星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト 作:再来アーク
かのん達によるきな子の送迎は、途中起きたいくつかのハプニングによって予定していた時間より大幅に遅くなってしまったものの、結果として無事に彼女を家へと送り届けることが出来た。カフェでの一件で機嫌を損ねていたかのんであったが、音羽と会話を交わすうちに段々と落ち着いていき、目的地に着く頃にはすっかりいつもの調子に戻っていた。子犬のように震えていた音羽も笑顔でかのんと話しており、新入生達は一先ず胸をなで下ろしたのだった。
きな子を送り届けた一同が結ヶ丘に戻り、愛美と好美の部活見学が終わった頃にはもう日が沈み始めており、今日の所は一旦解散としてそれぞれの帰路に着いた。
「たっだいまー!」
「ただいま戻りましたぁ」
「「お帰りなさいませ、愛美様、好美様!」」
「おぉびっくりした。って、いつもの事か」
帰宅した愛美達を待ち構えていたのは、廊下の奥まで寸分の狂いもなく完璧に整列し、最敬礼で迎える西園寺家のメイド達。ボリュームのあるフリルが付いたクラシカルメイド服も相まって、まるでモノクロカラーの花道のようにも見える光景であった。
その道の奥から、2人のメイドが駆け寄ってくる。
「お帰りなさいませ、好美お嬢様っ!!」
「愛美お嬢様、お荷物お持ち致しますね」
「ありがとね、小春さん」
「彩葉さんっ! 今日ね、いっぱい楽しい事があったんだよ! あと色んな人と会って……ダメだ、すぐには纏めきれないや!」
「成程……それは気になりますねっ! お話が纏まりましたら、是非お聞かせくださいっ!」
「はーいっ!」
駆け寄ってきたメイド達に荷物を預け、楽しそうに会話する愛美と好美。彼女達は主人への奉仕を職務とする西園寺家のメイドの中でも、室内の整理やベッドメイキング、身辺の警護等、主人のパーソナルスペース内での奉仕をマンツーマンで執り行う特別な立場のメイド。所謂専属メイドである。
その名を西園寺小春、そして西園寺彩葉。
精鋭揃いの西園寺家のメイドの中でも「四柱」と称される特に優秀なメイドであった。
「ご入浴の準備は出来ておりますので、熱いうちにお入りくださいませ。それと、今日は奥様がお帰りになられておりますよ」
「えっママが!? やったー!!」
「ちなみに、旦那様は出張先でお仕事が入ってお帰りが3日ほど遅れるとの事でした……」
「あぁ……パパ最近また忙しくなってるからねぇ」
「ご入浴が終わり次第、お食事の準備をさせて頂きますねっ! 荷物はお任せ下さいっ!」
「ありがとう、彩葉さんっ! じゃあ行ってきまーす!」
「愛美様、今日はカボチャのクッキーをご用意致しましたよ」
「えへへ。いつもありがとねぇ、小春さん。さ、私も行ってこようかな?」
「えぇ。ゆっくりお浸かりになられて下さいね」
「はぁい。じゃあ、また後でねー!」
それぞれのメイドから手渡されたお風呂セットを受け取り、元気良く走り抜けていく愛美と好美。いつもより心做しか楽しそうな主人達を笑顔で見送り、振り返った2人の表情は真剣なものに変わっていた。
「それでは、我々は業務に戻りましょう!」
「えぇ。"何時如何なる時も、完璧な御奉仕を"皆さん、良いですね?」
「「はいっ!!」」
小春達の言葉で気合いを入れ直したメイド達が、各々の業務を遂行する為に散開していく。そして2人もまた自身の務めを果たす為に、廊下の奥へ駆け抜けていった。
~~~
「へぇ、それで道案内してあげたわけだ。良い事したじゃん!」
「えへへ、そうでしょ!」
