異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理   作:秋津 幻

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第15話 修羅場

 朝早くの事だった。

 

 「紗城さん、ご飯を作りに来たのですがいかがでしょうかー! ……あら?」

 

 小鳥遊さんがうちにやってきた。肩に保冷バックを掛けており、料理のやる気が満々だ。

 かと思うと、布団の隣で俺を起こしている桜ちゃんの方を訝しんだ目で見た。

 

「誰この女」

「誰ですのこの人」

 

 互いに指をさしあって、牽制を始めた。

 

 「喧嘩は止めなさい」

 

 ***

 

 俺を恩人と慕って異世界まで追いかけて来た小鳥遊さんと、かつて長い間旅をしたのち別れシン日本に転生して待ち続けた桜。

 その二人が遭遇した結果――

 

「なるほど……自称昔の女なんですか」

「そっちは昔の女ぶってるただの他人って事かしら?」

「は?」

 

 キレた。

 

「でも華維くん覚えてないんでしょ? じゃあ他人じゃないの?」

「そっちこそ自称前世で一緒に居たってだけではなくって? 本当かどうか疑わしいわね、他人じゃないのかしら???」

「でもわたしの方は華維くんが認めてるんだけど???」

 

 仁王立ちで二人向き合い、じっと互いを見つめ合っている。

 

「何で二人とも突然家に来て遭遇したかと思うと煽りあうの???」

 

 俺の言葉を意に介さず二人は争いある。

 

「そんなに、紗城さんを取られることが不満なので?」

「別に、わたしはハーレム許容派だから、何人に愛されて愛そうが別にいいけれども、問題はあなたが本当に愛しているのかって所なんだけど?」

「あ、愛……! いえ、まだそういう関係ではなくってですね」

「大体何しに来たのよ、ギルドの冒険者ならダンジョンに潜ったら? でも、そのステータスじゃケイくんの役には立たないかもね」

「わたくしはギルドからシン日本での面倒と監視を行う言われておりますから」

「監視? 穏やかじゃないわね。だとしたらじゃあ、今日何しに来たの? 日常生活にまで介入するつもり?」

「食生活の方がよろしく内容でしたので、今日は料理を作って持って来たんですの」

「ギルドの業務と関係ないじゃない。料理? 料理なら私でも出来るけど?」

「ふふっ……あたしは料理配信者やるくらいのプロの料理人ですので……」

「へぇ……?」 

 

 こういう話だとめんどくさそうというか、互いに譲らなそうな気配を感じて止めようとする。

 ――だが、もう遅かった。

 

「配信してるからって上手いとは限らないじゃない? こっちの方が華維君に会った料理を作れるわ」

「それじゃあ勝負しませんか? どっちの料理が上手いか、紗城さんを満足させられるか……!」

「受けて立つわ……!」

 

 ……。

 料理バトル、勃発。

 

 ***

 

 「サクちゃんと、華維さんどういう関係なんだろ……」

 

 昨日は、二人の間には入れなくてあまり詳しく聞けませんでしたけど、何とかして聞き出さなければなりません。

 仲間外れにされるのは、いやだったし、なんだか、このままだと二人が私の元からいなくなってしまいそうな――

 

 少し緊張しながら、でも邪魔者扱いされないか不安に思いながら。

 

「よし!」

 

 でも、意を決してピンポンと、ブザーを鳴らしました。

 

「あの……すいません、サクちゃんの話なんですが……」

「おっといい所に」

「ステりゅん! 来てくれたのね!」

「ステラさん、いい所に!」

「え? なんですかこれ? なんで華維さんの家にお二方がいらっしゃって……」

 

 ナシさんとサクちゃんが、バチバチとやる気満々の顔で言います。

 

「「わた(く)し達の料理の審査員をやって頂戴!!!」」

 

 

「は?」

 

 私は話について行けませんでした。

 

 ***

 

 

「関係ないじゃないですか私……」

「巻き込んだ。一人で争いに巻き込まれるの辛いし手伝え」

 

 キッチンを前に、二人の女がバチバチと火花を散らしている。

 

「お題はどうなさいますか?」

「朝ごはんにふさわしい、一番自信のある料理を叩きつける、それでいいじゃない?」

「いいと思いますわ、これでもわたくし一介の料理配信者……その実力、とくとご賞味いただきませ!」

「一緒に旅した経験はこっちの方が長いのよ……! 華維くんの好みは一番知ってるわ!」

 

