星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト   作:再来アーク

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#3 謎を秘めた、その正体。

「じゃあ、本当に道に迷ってたんだね」

 

「はい……」

 

 スクールアイドル部の部室へと案内されたきな子達は、キャリーバックを部屋の隅に置き、案内された椅子にゆっくりと腰かける。

 3人が座った事を確認した音羽は、予め用意していたジュースとお茶を、すみれはお菓子の詰まったバスケットを机に置き、きな子は音羽に軽く礼をした後にお茶に口をつけてから一息つくと、自分がここに来た経緯をゆっくりと話し始める。その内容を要約すると、「道に迷った」この一言に尽きる。彼女に隠された目的等は一切無く、本当に道に迷っていただけなのである。

 

「ごめんね。勝手に勘違いして……」

 

「いえっ、そんな……」

 

「私達もすいません。同行者が増えたって、先に連絡しておけば良かったですね」

 

「大丈夫だよ。ここに来るまでに色々バタバタしてたみたいだし、騒ぎ立てちゃったのは私達の方だから、気にしないで!」

 

「あ、マカロン食べる? おいしいよ!」

 

 自分が事前に千砂都に連絡していれば、ここまでの騒ぎにはならなかったと反省の色を見せる愛美に対し、千砂都はここに来るまでの経緯や自分達が騒ぎを大きくしてしまった事を省みて、気にしなくて良いと伝える。

 音羽は、落ち込んだ様子のきな子達を少しでも元気づけようと、いくつかの菓子箱の中からマカロンが入った箱を差し出した。

 箱に綺麗に並べられた1口大の可愛らしいフォルムに、3人は目を輝かせる。

 

「ほわぁ、宝石みたい……綺麗だねぇ……!」

 

「これっ、食べて良いんですかっ!?」

 

「勿論。他にも色々あるから、いっぱい食べて!」

 

「あ、ありがとうございますっす! いただくっす! ……ふぁぁぁっ! 美味しいっす……! これが都会の味、東京の味……!」

 

「甘さが染みるねぇ、美味しいねぇ……」

 

「んぁぁ、生き返るぅ……」

 

「マカロンの1つ2つぐらいで随分大袈裟ね……」

 

「お、お口に合ったならよかった!」

 

 小さなマカロンをたった1つ頬張っただけでまるで天にも登るかのような反応を見せる3人に対し、すみれは腕を組みながら率直な感想を述べる。そんな彼女とは対照的に、音羽は素直に喜び、優しい笑みを見せた。

 そんな中、これまでのきな子の初心な反応からある結論に辿り着いたかのんは、彼女に目線を合わせ優しく語りかける。

 

「もしかして、東京初めて?」

 

「ぬぇっ!? い、いやそんなこと無いっすよ!? 東京は庭みたいなもんっす! いっぱい下調べしてきたっすし! えっと、ヒルズ族、ヒルズ族、東京タワー、スカイ、ツリー……」

 

「えっと……うん。無理しなくても良いよ……?」

 

「澁谷先輩。この子、道に迷って神社に座ってた時に出会ったんですけど、歩いてる時に家の地図を落としちゃったみたいなんです。携帯の充電も切れてたからナビも使えなかったみたいで……」

 

「ちょっと、慣れてるとかそういうレベルじゃないじゃない! よく無事で居られたわね……?」

 

「うぅ、情けないっす……」

 

 かのんの問いに強がるきな子であったが、次第に自信の無さが表面に出てきたのか、声は小さくか弱くなっていく。音羽は弱気な表情を見せるきな子を気遣い、これ以上無理はしなくても良いと伝えた。きな子が落ち着いた所で、愛美は先程までの状況を説明し、そのあまりの絶体絶命ぶりにすみれは眉間に手を当て、自身の情けなさにきな子はさらに落ち込んでしまう。

 

「これは……家に送ってあげた方が良さそうだね。この土地に慣れてないなら、尚更誰かが傍に着いててあげなきゃだしね」

 

「それなら、私達が送ります!」

 

「おっ、愛美ちゃん達が?」

 

「はい。元々結ヶ丘に来てから一旦家まで送る予定でしたし、先輩方に迷惑をお掛けするのも申し訳ないですから」

 

「いやいや、迷惑かけちゃったのは私達の方だから……あ、そうだ。私も着いてくよ!」

 

「良いんですか?」

 

「うんっ。多分2人だけでも大丈夫だと思うけど、人が多い方がその子も不安にならないかなって」

 