「いやぁ、本当にタイミング良かったっていうか、拾えて良かったっていうか。きな子ちゃん、また道に迷わないと良いんだけど……」
温かみのある内装が施された、西園寺家のダイニング。大きなフライパンの上で華麗に具材を舞い上がらせながら、お風呂上がりの2人と会話を楽しむ女性が1人。
彼女は西園寺今日子。愛美と好美の母親であり、この屋敷の主人であり、そして無類の料理好きであった。本来ならば、炊事も西園寺家に務めるメイドの仕事であるのだが、彼女が屋敷に帰っている間は自分がメイド含む全員分の料理を作ると言って譲らず、主人に負担をかけさせるまいと最初は断っていたメイド達も、ついに折れて今日子に調理を任せる事となった経緯があったぐらいである。
しっかり火が通り、野菜と甜麺醤の良い匂いを漂わせた回鍋肉を、今日子はまるでピラミッドのような綺麗な三角形に盛り付け、不安そうにする愛美の目の前に差し出す。
「アンタ達がしっかり道案内してあげたんだし、きっと大丈夫よ。不安だったら家の近くで待ってあげたら……っと。はい、回鍋肉出来たよ!」
「わぁっ……! ママのご飯食べるのいつぶりだろ?」
「最後に食べてからまだ1週間も経ってないでしょ?」
「えへへ、そうだっけ」
「そうだっけ、じゃないの。ほら、まだまだ並べてくからお皿避けといて」
「はーい!」
今日子は素早く皿や器を取り出すと、先程作っていた回鍋肉や白飯、汁物やサラダを素早く盛り付けてテーブルに並べる。飲食店のベテラン店員にも劣らない配膳スピードであっという間にテーブルが料理で彩られ、最後に少し雑に椅子に座った今日子が手を合わせると、愛美達もそれに続いた。
「いただきます!」
~~~
「なるほど、じゃあ音羽君にもしっかり会えたんだ。良かった良かった」
「うん。ちさちゃん先輩の言った通り、凄く良い人だったよ」
「すっごく綺麗で、可愛かったよ! なんと言うか、中性的で不思議な子だったなぁ」
「へぇ……ま、あの2人の子供なら間違いなく美人さんよね」
「ママ?」
「んーん、こっちの話。それで、入る部活とかはもう決めたの?」
「んー、まだ迷い中かな。ダンスやりたいならダンス教室で十分レベル上げられるし、どうせなら何か違うことやりたいなってさ!」
「そうそう。私は文化部に入ってみたいなって思ってるんだよねぇ」
「ふふっ。高校は3年間しかないんだし、あんた達がやりたい事を思いっきりやっちゃいなさい。迷ってばかりじゃ時間がもったいないわよ?」
「そーだけどさぁ……」
「大事なら尚更悩むよぉ……」
「あははっ、ご飯食べれば悩みも晴れるわよ。さ、食べた食べた!」
「そだね!」
どの部活に入るか悩む娘達を微笑ましく見つめながら、今日子は彼女達と東音羽が早期に知り合った事を意外に思っていた。彼の事は愛美達から聞いており、結ヶ丘に入学していた事は知り合い伝に聞いていたものの、まさかここまで早くコンタクトを取りに行くとは思っていなかったのである。自分の娘ながら驚異的な行動力だと感心しながら、今日子は回鍋肉のタレが染みた炊きたての白飯を豪快にかきこむのであった。
「うん、美味い!」
~~~
「奥様、どうぞ」
「ありがとね、颯。にしても優志くんも大変だねぇ。緊急手術が6件もだなんてさ」
皿洗い等の家事を一通り済ませた今日子はソファにゆったりと座り、自身の専属メイドである西園寺颯が淹れたブラックコーヒーを口にしながら、テレビ通話の相手に話しかける。
優志、と呼ばれた画面の向こうの男性は、クリップボードを片手に申し訳なさそうに頭を掻いた。
「あはは……悪いね今日子。急に予定変更なんて、君も忙しかったろう?」
「ううん、全然。急げば終わる仕事だったし、困った時はお互い様って事で!」