「はーいよーいスタート」

 

「ふふふ……圧倒的な差をみせてあげるわ!」

「負けてたまるものか……!」

 

 人のキッチンで、二人が意気揚々と料理を作り始める。

 ……二人が同時に作れる場所があるなんてこの家も広いなあ。

 

「実際どうなんですか? 普通に考えたら小鳥遊さんの勝ちですが」

「一応、昔旅してた時野宿の時の炊事班は桜ちゃんだったし、基本的な腕はあるが……そっからの上乗せがあるかどうかって感じで。実際どう?」

「子供のころから料理は上手い方でしたよ、自分でお弁当作ったりとかしてましたし。ただ……料理のプロに勝てるかって言うと……」

「まあ、どっちにせえ美味いもんがくえりゃこっちのもんだ。こういうのも……たまにはいいだろ」

「まあそうですが……その後が大変そうな……」

 

 ***

 

「出来ましたわ!」

 

 先に料理を出したのは、小鳥遊さんだった。

 

「これは……お吸い物か?」

「中に入っているのは……カニみたいですね」

 

 正確には、カニの身をすりつぶして練り上げたものを、薄いカニの身で巻いているものだ。

 

「懐石料理にしてみましたの。蟹真丈のお吸い物ですわ。正しく言うと、ダンジョンで取れる天然のグレートガニを調理したものですわ。先ずは食べてくださいまし」

 

 一口、カニを口に入れる。

 ……これは。

 

「何だこれは……! おお、おお、 すごい……おいしい!」

「とってもおいしい……、すこし食べただけなのに蟹に出汁がしみ込んでいて……」

「繊細な味なのに、味が濃い……これは……今までの人生で一番美味いカニかもしれねえ……」

「華維さんの人生の中でもそこまでですか……」

 

 二人の姿を見て、満足する小鳥遊さん。

 

「うふふ……料理とは日進月歩なもの。シン日本には長い歴史と異世界や旧世界から流れ込んできた料理技術が集まっております。それを利用した料理は、華維さんがどれだけ長い過去の人生を送っていたとしても、より良い料理を出せる自信がありますわ。最新のものが一番、というわけですわね」

 

「あら、本当にそうかしら?」

「なにっ」

 

 桜が、にやにやと笑っている。

 

「確かにあなたは、最高の料理を出したかもしれない。ですがそれは……今この瞬間、朝ごはんで出すモノなのでしょうか?」

「うっ……」

 

 痛いところを突かれる小鳥遊さん。

 そうだ、このカニ料理はあまりにもハイクオリティ過ぎる。

 少し、朝ごはんとして重すぎるものを出した自覚はあるようだ。

  

「そもそも、料理バトルとは後に出した方が勝つものよ。この時点で、すでに勝敗は決まっているのではなくって?」

 

 そういって、桜が出したのは、みそ汁に、ごはんに、漬物。それだけの、シンプルな朝ごはんだった。

 

「なるほど、奇策で攻めず直球で行くというわけか」

「ええ。大事なのは、おいしさよりもあたたかみ。あなたのために作ったの。食べてくれる?」

 

 俺は、みそ汁を少し、飲む。

 

「――」

 

 涙が、流れて来た。

 

「あの時の、故郷の、母親の―ー料理の、味。そして、桜の作ったみそ汁の味だ――」

「ええ。前に一緒に冒険した時、貴方のおふくろの味を再現しようとした、その時の味よ」

 

「ああ、本当に桜なんだな」

「ええ。そうよ。おかえりなさい、ケイくん」

「桜……」

 

 優しく、ほほ笑む桜。

 

 そして、勝ち誇った顔で小鳥遊さんとステラちゃんを見る。

 

「それではどっちの料理が上か、教えてくれる? 二人とも」

 

「小鳥遊さん」

「ナシさん」

 

 即答だった。

 

「はぁ!!!??!?!?!?」

「――え?」

「はぁあああああああ!!!?!?!??!!?? ちょっと、ちょっと!?!?」

 

 桜が驚いているのは勿論、小鳥遊さんも驚いている。

 

