異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理   作:秋津 幻

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第9話 ギルドからの呼び出し

 冒険者ギルド、「TITAN」。俺は、その建物の前に立っていた。

 黒い巨大な空まで貫くようなビルが、そこにはある。

 

「ここがギルドの建物か……」

「随分とデカいですよね!」

 

 後日。ステラちゃんのS級予備役就任にあたって、ステラちゃんと俺に召集命令が出た。

 ステラちゃんは先に来て、手続きやら説明やら何やらを受けていたようだが……俺はなぜだか時間をずらして後になってから来るように言われた。

 

「ステラちゃんは分かるが……何で俺まで?」

「さあ……話したい事でもあるんじゃないですか?」

 

 それは分かっているのだが……なんか怒られでもするんじゃねーだろうな。

 もしかしてまた追放とか……少しだけ不安になる。

 

「ここには、ジムとか、トレーニングルームもあって……体を鍛えたり、先輩冒険者に教えてもらったりするために、私も通ってるんですよ!」

 

 そんなものまであるのか。冒険者を育てる体制は整ってるという事か……

 

「それで、俺は誰に呼ばれたんだ?」

「TITANの副ギルド長がおよびだって」

「副?なぜそんなお偉いさんが? どんな人だ?」

「優しいお祖母ちゃんですよ。よくわからないけど行ってみましょうか」

 

 ***

 

 とある一室。木掘りの豪華な机の向こう側、黒い皮の豪華な椅子の上に一人の女が座っている。

 

「どうぞ、奥に入って、ステラさん、紗城さん――」

 

 くるりと椅子を回転させ、その姿を見せる。軍服姿の、黒髪の、釣り目の女。

 ぴり、と空気が揺れ俺は身構える。

 

 

 だが、ステラちゃんの方を向くと彼女の表情は柔らかくなる。

 

「まずステラさん、S級予備役昇格おめでとうございます」

「は、はい」

「全く、ユニークを倒すなんて思いもしませんでしたが……そんなに危険に向かわなくてもいいのですよ?」

「えへへ。でも、困った人は助けなきゃだし強くなりたいし」

「配信を許しているあなたには、特別な事情がある事をお忘れなく。あなたがいなくなって悲しむのは、一人だけじゃないんですから……」

「はーい」

「大体あなたは、自分が特別な人間だという事を知っているのでしょうか。それを意識して、冒険者の代表である事を自覚して……」

 

 長々と、説教が始まる。俺ここにいる必要ある?

 そしてしばらくして、話が一区切り終わった後。こちらの方に向き直る。

 

「……こほん、長くなりました。申し訳ないです紗城さん」

「あっはい……それで何の用事だ?」

「そう警戒しなくていいです。まずはお礼を。この度はユニークモンスターを退治していただきありがとうございます。そして、ステラさんのレベル上げをサポートしてくれたことも」

「まあ、成り行きみたいなものですが」

「少々混乱はありましたが……一人でもレベルを上げ戦える人間が増える事は喜ばしい事です。……なにせ、このギルドTITANは、シン日本は万年人手不足なのですから」

「……なんで人不足なんだ、シン日本には転生者、召喚者がいる。それに見たところあんただって相当強いんだろ?」

 

 ステータスを見たわけではないが、彼女は歴戦の戦士の空気を纏っている。ギルドのお偉いさんだ。相当に戦えることだろう。

 

「ええ、私も戦っておりますわ。ですが、ギルドの業務や後進育成の仕事もある故、それにかかり切りになれないのも現実です。現状は――」

 

 手を組み、目を見開く。

 

「冒険者を引退したギルド上層部。転生者、召喚者達。それらを全力でユニークへの抑えにつかってなお、人が足りてないというのが現状です」

「――」

「そんな……」

 

 ステラちゃんも驚いている。知らされていなかったのか。

 

「この事実を伝えると、混乱がさらに広がりますので。ステラさんも知っておきなさい、これから、S級になるのですから」

「……はい」

 

 ステラちゃんが、しおらしくなる。

 

「こほん、辛気臭い話をしに来たわけではありません。紗城さんに一つ質問を……シン・日本はどうですか?」

「どう、というのは?」

「ここは……あなたが来て、良かったと思える場所でしょうか?」

「ああ、うん……とてもいいな」

 

 そこでようやく俺も、態度を柔らかくする。

 

「かつて転生者・召喚者達が住んでいたと言われる日本。それを出来るだけ、思い出のままに再現した、終の地。安住の地。そこであなたは……幸せに過ごしていますか?」

 

 ……望郷の地の再現という面ではこれ以上ないだろう。

 あの時の空気。あの時の味。あの時の景色。あの時の――

 

 かつて記憶の彼方に消え去った地が、そこにはある。

 

「ああ。最高だな。ここに来て、良かったと思うよ」

「それは、良かったです」

 

 すこしだけ、嬉しそうな表情をする。

 

