異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理   作:秋津 幻

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【エピローグ】

 ユニークモンスターのせいで、町が一つ破壊されてしまった。

 

 しかしすでに再建は始まっている。

 壊れたものはまた作り直せばいい。

 思い出のものはなくなってしまうが、記憶は心に残っている。また、作ればいい。

 

 でも、壊れた物には祈りを。鎮魂を捧げよう。

 どだい、何もなくとも100年もすれば、自然に形あるものは滅び行くのだ。

 

 ただ、被害が出たのは事実だ。

 今回、後手後手に回ってしまった事は少し申し訳ないと思っているが、かといって誰に責任を追及すると言う物でもない。

 強いて言うなら、ユニークが悪い。こんな突然理不尽なイベントが起きる世界が悪い。

 

 何が言いたいかというと。

 俺の家も破壊されて住む場所がないという事である。

 

 かといって何か困ることもない。ゲームはまた買い直せばいい。金は……また、適当にダンジョンにでも潜ればいい。

 桜と小鳥遊さん謹製のハーブ畑も消し飛んでしまったが、地面に残った根や種や、葉の破片からよみがえらせる事は可能だ。

 立て直した家に住まわせてくれるというのだからギルドも寛大だ。

 

 そういう訳で人的被害はさほどなかったが、物的被害は大きかった。

 住む場所がいなくなった人たちのために学校に避難場所が設けられ、そこにしばらく寝食を行う人たちがいる。

 寝床の提供、食べ物や生活必需品を届けてやる必要もあるのだ。

 

 山とつまれた段ボール箱を大量に両手で持ち、俺は体育館の中に入る。

 

「いよっと、物資もってきましたーどの辺に置きますか?」

「ああ、その辺で大丈夫だよ、すまないねえ。冒険者たちはこういう時重いものを持っても大丈夫なんだから」

「いえ、こういう時に働くのも仕事ですよ」

 

 戦いは終わったが、その後にもやる事はある。そうでなくとも避難誘導、避難地域に逃げ遅れた人がいないかどうかの確認、こういう小間使いなど、やる事はいくらでもある。

 出来ることをする。それが人助けとしてやる事なのだ。

 

 避難場所を眺めれば、炊き出しをする人、スキルを使って火や水を確保する人、そんな積極的にボランティアとして働く人々がいる。しかし、たくましいな。

 曰く、「モンスターで災害とかはよくあること」らしいのだとか。

 そんなところまで日本再現しなくていいよ。

 

 するとユニークがいなくとも強力なモンスターが襲撃してくることもあるのかよ・・・・・・

 やっぱ異世界ってクソだな。

 

「あっ華維さん!」

 

 ステラちゃんの声が聞こえ、振り返る。

 

「ここにいたんですね! 何をしてたんですか?」

「人助け」

「……すごいですね、戦いが終わってもまだそうやって、人助けに奔走できるんですから」

「まあ、戦闘ではそんな消耗なかったしな……ステラちゃんの方はボロボロだったけど大丈夫だったのか?」

「ええ、もうこの通り!」

 

 頭とかに包帯を巻いているが、本当に大丈夫なのだろうか。

 

「休んでなくて大丈夫か?」

「大丈夫です! それに、休んでる場合じゃありませんし! こういう時こそ、S級冒険者として、有名配信者として皆に顔を見せるのも仕事ですから!」

 

 次第に、体育館中にざわめきが聞こえ始める。

 

「あっあれステラちゃんだ!」

「ユニークを倒してくれたっていう……!」

 

 自然に、人だかりができ始める。

 よく見ると、体育館の外にもちらちらこちらを眺めている大量の人がいた。

 迷惑にならないかな……まあ少しくらいならいいだろう。

 

「ファンです、握手してください!」

「実在したんだ……」

 

「はいはい押さないで、ファンサービスなら後でしてあげますよ!」

 

 それよりも、ステラちゃんはやる事があった。

 

 

 

 遠くから一人の女の人が駆け寄ってくる。

 

 

 

「――澄天羅(すてら)!!!」

 

 

 ステラちゃんの母親であった。

 

「ステラ、ステラなの……!」

「――母さん、お母さん!!!」

 

 はっと目に輝きをともし、顔を明るくして、満面の笑みで両手を広げる。

 

 

「――良かった、会えて、良かった……!」

 

 

 そして、二人は、抱き合った。

 

 

「ねえ、私の姿、見てた……?」

「うん、見てた、見たわよ、動画で、ずっと、うん……!」

 

