異世界から追放された英雄は、【シン・日本】で平穏に暮らしたいけど強すぎて無理   作:秋津 幻

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第5話 ステラちゃんの配信再開

 車が目の前を通っていく。

 赤から青に変わる信号機を見て、あれを異世界で再現するにはどうするか、と考える。

 魔法で制御して、魔法で光らせるか。

 それを一つ作るのにどれだけのコストがいるか。

 ましてや、一つの町に大量に並べるとすると、どれだけの――

 

「華維さん、信号青になってますよ」

「おっとすまない」

「青になったら行ってもいいというサインで……」

「いや、それくらいわかってるよ、気遣いありがとう」

「あっすいません」

 

 ステラちゃんからしても、現代日本の何をしり何を知らないかを把握できてないのだろう。

 当たり前だ。互いの常識を知らないのだから。

 それを埋めるための方法は一つ。

 会話を、コミュニケーションを。互いを知り合うとこだ。

 

「さて、そろそろつきますよ、あそこですあそこ」

 

 俺は、ステラちゃんに付き添われ、新しい家を案内してもらう所だった。

 

「あれが俺の新しい家か……」

 

 集合住宅から一転、俺に用意されたのは一軒家であった。

 住所的には前住んでいたところとはほとんど変わらない。しかし、最寄りのダンジョンにはかなり近づいた。

 

「しかしこれ一人で住めってか?」

 

 2階建ての一家族が住めそうな家だ。

 

「一人じゃ掃除するのがめんどくさそうだな……メイドでも雇えってか」

「そこでメイドが出てくるのが感覚が違いますね……」

 

 ステラちゃんもおなじ住宅地帯に住んでいるらしい。

 

「私の家は一人で住めるくらいのもうちょっと小さい家ですけどねーそれでも前住んでたアパートよりは大きいと思いますよ」

「……ステラちゃん、一人暮らしなのか?」

 

「ええ。私親いないんですよ」

 

 あっ。

 言葉に詰まる。

 地雷を踏んでしまった。

 

「はい、普通の家族で、普通に暮らしてたんですが……中学生くらいの時、突然いなくなっちゃって」

「突然、か……」

「なんというか、その辺子供の頃だったから記憶が曖昧でなんですよね。ダンジョン潜って、配信して、なんとか生き続けることはできたんですけどね」

「そうか……大変だったんだな」

「はい、でもまあ、結構今の日々は充実してますよ、ダンジョン潜って配信してお金持ち! 友達もたくさんいますし、先輩たちは優しくしてくれますし! こーんな家にも住めますしね」

「そっか……」

 

 言葉がない。……こんな年で有力冒険者をやっているのだから、事情の一つや二つあるか。

 

「まあ、辛気臭い話は後にして、家に入りましょうよ!」

「お、おう……」

 

 ***

 

 家を一週回ってリビングに据え付けられたソファーに座る。

 

「広いな……なかなかいい家じゃないか」

「そうでしょう?」

「何より、中に風が入ってこないのがいいな。ちゃんと密閉されている」

「当たり前では……?」

 

 異世界ではそうでもないんだよ。

 よく隙間風が入ってくるぞ。

 

「まあここに引っ越すのはいいんだが……ほかに何か申請しなきゃいけないことはないんでいいんかな? 通う学校とか」

「え? 今学校かよってるんですか?」

 

 そう。俺は今、転生前は卒業までできなかった高校に通い、記憶から消し飛んでいる数学や化学や物理を覚え直している。結構楽しい。ちなみに英語はない。外国ねえし。代わりに異世界という外の世界がある事だけは人々も知っているようだったが。

 

 ちなみに学費は奨学金扱いでしかも返済義務がある。その辺も金欠で焦っていた原因でもあったのだが……

 

「ああ。見た目的には完全に高校生くらいだしな。学びなおしもしなきゃならんし俺も希望して通ってるよ」

「あれ、すると……なんていう名前の学校に通ってるんです?」

 

 俺は学校名を言う。

 

「……私と同じ学校ですね」

「ステラちゃん何年生だっけ?」

「1年生ですね……」

「俺も1年からかよいなおしてるから……何組?」

「Aです」

「同じだ……」

 

 同じ学校で同じ学年で同じクラスだった。

 こんなのある?

