異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理 作:秋津 幻
「サクちゃん……一緒に配信しない?」
「嫌」
後日。ステラちゃんと桜が押し合いの問答をしていた。
「そんな! 中学生の事は一緒に配信してたじゃん歌ってくれたじゃん踊ってくれたじゃん!」
「あれは……その、華維くんが配信とかちらっと見て気づいてくれたらいいなーって言うアレであってその、あんまり本気で配信で天下を狙うつもりはないって言うか……」
見かねて俺が少し口を出す。
「桜、俺と四六時中一緒に居たいんじゃなかったのか?」
「一緒に居るのはいいけど、やっぱり普通の一般市民は急に有名人になれって言われても困るのよ!」
そりゃそうだ。
「ちょっと冒険で私の後ろでサポートしてくれればいいから!」
「昔の子供の遊びなら今知らず、今の大人気配信者のステりゅんと一緒に居て下手に有名になるのはちょっと……」
「アンチは私のスキルで弾けるから大丈夫だって!」
「いい意味でも、わたしなんかが出てきたら瞬く間に大人気になるでしょ? それで普段街歩くだけできゃーきゃー言われて平穏が無くなるって言うのはねえ……」
「大人気になる前提、自惚れが過ぎる……!」
「ステりゅんは自分の影響をもっと鑑みた方がいいわよ?」
人はだれしもステラちゃんみたいに配信で大人気なんて夢を見ている訳ではない。
男の子がだれしも野球選手を目指すわけではないように、女の子は誰でもアイドルになりたいわけではないように。
人がだれしも、ヒーローになりたいわけではないように。
普通の道を、普通に歩くことを望んでいる人間だっているのだ。
何事もなく、物語に巻き込まれず、一生を過ごし死ねるなら、それでいい。それはそれで、幸せな人生だ。
「お願い、ね! 幼馴染でしょ! 親友でしょ!」
「うーんそれを言われると……」
サクちゃんの拒否感をロジックで誤魔化せなくなり、勢いでごり押そうとするステラちゃん。
そんな、ステラちゃんのからの「頼み」を、桜は。
「でもヤダー! やっぱり恥ずかしいよ! わたしをカメラの向こう側から皆が見てるなんて!」
「えー」
「えーじゃない」
普通に断っていた。
俺はあそこまで頼まれたら断れないだろうが、桜はそういう訳ではないのだ。俺と一緒に居るからって俺と一緒の性質を持っているわけではない。
そんな風にごねる桜の姿は、何度も転生したとは思えない年相応の真っ当な少女に見える。
「じゃあ、折衷案だ。配信には出るけど、目立たない形というのは」
「え? あー華維くんみたいに鎧を着てとか……そんな装備あった?」
「魔物体で画面に出れば?」
「……あー」
「じゃあ、OKってことですね!」
ステラちゃんが目を輝かせている。
「もう……ステりゅんにこんな顔されちゃ、断れないじゃない」
「いいじゃん、たまには」
「でもさー……」
***
「はい、という訳で今回は、新しい仲間が来てくれました!」
「……きゅおーん」
魔物体の桜が、配信に映っている。
小さなバクの姿で、少し恥ずかしそうに座っている。
>きゃーかわいい!
>小さい、象?
>マスコットキャラが出来た!
視聴者からは評判はよろしいようだ。
「……きゅおんっ」
配信画面でちやほやされて少し気分が良くなったよう。ちょろい。
「わーかわいいですわよねー」
小鳥遊さんが桜を撫でる。相当に機嫌が良いのか、反発することはなかった。
>名前は?
「サキュバクラ」
「きゅおん(いい名前よね)」
>サキュバス?
「夢魔だって本人は言ってた」
「きゅおーん(ぶち〇すぞ)」
>あっはい
>なんか俺も夢魔な気がしてきた
桜が配信画面の向こうをじっと見つめる。多分今スキル使ったな……
サキュバスなのかバクなのか。その両方なのか。それは誰も知らない。
むしろサキュバス形態がいわゆる人間体なのでは……
「きゅおん(変なこと考えなさんな)」
「ぐおっ」
桜が鼻で叩いて来た。
>嫌われてるんじゃないですかw
>それで、この子何処から来たんです?
