星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト 作:再来アーク
蒼天に純白の春雲が浮かび、いつにも増して吹き荒れる春一番に乗って桜の花びらが舞い散る。4月1日。様々な節目の始まりとされるこの日、結ヶ丘高等学校は2回目の入学式を無事迎える事となった。様々な期待と不安が入り交じる中、桜並木の並ぶ道を駆け抜ける少女が2人。
「入・学・式、だーっ!!」
「まだ始まってもないでしょ。そんなにはしゃいだら怪我するよ?」
「だってだってさ愛美、入学式だよ! 一生に何回あるかないか位の大イベントじゃん! はしゃぎたくもなるって!!」
結ヶ丘高等学校に続く通学路の1つ。規則正しく並ぶ桜並木の中で、舞い散る桜吹雪とデュエットを踊るかのように軽快なスピンを決める好美を軽く嗜めながら、愛美は胸ポケットから取り出したスティック羊羹に齧り付く。
「んむんむ……まぁ落ち着きなって。入学式なんだから、学校に着いてからが本当のお楽しみでしょ。まずはどんな子が居るのか、じっくり観察しなきゃ」
「確かに。それでさ、気になる子がいたらどんどん話しかけて行きたいよね。大事なのはファーストコンタクトだからさ!」
「インパクトが強すぎると引かれちゃうし、程々に声掛けていきたいねぇ。元からの知り合いがあんまり居ない分、慎重にいかなきゃだし」
入学式後の目標として、他の新入生とのコミュニケーションを挙げる好美と、それに同意する愛美。中学時代に彼女達と仲の良かった友人は、それぞれの目標の為に別の学校へと進学しており、結ヶ丘に進学する知り合いはたった数人程度しか居なかった。それではあまりにも寂しいと感じた2人は、新しく友人を作る為に他の新入生に積極的に話しかけていこうと考えていたのだ。
「ふふっ、どんな子がいるのかな。食べたり寝たりが好きな子だったら良いなぁ」
「あたしは誰とでも仲良くなりたいけど、どうせなら楽しい事が好きな子が良いな!」
「楽しい事ねぇ。だったら、スクールアイドルやってみるのもアリなんじゃない?」
「確かに。ああやって歌って踊れたら楽しそうだよね。でも、んー……」
愛美は、昨晩のリサーチを経てスクールアイドルという存在を深く知り、自分もやってみたいという気持ちが芽生え始めていた。そして、同じくスクールアイドルに興味を抱いていた好美がどう思っているかを聞くことにしたのである。そんな愛美の提案に好美は首肯を返すも、予想に反して何やら思う所があるのか、顔を顰めて唸り出す。
「何だかね、先輩達と一緒にスクールアイドルをやりたいっていうよりかは、先輩達のパフォーマンスを超えたいって言うか、なんというか……上手く言えないけど、今は『Liella!』に勝ちたい、って感じかな!」
「ほうほう。ダンサーの魂、揺さぶられちゃった感じかぁ。実は私もなんだよね」
「愛美も?」
「うん。スクールアイドルやってる先輩達は、本当に自由にパフォーマンスしててね。楽しそうで、綺麗で。私もやってみたいって気持ちもあるんだ。でも……」
「でも?」
「心のどこかでさ、悔しいなって思っちゃったんだ。私の知らない世界が、知らないパフォーマンスがあった。そう考えたら悔しくて堪らなくって。私も同じレベルに、絶対追いついてやる! ってさ。まずダンサーとして超えてみたくなっちゃったんだ。先輩達の事」
『Liella!』を超えたいと語る好美に対し、自分も同じだと語る愛美。スクールアイドルの在り方に惹かれた彼女であったが、同時に彼女は1人のダンサー。『Liella』を始めとするスクールアイドルに対し、普段はあまり表に出さずにいた闘争心に火がついたのだ。やる気に満ちた目で宣言する愛美に対し、好美は満足気に頷く。
「じゃあ、先輩達にちゃんと報告しなきゃね!」
「そうだねぇ。千砂都先輩の事、ガッカリさせちゃうかもだけど……」
「それは仕方ないよ。あたしも正直ちさちゃん先輩に申し訳なさはあるけど、もう決めた事なんだしさ。自分で考えて決めた事なら、きっと許してくれるよ!」
「そう、だね……うん。なるようにしかならないよね。よし、とりあえず入学式行こっか!」
