星達のオーケストラ+IF 流星のコンチェルト   作:再来アーク

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#8 遠く輝く、一等星。

 

 音羽が西園寺姉妹と出会う少し前。

 結ヶ丘高等学校の入学式が無事終わり、放課となった新入生一同。教室や校門前で記念撮影を撮ったり新しく出来た友人と談笑を楽しんだりと思い思いの時間を過ごす中、米女メイは1人校舎を散策しており、その途中で見つけたスクールアイドル部の宣伝ポスターに目を奪われていた。ポスターには可愛らしくデフォルメされた『Liella!』のメインメンバー5人が描かれ、彼女達と同じ高校に入学出来た喜びを噛み締めながら、ポスターに書かれた文字を読み上げようとする。

 

「スクール……」

 

「アイドル?」

 

「うわぁっ!?」

 

 突如横から洗われてポスターの文字を読み上げたきな子にメイは大層驚き、キュウリを見たネコの如く後ろへ飛び上がってしまった。

 

「桜小路、おまっ、急に横から現れんなよ! びっくりするだろ!?」

 

「ご、ごめんなさいっす! 気になって、つい……」

 

「良いよ、別に。ところでお前、スクールアイドル知ってんのか?」

 

「はいっす! かのん先輩がやってる部活っすよね。米女さんも興味あるんすか?」

 

「私は別にそんなんじゃ……って、ん?」

 

 突如現れたきな子にメイは怒鳴りながらも、彼女の謝罪から悪気は無かったと察したのかすぐに許し、ポスターを覗いてきたからにはスクールアイドルを知っているのかと思い彼女に質問する。しかし、きな子が自分の思っていた返答のさらに先を行く返しをして来た事で、メイは目を丸くしてさらに問いを重ねる。

 

「お、お前。澁谷さんと知り合いなのか……?」

 

「はいっす! 家まで送ってくれて、スクールアイドルにも誘ってくれたっす! お家でココアまでご馳走になって……あ、音羽先輩にも『待ってるよ』って言われたんすよ! 本当に優しい人達だったっすねぇ……」

 

「澁谷さん直々に、スクールアイドルに誘われたって……しかも、東さんに『待ってる』って言われただとぉ!?」

 

 きな子の話が信じられないと言わんばかりにメイは彼女の話した内容を復唱し、それに釣られて他のクラスメイト達が興味津々といった様子で近寄ってくる。

 

「えっ、あの子スクールアイドル部に誘われたの?」

 

「やばっ、めっちゃ勇気あるわ」

 

「へー、やっぱスクドルやる子って素材から違うんだな。めっちゃ可愛いじゃん」

 

「俺あの赤髪の子も良いと思うけどな」

 

「ひょえっ……!? も、もしかしてきな子、とんでも無い事しちゃってたっすか……?」

 

「とんでもないっつーか、何つーかな……」

 

 きな子とメイの周囲にはいつの間にか男女問わず新入生が集まってきており、きな子は自分が良くない事を口走ってしまったのかと顔を引き攣らせ、メイは今の状況を言い表す言葉が見つからずに額に手を当てる。そんな彼女達に、1人の生徒が近付いてきた。

 

「メイ、人気者?」

 

「ちげーよ! って、なんだ四季か。科学部の設立申請終わったのか?」

 

「私1人でも、部活を立ち上げて良いって言ってくれた。科学室の鍵も貸してくれたし、本格的に活動できそう」

 

「そうか、なら良かったよ」

 

「うん。そっちは……また会ったね、桜小路さん」

 

「ど、どうもっす若菜さん……」

 

 近付いて来たのは、先程メイと一緒に居た若菜四季であった。彼女に無表情で呼びかけられたきな子は思わず姿勢を正し、上擦った声で挨拶を返す。四季は結ヶ丘には存在しなかった科学部を新たに立ち上げる為に別行動を取っており、その用事を終えて何となしに散策をしていた所で人だかりに遭遇し、興味を持って覗いて見た所、その中心にメイときな子がいたといった経緯であった。

 

「とりあえず、場所移すぞ。ここじゃ変に注目されてめんどくせぇし」

 

「すみませんっす、きな子のせいで……」

 

「いちいち謝んなっての。ほら、四季も着いてこい」

 

「うん、行こう」

 

「おいちょっと抜かすんじゃね……って足速ぇよ待てってこの!」

 

「皆さん、お騒がせしましたっす……」

 

 この人だかりの中で会話を続けるのは難しいと判断したメイは、四季ときな子に一旦人の居ない場所に移動しようと提案する。2人も同じことを考えていた為すぐに同意し、一足先に歩き出した四季を追いかける形できな子とメイも廊下の奥へと消えていった。

 

「さっきの子達、声掛けときゃ良かったなぁ」

 

「あんたなんかじゃ軽くあしらわれて終わりよ、このスケベ」

 

「うるせぇ」

 