 

 

「まあ意図的に同じところに配属したんだろうなって……」

「ギルドが提供する居住区は大体決まってますしね……それで同じ学年となればそういう事もあるでしょう」

「しかし大星なんて苗字の子いたかな……」

「私、本名は明星《あかほし》っていうんですよ。明星澄天羅《あかほし すてら》が本名です」

「ステラのほうが本名なんだ……」

「まあ、私あんまり学校に行ってないですからね……でもどちらかというと、紗城さんの方に気づかなかったのがビックリなんですが……ピンク色の長髪の男の人とか目立つはずなのに」

 

 そうだろうか……同級生は割と皆髪色とりどりだし、猫耳ついてる奴とか兎耳ついてる奴とかいる。

 おそらく別種族とのハーフだろう。そう言う所に、ここがあくまで異世界なのであるという事を感じさせている。

 だから、正直ピンク髪程度で目立たないと思うのだが……

 

「気づかないのもしょうがない。俺、スキルで認識阻害かけてっから」

「認識阻害?」

「印象を薄くするというか、目立たせないというか。冒険者としての俺と、普段生活してる俺が印象として繋がらないようにする、そういうスキルを使ってるんだよ」

「へえ……」

「ただ、あくまで阻害だからな。名前が一緒とか、手がかりがあれば気づいてしまう程度の阻害だ。勘がいい人や、推論を重ねれば気づいてしまう。だから万が一にでも俺があのバズった動画と同じ人だとか人に言うなよ?」

「ラジャー! それはもちろん、気を付けます!」

 

 ステラちゃんが敬礼をする。

 

「でもそうすると……もしかして、今の段階だと華維さんが目立っても学校に人が集まるーって事はない訳ですよね」

「まあ、そうだが」

「と、するとですね、もう一度目立ってもいい訳ですよね~?」

 

 にやにやと笑い始まる。

 嫌な予感がする。

 

「一つ、頼みがあるんけど良いですか?」

「出来る範囲なら……あまりいい予感はしないが」

「今度私がする配信に、華維さんも出てもらえませんか?」

「……え? あーうん、なるほど」

 

 まあ、そうなるか。

 

「いや、これには理由があるんですよ……前の件があって、私はしばらく配信を止めているわけですけれども、今どういう状況なんですか、って結構ネットでも不安がられてるんですよ」

「……はいはいなるほど?」

「それで色々憶測が飛んでて……へんな風説の流布とかは、私のスキルであるエネミーガードで止められるんですけど、あの……ピンク髪の奴は誰だっていう特定も始まってまして」

「あーそれは……面倒そうだな」

「そう言う事で、配信で出てきてこれから護衛になりますーって事になればある程度落ち着いて、詮索も無くなると思うんですよ」

「なるほど……」

 

 たしかに、ネットで騒ぎになっている状況なら、下手の勘繰りでたどり着かれることはあるかもしれない。

 正体不明の美少女冒険者という謎があるからこそ人は騒ぐ。しかしここで一度表に出ておけば、ひとまず騒ぎに落ちが着く。

 もしかしたら最初から護衛で、ユニークの騒ぎそのものが仕込みだったのではという勘違いもされるかもしれない。そこでネットの盛り上がりに冷や水を掛けることが出来るかもしれない。

 それに、一度表に出ることでもう少し強力な認識阻害をかけなおすという事も出来るだろう。

 

「わかった、良いだろう」

「本当ですか!?」

「ただし! 当たり前のことだが……出るときはずっと鎧姿のままでいるからな」

「えーピンク髪っていうのがバズってるんですよ」

「あんまりそっちの印象が着くと普段の姿の印象と被りが出るからな……冒険者として目立つのはかまわない。だが普段の生活に影響が出ない範囲で。そういう形で行くことにしよう」

「ありがとうございます!」

 

 誰かさんのせいで、とは思わなくもないが。

 運命というか、流れがそうしろとささやいたのだから、それに従うしかないだろう。

 

「まあ遊べるだけの金は欲しいしある程度冒険者として働くことはいいさ。初手で目立つとは思わんかったがな」

「いや、ほんとすみませんね」

「ああごめんステラちゃんに言ってる訳じゃ無くてな……」

 

 文句を言うなら、運命に。流れに。

 

「まあとにかく、ちゃちゃっと配信して、一つ懸念を片付けようか」

「お、おー!」

「……金はもらえるんだよな?」

「それは勿論!」

 

 ***

 

 

「はい皆さんこんにちわ―! お久しぶりです! ようやく帰ってきました! 大星ステラです!」

 

 ステラちゃんが、元気な声でカメラの前で挨拶をする。

 姿も青髪に戦闘用の装備に着替えている。ピッチリスーツに露出がところどころにあり、腕や足や腰のあたりに機械が付いている、ヒーローの様な衣装だ。

 

「えー色々つもり話もありますが、今回はゲストを呼んでいます。どうぞー!」

「どうも……っていいんかなこれ、邪魔じゃないかね?」

「先日私を助けてくれた、Kさんです」

 

 おずおずと、カメラの端から俺が姿を現す。横の宙に浮いている画面から、コメント欄が見えた。

 

 >マジで!?