「さすがお姉ちゃん! よっしゃ、レッツゴー!!」
『Liella!』の面々に自分達の考えを伝える事に決めた2人。愛美は自分達を誘ってくれた千砂都の頼みを断る事に罪悪感を覚えるも、好美は仕方ない事だと励ます。本来の気持ちを抑えて無理にスクールアイドルをしても、本気にはなれない、心から楽しめない。そんな状態で惰性で続けていては、却って千砂都を始めとする『Liella!』メンバーに迷惑がかかってしまう。そうなるよりは、今は自分たちが納得する形で『Liella!』と関わって行きたいと好美は考えていた。そんな好美の言葉に背中を押された愛美は、気合いを入れ直すように両頬を叩き、しっかり前を見すえて歩き出す。そんな彼女の堂々とした姿を見た好美は嬉しそうに微笑み、駆け足で後を着いていった。
「ねぇ、好美。もし私達が『Liella!』に追いついて、追い越せた後は……」
『僕達はいつでも、きなちゃん達を待ってるよ!』
「……スクールアイドル、本気でやってみたいね!」
カフェで音羽にかけてもらった言葉を思い返しながら、愛美は桜舞う路地を駆け抜けていった。
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「とうちゃーくっ……って門デカっ!」
「これはまた派手なお出迎えだねぇ……」
歩道を全速力で走り抜き、あっという間に結ヶ丘高等学校の前まで辿り着いた愛美と好美。そんな2人を、豪勢に飾り付けられた正門が出迎えた。昨日までの落ち着いた雰囲気とは打って変わり、桜をイメージしたのかピンクを基調としたパステルカラーで彩られ、可愛らしくデフォルメされたキャラクターやポップな文字が明るく楽しげな雰囲気を演出する。何処か見覚えのある可愛らしさ全開のデザインセンスに、愛美はくすりと笑みを漏らした。
「私達、大歓迎されちゃったね!」
「えへへ。ここまで気合いが入った歓迎されちゃったら、やる気湧いてきちゃうよねぇ」
「さ、早く行こ!」
「うんっ。ちょっと早いけど教室に入っとこうか」
「そだね。ん? あれって……」
正門をくぐり抜けた2人が校舎への一本道を歩いていると、少し先に見覚えのある2つ結びの後ろ姿が見えた。その人物が、昨日出会った桜小路きな子であるとすぐに見抜いた好美は声をかけようとするも、彼女は同じ結ヶ丘の女子生徒と何かを話しており、2人には気づいていない様子であった。
「桜小路さんと……もう1人は誰だろ。先輩かな?」
「あの髪色、何処かで見た事あるような気がするんだよね……」
「話が終わるまで待っとこうか」
「あっ。愛美さん、好美さん。おはようございますっす!」
好美はきな子に話しかける女子生徒に既視感を覚えるも、誰であったかは思い出せない。話の邪魔にならないように愛美達が距離を置こうとしたその時、ふと振り向いたきな子が2人の存在に気づき、パッと顔を明るくして話しかけて来た。
「おぉ、きな子ちゃんおはよっ!」
「ごめんね、お話中だったのに。邪魔しちゃったかな?」
「いえいえ、そんな事ないっすよ!」
「おや、そこのお2人はご友人の方ですの?」
気軽に挨拶を返す好美と会話を邪魔してしまったことを謝る愛美に対し、気にしなくて良いと伝えるきな子。仲良さげに話す3人の様子が気になったのか、きな子と話していた女子生徒が彼女に問いかける。
「ふぁっ!? えっと、友人というよりは……そう、命の恩人っす!」
「命の恩人だなんてそんな、大げさだなぁ。えへへ」
「あたし達はただ道案内をしただけで……って、あーっ!!」
「なぢゅっ! いきなり何ですの!?」
きな子に命の恩人と紹介され、照れくさそうに頭を搔く2人。すると、突然好美が目を見開き、耳をつんざくような大声で叫んだ。あまりの声量に女子生徒は飛び上がって尻もちを着いてしまう。
「ねぇねぇ、あなたもしかして、『オニナッツチャンネル』の鬼塚夏美ちゃん!?」
「オニナッツ……あぁ、あのチャンネルの?」
「そうなんすよ! Ltuberで有名人、ザ・都会って感じっすよね~!」