「ここは、人々の転生者、召喚者の終わりの地。そこを幸せに暮らせるように、この地を守るギルド、TITANの副議長が私。名前は久遠渡(くわたり)。どうぞこれから、お見知りおきを」

 

 そういう、歓迎の言葉であった。

 

 

 

 そんな空気をぶち壊したのが一人。ステラちゃんだった。

 

「あの……わたちゃんどうしたんです? 普段と空気違うんですけど」

「わたっ……!? ステラさん、少し静かに……今大事な話をしているのでね? ね?」

「……? は、はい」

「それとも、私に何か言いたい事でも?」

「……いつもより若作りしてません?」

「余計なお世話です!」

 

 たしかに見た目は若く見える。しかしその実態は……よく見ると化粧が濃い。

 だが、おそらくそれだけではない。

 耳の方が少し長い。

 

「……エルフか?」

「惜しい。ハーフエルフよ。母がエルフで、父が転生者よ」

 

 転生者の、子孫。

 ……なるほど、転生者・召喚者のために作られた国だ。その子供がいても、おかしくはない。

 母だけではない。若々しい見た目には、そしてその強さには、父の血筋もあるだろう。

 

「おっと失礼。……なるほどな、長く生きているというのにその見た目、理由は分かったよ」

「……こほん、この世界、見た目と中身が一致していることの方が珍しいでしょう。ねえ?」

 

 全くだ。

 俺なんて、いつの間にやらピンク髪になってしまったのだから。

 

「あなたの本当の年齢はいくつなのかしらね?」

「3回死んでからは数えてねえな」

「そう……それだけ生きたのですから、私の何倍も強いのでしょう。そんなあなたに、では一つだけ。忠告というか、釘を刺しておきましょう」

 

 険しい顔をして、言う。

 

「決して、このシン日本の安寧を崩さぬことのないよう。ゆっくりと大人しくしてくださいな」

「それならゆっくりできるだけの金でも渡してそっとしておいてほしいんだが」

「勤労はこの世界に生きるものの義務でしょう? このシン日本のために働き、それでいて大人しくする。そういう理性的な生き方をお願いしたいものですわね」

「ステラちゃんのせいでバズっちゃったんですが」

 

 ステラちゃんが舌を出して頭をかいている。

 そんな姿を見て久遠渡さんとやらはあきれ顔だった。

 

 

「人手不足で、俺にも頼らない選択肢はないだろう。困ってる人いれば、俺は誰が何と言おうと大人しくせずにユニークを倒すぜ?」

「単純な話です。そのユニークを倒せる力が……シン日本に向かないように。それだけです」

 

 向けないよ。

 俺だって、シン日本に愛着を持ってきてるし……この現代日本での生活を、失いたくないんだぜ?

 本当に釘を刺しに来ただけか。

 

「まあ、取り越し苦労だな。俺もわざわざ住む場所を荒らしたりはしないよ」

「そうですか。なら良かったです――このシン日本はここに生きるもののための国です」

 

 そういって、立ち上がり、扉へ向かう。

 

「もちろん転生者の、召喚者達の、あなたたちスキルを大量に持つ「上位勢」のための物でもある。しかし――そこには、ここで生まれ、一生を過ごし、平和に過ごしている普通の人たちもいる事をお忘れなく。」

 

 そう言葉を言って去っていった。

 そして、ガチャリと扉が閉まる。

 

 そんな風に語る彼女を見て。二人はあっけに取られていた。

 

「わたちゃん普段あんなんじゃないのに……なんか普段よりすごい無愛想っていうか」

「普段の姿はどんなんだって?」

「あめちゃんくれたり頭なでたりしてくれるんだけど……」

「お祖母ちゃんじゃん」

 

 どうやら何か、俺の存在に思う所があるらしい。

 歓迎してるとは言え、何か警戒してるような。

 やれやれ、俺だってユニーク相手に暴れたくて暴れている訳でもないのに。

 

 ただ、頼まれたら断れないだけだ。

 

 困った人は助ける。シン日本に危害は加えない。それだけの話だ。やる事は変わらない。

 

***

 

 建物の外に出る。

 

「ったく、ステラちゃんのS級予備役祝いなのに、なぜか俺の話になっちゃったな」

「特に怒られもせず良かったですー」

「その代わり人手不足というシン日本の危機を知ったわけだけど?」

「身が引き締まりますね! その分私が強くならないと!」

 

 全く、こういうポジティブなのはステラちゃんのいい所だな。

 

「まあともかく、責任が重くなった役職就任おめでとう。そうだな、俺からも何か祝いを出そうかな……」

「とりあえず、あそこにあるクレープとかどうですかクレープ!」

 

 出店の方に駆け寄るステラちゃん。

 そんな俺も金欠の一件以来金を節約しているところなのだが……まあいいか。

 俺もちょっと、クレープ食べたいしな。

 

 

 ちょっとした祝いだ。このくらいの頼みは聞いてあげても、良いだろう。

 

 

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