異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理 作:秋津 幻
結論から言えば、ステラちゃんの家にたどり着く事は出来た。
「失礼いたします、ギルド役員の小鳥遊と申しますが、少しお話よろしいでしょうか?」
インターホンを鳴らし、小鳥遊さんがそう語りかける。
「ええ、ええ……はい、少し聴取とまではいきませんが、とある事件の解決の参考としてお話をお聞きしたくてですね……」
しばらく話をした後、こちらを向いて大きく頷いた。
***
「両親訪問のために、小鳥遊さんを呼ぼう」
「なんで? あたしじゃ駄目なの?」
桜が少し眉をひそめる。
「『ステラちゃんの中学生時代の知り合い』じゃ立場が弱い。あちらもステラちゃん同様桜の存在を忘れている可能性がある」
「ああ……すると名も知らぬ人の知り合いをなのる変人になる可能性があるのね」
「俺もただのネットでバズっただけの人だ。まともに応対できる自信もない。……そもそも、バズった動画はステラちゃんも映っている。それを認識できているかどうかも怪しい。小鳥遊さんは社会的立場のある人間だ。ある程度話を聞いてくれる可能性は高い」
「……わかったわ。とりあえずあたしは帰ってステりゅんを落ち着かせてる。場所は教えとくわ」
「すまんな、恩に着る」
俺は頭を掻いて、申し訳なさそうにする。
そんな俺の姿を見て、役に立てたのが嬉しいのか桜はにっこり笑った。
「ええ。いいわよ。あたしとあなたの付き合いでしょう? あなたの考えた最善手なら、従うのが
「手下っていうなよ。俺たちは……ずっと、共に戦う仲間だったろ」
「じゃあ、あなたの右腕でいい?」
「……いいよ、それで」
「そう、嬉しいわ。でもステりゅんも、小鳥遊さんとやらも……仲間にするのかどうかは、考えてくださいな」
「……なんか、含みがあるんだが」
「別にー? ステりゅんは友達だけど、恋敵にはなりたくないし、小鳥遊さんは師匠だけど恋敵だし」
「敵っていうなよ……」
「だから、思う事はあるのよ。でも……あたしに出来ないことがあるなら、無理にあたしがやる必要もないって事。信頼してるわよ。あなたも、小鳥遊さんも」
***
「ええ、入れてくれるみたいですわよ。少し困惑はしてるみたいですが、信用はしてもらえましたわ」
「すまんな。すると、小鳥遊さんを選んだのは正解だったな」
頭を下げると、いえいえと手を振る小鳥遊さん。
「紗城さんの役に立てたなら良かったですわ。それに……わたくしも、ステラさんの事は気にかけていましたから」
はあ、とため息をつく。
「両親に会いたいとは言ってましたけど、まさか……こんな近くにいたとは、思いもしませんでしたわ。まったく、ギルドの失態ですわ。恥ずかしい限りです」
「いままで碌な手掛かりが見つからなかったのも、スキルの影響かもしれんな……仕方のない事さ」
「なんか、不気味な感じもしますが……果たして、どうすればよかったのでしょうか」
「こういうのには、スキルによって流れが作られている。真実にたどり着けないという流れが。……だが、もっと大きな流れによって、解決に導かれることもある」
「もっと大きな……流れ?」
はあ、と飲み込めずに首をかしげるは、かまわず続ける。
「だから、待つことさ。問題がそこに眠っているのなら、解決しなければいけないときは来る。材料を集め、人を集め、待ち続ければそのうち……ミステリーに解決編はやってくるのさ」
そもそも、このミステリーに問題編があったかどうかは、分からないが。
ガチャリ、と扉が開く。
そこには、ちょうどステラちゃんが成長したかのような黒髪の女性が立っていた。
間違いなく、ステラちゃんの母親だった。
***
「大星ステラという名前に覚えはないでしょうか」
「……いえ、全く」
キョトンとした顔で言う。
子供の存在を忘れてしまうなんて、どんなに悲しい事か。
「この少女の事を――あら?」
スマホで、画面を移そうとする。
急に、ネットが圏外になった。
「……たまにあるんですよ、こういう事」
「よくあることなんで?」
「ええ、テレビが突然消えたり、特定の動画を見ようとしたらネットが切れたりなんてことは良い方で……ちょっと遠出しようと思ったらある所から全然足がすくんで進め無くなったり、なんてこともあったんです」
心底不安そうに、曇った顔をするお母さん。
「何とか、なりませんか?」
「……ええ、きっとなりますよ」
小鳥遊さんは、安心させるように言う。
家の中を見せてもらう。どこかに、ステラちゃんの残り香がないかどうか。
「……これは」
「どうかしましたか?」
廊下の一角に、一つ、ドアがある。
その、ドアノブが外されていた。
ドアも、汚れっぱなしだった。
「ここは、まさか……」
「どうしました、
「!」
きっと、ここにステラちゃんの部屋があったのだろう。
だが、その存在に、気づくことが出来なかった。
「ちぃっ!」
――華維は、開錠を使った!