 >見つかったのか……

 >謎のまま終わると思ってた

 

「えー助けたところを去ろうとしたら首根っこ掴まれて参加させられました、Kです」

 

 ざっと見たところ、反応は悪くない。ステラちゃんに男が付くなーとか言われるかと思ったのだが。

 ……ああそうか、それもステラちゃんのスキル、エネミーガードではじけるのか。 

 

 >鎧取らないの?

 >かわいい顔みせてー

 

「鎧は取らない。拒否、あんま見せたくない」

 

 >いや動画で見れるんですが

 >まあでも顔は良く見えないし

 

「ヒーローは普段から素顔を見せないものさ。そういう事にしておいてくれ」

 

 >おおなんかかっこいい

 

 軽くスキルを使って、認識阻害の処理をかけなおす。それで軽く誤魔化して、視聴者は納得してくれたようだ。

 

「素性といたしましては、「異世界」から帰ってきた、というわけですが……これでわかるん?」

 

 >おお異世界人なんだ!

 >リアル異世界人!?初めて見た

 >どんな異世界から来たんですか!

 

「異世界で分かるんだ……実際、俺からしてこのシン日本の人たちが異世界をどういう目で見てるのか分からんのよね」

「単にシン日本の外にある国……? 世界みたいな?」

 

 >遅れてる文明……って言っちゃあれだけど違う世界みたいな?

 >シン日本よりもダンジョンがたくさんあって魔物がその辺をうろついているイメージ

 >ステラちゃんよりつえー奴がたくさんいる世界

 

「まあいろんな世界があるよ。中世風みたいな王権が続いてる世界もあるけど、ここみたいに文明が進んで、ハイテクな電子機器のある世界もある。多種多様だな」

 

 軽く、豆知識を披露する。

 

 >へー

 >シン日本が一番! っていう訳でもないのね

 

 そのあたりで、ステラちゃんがぱん、ぱんと手を叩く。

 

「まあそういうわけで、冒険者としてはベテランの方に来てもらったというわけですが……えーここ最近は少し物騒なのもありまして……ちょっとしばらく、Kさんには私の護衛をやってもらおう、とそういう話になりまして」

 

 >おお、やっと護衛が付くのか

 >ん? すると長期コラボみたいな?

 >おや……?

 >あっ……

 

「今回より、Kさんには色々冒険者としての極意を教えてもらう、題付けて先人に学ぼう! コーナーをやらせていただきます!」

 

 >うわああああああ

 >Kさん頑張ってください……

 >ステラちゃんと一緒に居て大丈夫……?

 >大丈夫ですよ!だいじょう

 >大丈夫じゃないやつー

 

「えっ何この反応は……」

 

 意外な反応だった。拒否感かまたは歓迎の言葉を掛けられるかと思ったが、むしろ心配されるとは。

 

「護衛を付けるのもギルドの方から配信再開する条件だったんですよね、せっかくだからついでに色々教えてもらおうと思いまして!」

 

 >ステラちゃん迷惑かけないでよ……?

 >おや知らない?

 >ステラちゃん大変っすよマジで

 >Kさん頑張ってください……

 

「え? 何? 何が起こるの?」

 

 >ステラちゃん大丈夫? 迷惑にならない?

 >ステラちゃん面倒ごと生成マシーンだから……

 >事件が起きますよ事件が!

 >前の時もそれでコラボ相手がもう一緒にやりたくないって……

 

「もー前の事は言わないでって! それでは行ってみましょー!」

「お、おー」

 

 ***

 

「さて、それではまずダンジョンを潜り始めたわけですが……まず何しましょうか!」

「その前に、色々俺の方から聞かせてもらっていい?」

「はい何でしょうか!」

「この世界のダンジョンってどういう扱いなの?」

「大分基本的なこと聞きましたね……」

 

 >異世界で冒険してきたベテランじゃなかったの?

 

「いや、こういうことは真っ先に確認したいところだ。なんでかっていうと世界によってダンジョン、モンスターなど……ファンタジー、冒険者を構成する要素の扱いは違ってくるからな」

「違う……ってどのくらいですか?」

「根本から違う。ある所では単に魔物の住む場所の総称だったりすれば、世界にダンジョンは一つしか存在せず、神域として扱われている所もある。または一切のダンジョンがない世界もある。所変わればその重要さも違ってくる」

 

 >なんか規模がすごい……

 >ロマンあふれる話ですね

 >なんか幻想的

 

「いや、この世界もすでにファンタジーに塗れてるんだが……魔法といいステータスと言い」

「こちらも異なる世界のダンジョンについてはまだ想像できても、一切ダンジョンのない世界は想像つきませんから……」

 

 >ダンジョンとかない世界で資源とかどうしてんのって話よね

 

「資源は地面や山から掘ったりすんだよ」

「じゃあ、そういうのを掘りつくしたり全部食べつくしたらどうするんです?」

「そうならないように管理するんだよ……とはいっても何十年後には資源がなくなるーとかずっと言われてたりなんたり……実際どうなってたのかは知らんが」

 

 >本当にそんな世界あるんですか?