テンション高めに女子生徒と距離を詰める好美。愛美が不思議そうに首を傾げる中、きな子も高揚した様子でそれに続く。あまりの勢いに顔を引きつらせた女子生徒、鬼塚夏美は、一旦距離をとってから彼女達に向き直る。
「この学校には距離感近い子しか居ないんですの……?」
「おっとごめんね。実はちょっと前からオニナッツちゃ……鬼塚さんの動画見ててさ。昨日の動画で作ってたへんてこスムージー、美味しかったよ!」
「こら、へんてことか言っちゃいけません。でも、不思議な色の割には健康的な味がしたよねぇ」
「えっ、チャンネルの視聴者さん……! って、誰がへんてこですの! わりと真面目に作ったんですのよアレ!」
好美が自身のチャンネルの視聴者であった事に夏美は一瞬顔を綻ばせるも、自作のスムージーを変だと言われたことに気づき、地団駄を踏んで怒りを見せる。好美は彼女のぷりぷりとした様子を小動物のようで可愛らしいと思いつつ軽く謝罪をし、先程から気になっていた事を聞いてみる事にした。
「にゃはは、ごめんね。それで、もしかしてきな子ちゃんにインタビュー中だったの?」
「まぁ……そういう所ですの?」
「きな子、本物のいんふるえんさー? さんに会ったの初めてっす!」
以前より視聴していたLtubeチャンネルの投稿主本人が目の前に現れた事で好美のテンションは最高潮となり、きな子としても、夏美は自身のイメージしていた「都会人」そのままの人間だった為、些か興奮した様子で彼女に話しかけていた。このままでは2人から質問攻めに遭って撮影どころではないと判断した夏美は、その場を切り抜けるための会話プランを瞬時に構築する。
「あぁっ大変! 入学式が始まる前に他の新入生の方々にもインタビューしなければなりませんの! すみませんが、このままだと時間が押してしまいますので、ここで失礼させて頂きますの!」
「そっか、今動画の撮影中じゃん。引き止めちゃってごめんね!」
「構いませんの! それと最後に、チャンネル登録よろしくですの。今の動画は明日公開! 毎週日曜日はライブ配信実施中、投げ銭・追い銭・プレゼント、何でも結構ですの! では~!」
「撮影頑張ってね~!」
さりげなく名刺を愛美達の手に滑り込ませ、自身のチャンネルを喧伝しながら独特の身のこなしで去っていく夏美と、それを手を振って見送る西園寺姉妹。そんな3人に挟まれたきな子は、都会の人間は去り際まで華麗なのだと感心するのだった。
「おおっ、名刺貰っちゃった!」
「しー、いー、おー……って、なんすか?」
「代表取締役社長。会社の1番お偉いさんって事だねぇ。あの歳で会社経営だなんて、しっかりしてるなぁ」
「ふぇっ!? きな子、すごい人と知り合っちゃったっす……!」
夏美から手渡された名刺には『株式会社オニナッツ 代表取締役社長 鬼塚夏美』と書かれており、その肩書きの大きさに愛美達は驚愕する。学生の身分に見合わない役職故に、普通ならば社長を自称しているだけだとかチャンネルの宣伝の為だなどと邪推されそうなものであるが、幸いにも3人は純真な性格であった故に疑いもせず、夏美の社長という肩書きに素直に感心していた。
「ふふっ、今度会ったらサイン貰っちゃおっかな!」
「いいねぇそれ。同じクラスだと嬉しいなぁ」
「今から教室入るんすよね。き、緊張するっす……」
「大丈夫大丈夫、緊張するのは最初だけだよ!」
「皆とは少しずつ仲良くなっていけば良いと思うよ。友達を作りたいなら、性格の合う合わないとかもじっくり見極めた方が良いかなって私は思うなぁ」
「なるほど……が、頑張ってみるっす!」
不安そうに目を泳がせるきな子に対し、それぞれ自分なりのアドバイスを送る愛美と好美。それを受けてやる気が湧いて来たのか、きな子は気合いを入れ直すように握りこぶしを作る。
「じゃあ、教室入ろっか!」
「そだね。入学式に遅れちゃいけないし」
「心の準備をしておきたいっす……!」
好美を先頭にして、3人は駆け足で校舎の中へ入っていくのであった。
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新入生在校生問わず、数多の人々が行き交う校舎の渡り廊下を歩く3人。先頭を歩く好美は、きな子にまだ聞けていなかった事を思い出す。
