 

 

ゼーレ「あー、動かないで。そのボロボロの体じゃ、動いても取り返すことなんてできないしょ...」

 

 

見ると、スカラマシュがこっそり足を引き、コアを強奪しようしていたようだ。だが、それもバレバレのようで牽制される。

 

 

スカラマシュ「ちっ...バレていたのか......」

 

 

ナヒーダ「あの魔物の正体はあなたの中ではもう結論は出ているの?」

 

 

ゼーレ「ええ。見たら分かると思うけどここで、あの魔物と戦った。そこで分かったのがやつは草元素を使える。そして、2回も不自然な程の移動。ここから導かれる結論は......アランナラよ」

 

 

ナヒーダ「アランナラ........?」

 

 

ゼーレ「厳密にはアランナラの能力を冠した何か......ね」

 

 

ナヒーダ「......。冗談ではないのよね?にわかには信じられないのだけれども」

 

 

ゼーレ「これは結構いい線行ってると思っているわ。全てのアランナラには地脈を移動できる有している。サルバって言ったっけ....?あの怪物も地脈間で移動してるならばこの不自然な移動はこれで説明出来るし.....。単純な身体能力で片付く話でもない。旅人とパイモンも既にいっぱい体験してるでしょ?」

 

 

空「......アランナラとの旅のことを言っているの?」

 

 

ゼーレ「そう.....。森は全てを記憶する....そうでしょ?それに、アランナラは世界樹から出来た存在....勿論草元素も使えるし、草神ブエルから授かった眷属の力も使える」

 

 

ナヒーダ「わたくしは見てないのだからあれだけど....あなたの言うことが本当なら理屈としてはわかる...。だけど、その能力云々の話を置いといて、なんでそのアランナラがそこにいるのかわたくしにはさっぱりだわ。あの子達の最期は全て種になって最終的にスメールの1部となる.....その概念を覆すことがあそこで起きたってことかしら?」

 

 

ゼーレ「これは推測の域なのだけど、アランナラと言っても、亡霊よ」

 

 

ナヒーダ「亡霊....ですって?それは比喩表現?それとも事実?」

 

 

ゼーレ「終焉機のコアを封印する時多くのアランナラが犠牲になった。そして、体こそ無くなれど意識は確かにそこにある。コアから発せられる負の感情は意識を次第に汚染し、魔物と化した...。だけど、底に眠る本能は消えておらずコアと融合しながらずーっとあそこで封印の役割をしている.....ってところかしら。正しく亡霊ね」

 

 

ナヒーダ「その推測も結局は法則をねじ曲げることにはならないわ」

 

 

ゼーレ「ふふ、それぐらい自分もわかるわよブエル。そこでこの赤色のコアが登場ってわけ」

 

 

ナヒーダ「.....コアを?」

 

 

ゼーレ「初めはアランナラがコアと融合したと思ってた.....。だけどそれは逆だった。このコアには融合という能力が備わっていたの。種に成り代わる前にコアと引っ付いてしまったとね....」

 

 

空「!まさか...」

 

 

ゼーレ「終焉機は負の感情から生まれた魔神。周囲の物を巻き込みながら巨大な物に成長したという.....。その事実をゆっくり考えればしっかり分かるのだけれど、灯台もと暗しだったようね」

 

 

ナヒーダ「あなたはその周囲を巻き込む事象を終焉機自体の能力と考えた...と言うこと?」

 

 

ゼーレ「ええ、結局これは推測だけどね。予想が当たっているのかもしれないし....また別の違うのかもね。何より今の状況で全てを判断することは難しすぎる」

 

 

ナヒーダ「.......」

 

 

ゼーレ「テイワット大陸にいる生物が進化するように、終焉機も崩壊する前にコアを形成するようになった。負のエネルギーを4つに分割し、いつでもそこから力を取り出せるようにした....。一種の、元素を貯蔵出来る保管庫のような物を成しているのかもね。けど、この赤色のコアだけは1番重要なの。これが、終焉機の心臓の役割を持っている。だからこれに、1番エネルギーを持っているようね」