 何人かの男子生徒達はきな子達に話しかけられなかった事を後悔するも、既に後の祭りであった。

 

 ~~~

 

「流石にここまでは追ってこねぇだろ」

 

「は、はひ……階段、きつい……」

 

「ん、とりあえず座ろうか」

 

 人混みから抜け出した3人は、追ってくる人間が居ないか確認しながら校舎を一通り駆け回った後に、すっかり人が居なくなった自分達の教室へと戻っていた。何回も階段を昇り降りさせられたきな子はへばってしまっており、見かねた四季の呼びかけで3人は椅子に腰を下ろす。

 

「ふぅ……それで、桜小路。お前いつスクールアイドルに誘われたんだ?」

 

「えっと、昨日っすね。道に迷ってたきな子を助けてくれた人達がいて、そのまま着いて行った先でかのん先輩達と出会って、カフェでお話した後に家までの道案内をしてもらったっす!」

 

「んなっ。おま、カフェって澁谷先輩の……!? いや、マジかよ……」

 

「色々と、運が良いんだね」

 

「あはは……そのせいで皆さんに色々と迷惑かけちゃったんすけどね」

 

 運命的とも言えるきな子と『Liella!』との出会いに、メイは若干悔しそうにも羨ましそうにも見える複雑な表情をしながら眉間を押える。

 

「色々気になる事はあるけど……桜小路。お前、実際どこまでスクールアイドルの事知ってるんだ?」

 

「えっ……と、かのん先輩達のやってる部活で、『Liella!』って名前で、歌と踊りが物凄くて……とにかく、凄い人達の集まりっていうのは分かるっす!」

 

「よく分かってんじゃねぇか……ってそうじゃなくて! まさかお前、スクールアイドル知らないままこの学校に入って来たのか……?」

 

「そうっすね。昨日までスクールアイドルって言葉も知らないぐらいだったし……もしかして、都会の一般教養だったっすか!?」

 

「一般教養っつーか、ここに入ってくるからには皆少しくらいは知ってるもんだと思ってたよ。なんたって、『Liella!』は今年の『ラブライブ!』優勝候補だからな」

 

「らぶ、らいぶ……?」

 

「全国のスクールアイドルが頂点を競い合う大会の事だよ。『Liella!』はその優勝候補って噂されてんだ」

 

「ゆ、優勝候補ぉ!?」

 

 メイから伝えられた衝撃の事実に、きな子は目を見開いて椅子ごと後ろに倒れ込んでしまう。彼女としては、スクールアイドルというものは自分を助けてくれた先輩達がやっていた部活程度の認識でしかなく、全国大会が行われる規模で有名なものだとは全く知らなかったのである。彼女の反応から薄々察してはいたものの、きな子のあまりに初心な反応の数々にメイは深くため息をつく。

 

「まぁ、ともかくだ。今のお前の知識量じゃ部に入ってから色々苦労しそうだし、分かる範囲で色々教えてやるよ」

 

「えっ、良いんすかっ!?」

 

「先に言っとくけど、私もあんま深くは知らないから教えられる事は少ないぞ。それでも良いか?」

 

「全然大丈夫っすよ! 教えて貰えるだけでもありがたいっすから!」

 

 スクールアイドルについて教えると提案したメイに、きな子は感激した様子で謝意を述べる。先程の会話で、自分はまだスクールアイドルについて何も知らないのだと自覚した彼女にとってはまさにベストタイミングであり、無知を晒した自分に対してそう申し出てくれたメイに対して、きな子は純粋な感謝の念を抱いていた。何処からか取り出したメモと鉛筆を構えて準備万端といった様子の彼女を見て、四季は愉快そうに微笑む。

 

「メイは何でも知ってるよ。気軽に質問すると良い」

 

「変におだてんじゃねぇ!」

 

「私は事実を述べただけ。メイはスクールアイドルに詳しい」

 

「だから私はスクールアイドルの事なんて……」

 

「あの、仲良く話してる所失礼するっす。早速質問良いっすか……?」

 

「あぁん!?」

 

「……?」

 

「ひんっ……その、『Liella!』の先輩方ってどれだけ凄いんすか……?」

 

 メイと四季の何やら仲睦まじそうな口喧嘩に口を挟むのは申し訳ないと思いつつも、きな子は恐る恐る真っ先に思いついた質問を口にする。

 

「ん。メイ、出番だよ」

 

「わーってるっての。『Liella!』の事を教える前に、まずスクールアイドルについて説明しなきゃな。良いか? スクールアイドルってのは……」

 

「ふむふむ……」

 

 急かす四季に悪態をつきながら、メイはきな子の前の席に座り直すと、早速スクールアイドルについての説明を始めた。どうしてスクールアイドルという存在が生まれたか、いかにして高校の部活動として定着したかを情熱的に語る彼女に、きな子は学校の教師のような印象を抱く。それと同時に、スクールアイドルを心から大好きなのだろうと言うのもひしひしと感じ取れた。熱が入りすぎたのか時折よく分からない単語が混じる事もあったが、自分が詳しくなればいずれ分かるようになるはずときな子は熱心にメモを取り続けた。

 

「と言う訳で、こうしてスクールアイドルは全国的に定着したって訳だ。東京なんかスクールアイドル部が無い学校の方が珍しいぐらいだぜ」

 

「すっごく歴史が長いんすね、スクールアイドルって……」

 

「おう。だからこそ『Liella!』は凄いんだ」

 

「だからこそ?」

 

「今の『Liella!』が結成されたのが去年の10月。クーカー時代から含めるとまた違ってくるんだけどな。まぁともかくだ、そっから先輩達は、わずか2ヶ月で『ラブライブ!』東京大会準優勝って成績を残したんだ……!」

 

「えっ、2ヶ月で!?」

 

「そう、2ヶ月だ。結ヶ丘は去年出来たばっかりの学校。実績も歴史も何も無い学校のスクールアイドルが、激戦区の東京地区大会でいきなり準優勝したんだよ。周りはそりゃあもう大騒ぎだ」

 

「メイ、TVの前でひっくり返ってたね」

 

「あんなもん見せられたら後転も横転もするだろ。そこから『Liella!』は結ヶ丘の期待と希望の象徴、『スーパースター』って呼ばれるようになったんだ」

 