「そういえばさ、きな子ちゃんは何科なの?」
「きな子は普通科っす。酪農科とかあったら入りたかったんすけどね、あはは……」
「私達は音楽科だから、クラス違うね。残念だなぁ」
「クラスは違っても同じ階なんだし、何時でも会えるじゃん! きな子ちゃんも気軽に音楽科においでよ、ね?」
「お、お2人が良いなら、行かせてもらうっす!」
「やった! それじゃあそろそれ入学式だし、また後で!」
「はいっす、また後で!」
きな子とクラスが離れることを残念がる愛美に対し、好美は、同級生かつ教室のある階も同じなのだから、いつでも会えると励ます。同様にきな子にも気軽に自分達の教室へ来て欲しいと伝えると、それが嬉しかったのかきな子は顔を綻ばせた。そのやり取りが終わる頃に朝の時限を告げる予鈴が鳴り響き、入学式まであまり時間が無い事を悟った西園寺姉妹は、きな子に軽く別れを告げると廊下を小走りで駆け抜けていった。
「行っちゃった、っすね。よし、きな子も教室に……ふぎゃんっ!」
「ぬぁっ!? な、なんだお前、いきなり入ってきたと思えば……」
「Unlucky.正面から思いっ切り転けたね」
「うぅっ、入学早々またやらかしたっす……」
「ったく。ほら、立てるか?」
「あ、ありがとうございますっす……」
愛美達と別れ、意を決して教室に入ろうとするも、敷戸につまづき入口で盛大に転けてしまう。ちょうど扉を出ようとした赤髪の女子生徒は後方へ飛び上がり、傍に居た青髪の女子生徒は表情を変えず彼女を見つめる。周りからの笑い声と自分の失態を思い返し、恥ずかしさのあまり縮こまるきな子に赤髪の生徒が手を差し伸べ、きな子は震える手で何とかそれを掴んで立ち上がる事が出来た。
「あ、ありがとうございますっす。すみません、びっくりさせちゃって……」
「良いよ、別に。転ける事ぐらい誰だってあるだろ」
「怪我は……ん、特に無いね。良かった」
「じゃあ問題ねぇな。ほら、急がねぇと入学式始まるぞ?」
「はいっす……あの、名前はっ!」
「名前はって、そんなの聞いて何になるんだよ?」
「メイ、言葉に棘が出てる。多分、教えてあげた方が互いのためになる」
自分を助けてくれた彼女達に名前を聞いたきな子に対し、赤髪の生徒は少し不機嫌そうに理由を聞く。それを咎めるように青髪の生徒が口を出し、赤髪の生徒は少しバツが悪そうな表情をした後に仕方ないと言った表情で口を開いた。
「あー、わーったよ……米女、私は米女メイだ。そんでこっちのデカいのが若菜四季だ」
「紹介ありがとう。席の事、まだ根に持ってるの?」
「るっせぇ! で、あんた名前は?」
「きな子は桜小路きな子と申しますっす!」
「そうか。んじゃ桜小路、入学式行くぞ」
「はいっす!」
早歩きで進むメイと四季の後を、きな子は小走りでついて行くのであった。
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「音楽科と普通科、2つの科が協力する事によって、この学校をより活気溢れる素敵な場所にする事が出来ると、私は信じております。皆で、素敵な学校にしていきましょう」
結ヶ丘高等学校の第2回入学式は大きなトラブルも無く進み、生徒会長である恋の祝辞によってその幕を閉じた。音楽科と普通科関係無く結ヶ丘の一員として学生生活を満喫し、共により良い学校にしていきたいと語る恋の演説に、早速心打たれる新入生が続出していた。
生徒会副会長である音羽は、壇上で堂々と語る幼馴染の凛とした背中を見つめながら、改めてこの学校における彼女の存在の大きさを再確認していた。
「あの子、1年ですっかり貫禄が出てきたわね」
「恋ちゃん、昔からすごい人だなって思ってましたけど、今は更に背中が大きく見えるんです。あの後ろ姿を見てると、まだまだ追いつけそうには無いなって思いますね」
「また謙遜しちゃって。葉月さんの隣に立って見劣りしないのは、音羽君ぐらいしか居ないわよ?」
「そうですかね……でも、副会長をやるからには、恋ちゃんをしっかり支えてあげたいなって思ってます。結ヶ丘を、もっと素敵な場所にしたいですから」
