異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理 作:秋津 幻
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華維さんの不調も治り。日々地道な努力をし、配信をしたり、ユニークを倒したり。そんな日々がしばらく続いていた。
そんな、ある日の事でした。
「……で、ステりゅんに何をさせるって?」
「24時間耐久ダンジョンデスマッチ?」
華維さんが、とんでもない事を言っています。
「……具体的には?」
「レベルをリセットして1にして適当なダンジョン突っ込ませて24時間でどこまで行けるかってチャレンジ」
「ステりゅんを殺す気!?」
サクちゃんが怒りの形相でばーんと、机を叩きます。
あんなの、初めて見た。
レベルリセットとかとんでもないこと言ってるんですが……まあ、華維さんならできるんでしょうね……
「まあ100回くらいは死んでもらってさあ……ステラちゃんならいけると思うんだよね、潜ってるうちに色々スキル生えるだろうし……」
「そんなん常人なら気が狂うのよ! 廃人にするつもり!?」
「撮れ高もあるだろうし……」
「視聴者も引くわ!!!」
そんなの出来たらやってみてもいいと思うんですけど、それって終わったらレベルとか戻るんですかね?
「あの……あの……サクちゃんが心配してくれるのは分かるけど」
華維さんとサクちゃんが喧嘩してます。
私の育成方針で。
「地獄のエキスパート育成くらいなら通すつもりでいたけどさあ……流石に常軌を逸してるでしょう!?」
「なんか優秀すぎてもう鉄火場にでも放り込まないと育たないと思うのよね……レベルとかは色々過ごしてるうちに勝手に上がるだろうし、スキルを一つ一つ覚えさせるのは時間かかるだろうから、そういう危機的状況に追い込めば……」
「危機的すぎるわ!!!」
なんというか、サクちゃんは華維さんにべったりって感じだと思ってたんですけど……こんなに、喧嘩することあるんですね。
「昔は何でもかんでも基礎トレが大事って言ってたのに……嫌いじゃなかったわよ、あの超密度で長時間トレーニングして一夜で100はレベル上がる奴」
「100!?」
なんで平然とインフレしてるんですか!?
「それは俺と桜が俺のミニオンだったから出来たことで、何の関係もないステラちゃんだとできないだろうしなあ……」
「私はそういう訓練受けられないんですか?」
「やめとけ」
華維さんはすごい真剣な顔をして、まっすぐこちらを見つめています。
「ステラちゃんは、誰かの下について、付属品になって、一生を終わらせるつもりか?」
背筋に、汗を掻いた。
「あの、すいません、安易にミニオンとか、言って」
「――いや、すまん、俺も口調が強くなりすぎた。とんでもない事を言った。すまん」
「わたしは、あなたの付属品でいいわよ? あなたの、右腕だもの」
「……そっか」
サクちゃんが勝ち誇った顔で、嬉しそうに言う。
いやまあ、サクちゃんはそうかもしれないけど……
「……でも、ステりゅんはそうじゃないでしょう? そこまで命を一人の人間に賭けられる絆がないでしょう?」
絆。年月。
私と華維さんは、まだあったばかり。
「大体人間がミニオンになるには相当に相性がマッチしていないとダメだけどね」
「むしろ、ステラちゃんはテイマー側じゃないか? 魔物とかと絆を重ねて、ともに戦う。人の下につくような人間じゃねえと思うし」
別に、誰かの指揮下に入ってもいいとは思いますが。
サクちゃんみたいに、一人の人間に一生を捧げられるほどの覚悟は……ないです。
「結局、時間が、足りないよなあ。レベル上げもユニーク相手に行うのも限界だし……そもそもぶっちゃけ上位勢だとレベルあんま関係ないんだよなあ」
「それはあんたが地道にトレーニングして素の実力があるからでしょ? まずはそういう経験をしないと」
「あの……あの、私何でもやりますから、無理言ってるのはこっちのほうですし」