 スキルが無くなったことにより、見れなかった配信も、物理的な距離も、記憶も。全て戻ったらしい。

 急になくなった記憶が取り戻されたことにより困惑していたが、それでもこうやって再開し喜ぶことはできるようになったという訳だ。

 

「私、すごくなったよ、冒険者として、配信者として、すごくなったんだよ、私――」

「うん、うん……!」

 

 母親の方は、何も言えず頷くだけだった。

 

「ごめんなさい、今まであなたに気づいてあげられなくて――」

「ううん、悪いのは私、ごめん、なさい、スキルのせいで、家出なんかして――」

 

 笑顔の中に、次第に涙が混ざっていく。

 

 後から、父親と妹らしき二人が駆け寄ってくる。

 

 そして、皆とステラちゃんは、抱き合った。

 

 いつまでも、いつまでも、足りなかった時を埋めるように、ずっと。

 

 これから、家族の間でもぶつかる事はあるだろう。だが、その溝は埋めればいい。なくなったものは取り戻せばいい。

 

 取り返しがつかなくなる前に、こうやってまた、出会うことが出来たのだから。

 

 

***

 

 人混みを外れ、誰もいない場所で、俺とステラちゃんは二人で話す。

 スキルを使って見知らぬ他人は来ないようにしている。

 

「それで、親御さんと話したんだろ? どうだったんだ?」

「はい、積もる話も合って、本当に良かったんですけど……」

「けど?」

「いえ、何でもなくってですね」

 

 なにか含みがあるようだが……

 少し考えてから、ステラちゃんはぽつり、と言った。

 

「……また喧嘩しそうになった」

「おい」

 

 ちょっとほほを膨らませむすっとしている。

 

「だって、だってずっとダンジョン潜るなんて危険なこと止めろってそればっかいってるんだもん」

「……まあ、そういう反応になるだろうな」

「私は止めませんって言ったけど」

 

 そりゃあ、ステラちゃんもそういうだろう。

 

「もう冒険者として相当に上の方になったのに。すごくなったのに。いつまでも、子供みたいに」

「そりゃあ、子供だろう」

 

 親の心子知らずといったばかりに、親への不満を吐く。

 それはもう、思春期の子供らしく。

 

「いろいろ、思い出してきたんですよ。そうだったなあ、私、お母さんの事あんま好きじゃなかったなあって」

「それは、どうして? 普通の親御さんみたいだったじゃないか」

「べつに、表立って罵倒してくるとか、そういうのじゃないんですよ。節々でなんかこう……ダンジョンに潜る人のこと、あんなことしなくても稼げるのに。あんなことで稼ぐ大人にならないように勉強しろって」

「それは」

「それをお母さんに行ったら、「そんなこと言ったっけ」って」

「そりゃあ、そうだろうな」

 

 そんな、ぼそっと出た言葉なんて、いちいち覚えてない。そういう事だろう。

 

「なあ、今回、エネミーガードはエネミーアクセプトに変わっただろう?」

「はい」

「でも、エネミーブレイクはそのままだった。なぜだと思う?」

「……たしかに、そうですね、なんででしょう」

 

 どちらも、エネミー系のスキル。「敵」に対して、守りと攻撃をするスキル。

 なぜか、人様に迷惑をかける方はガードスキルだったが。

 

「今回「エネミー」を、完全に弾き、シャットアウトするのではなく、受け止める事は出来た。だけど……「エネミー」に対する攻撃性、それを否定したいと思う気持ちは変わってないって事さ」

「……なるほど、そうかもしれないですね。それも、だめなんでしょうか」

「それは、悪い事ではない。魔物あいてに戦闘出来ないだろ。」

 

 ダメじゃない。そのスキルが、普段の生活で不便にならなきゃ、それで良かったはずだ。

今回はなんかしらんけど、エネミーガードで親に会えないとかいう理不尽で不条理で不都合なことが起きてしまっただけで。

 

「まあ、桜も言ってたと思うが……大体さ、エネミーをシャットアウトするのだって別にいいんだよ。良かったはずなんだよ。それを受け入れることだって大変だ」

「ならどうすれば、良かったんですかね?」

 

「それは、自分で決めるのさ。自分の在り方を考えて、それを突き進んでいく。スキルはそれに答えてくれる」

 

「今回も、考え方を変えたらスキルも変わってくれましたしね……」

「時折都合の悪い方向に向かおうとしたら不都合が出たり、その不都合を解除したり、無視したりしなきゃならん。それはデメリットとメリットを天秤にかけ、自分の進みたい道が何かを問い、進んでいくしかない」

 