「ははっ、君はやはり頼もしいな。安心して家を任せられるよ」
「えへへ。何たって、あなたの奥さんなんだからねっ!」
胸を叩いて誇らしげにする今日子を見て笑みを見せるこの男性こそ、西園寺優志。今日子の夫であり、愛美と好美の父。医療の名門、西園寺家の現当主かつ現役の医師。かつて「不屈の秀才」と呼ばれ、数々の難手術を成功させてきた紛れもない名医である。その名と腕前は日本どころか世界的にも知らぬ者は居ないと言われる程であり、子供の育児を期に一線を引いた身であれど、未だに全国を飛び周りながら医療に関わり続けている。その多忙さ故に予定変更は日常茶飯事であり、今回の出張も本当は今日帰宅する予定だったものの、緊急の施術依頼が複数件舞い込んだ事でそれが叶わなくなってしまい、代わりに比較的予定が空いていた今日子に家に帰ってもらうように頼んでいたのだ。
情報共有を終えた優志は、今日子との会話の中で1つ気になった事があった為、クリップボードを置いて正面を向き、彼女に問いかける。
「それで、愛美と好美が音羽君と会ったというのは本当かい?」
「えぇ。あの子達が来た時にスクドル部がちょうど全員揃ってて、そこで会えたみたい。一緒に迷子の道案内までしてあげたんだってさ!」
「成程、それは幸先が良い。このまま仲良くなってくれると嬉しいんだがね」
「そうねぇ。ふふっ、それにしてもまた奇妙な巡り合わせね」
「あぁ、本当だね。東と西園寺の姓を持つ者には不思議な縁があるのかもしれない。私達が、そうだったようにね」
「でも、詩穂ちゃんは私と出会った時はまだ叶姓だったよ?」
「その後に湊人君と結婚したのだから同じようなものだろう」
「確かに、それもそっか!」
音羽と愛美達の出会いを、運命の様だと語る優志と今日子。音羽の両親である湊人と詩穂と、とあるきっかけからそれぞれ個人的な交友があった2人は、彼等との出会いを思い返しながら、自分達の様に子供達にも音羽と良好な関係を築いて欲しいと願うのであった。
「さて、私はそろそろ寝るとするよ。このまま君と語り明かしたい所ではあるけど、お互い仕事に響いては不味いからね」
「もう、またそんなキザな事言っちゃって。じゃあまた3日後にね!」
「あぁ。子供達を頼んだよ」
「おっけー!」
程なくしてから優志との通信が切れ、今日子は背伸びをしながら立ち上がる。すぐさま傍に着いた颯からいくつかの書類を受け取りながら、彼女は気合いを入れ直す為に深呼吸をした。
「よし、頑張るか!」
~~~
新入生達との慌ただしい1日を終えた『Liella!』の6人は、就寝前に自宅にてグループチャットを使ったビデオ通話を開き、皆で会話を楽しんでいた。練習の疲れもあってか、可可と恋が時折船を漕いでいる中、すみれが軽く背伸びをしながら今日1日の様子を振り返った。
『今日は色々と騒がしい1日だったわね……』
『まぁね。でも楽しかったから良いじゃん! 愛美ちゃんと好美ちゃんもスクールアイドル部に興味持ってくれたし』
『体力も元気も申し分ありまセン! あの子達なら、きっと良いスクールアイドルになれマス!』
千砂都と可可は、部活見学での愛美と好美の様子を思い返し、期待に胸を膨らませる。彼女達は見学の中で、部の設備や練習メニュー等に目を輝かせ、実際のダンスレッスンを見学する中で堪えきれなくなったのかその場で『Liella!』の振り付けを真似て踊り出すなど、千砂都の教え子らしい活動的な様子を見せ、スクールアイドル部の活動についてもかなり好意的な反応を返すなど、新入部員としての入部がかなり期待できる様子であった。一方、2人の会話を聞いていたすみれは、部活見学に参加しなかったもう1人の新入生の事を思い返していた。