「成程。私達としては勿論ありがたいんですが……桜小路さんはそれで良いかな?」

 

「は、はいっす。是非お願いしますっす!」

 

 たとえきな子の家の場所が判明したとしても、このまま1人で帰路に着かせてはまた道に迷ってしまうかもしれないと判断した千砂都は、きな子を家まで送り届けた方が良いと提案する。

 すると、すぐさま愛美と好美が揃って手を挙げ、きな子を送り届けると名乗り出た。元々家に送る約束をしていたのは彼女達であり、ここに来て先輩である『Liella!』一同の力を借りてしまうのも気が引ける為、自分達のみで送り届けようと考えたのだ。

 それに対し、迷惑をかけてしまったのは自分達であるとかのんが返し、自分もついて行くと名乗り出る。愛美の話しぶりからして、彼女達にきな子の送迎を任せても十分問題ないとは思ってはいたものの、先程から不安そうな表情を見せるきな子を見て、少しでも彼女を安心させたいと思っての行動であった。愛美達としては断る理由はなく、きな子も快く了承を返した。

 

「えっと、もし皆が嫌じゃなかったらなんだけど……僕もついて行って良いかな?」

 

「おとちゃんも?」

 

「うん。家に送るついでに、ここら辺の案内も出来ればって思って。学校に向かうまでに分かりやすい場所や目印があれば、道に迷いにくくなるかなって思ったんだけど……どう、かな?」

 

「うんっ、すっごく良いと思う!」

 

「すみません、東先輩。お願いできますか……?」

 

「任せて。しっかり道案内させてもらうね!」

 

 かのんの申し出から少し遅れて、音羽が自身も同行したいと申し出た。理由を聞いたかのんに対し、音羽は結ヶ丘周辺の案内をしたいと答える。先程のきな子や愛美の話を聞いていた音羽は、彼女が道に迷った原因の一つとして、周辺の景色に慣れていない事も含まれているのではと推測し、きな子が家から結ヶ丘に通う通学路の途中に覚えやすい建物や景色があれば、それを目印として通学路を覚えることが出来、彼女が道に迷いにくくなるのではないかと考えたのだ。音羽の提案にかのんはすぐに首肯を返し、それを受けて申し訳なさそうに頼んだ愛美に笑顔で答えた。

 

「うぅ、本当に申し訳無いっす。きな子の為に、ここまで……」

 

「大丈夫、困った時はお互い様だよ!」

 

「せっかく結ヶ丘に来てくれたんだもん、私達に出来る範囲で力になれたらなって思って!」

 

 そう言って、音羽とかのんはにこりと微笑む。その表情や言葉がきな子に安心感を与え、先程まで抱えていた不安がゆっくりと霧散していく。2人にとってはいつも通りの接し方だとしても、きな子にはそれが眩しく見えたのだった。

 

「じゃあ、私着替えてくるね!」

 

「分かった。待ってるね!」

 

「そろそろスマホの充電も溜まった頃なんじゃないかしら?」

 

「あっ、確認してみるっす……ああっ、電源点いたっ! た、助かったぁ……これでやっと家に辿り着けるっす……!」

 

「良かったねぇ、桜小路さん」

 

「私達で、しっかりお家までご案内するからねっ!」

 

「はいっす!」

 

 長らく沈黙を保っていた相棒の復活に歓喜するきな子。優しく語りかけて来た愛美と好美に明るく返事をする彼女を見て、音羽はその顔に笑顔が戻った事に嬉しさを感じるのであった。