 

 

ナヒーダ「それがその魔神の本体....と?」

 

 

ゼーレ「多分」

 

 

パイモン「ずっと気になっていたんだが、ゼーレはそれを使って何をしでかすつもりなんだ....!?そんな危ないもの...オイラ怖すぎるぞ」

 

 

ゼーレ「コアがあったところでそれを実行する器がなかったら意味が無い...そんじょそこらの器じゃ意味がないの。劇物さえ耐えれる器をね.....。そこで目をつけたのがーーー」

 

 

スカラマシュ「正機の神ってわけかい?」

 

 

ゼーレ「そうよ、正解。あなた達も何となくわかっていたでしょ?元々神の心を入れることを想定し、教令院の知恵をかき集めてできた神ならできるってね....。それでパイモンはこれで何をするつもりって言ったよね?」

 

 

パイモン「.....そうだぞ」

 

 

ゼーレ「このテイワットに蔓延る病菌、つまりはアビス教団の殲滅よ」

 

 

ゼーレは語尾を強く、そして、真っ直ぐに目の前にいる人物達に自分の目的を言い渡す。

 

 

ナヒーダ「!」

 

 

ゼーレ「私一人じゃ多少きついからね...だから終焉機の代役をこの時代に再び顕現させる。それでアビスごと踏みつけるなり虐殺するなりなんなりと...」

 

 

ナヒーダ「...アビスを?本気なの?」

 

 

ゼーレ「ええ。迷いは...」

 

 

ゼーレは一瞬言葉が詰まった。空の目には何か迷っている顔が一瞬見えたのだがそれは全員がわかっていたことだ。

 

 

ゼーレ「ないわよ。覚悟は出来た」

 

 

ナヒーダ「そもそもなぜ?」

 

 

今まで優勢の余裕に浸っていたゼーレが見せた怯みをナヒーダが見逃すはずがなく、今度は毅然とした態度でゼーレに解説を求める。

 

 

ゼーレ「500年前の厄災を皮切りにアビスという1つの概念が出来上がった。それは少しづつこの大地に根を生やし、やりたい放題するようにね。このままじゃ崩壊に向かうのは目に見えてるの.....もういいでしょ?ここらで一掃しなきゃ...手遅れになる」

 

 

ゼーレは目を逸らし、少し俯きながら答える。

 

 

ナヒーダ「......」

 

 

ゼーレ「誰しも生まれ持って役割を持っている。それは私も例外じゃない。きっと私に刻まれた力はこういうことに使うためにあるんだって.....。皮肉なものよねアビスで出来た力が今度は自分達に牙を剥くなんて」

 

 

ナヒーダ「正気....?だとしたらあなた狂っているわ....」

 

 

ゼーレ「狂っていなきゃやってられないでしょう?誰かがやらなきゃいけないの。別に私は過去の人間側についていた魔神や神を避難するつもりはないけれど、カーンルイアの厄災を鎮れなかったしわ寄せはいま現代のテイワット大陸に来ている」

 

 

ナヒーダ「あなたの考えは1部納得できるものがある.....。だけど、1番大事なのはあなたの意思よ」

 

 

ゼーレ「意思.....ですって?」

 

 

何かに引っかかったかのようにゼーレがこちらをむく。

 

 

ナヒーダ「話の中にあなたの意思はあるの?わたくしはそうは思わないわ。それにさっきの一瞬見せた迷いの顔が全てを物語ってる。きっと運命に囚われた空虚な人間よあなたは。例えると操り人形のようにね....」

 

 

ゼーレ「うるさい....私の何がわかる」

 

 

そして、ゼーレが見せたのは苛立ちに近い怒りだった。奥歯を噛み締め、眉間に皺を寄せ、ナヒーダに静かな怒りをぶつけている。だが、ナヒーダはそれに臆することなく、自信満々に言葉を続ける。

 

 

ナヒーダ「分からない。だけど、これだけは言えるわ」

 

 

ゼーレ「とっくに覚悟が済んでるって言ったでしょう!?単純に見間違えただけじゃないの!?」

 

