異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理   作:秋津 幻

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第22話 迷いマイマイ

 私の母親はどんな人だったでしょうか。

 顔も思い出せません。声も思い出せません。

 

 でもかすかに、私がダンジョンに潜りたいって言ったのに反対していたのは覚えています。

 

「あんなの危険だから」「普通に生きてる人がやるもんじゃないから」って。

 

 でも、私はその言葉を聞いて、カチンと来ていました。

 

 私は、人の役に立つような事をやりたかった。

 そして、目立ちたかった。

 

 やりたい事を、やりたかった。

 

 だから、私は――

 

 ***

 

 つまり、状況はこうだ。

 ステラちゃんは【配信者】のスキルを持っており、昔からダンジョンで配信をやりたがっていたが、親からは反対されていた。

 

 当たり前だ。冒険者は危険な職業だ。その上、配信までやるとなればどんな騒ぎが起きるかわかったもんじゃない。

 

 そして、それに鬱憤を抱えていたステラちゃんは。

【エネミーガード】に覚醒し。

 親を【エネミー】と判断して。

 その存在から、自分をガードした。

 

 あまりにも酷すぎる。果たしてステラちゃんがこんな、スキルで物理的に、親の存在を認識できなくなるなんて結末を望んでいただろうか?

 

 その後、親がいなくなって悲しみながらも、好きなダンジョン配信を出来るようになり、ギルドにも拾ってもらい、そして……今に至る。

 

 ギルドに問い合わせてみたが、ステラちゃんの親に関する調査は何もわからなかったという。

 

 そんなわけあるか。

 

 こんなに近くに答えがあるのに。普通なら分からないはずがない。

 では、なぜ分からなかったのか。

 

 普通じゃない事が起きていたからだ。

 

【エネミーガード】が、ステラちゃん自身を、ギルドを、全てを。巻き込むほどのスキルだったからだ。

 

 ***

 

 桜に連れられて、ステラちゃんの実家があったはずの道を行く。

 

 ワープスキルで直接家に飛べないかもやってみたが、当然のようにエネミーガードによって弾かれた。

 なんとか友情バトンでいい感じのスキルで無効化できないか試したが、上手く行かなかった。そもそも、自分のスキルのデメリットと言う物は、相殺しにくいものだ。

 一応精神耐性で記憶が完全に消える事だけは防いだが。

 つまるところ、大抵の小手先の策は上手く行かなかったという事だ。

 ほかに何かいい案があったかもしれない。だが、思いつかないという事象自体、エネミーガードの影響下にいるせいという可能性すらある。

 

 つまり直接家を見てみるというこの作業は、悪あがきで。どうしようもない事を確認するだけに過ぎないかもしれない。

 

 だが、やらずにはいられなかった。

 

「このコンビニのある交差点を曲がって……しばらく込み入った道を行った先にあるはず……」

「どうだ、ステラちゃん。何か思い出したか?」

「分からない……分かりませんけど……既視感があって、どこか懐かしくて、安心するような気持がするのに……」

 

 目を見開いて、汗を書きながら周りを見渡している。

 

「どっちの道を行けばいいのかが、全く思い出せない……」

「……認識が書き換えられているんだろう。どうあがいても家までの道のりにたどり着けないようになっている」

「こっちだよ、こっち、ここの道を曲がれば行けるはず……」

 

 すると、急にステラちゃんが立ち止まる。

 

「何で……」

「どうした?」

「……からだが、足が動かないんです……家が、あるはずの方向に……」

 

 はぁ、はぁと急に過呼吸になりだす。

 

「怖い、嫌だ、体が、こっちに行っちゃだめって叫んでる……」

「でも、あと少し行けば家につくはずって言うのに……」

「落ち着け、落ち着かせろ……そこに公園がある。一旦座ろう」

 

 ***

 

 ベンチに座って、背中を撫でて落ち着かせる。

 ずっと、下を向いているが、少しずつ呼吸は落ち着いて来た。

 

「ねえ、この公園覚えてる。小学生の頃、毎日一緒に集まって遊んだの……」

「……あそこの砂漠で、掘り進めたらどうなるかってサクちゃんが言って……遅くなるまで掘って、それで、それで心配したおかあ……うっ」

 

 そると、心臓を抑え始める。

 

「なんで、なんで、なんで……お母さんの顔だけがぽっかりと穴が開いているの……!」

「無理はしなくていいわ、今日ここに来れただけでも収穫はあったんだから。また後日落ち着いてから作戦を考えて……」

「嫌です、こんな機会はもう、二度とこないかもしれない。次来たら皆の記憶からも消えて、しまうかもしれない……」

 

 体に力を入れて、力を振り絞り、震える足を抑えながら、ふらふらと立ち上がる。

 

「それでも私は、行かなきゃいけないんです……」

「ステりゅん!」

 

 桜が、ステラちゃんの体を抑える。

 

「止めないでください……」

「違う、そっちじゃない……家はこっち……!」

「え」

 

 ステラちゃんの足は、目的の方向とは逆の方を向いていた。

 

 間抜けな光景にも見えたが、これはどれだけ頑張ってもステラちゃんには家に行かないという行動を止められないという事を示している。

 そういうふうに、自らの「ガード」のスキルが命令してるのだ。

 

 真実から守る。そのために現実すらもゆがめる。そうしてしまうスキルだったという事だ。

 もしかしたら、本来は人間に適用するものを魔物まで適用範囲を広げただけなのかもしれない。

 

