星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト   作:再来アーク

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#12 夢幻の光、食卓の灯り。

 鮮烈な光が、見えた気がした。

 

 愛美は、昔から度々夢を見ている時に『これは夢だ』と認識する事があった。

 いわゆる明晰夢と称されるそれに最初は戸惑っていたものの、段々と自分の意思で自由に操れるようになってからは、夢は彼女にとって第2の現実となった。ダンス教室で習った動きの復習をしてみたり、ふと外で見かけた雲を実体化させ、枕にして寝たりとやりたい放題。愛美しかいない、愛美だけの自由な世界がそこにはあった。そんなおひとりさまワールドに変化が起きたのは、『Liella!』のライブリハーサルを観た翌日の事。愛美がいつも通り雲を枕にして寛いでいると、突如目の前に人影のようなものが現れたのだ。

 

『ねぇきみ、誰なの……?』

 

 今まで自分の他に生物が夢に出てくる事はなく、不思議に思った愛美は問いかけてみるも、人影は応答しない。それどころか、追いかけてみろと言わんばかりにスキップのような足取りで突如走り出してしまった。当然後を追う愛美であったが、自分の夢の中であるはずなのに中々追いつく事が出来ず、イタチごっこの状況が暫くの間続いた。

 

『ちょっと君待ちなって、変な事するつもりは無いからぁ~!』

 

 雲の上の世界を縦横無尽に走り続け、夢の中であるはずなのに愛美が息切れを感じ始めたタイミングで、人影が突如急停止し、後ろに振り向いた。訝しげな表情の愛美をしばらく見つめると、ソレは何やら言葉のようなものを発する。

 

『繧上◆縺励�縲√せ繧ッ繝シ繝ォ繧「繧、繝峨Ν』

 

『えっ、今何言って……』

 

 耳を突き刺す、スノーノイズのような不協和音。言葉にはとても聞こえないそれの意味を問おうとした途端に、愛美と影の距離が餅を引き伸ばしたかのように急速に離れていく。夢の終わりを告げる時空の歪曲であった。視界はあっという間に暗黒に染まり、背後からは太陽のように眩しい光が差す。結局あの人影が何だったのか、疑問を残したまま愛美の意識は途切れるのであった。

 

 ~~~

 

「ん、あふぅ……」

 

「おはようございます、愛美様。今日はお早いお目覚めでございますね」

 

「おはよ、小春さん。そんなに早いの?」

 

「えぇ。今、朝の6時半になりました」

 

「えぇっ。せっかくの休日なのに、なんか損した気分だなぁ……」

 

 自分を起こしに来た小春と他愛も無い会話を交わしながら、愛美は先程まで居た夢の中での出来事を思い出そうとする。眩い光に包まれ、表情どころか人間であるかすら怪しかった謎の存在。一体何を伝えようとしていたのか、そもそもあのノイズは言葉であったのか。考えを巡らせるも寝起きの朦朧とした頭脳ではいまいち思考が纏まらず、一旦朝ごはんでも食べてから考え直そうと思った愛美は、掛け布団をひったくると、朝の支度を済ませる為に駆け足で洗面所へ向かうのであった。

 

 ~~~

 

「おぉ。りょー姉、好美、おはよ~」

 

「おはようございます、愛美。こんな時間に起きてくるなんて珍しいですね」

 

「確かに。なんか悪い夢でも見たん?」

 

「うーん。悪夢って訳じゃないんだけどさ、なんか最初から最後までよく分からない夢だったんだよね。頭の中整理できたら、後で話すよ」

 

 手入れを済ませた愛美がリビングに入ると、先に起きて食卓に座っていた好美と梁園が、少し驚いた表情で彼女を見つめた。いつもの休日なら、愛美は大抵3度寝して+2時間ほど起床しないのが当たり前であるため、余程目を覚ましたくなるような悪夢でも見たのかと、心配した好美が彼女に問いかける。それに対し、あの夢の内容を説明しづらかった愛美は一旦返答を保留する事にし、2人と同じ食卓に腰を落ち付けた。

 

「おはよう愛美。こんなに早く起きてくるなんて珍しいね」

 

「おはよ、パパ。今日はお休み取れたの?」

 

「残念だが、昼から仕事だよ。大学で講演会をして欲しいとのお話があってね。今日はその打ち合わせなんだ」

 

「あはは、やっぱパパぐらいのお医者さんとなると大変だねぇ」

 

