星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト   作:再来アーク

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#6 2人の夜、二つの思い。

「それじゃ愛美、また明日ね!」

 

「うん、おやすみ~!」

 

 夕食を済ませた好美は愛美に別れを告げて自室に戻ると、すぐさまベッドにダイブし、スマホの検索アプリに素早く語句を打ち込んでいく。調べるのは勿論スクールアイドルの事、自分達が昼間お世話になった『Liella!』の面々についてである。

 

「『Liella! 楽曲』っと……おっ、意外と曲自体は少ないんだね」

 

 好美は『Liella!』の人気に反して発表曲数が少ない事に驚きつつも、楽曲リストを探っていく。その中に、一際目立つ煌びやかなサムネイルがあった。興味をそそられた好美は、その楽曲のリンクをすぐさまタップする。

 

「タイトルは……『ノンフィクション!!』かな?」

 

 ヘッドホンを装着し再生ボタンをタップした瞬間、好美の世界が鮮やかに塗り替えられる。

 統率されていながらもそれぞれの個性を引き出したダンスパフォーマンス。少しセクシーな雰囲気を感じさせる曲調と甘く誘うような大人びた歌声。その中心で輝く、一等星。

 

『ギャラクシーッ!!』

 

「平安名、すみれ……!」

 

 再生終了を告げるリプレイマークに、好美は既に指を伸ばしていた。

 何回、何十回。どれだけ聞き返し、見返したか分からない。頭の先から足の先まで動きを観察し、記憶し、刻みつけるかのように。自分が見た事の無い未知の表現に、好美はすっかり魅入られていた。

 

「これが、部活……このレベルで、まだ部活なの……?」

 

 様々なダンス競技の大会でしのぎを削ってきた好美から見ても、『Liella!』のダンスパフォーマンスは並のダンサーのそれを凌駕する迫力と完成度であった。彼女の師匠である千砂都がダンスコーチをしているというのも理由の一つではあるが、好美は完成度とは別の形容できない『何か』を映像越しながら感じ取っていた。言うなればオーラとも、覇気とも言い表せるそれを放つ『Liella!』の5人。その裏でどれほどの鍛錬を重ねて来たかを想像するだけで、武者震いが止まらなかった。

 

「スクールアイドル、すっごい……!」

 

 そうと決まればやる事は一つ。好美は携帯を自前のプロジェクターに繋ぐと、『ノンフィクション!!』のライブ映像を部屋の壁に映し出す。少しオーバーサイズな寝間着の袖を紐で括り、ポーズを決めて静止。再生ボタンをタップすれば、響くのはすみれの高らかな開幕宣言。

 

「ギャラクシーっ!!!」

 

 形ながらにすみれのそれを模倣した精一杯の叫びを開幕の合図とし、観客も声援も何一つ存在しないステージで、好美は舞い踊った。

 

 ~~~

 

「だはーっ!! づ、づかれたっ……」

 

 踊り始めて数時間か経った頃、好美は片膝を着いてその場に踞る。見本ありの模倣とはいえ、『Liella!』5人の振り付けをそれぞれの立ち位置まで合わせながら休憩無しで踊り続けるのは流石に負担が大きく、地に着いた足は小刻みに震えていた。だが、重くのしかかる疲労を噛み締めるより先に、好美は胸から込み上げる情動を口にせずにはいられなかった。

 

「このダンス、めっっちゃ楽しいっ……!」

 

 好美は、生粋のダンスジャンキーであった。

 

「他の曲無いかな! もっと動きの激しくてノリの良いやつ! あっ、すみれ先輩のセンター曲他には無いのかな。えっと、ここら辺に……」

 

「失礼致します、好美お嬢様。彩葉ですっ! お夜食をお持ちしたのですが、入っても宜しいでしょうか?」

 

「はーい、どうぞ!」

 

「失礼致しますっ! お嬢様、今日はかぼちゃクッキーで……って、物凄い汗ですねっ!? 自主練習でもなされていらっしゃったのですか?」

 

「あはは……スクールアイドルの事について調べてたら、気分が乗っちゃってつい。外に音響いてなかった?」

 

「何度か業務でお部屋前を通りましたが、特に騒がしいなとは思いませんでしたよ。私が聞こえていないのですから、他の子も聞こえていないはずです。ご安心くださいませ!」

 

「よ、良かった……」

 

 先程まで衝動のまま激しく踊り続けていた為、好美は今が夜遅く、それも就寝前であった事をすっかり忘れていた。外に音が響いていないか心配する彼女に対し、彩葉は物音は特には聞こえなかったと正直に答える。元々西園寺家の個室は防音対策もしっかり施されている為、好美の心配は杞憂に過ぎないのだが。

 

「それにしても、こんな夜遅くにダンスルームではなく自室で踊られるなんて珍しいですね。何か良い事でもあったのですか?」

 

「勿論、今日は良い事だらけだったよ! 今すぐ話したいけど、このままだと風邪ひいちゃいそうだし、1回シャワー浴びてくるね!」

 

「承知致しました。替えの寝間着とタオルは既にご用意しておりますので、そのままお入り下さいませ!」

 

「了解、すぐに戻ってくるね!」

 

「はいっ!」

 

 些かテンションが高めの主人を見送ると、彩葉は少し遅めのティータイムの準備をするのであった。

 

