異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理 作:秋津 幻
朝色々あったが、学校には何事もなく登校することが出来た。
窓際の一番後ろ。それが俺の席だ。
目の前には背の高い兎の耳の生えた少女が座っている。こういう人間という種族と共に暮らしながら微妙に違う特徴を持った、いわゆる亜人という種族はシン日本ではたまに見かける。表立った差別のようなものは物は一見、見受けられない。
ギルドの偉い人も、エルフだったりするしな。
ピンク髪でもとやかく言われないのはそのせいであろうか。
異世界では差別みたいなことはまあ……半々だったとでも言おうか。ないとは言わない。だが、何の違和感もなく共に人間と亜人と魔物が共存世界も、確かに存在していたという事だ。
話は逸れた。
学生生活は、何事もなく回っていく。
配信も、ユニークも、転生者も、シン日本の事情も一切無視して。
授業を聞き流しているときだけは、平穏が回っていく。
ここは教師からみても目立ちにくく、居眠りをしたりするにはうってつけの席だった。
***
休み時間、近くの椅子にステラちゃんが来た。
「……それで、サクちゃんとどんな関係なんですか?」
「昔の知り合い」
「昔って……サクちゃん今高校生なんですけど……」
「昔は昔だ。そうだな、分かりやすく言うと……桜が転生する前、前世の話だ」
「前世……いやまあ転生者がいるんだからそういう事もあるでしょうけど……」
「何百年も前、全能大戦に巻き込まれるもっともっと前、世界がもっともっと平和だったころの話だ。……ひょんなことから出会って、ちょっと助けてあげて、長い長い旅をして、世界を回って、世界をすくって それでそれで……」
「それ、長くなる奴かしら? ケイくん?」
「せっかくの思い出話なんだ、長々とさせてくれ……桜?」
「へえ、今ケイくんの名前ってこういう漢字書くのね……」
そこには、うちの学校の制服を着た桜が座っていた。
教科書の裏に書いてあった俺の名前を見て、何やらご満悦のよう。
「ええ、そうよ永遠にあなたの隣にいるはずだった、あなたの桜よ」
「さ、サクちゃん!?何でここに!?」
「本来、華維くんの隣にはいつもわたしがいるはずよ。其れじゃ駄目かしら?」
「いや駄目だが」
「ダメかー」
よく朝のあの流れから学校にも押しかけてこられたな……
「ちょっとちょっと! サクちゃん別の学校でしょ!?」
「何言ってるの? 初めからワタシとステりゅんは同じ学校だったでしょう?」
「は!?」
その時、通りすがりのクラスメイトが声をかけてくる。
「桜ちゃんおはようー」
「桜ちゃん後で宿題見せて―」
「自分でやりなさい」
「えー」
そんな軽口をたたいたあと、自分の席に戻っていく。
会話を終えたあと、にやりと笑ってステラちゃんの方を見た。
「どう?」
「どうってお前……自分のスキル使っただけだろ、精神操作」
「……精神操作? サクちゃんが持ってるのは精神誘導じゃ……」
「ちょっと、ね」
桜が、ステータスを出す。
名前:サキュバクラ
種族:バク
LV:7
体力 260
攻撃 188
防御 347
魔力 614
スキル
【☆永い眠りへの誘い】【
【魔法 LV2】【マジックミサイル】【夢食い】【テレパシー】
【言いくるめ】【トランキリティ】【天才】
【ひらめき】【あまいかおり】【愛の絆】
「なんか、ステータスの数字とかスキルとか全然変わってませんか……バクって……」
「わたしはね、人の夢を覗いたり……夢を見させることが出来る。そういう魔物よ。前世では、そうだった」
「サキュバスともいう」
「断じてバクですーサキュバスじゃないですー」
「でもお前の昔の名前「サキュバクラ」って……」
「桜ですーサキュバス関係ないですー。この姿見て、どう思う?」
ぽん、と桜が魔物体の姿に変わる。
バクというか……ピンク色の小さな象のような姿。
どちらかというとバクと主張しているのはこれが原因だ。
「わっ……サクちゃんかわいいー。よーしよしよし」
「きゅおーん(鳴き声)」