「スーパー、スター……あの先輩達が……」

 

 メイが語った昨年の『Liella!』の戦績に、きな子は驚きのあまり目を見開いた。昨日出会った優しい先輩達がそのような偉業を成し遂げていた事をきな子は全く知らず、自分はもしかしたらとんでもない部活に声をかけられてしまったのではないかと思わず生唾を飲み込む。それと同時に、それほどの成果を残した『Liella!』メンバーがどのような人間であるか、きな子は詳しく知りたくなっていた。

 

「あのっ、『Liella!』の皆さんって具体的にどれだけ凄いんすかっ!?」

 

「そうだな……ちょっと話長くなるけど、良いか?」

 

「はいっす、ご心配なく!」

 

「分かった。じゃあまずは澁谷さんからだな。澁谷さんの魅力はなんといってもその歌声だ。どの立ち位置でもどんな曲でも合わせられるぐらい歌唱力が凄いんだけど、ソロパートになるともう女神なんじゃないかってぐらい魅力的なんだ……! でも普段はちょっとやんちゃみたいで、SNSでよく他のメンバーにちょっかいかけてるのがまた良くてさ。いわゆるギャップ萌えってやつだな!」

 

 澁谷かのん。『Liella!』の実質的なリーダーにして、結ヶ丘のスクールアイドル活動に初期から携わる人物の1人。その歌唱力は、本人が在籍している普通科ではなく音楽科に在籍していたとしても首席を取れると言われる程レベルが高く、昨年の東京予選ではソロパートの完成度の高さが学校内外で高く評価された。普段からメンバーにイタズラを仕掛けて反撃に遭う様子が公式SNSなどに投稿されており、その姿がステージの上での彼女とのギャップ萌えを生んでいるのだとか。

 

「やんちゃには見えなかったけど……でも、凄く優しい人だったっす! たまに怒られてたっすけど……」

 

「なっ、お前メンバーの絡みを生で見たのかっ……て、まぁ昨日会ったんだから見てて当然か。羨ま……んんっ」

 

「米女さん……?」

 

「き、気にすんな。次だ次」

 

「は、はいっす」

 

 何やら呟きながら悶えるメイの様子が気になるきな子であったが、本人が気にしなくて良いと言ったのでそのまま受け流す事にした。

 

「次は葉月さんだな。葉月さんは結ヶ丘の生徒会長で、小さい頃からフィギュアスケートやピアノ、バレエを習ってるからパフォーマンスの表現力が幅広いんだ。今のメンバーの中だと最後に加入したから参加してる曲は少ないんだけど、ファンはうなぎ登りに増えてるらしいぜ。いつも優雅なお嬢様って雰囲気なんだけど、ステージの上ではエレガントな大人のお姉さんに変身するのがまた良くてさ……! 画面越しに目が合うだけで、もう心臓が止まるんじゃないかってぐらいにドキドキしちまうんだ!」

 

 葉月恋。結ヶ丘高等学校の現生徒会長。創設者である葉月家の一人娘であり、幼少期より身につけた様々な技能と優雅な立ち振る舞いで『Liella!』の実力を1ランク上に引き上げた立役者である。特に音楽関係の才に秀でており、彼女が関わった曲はいずれも高い評価を得ている他、公式チャンネルで配信されたピアノの演奏は短期間で驚異の15万再生を突破するなど、傑物揃いの『Liella!』メンバーの中でもまさにエースと言える活躍を見せている。そんな彼女なのだが、自身のSNSに載せる写真は何故かいちご関連の物しかなく、ファンからは密かに「いちご姫」との愛称で呼ばれているんだとか。

 

「せ、生徒会長で創設者……あんな女神様みたいな人なら納得っすね……!」

 

「それなのに、大好物のいちごには目がないのもまた可愛いんだよなぁ~! よし次!」

 

「はいっす!」

 

「次は唐さんだな! 唐さんは、結ヶ丘にスクールアイドル文化をもたらしてくれた立役者なんだ! 元々上海からスクールアイドルをやりたくて日本に来たらしいんだけど、そこで澁谷さんと出会って、結ヶ丘でユニットを結成したんだ。その名も「クーカー」! 平安名さんや嵐さんが割とすぐに加入したから2人での活動期間は凄く短いんだけど、今でもまたこの2人でライブをやって欲しいって声があるぐらいに人気なんだ」

 

「クー、カー……そんなスクールアイドルもいたんすね」

 

「まぁ、『Liella!』に比べたら少しマイナーだからな。昔のライブ映像が残ってるから、気になるんだったら見ると良いさ」

 

「はいっす。あ、口挟んでごめんなさいっす」

 

「ん、おう。じゃあ続きからだな。唐さんはスクールアイドルに対する熱意が本当に凄くてな。特にステージ衣装への拘りぶりは並のスクールアイドルの比じゃねぇ。前に公式チャンネルで衣装作りの配信をやった時があったんだけど、たった1曲の衣装の原案だけでノート3冊分は使うって話してたな。さらに衣装の完成度も凄くてな。可可先輩が新衣装を発表する度に、服飾業界の人達が注目するぐらいなんだぜ!」

 

 唐可可。上海からスクールアイドルを志し海を渡って来た留学生であり、かのんと共に結ヶ丘にスクールアイドル文化をもたらした立役者。その情熱は『Liella!』イチであり、他校のスクールアイドル部の分析や研究に日々邁進する努力家である。もちろん推し活も欠かさない。

 また手先がかなり器用であり、『Liella!』のステージ衣装や小道具、結ヶ丘の各種催事の看板等、設計から制作までデザインに関する事なら何でもやってのけてしまう超人である。SNS等でもそのスクールアイドルオタクぶりと人懐っこいキャラが人気を博しており、『Liella!』のマスコットキャラ的な立ち位置を確立している。ちなみに、よくハムスターに似ていると言われるらしい。

 

「話のスケールが大きすぎて目が回ってきたっす……」

 

「何言ってんだ、まだまだ折り返し地点だぞ」

 

「へぇっ!?」

 

「メイ、乗り気になって来たね」

 

「まぁ、やるからにはきちんと教えなきゃだしな。さ、次行くぞ」

 

「はいっす……!」

 

 段々と乗り気になって来たメイと、情報の整理が追いつかずへばるきな子。そんな2人を、四季は愉快そうに見つめるのであった。

 

