星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト 作:再来アーク
もし気に入って頂けましたら、お気に入り、評価等よろしくお願い致します。
また本作品では、すみれちゃんの妹さんの名前を「平安名つばき」ちゃんと独自に設定しております。ご了承ください。
誰に咎められる事もなく、校舎へと無事侵入出来た3人。春休みで休校となっている間も各部活が練習の為に学校の施設を使用しており、3人は結ヶ丘の制服を着ていたが故に在校生だと勘違いされ、校内まで辿り着く事が出来たのである。愛美と好美を呼び出した先輩なる人物が待つ場所へ向かうべく、3人は早速校内探索を始めた。
「えっと、確か屋上に続く階段は……あっ、これかなぁ?」
「中々急な角度の階段だね!?」
「でも、何だか安心する雰囲気の階段っすね」
「それ分かるかも。レトロって感じで落ち着くよねぇ」
「それじゃ早速行こっか。千砂都先輩の事待たせちゃ悪いし!」
「そうだね。桜小路さん、足は大丈夫そう?」
「も、もう大丈夫っすよ! この通りピンピ……あだっ!」
「あわわ……筋肉に疲労が溜まってるのに、そんな動かし方したらダメだって! ゆっくり行こうよ、ね?」
「め、面目ないっす……」
急に身体を動かした事により、筋肉が悲鳴をあげるような鋭い痛みに襲われたきな子。
言わんこっちゃないと言った表情を浮かべて助けに入った好美に支えられながら、再びゆっくりと階段を登り始める。
「そういえば、2人の用事ってどんな事なんすか? 先輩に呼ばれたとは言ってたっすけど……あっ、言いにくいようだったら全然答えなくても大丈夫っす!」
「あははっ、後ろめたいことじゃないから大丈夫だよぉ。私達はね、この学校のスクールアイドル、『Liella!』に会いに来たんだ」
「りえら……すくーる、あいどる……??」
「おぉ、もしかしてスクールアイドル知らない系?」
「はいっす。何が何だか、ちんぷんかんぷんっす……」
「ふふっ、会えばすぐに分かるよ」
スクールアイドル、『Liella!』。愛美が口にしたその言葉にきな子は全く思い当たりが無く、不思議そうに首を傾げる。スクールアイドル文化が盛んなこの辺りの地域では知らない人間の方が少ない単語ではあるが、たとえ高名なスクールアイドルといえど、あくまで学校の部活の範囲内に収まる規模で活動している事が殆どであり、全国的なニュース番組で取り上げられる事はあれど、知名度は地域によってまばらなのが現状であった。それ故にスクールアイドルに触れないまま過ごす人間も少なくは無い。きな子も、そうしたスクールアイドルを知らない人間のうちの1人であった。
「ほぇー……さっき言ってた千砂都先輩って人も、その『Liella!』って所にいるんすか?」
「うんっ! ちさちゃ……んんっ、千砂都先輩は本当に凄い人なんだよっ!」
「何たって、去年の全日本高校生ダンス選手権の覇者だからね。本当に物凄い人だよぉ」
「ええっ!? そ、そんなすごい人に、きな子が会っちゃって良いんすか……?」
「大丈夫だよ。千砂都先輩は優しい人だし、きっと桜小路さんにも良くしてくれるよ」
「練習の時はすんごい怖いんだけどね!」
「こら好美、そんな事言わないの」
「にゃはは、ごめんごめん。あっ、あの扉かな?」
「凄く元気な声が聞こえて来るっすね」
「少し覗いて……っと、今は練習中だね。ちょっと待ってよっか」
「りょーかい!」
「は、はいっす!」
きな子達が屋上に近づくにつれ、活発な掛け声が階段の中にまで響くようになって来ていた。様子見の為に一足先に戸を覗いた愛美は『Liella!』のメンバーらしき数人がまだ練習中である事を確認し、一先ず踊り場で待機するように提案する。きな子と好美は直ぐに賛同し、3人は一旦踊り場まで降りて息を潜めることにしたのだった。
