キングは人か、それとも怪人かっていう話です。
<<< ヒーロー協会本部内 >>>
「(……巨大飛行物体はどうにかなりそうだが……どうにも良くない流れだ……)」
シッチは大変頭を悩ましていた。
それは現在巨大飛行物体内で戦っているであろうキングのことについてである。
ほんの数分前に本部の屋上で確認されたキングによく似た怪人がキング本人であることが弟子であるジェノスによって認められた。
通常なら即座に人権を剥奪し討伐対象として扱うべきだが、その相手が問題だった。これまでのヒーロー協会への協力的な姿勢や貢献度を抜きに考えてみてもキングを人類の敵として扱うのは非常にまずいことだと確信している。
キングが先制で放った衝撃波によってA市をまるまるスッポリ収めるサイズの巨大飛行物体が半壊したのがいい例だろう。
キングの
仮にキングを怪人認定した場合、災害レベル【竜】以上は確実。……下手したら【神】もあり得る。
規格外の強さを誇るS級の中でも、タツマキと並んで別格扱いされる全局面対応型の
問題はキングを敵に回した場合、そのキングに対抗し得る戦力が現在の協会には片手で数えるほどしかいないという点だ。……良くも悪くもキングに頼っていた協会の怠慢さが浮き彫りになる結果となってしまった。
上層部は現在議論が紛糾している。先程少し様子を伺ったが、あの調子では何も決まりはしないだろう。
「(本音を言えばキングには人間でいてほしい。彼のおかげでヒーロー協会そのものが大きく改善されつつあり、A級以下のヒーロー達も現場で活躍しやすくなっているのだから。それにA市どころか民間人にもキングが原因の被害は報告されていない。……希望はまだ残っている!)」
「シ、シッチさん! 大変なことになりました!!」
「っ、何があったんだ!!」
もしやキングによる被害が出てしまったのか!?……最悪の可能性が脳裏をよぎる。
「巨大飛行物体は地上から発射された謎の熱線によって跡形もなく消失しました!しかしA市はおろか民間人にも被害は出ず、あとついでに月も消し飛びました!!」
どうやらキングは、こちらの想定した最悪を超越する戦果を挙げたらしい。
自分の成すべきことが、ようやくハッキリした。
<<< A市 >>>
「(綺麗な青空だぁ。
綺麗な青空が視界いっぱいに広がる。
まるで最初から宇宙船なんてなかったと錯覚するほどだ。
いま俺の心にあるのは諦めから来る達観と、地球をボロスから守り切ったという達成感だけ。
変身はまだ解いていない。つまり、
その群衆はというと、一言で言えば呆然としていた。
当然だな。何せ今の俺は怪人なんだから、そんなのが今までヒーローを名乗っていたんだから言葉を失って当たり前だ。
……この姿を晒さないことも考えてはいた。だがどうしても宇宙船の処理とボロス戦を並行して行う場合、変身したまま戦ったほうが一番確実だと思ったんだ。
サキ氏には何も伝えていない。ジェノスや
……俺のこれから成すべきことはただ一つ、これ以上誰にも迷惑をかけずに静かに立ち去るだけだ。
「待ってください師匠!!」
いつの間にか居たジェノスが呼び止める。
「申し訳ありませんでした!!……師匠一人に全てを押し付けてしまったこと、俺が弱いばかりに……!」
「っ……(君のせいってワケじゃ……!)」
「……ジェノス君だけではない。ワシら全員が、キングの好意に甘えておったんじゃ」
気付けばジェノスだけではない、シルバーファング、アトミック侍、戦慄のタツマキ、チャイルドエンペラー、超合金クロビカリ、ぷりぷりプリズナー、タンクトップマスター、金属バット、ゾンビマン等の主要なS級が勢揃いしていた。
「しかしキングよ。自分一人で何でもかんでもどうにかしようというのは些か感心せんな。どんなに頑丈な柱でもたった一本では平和っちゅうもんは支えられんのだ……」
「(すみません、バングさん……)」
「お前が強化訓練などというものを引き受けた時点で、既に答えに行き着いていたと思っていたがな。……キング。怪人としてじゃない、ヒーローとしてのお前と決着をつけたいんだ俺は。……逃げるなんて承知しねぇぞ……!」
「(うぅ、早く逃げたい……)」
「フンッ、なによ!……全部私に任せてくれても良かったんだからね!」
「(これが巷で流行っている
「今度は僕がキングさんの助けになる番です!……どうか信じてくれませんか?」
「(イサム君……。こんなに立派になって……!)」
「筋肉の黒光り具合でも勝ってくるとは流石キングさん!その輝きはキングさんの人間性を表しているんだ!」