「えぇ。貴方達に、期待してるわ」
「はいっ!」
恋の後ろ姿を見つめながら、理事長と音羽は結ヶ丘をより良い学校にしたいと改めて決心するのであった。
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「西園寺愛美です。皆とはゆっくり仲良くしていけたらなぁと思ってます。よろしくお願いします~」
「はいはい皆さんごきげんよう! 西園寺好美ですっ! 皆と楽しく明るいスクールライフを過ごして行けたらなと思ってますので、どうぞよろしくお願いしますっ!」
入学式後のHR(ホームルーム)では、学校の概要や各科のカリキュラムなどが説明され、次いで自己紹介の時間が設けられた。愛美と好美はこの機会を逃すまいと、自分達に興味を持って貰えるようにインパクトのある自己アピールを行なった。そしてどうやらそれは項を奏したようで、HR後の放課時間になると彼女達に興味を持ったクラスメイトに囲まれ、1時間近くもの間代わる代わる質問攻めに遭う事となってしまった。ようやく人の波が落ち着いてきた所で2人はクラスを抜け出し、まずは『Liella!』に会いに行く為に校舎の探索を始めることにした。
「部室には居なかったけど、先輩達どこだろ……」
「普通に新入生の勧誘やってるんじゃないかなぁ。千砂都先輩に何処いるか聞いてみる?」
「そだね。無闇に探すよりも……って、あれ?」
「どしたの好美……あれぇ?」
千砂都に現在『Liella!』が何処にいるかを聞く為に携帯を取り出した好美だったが、急に立ち止まり遠くの風景を不思議そうに見つめ出す。気になった愛美も同じ方向を向くと、そこには……。
「音羽先輩、これ受け取って下さい!」
「副会長、このヘアピン似合うと思いますよ!」
「音羽きゅんサインください!」
「ちょ、皆さん落ち着いて……わっ、わぁ……!」
プレゼントを送られたり、髪にヘアピンやアクセサリーを盛られたり、サインをねだられたりと、新入生にもみくちゃにされる音羽がいた。
「なんかクリスマスツリーみたいになってる……」
「えっと、とりあえず助けに行く?」
「う、うん……!」
嫌がらせや暴力を振るわれてはいないものの、新入生達にこのままたらい回しにされては音羽が可哀想だと思った愛美達は、一先ず彼を救出に向かうのであった。
~~〜
「愛美ちゃん好美ちゃん、ありがとね……」
「いえいえお構いなく。音羽先輩、早速大人気でしたねぇ」
「スクールアイドルのサポーターってあんまり注目されないって聞いたんですけど、音羽センパイレベルになるとやっぱ違うんですねっ!」
「あはは……皆に応援して貰えるのは嬉しいけど、何だか慣れなくて。僕はただのサポーターだし、どうしてここまで僕個人に人気があるのか分からなくて……」
愛美と好美の助太刀もあって、頭を富豪のクリスマスツリーのようにされながらも何とか脱出に成功した音羽。愛美達と『Liella!』メンバーの元へ向かう道中で、音羽は2人に自分が何故ここまで皆に人気があるのか分からないと話す。彼からしてみれば、個々に優れた才を持ち、ステージの上で歌い踊りファンを魅了する『Liella!』メンバーに人気が出るのは当然であり、スクールアイドル活動のいわば脇役ポジションであるサポーターは注目されないものとして考えていたが故に、音羽は今の自分の人気ぶりに疑問を抱いていたのだ。彼のそんな悩みに対し、愛美と好美は頭に浮かんだ意見を言葉にする。
「そりゃあ、実力と容姿じゃないですか?」
「可愛いですしね、音羽先輩」
「かのんちゃん達にも全く同じ事言われたなぁ……」
愛美達の素直な言葉に苦笑いを返す音羽。実力は兎も角、以前かのん達に全く同じ話題を振った際にも全員に『可愛いから』という答えを返されており、自分の容姿について一度もそう思った事がない音羽にとっては不思議でしょうがなかったのだ。
「皆に可愛いって言われるんだけど、僕って男らしくないのかな……」
「そんな事は無いと思いますよ。音羽先輩はやる時はカッコよく決めてくれる頼もしい人だって千砂都先輩が言ってましたし」