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「はい、今日はここまで。みんなお疲れ様!」
今日最後の通し練習が終わり、音羽の凛とした号令が屋上に響いたのを合図に、『Liella!』メンバーが身体の力を抜く。
この1年を通して各々の身体能力は劇的に上昇し、スタミナも始めた当初から比べれば並大抵のものではなくなっているのだが、それでも、ラブライブを見据えた通し練習を何時間も続けていれば、疲労が溜まるのは当然の帰結であった。
タオルと飲み物を持参した音羽がすぐさま駆けつけて素早く手渡していき、皆も笑顔を返してそれを受け取っていく。
「ふぅっ……おとちゃんもお疲れ様!」
「ヤッパリ通し練習はキツいデスね……」
「昨日の練習から改善点を直しに直してメニューを調整したからね。おとくんが休んでる間に作り貯めててくれた曲の練習もあるし、益々頑張らなきゃ。ね、おとくん!」
「うんっ。『ラブライブ!』の為にも、今から気になる所は無くして行かなきゃいけないしね。でも皆凄いよ! さっき僕が気づいた所、全部出来るようになってる!」
音羽は、この短期間での皆の上達ぶりを実感し、嬉しそうに顔を綻ばせる。そんな彼の様子を、千砂都は優しい表情で見つめていた。
音羽が復帰してからというものの、千砂都は毎夜通話アプリを用いて音羽と通話を行い、メンバーの習熟度や個人差に合わせた練習メニューを逐一更新し続けていた。『Liella!』の更なるレベルアップの為の取り組みと言うのもあるが、音羽との会話を通じて、彼が無理をしていないかを見定める目的もあった。
『Liella!』東京予選敗退後、自責と失意に苛まれ、半ば廃人と化してしまった音羽。
皆の言葉と想い、献身的な支えによって心身共に回復こそしたものの、仲間の為に無理をしてしまう性分や、サポーターと生徒会副会長の兼任による激務によって未だ心身に甚大な負担がかかってしまっているのは事実であり、彼にサポート技術を教えこんだ師匠として、そして『Liella!』の仲間として、自分なりのやり方で音羽を支える為に、そして何より、音羽を二度とあんな悲惨な状況に陥らせたくないという強い想い故の行動であった。
「ふっ、これくらい朝飯前よ」
「ククはチョットキツいデス……皆サンとの差を感じマス……」
「そんな事ないよ、可可ちゃん。私とスクールアイドルを始めた時と比べたら、すっごく上達してる。腹筋ももう3ケタ近くまで出来るようになってるし、自信持って良いよ!」
「かのん……!」
「でも、何か新しい刺激が欲しいのも事実なのよね。モチベーションが上がって、新しいアイデアが溢れ出るみたいな、そんなギャラクシーな何かが……!」
「やっぱり欲しいよね、新入生……」
千砂都の呟きに、一同は渋い顔をしながら相槌を打つ。その中でも一際渋い顔をしながら考え込んでいたかのんが、溌剌とした声で元気良く手を挙げた。
「ねぇ、皆。知り合いに結ヶ丘に入学する子とかいたらさ、今の内から誘っておこうよ。他の部活に取られちゃう前に!」
「えぇっ、それって良いのかな。まだ入学もしてないのに、何だかズルしてるみたい……」
「甘いわね音羽。部活だって生存競争、どこの部も今ぐらいになったら知り合いに声掛けを始めてるわ。甘えてたら、あっという間に新入生奪われちゃうわよ?」
「そ、そうなんだね……」
「かといって、私の周りに入学予定の知り合いは居ないんだけど。つばきは……あぁ、妹の事ね。あの子はまだ小学生だし」
「私の周りにも居ませんね。恥ずかしながら、昔から交友関係があまり広くなくて……」
「ククの友達ハ全員上海に居マスので、誘うとしてモほぼ無理デスね。留学シタイって話も聞いて居マセンし」
「言い出しっぺで申し訳ないけど、私の所もかな。ありあは別の高校に進学するって言ってたし、年下の友達なんていないしなぁ……」
「僕も居ないかな。恋ちゃんや美麗さん、『Liella!』の皆以外でそんなに友達がいる訳じゃないし、年下の子と最後に関わったのが音楽教室の時だから……うん、居ないね……」
