星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト 作:再来アーク
かのんと音羽に案内され、きな子達新入生はかのんの実家であるカフェへと足を踏み入れる。いつにも増して上機嫌のかのんに彼女の母と妹のありあは不思議そうに首を傾げるが、すぐ後に入ってきた音羽と新入生達に気づくと、笑顔をパッと咲かせて出迎えた。
「お母さん、ただいま!」
「あら、おかえりなさいかのん。おとちゃんもいらっしゃい!」
「こんにちは音羽さん!」
「お母様、ありあちゃん。お邪魔します!」
「あらあら、お母様なんて今更堅苦しいわよおとちゃん。私達の仲なんだし、お母さんで良いのよ?」
「い、良いんでしょうか……?」
「良いの良いの、おとちゃんはもう半分うちの子みたいなものだし!」
「お母さん……ありがとうございます……!」
「もーっ! お母さんはおとちゃん呼びやめてよっ!」
「呼びやすくて良いじゃない、おとちゃん」
「むぅぅ……」
畏まった様子で挨拶をする音羽に対し、かのんの母は音羽に気兼ねなく"お母さん"と呼んで欲しいと伝える。音羽はかのんと友人になって以降、彼女の実家を既に幾度となく訪れており、友人としての交流の中で、純朴で誠実な人柄を気に入ったかのんの母やありあの厚意で、カフェのメニュー制作や業務の手伝いなど、かのんの家族とも深く関わりを持つ事となったのだ。それ故に、店を訪れる客の中には音羽の事を店員だと認識している者もおり、カフェの密かな名物としてSNS等でも話題になる程であった。
「あら、そこの子達も結ヶ丘の子?」
「は、はいっ! 自分は桜小路きな子と申しますっす!」
「西園寺愛美です。よろしくです~」
「西園寺好美ですっ。お邪魔します!」
「ふふっ、皆ゆっくりしていってね」
「お母さん、私が皆の接客するね!」
「別に良いけど……今日は随分張り切ってるわね、かのん?」
「ふっ。私、"先輩"だから!」
やけにやる気を出しているかのんの様子を不思議がる母に対し、胸に手を当て、わざとらしく髪を靡かせながら、キリッとした口調で自分が先輩になったのだとアピールするかのん。
そんな姉の様子を見て、ありあは呆れた様子で眉間にシワを寄せる。
「えぇ……音羽さんの方がよっぽど先輩に見えるんだけどなぁ……」
「えぇっ、それはひどくない!?」
「あはは……でも、ありがとう。ありあちゃん!」
「いえいえ! 音羽さんもゆっくりされていってくださいね!」
「うんっ、そうさせてもらうね!」
ありあの鋭い指摘に気を落とすかのんを宥めながら、ありあと仲睦まじく会話を交わす音羽。先輩らしい冷静な振る舞いを見て、新入生達は目を輝かせる。
「か、かっこいい……!」
「クールだねぇ」
「ええっ。そんな、僕はいつも通り話してるだけだよ……?」
「お、おとちゃんに負けた……」
「勝ち負けの問題じゃないと思うんだけどな……」
「まぁまぁ。お姉ちゃん、皆の接客するんでしょ?」
「はっ、そうだった! ごめんね皆、席に座って待ってて!」
「うんっ。みんな、座ろっか」
「はいっす!」
かのんに準備が終わるまで座って待つように言われた音羽達は、入口に近い4人テーブルの席に腰を落ち着ける。きな子は室内を一通り見回すと、感嘆の息を漏らした。
「これが都会の喫茶店……凄く綺麗っす……!」
「確かに。僕はもう何度も来た事があるから見慣れてたけど、改めて見るとオシャレだよね、かのんちゃんのお家」
「東京では木造の建物は余り見ませんからねぇ」
「そだね。最近は建て替えられちゃってどんどん減って来ちゃってますし、何だか寂しいなぁ」
「きな子、実家が木で出来たお家なので、ここにいるとすごく安心するっす。東京はビルばかりで何だか落ち着かなくて……」
「わぁっ、木で出来たお家かぁ……。凄く居心地良さそうだね!」
「はいっす! それはもう……」
「お待たせしまし……えっと、お話中だったかな?」
「いえいえそんな、ありがとうございますっす!」
「かのんちゃん、ありがとう!」
音羽ときな子からお礼を言われつつ、かのんは4人に暖かいカップを差し出す。立ち上る湯気は同じものの、鼻腔に届く香りはそれぞれ違う。甘いものもあれば、フルーティーなもの。少し香ばしさが混じったものまで、様々な香りが皆の嗅覚を楽しませる。
