異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理   作:秋津 幻

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第14話 桜流し

「お久しぶり、華維くん。雰囲気変わった?」

「――そういうお前は、全然変わんねえな……」

 

 華維さんが立ち上がろうとすると、サクちゃんは、手を伸ばす。その手を、ゆっくりと掴んだ。 

 

「そう? シン日本で生まれ直した成果、どうみてもあのときより若くなってるように見えるけど。どう? 肌とかもちもちよ?」

「変わんねえって言ったのは雰囲気だよ。昔と魂の輪郭が一緒だ」

「そう言う意味だと華維くんは随分と変わったわね。ピンク髪で、幼い顔つきになって。どうしたの? 一回女の子にでもなった?」

「ノーコメントで」

「そ。詮索しないでおく」

 

 サクちゃんはくすくす微笑みながらもものすごい嬉しそうにしている。

 

「ほんと。見ないうちに随分と色んな冒険してきたみたいで。こっちでも早速大暴れしたじゃない?」

「まあ……不可抗力でな。しかし、桜もこっちにいたなら、会いに来てくれればよかったのに」

「わたしもあなたがどこにいるのかわからなかったのよ。動画を見て見た目が変わってたから確証は取れなかったし……」

「そりゃ、そうだよな。ごめんな」

「だから、動画見たとき本当に驚いたのよ? その鎧が、変わってなくて良かったわ」

「そうか。……これだけは、変えなくて良かったな」

「まあ、でも」

 

 そう言うと、一歩前に出て、華維さんの唇にゆびをつきつける。

 

「こうやって実際に出会ったら、一瞬であなたと気づいたけどね」

「……そうか、俺もだよ」

「あなたが会いに来てくれるの、待ってたんだから。いつまでも来ないからこっちから会いに来ちゃった」

「俺は、もう諦めてたよ。異世界のどこ行ってもいないから。……いや、もういないことが幸せなんだとすら思っていた」

「酷いこと言うじゃない。そんなにわたしと会いたくなかった?」

「ひどかったよ、あの世界は。巻き込まれない方が幸せだった」

「そうなの? でもね。わたしはあなたと一緒に居られればどんな世界だって幸せよ」

「そうか」

 

 そういって、背中を抱き、身を寄せ合う。

 

「あと、これも言っておかなきゃね。おかえりなさい」

「ああ……ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、終わりました?」

 

 二人だけの世界に無理やり言葉をねじこむ。

 紗城さんはおっかなびっくりしたあとなんども頭を下げる。

 

「ごめん、マジでごめん」

 

 一方サクちゃんは意にも介してなかった。

 

「なによいい所だったのに。ステりゅんそういうの邪魔する?」

「ステりゅん……?」

「いやなんか目の前で知らない友人関係みせられてムカついて来たから……それに、ここじゃ止めましょう? 人前でやる事じゃ……あれ?」

 

 気が付いたら、周りには誰もいなかった。

 

「ああ、人払いしておいたわよ。わたしなら、それくらいできる」

「――どうしたの? サクちゃん。テンション上がっちゃって」

「そりゃあ、数十年ぶり、100年ぶりに愛する人と再会したらはしゃぎもするでしょう?」

「あ、愛……!? そんな関係だったの!?」

「そ、どう? 驚いた?」

 

 にっこりと、素晴らしく嬉しそうに、感慨深げに、笑う。

 

「やっと会えて、良かった、本当に、本当に――」

 

 そこで、何か感極まったのか一筋の涙を流す。

 

「ひっひぐっ……あえて、よかった……」

「桜、」

 

 華維さんは、サクちゃんの涙を手で拭った。

 

「ごめんなさい、つい……」

「いいんだ、いいんだよ」

 

 今度こそ私は、二人の間に入ることが出来なかった。

 

 ***

 

 桜を、俺の家に招く。

 

「散らかってるわね」

 

 その辺にゴミが、ゲームが、服が、色んなものが転がってる。

 

「面倒だったからな」

「片付け、手伝ってあげるわよ。あーもう、部屋の窓、開いてるわよ。外寒いのに」

「開けてるんだよ。いざという時の逃げ道は作っておかないと行けないからな」

「テレポート使えるでしょ」

「……怖いんだよ、外と繋がってない空間で、部屋に閉じ込められるのが」

「そっか」

 

それっきり、その話については何も言わなかった。

 

「ステりゅんに悪い事しちゃったかしら」

「ステラちゃんと随分と仲良さそうにしてたな、何ステりゅんって」

「だって子供のころからの幼馴染で、親友だもの! そして、あなたと再開できたのも、ステりゅんのお陰だし……」

「ステラちゃん居心地悪そうにしてたぞ」

「うん……今度謝らないと。関係を、利用した形になってごめんなさいってね」

 

 少し、無言になる。

 

「……本当に、ケイくんなの?」

「ああ、そうだよ」

 

 桜が、俺のほっぺたを触る。

 

――華維と、サキュバクラはテイマー契約を結んだ!