「俺のテイマーとしての手持ちだよ。【ミニオン】っていう奴だ」
この世界でのテイマーが飼う魔物の事を、【ミニオン】といい、テイマーは一般的にミニオンテイマーとも言われる。
テイマーはその力で魔物たちを戦ったり、テイマー同士で戦ったりするのだが……
>Kさんテイマースキル持ってたんですか!
>へーKさんそんな事も出来たんですね!
>流行ですよね、ミニオン飼うの
>ステラちゃんはミニオン飼わないの?
「テイマースキル持ってないですし……あんまり動物飼ったことないですしねー」
このシン日本ではあまり有名ではないというか、冒険者が持つスキルというよりは、ペットとそれを飼う人間という扱いのようだ。
「テイマーを舐めてるみたいだがな……かなり、強いスキルなんだぞ? 本来、過酷な地で人間と魔物が共生し、ともに戦うためのスキルだ。ミニオンはテイマーから指示をバフを受けることで強化される」
「きゅおん(すごいでしょ)」
「へーどんなことが出来るんです?」
――Kは、サキュバクラに「攻撃」を指令した!
――サキュバクラの攻撃が特大アップした!
「こういうバフがかけられる」
「おお、結構上昇量おおいですね……テイマーだけが使えるスキルなんですか?」
「戦闘中1回だけ、だけどな。上昇量も多いし結構使える」
「それでは、私たちがKさんのミニオンになればこういうバフもうけられると?」
「……人間ってテイムできるんです?」
「相当に相性が良ければ……相当に人間側が人から使われてもいい気質ならあるだろうけど」
「小鳥遊さん……、もしかして……?」
「いえ、わたくしがなりたいとかそういうのではありませんわよ!」
「人間相手には指揮っていう別のバフスキルがあるからそれでいいと思うが……」
基本出来ないが、何事にも例外はあると言うものだ。
「まあ問題はまだサキュバクラはレベル7だから火力は期待できないという事だが……」
>ダメじゃん
>ペットじゃないですか本当に
「きゅおーん……」
「また今度レベルは上げてやるって。その代わり、バクらしい強力なスキルを持ってるからそれで支援するという事でな」
「新メンバーの紹介はこれくらいにして、とにかくサクちゃんが入った後での連携を試してみましょうか!」
***
「今回はどんなユニークを倒しに行くんです?」
「まだ絶対殺すゾーンですか?」
「冒険者を殺すのはそうですが……」
>また殺すんだ……
「今回は何でも、ダンジョン内にUFOが現れて冒険者を襲っていくらしいですわよ」
「正体を見破る前に死ぬから未確認ってか……」
その時だった。
『ヘアッッッッッッッ!!!』
謎の鳴き声と共に、高速の影が目の前を通る。
「UFOですか!?」
「これは……来るぞ!」
>危ない!
>また誰か死ぬ!?
その攻撃は、小鳥遊さんを狙っていた。
俺が対処をしようとする、その一瞬前に。
――小鳥遊は割り込みした!
「はぁ!」
即座に体をくねらせ、攻撃を回避する。
――小鳥遊の【捌き】! 攻撃を回避!
捌き:次に来る攻撃を回避する。効果は一度に一回のみ。
「回避特化スキルを覚えてきましたわ! 前回を教訓にして、このくらい対策出来るようになりましたわよ!」
>また死ななくて良かった
「死にませんわよ!!!」
「さて、今回の相手は……」
ハイバー・カタイ・ヒトデ(ユニーク)
LV:115
体力 1280344
攻撃 83237
防御 23991
魔力 63283
スキル:【即死無効】【リジェネ】
「即死無効ですか!?」
「即死無効ですの!?」
>は!? 即死無効!?
>露骨に前回の対策来ましたね……
「うーわ……めんどくっせ」
即死は強力だ。だが強力なスキルを振り回すだけで、勝てる世界ではないのだ。