「んぁぁぁ……このままじゃお先真っ暗まっしぐらだよぉ……」
入学予定がある自分達の身近な知り合いに勧誘を行えば、スクールアイドル部の新入生を確実に確保出来ると考えたかのんは、皆に入学予定のある知り合いが居ないかを尋ねるも、それぞれの理由で心当たりがないと告げられる。言い出しっぺのかのんも特に思い当たる知り合いは見つからず、頭を抱えてうずくまってしまう。
音羽と恋が縮こまるかのんを宥める中、唯一答えを返していなかった千砂都が、何やら得意げな顔をして口を開いた。
「ふっふっふ。実は今日呼んでるんだよね、期待出来そうな新入生……!」
「えっ、ちぃちゃん本当っ!?」
「本当だよ。しかも2人! 女の子!!」
「お、女の子が2人デスか!!」
「凄いよ千砂都ちゃんっ! もしかして、もう声をかけてたの?」
「うん! 私が通ってるダンス教室に、今年結ヶ丘に入学する子が何人かいてね。私的にもその子達なら『Liella!』に興味を持ってくれそうかなって思って声を掛けたんだ。そしたら、その2人が1回見学させて下さいって言ってくれたの!」
皆からの賞賛の声を受け、千砂都は誇らしげな顔をする。
新設校である結ヶ丘の初の新入生。どの部活も存続とさらなる発展の為に新戦力を欲するはず。勧誘が激化し、新入生争奪戦が過酷なものになると予想していた千砂都は、自身の通うダンス教室に結ヶ丘への入学予定者が多かった事に着目し、予め期待出来そうな数人に声を掛けていたのだ。結果、そのうち2人が見学を希望し、今日この日に呼び出したといった流れであった。
「やるじゃないの千砂都!」
「流石千砂都さん、抜け目がありませんね。それで、その方達はいついらっしゃるのですか?」
「練習終わりぐらいに来て欲しいって連絡してるはずだから、もう来るはずだよ。時間は必ず守ってくれる子達だから、遅れたり来るのを忘れたりって事は無いはずだけど……」
少し心配そうな顔をして扉を見つめる一同。すると、ドアの方から慌ただしい足音と何かが倒れる様な衝撃音が響き……
「はにゃぁ!!」
「ちょ、きな子ちゃ、ぎゃんっ!」
「ちょ、へぶぅっ!!」
……扉の奥に隠れていたきな子達3人が、折り重なる様に倒れて来た。
「……しまった」
「時間バッチリだけど……とりあえず、怪我は無い?」
「なはは……早く着きすぎちゃって、隠れてました……」
「ぐ、ぐるじぃ……」
「あぁっ、きな子ちゃんごめんね!」
「はひ……」
突然の出来事にLiella! メンバーがフリーズする中、一足先に困り顔で声を掛けた千砂都に、好美が照れくさそうに答える。
真っ先に転けたきな子は、2人の下敷きとなって苦悶の声を上げており、気づいた2人が慌ててその場から離れ、事なきを得た。
「えっと、千砂都ちゃん。その子達が例の……?」
「うん。3人の内の2人はそうなんだけど、もう1人は……」
「もしかして……貴女も新入生!?」
「いや、えっと、その……はい……」
「「「わぁ〜っ!!!」」」
あまりの圧に押されたというのもあるが、聞かれたからには返答するしかない。
おずおずと控えめな声色で、きな子は自身が結ヶ丘の新入生であると打ち明けると、『Liella!』6人は歓喜と興奮に満ち満ちた声を空に響かせる。
かのん達が、今の今まで待ち望んでいた新入生。勧誘の目処も立たず、不安に駆られていた皆にとってはまたとない吉報であり、それがなんと3倍ともなれば、テンションが最高潮へ跳ね上がるのも必然であった。
「後輩!? 後輩デスよね!? かわいいデスぅ〜!!」
「ちょっ……待ちなさいよ! なに先に話しかけてるのよ!!」
「ここは生徒会長の私が……!!」
「はわわわ……」
「あらら、桜小路さん大人気だねぇ」
「あははっ! きな子ちゃん、何だか怯えてるハムスターみたい!」
「愛美ちゃんと好美ちゃんもよく来たねっ! ようこそ『Liella!』へ!!」