 

 ~~~

 

「わぁ……改めて見ても、綺麗な桜っすねぇ……!」

 

「えへへ、ここら辺の桜は昔から綺麗だからねぇ。お花のいい匂いもするなぁ」

 

「さくらんぼが出来る品種じゃないから、そこだけは少し残念な所なんだよねー」

 

「えっ、さくらんぼが出来ない桜の木があるんすかっ!?」

 

「ふっふっふ、実はそうなんだよね。まず桜にも色んな種類があって、今私たちが見てる桜は観賞用のソメイヨシノ、さくらんぼが出来る桜はセイヨウミザクラっていってね……」

 

「ふふっ。みんな楽しそうだね」

 

「うん。元気になって貰えたみたいで、良かった」

 

 結ヶ丘の校門付近に咲き誇る満開の桜にはしゃぐ3人を見ながら、音羽とかのんは安心したように微笑む。先程まで浮かない様子で座っていたのを見ていただけに、一先ず元気を取り戻してくれた事に音羽は安堵する。

 

「それにしても、改めて見ると綺麗だよね。ここの桜」

 

「本当にそうだよね、何だか去年より綺麗に見えるかも! 去年の今頃は、気持ちがそんなに前向きじゃなかったのもあるかもだけど……」

 

「あはは……でも、僕も同じ事考えてた。あの時は、これからどうなるかなんて何も分からなかったし、考えられなかったけど……今同じ場所で桜を見て、改めて思うんだ。結ヶ丘に来れて良かった。皆と、かのんちゃんと出会えて良かったって!」

 

「おとちゃん……!」

 

 桜吹雪を身に浴びながら感慨深そうに語るかのんと、それに同調する音羽。

 音羽もかのんも、1年前に結ヶ丘の桜を初めて目にした時期は、まだ決定的な挫折と失意を抱え、周りの景色がくすんで見えるほど精神的に不安定だったが故に、今ここで見る2度目の桜がより鮮やかに見えたのだ。

 どん底に堕ちた自分達でも、この結ヶ丘高等学校で変わる事が出来た。結ばれた絆を通じて自分を変える事が出来た。その事実を噛み締めながら、音羽は優しく口角を上げる。

 

「だからあの子達にも、ここに来て良かったって思って欲しい。この学校で、素敵な友達に出会って欲しいな……なんて、そんなのは流石にわがまますぎるかな。あはは……」

 

「わがままじゃないよ。わがままなんかじゃ、ない」

 

「かのんちゃん?」

 

「誰かに幸せになって欲しいって願うのは、当たり前の事だよ。私もそうなって欲しいなって思ってる。そのお手伝いをしてあげるのが、私達の先輩としての最初のお仕事なのかなって!」

 

「ふふっ、そうだね。1つずつ、僕達に出来る事をやって行かなくちゃね!」

 

「うんっ。まずは、あの子にこの街の道案内をしてあげなきゃ!」

 

「そうだね。よしっ、頑張るぞっ!」

 

「行こっ、おとちゃん!」

 

「うんっ!」

 

 音羽とかのんの願いは、全く同じものであった。かつての自分達がそうであったように、もしこれからの人生に迷っているならば、この学校で自分を変えられるようなきっかけを掴んで欲しい。1人で心苦しいならば、傍で支え合えるような大切な人との出会いがあってほしい。必ずしも全て叶う訳ではない、理想論じみた願い。その願いが叶う様に手助けをするのが、自分達が『先輩』として1番に成すべき事であると、音羽とかのんは結論づけた。

 

 胸の前で拳を握って気合を入れた音羽は、先に駆け出したかのんの手を握り、2人揃って後輩達の元へ向かっていった。

 

「おーい、皆ー!」

 

 ~~~

 

「ねぇ。さっき遠いところから来た、とは聞いてたけど、どこから来たの? 東京に慣れてない感じだったから、他の県から来たのかなって気になっちゃって」

 

「うぅ……おっしゃる通りっす。きな子は、北海道の何も無いような所からこの結ヶ丘に来たんす。この時期でもまだまだ雪が残ってるような場所だから、今の時期に桜が咲き誇ってるのが珍しくて……」

 

「そんなに遠い所からここに来るなんて、きな子ちゃんって結構ガッツあるよね……!」

 

「雪景色かぁ……ふふっ、それも素敵だね!」

 

 遠い所から来た、というきな子の言葉が気になったかのんの問いかけに、きな子は、恥ずかしそうに自分は北海道の出身であると答える。そのスケールの大きさとあまりの遠距離に、かのん達は目を丸くして驚いた。ここ1年の公式チャンネル配信の中で、『Liella!』の活動に加えて、もっと多くの人に結ヶ丘高等学校を知ってもらう為の宣伝活動を定期的に行っていたとはいえ、何百kmも離れた土地から新入生が入学してくるとは思わなかったのである。そんな遠方から、見知った地元の学校ではなく遠方のこの地へとやってきたきな子。彼女が何を思ってこの地に来たのか、かのん達はまだ知る由もないが、少なくとも強い行動力と決断力を持っている事は伺えた。好美はきな子のその行動を讃え、かのんはきな子が話す銀雪に覆われた雪景色を思い浮かべながら、楽しそうに笑う。

 

「そっか、そんなに遠い所から……」

 

「結ヶ丘の知名度も上がってるって事なのかな。だとしたら、嬉しいな……!」

 