「(ありがとうクロビカリさん……!今の貴方が一番輝いていますよ……!)」
「心が人間なら、それは立派な人間だ……この言葉、俺の愛を込めてキングちゃんに返すぞッ!好きだァァァァァァキングちゃァァァァァァん!!」
「(うわぁぁぁ!!来るなぁぁぁ!!!)」
「タンクトップ焼き切れようと心のタンクトップはいまだ健在……その事実だけで俺には十分だ……!」
「(あ、ありがとうございます。……心のタンクトップって何?)」
「根性あんじゃねぇかキング……!街や民間人は大丈夫そうだし、俺はキングの味方になるぜぇ!」
「(バッド君、素直に嬉しいよぉ……)」
「……お前が思うほど事態は悪くないのさ。……戻って来い、レイタロウ」
「(ゾンビマンさん、俺は―――……)」
「これはどういうことだい……?」
途端に場の空気が変わった。……誰も彼も振り返る絶世のイケメンがA市に現着した瞬間だ。
A級1位 イケメン仮面アマイマスク
「(ビュウト君。……手筈どおりに来てくれたね……)」
「説明してみたまえ……金属バット君。……僕が納得のいくようにね……!」
「イケメン仮面アマイマスク……!てめーどっから湧いて出やがった……!」
「近くの街でドラマの収録をしていたのさ……。
「……でけぇ乗り物に乗ったバケモンをキングが被害も出さずに倒した。……もう決着はついた」
「
アマイマスクを中心に凄まじい殺気が放たれる。
場の緊張感が一気に増した。
『もしもし、ビュウト君……』
『やぁレイタロウ君。……どうしたんだい?キミから電話だなんて珍しいね』
『……ごめん、説明している時間がないから手短に。俺が変身せざるを得ないほどの脅威がA市に迫ってきている、と思う』
『っ、変身姿の露見は避けられないってことだね……!』
『……色んなことに意識を割いていたら負けかねないほどの強敵が来るんだ。……正体の露見を恐れていたら、守れるものも守れない』
『……僕はどうすれば良い……?』
『俺を、怪人として扱ってほしいんだ……』
『っ〜〜〜!!?』
『端的に街や人を救うために、俺は人間じゃ出来ないことをやってみせる。……全て解決した後、俺はたぶん怪人として扱われると思うから、出来れば君にボコボコにしてもらいたいんだ』
『そ、れは……』
『ハハ……死ぬのは流石に勘弁だけどねぇ。……ほかならぬ君にしか頼めないことなんだ』
『……どうしてそうまでして……?自分のために逃げることだってできたはずだ。あるいは知らぬ存ぜぬで済ませることだって……』
『う〜ん……それはないかなぁ』
『何故……?』
『どんなに泣いたりビビったりしても、それでも逃げないヒーローを好きでいてくれる人が好きだから。……俺がヒーローに向いているかはさておき、その人の期待を裏切ってまで逃げたいとは思わないよ』
『っ〜〜〜……分かった、但し条件がある。その場の状況に応じてアドリブを入れさせてもらうよ。……構わないね?』
『うん、君にしか頼めないんだ。よろしく頼むよぉ』
ビュウトには本当に辛い役回りを押し付けてしまった。彼がどれだけ自分を親友として尊敬していたのか分かっていたのに、それを利用する形となってしまったと今更ながら後悔の気持ちが押し寄せてくるキング。
「決着はついた、だと……?キミの目は節穴か?彼……キングはどうなっている?……最もキミ達がどうにかしなければならない問題が残っているじゃないか……!」
「んだとコラァ……!?」
ほかのS級ヒーロー達に緊張が走る。群衆の一部も薄々勘付いたようだ。……アマイマスクは、キングを怪人と決めつけていると。
気がつけば、アマイマスクからキングを庇うようにS級ヒーロー達がキングの側に立った。
睨み合うS級ヒーロー達とアマイマスク。
群衆が固唾を呑んで見守る中、その膠着を破ったのはほかならぬキングであった。
庇うS級ヒーロー達を押し退けてアマイマスクに近づく。
「っ、ちょっとキング!!アンタを守ってあげてるのに出しゃばらないでよ!?」
「っ、師匠!!!」
目と鼻の先にまで近づいたキングとアマイマスク。
……アマイマスクが口を開く。
「キング、キミに問いたい。
キミは人か?……それとも怪人か?」
「俺は……俺は―――……」
キングは―――……
『レイタロウ氏ぃ〜ありがとおぉ〜。やっぱりレイタロウ氏は私のヒーローだよぉ』
「……俺は、ヒーローだ」
「…………フフッ、そうかい」
ビュウト君が朗らかに笑ってくれた。……いや、まさか、そんな……?