「おおっ、ちさちゃん先輩顔近いですぅ……」
「千砂都先輩、あの子実は……」
「もしかして、スクールアイドル部に入部希望?」
「えっ、スクールアイドル……?」
「だって、新入生でしょ? スクールアイドル部は、れっきとした部活だよ!」
「は、はぁ……」
「あー、やばいんじゃないこれ……?」
「ど、どーしよ……」
きな子が恋、すみれ、可可に囲まれてしどろもどろになっている中、傍に避けて様子を見守っていた愛美と好美の元に千砂都が駆け寄ってくる。
ダンス教室で見る彼女とはあまりに違うハイテンションっぷりに少し気圧されつつも、愛美はきな子の事情を説明する為に口を開こうとするも、その前に千砂都がきな子にここへ来た目的を問いかけた為、最後まで言えずじまいとなってしまう。
千砂都の問いに疑念を浮かべ、首を傾げるきな子。続いて恋も期待の眼差しで彼女を見つめ、その熱の篭った眼差しにきな子は思わず顔を引きつらせ、愛美達はどうやら不味い方向へ話が進みそうだと苦笑いを浮かべる。
「ありがとうございます、ありがとうございます……」
「ずっとこの日を待ってたんだよぉ……!」
「え、えっと……」
「まったくもう、素直じゃない子ねぇ……!」
「一緒にヒカリを追い求めマショウ……!」
「あ、あのぅ……」
次々と何かしらの期待を込めた言葉をかけられ続け、きな子は自分がこの生徒達からどうやら『スクールアイドル部』なるものの入部希望者だと思われていると実感し、焦りを覚える。
このままでは、新天地での再出発からつまづいてしまいかねないと確信したきな子は、自身の意志を伝える為に大きく息を吸い込む。
「ようこそ、『Liella!』へ!!」
「ち、違うっ……違うんすよぉっ!!」
「えっ……そ、そうなの?」
「ここに来たのは、道に迷ってた所を助けられて、訳あって一緒に着いてきただけで……」
「皆、その子は……?」
突然の告白に皆が面食らった様子になる中、先陣を切ってかのんがそう聞くと、きな子は自身が道に迷った所を愛美達に助けられ、理由があって同行していただけだと説明する。
その場の空気が静まり返ったタイミングで、音羽がゆっくりと前に出る。
音羽も話しかけるタイミングを伺っていたのだが、異常な速さで捲し立てる皆の勢いに押されて介入出来ずにいたのだ。
「えっと、驚かせちゃってごめんね……。皆、初めての後輩だから凄く嬉しくなっちゃったんだと思うんだ……」
「は、はい……」
「道に迷ってるなら、僕達が案内するよ? 住所とか分かるなら、今からでも……」
「……っ、う……」
「……えっ?」
「う、うぇぇ……きな子っ、もうダメかと思ってっ、なんだか分からないまま街を彷徨って、助けてもらったのにっ、転けてドジ踏んじゃって、勘違いもさせちゃってぇ……ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」
「えっ、うぇぇぇ!?!? ちょっ、泣かないでぇぇ!! あ、安心してっ。誰だって失敗する事はあるし、道に迷って疲れてたなら仕方ないと思うよっ! だから一旦落ち着いて、深呼吸……大丈夫だから……!!」
「桜小路さん、落ち着いて! 先輩もこう言ってる訳だし、ねっ?」
音羽の優しい音色と眼差しを受けたきな子は、これまでの不安と焦燥、そして自分の不注意で情けない入室の仕方をしてしまった申し訳なさから感情が爆発し、その場にへたり込むと一気に涙を溢れさせてしまった。
音羽はいきなり泣き出したきな子に驚くも、落ち着いて貰おうと膝を付き、ゆっくりと落ち着くように促す。愛美もまたきな子の傍に駆け寄り、背中を擦りながら宥めるも、2人の優しい声がトリガーとなってきな子はさらに感情を揺さぶられ、より激しく泣き出してしまう。
「うぇぇぇ……こ、こっちに来てからっ、こんなに優しく声を掛けて貰ったの、初めてでぇぇ……ありがとうございます、ごめんなさいぃ……」