 >適当言ってるんじゃ

 

「うるへー一般人が何でも知ってるわけないだろ、お前らだってなにも見ずに物流の仕組みとか言えんのか」

「まあそれもそうですが……」

 

 そもそも転生前が随分前の話だし、ほとんど覚えてないしな……

 

「まあ、ダンジョンも魔物も魔法もない世界ってのは大分極端だが、所変わればダンジョンの大事さ、危険度も違う」

 

 資源が無限にとれ、世界のかなめになっていれば、世界がダンジョンに浸食されて滅びかけって場合もある。

 大事なのは、その世界での扱いがどうなっているかという事だ。

 

「それでシン日本はどうかって話ですか? 普通にそこらへんに、自然発生のダンジョンがあってそこに冒険者が潜ってモンスターを倒してお金をかせぐって話ですが……」

「まずそこらへんってどの頻度? 街に一つ?」

「具体的な数字は資料を漁らないと分かりませんが、小さなダンジョンは森や山や洞窟のなか、廃屋廃村など人の寄り付かない場所に出来ると言われますけどねえ」

「えっ……一般人がうっかり入っちゃいそうな所に出来るんだな」

「そこはちゃんと子供のころから寄り付かないようにって言われますし……よく人が集まる所にダンジョンはたまにしか出現しませんし、そもそもダンジョン周りは人が入れないよう封鎖されるんですよ」

 

 安全対策としては妥当な所か。

 

「でも万が一ダンジョンが出来た時大きくならないように魔物を倒したり……時にはダンジョンごとブレイクしたり、というのが冒険者の仕事というわけでっす」

 

 ステラちゃんが誇らしげに言う。それなりに名誉のある仕事なのだというのがこれで分かった。

 

「なるほど、それでユニークモンスターがダンジョンの外に出るってのは大事になる訳だな」

「そうですね、人のいるところにモンスターが現れないように頑張って強くならなきゃいけないって訳です!」

 

 目を輝かせて言う。これで俺に弟子入りしたいって話になってくるわけだ。

 

「しかし、人に役に立つ仕事なのはいいが、それだけだと命を懸けてダンジョンを潜る旨味が少なくないか?」

「それはダンジョンの宝箱にあるアイテムを売ったりすれば結構稼げますもの。それなりに高給取りなお仕事なんですよ! そこにロマンを感じるという事で」

「なるほど」

「って、いま命を懸けるって言いました? あの……すいません、それにダンジョンで、死ぬってそんなことあるんですか?」

「え?」

 

 予想外の返答であった。

 

「死ぬことがないって体力削られ切って戦闘不能になったらどうなんの?」

「セーフティ処理の話ですよね? ダンジョン内で倒れた場合、リスポーンすることになりますわ。最初からやり直しというわけですね」

「おお……死なない親切仕様なのか久しぶりに見た」

 

 >久しぶりに見た???

 >異世界は違うの? 修羅の世界こわー

 

「最近は一撃即死とか部位破壊が永久とかそんなんばっかでな……そうか……死んでも死なないシステムかあ……」

 

 >命かけて魔物と戦うのはちょっと……

 >でも体力削られ切って目の前が真っ暗になるのは普通に怖くね?

 

「死んでも死なないってのが言葉だけ取ると確かに矛盾には塗れてないですか……?」

「だから普通はないというわけで……まあ大体は分かった。ずっと話してるのもなんだし、進みながら気になる事を聞いていくわ」

「あっはい!」

 

 

 と、その時だった。――ぐわん、と地面がゆれ。

 

『キシャアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 と魔物の声が聞こえ。

 

「イヤあああああああああ!!!!」

 

 と、女の子の悲鳴が聞こえたのは。

 

 >あっ

 >もう面倒ごと来たかー

 >ステラちゃんはこれだから……

 

 その声を聴いて、ステラちゃんは。

 

「困ってる人! 助けなきゃ!」

 

 と言って、何のためらいもなく、すぐさま駆け出して行った。

 

 ……全く。ステラちゃんも、そういう困った人を見捨てられない人間か。

 無論、俺もすぐさま後について行った。

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