異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理 作:秋津 幻
「お久しぶりーステりゅん!」
「サクちゃんおひさっ!」
子供の時からの幼馴染の
ミディアムの茶髪で、目はパッチリと大きく開いているかわいらしい小さな顔。子供の頃からの印象そのまま大きくなった印象です。
懐かしくて、安心します。ここ最近バズったり偉い人に会ったりすごい人に会ったり、忙しくてオフが取れなかったので、心が休まるのはいい機会です。
お洒落なカフェに入り、二人で近況を話し合う。
「ステりゅん配信者としてすごい立派になっちゃってー」
「立派じゃないよ、まだまだ未熟なことばかりだし」
「そんな事ないじゃない! 中学生時代から親から反対されても、配信で稼ぎたいって色々頑張ってたよね! 歌うたったり踊ったりしてそれを配信してさー。変わらないね」
「結局色々やったけどダンジョン配信が一番伸びたんだよね。才能あったのかなー? いや、偶然だと思うけど」
そうは言いながらも、私の頬は緩んでいます。友達でも褒められればうれしい。
「そで、冒険者としてもS級になるんだって?」
「S級じゃなくて予備役だよ。それに人の助けがあっただけだし」
「あのピンク色の髪の人でしょ! すごいなーカッコいいなー、知り合いなんでしょ、会えたりしないかな?」
「いや、それは……」
華維さんは、なんかこういう野次馬みたいな人を嫌いそうだと思う。
めんどくさがりで、興味のない人にはまるっきり興味がなくって。
「今、忙しそうだし会えないかなって……」
「そっか、残念ー」
あっさり引いてくれたから良かったけど、結構こういう人は多かったりする。
一回バズったら、有名人だからって会おうとして。
大体はギルドや事務所の方でブロックするけれど、知人の方から言われるとどうしようもない。
「そんでさー、冒険者って最近流行ってるんでしょ? わたしもちょっと小遣い稼ぎにやってみてる訳なんだけど」
「うーん?」
なんか流行りで初めて危険なことやるのもどうかと思うけど。
でも、私が言えたことでもないか。
「ちょっと、いろいろやってるからアドバイスとかしてくれないかなって……忙しいならいいんだけど」
どうだろう、それなら初心者向けに色々装備とか、スキルとか教えてあげるとかアリなのかも……
私も人に教えてもらってる身です。逆に人に教える経験とかしてもいいのかも。
「いいよっ、サクちゃんの頼みだしやってあげる!」
「ほんと! ありがとう!」
あっオフなのにダンジョンに潜ることになっちゃった。
まあいっか。友達と一緒に潜るだけでも気持ちは違うのです。
***
そんなわけで、初心者ダンジョンに来ました。
「それじゃちょっと、サクちゃんのステータス見せてくれる?」
「はーい」
名前:末祓 桜
性別;女
LV:7
体力 146
攻撃 132
防御 155
魔力 433
スキル
【☆永い眠りへの誘い】【
【魔法 LV1】【マジックミサイル】
【言いくるめ】【直感】
「うん、うーん? なるほど?」
「なんと言うかね、火力が足りない気がするの。どうにかして火力を伸ばせないかなーと思ってるんだけど」
「この永い眠りへの誘いってのは?」
「ちょっと優秀な催眠というか、眠らせる効果だと思って」
星ついてるスキルなんだから、優秀なスキルなんでしょうに。
「えっと……普段はどういう戦い方してるの?」
「そりゃあ、相手を眠らせたり、敵の精神をいじってターゲットを別の所に移し替えたりして……」
「足りないのは?」
「火力?」
「……」
方向性が違くない? このスキルは攻める構成じゃないというか……
「サクちゃん、なんと言うかその……人は一人じゃ何にもできないんだよ」
「そうね、普段は友達とかとパーティ組んだりしてるんだけれどもなかなか続かなくって……それでソロでもある程度やれるようにしたいから、火力を」
なぜか、パワーにこだわりがあるようです。
明らかに、デバフのサポートに特化したスキル構成だというのに。
そう指摘してあげることは簡単ですが……頭のいいサクちゃんもある程度わかっている事でしょう。
それなら、まずやるべきことは!