 ~~~

 

「次は平安名さんだな。平安名さんは元々芸能界で仕事してたからステージ慣れしてるし、歌も踊りも満遍なくできるオールラウンダータイプなんだ。しかもただ上手いだけじゃなくて、他のメンバーを引き立てるのも自分が目立つのも上手いんだ。いわゆるグループの大黒柱ってやつだな。『Liella!』のパフォーマンスは平安名さん無しじゃ成り立たないって言われてるぐらいなんだぜ。SNSに上げてる写真もどれもオシャレで素敵で、1人の女子として憧れちまうよ。でも、配信だとキレッキレのツッコミで場を盛り上げてくれたり、逆におちゃらけて見せ場を作ったりしてるのを見てると、やっぱり芸能人なんだなって感じるのがまた良いんだよな……。あ、平安名さんをもっと知りたいなら『ノンフィクション!!』のライブ映像を見ると良いぞ。本当にすげぇから」

 

 平安名すみれ。芸能界出身の元子役かつ、『Liella!』のファッションリーダー。子役時代はイマイチ華が無く、飛び出た個性も無かった故に目立った配役を掴めずに燻っていたが、『Liella!』に加入してからは生来の面倒見の良さやオールラウンダーなパフォーマンス技能を生かし大活躍。個性の強い部員達を様々な場面で纏める唯一無二の存在となる。そしてその経験は、自らが渇望してやまなかった主役の座を掴み取る為の最後のピースとなり、『ラブライブ!』地区予選でセンターに立ち披露した『ノンフィクション!!』では、彼女を昔から知る芸能関係者からも別人かと思ったと言われる程の圧巻のパフォーマンスを魅せ、見るもの全てを自らの領域に巻き込んでいく『主役』としての格を全世界に知らしめた。そんな彼女だが、配信での面倒見の良さやキレの良いツッコミ、どんなカオスな状況に陥っても建て直してみせるアドリブ力から、ファンからは『Liella!』のお母さん的存在として慕われている。かのん曰く、お母さんと呼ばれる事自体は満更でもないんだとか。

 

「すごいっす、超都会人っすね……!」

 

「今まであんまり人気なかったってのが嘘みたいだぜ、こんなに素敵な人なのにさ。よし次!」

 

「はいっす!」

 

