星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト 作:再来アーク
4月も半ばに差し掛かったとある日の昼休み。中庭の大木の下に、カラフルな包みを手に持って集まった数人の男女がベンチに腰を下ろしていた。その中心で一際大きな包みを抱えた愛美が、皆に向かって軽く頭を下げる。
「みんな、今日はお昼ご飯に付き合ってくれてありがとうねぇ」
「良いよ良いよ! 私達も愛美ちゃんとゆっくり話したかったし!」
「西園寺さん、休憩時間とかにグミとかちょくちょくつまんだりしてるっしょ? ならお昼ご飯は一体どんなもの食べてるのかなって思ってさ。私らにとってもちょうど良いタイミングだったわけよ」
「なんか俺らも流れで来たけどさ、これ男子も入って良いタイプの集まりなのか?」
「全然良いよ~。私は性別関係なくウェルカムだからねぇ」
「そうか。んじゃ、ありがたくご一緒させて貰おうかね」
普通科・音楽科問わず集まった数人の男女。いずれも、愛美が入学後に声をかけて仲を深めた同級生達である。仲良くなったからにはやってみたいと愛美が所謂「お弁当会」を計画し、それに賛同した数人がここに集まったというのが事の流れであった。
「ところで西園寺さん、それ1人で食べるの……?」
「8割くらいはね。今日は皆に分けるぶんのおかずを多く作ってもらったから、いつもはもうちょっと小さいんだけどね」
「いや、俺らに分けても大概な量残らないかそれ?」
「西園寺、お前フードファイターでも目指してんのかよ……」
男子生徒が怪訝そうな顔で指差した愛美の弁当箱はおせちや会席料理に使われる重箱じみた形をしており、とても1人分とは思えない凄まじいサイズ感で周りを圧倒していた。周りの信じられないと言わんばかりの目線をその身に受けた愛美は、ふふんと自慢げな表情を作る。
「あははっ、よく言われるねぇ。でもね、私はこれでも量より味を楽しみたい派なのですよ」
「うそつけぃ」
「その量持ってきてる人が言っても説得力無いと思うよ……?」
「へへ、バレたか」
「バレるもクソもねぇだろ……」
見え透いた嘘に鋭くツッコまれ、愛美はわざとらしく舌を出して笑う。そんな彼女の仕草に周りもつられて笑いだし、中庭に明るい声が響いた。そうしてひとしきり笑っていると、空腹に耐えかねた身体が、ぎゅうと鈍い音を鳴らす。
「ふぅ……それじゃ、そろそろ食べよっか!」
愛美の号令に合わせ、その場にいた全員が弁当箱を開け、手を合わせた。
~~~
「そういえばさ、愛美ちゃんってきな子ちゃんと知り合いなんでしょ?」
「うん、入学前に知り合ってねぇ。そこから色々あって、友達になってくれたんだ」
「その色々っての、ちょっと気になるな」
「あはは、それはまた今度ね」
「そういえば最近のきな子ちゃん、いつも疲れてる感じあるよね。大丈夫かな……?」
「あぁ、なんか最近いつもヘロヘロになってるよなアイツ」
「あれは運動部に入った奴の疲れ方だぞ。スクールアイドル部ってのはそんなにハードなのか?」
普通科の面々から話題に上がったのは、最近のきな子の様子であった。何やら不穏な内容に、聞き耳を立てていた愛美は思わず口を挟む。
「きな子ちゃん、教室でもそんな感じなの……?」
「うん。ここ最近は特にね。私達が理由を聞いても『きな子がへなちょこだから』の一点張りでさぁ」
「ンな言い方されたら、こっちも嫌でも気になっちまうだろ」
「うちのクラスなんか、桜小路さんの話を聞いて『Liella!』の先輩達を避けてる子がチラホラいるみたいだよ」
「桜小路がめちゃくちゃ頑張ってるのは分かるけど、心配になったりビビったりする奴らが出てくるのも当然って感じだよな」
「そっか、きな子ちゃん……」