 

「これは――」

 

ステータス欄の、テイマーの表示が変わっていた。

 

【テイマー 手持ち:[サキュバクラ]】

 

「あの時と一緒ね。一緒に、旅したわよね。あなたが、テイマーで、わたしが、従う方(ミニオン)で」

「テイマー契約は魔物としかできないはず――人間に転生したんじゃなかったのか?」

「スキルでね、魔物体にも切り替えられるのよ、便利でしょう?」

「サキュバスなのは相変わらずなんだな」

「バクですーサキュバスじゃなくてバクだから」

「その分類も相変わらずなのか」

 

二人、肩を寄せ合う。

 

「ずっと、待ってたのよ。いつかあなたが迎えに来てくれるって、ずっと思ってた」

「俺も――いや、正直に言っとくべきだろう。このシン日本に来るまでは余り会いたいと思ってはいなかった。あの惨状を、桜に味わせたくなかった」

「……そんなに最近、ひどかったの?」

「……桜、俺と別れてから何年くらいたった?」

「しばらくさまよって、あっさりと死んで転生して……100年くらいしか立ってないけど、そっちの方は違うらしいわね……何があったの?」

「『全能大戦』ってのがあってな……全能持ちが全能を各所に配り歩いた」

「あら酷い」

「俺は、数えきれないほど転生したよ。何度も赤ちゃんに戻って、各地をさまよい、人と会い、一生をすごして、そして、全能持ちに巻き込まれてあっさりと死ぬ。世界も、丸ごとリセットされて、別のものに変えられて……ひどい惨状だった」

「それは……わたしがいなくて、寂しかったでしょう?」

「……そうかもな、と言いたいところだがそうじゃなかったと思うよ。あそこは、誰かと長く一緒にいるという事が出来なかった。精々一つの人生を一緒に戦い抜いても、強すぎる敵がぽっと出で現れ死んで、転生したらまた離れ離れになる」

 

 上を向いて、思い出す。

 いろいろな人と出会った。いろんな人と別れた。

 

「全能だ。全能が全てをひっくり返しては、何もかも無にしていった。かつての盟友が、記憶も、存在も何もかも変えられ今度は不俱戴天の仇になり、一瞬すれ違ってはあっという間に、二度と会えなくなる。勇気ある最高の友人が次には壊れてしまったときは愕然としたね。……桜には、そうなってほしくはなかった」

 

「そ。その全能大戦は、終わったの?」

「終わらせたよ、俺が」

「ならもう、いいじゃない。過去のことなんて」

 

過去を簡単に忘れられる事など出来ない。人は過去の集合体で出来ている。同じ人間でも、別の過去を持てば別の人間になってしまうだろう。

 

「桜だって、俺という過去から抜け出せなかっただろう?」

「今はもう再開したからいいの、過去に囚われてた過去なんて知らないわ、もう」

 

 随分と都合のいい事を……全く。

 

「それで、カオスじみたことは、これからはもう……おこらないのかしら?」

「全能大戦が終わって、すべてが解決した後、強すぎるスキルには大体調整が入り、全能も世界全土に影響を与えられるスキルではなくなった。安心してくれ」

「……でも、スキルの数は変わらないんでしょう? それで、わたしはあなたの人生についていけなくなったことは、寂しく思ってる。 一緒に隣で戦えないじゃない」

「これから一緒に過ごして、スキルの差なんて追いつけばいい。そして、残ったのは……忌まわしき記憶、トラウマだけだ」

 

 俺はもう疲れ切った。しばらく何もせずぼおっとしていたい。永遠に、100年くらい。

 これだけのことが出来ないほどまでにあわただしく、世界は俺の心をむしばんでいった。

 

「その黒幕がな、お前も知ってるだろう、あの、昔……」

「他の女の話はしなくていいわよ」

「ステラちゃんは?」

「例外」

「随分と気に入ってるんだなあステラちゃんのこと」

「親友だもの! それに、あなたも気に入ってるんでしょう? 弟子入りされて、面倒まで見てねえ。かわいいでしょ、あの子。貴方みたい」

 

 小悪魔みたいに、憎たらし気に笑う。

 その笑い方も懐かしく、そして愛おしいものだった。

 

