星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト   作:再来アーク

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今回は『星達のオーケストラ 2nd season』第0話の時間軸となります。


黎明EX:黒衣の来訪者

『グローバルジェット293便、ただいま当空港に着陸いたしました。ご乗客の皆様をお出迎えの方々は、もう少しお待ちください。当機は折り返し19時30分発……』

 

 航空機の到着を知らせるアナウンスが、広々とした空港ターミナルに響き渡る。肉声でありながら何処か無機質じみたその声に、一人の少女が反応する。

 

「……やっとご到着だネ」

 

 ため息をついてそう気だるそうに呟くと、少女は頭部に装着していたヘッドホンを首にかけ、もたれかかっていた柱から離れ搭乗口へ向かう。

 

 シャツにネクタイと袖なしのジャケット、スリムタイプのスラックスにロングコートとブーツ。春先にしては些か厚着気味の服装であった彼女ではあったが、いくつか異様な点があった。まず、シャツとコートは明らかなオーバーサイズであり、長く伸びた裾は腰回りまでを覆っていた。コートには無数の留め具と鎖が縫い付けられており、歩く度に金属の擦れ合う独特の音を響かせる。太もも近くまで伸びた黒髪は低めのポニーテールで纏められ、少し雑に切りそろえられた前髪は片目を隠し、反対側をヘアピンで纏めていた。

 その服装は少女の高めの身長と細い身体と相まって、まるで死神とも、幽霊とも取れるような独特の威圧感を放っており、通りすがる人々は生物の本能、または危機管理故か、彼女を避けるように歩き過ぎていった。

 

「はァ、相変わらず人混みは騒がしいネ。目がチカチカするし嫌になるヨ」

 

 周りには大量の人。人。人。

 数多の人々が行き交うこの場所を、少女は酷く嫌っていた。目に映る光景も、色も、形も、彼女にとっては不快になる猛毒でしかない。少しでも情報遮断をするためにサングラスをかけ、ヘッドホンを再び頭に被せる。

 プレイリストを遡り、とあるタイトルで手を止めてタップ。流れてくるのは、歌声。

 

「うん。やっぱりコレがいい。コレしか、聞きたくない」

 

 透き通っていながらも力強く、世界に自身の意思を叩きつけるかのような圧倒的な音圧。耳から脳内へ駆け抜けていく度に、少女の頭の中で渦巻くノイズが霧散し、紫のオーロラのようなイメージで満たされる。たった1つの電子機器によって世界と完全に隔絶された中で、彼女は心地良い音に浸っていた。

 

「後はアレさえあれば……って、まぁどこでも売ってるか」

 

 自販機のボタンを押し、スマホのリーダーをかざせば支払い完了。騒がしい音を立てながら落ちてきた小ぶりの缶コーヒーを手に取り、開封して一口。引き締まった苦味が口の中に広がり、脳内にこびり付いた情報を洗い流していく。

 

「やっぱブラックだネ。さて、ここら辺にいるはずなんだケド……」

 

 少女は上着に無数に縫い付けられたポケットから小さなメモ用紙のようなものを取り出し、手首のスナップで広げて内容を確認する。筆記体で書かれた名前と連絡先、そして飛行機の便名と到着時間。3日前にコンタクトを取ったとある人物から送られてきた情報であった。少女は以前より幾度となくその人物にコンタクトを取り続けていたが、何度も軽くあしらわれ諦めかけていた矢先の出来事であった。

 今までの結果から、正直成功するとは思っていなかっただけに少女は大層喜び、予定時刻の約1時間前からずっと空港で待機していたのだ。

 

「あれッ、居ない。もうターミナル出たのカナ?」

 

「随分お探しのようね」

 

「グワッ!? 誰だテメっ……あぁ、なんだキミか」

 

「何だって何よ、それが初対面の相手にする態度?」

 

「直接会ったのは初めて、の間違いなんじゃないノ?」

 

「はぁ……まぁいいわ。ここで話すのもなんだし、付いてきなさい」

 

「ハーイ」

 

 少女が搭乗口前で人を探していると、突如後ろから響く凛とした声。彼女は一瞬判別出来ずに声を荒らげるも、相手の表情を目に捉えた途端、安心したかのように脱力する。

 振り返った先にいたのは彼女と同じ年齢、体格ぐらいの女性であり、少し癖のある紫髪につり目がちの緑眼。誰が見ても息を飲む程のいわば"美少女"と形容される容姿であった。