『北海道から来たあのきな子って子も、これからスクールアイドルに興味を持ってくれたりするのかしら』
『きなちゃん、スクールアイドルの事全然知らなかったみたいだし、これから好きになってくれたら嬉しいな!』
『……はぃ。私もそう思いまs……』
『恋ちゃん、眠たい?』
『……はぅ? い、いえっ! そんな事は……』
『あははっ、恋ちゃんはいつもこのぐらいの時間に寝てるもんね。明日は入学式で忙しくなるだろうし、先に寝てても良いよ?』
『ですが、せっかくのテレビ通話ですし、もう少し皆さんとお話したいです……』
『嬉しいこと言ってくれるじゃない。でも音羽の言う通りね。もう少し話したら終わりにしましょう』
『そうだね!』
音羽の提案で、明日の入学式に備えて早めに寝る事にした一同。通話をしながらそれぞれが就寝の身支度を整える中、かのんが感慨深そうに言葉を紡ぎ始める。
『でも、なんだか不思議な感じ。私、この6人で『ラブライブ!』優勝を目指すのかと思ってたから』
『私もです。大会が終わった直後は、この6人で今度は勝ちたいって……』
『じゃあ、2人は入ってきて欲しくないの? 新入生』
『いやいやそんな訳ないよっ! むしろ大歓迎!!』
『私も、かのんさんと同じ気持ちですよ。ただいつの間にか、新入生の皆さんと一緒にスクールアイドルをやりたいという気持ちが自分の中に芽生えてきた事を、自分自身で不思議に思ったのです……』
『確かに、ククも何時のマニか熱烈歓迎の気持ちでいマシたね!』
千砂都に新入部員が入ってきて欲しくないのかと聞かれたかのんと恋は、慌てて新入生の入部に否定的では無い事を告げ、同時に自身の心境の変化について話す恋に、可可が同意する。昨年『ラブライブ!』東京大会にて 2位という結果で惜しくも敗れ去った際、今の6人で必ず『ラブライブ!』の頂点を掴むと固く誓いあった時から、彼らは6人での活動を続けていく事を前提に日々部活動に励んでおり、今のメンバーのまま『ラブライブ!』に再挑戦するとばかり思い込んでいたのが正直なところであった。だが、その心境の変化は決して悪い事ではないと可可と恋は理解しており、その証拠に、心の内を話す2人の表情はとても柔らかいものであった。かのんはそれに続けるように、自身が思っていた事を言葉にする。
『私ね、きな子ちゃんと話してる内に思ったんだ。新入生と一緒に頑張りたい。いっぱい色んな事をしてみたいって!』
『こうして新入生の皆さんと出会って、1つ1つの紐がまた結ばれて、繋がっていく。それが……結ヶ丘を創った、母の願いでもあると思いますから』
『恋ちゃん……』
きな子や愛美、好美達との出会いを紐を結ぶ行為に準え、今は亡き母である葉月花と幼い自分が映った写真に目を向ける。生前、結ヶ丘高等学校を創立する際に、彼女はこの学校が人と人との縁が結ばれ、様々な人間の想いが結ばれていく場所であって欲しいとの願いを込めていた。恋はその遺志を自分たち『Liella!』が受け継ぎ、スクールアイドルとしての活動を通して結ヶ丘を人の縁と絆を産み育てて行く場所として育てて行きたいとの決意を固めている。
そして、その結ヶ丘で生まれた縁と絆に救われた人間がこの中に居た。他でもない、東音羽である。恋の言葉を受けた彼は、自分の思いを言葉として紡ぐ。
『……そうだね。想いが繋がって、結ばれて……僕は、その暖かい繋がりに救われたから。だから、僕は恩返しがしたい。スクールアイドル活動を通して、結ヶ丘を皆の笑顔が溢れるような場所にしたい。この街で1番、素敵な場所にしたいんだ』
『音羽くん……!』