「出会ったばかりで言うのも何ですけど、あたしは今の音羽センパイでも十分素敵だなって思いますよ?」
「そうかなぁ……」
「おーい、おとちゃーんっ!」
「あっ、かのんちゃん!」
自分の男らしさについて思い悩む音羽を愛美達から宥めていると、前方から溌剌とした声が聞こえて来る。その声の主がかのんである事にすぐに気づいた音羽は元気よく返事し、嬉しそうに駆け寄っていく。
「愛美ちゃんと好美ちゃんもおはよう。ようこそ結ヶ丘へ!」
「ありがとうございます。今はスクドル部の勧誘中ですか?」
「うん。勧誘中なんだけどねぇ……」
「かのんちゃん、もしかして……?」
「うん、まだ誰も来てくれてない……」
「そっかぁ。僕は逆に勧誘されちゃったよ……」
「お互いに成果ゼロかぁ。はぁ……」
「……ねぇ、愛美」
「うん。タイミング悪かったかなこれ」
かのんと音羽の会話から、どうやら新入生勧誘があまり上手くいっていないようだと察した愛美達。今の状態の2人に自分達が入部を断ると伝えてしまっては、彼等の落胆に更に追い打ちをかける形になるのではないかと悩んでいると、遠方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「かのーん、早ク来るデスよー! 作戦の練リ直しデス!」
「可可ちゃんちょっと待ってて! 皆、行こっか!」
「うんっ!」
「はーい!」
かのん達は、元気よく呼びかける可可の元へ駆け足へ向かうのであった。
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「という訳で……」
「先輩方、ごめんなさいっ! 私たちは、スクドル部に入れませんっ!」
「そ、ソンナっ……」
「そうですか……少し残念な気持ちはありますが、お2人が決めた事でしたら、私達が口出しするべきではありませんね」
「そうだね。2人がちゃんと考えて決めた事なら、私達は賛成だよ!」
かのん達と共に他の『Liella!』メンバーと合流した愛美と好美は、自分達がスクールアイドル部に入部できない旨を彼女達に話した。愛美達の入部を1番心待ちにしていた可可は萎れた表情でその場にへたり込み、続いて恋と千砂都が2人の決断を尊重すると彼女達に伝える。
「しかし、私達を超えたいなんて大きく出たわね。痛い目見ても知らないわよ?」
「ライバルかぁ、何だか良い響きだよね。去年はそういった関係の人達いなかったしさ」
「交流があったスクールアイドルも、『Sunny Passion』のお2人ぐらいでしたしね」
「そうそう。だから、これは『Liella!』にとって良い刺激になるんじゃないかな。特撮ヒーローでも、ライバルが出てきてから一気に面白くなって来るし!」
「あっ、ちょっと分かるかも……主人公達がライバルとの実力の差を感じて、猛特訓して強くなって行くんだよね! 僕達と愛美ちゃんが、そうなるって事かな?」
「そうそう、さすがおとくん! 分かってくれると思ったよっ!」
「えへへ……」
「お、お2人が言っている事が途中から分かりません……」
すみれが愛美達の大胆な発言を挑戦と受け取り、勝ち気な表情で忠告をする一方で、千砂都と恋は自分達の他のスクールアイドルとの関わりを思い返す。『Liella!』は地元のイベント等の出演は行っていたものの、『ラブライブ!』以外の競技性のある大会には出ていなかった為、他校のスクールアイドルとの関わりが極めて薄く、交流のあるスクールアイドルは『Sunny Passion』ぐらいしか居なかった。その為、競い合う相手も協力して高めあえる相手も居なくては『Liella!』のレベルアップが滞るのではないかと考えていた千砂都に取っては、愛美と好美の申し出はむしろ良い提案であると考えていた。『競い合い、高めあうライバル』の概念を、自身が観ている特撮ヒーロー番組の展開に例える千砂都に、同じ番組を見ている音羽が同調し話が盛り上がる中、同じ時間帯に魔法少女物のアニメを見ている恋はいまいち2人の会話を理解できず、不思議そうに首を傾げていた。
「ウゥ……一緒にスクールアイドル出来ナイのは残念デスが、ライバルとしてお互イ高めあっテ行きマショウ!」