 そんな彼女は少女の気の抜けたような態度を不満げに窘めるも、少女が愉快そうに茶化す様を見て呆れたのか、自身に付いてくるように告げる。少女は軽い口調で返事を返すと、紫髪の女性の少し後をゆっくりと着いていくのであった。

 

 ~~~

 

「それにしても、まさか本当に空港にまで迎えに来るなんてね」

 

「当たり前サ。これから一緒に仕事をする相手なんだから、これぐらいはするヨ」

 

 仕事、とあくまで自分達の関係を表明する少女に対し、女性は眉を顰めながら念を押すように言葉を紡ぐ。

 

「仕事、ね。最初に言っておくけど、私が満足できる物を作れなかったら、その時点で貴女を解雇するから」

 

「おぉ、手厳しいネ。まぁ、それぐらいは覚悟して来てるヨ。ボクはキミの力になる為にここに来たんだ。どうぞ使い潰してくれ」

 

「……道具にでもなるつもり?」

 

「君と対等になる気はないサ。キミは優れた人間 で、ボクは使い捨ての道具。これは雇用契約であり、同時に無償の購入契約でもある。道具のボクを購入するという、ネ?」

 

「へぇ、言うじゃない。満足に動かなかったらすぐに返品するわよ?」

 

「フッ、返品するなり捨てるなりどうぞご自由に。道具に遠慮は要らないヨ」

 

 自分をあくまで"道具"であると主張した少女は、女性の前に躍り出るとすぐに膝まづく。両者の容姿も相まって、それは女王に忠誠を誓う騎士のようにも、人間に恭順を誓う物好きの悪魔のようにも見えた。

 

「ボクは仁奈。鏑木仁奈。今から君の手となり、足となり、剣となり、盾となり、キミが望む限り道具として働き続けよう」

 

「……そう。私はマルガレーテ。ウィーン・マルガレーテ。まぁ、よろしく」

 

「あぁ。よろしく頼むヨ、"ご主人サマ"」

 

 少女・鏑木仁奈の少々大袈裟な宣誓に対し、感情のこもってない挨拶を返す女性改め、マルガレーテ。今この瞬間、2人の関係性は、主人と使用人として定義された。

 

「早速だけど、これ見てもらえる?」

 

「あぁ。これは……写真? 顔立ちからして日本人だネ。この2人に用があるのカイ?」

 

「えぇ、探してるのよ。私の目的に……本当の歌を創るために、必要な存在よ」

 

「歌、ねェ。成程。このオレンジ髪の女は知らないけど……こっちのひ弱そうな男は知ってる」

 

「アズマオトハと知り合いなの?」

 

「まさかそんな、名前と血筋ぐらいしか知らないヨ。ただ……面白い噂を聞いてネ。興味があるのサ」

 

 マルガレーテから渡された顔写真のうち、仁奈はタキシード姿で笑みを見せる少年に注目する。彼の名は、東音羽。仁奈とは全く関わりのない人物ではあったが、"ある噂"を耳にしてから興味を向けていた人物でもあった。偶然の一致にしては都合が良くなって来たと、仁奈は愉快そうに口角を釣り上げる。

 

「ふん、それなら話は早いわね。じゃあ早速東京に行くわよ。最短ルートを教えなさい」

 

「仰せのままに。あぁ、そうだ。長旅だったんだ、お腹は空いてないカイ?」

 

「別に。飛行機の中でしっかり食べてきたもの」

 

「それは何ヨリ。じゃあ、行こうカ」

 

「えぇ」

 

 颯爽と歩き出すマルガレーテの一歩後ろに着き、仁奈は歩く。周りが騒がしいのは相変わらずではあったが、サングラスやヘッドホンで情報を遮断する気にはならなかった。マルガレーテから漂う"色"は、先程まで聞いていた歌のイメージと同じ煌びやかな紫色。何を隠そう、その歌を歌っていたのが他でもない彼女なのだから。今はただ、目の前にいる女性……否、自身の主人の存在を自身の五感で感じていたかったのだ。

 

「ご主人サマの歌があれば、こんなくだらない世界でも少しはマシに生きられる。キミにもその価値を教えて上げるヨ、アズマオトハ。キヒヒッ……」

 

 悪魔の如く口角を吊り上げながら、仁奈は歩を進める。澄み渡る青空に、飛び立つ飛行機のエンジン音のみが響いていた。

 




迫る漆黒、その目的や如何に。
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