『『Liella!』に新しい人や『音』が混ざれば、もっと高みを目指せると思うから。そうなったらきっと、今より楽しくなるだろうなって!』
『おとちゃん……うん、そうだねっ!』
これからの展望を笑顔で語る音羽を見て、かのんと恋は感極まった表情を見せた。
音羽は『Liella!』のサポーターとして、そして結ヶ丘の初代生徒会副会長として、出来る事を全力ですると決めている。これからの事はまだ何も分からず、どんな未来になるか予想がつかないが、それを今は「楽しみ」だと前向きに捉えられるようになったのは、1年前の彼から大きく成長した点であった。
『音羽、あんた本当に変わったわね。出会ったはふにゃふにゃのお豆腐みたいだったのに』
『ふふっ、私がしっかり鍛えたからね!』
『ウゥ……スッカリ立派になりマシたね、音羽……!』
『あはは……自分ではまだまだだって思うけどね。でも、ありがとう!』
皆からの賞賛の言葉を受けとり、照れくさそうに微笑む音羽。『Liella!』としての活動を通して人間的に成長した彼であったが、根本にある優しさや純粋さが変わらないのもまた彼の良点であった。その様子を見ていたすみれは、ふと思い出した事を皆に問いかける。
『ねぇ、皆。さっきの話で縁って聞いて思い出したんだけど、今日来た愛美と好美って子、苗字が西園寺だったわよね。もしかして、アイツと何か関係があるのかしら……?』
『アイツって……もしかして美麗君の事?』
『失礼デスよすみれ! アイツじゃなくて美麗サンデスっ!』
『確かに、この辺だとなかなか聞かない苗字だもんね』
すみれは愛美達の苗字が西園寺であった事から、音羽の親友である西園寺美麗と何かしらの関係があるのではないかと推測していた。音羽は彼女の勘の良さに驚きつつ、愛美達から聞いた事実を皆に伝える事にした。
『ふふっ、すみれちゃんの言う通りだよ。愛美ちゃんと好美ちゃんは、美麗さんの親戚なんだ!』
『なんと……』
『世間って案外狭いねぇ』
『苗字が同じだからもしかしてって思って聞いてみたんだけど、まさか本当に親戚だなんて僕も思わなくて。初めて聞いた時はびっくりしたなぁ』
音羽から明かされた衝撃の真実に、一同は開いた口が塞がらない。『Liella!』一同は音羽に比べれば美麗との付き合いはそれ程多くは無いものの、彼からそういった事は聞かされていなかっただけにそのインパクトは凄まじいものであった。そんな中、突然恋が額に手を当て考え込むように何かを呟き始める。
『西園寺、西園寺……?』
『恋、どうしたの?』
『私の記憶違いでしたら申し訳ないのですが、結ヶ丘の在校生に、西園寺姓の方がもう1人いらっしゃるはずなのですが……』
『そうなのデスか?』
『……あっ、思い出した! 多分、隣のクラスの梁園さんの事かな?』
『梁園って……あぁ、あの子?』
『りょうえん、さん……?』
西園寺姓を持つ人間が結ヶ丘にもう1人在籍しているという恋の言葉に、千砂都とすみれが立て続けに『梁園』という名を口にする。その人物の事を全く知らなかった音羽は、不可思議そうに首を傾げた。
『あぁ、おとちゃんは多分会った事が無いよね。隣のクラスの西園寺梁園さん』
『うん……どんな人なの?』
『一言で表せば……『超人』ですね。普通科に在籍されているのですが、学問優秀、身体能力も飛び抜けて高い、文武両道を極めた様なお方です』
『それでいて物凄い美人さんなんだ。でも……』
『で、でも?』
少し言いづらそうに言葉を詰まらせた千砂都。その先を代弁するかのように、恋が口を開く。
『……何故かは分かりませんが、他人と関わる事を徹底的に避けていらっしゃるんです。授業以外の場所で他の方と一緒に行動している姿を、少なくとも私は見た事がありません』