「うわぁぁ……!!! とりあえず落ち着いてっ、大丈夫だから! 僕もいきなり声掛けちゃってごめんね、だから、あぅぅぅ……あいたっ」
「あんたが取り乱してどーすんのよ、音羽。横の後輩も困ってるじゃない」
「うぅ……ごめんね、すみれちゃん……」
さらに感情を決壊させるきな子に対して、最早彼女より取り乱して奇怪な声を上げ始めた音羽の頭にすみれの手刀が落ち、彼の言葉を止める。このままだと埒が明かないと判断したすみれは、音羽に変わって泣きべそをかくきな子に話しかける。
「さっきは怖がらせちゃってごめんなさいね。私達も初めての後輩で嬉しくなっちゃったのよ。だから、貴女が責任を感じることなんて無いわ。失敗は誰でもするものだってさっき先輩も言ってたでしょ。だから、落ち着きなさいったら落ち着きなさい? そんなに泣いてたら、可愛い顔がパンパンになっちゃうわ。ほら、これで拭いて良いから」
「は、はい……!」
泣き腫らした顔を、すみれから借りたハンカチでゆっくり拭いていくきな子。
すみれが背中を擦りながら落ち着いた様子できな子に声を掛けた事で、次第に彼女は冷静さを取り戻し、少々涙目になりながらも前を向く事が出来た。音羽と愛美がどれだけ声を掛けても出来なかった事を、すみれはいとも簡単にやってのけてしまったのだ。
「すみれちゃん、すごい……!」
「本当のお姉ちゃんみたいです……!」
「ふふっ、当然ったら当然よ。ショウビジネスの世界で生きてきた私にかかれば、これくらい朝飯前よ! ま、実際お姉ちゃんなのもあるけどね」
自信満々に髪をなびかせるすみれに音羽と愛美が目を輝かせていると、千砂都とかのんが突如同時に吹き出し、笑い声を上げ始めた。
「おとくんっ……途中までは凄くかっこ良かったけど、最後はおとくんの方が慌ててパニックになっちゃって、なんだかいい意味で変わらないなぁって……あはははっ!」
「だよねっ、なんだか本当に予想通り後輩に振り回されてたっていうか、おとちゃんらしいなって……ふはははっ、ごめっ、ひーっ……!」
「笑わないでよぉっ! 僕はただ、泣き止んで欲しかっただけで……」
「ごめんね、頼りないって言いたい訳じゃないんだ。でも、なんだか後輩に振り回されてる姿がおとくんらしいなって……ぷっ、あはは……!」
「確かにっ、音羽はあまり先輩感が無いわよね。私も後輩に振り回されるビジョンが見えるっていうか、ふふっ……!」
「デモ、それが音羽の良い所デスっ……ふふっ、ククは音羽のソンナ所も好きデスよ……ふははっ……!」
「も、もうっ! すみれちゃんとくぅちゃんまでぇ……!!」
すみれと可可まで先程の出来事を笑い出した事に音羽は抗議しつつも、振り回されて何も出来なかったことは事実である為、気を落として肩をしゅんと下げてしまう。
当然ではあるが、皆は音羽を乏しめたり、馬鹿にする意図があって笑っているのではない。
音羽がきな子に取った行動自体は褒められるべきものであり彼の良点であるのだが、その後の展開も含めて、あまりにも『東音羽』らしい行動だった事に思わず笑いが止まらなくなってしまったのである。
少し気を落としてしまった音羽に、傍に居た恋がすかさずフォローの言葉をかける。
「音羽くん、元気出してください! 振り回されるくらいの方が、親しみやすくて新入生から好かれるかもしれませんし! そのままで良いと思いますよ?」
「恋ちゃん……!」
「む……音羽? という事は、この人が……」
「え、えっと……?」
恋からの励ましの言葉で元気を取り戻した音羽の横で、愛美が首を傾げて彼を見つめる。
『音羽』という単語に何かしら聞き覚えがあるのか、後から近づいてきた好美も同じ様に首を傾げ、2人して彼を見つめる。
あまりの熱視線に音羽が困惑する中、千砂都が得意げな表情で前に進み出た。
「愛美ちゃん、好美ちゃん。先に紹介するね。この子が前に言ってた東音羽くん。私達『Liella!』の、スーパーサポーターだよ!」