「いやまあ、料理だとねえ……」

「その、私はそのなつかしさとか、あたたかみとか知らないですし」

「いやステりゅんは分かるけど、ケイくん!??!?!?」

「いや、桜の料理もおいしいよ。すごい懐かしいし。でも……それを加味してもシンプルにうまい料理の方がいいというか、色んな事情を凌駕するおいしさっていうか、シチュエーションの良さで泣いたし加点したけどそれでも料理としては……いや美味しいんだけど最高峰の料理にはかなわないって言うか……」

 

 桜が相当にショックを受けている。

 いろいろ言うのは忍びないが……いやでも、ここで小鳥遊さんの料理に負けを付けさせるわけにはいかない。

 

「あとまあ、なんというか……当然のことだけど、小鳥遊さんの料理にもあたたかみはある訳で……」

「わたしには100年分のあたたかみが……」

「わたくしにも、20年分のあたたかみはありますわよ?」

「……」

「あとさあ、シンプルに料理スキル持ってない桜が料理LV3に勝てるわけないって言うか……」

「え? そんなにあるの?」

「ええ♡」

「……」

 

 がくり、とひざをつく。

 料理スキルがなくとも料理は出来るが、LV1で店が出せるレベル、LV2で料理の先生をやれるレベルと思っていい。

 

 LV3となれば……料理を食べた結果、大幅なステータスアップが出来たり余りの美味しさにビームを吐いたりできるレベルだ。かつて料理だけで人を操り国を一つ乗っ取った奴がいたとか。小鳥遊さんはそこまではやってないだろうが……

 

「認めない、認めないわ……!」

「まあ、桜さんも食べてみませんか、わたくしのお吸い物」

「くっ……うっわ匂いだけでもおいしそう……」

 

 一口、ぱくりと食べる。

 

「……えっちょっとなにこれうっま……」

「そうでしょう? おいしいと思っていただけて、良かったです」

「高級料亭とかで出てくる奴じゃん……」

「ええ。そのくらいの実力はありますわよ」

「……」

 

 桜は、頭を下げた。

 

「負けました……」

 

 勝者、小鳥遊さん。

 勝因。シンプルなおいしさの暴力。

 この世界では、スキルの差では基本的に勝てない。

 

「勝ちましたわー!」

「ちくしょおおおおおおお!! ケイくんの愛の重さでは負けた訳じゃないんだからねー!!!!」

 

 そういって駆けだして、扉から出ていこうとした。

 

「いや逃げなくてもいいんだけど!? ストップ! ストップ!」

 

 桜の服の裾を掴んで止める。

 

「こんな屈辱な場面でいつまでもいられないわよ!」

「桜の料理もすごい嬉しかったぞ! 本当に!」

「知ってるわ、知ってるわよ……! あんだけ泣いてくれたのに……」

「料理の美味しさなら、これから技術を上げて挽回すればいいじゃないか!」

「そんなこと言っても、挽回ってどうやって……」

 

 小鳥遊さんが、二人の前に立つ。

 

「桜さん、料理とは一日にしてなるものではありませんわ」

「……何、負けたわたしに何が言いたいの?」

「桜さんの料理、家庭的で美味しかったですわ。さぞかし、紗城さんと一緒に再現するための努力を重ねた事でしょう」

「ええ、頑張ったわよ、また食べてくれた時に美味しいって言ってくれるように努力したわよ、でも……!」

「皆を満足させる料理と、誰かの心を動かす料理は、違っているものです。……でも、両立できる」

 

 小鳥遊さんは、桜に手を伸ばす。

 

「だから、一緒に、つくりませんか、料理を。わたくしにも、その華維さんの思い出の味を、教えていただけませんか?」

「……うう」

 

 その手を、桜は握る。

 

「……小鳥遊さん。わたしに料理を教えてください。わたしも……もっとうまくなりたい」

「ええ、一緒に作りましょう?」

  

 二人が健闘をたたえ合い、抱きあう。

 

「イイハナシダナー」

「うまくまとまって良かったですけど……なんだったんですこの企画?」

「まあ決別しなくて良かったという事で……それよりこのカニ美味しいな、もっとありません?」

「ええ、まだまだありますわよ! ステラさんの分も、紗城さんのも、桜さんの分も!」

「いただきましょう、わたしの、今後の勉強のためにも」

「それと、ここにカニ丸々一匹が4人分……」

「それは流石に朝食べるものではない」

「……今日学校あるんですけど」

「あ」

 

 何で平日の朝からこんな事してんだよ。

 幸いにも朝早く起きたおかげで、まだ登校時間には余裕があった。

 

 

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