「次は嵐さんだな。嵐さんといえばやっぱりダンス! 『Liella!』の振り付けは全部嵐さんが考えてるんだ。ダンサーとしても凄くて、去年の高校生ダンス選手権で優勝したぐらいなんだぜ。でも嵐さんがすごいのはこっからだ。配信で葉月さんがチラッと話してたんだけど、嵐さんは他人を一目見ただけでどれくらい身体に疲労が溜まってるかが分かるらしいんだ。今は東さんがサポーターに入ってくれてるからあまり使う機会は無いらしいんだけど、『クーカー』時代はその力で澁谷さんと唐さんを幾度となく助けたんだってさ! かっこいいよなぁ……」

 

 嵐千砂都。『Liella!』の高度なパフォーマンスを創り出す振り付け番長かつ、練習時の厳しさも番長級。澁谷かのんの幼馴染であり、スクールアイドル活動を始めた彼女と可可を精力的に支えたスクールアイドル部の初代サポーター。幼少期より通っているダンス教室を通じてダンサーとしても活躍しており、去年の全日本高校生ダンス選手権では初出場ながら優勝を勝ち取るなど圧倒的な身体能力と表現センスを誇る。配信等の公の場ではすみれと共に取りまとめ役に回る事が多いが、円や球体等に関する話題になると豹変。延々と『マル』の良さを語り出してしまう為、配信では『マル』の話題を極力出さない事が、メンバーと視聴者双方の間で暗黙の了解となっている。

 

「おぉ……全国大会、優勝……」

 

「千砂都先輩は、出来たばっかの結ヶ丘にいきなり優勝を持ち帰ってきた大スターでもあるんだ。ほんと、尊敬するぜ」

 

「ちなみに、メイの髪型のお団子はその先輩を真似たもの」

 

「はぁっ!? んなわけねぇだろっ! これは、その……そう、偶然似ちまっただけなんだ、偶然!」

 

「でも、昨日写真見ながらお団子をtむぐぐ……」

 

「おめーは少し黙ってろっ!」

 

「……むぐ」

 

 メイに関する豆知識を披露しようとして強制的に口を塞がれてしまった四季であったが、不満そうなメイとは対照的に、その表情はどこか楽しそうであった。きな子は2人に対して仲が良いのか悪いのか聞いてみたくなったものの、先程の様に凄まれるのも怖いと思い、心の中に留めておく事にした。

 

「……まぁ、気を取り直して。『Liella!』のメインメンバーはこの5人だ。でもあと1人、忘れちゃならねぇ大事な人がいる」

 

「音羽先輩っすか?」

 

「よく分かってんじゃねぇか。東さんは音楽一家の出身で、音楽の事なら何でも出来ちまうすげぇ人なんだ。前に葉月さんの配信に飛び入り参加してピアノを弾いた事があったんだけど、画面越しに聞いても魂が震えるぐらいに凄まじい演奏だったんだよな……。しかもそれだけじゃなくて、メンバーの体調管理や嵐さんとの練習メニュー作り、葉月さんとの作曲に公式配信での宣伝まで、たった一人で全部こなしてる。東さんは『Liella!』を裏から支えるスーパーサポーターなんだ! そんな凄い人なのに、いつも自分の事より『Liella!』を優先してるぐらいにめちゃくちゃ謙虚な人でな。もう少し自信持って欲しいなって思う事もあるけど、その慎ましさもまた魅力っていうか……思わず応援したくなる、そんな人だな」

 

 東音羽。『Liella!』の裏方仕事を一手に引き受けるスーパーサポーターにして、結ヶ丘高等学校の現副生徒会長。音楽一家である東家の一人息子であり、幼馴染の恋と共に研鑽したピアノの腕前は高校生にしてプロのピアニストクラスと言われるまでに高い。またサポーターとしても一流であり、優れた観察力でメンバー本人が気づかない程の僅かな動きのブレや異変を的確に見抜く事が出来る他、豊かな感性と楽曲知識から生み出される曲の数々はいずれも高い評価を得ている。それほどの実力があるにも関わらず本人は至って謙虚な性格であり、配信の際も常に『Liella!』メンバーを立てて話し、自身は宣伝に集中するなど滅私的な行動が目立つ。だが、その誠実な性格と仕事ぶりからサポーター、しかも男性としては異例なまでに高い支持を得ており、今では道を歩けば握手やサインを求めるファンが群がる程の凄まじい人気ぶりである。

 

「音羽先輩、そんなに凄い人だったんすね……!」

 

「あぁ。東さんが居なかったら、今の『Liella!』は存在してないんじゃないかってぐらいに重要な人だって、私は思ってる」

 

「あの先輩達、そんなに凄い人だったんだ……きな子なんかとは、全然違う……」

 

「桜小路?」

 

「へっ……どうしたっすか、米女さん?」

 

「いや……別に」

 

 一瞬暗い表情を見せたきな子の事が気になり声をかけようとしたメイであったが、彼女がすぐさま元の明るい表情に戻った為、その先の言葉を紡げずに強引に誤魔化す。きな子はその行動を不思議がりながらも、席を立ってメイに深々と頭を下げた。

 