 ~~~

 

「それでね、恋先輩のギャップがもう凄くて! 部活見学の時はりょー姉みたいな優しくて綺麗な人だなって思ってたんだけど、ステージの上だと何処かの国の女王様みたいで、見ててドキってしちゃったの!」

 

「どれどれ……おぉ、中々の色気。それに、鋭い視線が怒った時の梁園様にそっくりですねっ!」

 

「あははっ、怒った時のりょー姉はもっと怖いって!」

 

 好美と彩葉はベッドの上で座りながら、先程の『ノンフィクション!!』のMVをスクリーンに写して鑑賞していた。今は各メンバーのパフォーマンスを好美が力説しており、彩葉は彼女が夜遅くにいきなり踊り出した理由を改めて理解した。彩葉の正直すぎる感想に好美が笑って返すその様子は、主人と使用人と言うよりかは歳の近い姉妹のようであった。

 

 彩葉は、8歳の頃に当時6歳だった好美の専属メイドとなり、以来10年近く彼女に仕え続けている。その為、好美にとって彩葉は梁園や双子の姉である愛美同様姉のような存在であり、彩葉も好美の前でだけは普段のメイドとしての律心を解き、気軽に接していた。

 

「これがスクールアイドル、これが『Liella!』……学校の部活だからと、侮ってはいけませんね!」

 

「うん。私、こんな表現があるなんて知らなかった。今までパフォーマンスなんていくらでもやってきたし、それなりに上手く踊れてる自信はあるんだ。でも、今の私には間違いなく『Liella!』と同じパフォーマンスは出来ない。こんなに人を惹きつけるダンスは……踊れない」

 

「好美様……」

 

 好美は『Liella!』のパフォーマンスに感激する一方で、自身とのレベルの違いを身に染みて感じていた。技術、表現力、努力。その全てにおいて彼女達は自分の上を行っている。同じパフォーマーだからこそ、好美はハッキリと理解出来たのだ。落ち込んだ様子の彼女を心配する彩葉。しかし、好美は顔を上げたかと思うと、皿に乗ったクッキーを口に放り込み、歯を見せて笑った。

 

「でもさ、それって最高じゃない!? だって私、井の中の蛙だったって事じゃん!」

 

「少々ことわざの使い方が間違っているような気がしますが……つまり、どういう事ですかっ?」

 

「言葉通りだよっ! 私の知らないダンスが、知らない表現があった! それってつまりさ、まだ上を目指せる、もっと上手くなれるって事でしょ? それって、すっごくワクワクしない!?」

 

「あははっ。確かに、自分より格上の人がいるというのは良い事でございます! 目標はあればあるほど、自分磨きが捗りますからねっ!」

 

「そうそう、さっすが彩葉さん! そこんとこ分かってるねぇ!」

 

「えへへ、メイドは日々自分を磨いていくものですから!」

 

 喜びを隠しきれない様子ではしゃぐ好美。落ち込む気持ちはあったものの、それ以上に彼女の心を満たしていたのは、果てなき向上心と高揚。まだ上を目指せる、もっとダンスを楽しめる。考える程に、気持ちは昂るばかりであった。そして、彩葉もまた好美の考えに同調する。彩葉は西園寺家の中でもかなりのベテランメイドであるのだが、自分より歴の長く高い技術力を持つメイドは何人もいると自覚している。だからこそ、どうすればより効率的に仕事をこなせるか、完璧な奉仕が出来るかを日々模索し続けているのである。2人は互いの意見が通じあったのが嬉しかったのか、顔を見合せて笑いあった。

 

「そういえば、この曲を作ったのは一体どなたなのでしょうかっ?」

 

「確かに。こんなに凄い曲なんだし、作ったのはきっと有名な作曲家さんなんだろうね」

 

「えぇ。そもそも『Liella!』の皆さんはまだ学生のご身分。日々の学業もありますから練習で精一杯でしょうし、流石に外部の方に楽曲提供をして頂かなければ負担が大きすぎますからね」