同級生の話を聞いた愛美は、ここ最近のきな子の様子を思い出す。放課後、練習前に愛美に会いに音楽科の教室にやって来るきな子は、時折どこか魂の抜けたような脱力した表情をしている事が多く、その度に糖分補給と称して飴を渡したり、ハンドマッサージを施したり、話を聞いてあげたりと、愛美なりに少しでもきな子の疲労を和らげる為に行動していた。しかし、クラスメートの話を聞く限りでは、きな子の身体と精神の疲労は思っていた以上に蓄積されているようで、愛美は眉間に皺を寄せる。
「やっぱりさ。皆もスクールアイドル部を、厳しい部活だって思ってたりするの?」
「多少は厳しいだろ。去年出来たばっかなのに大会であんなに凄い成績出した部活なんだし」
「そうそう。それに桜小路はまだ入部したばっかなんだから、ヘロヘロになって当然だよ。あーいうのは結局慣れなんだからさ」
「勧誘してる先輩達も悪い人とは思わないんだけど……やっぱり、実績出してる部活に入るってなると、気が引けちゃうんだよねぇ……」
「その点さ、桜小路さんはガッツあるよ。北海道からやって来て即スクドル部に入部しちゃったんだから。私は桜小路さんの事、応援したいなって思うな」
「あの天然ぶりでやってけるのか心配になるけどな、俺は……」
「愛美ちゃん的にはさ、スクドル部とかきな子ちゃんの事とか、どう思ってるの?」
「私かい? そうだねぇ……」
同級生に意見を求められた愛美は、ミートボールを一気に口の中に放り込むと少しの間俯き、飲み込むと同時に顔を上げ、口を開いた。
「私は、きな子ちゃんを応援したいかな。今あんなに辛そうなのは、きっときな子ちゃんが凄く頑張ってる証拠だと思うから。『Liella!』の先輩も、きな子ちゃんと一緒にステージに立ちたいから、妥協せずに練習させてるのかなって私は思うよ」
「おぉ、なんか意外とシビアだね」
「そうかい? 私はきな子ちゃんを信じてあげたいだけだよ〜」
「まぁ何だかんだ言ったけど、桜小路の応援くらいはしてやるか」
「そうだな、俺らもアイツに負けてらんないし。まずは県大会突破だな!」
「私らも発表会に向けて練習しなきゃだね。結ヶ丘はスクールアイドルだけじゃないってのを見せつけてやらなきゃ!」
「そうだね!」
「ふふ、皆やる気があって良いねぇ」
それぞれの目標に向けて意気込む同級生達を見ながら、愛美は嬉しそうに微笑む。たとえ皆から心配されるような情けない姿だとしても、きな子の頑張る姿が周りに確実な影響を与えている。その事実を知れただけでも、愛美にとっては大収穫であった。それと同時に、今以上に友人として、これからもきな子を支えると密かに決意するのであった。そうして昼食を楽しんでいると、中庭の方面から2人の女子生徒がこちらに向かって来ていた。
「ちょ~っとそこの学生さん。今お時間よろしいですの?」
「ん、私達に何か用?」
「げっ、お前らかよ」
「げっとは何ですの失礼な!」
「別に怪しいもんじゃないから良いでしょー?」
特徴的な高めの声を響かせながら、どすどすと地団駄を踏む女子生徒と、ハンディカメラを片手に持ち、そんな彼女を宥めながら男子生徒に文句を言うもう1人の生徒。その顔に見覚えがあった愛美は、2人の名前を呼ぶ。
「鬼塚さんと好美じゃん。2人とも何してるの?」
「オニナッツチャンネルの撮影に決まってますの! 今日は学校生活インタビュー第1回。入学ホヤホヤの新入生からリサーチですのっ!」
「やっほー愛美。私はアシスタントでカメラマンやってんの! ちゅー訳で皆にお話聞きたいんだけどさ、今大丈夫?」
「はーい、私やるやる!」
「顔と声に加工してくれるなら良いよ」
「やだね。炎上騒ぎに巻き込まれたくねぇし」
「俺はやろっかな。なんかおもろそうだし」
「皆さん概ね協力的で助かりますの! それではそこの貴方、高校生活を始めて驚いた事は……」