 

とうとうゼーレは言葉を荒らげた。喋り終わると、多少だが荒い息の音が聞こえる。

 

 

ナヒーダ「......覚悟ね。その右腕が覚悟の印かしら?」

 

 

ナヒーダはゼーレの右腕ら辺に指さす。その右腕は服装ににつかない、鉄の甲冑で覆われている。

 

 

思い出せば、あまり右腕を使っている場面に出くわしたことがないなと考える。ゼーレに出会って初めに入ったピラミッドでプライマル構造体をたたきつぶした時も....左腕を使っていたな....もしかして、何かあるのか...?

 

 

ゼーレは思わぬ指摘に怒りから動揺へと変わる。口を詰まらせ、不自然な間が空いていた。

 

 

ゼーレ「....何、気づいていたの?」と、恐る恐る聞く。

 

 

ナヒーダ「あなたの動きを地下で見ていたのだけども、不自然に右腕を使わなかったわね.....。なぜ、左腕だけを使っているのかしら?もしかして.......」

 

 

ゼーレ「はぁぁぁ......」

 

 

ゼーレはため息をつきながら、風船が萎んだかのように体が瓦礫の上に倒れる。そして、数秒後、再び起き上がって渋々固定された鉄の塊を脱がし、甲冑の中身を全員に見せつけた。

 

 

空「....え?」

 

 

空はただただ見えた光景に言葉を失った。だが、それは空だけでは無い。1番驚いていたのはエウルアだった。しかし、それはもはや驚きを超えた悲しみに近いものだと感じ取った。

 

 

なかったーーー。本来人間には備わっている右腕がなかった。肩から先の腕が切り落とされていて、代わりに包帯が巻いてある。

 

 

その包帯もいつ巻いたかどうか分からないほど血でどす黒く変色し、黄色の膿も姿を見せていた。

 

 

パイモン「ひええ....」

 

 

エウルア「嘘......でしょ......!?」

 

 

エウルアが思わず口に手を当て、嘆声を漏らす。足の震えが、今にも地面に尻餅をつきそうな勢いだった。

 

 

ゼーレ「あなただけには見せたくなかった...」

 

 

ゼーレはただ、口一つ表情を変えず、腕の惨状を晒し続ける。

 

 

ナヒーダ「.....。自分でやったの?」

 

 

しかし、ナヒーダだけが状況を上手く掴んだようで、会話を続ける。

 

 

ゼーレ「ええ、そうよ。自分で自分の腕を切り落とした。もうとっくに壊死してるから手遅れね」

 

 

ナヒーダ「.....酷い有様よ」

 

 

ゼーレ「必要な犠牲ってやつよブエル。1年前に私はフォンテーヌの遺跡に眠っていた魔神と契約して、その代償として右腕を差し出した。それだけよ」

 

 

ナヒーダ「そこまですること....?あなたは自分の体をなんだと思っているのかしら」

 

 

ゼーレ「別に私はなんとも思わない。さっきも言ったけれど必要なことよ。これも....どれも...」

 

 

ナヒーダ「.....本当に?それに...1年前と言ったらだいぶ律者の侵食も進行してるはず....あなた死ぬわよ」

 

 

ゼーレ「それはどの時代の律者も同じ。避けられない運命よ。それともあなたにこれを食い止めれる術を持ち合わせてるとでも言いたいの?」

 

 

ナヒーダ「......」

 

 

ゼーレ「ふぅ...これでいいたいことも言ったし、私はこれで」

 

 

ゼーレが外した甲冑を再び肩に装着し、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

ゼーレ「とうとう揃ったのだから準備に入るから....じゃあね」

 

 

ナヒーダ「....待ちなさい」

 

 

ゼーレ「何?またやる気?懲りないわねあなた達」

 

 

ゼーレの言葉の端々に呆れが感じ取れる。

 

 

ナヒーダ「あなたの方法は間違えている、これだけは言える。絶対にあなたの計画を止めてみせるから」

 

 