「米女さん、『Liella!』の事教えてくれてありがとうっす! 先輩達の事、よくわかったっす!」

 

「おう。その、さ。せっかく澁谷さんと東さんに誘われてんだ。お前がやりたいなら……やってみても良いんじゃねぇか? スクールアイドル」

 

「時間は有限。だからこそ、やりたい事をやるべき」

 

「そ、そうっすね。考えてみるっす! あはは……」

 

「……そんじゃ、私達はそろそろ帰るよ。四季の用事も済んだし、やる事も無いしな」

 

「分かったっす。きな子も、お家でもっとスクールアイドルの勉強するっすね!」

 

「おう。じゃあまたな」

 

「はいっす!」

 

 きな子は元気よく挨拶をすると、駆け足で教室を出ていった。その後ろ姿を見送ってから帰宅準備を整えようとする四季であったが、メイが何故か煮え切らない表情で引き戸を見つめていた為、理由を聞くついでに先程から気になっていた事をぶつけてみる事にした。

 

「引き止めなくて良かったの?」

 

「良いんだよ。スクールアイドルになるかどうかは、桜小路が自分で決める事だ」

 

「嘘。何か言いたそうな顔をしてた」

 

「別に、何もねーよ。ていうか、それはこっちの台詞だ。さっき、桜小路に何言おうとしてたんだ?」

 

「……自分に、正直に」

 

「はぁ?」

 

「って、メイに言おうとしてた。あの知識量で『よく知らない』なんて言うのは、無理がある」

 

「んだよそれ。私はネットで知った知識を教えただけだよ。ただの受け売りだ」

 

「あんなに楽しそうに語ってたのに?」

 

「あれは……ノリだよ、ノリ。つまんなそうに語ってたら、聞いてる奴も気分悪いだろ?」

 

「……そう」

 

「そうって……まぁ、途中で楽しくなってたってのは本当の事だ。あんなに素直に話聞いてくれる奴なんて、久しぶりだったしな」

 

「スクールアイドル、好きだって言えばよかったのに」

 

「……言えるかよ。私なんかが、スクールアイドルを好きだなんて」

 

『あんなに熱心に話してたのに』と四季は心の中で呟く。スクールアイドルに対する大きな愛を持っているにも関わらず、他人から好きなのかと問われれば、興味が無いだの、知らないの一点張りで返してしまう。四季は、そんな彼女の矛盾した言動が理解できないと感じていたが、同時に研究して、その心情を理解していきたいとも思っていた。幼い頃から、自分が分からない物事は何でも研究し、解明しなれば気が済まない性分であった彼女にとって、『好き』に素直になれないメイは、自身の探求欲を常に刺激する存在であったのだ。

 

「ん、メイは相変わらずだね」

 

「うっせぇ。ほら、もう帰るぞ」

 

「うん」

 

 不機嫌そうな顔で席を立ったメイに続いて四季も立ち上がり、殆ど人が居なくなった教室を抜け廊下を進む。まだ気が立っているのか、少し早歩きで前を進むメイを見て、『分かりやすいな』と四季は笑みを零すのだった。