「すまないね、愛美。もう少し家にいられるようにしたいんだが、この調子だとまだまだ難しそうだよ」

 

「気にしないで。朝だけでも一緒に居られて私は嬉しいよ、パパ」

 

 ソファで寛いでいた優志にも早起きした事を心配され、愛美はとうとう苦笑いを返すしか無くなってしまう。それはそれとして、多忙な父が朝から家にいる事を珍しく思った愛美は、休みでも取ったのかと思い優志に問いかける。結果としては残念ながらそうではなかったのだが、それでも普段あまり一緒に居られない父親と少しでも長く過ごせる事を、愛美は嬉しく思うのだった。

 

「皆様、朝食のご用意が出来ました」

 

「ありがとう柚乃。じゃあ、皆で食べようか」

 

 朝食の準備が出来たと柚乃から声をかけられ、優志が食卓へ向かおうと立ち上がった時であった。リビングのドアが勢いよく開け放たれたかと思うと、今日子が疲労困憊と言った様子で項垂れながら入室してきたのだ。

 

「皆ただいまー……ってあら。全員揃ってるじゃん、珍しい」

 

「夜勤お疲れ様です、お母様。ちょうど朝食の準備が出来た所ですので、良かったらご一緒にいかがですか?」

 

「んぅ、食べる食べる……先に荷物置いてシャワー浴びてくるわ。んじゃ……」

 

「お荷物お運び致します、奥様。お風呂のご準備が出来ておりますので、どうぞこちらへ」

 

「ありがとね颯……」

 

 すぐさま傍に着いたメイドの颯に荷物を手渡すと、今日子はふらふらと揺らめきながら廊下の奥へと消えていった。いつも家では元気な姿を見せる今日子であったが、仕事柄多発する夜勤だけは未だに慣れないらしく、仕事明けは決まって数時間ほど魂が抜けたようになってしまうのである。いつも通りの風景に優志はくすりと笑みを浮かべながら、改めて食卓に腰を落ち着けるのだった。