ゼーレ「......やりたいなら勝手にどうぞ。プランは既に最後まで見据えた。それに突っ切るまで。あなたたちは''私の''地獄を片手間に見てればいいわ」

 

 

ゼーレが踵を返して、砂に足跡を刻み始めた。

 

 

ゼーレ「ここから北東方向の洞窟に入って進むと上に上がれる....」

 

 

エウルア「姉さん、待っーーー」

 

 

既にゼーレの姿が見えなくなっていた。ここにはあるのは風が吹く音とさんさんと照らされる太陽の温度そして、気持ちの整理が済んでいない者達だけだった。

 

 

パイモン「消えた...」

 

 

ナヒーダ「.....とりあえず戻りましょう。話はスメールシティで」

 

 

パイモン「そうだな....エウルア大丈夫か?」

 

 

再び殺風景と化し、もう居ない砂漠の先を見据えながらエウルアは答える。

 

 

エウルア「....ええ」

殺風景な砂漠とは一変して、緑に富んだ大地に戻ってきた。夕日が沈み切る寸前の時間帯にスメールシティに戻ってきて、とある宿の1部屋を借りてそこで休憩することにしたのだ。

 

 

外から店じまいの音、教令院からそれぞれの家に戻っていく学生の雑踏が聞こえてくる。遠くから聞こえてくる愉快な笑い声達は酒場からの音だろうか........。

 

 

本来ならパイモンが食事を催促してくるのだが、あのパイモンでさえ何を喋らず、重い空気に取り憑かれた部屋の中で、キョロキョロしていた。自分は椅子に座って天井を眺めている。ベットに座りんこんでいたエウルアは顔を沈めてじっと床を見ていた。ナヒーダは何か考えているいるようで聞こえるか聞こえないか程度の声量でブツブツ呟いている一方、スカラマシュは腕を組みながら部屋の隅に置いてある本棚を見ていた。

 

 

スカラマシュ「....クラクサナリデビ」

 

 

ナヒーダ「どうしたの?」

 

 

スカラマシュ「どうするつもりだ。あの女の勝ち筋は既に色づいてる。勝率はほとんどないぞ」

 

 

ナヒーダ「勿論、分かっているわ。最後まで諦めるつもりはない......。今どうやったら逆転できるかどうか考えてる途中なの」

 

 

スカラマシュ「....どこまで考えついたんだ?」

 

 

ナヒーダ「....」

 

 

スカラマシュ「.....」

 

 

沈黙は続く。こっちの視点からもナヒーダが必死に何かを考えているのはわかるが、何も思いつかないのは仕方ない。

 

 

ナヒーダ「1つ...思いついた案はあるけれど....あまりにも無謀というか...無理難題が過ぎるわ」

 

 

空「......」

 

 

ナヒーダ「とりあえずみんな....今日は解散しましょう。疲れたまま考えても何も思いつかないだろうし......。さあ行くわよ」

 

 

ナヒーダはスカラマシュに目配せをする。

 

 

パイモン「どこに行くんだ?」

 

 

ナヒーダ「スラサナンタ聖処に戻るわ。そこで休憩して考える。この宿の部屋は2つ取っておいたからあなたたちはごゆっくり....」

 

 

パイモン「おう....!ありがとうな」

 

 

ばたんと扉が閉まり、エウルアと3人きりになった。

 

 

パイモン「えーっと、もう今日は休もうぜ...エウルアも疲れただろ?」

 

 

エウルア「.....」

 

 

パイモン「エウルア?」

 

 

エウルア「....ん?何?」

 

 

パイモン「大丈夫か?もう今日は休もうって話だけど....」

 

 

エウルア「あ....ああ!分かった....。1階よね?じゃあお言葉に甘えて今日は....」

 

 

エウルアはベットから立って重い足取りで出ていった。

 

 

パイモン「おいおい、あいつ大丈夫か?明らか元気がないぞ...」

 

 

空「無理もないよ」

 

 

 

 

エウルア「.....はぁ」

 

 

今はため息しか出ない。

 

 