「なんとハイカラな……さっきのまかろんといい、これが東京……!」
「ん~! すっごく良い匂いですっ!」
「ふふん。出来たてだから、冷めないうちに飲んでね!」
「ありがとう、かのんちゃん。ゆっくり飲ませて貰うね!」
「うんっ。それじゃ私も、よいしょ」
皆に飲み物を配り終えたかのんは音羽の隣に座ると、新入生達ににこやかな表情を向ける。先程までの行動から考えるに、早速先輩として後輩に何かをしてあげられたことが嬉しいのだと音羽は思い、そんな彼女の優しさに笑みを浮かべた。
「きな子ちゃん、飲み終わったら家まで送るね!」
「すみません、何から何まで……」
「いいえ!」
「あ、桜小路さんのこと、『きなちゃん』って呼んでも良い? 何だか響きが良くて!」
「は、はいっ! もちろん良いっすよ!」
「やった……! ありがとうっ!」
「ふふっ。グイグイ行くねおとちゃん」
「そうかな……呼びやすいあだ名があったら、もっと仲良くなれるかなって思っただけだよ」
「……良いな、あだ名呼び」
「かのんちゃん?」
「ううん、なんでもないっ。きなちゃんってあだ名、可愛いねっ!」
「ねー!」
微笑ましいやり取りを交わす中、かのんは自分からきな子にあだ名呼びを提案した音羽の行動に驚いていた。控えめな性格故に自分から距離を詰める事をあまりしない印象があった音羽であったが、一年の歳月は彼を大きく変えていた。かのんはその変化を嬉しく思うと共に、心の何処かではあだ名呼びをされるきな子に対して少しばかりの羨望の気持ちを抱いていた。決して、きな子が音羽にあだ名で呼ばれることが不満な訳では無い。ただ、自分が羨ましく思っているだけの、個人的な感情。だからこそ、思わず口から漏れてしまったその言葉を、かのんは音羽に聞こえないように必死に誤魔化した。
「今、何か聞こえたような……?」
「……多分、あんまり詮索しない方が良いかもっす」
「そっか、わかった!」
微かながらかのんの声を聞き取った新入生達はそれぞれ頭に疑問を浮かべるも、声色から何か触れてはいけない雰囲気を察したきな子は愛美と好美をやんわりと制し、2人もそれほど気にする事でも無かったため、浮かんだ疑問を頭の隅へ追いやった。
そうして場の雰囲気が落ち着いた所で、きな子は先程から気になっていたことを聞く為に、口を開いた。
「あの……」
「ん? どうしたの、きな子ちゃん?」
「さっきのスクール……ナントカ? というのは……」
「『スクールアイドル』。学校でアイドルをする人達の事を、そう呼ぶんだ!」
「スクール、アイドル……」
かのんから改めて『スクールアイドル』という単語を聞き、復唱するきな子。まだ言いなれないのか、発音にぎこちなさが残る。
「うん! すっごく楽しくて、やりがいあるんだ! って、私はまだまだ始めて1年ぐらいしか経ってないんだけどね。あはは……」
「そうなんすね……という事はもしかして、音羽先輩もスクールアイドルを!?」
「えっと、僕はスクールアイドルじゃないんだ。かのんちゃん達スクールアイドルを手助けする……『サポーター』って役割なんだ!」
「サポーター……なんか、かっこいいっす……!」
「皆をサポートしてる時のおとちゃん、すっごくかっこいいんだよ! いつも色んな所で支えてくれて、スクールアイドル部に欠かせない人。それがおとちゃん!」
「かのんちゃん、ちょっと恥ずかしいよぉ……」
「えぇ~? だって事実だもん!」
「うぅ……」
かのんにべた褒めされて耐えられなくなったのか、両手で口元を覆って恥ずかしがる音羽。まるで女性のような可愛らしい仕草にきな子は見惚れ、愛美と好美は揃って声を上げる。
「本当に女の子みたい……!」
「あたしも性別分からなくなってきた……音羽センパイ、本当に男性ですよね……?」
「お、男の子だよ……?」
「ですよね……すみません、音羽先輩。さっきの仕草があんまりにも可愛かったから気が動転しちゃって……」
「気持ちは分かるっすけど、先輩相手にそれは結構失礼な事言ってる気がするっすよ……?」
「うぐっ。だよね」
「すみません、次からは気をつけますぅ……」
「そんなっ、僕は気にしてないよ?」
「そうそう。皆悪気があってそう言った訳じゃないんでしょ? それに、おとちゃんが可愛いのも事実だし」
「もうっ、かのんちゃんっ!」
「あはは、ごめんごめん!」