「とりあえず……何とかできないか案を探してみよう!」
「う、うん!」
***
「とりあえずこれ装備してみてくれる?」
「これは……」
それは、私が普段装備している戦闘用装甲鎧。の予備です。
「これを? わたしに? ちょっとかわいいカッコいいが過ぎるというか、露出が多いというか、地味なあたしには似合わないというか……」
「露出は下にタイツ履けば大丈夫だから」
「えー……ちょっと、うわっ!」
足と腕に青い鋼鉄をまとい、へそが少し出た私の鎧を、サクちゃんが纏っています。
「どう? 私の衣装?」
「なんというか胸がちょっときつ……」
胸の大きさの差ァ!
私も小さくはないんですよ! でもサクちゃんもなんというか……まあ胸が大きいというか。
「それで、なんでこの装備を着せたの? あまり殴り合いはやったことないんだけど……」
「でしょ? やったことのない事をやると、意外な適性が見つかるんじゃないかって!」
「うーん? でもまあとりあえず……やってみるわ」
「それじゃあ行こう!」
***
「たっ、たー!」
「へっぴり腰になってる! もっと前でて!」
「そんなこと言われても……うわっと!」
おおきなオークの攻撃を、受け止めます。
「うーん、防御は上手いんだけど攻撃のほうはやっぱりそんなにでも……」
「そんなこと言ってないでちょっと助け……あーもう!」
よこからやってきたゴブリンを、サクちゃんはじっと、見つめます。
「ああもうめんどくさい! 寝てしまいなさい!」
――桜の、 永い眠りへの誘い!
モンスターたちが眠っている間に、周りにいる敵を殴りつけていきます。
一匹ずつ、一匹ずつ。
「効率悪いなあ……」
「これが一番安定してるからしょうがないじゃない……」
***
「なんかしっくりこないねえ……」
「やっぱ攻撃役があってないんじゃない?」
「それは……そうなんだけど……」
と、しばらく歩いていると。
グオオオン、と魔物の声が聞こえてきました。
「この声は……ちょっと様子見てこないと!」
「ちょ、ちょっと待って!」
困惑するサクさんを他所に声の方へ進むと、一匹のでかいモンスターが新人冒険者たちを襲っていました。
「グオオオ!!!」
「うわあああ!! なんでこんなところに!」
「ここは私に任せて!」
「ステラちゃんだ! お、お願いします!」
あっという間に襲われてた冒険者たちは安全な所に逃げていく。よきよき。
「ちょっと、ステりゅんオフなのにいいのそんな事して!」
「困った人を見捨てられるもんですかっと!」
「またユニークとかじゃないでしょうね!?」
「ああ、まさかそんな……」
名前:ミノタウロス(ボス)
LV:55
「良かった!!!! ユニークじゃない!!!」
「ユニークじゃないくらいで喜んでどうするの……普通に初心者向けダンジョンに出るレベルじゃないんだけど……」
「これなら私も倒せます! サポートよろしく!」
「あーもう……やってみる! タゲ移すよ!」
――桜の精神誘導! ターゲットがステラに移った!
「グオオ!!」
ミノタウロスの攻撃が、私に降りかかります。
それを私は両手で、受け止める。
「マジックミサイル!」
「グオオ!!」
サクちゃんの魔法攻撃が後ろからやってきて、一瞬敵が怯みます。
「OK! 一気に決めちゃうよ!
――ミノタウルスを倒した!
「うーんレベルも上がったからこのくらい余裕だね! サクちゃんサポートありがとう! やりやすかったよ!」
「良かった、ステりゅんをサポート出来て」
ほっと胸をなでおろすサクちゃん。
やっぱ天職はサポートなのでは?