「……人に害を成す怪人は必ず打ち倒さなければならない。例えキングであっても怪人だったなら僕は倒すつもりだったよ」
群衆のざわめきが大きくなっていく。……驚嘆、困惑、安堵等の様々な感情が渦巻いている。
「いま確信したよ!キングはヒーローだとね……!!」
ま、待って待って待って………!!俺確かにヒーローだって言ったよ?正直言って滅茶苦茶嬉しいよ?
けど……けど……それで済む話じゃないでしょ……?
「……しかし、皆の不安も一理ある。いつかキングが暴れ出すかもしれない、そうだろう?……確かに、誰かの不安の元になるなどヒーローとして論外だからね」
え、ちょっと待って。スゴくイヤな予感……!
「ゆえにキングは!皆の不安を取り除くため、さきの攻撃で跡形もなく破壊してしまった月を元に戻すことを約束してくれた!!これから行われる奇跡の偉業をもってヒーローの証明とする!!」
瞬間、群衆から爆発的な歓声が挙がる。気付けばキングコールも発せられている―――……
うああぁあぁああぁぁああぁああぁあぁッッ!!!
バガヤ"ドオオオォォオォオオオォオオッッ!!!
「……へ?月を元通りに?キングさんが?え?」
「キングめ……。破壊のみならず創造まで出来るというのか……!」
「フンッ、そんなことが出来るなら早く言いなさいよ!」
「もはやキングちゃんは何でもアリだな!!」
月を狙ったワケではないと前置きした上で言っておこう。
宇宙船を蒸発させるだけでもスゲー大変だったのに、月の復元なんて夢のまた夢だ。
そんな時、ビュウト君がすかさず俺の耳元で囁いてきた。
「月がなくなっただけで地球への影響は甚大なんだ。……大丈夫、キミならきっと出来ると僕は信じてる」
………ちくせう、イケメン仮面は卑怯仮面だったか。
……そんなことを言われたらやるしかねぇじゃん……。
上等だよこの野郎!
やってやらああああああ!!!
キングエンジンを響かせる。
今度は壊したものを直す戦いが始まる……!
<<< ヒーロー協会本部内 >>>
キングの処遇が決定した。
結論から言って、キングをこれからもプロヒーローとして認めるという決定が下された。
キングのこれまでの協会への貢献度やほかにはない希少で有用な能力、件の巨大飛行物体へのヒーローとしての迅速かつ最適な行動選択による対処等が評価され満場一致で決定した。
そして何よりその巨大飛行物体を一撃で葬った極大の光の柱、それが今回の決定の大きな後押しとなった。
キングは怪人なんて枠組みに収まらない脅威だ。そんな脅威が人類の味方でいてくれるなら人権や地位、報酬ぐらいいくらでも保証するとも。
澄み渡る青空をバックにしたA市をモニター越しに見ながらシッチは安堵混じりに嘆息した。
「(しかしまさか月すら粉砕してしまうとは……。案外シババワ様の〝地球がヤバい〟予言はキングのことを指していたのかもしれんな……)」
やれやれ、これからのクレーム対応が大変だぞ。……そんなことを考えていたその時だった。
目の前のモニターが再び光の柱を映した。一発目と違い、その光の柱は黒く染まっており、先程のそれとは別の意味合いで放たれたもののように感じられる。
それは遥か上空にむけて一直線に突き進んでいき、元々月があった地点に殺到したと思ったら、突然黒い光がモニターを染め上げたのだ。
「な、何が起こったああああああ!!?」
シッチのみならず、その場にいた全ての職員ですら何が起こったのか理解が追いつかなかった。
やがてモニターの映し出す光景が鮮明になっていく。
そこには―――……
「……月、です」
何の変哲のない―――……
「……月が、元通りになってます(汗)」
……綺麗な月が顔を覗かせていた。
シッチは確信した。
ヒーロー協会は設立以来、随一の英断を下したのだと。
これにて、一件落着!!!
キングなら月を
一部反応を抜粋↓
怪人協会:何アレ怖っ……。
ネオヒーローズ:何アレ怖っ……。
あの御方:何アレ怖っ……。
ブラスト:何アレ怖っ……。
〝神〟:渾身の目潰しをかまされた、訴訟も辞さない。
ガロウ:俺の理想を先に叶えやがった、訴訟も辞さない。