音羽の仕草があまりにも好みに刺さったのか、興奮した様子で彼に妙な質問をする愛美達。音羽が困った様子で応える様子を見て、きな子は好美達に理解を示した上で鋭くツッコミを入れる。我に返った愛美達は気まずそうに謝罪するが、音羽は彼女達に悪気は無いと分かっていた為に自分は大丈夫だと伝え、かのんは愛美達の気持ちを理解できると言わんばかりに腕を組んで首を縦に振り、音羽の可憐さを肯定する。彼女の言葉に再び顔を赤くして抗議する音羽をかのんが笑いながらいなした後、脱線し切った話題を元に戻す為に音羽が軽く咳払いを挟み、話を再開させる。
「こほん。でも、僕は皆と比べてスクールアイドル部に入るのが遅かったから、サポーターを始めてまだ1年も経ってないんだよね……」
「そうそう。おとちゃんは去年の8月に正式入部したから……部員としてはまだ半年とちょっとかな。体験入部の期間を含めたらもう少しながいんだけどね」
「えっ、そうなんですかっ!?」
音羽の口から告げられた衝撃の事実に、愛美は驚きの声を上げる。千砂都からは、『超一流のサポーター』『あれ程人を支え育てることに特化した人間はいない』と聞いていただけに、サポーターとしての役職に就いている期間もそれなりに長いと考えていた愛美にとっては、わずか約8ヶ月という短期間の間に、『あの』千砂都から誤魔化し無しの賞賛を受けるまでに技量を習熟させているという事実は、彼女にとってあまりにも衝撃的であったのだ。
普通は、不可能なのである。
"たった8ヶ月"では、絶対に。
「そうなんだよね……私もおとちゃんもスクールアイドル活動を始めたばかりで、まだ胸を張れる成果は残せていないんだ。けど私は、スクールアイドルと出会って人生が変わった。『頑張ろう』って、前向きな気持ちになれたの!」
真剣な口調で、かのんは愛美にそう伝えた。類まれなる歌の才能を持ちながら、自分が長年抱えていた不調が原因で数多の挫折を味わい、それでもどこかで音楽を諦めきれずにいた自分にすら嫌気が差し、全てを静観の眼差しで見つめていたかのん。
そんな時に、スクールアイドルと運命的な出会いを果たし、活動を通してまた歌えるようになり、掛け替えの無い仲間との出会いや『ラブライブ!』への挑戦を通して、ついには自身のトラウマさえも打倒する事が出来た。それはかのんにとって正しく人生をひっくり返されるような出来事の数々であり、今ではとても充実した日々を送れている。そして、スクールアイドルと出会って人生が変わったのは、音羽も同じであった。
「僕も、かのんちゃん達と出会ったから変われた。もし皆と出会えてなかったら、今も自分が嫌いなままだった。スクールアイドルの力になって、今度こそ『ラブライブ!』っていう大きな大会で優勝する。それが、僕の夢なんだ。その為にも、できることを全力で頑張りたいって、そう思ってる」
「はぁ……」
「……なるほど、ですね」
きな子は2人の言葉を聞き、納得はすれどもどう返せば良いのか判断に迷っていた。それは愛美達も同じであり、3人して微妙な表情を浮かべる。そもそもきな子達は『スクールアイドル』という存在についてまだ触れたばかりであり、部外者である自分達がこれ以上踏み込んで良いものかと思い悩んでいた。とはいえ、『アイドル』という括りではあるが、あくまで学校の部活。『やってみたい』と言えば良い話ではあるのだが、きな子は自分から言う気持ちにはなれず、愛美と好美もダンス教室との両立を考えると気軽には挑戦出来ないと考えていた。
すっかり考え込んでしまった様子の3人に、かのんは自分達が活動する姿を1度見てもらった方が早いと考え、彼女達に明るく声をかける。
「興味があったら、部室に来てよ!」
「もちろん無理にとは言わないけど……でも、僕達はいつでも、きなちゃん達を待ってるよ!」
「は、はいっす! その時はまた、お邪魔するっす!」
「今度は隠れずに、正面からお邪魔させてもらいますね!」
「うん。いつでもおいで!」
かのんと音羽から優しく部室に来ることを勧められ、きな子達は少し緊張した面持ちで返事をする。スクールアイドルというものが、それこそ『人生が変わった』とまで先輩達が言い切るほどのものならば、このまま無関心でいる訳にも行かないと感じた3人は、家に帰ったらそれぞれスクールアイドルについて調べようと決意する。そのすぐ後、きな子はもう1つどうしても気になった事があった為、単刀直入に聞こうと手を挙げる。すると……