鼻でステラちゃんをぺちぺち叩き不平不満を主張する。
「ペット扱いに異議を唱えてるぞ」
「うーんまさかサクちゃんがこんな姿を……いてっ」
桜ちゃんが魔物体の鼻でおでこに一撃をくらわす。
「魔物体になったからな、基礎ステやスキルも変わったんだろう」
「きゅおーん(多分、華維くんと会って昔のスキルが今に反映されたのもあると思うわ)」
「それどうやってしゃべってるんです?」
「きゅおん(テレパシーのスキルのお陰ね)」
「だが、まだまだ戻ってないスキルもあるな。後で鍛えてやろう」
「はいはいっと」
桜が人間体に戻り、俺のおでこにデコピンをくらわす。
「いって」
「ステータス差あるし効かないでしょ?」
「そう言う問題じゃねえって」
「んで桜、このスキルで学校だけでなく関係者全員の記憶をいじって初めから自分がこの学園にいたという事実にすり替えたな?」
「ええ、そうよ」
「は?」
あっさりと言ってのける。桜は全く、こういう事をためらいなくやるんだから……
「えっと……えっと!? ちょっと待ってくださいそれって何人の記憶をいじったんですか!? そんな事可能なんですか!?」
と驚くステラちゃん。
「先日、人払いした時も同じことしたでしょう? 華維くんのためならそのくらい出来るわよ?」
「そんなあっさりと……」
「実際やったじゃん」
「それ言われたら何も言えないんですが……はあ、まさかサクちゃんがそんなことを……するか」
なぜか、納得するステラちゃん。
「……まあ積もる話はあるんだが、桜」
「あら、何かしら」
「元の学校に帰れ」
「えー」
ほほを膨らませ、拗ねた様子を見せる。
「お前にゃ元の学校に友達も、そっちに通ってると思ってる家族もいるんだろ?」
「そんなのどうでもいいじゃない。華維君に比べたら」
「そう言うのは止めろ、自分の生活を大事にしろ」
呆れたことを言い始めた。
「華維くんは、わたしと学園生活送りたくないの?」
「いないならいないなりの青春があるだろう。桜は別の学校で今しかできない青春を楽しめ」
「……ふーん」
桜は立ち上がる。
「まあ、遠距離恋愛もいいでしょう。華維くんも歓迎してないみたいだし……まあでも、何かあったら来るわよ、それじゃあね」
ぱちんと指を鳴らすと、一瞬にして消えてしまった。
「いなくなったか……」
近くにいた生徒が何か気づいたのか、「今、三人で話してなかった?」と聞く。
ステラちゃんは、ため息をついて「何でもないよ」という。
生徒は訝しがりながらも、納得してどこかに行ってしまった。
「ったくあいつはなあ……ちょっとテンション上がりすぎだろ」
「あれは見たことある……いじめっ子や偉そうな先生を懲らしめようとするときに出てくる手段を選ばない良くない時のサクちゃんだ……」
「やる気満々で頭脳がぶん回って周囲の事を省みず手段を選ばず好き放題する時の桜だな……」
「なのに根本的な所でずれてる奴……サクちゃん頭いいんですけどああいう所ありますよね……」
「まあなんというか」
「本当に申し訳ないんですけど」
「「許してあげてください……」」
二人の思いがシンクロした瞬間であった。
***
「うーん喜んでくれると思ったのに嫌われちゃったかな……でも華維くんもステりゅんも危なっかしいからわたしが面倒見てあげないと」
校門の柱の上に立ち、辺りを見回している。
「ああいう悪い虫もついてる訳だし……ね」
木の陰に人の姿があるのを見た。
「へへへ……何か知らねえが全然ネットでステラのアンチ活動できねえから学校に侵入して写真をばらまいてやるぜ!!!」
「はいはいそういうのは止めようね」
「!? いつの間に!? ぐはっ!」
桜が頭に指を突き刺すと、男はばたりと倒れる。
「それじゃあステりゅんの事も、私の事も、この学校の事も……全部忘れちゃおうね、永遠に悪さできないようにしてあげる……じゃあね」
「うーんあれ……ここはどこ? なんでこんなとこに? お家帰らなくちゃ……」
男を見もせずに、その場から離れる。
「フフフ……華維くん、今度こそは二度と離さないんだから……」
そう、病んだような目つきで笑った後、どこかに去っていった。