「ん?」
「だめよステりゅん! こいつの何でもは本当に何でもなのよ!? 手段を選ばないタイプの!」
はあ、とサクちゃんがため息をつきます。
「なんか、スレちゃった気がするわ、昔と比べて」
「昔もだいぶ俺すれてる自覚はあったんだが」
「それにしてもなんか……昔はもっと、地に足がついて現実的だったと思うのよ……」
「桜は昔から変わらず無茶苦茶やるけどな」
「わたしだからいいの。でも、華維くんはここぞというときにしか無茶苦茶言わなかったでしょ? でも今はなんか。遠くを目指して、果てを見てるみたいで……」
「遠く、遠くか……全能大戦は常識的な手段じゃ乗り越えらんなかったからなあ、短時間で、すぐ戦えるようになるには正気を捨てるのが一番早いし」
「……そんなひどかったの? あたしたちの時期も大概無茶苦茶だったけど」
「筋の通ってる無茶苦茶と、ただの不条理は違うんだよ……」
そういうと、二人はじっと黙ってしまいました。
なんだか、二人だけの世界に浸ってるみたいでした。
その世界は、誰にも手出しするのがためらわれるものでした。
私は突っ込みますけど。
「……何二人だけの世界に入ってるんですか?」
「あっ、ごめんなさい……別にないがしろにしようとしたわけじゃなくって」
サクちゃんがはあ、とため息をつく。
華維さんが、気だるそうにソファーに横たわり、天井を見る。
「正直やる事ねえんだよな……しばらくイベント待ちって感じ」
「イベントがあるんだったらそれまでに地の力を鍛えるとかできるでしょうに、ある程度予測できないの?」
「大体顔見せは終わったと思うし、もう少し大きなイベントが欲しいんだよな、大体ステラちゃんのレベル上げる事しかないし、ユニークは全部倒すの手間だし」
「行けば? ユニーク全滅マラソン」
「解決に向かおうとすると厄ネタしか見えねえしなあ……どうせ最終兵器とか過去の因縁とか眠ってんだろ」
「……そういうメタ読みで止めるの、良くないと思うんだけど」
肩をすくめると、私の方を向きました。
「ともかくステりゅんは、しばらく、休んだ方がいいと思うわよ。普通にダンジョン配信したりとか、ゲーム配信するとか、学園生活を楽しむとか、友達と会ってきたりとか」
「今もやってますねえ……」
「あとは、これから社会的な立場とか変わるでしょうし、家族と話し合ってくるとか?」
家族。
「家族いないって話、しませんでしたっけ?」
そう、私は高校の頃、親が突然いなくなったはず。
サクちゃんには、はっきりと伝えたことがなかったかもしれないけれども。
なのに、何か頭に引っかかりがあるような。
「何言ってんの? ステりゅんのお家、昔と変わらない場所にあるじゃない」
え?
「それとも、親に配信の許可取ってなかったの? まさか今も、配信に反対してるなんて――」
私の家。
私が昔住んでいた家。
どこだっけ?
――ステラの、エネミーガードが発動した!
「え?」
エネミーガード?
何から? 何を敵として?
「は?」
「――ステりゅん?」
家族?
お母さんとお父さん?
そんなの、いたっけ?
――ステラの、エネミーガードが発動した!
思い出せない。
思い出せない。
なんで?
いるはずなのに?
いたはずなのに?
――ステラの、エネミーガードが発動した!
――ステラの、エネミーガードが発動した!
――ステラの、エネミーガードが発動した!
「家族って……何だっけ?」
華維さんが、頭を抱え苦虫を嚙み潰したような顔をしています。
「……そこかー」
「まさか……ステりゅん」
サクちゃんが何か言っています。かすかに、声が聞こえます。
「配信に反対していた自分の両親を、エネミーガードで弾いた?」
ああ、そうか。
行方不明になったのは、両親じゃなくて。
私の方だったんだ。
――ステラの、エネミーガードが発動した!
……あれ?
何もない。
何もない。
私の頭の中は、いま真っ白になっていました。
「……今、何の話してましたっけ……」
「……うわっ」
「嘘でしょ……」