「えっと……もう1つ、あら……?」
「あはは……タイミング、被っちゃったね」
「ああっ、さ、先にどうぞっす……」
「ありがとう、じゃあお先に。愛美ちゃん、好美ちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけど……良いかな?」
「はいっ! 何でも聞いてください!」
きな子と偶然挙手のタイミングが重なってしまった音羽は、照れくさそうに笑みを浮かべた。きな子はその表情に数秒間見蕩れてしまうも、すぐ気を取り直して音羽に順番を譲る。きな子に礼を言った音羽は愛美と好美の方に向き直り、軽く深呼吸をすると、聞きたい事をゆっくりと言語化し始める。
「その……西園寺美麗さんって、知ってるかな?」
「美麗……あぁ、みれ兄の事ですか?」
「みれ兄……!!」
驚いた表情で前のめりに聞いてくる2人に気圧されつつも、抱いていた疑問が確信へと変わった音羽は、更に言葉を続ける。
「うんっ。僕の大事な友達だよ! 苗字が同じだったからもしかしてとは思ったんだけど……2人は、美麗さんの親戚なの?」
「ふふっ、そうですねぇ。みれ兄……いや、西園寺美麗さんは正真正銘、私達の親戚です。直接血は繋がってないんですけど、昔から本当のお兄ちゃんみたいに良くしてくれたんです」
「このヘアピンも、みれ兄が選んでくれたんです! みれ兄は美容やファッションに詳しくて、バイオリンも上手くて、あたし達の自慢のお兄ちゃんなんですよっ!」
「そっか……ふふっ、そうなんだねっ!」
「えっ、2人が美麗くんの親戚って……ええっ!?」
「ど、どういう事っすか……?」
楽しそうにヘアピンを選ぶ美麗の姿が脳裏に浮かび、音羽は思わず笑みを零す。一方、目の前で明かされた衝撃の事実にかのんは空いた口が塞がらない様子であり、そもそも美麗の存在を知らないきな子は、何が何だか分からない様子で首を傾げていた。
「実はみれ兄からも、音羽先輩のお話はお聞きしてたんです」
「優しくて、綺麗で、しっかりした人だって! 会ってみたら本当にその通りの人だったので、私達、凄くびっくりしちゃいました!」
「美麗さんがそんな事を……えへへ。ありがとう、2人共。そう思ってくれたなら、嬉しいな!」
「音羽先輩……!」
愛美達から美麗の自身に対する評価を聞いた音羽は、友人に褒められた嬉しさと気恥しさで頬を染めながら頭を掻く。そんな彼を優しく見つめるかのんの視線、その中に含まれているであろう感情を何となく察したきな子は、改めて自分が疑問に思っていた事を単刀直入に聞く事にした。知り合ったばかりの先輩に聞く内容にしてはかなり失礼なものになるのではとの不安はあったが、それでもきな子は気になってしまって仕方がなかったのだ。
「そういえば、きなちゃん。僕達に聞きたい事があるって言ってたよね?」
「は、はいっす!? そうっすね……」
「ふふっ、何でも聞いて良いよ!」
かのんと音羽から快く了承を得たきな子は、自身の質問を恐る恐る言語化していく。
「えっと、つかぬ事をお聞きするっすが……かのん先輩と音羽先輩って、その……付き合ってるんすかっ!?」
「……えっ?」
「ふぇ?」
「……?」
きな子の質問に、辺り一面が静寂に包まれる。質問された2人の思考は停止し、きな子はやってしまったかと額から冷や汗を流し始め、愛美と好美はいまいち理解出来ていない様子で顔を見合わせ、ついでにありあはお盆を手から滑り落とした。
「お、おぉっ、おとちゃんと私がつっ、付き合ってるって、へぇ~?? そ、そんな風に見えたんだぁ!? た、確かに私とおとちゃんはすっっっ! ごく仲が良いから、そう見られてもおかしくはないけどっ、嬉しいんだけどねっ! でも、まだ、早いっていうか、ぁー……」
「か、かのんちゃんとはそういう関係じゃないよ! 全然、違うよっ!」
「私は……ぇ?」
「あ……」
音羽と「そういう雰囲気」に見られた故か、それとも照れ隠しが捲し立てるかのんの横で、自分とかのんはそういった関係には当てはまらないと明言する音羽。かのんの思考が、再び停止する。先程までの太陽みたいに光り輝いていた表情が一瞬で氷のように固まり、口角がみるみるうちに下がっていく。
