キングと呼ばれる男がもたらした功罪って話です。
強化訓練の
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荒く削られた大小様々な岩山が散在するこの場所で、多彩な強者達が
「ぴょっ!!!」
連続かつ同時に放たれた十の刺突が絶対的王者……キングに殺到する。
災害レベル【虎】相当の怪人(昆布インフィニティ)はおろか、その一つ上の【鬼】相当の怪人に引導を渡した死の十字星がキングの目前にまで迫り―――……
「……やはり一筋縄ではいきませんか」
……
「コクッ……(注意は引けました)」
バネヒゲの合図に応えるように死角から鎖ガマの攻撃がキングの耳を襲う。が、これもすげなく避けられてしまう。
勿論そんなことは想定済み。
幾度となくキングに挑み、数え切れないほど地を舐めさせられ、その度にキングに負傷を癒やされるというある意味最悪の屈辱を味わい続けた彼らの身体能力、精神力、判断能力、潜在能力、そしてヒーローとしての覚悟は限界を飛び越えて成長していた。
ひとえにキングの異次元極まる強さを自覚したことで自分の中の不可能の壁が取り払われたことに起因している。
閑話休題。
絶妙なタイミングからの怒涛の波状攻撃を浴びせ続ける。
シューターの放った無数の矢の雨を紙一重で掻い潜るキングの土手っ腹にスティンガーの愛槍〝タケノコ〟が迫る。普通ならばこれで終わりだと誰もが思うだろう。以前までの彼らだったらそう考えていた。
矢の雨を掻い潜りながら
瞬間、連携が崩れ各々が自分勝手に動き回る。ヤケでも起こしたのか、そんなふうには思わない。
キングは知っている、ここからが恐ろしいのだと。
ガトリング砲が唸りをあげる。狙いは勿論キングだ。
ガトリング砲の射線から逃れるようにキングは高速で移動していく。
当然のように仲間達は避けるだろうと言わんばかりにデスガトリングは周囲に構うことなく連射を続ける。
実際それは間違いではなかった。キング以外のほかの者達はガトリング砲の狙いからは逸れつつ、キングと一定の距離をキープする絶妙な立ち回りを行っていた。
互いへの信頼がなければ出来ない芸当だ。
突如、キングの行く手を遮るように
〝フブキ組〟のメガネにとってはその一瞬だけで十分だったらしく、すかさずキングの顔面めがけて拳を叩き込んだ。
日頃の努力と〝強化訓練〟に必死で食らいついてきた執念が実を結び、【虎】程度であれば素手で撲殺できるまでに強くなったメガネの拳は―――……
「ッッ………!」
……見るも無残に赤く腫れ上がっていた。
キングはあらかじめパンチが飛んでくる先に自分の頭を置いておくことでこれを対処。……ダイヤモンドを優に超える硬度の頭蓋骨にメガネの拳が耐えきれなかったのだ。
強化訓練で初めてキングに攻撃を当てた瞬間であったが、それを喜ぶ間もなく弾丸の雨がキングとメガネに殺到する。
「っっ、まずい!!」
まさかの予期せぬメガネの行動にデスガトリングは驚愕を隠せずにいた。
「メガネ!!!―――……地獄嵐!!」
弾丸の雨が二人に直撃する刹那、すかさずフブキが超能力で弾丸を巻き上げ勢いを殺した。
最悪の事態にならずに済んだが、直後にチャイルドエンペラーのアナウンスが響き渡る。
『皆さん、一旦休憩に入ります!』
事実上の訓練中止の合図なのだろう。
初めてのことであった。
「どういうことか説明してもらおうか、メガネ」
「……すみませんでした、デスガトリングさん」
「謝罪などいらん。……何故
「デ、デスガトリングさん……。メガネさんも反省していますし、どうかここは穏便に済ませられませんか……?」
デスガトリングとメガネの仲を取り持とうとチャイルドエンペラーが間に入って仲裁しているが、結果は芳しくない。
……フブキ組がデスガトリングらと組んで訓練に臨むのは一回や二回ではない。各々の人柄や戦闘スタイルを深く知り合っているからこそ即席ながら高度な連携を可能としていたのだ。
デスガトリングはメガネの能力を特に高く買っていただけに彼の自殺行為同然な行動に違和感を覚えていたのだ。
「……私を差し置いて話を進めないでもらえるかしら?