 

 ~~~

 

「はぁぁ……夜勤明けのお味噌汁ってのはなんでこんなに美味いんだろうねぇ……」

 

「君が仕事を頑張ったからじゃないか、今日子。頑張れば頑張った程、その後の食事は美味しく感じるものだからね」

 

「もう、またそんな事言っちゃって」

 

「ふふっ、今日も2人はお熱いねぇ」

 

「トーゼンよ、だって夫婦なんだもの!」

 

 夫婦のいつものやり取りを茶化す愛美に、今日子は自信満々にそう答える。優志と今日子は、子供達がまだ幼い頃から家に2人揃うと隣にぴったりとくっついたまま離れなくなってしまう程に仲が良く、仕事等で長期間会えない時間が続いた時などは、もう何をするにも2人一緒で行動すると言わんばかりに密着して過ごす程であった。今は食事中である為流石に距離は置いているものの、机越しにアツいやり取りをしょっちゅう交わす始末であった。

 

「パパとママは相変わらずだなぁ。うちの親は日本一仲が良いってあたしゃ自信もって言えるよ」

 

「そうかしら。一番なのは嬉しいけど、私達みたいな夫婦なんて日本中探せばチラホラ居るんじゃない?」

 

「少なくとも、東家の2人には負けるさ。彼らは愛のレベルが違うからね」

 

「ねー。以心伝心ってやつよねあれは。まぁ互いに察し良くて気遣いが出来るってのもあるけど」

 

「東……もしや、その2人は東湊人さんと東詩穂さんでしょうか?」

 

 東家の名前を軽く引き合いに出した瞬間、焼き鯖を静かに噛み締めていた梁園が、今日子に質問をした。東家の2人が湊人と詩穂であるかとの問いに対し、梁園が少し前に自分に相談して来た事を思い出した今日子は、真剣な表情になって言葉を返す。

 

「うん、そうだよ。もう知ってるとは思うけど、東音羽くんの親御さん。私達の古い知り合いなんだ」

 

「馴れ初めから話せば長くなるが、とても良い人達だよ。梁園も会えばきっと気に入るはずさ」

 

「そうですか、それはぜひお会いしたいものです。こちらから、個人的に色々とお聞きしたい事もありますので」

 

「……音羽君の事についてかい?」

 

「えぇ」

 

 優志が音羽の名前を出した途端に、梁園の表情と声色がより真剣なものに変わる。音羽と双子が接触してからのここ数日、彼女はメイド達と手分けして彼に関するあらゆる情報を集めており、今日子が受けた相談というのも音羽についての事であった。

 

「りょー姉、この前音羽先輩を助けてくれたんだよね。先輩に絡んでた不良を軽くぶっ飛ばしたんでしょ?」

 

「えっ、進級早々暴力事件!?」

 

「何人相手にしたんだい?」

 

「お母様、お父様。冗談はお止め下さい。そもそも、不良を始末したのは私では無く美麗さんです。私とて公共の場で過剰に暴力を用いる事はしませんし、あくまで正当防衛です……。ともかく、先日私は東さんに会ってきました。軽く話した様子では特に怪しい人間では無いと判断しましたが……彼を完全に信用するには、まだ情報が足りないのです」

 

 この前の学校での一件を両親に揶揄われ、少ししかめっ面を見せる梁園であったが、すぐに平静を取り戻し、音羽に対しての印象を述べる。

 音羽に対して疑念を抱く態度を崩さない彼女に対し、愛美と好美もまた音羽に対しての自分の印象を話すことにした。

 

「りょー姉の気持ちは分かるけどさ、流石に音羽先輩を警戒しすぎじゃないかなぁ。あんなに誰にでも優しい人なんだし、少なくとも根っからの悪人じゃないとは思うけどねぇ」

 

「そうそう。女子ばっかりのスクールアイドル部で長い事サポーターやってて、何にも問題起こして無いわけだしさ。だって考えてみ? 男女が同じ部室に居るんだから、下心あったら途中で何かしらスケベ心とか、そんな感じのボロが出るもんだよ?」

 

「貴女達の言い分も理解出来ます。ですが、人間は外面など幾らでも取り繕えるのですよ。内心で何を思っているかなどすぐには分からないのですから、もっと慎重になるべきです」

 

「慎重にはなってるって、もう!」

 

「りょー姉は心配性だなぁ……」

 

 眉間の皺を深くしながら音羽をもっと警戒すべきと語る梁園に対し、双子達は心配のし過ぎだと反発する。音羽と愛美達が出会ってから既に1週間が過ぎ、きな子の入部騒動や新入生勧誘活動等で言葉を交わす中で、彼女達は音羽を誰に対しても誠実で優しい人物だと認識しており、そこまで過剰に警戒する必要は無いと思っていたのだ。意見が割れた事で姉妹間に不穏な空気が流れ始め、いよいよ言い争いになるかと思われたその時、彼女達を静止するように、

 肩に手が置かれた。

 

「梁園お嬢様。お言葉ではありますが、今は食事の時間でございます。この場で論戦を始められるのは宜しくないかと」

 

