異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理 作:秋津 幻
「映画面白かったねー」
私、ステラは、桜ちゃんと一緒に映画を見に来ていました。
先日、一緒に遊ぶって言ったのに結局ダンジョン潜りをしてオフに出来なかったので、ちゃんとオフを取り直したという訳です。
あと先日学校押しかけ事件もあった事ですし、なんとかちょっと真意を聞いたり落ち着かせたりできないかと。
なのですが……
「ひぐっひぐっ、ワンちゃんが……ワンちゃんと再会できて良かったねえ……」
泣いてる。
めっちゃ泣いてる。
桜ちゃんは映画を見てめっちゃ泣いてました。
まあなんというかよくある感じの犬と別れて大人になって再開した系の奴なんですが……まあ普通に面白かったです。
「……そんなに面白かった? ハンカチ貸そっか?」
「……うん」
ハンカチで止まらない涙を拭き続けます。……そんなに?
「ひっひぐっ……ふう、落ち着いた。まあ……でもありきたりの話だったわね」
「あんなに泣いてたのにその反応ですか???」
「……よくある話なのと感動するのは別の話なのよ……それに最近ちょっと涙もろくて」
「高校生だよね?」
「転生とかトータルで考えたらもっと行くかな……」
「おばさん……!」
「ちょっとやめてって、高校生でいいから、はいはい泣いちゃっただけですー」
ぷいっとすねて他所を向く。
「んで、何が良かったの?」
「ちゃんとワンちゃんが一人寂しく待ってるところでさあ、辛いのに表情変えずにいつか会えると信じて待ってるところがさあ……」
「あっ犬側なんだ……」
華維さんがテイマーだったって言うから自然とそういう考えになっちゃうんだろうか。
「え? 人間側のほうは……本当によくある奴じゃない。本当に気になってるなら無理してでも一度くらい様子見に来なさいよって」
「いや病気やら仕事やら金やらの話で帰りたくても帰れないって話を散々やってたでしょ……?」
「あそこ削って犬側に視線欲しかったわよねー。金が何よ仕事が何よって話よ。歩いてでも会いに来なさいな。本当に愛しているのなら」
「愛に求めるのがそれってちょっと厳しくない?」
「でも、わたしはあの人にそうして欲しかったもの」
「……」
サクちゃんは、手を後ろで組んで、空を見た。
***
感想会が長くなりそうだったので、カフェに場を移して話を聞く。
途中から、映画の話から別の事、サクちゃんの話に代わってしまっていた。
「きっと、華維くんだったらすぐにわたしの手掛かりを見つけて会いに来てくれるものだと思ってた」
なにかを思い出したかのように、窓の外を、空の上を見ている。
「でもそんなことはなかった」
そういって、ため息をついた。
「手がかりすらなかったから会いに来れなかったって気づいたのは5歳になってからよ。そこから、気づいてもらえるように、天に、世界に、皆わたしを刻みつけようって頑張ることにしたの」
それは、少しわかる気がした。
両親を探すために、配信者をしている私のようで。
「そんなに、華維さんのこと好き?」
「好きよ。わたしの人生の全てだった。弱かったわたしを、高いところまで導いてくれた。他にも仲間がいて、一緒に旅をして……永遠に、別れないはずだった。でも、ある日突然、二人は引き裂かれた」
「何があったの?」
「分からない、分からないわ。黒い影が突然現れて、皆、バラバラになってしまったの。そんな風に、訳も分からず別れたから。まだ、お別れも言えてなかったから……だから、再会できて、本当に良かった」
私の、知らない過去。知らないサクちゃんだけの物語。
華維さんのにも、小鳥遊さんにも、そういう断片だけで語られる、壮大で、知らない物語を抱えています。
私にはまだ、何もありません。
私は、皆みたいになれるでしょうか。
「でもね、だからって学校にまで押し掛けるのはダメ!」
「いいじゃない、ずっと離れてたんだから今くらい一緒に居ても」
「だからって皆の記憶をいじるのはないでしょう……」
「いいじゃない他人の事なんて。わたしと、華維くん以外どうでもいいわ」
「ダメ!」
「……華維君からも同じこと言われたわね。全く、皆いい子ちゃんなんだから」
「人として、当然の事でしょう? 他人をないがしろにするのはダメ! サクちゃんは、一人で生きてる訳じゃないんだから」
そう、としょげてしまう。……少し、言い過ぎたかな?