「ダンスとスクールアイドル、ジャンル違いだからって手加減はしないわ。やるからには全力でいくわよ」
「はいっ! 全身全霊で挑ませてもらいますっ!」
「私達もうかうかしてられないね。部員集めに目処が経ったら、練習メニュー見直さなくちゃ!」
「うっ、部員集め……頑張らなきゃね、あはは……」
愛美と好美の宣言で『Liella!』メンバーの士気が上がる中、かのんは先程から散々な結果に終わっている新入生勧誘の事を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔で俯く。そんな中、新入生と聞いた音羽が思い出したように口を開いた。
「そういえば、今日一回もきなちゃんを見てないんだけど、愛美ちゃんと好美ちゃんはどこにいるか知ってる?」
「桜小路さんですか? 帰ってなければ、多分普通科の教室に居ると思いますよぉ」
「校舎を隅々まで見て覚えたいって言ってたんで、教室じゃなくても何処かで会えるかも知れないですねっ!」
勧誘活動の為に学校中を駆け回っていた音羽は、今の時間まできな子の姿を何処にも見かけなかった事が気になり、様子を見に行く為に先程まで共に行動していたという愛美と好美に彼女が何処にいるかを聞く事にしたのだ。
「分かった! 皆、ちょっときなちゃんの所に行ってきても良いかな?」
「おっ、良いよ! 入ってくれる可能性のある子からガンガン攻めていかなくちゃね!」
「あはは、そこまで積極的には行かないよ……? 入部してくれるかどうかは、きなちゃんの気持ち次第だしね。それと、さっきのサポーター募集の事もあの人達に話さなきゃいけないし」
「あー、そういえばそうね。音羽、何を言われても『サポーターは募集してません』の一点張りを通しなさいよ。あと、何かあったらすぐ私達を呼ぶ事。良いわね?」
「う、うん。分かった! それじゃ、行ってくるね!」
「行ってらっしゃい、おとちゃん!」
皆にそう告げると、音羽は駆け足で元気良く校舎の中へと消えていく。『Liella!』メンバーも各々勧誘の準備を進める中、好美は先程音羽とすみれが話していた『サポーターの件』が気になっていた。
「すみれセンパイ、『Liella!』ってサポーター募集もやってるんですか?」
「あぁ、その話ね。本当はサポーター募集する気はあまり無いのよ。志望してる子には悪いけど、私達には音羽ひとりでもう十分すぎるぐらいだし」
「なるほど。それでお断りしに行くって訳ですねぇ」
「そういう事。ただ、ここからがちょっと厄介なのよね。そのサポーター志望ってのが男子生徒なんだけど、何故かスクールアイドルは頑なにやりたがらずにサポーターなら喜んでやるって言ってきたらしいのよ。考えすぎって思うかもしれないけど、少し怪しいとは思わない?」
好美の質問に、少々渋い顔をしながら答えるすみれ。実は、先ほど勧誘をしていた音羽にサポーター志望の新入生が何人か話しかけてきており、サポーターを募集するかどうかまでは聞いていなかった音羽は皆に相談する為に、愛美達に会う少し前に一旦かのん達と合流していたのだ。しかし、音羽からその話を聞いた『Liella!』一同は、男子生徒達の言動に違和感を感じ、また音羽1人でサポーターは事足りていると全員が思っていた為、話し合いの末に『サポーター募集は行わない』と決め、彼等にもそう伝えるよう音羽に頼んでいたのだ。
「うーん……あ、もしかして可愛い子とお近付きになりたいとか、そーいうやつです?」
「理解が早くて助かるわね。第一、今は男性のスクールアイドルもいるのに、頑なに女子スクドルのサポーターになりたいなんて、100%「そうです」って言ってるみたいなもんよ。私はそんな奴ら、ハナからお断りよ」
「確かに、スケベな理由で近づいて来てるかもしれないですけど……でも、訳あってサポーターしか出来ないとか、そんな理由があったりするんじゃないですかね……?」
「私も最初はそう思いました。ですが先程すみれさんが話した通り、私達のサポートは音羽くん1人で十分事足りていますし、それに……何かあってからでは遅いのです」
「恋先輩……」