「柚乃さん……そうですね、申し訳ありません。少々意地になってしまいました」

 

「好美お嬢様! せっかくの家族団欒の時間ですのに、ここで喧嘩などしてしまっては台無しになってしまいますよ!」

 

「うぐっ、確かに……」

 

「愛美お嬢様、ここは一旦落ち着くべきです。感情に任せた討論ほど、無意味な物はございませんよ」

 

「は、はい……ごめんなさい……」

 

 いつの間にか背後に構えていたそれぞれの専属メイドに強めの語気で窘められ、3人は申し訳なさそうに俯く。普段は互いを思いやり尊重することが出来る三姉妹ではあるが、それぞれ我が強い故に、話し合いで意見が割れると度々喧嘩になってしまう事があった。いつもはぶつかり合う事もまた必要として誰も咎める事はしないのだが、これ以上ヒートアップして、せっかくの家族団欒の場が不快な雰囲気で終わるのは宜しくないと考えたメイド達が、独断で止めに入ったのであった。

 

「2人共、申し訳ありません。少々言い過ぎてしまいましたね」

 

「こっちこそごめん、りょー姉。あたし達、音羽センパイの事ちょっと気に入ってたからさ。ついムキになっちゃった」

 

「出会ったばかりなのはどっちも同じなのにね。ごめんなさい、りょー姉」

 

「はいはい、そんな湿っぽい顔しないの! 喧嘩なんていつもしてるんだし、納得できないなら後でじっくり話し合えば良いじゃない。ほら、鮭焼いたげたからこれ食べて元気出しなさい!」

 

 互いに非を認め謝罪する三姉妹。場の空気が少し暗くなりかけた所で、今日子がいつの間にか用意していた鮭の塩焼きをテーブルに並べた。香り立つ鮭に双子が目を輝かせる横で、母のさり気ない気遣いに梁園は軽く頭を下げた。

 

「私は、どっちの意見も間違っていないと思うよ。でも、音羽君とはまだ出会ったばかりなのだから、彼がどんな人なのかと結論を出すのは、交流を深めてからでも遅くないんじゃないかな?」

 

「そうですね、お父様。東さんは少なくとも悪人では無さそうですし、もう少し彼から直接話を聞いてみる事にします」

 

「私達も『Liella!』の偵察がてら、ちょくちょく音羽先輩に会いに行こっか、好美。まだまだお話したい事いっぱいあるし、きな子ちゃんの様子も見に行きたいしね」

 

「そだね、愛美。鬼塚さんのチャンネルで使える良いネタが見つかるかもだし! あ、りょー姉。話聞きたいからって音羽センパイの教室に殴り込んじゃダメだよ?」

 

「そんな大昔の不良みたいな真似はしませんよ……」

 

 いつも通りの和気藹々とした雰囲気に戻った西園寺家の面々。その風景を、少し離れた別の食卓からメイド達が見つめていた。

 

「ふぅ。さっきはどうなる事かと思いましたが、これにて一件落着ですね!」

 

「せっかく家族全員が揃っているというのに、喧嘩で気まずい雰囲気になっては勿体ないですからね」

 

 彩葉と小春が麦茶を飲みながら一息つく中、柚乃はなにやら考え込むように顎に手を当てていた。そんな彼女に、正面に座っていた別のメイドが話しかける。

 

「柚乃……何か、悩み事でも、あるのかしら……?」

 

「あぁ、冬姫。大した事ではないのだけれど、東音羽様の事が少し気になったのよ。人嫌いの梁園様が、初対面の相手にあんな評価をするのが珍しいと思ってね。冬姫は、東様について何か知っている事は無いの?」

 

「東様のご両親なら……よく知っているけど、彼の事は、名前ぐらいしか、知らないわね……。でも、きっとお嬢様は何か……東様から、感じ取ったのかも、知れないわね……梁園お嬢様は……勘が鋭いお方だから……」

 

「そうね。私も東様にお会いしてこの目で確かめたい気持ちはあるけれど、お嬢様を差し置いて個人的に会うのは、メイドとして気が引けるのよね……」

 

 少し辿たどしい口調で柚乃と話す彼女は、西園寺冬姫。柚乃、小春、彩葉と肩を並べる「四柱」最後の1人にして、西園寺家の現メイド長である。物静かで人見知りな性格故にコミュニケーションは些か不得意であるが、あらゆる動作を最適化した完璧な仕事ぶりは、まさに「背中で魅せる」タイプと言っても過言では無い。

 

「私も……東様に、お会いしたい、わね……あのお2人の子供だもの……きっと、素敵なお方なのでしょう……」

 

「冬姫、貴女さっきも言っていたけれど、東様のご両親とは知り合いなの?」

 

「えぇ……あの方達が作る曲の、ファン、だから……」

 

 表情に乏しい同期の珍しい微笑みに柚乃は驚きつつも、それだけ冬姫は東家の作る曲が好きなのだろうと1人納得し、焼きたての塩鮭を口に運ぶのであった。

 

「やっぱり、焼きたてが1番ね……!」

 