 エネミーが自分に寄り付かないようにする。それは、自分が向かう場合であっても同じだ。強力なスキルには強力なデメリットがつきものだ。日常生活に不自由がないだけ相当に軽い方だろう。

 だが、その分デメリットにはあらがうことが出来ないのが普通だ。

 それを、強靭な精神力で無理やり向かおうとしている。どれだけの意志と、決意があれば強力な自分のスキルにあらがえるのか。想像もつかない。

 だが、意志と思考はコントロールできても、体はあらがえない。それが現実だった。

 

 ***

 

 二人で体を抑えながら、目が血走り辛そうなステラちゃんを前に進ませる。

 別の方向に行きそうな体を、無理やり。

 

 なんとか、ならないのか。なんとか、ステラちゃんを両親を一目合わせるだけでも、少し話すだけでも……

 

「……ねえ、華維くん。今は、もうよくない?」

「いいって、何がだ」

「親と離れても、ステりゅんは困ってないわ。一人のままで生きるだけの収入も、住む場所もある。誰にも迷惑はかけてないわ」

「ステラちゃん自身が、苦しんでるだろ」

 

 親と仲の悪い人間なら、いくらでもいる。ステラちゃんよりはるかに親を憎んでる人間もいるだろう。

 

「今じゃなくて、良いじゃない。親と反目して家出するとか連絡を切ったりとか、良くないとこだけれどもよくある事だわ」

 

 別に、親と仲が悪いのは構わない。憎み合っていても構わない。

 だが。このまま和解のチャンスすらないのは、永遠にすれ違うどころか会えないままなのは。つらすぎる。

 

「……自分の、選択ならいいさ。でも、ステラちゃんはそうじゃない。スキルのせいで、否応なしにそうなるように仕向けられている」

 

 本人の、深層心理での望みだったとしても、実際は会いたがっている。

 冒険者になりたかった。配信者になりたかった。

 でも、両親を認識できなくなるような悲劇が起きるほどまで、望んでいたのではなかったはずだ。

 一時の気の迷いをスキルに反映され、苦しんでいる。

 

「スキルに操られる人生は――駄目だ。クソだ。そんなものがあってたまるか」

 

 俺自身、大量のスキルで自分自身を縛られているようなものだが。

 

 ……だからこそか。まだ、そうなって欲しくはないという願いか。

 

「今じゃなくていいじゃない。エネミーガードは強力なスキルよ。ユニークと戦うにも、配信をするにも大事なスキル。もっと先、レベルが上がってそのスキルが不必要になってからでも……」

「それをすると……おそらくズルズルと先延ばしになり、ステラちゃんが別の世界に行ったり、親が亡くなってしまうかもしれない」

 

 その前に、何か不慮の事故が起きて、永遠の別れが来てしまうかもしれない。

 

 その時に――

 

「親にサヨナラの一つも伝えられずに別れをするのは、ダメだろ」

 

 俺の両親は、元の世界にいるのか。俺がいなくなってどれだけ悲しんだか。その後どんな生涯を生きたか。死に目に会えなかった。

 

 それは、辛い。辛すぎる。

 

 世界の線というとてつもなく大きな壁が、妨げている。

 

 それを嘆いても最早仕方がない。

 

 でも、同じ世界に生きているのに。近くにいるのに。

 

「永遠に会えないなんて、そのまま別れてしまう何て、悲しすぎるだろう……!」

 

 俺は、歯ぎしりをする。やるせなさに。その悲しみに。

 

 桜は何も言えず、すこし、うつむいて顔を隠した。

 

「サクちゃん、いいの」

「ステりゅん……」

「私も、会いたいんです……だから、少しでも前に――」

 

 ステラちゃんが、俺に向かって手を伸ばす。

 その手を、取った瞬間。

 

「があっ!?」

 

 なにか、見えない何かに吹き飛ばされ、俺の、目の前の景色が変わった。

 

 ***

 

「どこだ、ここは――全然、景色が違う所になってやがる……」

 

 スマホで、現在位置を確認する。

 

「これは……」

 

 明らかに、別の場所にワープしてた。

 

 携帯から電話がかかってくる。

 

『華維くん! いまどこに!』

「大丈夫だ。その辺からそこまで遠くはない場所だ」

 

『……はあ、はあ、』

 

 電話の向こうから聞こえる、ステラちゃんの息の震えが落ち着いている。

 それはつまり、スキルが自らの責務を果たし彼女を抑える必要がなくなったことを示す。

 

「「エネミーガード」は空間すら捻じ曲げるのか……」

『ナニコレ、こんなのってありなの……なんで、こんなひどい事を……!』

「強力なスキルにはデメリットつきもの……とは言いたくないな、これはいくら何でも……」

『……どうする、どうにかなる手段があるの? わたしは別にどっちでもいいけれども、また向かっては弾かれてを繰り返するつもり?』

「……いや、直接目的がかなわないまでも、一歩それを前進させる方法はある」

『あるの!?』

 

 桜が電話の向こうから叫ぶ。

 

『あるんなら教えてよ最初からそれをやりなさいよ早く……』

「ちょっと待ってちょとまてこういうのには順序があってだな……落ち着け落ちつけ」

『それで、方法って』

「まあ、簡単な方法さ」

『もったいぶらないで教えて頂戴?』

 

 ステラちゃんとしては前進しないけれども、俺らとして、少しでも手がかりを得る方法。それは。

 

『ステラちゃんを置いて無関係な俺たちだけで両親に会いに行く』

 

「……あーなるほど」

 

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