「私達のやってきた事が、ちゃんと形になってるんだなって。なんだか感慨深いよね……」

 

 音羽とかのんは、きな子を通して、自分達が今までやって来た事が着実に次に繋がっている事を実感する。遥か北の大地から結ヶ丘を志望したきな子の存在は、スクールアイドル部の活動を通じて、結ヶ丘の知名度を上げたいと思っていた音羽にとっては何よりも嬉しい事であり、感慨深そうに胸の前で手を合わせ、それに気づいたかのんは優しく微笑みかける。

 

「はっ、そうだっ! 私達、先輩達にまだちゃんとした自己紹介してなくない!?」

 

「そういえばそうっすね! ついうっかり……」

 

「あはは、仕方ないよ。色々立て込んでたし」

 

「うぅ、いきなりグダグダっす……」

 

「ちょっと前から聞いてたけど、名前、きな子ちゃんって言うの?」

 

「は、はいっす! えっと……こほんっ。私、桜小路きな子と申します! 都会に憧れてやって来ましたっ!」

 

「改めまして、私は西園寺愛美と申します。愛と美しいって書いて、まなみって読みます。先輩方、よろしくお願いします」

 

「私は好美、西園寺好美って言います! 好きと美しいを合わせて、このみですっ! よろしくお願いしますっ!」

 

「ふふっ、私はかのん。澁谷かのんって言います。よろしくね!」

 

「僕は音羽、東音羽と申します。改めて、よろしくお願いします!」

 

 新入生3人が、先にそれぞれの名を分かりやすくかのん達に伝え、音羽とかのんもそれぞれ彼女達に自己紹介を行った。こういったかしこまった自己紹介をするのは双方とも少し気恥しさがあったが、早速先輩の名前を覚えた新入生達が、口々に2人の名を呼ぶ。

 

「よろしくお願いします! かのん先輩、音羽先輩!」

 

「えっ……かのん、先輩……!?」

 

「音羽、せん、ぱい……!」

 

 きな子に"先輩"と敬称をつけられたうえで名前を呼ばれた瞬間、音羽とかのんの脳内に落雷のような衝撃が走り、機を見計らったかのように吹き抜けた風が2人の髪を揺らした。

 先程までさほど気にしてはいなかったが、改めて正面から告げられた『先輩』という言葉が、2人の脳内でまるでピンポン玉のように反射し増幅されていく。

 

「はいっ! かのんセンパイ、音羽センパイっ!」

 

「そっかぁ~! 私、先輩かぁ~!」

 

「先輩……良い響きだよねっ!」

 

「そっかぁ~!! え〜先輩? 私がぁ~~??」

 

「はいっ、先輩です~!」

 

「ん~~!!」

 

 きな子からの先輩呼びの心地良さを感じるかのんに音羽も同意し、照れくさそうに頭に手を置く2人。そのまま間髪入れずに好美と愛美からも口々に先輩と呼ばれ、かのんのテンションは一気に最大値へと振り切れてしまった。

 かのんは、浮かれた気持ちのままふわふわと舞うように周りを歩き回り、何時もは冷静に振る舞う音羽も流石に感情を抑えきれなかったのか、頬を赤くして気分良さげに身体を揺らしていた。すると、しばらくステップを刻んでいたかのんが、唐突にきな子と距離を詰める。

 

「あのっ、もう1回……!」

 

「はい?」

 

「もう1回、呼んでくれる……?」

 

 両手の人差し指を立てながら、自身をもう1回先輩と呼んでもらえないか頼むかのん。きな子は少し困惑しながらも特に断る理由もない為、かのんに言われるがまま、彼女が所望する呼び名を口にする。

 

「かのん先輩!」

 

「くぅ~っ!」

 

「かのん先輩っ!!」

 

「んん~っ!!」

 

「か、かのんちゃん……?」

 

「ねね、私達もアレやろうよ」

 

「うん、良いねぇ」

 

 きな子に先輩と呼ばれる度に、身体をくねらせるかのん。今まであまり見た事がない彼女の様子に、困惑した様子で声をかける音羽。その後ろから近づく影が、2つ。

 

「音羽先輩!」

 

「ひゃ、ひゃいっ!?」

 

「あ、えっと……せっかくですし、呼んでみようかなって、あはは……」

 

「そ、そっか。僕で良いなら……好きなだけ呼んで良いよ?」

 