『私も何度か見かけた事あるけど、話しかけて来た男子にも女子にも平等に超塩対応してたね』
『この前なんか、帰る途中で絡んできた近くの学校の不良を平手打ちだけで追い払ったとか聞いたよ……?』
『オォッ! かっこいいデスね!』
『そこ感動する所……? まぁ、それでいつからか、西園寺梁園は『冷徹撫子』って呼ばれるようになったのよ。まぁまぁ酷い渾名だけど、あの態度だったら実際そう思われても仕方ないわ』
『そう、だったんだね……』
梁園なる人物の評価を聞いた音羽が一番に思った事は、疑念と心配。かつて同じように人を避ける生活をしていた音羽には、今の彼女が何故人を避けているのかが気になったのである。もしかしたら、昔の自分と同じような苦しみを抱えているのかもしれない、と。
あくまで他人である自分が推測するのは烏滸がましい事だと理解はしていたが、それでも音羽は梁園の事が気になり始めていたのだ。
『おとくん?』
『ふぇっ!? あ、ごめんね。ちょっと考え事しちゃって……』
『そっか、なら良かった。それでね、その梁園さんなんだけどさ……愛美ちゃんと好美ちゃんの、お姉ちゃんなんだよね』
『……え?』
『はっ?』
『うん、お姉ちゃん。前にダンス教室で好美ちゃんから聞いたし、本当だと思うよ』
『『……え、えぇぇぇぇ!?』』
立て続けに明かされた衝撃の真実に、『Liella!』一同は揃って困惑と驚愕の声を上げる。先程まで漂っていた就寝前の雰囲気はすっかり霧散し、6人の夜はもう少しだけ長く続くのであった。
~~~
西園寺邸のテラス。人工の光が瞬く街並みを、寝巻き姿の一人の少女が眺めていた。彼女こそ、西園寺梁園。愛美と好美の、実の姉であった。まだ夜風が寒い中で、黄昏る彼女に近づく影がひとつ。
「梁園お嬢様、ここにいてはお身体を冷やしてしまいますよ。まだいらっしゃるのであれば、こちらをお使いくださいませ」
「ありがとうございます、柚乃さん。ですが、今はこうしていたいのです。思考をはっきりさせたくて」
自身の専属メイドである西園寺柚乃からブランケットとコーヒーを受け取りつつ、梁園は困り顔で軽くため息を吐いた。
「お2人の事が、ご心配ですか?」
「そうですね。愛美も好美ももう充分成長していますし、過保護だと理解してはいますが……少し、気になる事がありまして」
「今日お2人がご見学なされた部活……確か、スクールアイドル部、と言いましたね」
「はい。正確に言いますと、私が気になっているのはその部のサポーターですね」
言葉を重ねる度、梁園の眉間に深く皺が寄っていく。それと共に、周りの空気が重々しくなっていくのを柚乃は肌で感じ取っていた。
「東音羽さん。スクールアイドル部の、男性サポーター。あの子達は信頼出来そうだと言っていましたが、私はまだ彼の存在を信用する事は出来ません」
「スクールアイドルには珍しいサポーター、しかも男性。いくら旦那様と奥様のご友人のご子息とはいえ、用心しておくに越した事はありません」
「えぇ。だからこそ……東さんがあの子たちを害する存在であるか否かを、私がこの目で見極めます」
刃物のような鋭さを宿したその声に、柚乃は軽く身震いする。梁園は目線を再び夜景に移し、コーヒーを一口啜った。
元々社交的とはいえ、妹達が初対面であれほど異性に好感を示したのは初めての出来事であった。だからこそ、梁園は警戒しなければならないと感じていた。初対面で人当たり良く接してくる人間だからこそ、
「東音羽さん、貴方は私達の「敵」ですか。それとも……」
肌を突き刺すまでに冷えた夜風が、梁園の身体を勢い良く吹き抜けていった。
貴方は、何者だ。