恋の言葉が意味する『何かあった時』を想像し、愛美は眉間に皺を寄せる。純粋にサポーターとしてスクールアイドルを支えたいと志願してくる人間がいるという事は、『Liella!』メンバーも十分理解している。事実、音羽は自らサポーターとして力になりたいと皆の前で宣言し、彼女達もそれを受け入れたという前例があるからだ。しかし、全員が必ずしもそうではない。中には、サポーターの立場をスクールアイドル達に下卑た目的で近づく為に利用する輩も存在する。元々芸能界に居たすみれやダンサーとしても活躍する千砂都はそういった人間が居る事を理解しており、最初は半信半疑であった恋も、仲間やこれから入部して来る後輩に危害を加えかねない人物を部に入れる訳には行かないと決断し、かのんと可可もそれに同調する形で全員の意見が一致したのだ。恋の話を聞いて悲しそうにする愛美の肩に、好美が手を置きながら話しかける。
「愛美の気持ちも分かる。でも、少しでも皆が嫌な思いをする可能性があるんだったら、あたしはセンパイ達と同じ事するよ」
「……そうだね。私も、絶対に許せないな。誰かが頑張ってるのを邪魔するような人に、スクールアイドルに関わって欲しくない……なーんて、昨日スクールアイドルを知ったばっかりの私が言っても説得力無いんですけどねぇ」
スクールアイドルの素晴らしさを知ったからこそ、その輝きを邪魔するような人間は許さない。愛美と好美がほんの一瞬であったが発した凄まじい気迫に『Liella!』メンバーは身を震わせ、かのんは怒った千砂都や音羽の様子を思い出しながら、思わず生唾を飲み込む。
「……さすがちぃちゃんの弟子だね」
「おとくんも怒ったら怖いからねぇ。というか、それ遠回しに私が怖いって言ってない?」
「そそそんな事ないよ! ちぃちゃんは優しい子だって思ってるよっ!?」
「はいはい、言い訳は後にしなさいかのん。そういう訳で、私達はサポーターを募集しない事にしたのよ。そもそも、音羽が完璧にサポーターやってるから今から増やす理由も無いのよね」
「音羽は何デモ出来マスからネ! アマリ無理させちゃ行けナイとは分かっていマスが、ついつい頼ってしまいマス」
「うんうん! 何たっておとくんはスーパーサポーターだからね!」
「スーパー、サポーター……前から思ってたけど、かっこいい響きですねっ!」
「おとちゃんはね、本当にすごい人なんだよ! 一言じゃ表しきれないぐらい、すっごく!」
先程まで真剣な雰囲気だった先輩達が、音羽の話題に変わると皆笑顔で話し始めたのを見た愛美と好美は、改めて音羽がどれだけ皆に愛され信頼される存在なのかを実感していた。
「ふふっ、ここまで信頼されてるスーパーサポーターがバックに着いてるとなれば、超えるのは中々骨が折れそうですねぇ」
「でも、最後に勝つのはあたし達ですっ!」
「良いね、そうこなくっちゃ!」
勝ち気に微笑む2人に千砂都が答え、見えない火花を激しく散らす。いつになく楽しそうな幼馴染の様子を見て、かのんは嬉しそうに微笑むのだった。
「それじゃあ、私達も校舎を探検したいのでここで失礼しますね!」
「また明日お会いしましょ~!」
「うん、また明日!」
「音羽が変な奴に絡まれてたら教えて頂戴ね!」
「はーい!」
元気良く駆けていく愛美と好美の後ろ姿が見えなくなるまで見届けると、『Liella!』メンバーはそれぞれ用意していた道具やチラシを身につけ、まだ見ぬ新入生を勧誘する為の準備を整えた。
「それじゃ、私達も行こっか!」
「行動は金ナリ、です! 行きマスよ~!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ可可!!」
「あはは……恋ちゃん、ちぃちゃん。私達も行こっか」
「そうだね。途中でおとくん見つけたら合流しようか」
「えぇ。それに、まだまだお話出来ていない新入生の方も沢山いらっしゃいますしね」
「よーし、仕切り直して行こう!」
早速可可とすみれが風のように校舎に消えて行き、残された3人はまだ声をかけていない新入生をターゲットに定め、手分けして勧誘を再開するのであった。
前途多難、なんのその。