「……わたしの人生は、わたしがこれまでやってきた全ては、あの人に会うための物だったわ。そのために、あなたと仲良くしたって言ったら怒る?」
「え?」
予想外の一言が出て、私は固まった。
「あなたならきっと、世界の中で光り輝くような星になれるって思ったの。そういうスター性みたいなのをあなたは持っていたから。あなたについて行ったら、いろんな人に出会って……そのうち、華維くんに再会できるって、そう思ってたの」
「……不確定要素が多すぎない?」
「でも、何の手掛かりもなくやみくもに探すよりはいいじゃない? わたしは、あなたを利用したの」
「そうだったの?」
「まあ勿論……実際に話してみたらとっても気が合う子だったっていうのもあるけど」
桜ちゃんは満面の笑みで笑う。
それは、幼馴染の頃からずっと見ていた、私の好きな笑い方だった。
「なんで私だったの?」
「ステりゅんが、
「その……スター性とか言う物の根拠は?」
「見れば分かるでしょう?」
「なんとなくって事?」
「うーん近いような遠いような……まあ長年の経験から、そういう【主人公】的なオーラというか、スキルを持つ人って言うのはなんとなくこう……そういうのがあるのよ」
「何となくって言った!」
「あら本当だ」
くすくす、と二人で笑い合う。
「じゃあなんか別に予言とか未来が見えるとか根拠めいたものとかある訳でもなく……ただ、私が将来すごくなりそうだから、一緒に居てくれたって事?」
「そうかもしれないわね」
「じゃあつまり……サクちゃんは、私の才能を一番に見抜いてくれた人って事?」
なんか、虚を突かれたように驚いていた。
「そうなるの?」
「そうだよ、きっと!」
それから、ふふっと、にっこり笑った。
「……やっぱり、ステりゅんはいい子ね。それでいて、人を引き付ける魅力があるわ」
「私を褒めるのはいいけど、サクちゃんは私の事どう思ってるの?」
「最高の親友よ」
「私も、そう思ってるよ」
「そう、ありがとう」
互いに、納得して、お礼を言い合った。
「ねえ、私のどんなところが好き?」
「目立ちたがり屋で、人懐っこくて、人助けが好きで。……まるで、あの人みたいだった」
「華維さんと私が似てるって事?」
「どうかしらねえ、私の知ってる華維くんは、貴方みたいに善性の塊みたいな人ではなかったし……」
「へーそうなの? 全然想像できない……あんなに、優しい人なのに」
「やはり違うわよ。あの人はあの人。あなたはあなたよ」
首をくいっとかしげて、私に聞く。
「あなたは、わたしのどんなところが好き?」
「笑顔が可愛くって、時折手段を選ばない危うさがあって、それで一直線な所!」
「ふふっ、何それ、褒めてるの?」
「褒めてるよ。やっぱり、やりたい事はちゃんとやらないと。その勇気をくれたのは、サクちゃんだから」
「そうだったの?」
「そうなんだよ」
私の配信を馬鹿にしてきた子を懲らしめた時も。校則を変えるって言って人を集めて悪だくみをしたときも。サクちゃんは、いつも一直線だった。
「でもね、わたしのその性格だって、あの人に当てられたようなものよ。知ってる? あの人昔はもっと手段を選ばず無茶苦茶やってたのよ?」
「手段を選ばない……なんか、ちょっと分かるような気がするけど、あのスキルで手段を選ばなかったらとんでもない事にならない?」
「あの人は、一人の女の子と世界なら、女の子を救って、世界が滅びかけた後どうにかして両方救う人よ。そのためなら、なんだってやる。神だって、全能だって、倒して見せる」
「……そのために、あんだけのスキルを手に入れて強くなったのかな」
ステータス画面の、大量のスキルを思い出す。
一つスキルを手に入れるだけでも大変なのに、数えきれないほどのスキルを手に入れた華維さんは、どれだけの物語を辿ってきたのか。
「さあね。でも今はどうでもいいじゃない。あの人がいて、貴方もいる。好きよ、二人とも」
「小鳥遊さんは?」
「料理教えてくれる人」
「どうなの、それ」
「良い人よね。でも、まだ出会ったばかりだから分からない。それを知るために、人は一緒に歩くのよ。私と、華維くんみたいに。あなたと私みたいに」
「これからもずっと一緒に居てくれるって事?」
「出来る限り、ね」
だけどサクちゃんは、どこか影があるというか、何か後ろめたさを感じた。
「んで、何が言いたいのさ。なんか申し訳なさそうにして」
「……華維君に会うために利用したみたいになって、ごめんなさい」
「……なんかそれ私に謝るポイントが一切思い浮かばないんだけど……だって、私が将来すごくなる確証もなく、それが紗城さんに会える確証もなく、ただ運を天にまかせて、その賭けに勝ったって事でしょ? それは運がよかったーで済ませていいじゃない」
「そう見えるかしら……でも、わたしには確証があったから。あなたと仲良くなればいつか、華維くんに会えるっていう」
「なんというかそれは愛の信仰って感じじゃない? 不確かなものを信じて、いつか会えるって信じて。んで会えたんだからいいじゃない?」
「そうかしら。愛、良いわね」
「それに、それとこれと、私とサクちゃんが親友って言うのは変わらないんだから!」
「……ありがとう。あなたの友達で、本当に良かった」
「お礼を言われることもないよ」
「でもね、わたしは」
サクちゃんは、私の手を掴む。
「ちょっとだけ、引け目を感じてたから。利用したなんて、酷い事だったから。あなたにはいつか、伝えておかなきゃいけないことだったの」
「そうなんだ?」
「そうなのよ」
最後まで、話はよく分からなかったけど。
それでサクちゃんが満足したのなら、それで良い気がした。
「じゃ、サクちゃんが引け目を感じてるなら、私から一つ、頼みごとをしてもいい? それで、貸し借りなしって事で」
「なに、頼みって、そのくらい、聞いてあげるわ。だって……親友だものね」
「そう……じゃあ、私の配信に出てくれない?」
そう言って私は、手を伸ばした。
「一緒に、中学生みたいに、あの日みたいに、一緒に輝こうよ!」
「……えー、えー……配信かーちょっと、その……やだなって」
嫌そうな顔をしていた。
「断られた!」