 

「だよね。えっと、作曲者、東音羽って……え? まさか、音羽センパイ……!?」

 

「好美様、お知り合いの方でございますか?」

 

「知り合いも何も、『Liella!』のサポーターやってる先輩だよ……えっ、嘘でしょ。マジなのこれ?」

 

「な、何と……ではこの楽曲を、学生の方が作曲されたというのですかっ!?」

 

 MVの作曲者欄に記載されていた『東音羽』の名前。何かの見間違いかと2人は目を擦って再び見返すも、画面の表記は変わることが無かった。『ノンフィクション!!』を、彼が。昼間の柔和で純粋そうなイメージとはあまりにも剥離したそのギャップに好美は驚きを隠せず、彩葉は高校生がこの曲を作り上げた事を未だ信じられない様子であった。

 

「音羽センパイが、これを……凄いなぁ。どれだけ頑張ったんだろうな……」

 

「これだけの完成度です。きっと、血の滲むような努力をされたに違いありませんよ」

 

「そうだよね。凄い人なんだな、音羽センパイって……」

 

 音羽の才覚の片鱗に触れ、好美は『可愛い先輩』止まりだった彼への印象を改める。それと同時に、好美は音羽の事をもっと知りたいとも思い始めていた。

 

「ねぇ、彩葉さん。もう少しだけ夜更かしに付き合ってくれる? 音羽センパイが作った曲が、他にもあるか探したいんだ!」

 

「うーん、メイドの立場としてはNOと言うべきなのでしょうが……好美様のお願いなら仕方ありませんね! お付き合い致しますよっ!」

 

「わぁいっ! ありがとう彩葉さんっ! そうだ、せっかくだし愛美にも音羽センパイの事教えてあげよっと!」

 

「愛美様も、東様の事をご存知なのですか?」

 

「うん。今日一緒に会ったんだ。ふふっ、愛美もびっくりするだろうなぁ」

 

 楽しそうにメールを送る好美を見つめながら、彩葉は『東音羽』がどんな人物なのかが気になり始めていた。性別も性格もまだ分からないが、好美の声色からしてどうやら今すぐに警戒すべき人物でない事だけは確かであった。

 

「音羽様、一体どんなお方なのでしょう……?」

 

「後で写真見せたげるね! でもまずは、音羽センパイの曲が他にも無いかリサーチしてこ!」

 

「はいっ! 彩葉、全力で捜索致しますっ!」

 

 スマホを手に取り、同じ語句を打ち込みながら談笑する好美と彩葉。

 2人の夜は、騒がしく過ぎていく。

 

 ~~~

 

「~~〜♪」

 

 少しだけ時を戻して、愛美の自室。

 ベッドの上を転がりながら、愛美はスマホに検索語句を打ち込んでいく。

 

「何から聞こうかな~って、ん?」

 

 表示された『Liella!』のプレイリストの端に記載された関連楽曲の欄、そこには不思議な雰囲気を纏ったサムネイルが表示されていた。

 

「Tiny Stars……クー、カー?」

 

 珍妙な響きのグループ名に興味を惹かれたのか、愛美は画面をタップし、ヘッドホンを装着して試聴の準備を始める。

 

「でも、なんでかのん先輩と可可先輩がジャケットにいるんだろう……」

 

「Tiny Stars」のサムネイルには、『Liella!』に所属している筈のかのんと可可が写っており、愛美は困惑する。『Liella!』に所属する前に活動していたのか、それとも結ヶ丘のスクールアイドル部には『Liella!』以外のグループが存在しているのか。疑問は尽きないが、ひとまず曲を聞いてから調べようと思い再生ボタンをタップした、その瞬間。

 

 世界を星空が覆った。

 

 パステルカラーの光彩に包まれたステージと、雲を纏ったようなフリルをあしらえた衣装。優しい曲調ながらも前に進む勇気を称える歌詞は、どこか初々しさを感じるパフォーマンスと相まって、彼女達を応援したくなる気持ちにさせる不思議な魅力を醸し出していた。

 

「頑張れっ!」

 

 画面の前の映像だと分かっていても、愛美は自然とその言葉を口に出していた。パフォーマンスは愛美の目から見ても拙い部分が多く、身体のブレやふらつき等、完璧とは言えない粗が多く見られた。だが、それ以上に彼女達は、歌い踊る事を心から楽しんでいるように見えたのだ。

 

『煌めけ!』

 

 終幕を告げるリプレイマークは1秒と経たずに、愛美の指によって始まりを示す再生マークへと形を変える。興奮のあまりズレたヘッドホンをかけ直し、何回も、何回も繰り返し映像を見返す。

 

「これが、スクールアイドル……!」

 

 喫茶店にてかのんが語っていたスクールアイドルの良さというものを、愛美は少しだけ理解出来たような気がした。「あの子達に頑張ってほしい」と思える一生懸命さと、心の底から歌を、踊りを楽しめる自由さ。それこそがスクールアイドルの魅力であるのだと。

 

「こんなに楽しいパフォーマンスが出来たら、そりゃ人生も変わっちゃうよね……!」

 

 ならば。と言わんばかりに愛美は立ち上がると、好美と同じようにスクリーンを準備し、ライブ映像を壁面に映し出す。袖を捲って動きやすくしようかとも考えたが、彼女達から感じた可愛らしさが消えそうだと思い、やめる事にした。

 

「駆け抜けるシューティングスター 追いかけて星になる……」

 

 あの星の様に輝けるのかは分からない。愛美はダンサーであってスクールアイドルではないからだ。

 まだなろうかどうかも決めていない、気持ちはふわふわと定まらないままで。

 でも、追いかける事なら出来る。

 だから、今ここから。

 

「煌めけ……っ!」

 

 観客も照明も、隣にいる誰かも居ない1人のステージ。愛美は、不思議と寂しさを感じることは無かった。

 