 俺の持つ大量のスキルも有用なものばかりではない。いらないスキル、むしろメリットが薄くてあって迷惑なスキルもある。それとどう向き合うか。時にいらないと捨ててしまうか。その取捨選択をどうするか。

 

「……」

「考えろ、自分がどうしたいのかをな。……それは一朝一夕で決まるものではない。いろいろ経験して、その道を進んでいくのさ」

「じぶんが、どうしたいか……」

「そんなの、今の自分に分かることじゃねえけどな。成り行き任せだ。これから起きる出来事によってどんな方向にでも向かう。流されていきなさい」

「流されて……」

 

 この世界の流れは強力だ。

 だから、乗りこなすか。反発するか。それを見定めていく必要がある。

 

「んで、今はどうするんだ。親御さんと離れてまた家出でもするのか」

「……嫌いでも、もう永遠にあえないなんて、そんなのは嫌ですから。会えたのは嬉しいし、家族ってやっぱりいいなって思いましたから。……一緒に住みますけど」

 

 そして、腕を胸の下で組み、体をそらして偉そうにする。

 

「でも、冒険者は続けますからね! 配信もします! 親から追い出されても、私は生きていけるんですから! それが、自分のやりたいことです!」

「……そっか」

 

 まあ、ステラちゃんの方も、そうなるだろうな。

 親と子供で、違う考えがあり、譲れない場所がある。

 

 それでいい。

 俺は、親と衝突すらせずに別れてしまったのだから、それよりは。

 

「でもちゃーんと、両親の許可は取らないとだめですわよ?」

 

 小鳥遊さんが話に入ってくる。

 彼女には俺たちの居場所は伝えておいた。何かあった時に呼べるように。

 

「こういうのは、法律で決まってますから」

「だってさ」

「まあ、説得はしてますよ。お父さんは「子供の決めることだし好きにさせてあげてもいいんじゃないか」って言ってますし。そこまで、お母さんもどうしても反対するわけでもないみたいですし」

「なら、いいじゃないか」

「でも、でもですよ」

 

 髪をかき上げ、ステラちゃんは言う。

 

「私は、お母さんに、そんなすごい人になれて偉いって褒めて欲しかったんですよ」

 

 すこしだけ、寂しそうにする。

 

「冒険者を馬鹿にして、すまなかったって謝ってほしかったんですよ……多分」

 

 ステラという少女は、多分認めてほしかったんだろう。

 勉強でも、立派な大人になる事でもなく、自分の好きなことをやる自分を。自分のそばにいてくれる家族に。

 認めてほしかったから、認めてくれなかった他人を排除した。

 

「私は何かになれたんだぞって認めてほしかったんですよ」

 

 その結果、一番認めてほしかった人までも、排除してしまった。

 

「まあ、簡単なことだ。今は認めてくれなくてもそのうち時間が立てば、きっとわかってくれるさ」

「そうですか……そうですかね?」

「そうだろうと、そうでなかろうと、大した話じゃない。もしかしたら先に、ステラちゃんが認めてもらえなくてもいいやと思う方が先かもしれない」

「それは……」 

「別に、ステラちゃんが認められ、親も満足する双方良しだけが人生じゃない。互いに噛み合わなくとも一緒にいるのもそれは一つの在り方だ」

 

 解決する必要はない。親と子なんて、仲がいい人も、悪い人もいる。

 その差で真っ当に育つ育たないもあるが、それはどちらでもいい。

 

 それも含め人生だ。親と仲が悪い人は悪い人なりの人生がある。苦しみがある。そのうえで見えてくるものがあるかもしれないし、ないかもしれない。

 

「別れはどっちかが死ぬ時でいいんだよ。死ぬ前に永遠に会えなくなるなんて、そんなのあっていいものか。生きてるんだから存分に揉めてこい」

「でも、なんとしてでも止めるという訳ではないのですわよね? とりあえず、両親の方を無理やり「説得」しなくても良さそうなのは一安心ですわね」

「そういう力と権力でなんとかするのは止めろっつーの……」

「それでも、ステラさんは重要戦力ですわ。どんな手を使ってでも逃すわけには行きませんもの」

 

 小鳥遊さんはステラちゃんの頭をなでる。

 

「ステラさんは、とってもすごい、皆を守る、冒険者なんですから」

 

 ステラちゃんは下を見て、うつむき。

 

 誰にも見えないよう、一筋の涙を落した。

 

「頑張れよ、まだまだステラちゃんは強くなれる」 

「なれる……でしょうか」

 

 なるさ。まだ、人生は長いのだから。

 

 こうして人は前に進んでいく。

 少しずつ苦難を乗り越え、強くなりながら。

 

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