足裏が床に着く事にギギッと鳴く階段を降りていく。空の話によると自分の部屋は1階らしい。降りきり、自分に当てられた部屋に行こうとした時、エウルアの足が止まった。そして、宿の入口を見た。

 

 

エウルア「.....!」

 

 

あの扉の先から懐かしい雰囲気を感じる。それをエウルアは感じ取ったのだ。

 

 

まるでそれに導かれるかのよう、気づいた時には足が動いていた。そして、宿を出る。

 

 

宿の前は左右に伸びていく石畳の道だ。右を見ると畑があるのだが、その縁にゼーレが立っていた。柵にもたれ掛けながらスメールの自然を見ていたのだが、横に近づいてきた人物に気づくと、そこから離れ、ニコッと微笑みかけた。

 

 

エウルア「.....姉さん」

 

 

ゼーレ「エル...。久しぶりね」

 

 

エウルア「...どの面を下げて来たと思っているの?」

 

 

本来ならエウルアは狂ったように喜んでいたことだろう。だけど、あんなことが起こった以上、素直に姉との再開に喜べずに居た。

 

 

ゼーレ「ごめんね。そんなに怒らないで...」

 

 

エウルア「...なんでここに?」

 

 

ゼーレ「ちょっと話をね...。それにあなたがここに居ると思ったから」

 

 

エウルア「私も姉さんの気配がして....そしたら外に...」

 

 

ゼーレ「座って。話すことがあるの」

 

 

ゼーレが近くの苔が生えた丸石の壁に座る。それに続いてエウルアが恐る恐る隣に座った。

 

 

エウルア「お昼に見た光景が未だに信じられなくて....整理が追いついていない...。その腕は本当なの?」

 

 

ゼーレ「うん、現実のことよ。そんなに信じられないなら見せてあげようか?」

 

 

エウルア「いや...いい。後その右目....」

 

 

ゼーレ「ああこれ?右目がほぼ失明してるから不便なのよね...」

 

 

エウルア「え?失明?」

 

 

ゼーレ「無理やり目に刻まれた結果の副作用よ。まぁ...これは仕方ないわ」

 

 

エウルア「.....そのマークはリツシャっていう物の証明なの?」

 

 

ゼーレ「ええ、切っても切り離せない一種の呪い」

 

 

エウルア「......。それで話って?」

 

 

ゼーレ「最後にあなたの顔を見たくって...」

 

 

エウルア「.....え」

 

 

今まで、あまり姉の顔を直視できなかったエウルアだが、ゼーレのその言葉についに顔を上げる。

 

 

ゼーレ「もう私の体は限界......そこまで長くない。だから、最後にせめてあなたの顔だけでも」

 

 

エウルア「最後.....?」

 

 

ゼーレ「私はこれから暴れなくちゃいけない。悪いやつらをぐちゃぐちゃに踏み潰すの。嫌悪感と恨みを重ねてね。虫けらを殺すように、作業のようにやってやるのよ」

 

 

エウルア「え?待って...」

 

 

ゼーレ「お姉ちゃんやるよ。止まらないから....あなたは普通の日常を送って?」

 

 

エウルア「どういう...こと?最後って....」

 

 

ゼーレ「これも全部のあなたの為よ」

 

 

エウルア「ふざけないで!!!!」

 

 

怒号が周りに響き渡り、通行人が一斉にこっちを向く。ゼーレも思わずビクッとなった。

 

 

そして怒号の次に飛んできたのは....ビンタだった。

 

 

力の込めたビンタはゼーレの頬にクリティカルヒットする。

 

 

ゼーレ「痛っ.....」

 

 

エウルア「全部.......!独り善がりの言葉だけじゃない!」

 

 

ゼーレ「えっ....?エルどうしたの?なんでそんなに.....。怒らないで...ごめんなさい」

 

 

エウルア「何が最後の挨拶よ!何が全部あなたの為!?ふざけないで!私はこんなこと認めてないから!」

 

 

ゼーレ「エル......」

 

 

空「エウルア!」

 

 

その時、怒号を聞きつけて宿から空とパイモンが飛び出してきた。ゼーレがいることがわかると顔色を変える。

 