「ふふっ、良いねぇ。青春だねぇ」
元気良くインタビューを開始する夏美と、ノリノリで生徒達にカメラを向ける好美。一気に騒がしくなった空間の中で、愛美は皆の笑い声に耳を傾けながら『これが青春ってやつなのかな』などとぼんやり考えながら、大きめの唐揚げを口いっぱいに頬張るのであった。
~~〜
「スクールアイドル部です! 只今部員を募集しています……! 体験入部だけでも大丈夫ですので、是非お越しください!」
時を同じくして1年生の教室前。音羽は今日も『Liella!』のサポーターとして、他のメンバーと手分けして精力的に新入生勧誘を行っていた。前回はプラカードを持っての声掛け中心であったが、今回は嗜好を変えてチラシ配り作戦へと変更する事となった。可可がデザインを手掛けたそれは、奇しくも音羽がかのん達スクールアイドルと出会うきっかけになったものと似たデザインとなっていた。自分と皆を繋げたチラシで、今度は自分が誰かとスクールアイドルを繋げる橋渡し役になれる。その事に音羽は一抹の嬉しさを覚えながら、行き交う新入生にチラシを配っていく、つもりだったのだが。
「あ、えっと……大丈夫ですっ!」
「私も遠慮しておきます……」
「他に入部を検討してる部活があるので、それでは……!」
新入生達は音羽の姿を見るや、まるで怖い教師に見つかったかのように顔を強張らせて去っていったり、興味がないと言った様子で通り過ぎていく始末。同級生のヤエ達から『Liella!』を取り巻く現状について聞いているとはいえ、ここまで避けられては流石の音羽も少し気が沈んでしまう。だが、ここで落ち込んでいても仕方ないと自分で自分を奮起させ、より声を張り上げて、遠くの新入生にも伝わるように勧誘を再開する。そんな音羽の背後から、複数の足音が迫っていた。
「早くしろよ! カルボナーラパン売り切れちまうだろ!」
「分かってるって!」
「うわっ、あっ……!」
「あっ、やば……おい待てって!」
購買の限定パンを買う為か、急いで走ってきた男子生徒達のうち1人とぶつかった音羽は、その衝撃でチラシを廊下にばらまいてしまった。体制を崩した音羽に目もくれず男子生徒達が走り去っていく中、ぶつかった生徒のみは少しだけ音羽の方に目線を向けたものの、特に駆け寄ったり声を掛ける事もせずに走り去ってしまった。
「あわわ、チラシが……あぁっ、風で……」
すぐに立ち上がって散らばったチラシを拾い集めようとする音羽であったが、運悪く吹いてきた風がチラシをさらに遠くへと運んでしまう。紙吹雪のように舞い散るそれを集めようと手を伸ばした、その時だった。
「これ、あなたの?」
「は、はい……」
「手伝う」
「あ……ありがとうございます!」
突如音羽の傍に現れた白衣姿の女子生徒。整えられた青空色のミディアムヘアーに、どことなくかのんに似た形の一対の前髪。隙間から除く耳には、茜色のピアスがきらりと輝いていた。彼女は風で飛ばされた分のチラシまで素早く拾い集め整えると、音羽にその束を差し出した。
「はい」
「すみません、手伝って下さってありがとうございます……!」
「私はただ通りがかっただけ。礼には及ばない」
「それでも、ありがとうございます。本当に助かりました……」
「ん……」
深々と頭を下げてチラシを集めてくれたお礼を伝える音羽に、少女は冷静に応じる。正面から改めて彼女の服装と表情を見た音羽は、即座に頭に浮かんだ疑問を本人に問うてみる事にした。
「あの……人違いだったら申し訳ないんですが、もしかして、若菜四季さんですか……?」
「……そう、私。でも、何で名前を?」
「後輩の子から名前と服装だけ聞いてまして。白衣を着てたので、そうかなと思ったんです。いきなり聞いちゃってすいません……」
「構わない。でも、もう知っているなら……話は早い」