メガネが何故あのような行動に出たかはさておき、私が丸く収めてあげたんだから蒸し返すことないでしょう?」
「……お前がメガネに命じてあんなことをさせた可能性を疑っているんだ。……地獄のフブキ……!」
「……何が言いたいの………?」
「最近のフブキ組はいい意味で
「っっ〜〜〜!!!」
「デスガトリングさん!それ以上はダメです!!」
「……フブキ組の構成員の殆どがお前の元を去った理由をキング一人のせいにしたいようだが、それは筋違いの逆恨みというものだ。連中は思い知らされただけに過ぎん。自分がヒーローに向いていなかったことをな。キングの善意を台無しにすることで鬱憤を晴らそうとする……正しく子供そのものだ」
「言いたいことはそれだけ………?」
「っ、フブキさんやめて下さい!」
比喩や誇張抜きに空間が軋む。……フブキの怒りの凄まじさが表れるとともにその強さがA級に収まらない規格外な代物へと昇華していることを示していた。
しかし、怒っているのは何もフブキだけではなかった。
「………お前達の遊びに口を挟むつもりはない。だが、その遊びに俺を巻き込むな……!メガネを殺していたら俺はヒーローではなくなっていたんだぞ……!」
「……っ!」
それだけ吐き捨てると、デスガトリングは何処かへ立ち去っていってしまった。
この場に残っていた者は皆一様に沈痛な面持ちで立ち尽くすしかなかった。
「(ぜ、全部……俺のせいなのかなぁ……?うぅ、気が重いぃ………)」
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「お、ここにいたのか。……メガネ」
「……マツゲさん」
「隣、座るぜ」
「………」
「……らしくない、なんて言われたいのか?むしろ俺はよく今日まで耐えていたと思ってる」
「……デスガトリングさんの言ったことは正論です。僕達がキングさんに抱いているソレが所詮逆恨みでしかないことは分かっているつもりです……」
強化訓練の報せを初めて受けたフブキ組は、それはもう意気揚々と参戦を果たしたものだ。ここである程度
そんな小賢しい思惑はキングエンジンによって呆気なく吹き飛ばされることとなったが。
「……皆なんでアッサリとフブキ様を見捨てられるのって当時は思ったしね……」
「……ここにいる四人は損得抜きでフブキ様に尽くすことができるが、ヒーローすら引退してしまったアイツらを今更責める気になれん……」
「リリーさん、山猿さん……」
体以上に心を徹底的に打ちのめされた。
自分達はヒーロー
……フブキ組だけではない。
一部のヒーローもキングとの強化訓練によって心をへし折られ引退する事態にまで発展していたのだ。
代表的なのがタンクトッパーに名を連ねていたタンクトップベジタリアン、タンクトップブラックホール、タンクトップタイガー等だ。
S級 16名
A級 38名
B級 101名
C級 390名
およそこれだけいた上記のヒーローが一ヶ月足らずで下記の通り―――……
S級 17名
A級 104名
B級 21名
C級 227名
……良くも悪くもキング一人がもたらした影響力の凄まじさが伺える。
「……それだけじゃない。俺達が【竜】を倒した時だって、キングの口添えがなかったら協会に認められすらしなかった。……それが悔しい……!」
無愛想ブラザーズを凍りつかせた弱そ〜な怪人との戦いに5人しかいなくなったフブキ組で臨んだことがある。
アイツら油断し過ぎ(笑)と思ったのも束の間、ソイツは【狼】どころか【鬼】にも匹敵する脅威であったと思い知らされることとなった。
メガネが名アシストを連発し、フブキが必死でほかのメンバーを守り続け、マツゲがトドメを差したことでギリギリで勝利を収めることができた。
しかし、その後が問題だった。
協会にそのことを報告しても何言ってんだコイツら?と全く取り合ってくれない。当時B級だった自分達が苦労して倒せた
『その怪人は……君達が…倒したのか?』
『キ、キング……!何よ、文句でもあるって言うの!?』
『その怪人は……【竜】だ』
『…………え?』
『協会が…相手しないなら……俺が…報告するが?』
『……え、え、え?』
キングからの報告で事の重大さを認識した協会は早速調査を開始、慎重審議の結果、正式にフブキ組が災害レベル【竜】を討伐したと認めたのだ。