 

 ~~~

 

 一足先に校舎を出たきな子であったが、何となく帰路に着く気にもなれず、かといって校舎に戻る理由も無かった為、立ち並ぶ桜並木の内の1本にもたれ掛かり、空を眺めていた。

 

「スクールアイドル、か……」

 

 かのん達に無事自分の家に送り届けてもらったその夜、きな子はスクールアイドルや昼間出会った『Liella!』の先輩達の事について軽く調べていた。その中で見つけたあるライブ映像に、彼女は心を釘付けにされる事になる。映し出されていたのは、去年の末に行われた『ラブライブ!』東京地区大会のパフォーマンス。満天の夜空に駆け巡る5色の虹に、きな子はすっかり心を奪われてしまった。

 

 しかし、光が強ければ生まれる影はより濃くなるもの。現実に立ち返ったきな子の脳裏に浮かび上がったのは、今までの空虚で何も無い自分の人生。まん丸とした体型故にのろまでどん臭く、何をするにも人より1歩遅れてきた幼少期。突出した何かもなく、大勢の『普通』の中で日々を過ごしてきた小・中学生の9年間。長らくコンプレックスであった体型こそ今では痩せ型となったものの、それ以外は特に誇れる物は何も無い、ごく普通の人間。それが桜小路きな子であった。……厳密には1()()()()、他人とは違う点がきな子にはあるのだが、才能と言えるようなものではないため、他人には明かさずにいる。そんなありふれた普通の人間である自分が、果たしてあの光の中に飛び込んで良いものか。自分なんかではなく、もっとスクールアイドルをやるに相応しい、選ばれた人間がなるものではないのか。自問自答を繰り返して居るうちに心が締め付けられるような気持ちになり、その日は逃げるように布団の中に包まり、無理矢理意識を暗闇の中に沈めた。そして、朝起きてからも頭の片隅に残り続けていたその疑念が、先程のメイとの会話でより強度を増してきな子に襲いかかっていたのだ。

 

「普通のきな子じゃ、場違いっすよね……」

 

 このまま桜を見つめて居ても仕方ないと思ったきな子が、重い足取りのまま校門へ向かおうとしたその時だった。

 

「あっ、きなちゃん!」

 

「えっ、音羽先輩……?」

 

 聞き覚えのある声で呼ばれたきな子が後ろを振り向くと、そこには音羽……のような人物がいた。というのも、頭髪はヘアピンやゴムで飾り付けられ、両手どころか上半身を箱や手提げ袋に覆われた、例えるならば邦画のクリスマスツリーの様な状態になってしまっていた為、きな子はひと目で音羽とは判別出来なかったのである。

 

「きなちゃん、帰ろうとしてたのにごめんね。ちょっとお話したくて……わわっ!」

 

「あぁっ、きな子も持つっすよ!」

 

 荷物の重みに耐えきれず崩れ落ちる音羽をすかさず抱き留め、そのまま半分程手荷物を持つきな子。聞きたい事は正直山ほどあったものの、とりあえず今は音羽の手助けを優先する事にした。

 

「ありがとう、きなちゃん。そろそろ腕が限界だったから助かるよ」

 

「いえいえそんな。それにしても、本当にびっくりしたっす。てっきりクリスマスツリーのお化けが歩いてきたのかと……」

 

「あはは……新入生の子達に色々貰っちゃって。本当ならもうちょっと早くきなちゃんの所に行ける予定だったんだけど、遅れてごめんね」

 

「そんな、きな子の方こそ申し訳ないっす。音羽先輩も忙しいのに、きな子なんかの所に来てくれて……」

 

「気にしないで、僕がきなちゃんと話したかっただけだから」

 

「音羽先輩……」

 

 自分の為に時間を使わせてしまった事を申し訳なく思うきな子に対し、音羽は気にしなくて良いと告げる。彼にとってはきな子と話す時間も、他の新入生と話す時間も等しく大切なものであり、優劣をつけるつもりは微塵もない。だからこそ、贈り物をひとつも残さず全て受け取り、どんなに遅れてもきな子の元に駆けつけたのだ。

 

「新しいクラスの子達とは、もう話せた?」

 

「はいっす。今日、同じクラスの米女さんって人に、スクールアイドルの事を色々と教えてもらったっす! もちろん『Liella!』の事も!」

 

「おぉ、良かったね!」

 

「ちょっぴり怖かったけど、優しい人だったっす! でも……」

 

「きなちゃん?」

 

 メイとの会話を思い出したきな子の心中に、先程の不安と疑念が甦る。昨日出会ったばかりの先輩に、打ち明けてしまって良いのだろうか。否。いきなりこんな話をされても困惑されるだけだ、間違っている。逡巡し始めるきな子の思考に、凛とした声が差し込んだ。

 

「きなちゃん。何か悩み事や、迷ってる事があるなら、何でも聞くよ? あぁっ、もちろん嫌なら話さなくても大丈夫だからね」

 

「えっ、でも……」

 

「ごめんね、びっくりさせちゃったかな。でも今のきなちゃん、凄く苦しそうな顔してたから。僕で良ければ、力になれるかなって」

 

「でも、良いんすか……。きな子は、昨日会ったばかりの、ほぼ他人っすよ……?」

 

「確かに、昨日まではそうだね。でも今日からは、きなちゃんは僕の後輩だよ」

 

「……!」

 

「先輩だから……って言うにはまだ早いかもしれないけど、同じ学校の仲間として、力になりたいなって。嫌だった……かな?」

 

 そう告げて優しく微笑む音羽に、きな子は心の奥を撃ち抜かれたかのような情動を感じた。目の前にいるこの人の言葉に、恐らく嘘偽りはない。出会ったばかりの自分の話を、真剣に聞こうとしてくれている。そう感じた瞬間に、きな子の口は自然と音羽へ言葉を紡いでいた。

 

「あの……話を聞いて貰っても、良いですかっ?」

 

 ~~~

 

「……そっか、不安になっちゃったんだね」

 

「きな子が勇気を出せば良い話なんすけどね、あはは……」

 

 桜並木の周りを散策しながら、きな子は自身が抱えていた迷いを1つずつ打ち明けていった。音羽はそれに口を挟む事なく、穏やかな表情で相槌を返しながら、彼女の話に最後まで真剣に向き合っていた。そうしてきな子が一通り話し終えた所で、音羽が静かに言葉を紡ぐ。

 

「きなちゃんが不安になる気持ち、わかるよ。1歩踏み出す為に勇気を出そうとしても、『自分なんかが』ってつい思っちゃうよね……」

 

「音羽先輩にも、そんな事があったんすか……?」

 

「うん。去年の今頃ね」

 