「そうですかっ? では……音羽先輩!」

 

「えへへ、音羽センパイっ!」

 

「ん……」

 

「音羽センパイ、音羽センパイっ!」

 

「んぅ……えへへ……」

 

 突如、きな子と同じように音羽の名前を呼び始めた愛美と好美に困惑の色を強める音羽。愛美達としては、先輩呼びをされて歓喜に打ち震えるかのんを見て、音羽も同様に喜んでくれるかと思っての純粋な行動であった。しかし、予想に反して困惑し始めた音羽を見て、2人はやってしまったかと気まずそうに顔を見合わせるが、音羽は自分は気にしないからと愛美達の先輩呼びを許した。そうして何回も呼ばれ続ける内に、彼の心の中に暖かいものが湧き出し始め、自然と顔が綻んでしまう。音羽としてもやはり先輩と呼ばれて慕われるのは嬉しいもので、自然と口角が上がり、何故だか心の底からとめどなく活力が湧いてくる気がした。

 

「くぅ~っ!! なんだかむず痒いけど、良いよねその響き~っ! さぁ行こう! 先輩の家も紹介しちゃうぞっ、レッツゴー! ねっ、おとちゃんっ! あはははっ!」

 

「お、おーっ!」

 

「変わった人っすね……」

 

 さっきまでの頼もしさを感じさせるかのんとは一変。奇怪な声をあげながら妙なステップを刻む彼女を見て、きな子のかのんに対するイメージは一気に反転し、よく分からない人物として映る。その横に、少し苦笑いを浮かべた音羽が並ぶ。

 

「僕もこんなにテンションが高いかのんちゃん、久しぶりに見たかも。でも、楽しそうなら良いんじゃないかな?」

 

「確かに……かのん先輩のことを知ってる音羽先輩がそう言うなら、きな子もそれで良いと思いますっす!」

 

「ありがとう。それに、かのんちゃんが嬉しくなっちゃう気持ち、僕も少し分かるから」

 

「そうなんすか?」

 

「うん。僕も先輩って呼ばれて、嬉しかったから」

 

「音羽先輩……!」

 

 それなりに長い付き合いのある音羽もあまり見ない程のテンションの高さだと言及され、きな子は、かのんが普段からああいったテンションの人間ではないという事を知る。それと同時に、音羽はかのんが舞い上がる気持ちも分かると言及し、彼女を優しく見つめる。

 そんな音羽の様子を見て、きな子は今の所、正直音羽の方が落ち着いていて頼りになりそうだと、少しだけ心の中で思った。

 

「あらら。マルい物見つけた時のちさちゃん先輩みたいになってる」

 

「あのテンションだと、桜小路さんをお家に送り届けられるのはもうちょっと後になりそうですねぇ」

 

「あはは……もしかしたら、結ヶ丘に来てくれた皆をおもてなししてあげたいのかも。良ければ、一緒に来てくれる?」

 

「勿論、是非ご一緒させて下さいっ!」

 

「こら好美、先輩相手にそんなグイグイ行かないの。音羽先輩、私達も喜んでご一緒させて頂きますね」

 

「ありがとう! じゃあ、一緒に行こうか!」

 

「はい!」

 

 かのんのハイテンションぶりに驚く愛美と好美。きな子を家に送り届けるのはまだ先になりそうだと言う愛美に対し、音羽は結ヶ丘に来てくれた新入生をかのんなりにもてなしたいのではないかと推測し、2人に一緒に来ないかと提案する。興味を持っていた先輩からの早速の誘いとあらば断る理由はなく、好美が食い気味に答えた後に愛美が制止しながら誘いを受けた。2人が応じてくれるか不安であった音羽は、安心したように微笑み、距離が空いてしまったかのんときな子を小走りで追いかけ始めた。

 

「最初はどうなる事かと思ったけど、結構楽しくなりそうだね!」

 

「うんうん。私達も今のうちから色々話しておきたいしねぇ。"りょー姉"も、音羽先輩の事知りたがってたし」

 

「音羽センパイやかのんセンパイのあの感じなら、りょー姉も好きになってくれると思うんだけどな……って、今考えても仕方ないか。行こっ!」

 

「そだね、行こっか」

 

 愛美と好美の口から語られた、"りょー姉"なる人物。どうやら音羽を気にしているらしい事以外は全くもって謎のその人物について2人は少し語り合った後、愛美達は音羽の後を追うようにして駆け出した。




波乱の後に、また波乱……?
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