 

パイモン「うぇ!?なんでゼーレがいるんだよ!」

 

 

ナヒーダ「どうやら私の勘は当たったようね」

 

 

それと同時にナヒーダとスカラマシュが奥から姿を現した。

 

 

パイモン「お前らスラサナンタ聖処に戻ったんじゃなかったのかよ!」

 

 

ナヒーダ「それは本当よパイモン。だけど帰る途中、あまりにも何か嫌な予感がしてね。後、彼女の怒鳴り声が聞こえてきて....ここにやってきたの」

 

 

ゼーレ「.....はぁ。別にあなた達に用はないんだけど」

 

 

ゼーレが立ち上がりその場から去ろうとした。

 

 

空「待て!」

 

 

慌てて空が叫ぶ。

 

 

ゼーレ「エル。あなたがどれだけ叫ぼうと未来は変わらない。やってみなさいよ....止められるなら」

 

 

エウルア「......本気で言ってる?私も姉さんと同じで頑固者だけど」

 

 

ゼーレ「.....。あーあ....最後の挨拶って言ってたけどなるべく私はあなたの事を忘れるようにしてたけど....これだけはやっておこうと思ってたんだけどな」

 

 

エウルア「.....」

 

 

ゼーレ「まぁいいわ。コアのお礼もあるし、ヒントを教えてあげる。準備は既に整った、明日デーヴァーンタカ山で行動を開始する。止めるのも、傍観するのもあなた達次第」

 

 

スカラマシュ「....ご丁寧にどうも。そんな敵に情報を教えてどういう思考回路なんだい?」

 

 

ゼーレ「私は単純にあなた達が可哀想に思えただけよ。難題を解くけど何も分からず頭に熱が入っている子供にヒントをあげるのと同じこと。じゃあね」

 

 

エウルア「...諦めるものですか。絶対にこのまま終われるとは思わないで!姉さん!」

 

 

ゼーレ「......」

 

踵を返し、立ち去ろうとしていたゼーレだったがエウルアの言葉を聞いてこっちを振り返った。何か言いたげそうな顔を浮かべていたが、再びその場を去っていった。

 

 

パイモン「言っちゃったぞ....」

 

 

ナヒーダ「デーヴァーンタカ山....そこなら十分正機の神を隠すのに優れているわね」

 

 

パイモン「それなら砂漠の方がもっと広くてでっかい地下があるだろ?なんで木がいっぱい生えてる森林にするんだろうな」

 

 

ナヒーダ「今の段階では推測は不可能ね。だけど、彼女のことだから何か計画があるのだと思われるわ」

 

 

空「エウルア?」

 

 

エウルアはゼーレが消えていった方向をずっと睨み続けていたが、さっき座っていた壁に落し物を見つけてそれを拾い上げた。

 

 

エウルア「これは....。これまた懐かしい物を.....」

 

 

パイモン「んん?ペンダント?なんでそこに?」

 

 

手にあったのは金色の装飾が施されている小さなペンダントだった。だがそれは、既に一部の金のペンキが剥がれ落ちて、錆び付いていた。相当年季が入っていると見てわかる。

 

 

エウルア「昔....と言っても子供の頃だけど、このペンダントを姉さんにあげたの。私も忘れてたのだけど、ずっとこれを肌身離さず持っていたってことね.....私のことなるべく忘れるようにってとんだ嘘つきね。そんな嘘の上塗りして一番辛いのは自分でしょうに」

 

 

空「.......」

 

 

エウルア「旅人」

 

 

空「何?」

 

 

エウルア「私、風龍廃墟からここまでずっと迷ってたの。本当は半信半疑だった。頭の片隅で旅人が嘘をついているんじゃないか?ってね.....。きっとなにかの間違いだ....夢でも見てるんじゃないか.....。けどこれで決心した。姉さんを本気で止める....」

 

 

ナヒーダ「これでみんな心は固まったようね」

 

 

エウルア「どんな手を使っても止めてみせる。この大剣で姉さんを斬ったとしても」

 

 

第2幕[完]

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