「それにしても、なんでこんなところにレベル50台の敵が……」
と、その時でした。
ダダダ、ダダダ、とものすごい巨大なモンスターの足音が聞こえたのは。
「……この雰囲気、まさか」
「なんか嫌な予感がするんだけど?」
そして、ダンジョンの壁を突き破って現れたのは。
三つの馬頭の首を持つ、巨大なモンスター。
「ゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオ!!!!!」
名前:トライホース(ユニーク)
レベル:120
「はい」
「……えー」
「どうしようっか!」
「二人じゃ無理だって! 逃げる!」
***
全力ダッシュ。無理です。
配信もしてない。華維さんもいない。無理です。
なるほど、あのボスがこんな所に現れたのは、ユニークモンスターに追われてたから……
「うー折角レベル上がったのにやっぱ無理じゃん!!!」
「そんなこと言ってる場合じゃない! 少しでも止めないと……精神誘導!」
桜ちゃんが馬頭にスキルを書けると、一瞬向きを変え、壁にぶつかります。
だが、すぐにこちらを向いて、追いかけてきます。
「デバフは通らない訳じゃないわね……ステりゅん! 一回受け止められない!?」
「一度くらいなら! でもどうするの!」
「眠らせる!」
あれこれ言ってる場合じゃありません。サクちゃんの案に賭けます。
――トライホースのとっしん!
――ステラに4024のダメージ!
「受け止めたよ!」
「行くわよ……眠りなさい!」
サクちゃんがじっと目を見つめ、一秒。
――桜の永い眠りへの誘い!
トライホースがゆっくりと倒れ、ばたり、と地面に落ちる。
そして、ぐっすりと眠り始めました。
永い眠りへの誘い:発生に1秒かかる。耐性を無視して【超睡眠】状態にする。この【超睡眠】は次に攻撃するまで解けない。
「ちょっと眠らせるのに時間はいるけどね……」
「1秒で眠らせられるなら強くない? まあ、ともかく折角眠らせたのだから倒す方法を……」
「じゃ! 逃げるわよ!!!!」
「えー……動けない状態なら……」
「一撃で倒せないでしょ! 倒すのは他の人に任せて報告して逃げるの!」
***
とりあえず一件落着。ギルドの人にユニークが出たことを知らせて、とりあえず眠らせてることを連絡しました。
なんとか行動不能の状態にして安全も確保した、という事でお褒めの言葉が入りました。
「すごいじゃんサクちゃん! あんなことできるなんて」
「緊急事態だったからねー……」
サポートとして一流。年以上の経験がある? そういう場面がかいまみれました。
「なんで初心者ダンジョンでユニークに遭遇しなきゃならないの???」
「私の体質みたいなもんだから……」
「難儀な体質ねー全く」
それにしても、サクちゃんのサポート性能はすごいものでした。隣にいてくれて、やりやすかったというか。
ナシさんは何時もいてくれるわけではありません。華維さんにいつまでも頼る訳にもいきません。
でも、代わりに他の人が、隣にいてくれたら、私の足りないスキルもカバーできるんじゃないかって、思いました。
昔、サクちゃんには配信に付き合ってもらったことがあります。途中から恥ずかしいって止めてしまったけど、今なら、もしかしたら。
それに、親友だったし。また、一緒に隣に居たい。
「ねえサクちゃん、一つ提案なんだけど……」
と、提案をしようとした、その時でした。
人込みの中に、華維さんの姿が見えました。
「ったく、まさかコンビニ帰りにちょっとダンジョン寄ろうとしたらユニークを倒して下さいなんて頼まれるとは……おっとそこにいるのはステラちゃん、おーい」
「あれは……華維さん!」
華維さんがこちらを見た、その瞬間。
いや、隣にいた、サクちゃんを見たその瞬間。
華維さんは、一気に表情を変えました。
「――桜?」
唖然として、口をぽかんと開け。
手に持っていたレジ袋を取り落とし。
見たこともないくらい目を見開き、ぱち、ぱちと目を瞬きさせ。
じっくりと、サクちゃんと目をあった、その瞬間に。
足の力が抜け、がくり、とひざを落としました。
「――桜、桜なのか?」
サクちゃんは、ゆっくりと笑いかけました。
「
そういうサクちゃんは。
眼を細くし、見たこともないくらい優しく、朗らかに、母性すら垣間見えるように、生き生きと、からかうように、うっとりと、恍惚とした表情で。
さらに、ほほを緩ませて、いっそう強く笑いかけました。
「待ってたわよ――100年くらい。わたしも、何度か転生して、ね」
「はは、ははは――」
ただただ、華維さんは笑い続けます。
地面にひざをつけ、サクちゃんを見つめたまま。
ほっぺたに、涙を伝わせながら。
「俺は、俺は――
「は?」
私は、その流れに一切ついて行けませんでした。