「かのんちゃんとは、すっごく仲良くさせてもらってるよ。もしかのんちゃんが良ければ、これからも親友で居させて欲しいなって、思ってる。これは本当の事だよ? で、でも……本当に、そういう関係じゃなくて……むしろ、僕なんかじゃ釣り合わないだろうし……と、とにかく、そういう関係じゃないんだ、ごめんね……?」
「そうだったんすね……ごめんなさいっ、変な事聞いてしまって……」
「ううん、気にしないで! なんでも聞いてって言ったのは僕達の方だから。それに、そこまで仲良しに見えたなら、多分それは良い事だと思うから! ね、かのんちゃん!」
「……そうだね」
「……ひっ!?」
先程までの朗らかな声を嘘のように低くし、音羽に答えるかのん。その雰囲気の変わり様に愛美と好美は小さく悲鳴を上げる。纏う雰囲気や声の低さが、自分達を叱る時の千砂都にあまりに似ていたからであった。
「……? か、かのんちゃん……?」
「皆、そろそろ行こっか! 愛美ちゃんと好美ちゃんは部活見学もある訳だし、きな子ちゃんもちゃんと家まで送り届けてあげなきゃ! おとちゃんも行こっ?」
「う、うん。分かった……」
急に先程までの明るい調子を取り戻し、勢いよく席を立ったかのんに音羽達は困惑しつつも、あまりゆっくりしていては良くない事も分かっていた為、皆一斉に立ち上がった。
「えっと、かのんちゃん、皆まだゆっくりしたいんじゃ……」
「皆もう飲み終わってるし、良いんじゃないかな? 行こうよおとちゃん」
「そ、そう……だけど……あの、かのんちゃん、ごめんなさ……」
「行こっか! おとちゃん、皆!」
「は、はいっす!」
「は~い!」
「はいっ!」
「あっ……かのんちゃんっ、待ってっ、かのんちゃぁぁんっ……!!」
音羽の発言を許さない勢いで荷物を纏め始めたかのんを見て、新入生達も急いで自身のキャリーバッグやカバンを手に持ち、急いで店を出る準備をする。かのんは簡単に食器を纏めてカウンターに置いたかと思うと、足早に店のドアを潜り、それに音羽が慌ててついて行き、その少し後を新入生達が着いていく形で全員が店を後にした。
「あの様子だと、まだまだ前途多難そうねぇ」
「お姉ちゃんったら、ヘタレの癖にすぐ拗ねるんだから、もう……」
荒ぶる愛娘の感情の行方をかのんの母は純粋に心配し、姉の難儀な性格にありあはため息をついて呆れるのであった。
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「かのんセンパイ、何だかめちゃくちゃ怒ってるねぇ」
「ね。どーしたんだろう、さっきまであんなに楽しそうだったのに……」
「あー……その、あんまり深入りはしない方が良いかもっす。だいぶデリケートな問題だと思うっすから……」
「成程……じゃあ、この話はやめにしよっか!」
「だねぇ。正直ちょっと気になるけど、人の嫌がる話は続ける意味ないしね」
音羽の手首を掴み、自分達の前方をどすどすと足音が聞こえかねない勢いで大地を踏みしめて歩くかのんと、もつれる足をなんとか整えて子犬のような表情でついて行く音羽。あまりにも物々しい雰囲気に愛美と好美は純粋な疑問を口にするも、先程の音羽とかのんのやり取りで何が起きたかを何となく察したきな子はかのんの名誉の為にもこれ以上深入りはしないようにとやんわり釘を刺し、2人も誰かを傷つけかねない話題なら続ける意味は無いと疑問を頭の隅へ追いやった。
きな子は、『特別な感情』に関しては人並みかそれ以上に敏感であった。先程、自分が質問を投げかけた時の、2人の反応の差。音羽の弁明を聞くかのんの、落胆と怒りに満ちた表情。やりとりは無くとも、少なくともかのんは相当に気を落としたのだろうと推測すると共に、音羽の謙遜ぶりに少し驚きを感じていた。
きな子から見れば、2人は友達と言い表すにはあまりにも距離感が近く、互いを見つめ合う視線には優しさと暖かさが籠っており、これで付き合っていないのだというのだから、彼女はひどく困惑し、同時に2人の関係が気になり始めていた。
だが、自分はあくまで部外者であり、無理に詮索を入れるのは烏滸がましいと感じたきな子は一旦思考を隅に追いやる。何より、再び脚が悲鳴を上げ始めて物を考えられる余裕が無くなってきていた。
後の事は家に着いてから考えようと決めたきな子は、少し歩く速度を上げてかのん達を追うのだった。
気になる関係。