「……思えばそれがキッカケでフブキ組は全員A級に昇格したんだったな……」
「【竜】を倒せるヒーローをいつまでもB級に留めるワケにはいかないからね……」
「……僕、これでも結構ムカついているんですよ。……キングさんにいままでのフブキ組を全否定されたようで。それ以上に、その事実を否定できない弱い自分にもっとムカついています」
「なら、これからもっと強くならなくちゃね」
「「「「 フブキ様!? 」」」」
そこには、妙に清々しい表情のフブキが立っていた。
「フ、フブキ様……。この度は僕の独断専行で多大なる御迷惑をおかけして大変申し「あぁ、そういうの良いから。あの後チャイルドエンペラーと話し合ってね、フブキ組は強化訓練から途中退場することにしたわ」
「「「「 っっ!!? 」」」」
「あらかじめ断っておくけど、今回の件がなくても既に決めていたことだから。……だからメガネ、あなたが気に病むことはないわよ」
「……フブキ様……(泣)」
「そ、その、フブキ様……?既に決めていたとは……?もうキングの肩を借りる必要はないということですか?」
「……ぶっちゃけるとね、大体あなた達の言った通り。キングなんか嫌いよ、それこそさっきのメガネみたいに思いっきり顔面をぶん殴ってやりたいくらい。……でも、そんな偉業を成し遂げるには今の私達じゃあまりに弱すぎるの……」
一気に雰囲気が真っ暗になる一同。
メガネは痛む拳を見つめながら自分の非力さを呪う。
「……だからこそ思ったのよ。いつまでもキングに頼っているようじゃ、キングはおろか戦慄のタツマキにすら勝てない」
「「「「 っっ!!! 」」」」
「キングから盗み見るべきモノは大方盗み見たわ。でも、私の思い描く理想を実現させるためには正直私一人では力不足よ。……最後まで残ってくれたあなた達に命令するわ。私に力を貸して」
最後の最後までフブキへの忠誠心のみを支えに自分の弱さと真っ向から向き合い続けた彼らにとって、その言葉は何よりのご褒美であった。
当然、返事など決まっている。
「「「「 はい!! 」」」」
「……へっ、キングにケツ叩かれてようやく目ェ覚ましたか」
A級39位 ニードルスター
元フブキ組の構成員にしてモーニングスターを武器に戦う実力派ヒーロー。彼もまた強化訓練を経て自分の成長限界を突破した男であり、同じく限界を突破したかつての仲間達の様子を陰ながら伺っていたところだった。
「(……しっかし、訓練に参加するたびに思うがガトリング砲を持ち込むのは流石にやり過ぎだろ。危なっかしいたらねぇ。今まで不幸な事故が起きなかったのが不思議なくらいだ……)」
メガネの勝手な行動が今回の事態を招いたと言えなくもないが、そもそもキング相手に武器全般を解禁している協会側の責任のほうが遥かに重いと考えるニードルスター。
……至って正常な感性である。
「(キングが正確には怪人だからか?……いや、そうと判明する以前から人扱いされてなかったなありゃ。キングも中々気苦労が絶えないだろうぜ……)」
無論、ニードルスターもキングをヒーローと認める連名に署名している。
当然これからはそれとなくキングの動向を気にする必要はあると考えているが、少なくともキングに人類を滅ぼそうとする意思はないように思えた。……あくまで直感だが。
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「(やっぱ着メロにするなら明るい曲……B小町の不動のセンター・アイちゃんの持ち歌『星の王様』だよな。元気が出るぜ……!)……はいもしもし、あぁ俺だが」
……彼女の歌を聞くたびに怪人との戦いで荒んだ心が癒やされているニードルスター。
命の恩人に向けた感謝の歌と銘打つだけあり、まるで星空の世界へと誘うような感覚を味わえる。
ニードルスターはアイドルオタクではないが、これだけは断言できると仲間のヒーローに語っている。……彼女は紛れもなく
「……子供が二人、怪人に攫われただぁ?」
……今日もなんだかんだ平和である。
カニランテ様の甲殻を素手で砕くので精一杯な非力なメガネ。彼はデスガトリングが高く評価するほどの名アシストを連発することで何とかフブキ組での立ち位置をキープしています。
……ぶっちゃけ今のフブキ組になくてはならない存在。