「何回も人生を過ごしといて今更だから、唯一絶対わたしを愛せとは言わないけど。あなたを愛してもいない人なんて、どうでもいいでしょう?」

 

 桜は、俺の髪を手で透く。

 

「このピンク色の髪も、その戦いの中で得たものなの?」

「……ああ。あんまりいい記憶じゃないけどな」

「いいよ、話さなくて。かわいいと思うし。そんなに嫌なら、切って黒く染めちゃえば?」

「……切っても、色を変えてもな、しばらくしたらすぐ戻っちゃうんだぜ」

「なら、何度でも切って、染めればいいじゃない。やるわ、わたしが、毎日」

 

 そういってほほ笑む桜に、俺は目を丸くした。

 そして、ふふっと笑みをこぼす。

 

「笑った?」

「ああ。やっぱり、お前がいてくれて嬉しいよ。まあ気分転換でもしたいときに頼むかもしれんな」

「あら? 華維くんもそんなお洒落な感覚があるの?」

「……いや、止めた方がいいかもしれんな。急に髪を変えたら、俺を俺だと気づいてもらえないかもしれないし。あまりにも変わりすぎたら、戻されてしまうかもしれないし」

「じゃあちょっとずつ、変えていきましょうよ」

 

すると桜は俺の髪を持ち上げ、ポケットに入ったゴムをつかって束ね始める。

そして、髪を後ろでまとめた。

 

「ほら、このくらいならいいでしょう?」

「少し、可愛くなりすぎやしないかね」

「かわいいのも好きよ? 服の方も可愛くしてみる?」

「勘弁してくれ……」

 「絶対似合うわよ」 

 

 苦笑いで手を振る。

 

「かっこいい方がいいかしら? そういう方向に着せ替えてあげることもできるわよ?」

「この髪型で?」

「結構流行ってるのよ、男の人が髪色染めて長くするとかいうのも。どうせ髪を短くできないなら、生かしてみるのがいいわ」

「……そうだな。変えられないものを変えようともがくよりは……それをうまく使い、むしろ一緒に踊るのがいい。「流れ」には、逆らう必要もない」

「「流れ」にのって、操られるって嫌じゃないかしら?」

「何となく気持ち悪い事はあるかもしれんが……」

 

 虚空を見て、俺はぼそりとつぶやく。

 

「秩序も何もない不条理よりかはまだ幾分かマシだよ」

「……そ。あなたと再会できたのも、その流れの一部かもしれないかもね……少しずつでいいから、わたしに話してくれてもいいんだからね」

「語る時は、時期に来るさ。じきにな……」

「そう。じゃあ話してくれるまで、もう、これからは――一緒よ」

「……ああ」

 

 目を、見つめ合う。

 

「……本当に、会えてよかったわ。どうして、シン日本に来たの?」

「全能大戦が終わって、やる事も無いから人助けしたり暴れたりしたんだが……異世界からも追い出されてな」

「いつもの事じゃない?」

「複数国連合で出て行けって署名されたもんだから驚いたよ」

「あら酷い」

「こーんな、太い束をみせられてな……あはは」

 

 その俺の笑い声は、乾いていた。

 

「ショックだったんじゃないの?」

「ショックだったさ。俺なりにそれなりに人を助けた自負と、歴史と、愛着のようなものがあったんだけど、いざああやって見せられるとな」

「それで追い出されて、こっちに来たと。まあでも、シン日本に来て良かったじゃない。いい所よ、ここは。便利で。清潔で。治安も良くて」

「ああ、それは本当にな。まるで――俺が異世界に来る前の世界みたいだ」

「そう、これがあなたの生まれた、地なのね」

「ダンジョンはあるけどな」

 

 クスリ、と互いに笑い合う。

 

 桜が、俺の目を見つめる。

 

「ところでねえあなた、最近眠れてないんじゃない? 目にクマがあるわよ」

「これでも、シン日本に来てからは30分は眠れてるんだけどな……異世界では、全然だったから、マシさ」

「そ。じゃ、眠らせてあげるわよ。ずっと、望むなら永遠に」

「永遠はやだな」

「じゃあ100年くらい」

「……まだ、明日やる事はあるからな。朝になったら起こしてくれよ」

「ステりゅんの面倒、見なきゃだもんね」

 

 すこし、横になる。

 

「……ちょっと、疲れたよ」

「あとで布団は敷いてあげるから。今は……すこし、眠りなさい」

 

桜の手が、俺のおでこを覆う。

 

――桜の、永い眠りへの誘い

 

あっという間に、意識を失う。安らかな、眠りだった。

 

その日は久しぶりに、朝までぐっすりと眠れた。

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