「えっ……?」
音羽の問いに、少女はあっさりと肯定を返す。彼女こそ、愛美が話していた「若菜四季」その人であったのだ。その事実に、音羽は少しの嬉しさと幸運を感じていた。放課後から彼女とコンタクトを取る為に聞き込みを始めようと考え始めていた彼にとって、このタイミングで四季に出会えた事はまたとない幸運であったのだ。一方、そんな彼女の目線は、音羽の持つチラシの束へと向けられていた。
「……部員、募集してるの?」
「はい。最近入ってくれた子が一人いるんですけど、何処か心細いみたいで。一緒に頑張ってくれる人達がいれば、その子も寂しくないかなって思って、まだ続けてるんです」
「……そうなんだ」
「先輩として、出来る事は何でもしてあげたいんです。1人は辛いですから……」
練習中のきな子が脳裏に過り、音羽の表情に影が落ちる。彼自身、とある理由で長らく孤独に苛まれた経験から、今のきな子1人の状況は傍から見ていて心苦しいものであった。スクールアイドルを通じて、どんな時も同じ目線で、同じ歩幅で支え合える仲間に出会えた音羽としては、きな子にも、そしてこれから出会う新入部員達にも。自分と同じような素敵な出会いがあって欲しいと思っている。その為にも、まずは先輩である自分がその橋渡しとなるべく、こうして精力的に勧誘を続けていたのだ。
「僕達には『ラブライブ!』で優勝するっていう大きな目標があります。でも同じくらいに、スクールアイドルを始めてくれた皆には、笑顔でいて欲しい。やって良かったって思って欲しいんです。その為なら僕は何でもやります。僕は『Liella!』のサポーターですから」
「……成程」
「あっ……す、すみませんっ! 話長かったですよね……? ちょっと熱が入りすぎてしまって……」
「構わない。これは1枚、貰っておく」
熱く語りすぎたと申し訳なさそうな表情をする音羽。そんな彼の手元から、四季はチラシを1枚、音羽が一瞬気づかない程に繊細に、手早く引き抜いた。いつの間にかチラシを持っている四季に音羽は驚きつつも、感謝の気持ちを伝える為に深く頭を下げる。
「ありがとうございます……! 若菜さんも、もし興味があればいつでも部室に来て下さい。お待ちしてます!」
「うん。出会えると良いね、有望株」
初めて勧誘チラシを受け取って貰えたのもあって、嬉しそうに顔を綻ばせる音羽。四季はそんな彼の柔らかい表情を数秒間見つめると、ほんの少しだけ微笑んだ。
「……じゃあ、
「あ……はいっ、また!」
音羽にそう短く告げると、四季は白衣を翻しながら颯爽と歩き去ってしまった。そんな彼女を見送った音羽は、先輩と呼ばれた事に少し嬉しさを覚えつつも、まるで風の如く現れ去っていった四季に、少し不思議な人という印象を抱いていた。
「またって事は……スクールアイドルに、興味持ってくれてるのかな……?」
去り際に四季が言い残した、『またね』という一言。何気なく言っただけなのか、それともスクールアイドルに関心を抱き、体験入部に参加しようと思ったからこそなのか。今の音羽には当然彼女の本心を知る由は無く、どれだけ考えようともあくまで推測に過ぎない。だが、チラシを受け取って貰えたのは紛れもない事実。前向きに入部を考えてくれていると一先ず結論付け、音羽は再びその清らかな声を張り上げて勧誘活動を再開するのであった。
~~~
音羽が勧誘を行っていた場所から少し離れた渡り廊下。風で遠くに飛ばされ床に落ちた部の勧誘チラシを拾い上げる一人の女子生徒がいた。彼女はチラシを丁寧に折りたたんでポケットにしまった後、音羽のいる方向に振り向いた。
「東さん、そしてスクールアイドル部。私は貴方達を、もっと知る必要がありそうですね」
西園寺三姉妹の長女、西園寺梁園。勧誘に励む音羽を、彼女は階段の影から鋭い目つきで見据えていた。