 ~~~

 

「ふぅ……振り付けの割には結構疲れるもんだねぇ……」

 

 気の済むまで『Tiny Stars』を踊り抜いた愛美は、床に大の字になって倒れ込む。ゆっくりとしたテンポの曲に反して意外と振り付けの難易度は高く、それをかのんと可可の振り付けを交互に、相手がいる想定で踊っていたのもあり、終わり頃には全身に程良い疲労感が蓄積されていた。

 

「これならよく眠れそうだねぇ。でも汗かいちゃったし、1回シャワー浴びてから……」

 

「愛美お嬢様、小春でございます。お夜食をお持ち致しました」

 

「ぬわっ!? な、なんだ小春さんか……うん。入って良いよ~」

 

「ありがとうございます。それでは、失礼致します」

 

 突然の来訪者に愛美は思わず飛び上がってしまうも、呼びかけられた声ですぐに自身の専属メイドである小春が訪れたのだと理解し、安心して彼女を自身の部屋に通した。

 

「やっほ、小春さん。もしかして、ずっと待っててくれた感じかな?」

 

「いえ、今お訪ねさせて頂いた所でございますよ。それにしても、随分と汗をかかれていらっしゃるように見えますが、自主練習でもなされていたのですか?」

 

「んー、自主練っちゃ自主練なんだけど厳密には違うと言いますか……とりあえず、シャワー浴びた後にお話しても良いかな?」

 

「承知致しました。予備のお着替えは既にご用意させて頂いておりますので、ご自由にお使いくださいませ」

 

「ありがとうねぇ。それじゃ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃいませ、愛美様」

 