 ~~~

 

「へぇ、それでそのきな子ちゃんって子は、晴れてスクールアイドルになれたのね!」

 

「うん! まだきなちゃんの先輩として上手くやれてるか分からないけど、今の僕に出来る事なら何でもしてあげたいなって。それが、『Liella!』のサポーターの仕事だって思うから」

 

「人を導くというのは想像以上に難しい役目だ。自分の行動次第で、人間1人の進む未来が決まってしまうからね。「何をすべきか」をよく考えて、桜小路さんをしっかり導くんだぞ、音羽」

 

「うん。僕、頑張るよ」

 

 同時刻。ふんわりとした厚切りのフレンチトーストを頬張りながら、音羽はここ最近学校であった出来事を両親に報告していた。息子の晴れやかな顔に詩穂は嬉しそうに微笑み、湊人は人を導く事の難しさを息子に説く。父の言葉を受け、音羽は改めてサポーターとして、先輩として気を引き締めるのであった。

 

「そういえば音羽、最近西園寺さん家のお子さんと仲良くなったんでしょ?」

 

「えっ……何で知ってるの?」

 

「知ってるも何も、今日子ちゃん……あぁ、西園寺家さんとこのお母さんね? その人から昨日直接電話で聞いたんだもの」

 

「そうなのっ……!?」

 

「西園寺家のご両親とは数十年来の付き合いでね。今はそれぞれ私達の主治医を務めてくれているんだ」

 

「そうだったんだ……!」

 

 両親と西園寺家の意外な繋がりに驚く音羽。自分が考えている以上に世間は狭いのかもしれないと思いつつ、引き続きフレンチトーストを口に運ぶ。

 

「美麗君と仲良くなった時からいずれはこうなるかなって思ってたけれど、まさかこんなに早く仲良くなるなんて思わなかったわ。愛美ちゃんと好美ちゃん、家に帰ってからずっと音羽の話ばっかりしてるんですって。相当懐かれちゃってるわね?」

 

「あはは、おかげさまでね……でも、梁園さんには凄く警戒されてるみたいなんだ。スクールアイドルの男性サポーターっていうのが、気になるみたいで……」

 

「その事も優志君から聞いているよ。確かに、女性スクールアイドルグループの男性サポーターというのはほぼ前例が無い。悲しい事だが、必ず怪しまれる立場ではあるからね……」

 

 そう言うと、湊人は顔を顰める。日々の仕事の合間に、彼はスクールアイドルの男性サポーターについてある程度調べていた。出てくるのは、サポーターとアイドル間で起きたトラブルばかり。存在自体がファン間で半ば疎まれる中で、音羽のみが世間に受け入れられている「例外中の例外」である事。湊人は、改めて息子が茨の道を歩んでいる事を理解し、父親として何が伝えられるかを考え続けていた。

 

「その上でだ、音羽。それでも、自分の為すべき事を為しなさい。お前を見てくれている人は、味方になってくれる人は……周りに沢山いるはずだ。()()()()と自分の意志を貫き通せば……きっと、評価は後から着いてくるはずだよ」

 

「父さん……」

 

 湊人は、生まれてから何十年も間、血のにじむ様な努力をし続けて来た。その根底にあったのは、「凄い音楽家になる為」という夢。幼き日に抱いたそれは、時に呪いとなって彼を蝕む事もありつつも、精神の原動力となって湊人を確かに突き動かし続けていた。そして音羽もまた、自分と同じように夢を力として前に進み続けている事を、親として理解していた。

 

「前にも言ったとは思うが……音羽、お前は私とは違う。夢を叶える力もあるし、頼れる友達もいる。お前が誰かの為に頑張る姿を見れば、きっと、梁園さんも分かってくれるはずだ」

 

「人間、第一印象が最悪なんて事はザラにあるわよ。大事なのは、その人に認めて貰う為に何をするかって事。まぁ音羽なら、いつも通りにしてたら大丈夫だとは思うけどね!」

 

「……そうだね。うん、そうだ。悩んでたら、怖がってたら何も始まらないよね。僕は、皆の為にスクールアイドル部に居る。『Liella!』の皆と夢を叶える為に、サポーターをやりたいんだ。何を言われたって……それは変わらない。何があっても、それだけは譲れない」

 

 両親の言葉を受け、真剣な表情で宣言する音羽。彼の芯は、結ヶ丘で過ごした1年間で既に揺るがないものとなっていた。学校の皆の為に、自分を救ってくれた大切な5人の親友の為に。彼は全力を尽くすと決めていた。そして、今は相容れない立場の梁園に対しても、その気持ちは変わらなかった。

 

「梁園さんにも、スクールアイドルの楽しさを知って欲しいんだ。でも、入部して欲しいとかそういう訳じゃなくて。梁園さんがスクールアイドルの曲や踊りを少しでも楽しんでくれたら嬉しいなって、そう思うんだ。お節介かもしれないけどね……?」

 

「ふふっ。良い目標じゃない、音羽」

 

「あぁ。誰に対しても寄り添えるのが、音羽の良い所だからな」

 

「えへへ、そうかなぁ。僕はただ、皆に幸せになって欲しいだけだよ」

 

 照れくさそうに音羽が笑い、食卓に笑顔の花が咲く。自分のやるべき事を再確認した音羽は、フレンチトーストの残り1切れを口いっぱいに頬張り、満面の笑みを浮かべるのであった。

 

「んっ……美味しい!」




暖かな食卓、溢れる笑顔。
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