扉を、スキルで無理やり開く。
ドアが、ぎぃっと鈍い音を立てて開いていく。
「これは――」
そこは、女の子の部屋だった。
星で彩られた、かわいらしいデコレーションがなされた、中学生くらいの女の子の部屋。
そして、漆黒のカーテンが部屋を暗がりに堕としている。
ほこりは、一つもない。
綺麗な、ままだった。
まるで、ステラちゃんがいなくなったあの瞬間から、時が止まっているかのように。
「これ、桜さんと一緒に映っている写真……」
壁に貼られた写真を、小鳥遊さんがじっと見つめている。
ドアの外では、母親が中をのぞいて、はっと驚いている。
知らないのに、知らない人のいた部屋が、家にある。
いや、覚えているはずなのだ、知っているはずなのだ。
かつてともにいた、子供がそこにいたと、知っているのに。
思い出せない。
その矛盾が、ステラちゃんの母親を苦しめていた。
もはや、怪奇現象だ。
普段の生活にすら悪影響が出ている。これはもはや、後回しにするとかそういう問題ではない。
***
明らかに、異常だ。ただの一人の人間が持つ人間のスキルに過ぎないのに、これほどまでに多くの人間に影響を与えるスキルが、あったろうか?
ある。
存在する。
今まで、俺が生きて来た世界での物語の中でも、ない事はない。
だがそれは、大きな儀式の結果とか、大魔術とか、とんでもなく才覚を持った人間のスキルの暴走だとか、そういう物だった。
今回は、一番最後に言った事例が適応されるだろう。
ステラちゃんの才能が、存在が、スキルが。それほどにまで多くの人間に影響を与えるだけのものである。そういう事だ。
それが、何か裏があるのか、もっと巨大な存在が関わっているのか、単にそういう流れなのか、たまたまそういうスキルを手に入れたに過ぎないのか――
なぜ、ステラちゃんだったのか。
親の事が嫌いな人間も、他人を寄せ付けたくない人間も、いくらでも存在する。
なぜ、ステラちゃんが少し親に配信を止められて、少し嫌な気分になっただけで。
少し家出しただけで。
こんな目に合わなければなあらないのか。
認識すらいじる。記憶すらいじる。空間すらゆがめる。存在すら操る。
これは、【全能】級の効果と範囲を持つ、強力なスキルなのかもしれない。
なんで、そんなものを。ステラちゃんが。一介の配信者にすぎない彼女が――なぜ持っているのか。
おそらく、理由はない。
たまたま、ステラちゃんがそういうスキルを手に入れてしまった、というだけだ。
「俺の大量のスキルを駆使しても、そう簡単に解決しないかもしれんな……」
大量のスキルを持った俺が、この有様では情けない限りだ。
だが、結局のところ俺も、流れに。世界に。
スキルに翻弄される一人の人間に過ぎないという事を、忘れてはならない。
***
小鳥遊さんのスマホから、着信音がなった。ポップだけれども、どきりと心臓が跳ねるあの音だ。
「わっ、ちょっと失礼しますわ、申し訳ありません……」
少しだけかわいい声を出して驚く。こういうのは経験の長い小鳥遊さんでもなれないものなのか。
「……え? ユニークが、ダンジョンの外に?」
ぐらり、と地面が揺れる。
「……マジかよ」
「場所は……はぁ!? ここからすぐそば!? 対応も間に合わない!? いったいどういう……!」
「――ちぃっ!」
止まる事のない地響きの中、俺はすぐさま建物から出る。
「このタイミングで来るのかよ……!」
ぐわん、と衝撃が響く。
そして、その先にはちょうど、ステラちゃんがいるはずの方角であった。
大きな影が、家々の立ち並ぶ街並みの向こうに見える。
間違いなくそれは、ボスモンスターであった。
「クソが!」
その方向へ進もうと、走り出す。
だが、俺は突然、見えない壁にぶち当たった。
「は?」
――エネミーガードが、発動している!
「ふざけんじゃねえええええええええええええ!!!!」
昨日までエネミーガードそんなスキルじゃ無かったろうがああああああああああああ!!!!!
☆☆☆
巨大な、巨大な、
装甲を纏った、巨大な巨人が、突如として地面から現れ。
そして、私のお家をえぐった。
目と目が、合う。
機械のまなざしが、私を見つめる。
ステータスが、現れた。
名前:試作2号超装甲無敵鋼機兵《NULL_TEST_02》(ユニーク)
スキル:【ガードコピー】【ガードブースト】【即死無効】【精神無効】
ガードコピー:「敵」のガード能力をコピーする
ガードブースト:周囲のガード能力の効果・範囲を拡大する
「――は?」