 何時もより幸せそうに部屋を出る主人を見送ると、小春は遅めのティータイムの準備をするのであった。

 

 ~~~

 

「それでね、ここ! この振り向いた時の可可先輩の笑顔が本当に可愛くてね、思わずドキッてしちゃったんだぁ……!」

 

「確かに。独特の魅力といいますか、人を惹きつける表情をなされていますね。俗に言う、見返り美人というものでしょうか」

 

「そうそうそれ! 本当に可愛いよねっ!」

 

 夜中のシャワーを堪能した愛美は、淹れたての紅茶とクッキーをお供に、『Tiny Stars』のMVの中で、特に好きなポイントを小春に熱弁していた。無邪気にはしゃぐ愛美と、それを微笑みながら見守る小春。傍から見れば、仲の良い姉妹のようにも見える光景であった。

 

「ここまできちんとしたパフォーマンスを見せられては、高校生の部活動だからと侮る事は出来ませんね」

 

「私はね、部活動だからこそ、こんなに自由に歌って踊れるのかなって思うんだ。勝ち負けが一番じゃない、自分達も楽しむ為のステージって感じかな?」

 

 高校生ながら本格的なパフォーマンスを見せる『クーカー』の2人に、小春は学生の部活動の範疇に収まらない技術の高さを感じ、自身の認識を改める。その一方で、愛美は部活動の範疇に納まっているからこそ、彼女達はここまで自由に、楽しく歌い踊れているのだと分析していた。

 

「かのん先輩も可可先輩も、本当に楽しそうだから。まだ上手く言い表せないけど、この自由さがスクールアイドルの良さなのかなって思うんだ」

 

「成程。もし高校生の間にこんな素敵な事が出来たなら、何があってもきっと……素晴らしい3年間になる事でしょうね」

 

「小春さんもスクールアイドルの事、気になりだした?」

 

「えぇ。愛美様がここまで熱心に推して下さるのであれば、無碍にする訳には参りませんから。それに、衣装がとても可愛らしいのも良いなと思いまして」

 

「ふふっ。小春さんはそういうの大好きだからねぇ」

 

「えぇ。可愛さは美徳でございますから」

 

 愛美の問いかけに笑顔で答えた小春は、再度MVの『クーカー』の衣装に目を向ける。

 ふんわりと雲のように広がる2層構造のフリルスカートに、全体にあしらわれた大きめのリボン。白基調で優しい印象を与えながら、差し色の使い分けで地味になりすぎないように調整されていた。特に、赤と青の配色を、色の濃淡や配置を細かく分けつつ、横に並んだ時にシンメトリーになるように配置するデザインセンスに、小春はまだ学生の身でありながらここまで衣装の作り込みが出来る人材が居るのかと驚愕する。そして何より、可愛らしさを前面に押し出したそのデザインセンスを、小春は大層気に入っていた。

 

「この衣装を作られた方は……きっと、心の底から可愛いものがお好きなのですね」

 

「スクールアイドルの事も、心の底から大好きなんだろうね。だから、こんなに素敵なステージが出来たんだと思う!」

 

「ふふっ、そうに違いありませんね」

 

「ねー。ん、好美からメール来た。なんだろ……って、えっ!」

 

「愛美様、如何なされましたか?」

 

「今日、部活見学の時に会った東音羽さんって先輩がいるんだけどね、その人が結ヶ丘のスクールアイドルグループの作曲やってたんだって。そっか、音羽先輩が……」

 

「結ヶ丘……確か、先程『Liella!』というスクールアイドルグループが存在すると仰っていましたね。その音羽様というお方もスクールアイドルをされているのですか?」

 

「ううん。音羽先輩は『Liella!』のサポーターだから、歌ったり踊ったりはしてないよ。でも縁の下の力持ちっていうか、それ以外の事は全部出来る人って感じかな」

 

「成程、それは興味深いですね」

 

 好美から伝えられた音羽に関する情報を、愛美は少し興奮気味で小春に話す。彼女としても、何処かふわふわとした雰囲気を漂わせていた音羽の意外な一面にかなり驚いており、小春も愛美の説明から音羽の存在に興味を持ち始めていた。

 

「よし、このまま『Liella!』の曲も調べていこっか!」

 

「えぇ。せっかくですし、『クーカー』や他のスクールアイドルの事も調べてみては如何でしょうか?」

 

「そうだねぇ。もしかしたら、また新しい発見があるかもだしね!」

 

「それに、衣装のデザインやパフォーマンスを、愛美様のダンサーとしての活動に活かすことも出来ますしね」

 

「そういう小春さんこそ、スクールアイドルの衣装をもっと見たくてうずうずしてるんじゃないのぉ?」

 

「んぐっ。愛美様に隠し事は出来ませんね」

 

「えへへ、長い付き合いだからねっ」

 

「ふふっ……えぇ、その通りですね」

 

 まるで本当の姉妹のような会話を繰り広げる愛美と小春。それもそのはず、彼女達も好美と彩葉同様、10年来の主従関係で結ばれた深い仲なのである。

 

 愛美は日頃から姉として好美を支え、妹として梁園を支えているものの、三姉妹の真ん中という立ち位置が故に誰かに素直に甘えられる場面が少ない。その為、付き合いの長く、比較的気兼ねなく甘えられる小春に弱みを見せる事が多く、彼女もまた愛美の立ち位置を理解している故に素直に受け入れ、ついでに甘える彼女の姿を眺めて日頃の疲れを癒すという風に、互いに支え合う関係を築いているのだ。

 

「愛美様、スケッチブックをお借りしても宜しいでしょうか。せっかくの機会ですから、細部まで書き起こしておきたくて」

 

「良いよ、はいっ。大きめの方がいっぱい書き込めるでしょ?」

 

「ふふっ、ありがとうございます。それでは、リサーチを始めましょうか……!」

 

「そだね。まずは音羽先輩の作った曲から調べていこっか!」

 

 ベッドの上でぴったりとくっつき、お互いに良いなと思った部分をスケッチやメモに残していく愛美と小春。

 2人の夜は、穏やかに過ぎていく。

 

 この夜が明ければ、いよいよ入学式。

 愛美と好美、そしてきな子の……新しい生活の幕が明ける。

 果たして3人にどんな運命が待ち受けているのか、まだ、誰も知る由はない。

 




その煌めきに、魅せられて。
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