「ち、千砂都ちゃんっ! 僕はまだスーパーなんて付けられるほど大した事は……」
「……か」
「っか、かっ……」
「え……?」
千砂都の少々誇張気味な紹介に音羽は謙遜の声を上げるも、すぐに愛美達の様子がおかしい事に気が付く。何やら下を向いたままぷるぷると震え始めた2人に声を掛けようとした、次の瞬間。
「「か、可愛い~~~~っ!!!!」」
「え、えぇぇっ!?」
「お肌真っ白! 髪サラサラ! 目がくりんくりん!! 西洋のお人形さんみたい!!」
「ね、ね! なんだかちょっとワンちゃんっぽさもあるよね! かんわぃぃ~っ!!」
「えっ、ちょっ、僕は男の子だから、そんな可愛いなんて……」
「男の子だから良いんですよっ! むしろ希少価値ですっ!!」
「え、えぇぇ……?」
「あははっ、おとちゃん可愛いって、ひーっ!!」
「かのんちゃんっ!!!」
「おとくん、よしよし。これは仕方ない事なんだよ……」
「仕方なくなんてないよぉ……ふぇぇ……」
いきなりの凄まじいハイテンションぶりで突如音羽に近付いてその可憐さを褒め称える愛美達に対し、困惑の色を隠せずに顔を引きつらせる音羽。自分は男性だからとやんわりと否定するも、むしろ火に油を注いだかの様に賞賛と歓喜の声は大きくなるばかり。
かのんは完全にツボに入ったのか再び吹き出し、とうとうお腹を抱えて転げ回り出してしまう。流石の音羽もこれには我慢ならなかったのか、珍しく大声を出した後に顔を真っ赤にして河豚のように頬を膨らませてしまった。
そんな音羽が千砂都に宥められるように頭を撫でられる中、すっかり呆気にとられたきな子の傍に恋が座る。
「すみません。隣、よろしいでしょうか?」
「は、はいっす……」
「失礼しますね。まったく、皆さんにも困ったものです。音羽くんが可愛らしいのは周知の事実ですが、あんなに騒ぎ立てては音羽くんが困惑してしまいますよ。お見苦しい所をお見せしました……」
「いえいえそんな! ただ、すごく楽しそうだなって思って……」
「ふふ。確かに、それは否定出来ませんね。皆さんが、音羽くんが居るこの場所は……本当に楽しいですから」
音羽が可愛らしいのは否定しないのか、と思いつつも、きな子は今自分が思った気持ちを率直に恋に伝える。きな子の言葉に対して楽しいと返し、優しく微笑む恋の表情から、きな子は『スクールアイドル部』とやらは少なくとも悪い人間が集まるような場所では無いと確信することが出来た。
そうして暫く目の前の騒ぎを見つめていると、皆にもみくちゃにされて汗だくになった音羽が、這う這うの体で抜け出してきた。
「ふぅっ、はぁ……やっと抜け出せた……ごめんね、恥ずかしい所見せちゃったね……」
「いえ、そんな!」
「お疲れ様です、音羽くん。外で話し続けるのも何ですし、一旦部室に戻りますか?」
「そうだね。ここじゃ落ち着かないだろうし、とりあえず部室に行こっか。座ってゆっくりお話した方が良いと思うから……」
「は、はいっ!」
一旦きな子や愛美達に事情を聞いた方が良いと判断した音羽と恋は、きな子に部室で話をする事を提案する。
きな子は二つ返事でそれに応じ、恋はすっかり盛り上がった場を落ち着かせる為に、立ち上がって皆の元へと歩いていった。
「あの……大丈夫っすか……?」
「大丈夫、いつもの事だから……先に部室、行ってよっか」
「そ、そうっすね……」
「あ、おとちゃん達移動するみたい。私達も行こっか」
「そうデスね。笑い疲レタのデ、少し休みタイデス……」
「私、音羽と一緒にお菓子とか用意してくるわね」
「お願いします、すみれさん」
「愛美ちゃん達もおいで!」
「はーい!」
「お邪魔します!」
音羽ときな子が移動し始めたのに合わせて、やっと笑いの渦から抜け出した『Liella!』メンバーも移動し始める。音羽と一緒に菓子や飲み物を用意する為に先行したすみれに続く形でかのん達が、その後を愛美達がついて行くといった形で、全員が屋上を後にした。
出会いは、波乱と笑いと共に。