 過去の自身の様子を思い返しながら、音羽は苦笑いを浮かべる。入学当初、音羽は過去に受けた心の傷が原因で心を閉ざし、何事にもやる気を見いだせなくなっていた。そんな時に偶然かのん達と知り合い、スクールアイドル部の見習いとして日々練習に励む彼女達を間近で見守り、それぞれの目標に向けて邁進する彼女達に激しく心を揺さぶられた。一旦は彼女達と自身の違いを自覚し意気消沈してしまったものの、最終的には皆を信じると決め、屋上での決意表明を経てスクールアイドル部改め『Liella!』のサポーターとして正式に加入し、今に至っている。

 

 きな子の話を聞いた音羽は、抱えている悩みは違えど、彼女は昔の自分と同じような不安を抱えているのではないかと考えていた。それならば、成すべき事は決まっている。かつて自分を救ってくれたマリーゴールドが似合う彼女の様に、音羽は震えるきな子の手をゆっくりと撫でた。

 

「スクールアイドルをやるかどうかはきなちゃんの気持ち次第だから、無理にとは言わないよ。でももし、きなちゃんがスクールアイドルをやりたいって思ってくれるなら……僕に、きなちゃんが勇気を出す為のお手伝いをさせて欲しい」

 

「音羽、先輩……」

 

「僕は……ううん、僕達は。きなちゃんと一緒にスクールアイドルをやりたい。きなちゃんと一緒に、新しい景色が見たいんだ!」

 

「でも、きな子は……なんの取り柄もない、普通の人間っす……それでも、良いんすか……?」

 

「スクールアイドルに、資格は要らない。やりたいって思ったら、いつでも始めて良いんだよ。出来ない事があったら、皆が教えてくれる。皆で、一緒に頑張れる。それが、スクールアイドルだから!」

 

 スクールアイドルとは、皆で作るもの。それが、約1年近く最も近い立場でスクールアイドルを支え続けて来た音羽が導き出した今の結論であった。それぞれ得意不得意があり、互いに補い支え合って努力を重ね、1つのステージとして表現する。音羽は、そんなスクールアイドルの在り方が心の底から大好きであった。だからこそ、自分はサポーターという立場からステージで輝く彼女達を全力で支えると心に決めていた。

 

「僕は、きなちゃんの「やりたい」って気持ちを大切にしたい。ゆっくりでいいから、答えを……わっ!?」

 

「ありがとうございますっ、音羽先輩。なんだか、目が覚めた気がするっす! すぐには無理かもしれないっすけど……しっかり考えて、ちゃんと返事を返しますっす! だから、えっとぉ……」

 

「ふふっ。ゆっくり話して良いよ」

 

「ありがとうございますっす……」

 

 突如元気を取り戻したきな子の勢いに少々押され気味になる音羽であったが、すぐに気を取り直すと、しどろもどろになって言葉を詰まらせるきな子の肩を撫で、優しく宥める。

 

「落ち着いた?」

 

「はいっす。音羽先輩、お話を聞いて下さってありがとうございますっす!」

 

「ふふっ、どういたしまして。きなちゃんの気持ちが楽になったなら、良かった!」

 

「えへへ……あっ、お荷物運ぶの手伝うっすよ!」

 

「ほんと? ありがとう!」

 

 互いに笑い合いながら、新入生からの荷物を部室に置くため再び校舎へと戻るきな子と音羽。そんな2人を、木陰からある人物が見つめていた。

 

「さっ、桜小路あいつっ、一体東さんとどういう……でも相談に乗ってあげる東さんも素敵しゅぎりゅ……!!」

 

「予想外の収穫。桜小路さんの隣にいるのが、例の東先輩?」

 

「おうよ! あの人こそ『Liella!』のスーパーサポーター、東音羽さんだよ! はぁぁぁ……」

 

 音羽と妙に距離が近いきな子に憤慨しながらも、生の音羽を見られて興奮したのか身体をくねらせて奇声を発するメイと、興味深そうに見つめる四季。帰宅途中であった2人は音羽と一緒にいるきな子を偶然見かけ、桜並木に巧妙に隠れながら様子を伺っていたのである。メイが感嘆の声を上げる中、きな子の隣にいる人物が東音羽であると教えられた四季は、彼の顔を暫く見つめ続けると、ゆっくりと口を開いた。

 

「……綺麗だね」

 

「えっ……四季、今なんて?」

 

「綺麗って、言った」

 

 四季の予想外の返答に、メイは素っ頓狂な声を上げる。何か目的が無い限り他人に積極的に関わろうとせず、興味も持たない彼女が赤の他人にそんな事を言うとは考えられず、メイは思考が一瞬停止するほどの衝撃を受ける。だが、四季は確かに音羽に対して『綺麗』と発言した。ましてや、音羽の髪の毛には無数の髪飾りやヘアゴムが盛られており、お世辞にも綺麗とは言えない状態にも関わらず、である。

 

「そりゃお前、確かに東さんは綺麗な人だけどさ……四季? おーい、四季……?」

 

 メイの呼びかけにも一切応じず、四季は音羽が校舎の中へと消えていくまで、その後ろ姿を目に焼きつけるかのように見つめ続けていたのだった。




星の輝きに、魅せられて。
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