キングと呼ばれる男は筋肉を大事にしてるって話です。
同じパワータイプでも三人とも差別化されてるのがONE先生の凄いところですよね!
<<< ヒーロー協会本部 トレーニングルーム >>>
「……100357、100358、100359……」
全身を重厚な筋肉の鎧で覆った巨人が、ひたすらにベンチプレスを行っている。……ただそれだけならば誰も気に留めないだろうが、その巨人を取り巻く状況があまりにも常軌を逸していたのだ。
まずその回数。……数え間違いでなければこの巨人、既に十万回以上もバーベルを上げ下げしているはずなのに全く疲弊している様子がない。というか汗一つかいていない。
持久力もさることながらそれ以上に目を引くのはバーベルの大きさ、重量である。並の大型トラックのタイヤ以上のサイズと、シャフトに取り付けられた
……そう、この巨人は総重量20tのバーベルを一切休むことなく十万回以上も上げ下げし続け、筋肉をイジメ抜いているのだ。
もしや超合金クロビカリか?と思うだろうがそれは違う。超合金クロビカリとの最大の相違点として、その巨人の筋肉が黒光りしていない点が挙げられる。
そもそもその怪獣の背鰭のような特徴的なモヒカンを見た時点でその巨人が誰であるかなど一目瞭然であった。
「やぁキングさん!今日も素晴らしい筋肉だ!!」
「どうもクロビカリさん。その筋肉の黒光りには敵いませんよ……!」
ベンチプレスを一旦止め、クロビカリの差し出した逞しい手をガッシリ掴んで挨拶する。
「(この手の感触だけでクロビカリさんの積み上げた努力を感じ取ることが出来る!毎度泣けてくるぜ……!)」
キングはクロビカリと自分の境遇を重ねていた。
自分の弱さを庇い補強するためにひたむきに筋肉を鍛え続け、その果てに自分を誇れるようになった点が似ていると思っている。
血反吐を吐こうと、腕がプチプチと変な音を立てようと、自分の弱さに何度心身を打ちのめされようと、その度に何度も立ち上がり筋トレを断行した結果、原作のサイタマには到底及ばないかもしれないが健康優良・質実剛健な肉体を手に入れたとキングは自負している。
諦めずに努力し続ければ、例え相手がボロスであろうと負けないことを身を以て証明できた。……毎度のことながら彼に足を向けて寝れないなと思っていると、ふとクロビカリの筋肉の黒光り具合が減少しているように感じられた。
「……何か悩みでもあるんですか?」
「っ、キングさんにはお見通しか。……出来れば相談に乗って貰いたいが……」
「(これは只事じゃないな。あのクロビカリさんが自信をなくしているだなんて……!)……俺で良ければ」
「……最近A級に昇格した主将ミズキという女の子を知っているか?」
「ええ、よく〝強化訓練〟で見かけます。……その娘がどうかしたんですか?」
「告白された」
「え」
「……昨日ちょうどここで二人っきりの時に好きですと告白されたんだ……」
「(……待って待って理解が追いつかない……!?告白?ミズキちゃんが?クロビカリさんに?)」
「……その時はまだ返事できないと言って先送りしたんだが、正直どう答えれば良いのか全く分からないんだ」
「……クロビカリさんの場合、筋肉に夢中で異性との付き合いはおざなりになっていたと容易に想像できますね」
「っ、否定できない……」
「しかし、受け入れるにせよ断るにせよ同じヒーローですから両者の間に溝が残らない最良の方法を考えなければいけませんね……」
「……実を言うと彼女のことは嫌いじゃないんだ。常日頃から俺と一緒になってトレーニングをこなして、とても会話が楽しくて、この前なんて先輩の筋肉素敵ですと褒めてくれて……」
「………」
「彼女に告白された時、自分に誇れるものが筋肉以外にあったのか、そんな考えが頭を過ったんだ。……笑ってくれ、筋肉以外何もないんだ俺は。……そんな俺が彼女の好意に応えるなんて……」
筋肉の黒光り具合がますます悪くなっていく。……クロビカリの自信が加速度的に急降下しているのが伝わる。
「(……俺にはサキ氏がいたから良かったけど、正直異性との付き合いは俺も自信がない。特にフブキさんから蛇蝎の如く嫌われていた気がするなぁ。……昨日なんて強化訓練からフブキ組が途中退場したことをイサム君から聞かされて、俺って女の人から好かれないんだなぁと思い知ったからねぇ……さてどうしたものか……)」
「……俺はいったいどうすれば良いだろう……?」
「(そんなの俺が聞きたいよ。……ん?物陰にやけにおっきい人影が……?)」
「っ……」ササッ…
物陰の奥に隠れた人影を見て、それが件の主将ミズキであることを確信したキング。……彼女の放つ臭いからクロビカリへの好意、情欲、後悔、心配等の感情を把握することが出来た。
放っておくことはできないと、キングは諭すようにクロビカリに語りかけた。
「………クロビカリさん、嫌いじゃないのならそう言ってあげてください。誰だって結論を有耶無耶にされるのはイヤなはずですから」
「……キングさん、俺は……」
「それに彼女は、ありのままのクロビカリさんが好きなんだと思いますよ」
「っ!?」
「っ!!」
「ほかの誰よりも守りたい自分を大切に育て上げて、やがて誰かを守れるぐらいの余裕と誇りを持てるようになったクロビカリさんに彼女は好意を抱いたんだと思います。たぶんですがね?」
「っ……!」
「(筋肉の黒光り具合が増した気がする!あともう一押しかな?)まずは友達から始めてみたらどうでしょう?例えば……互いの筋肉を褒めてあげるとか、オススメのプロテインを教えてあげたりとか。……そうやって経験を積んでいけば自信に繋がっていきますよ」
「キングさん……!」
「ということで、まずはそこにいるミズキちゃんと話し合ってみましょう」
「「 っっっ〜〜〜!? 」」
主将ミズキの存在にようやく気付いたクロビカリ。……ここから先は二人だけにしてあげようと空気を読んだキングは、そそくさとその場を後にしたのであった。
<<< ヒーロー協会本部 大食堂 >>>
「タンクトップキング……!まさかここで会うとはな!」
「……マスター(……マジか)」
S級15位 タンクトップマスター
数多くいる〝タンクトッパー〟の頂点に君臨するタンクトップ怪人、もといヒーロー。
タンクトップに異常な信頼と信仰心を抱くタンクトップ信者である彼と食堂でまさかの対面を果たすことになったキングは、どうすれば良いか分からずただただ相手の出方を伺うしかなかった。
「この時間だと昼食になるな。キングもここをよく利用するのか?」
「……たまに…な……」
「なるほど、目の付け所がいいな!
「そうか……(タンクトップが映える、ねぇ……?それもうタンクトップって言うよりあなた自身が凄いだけじゃね?な〜んて考えちゃうけど……)」
……少し話は変わるが、強化訓練に参加しているタンクトッパー達の成長率はほかのヒーローと比べても目を見張るものがあるとキングは個人的に感じている。
パワーやスタミナといった基礎的な身体能力は勿論のこと、キングの手加減パンチ(常人ならまず気絶必至)をマトモに食らっても最低一回以上は立ち上がる人間離れしたタフネスをタンクトッパー達は兼ね備えていた。
キングにしてみれば気絶させるためにタコ殴りにしているのに、そのたびに立ち上がって殺意100%で襲いかかってくるタンクトッパー達は軽く恐怖の対象である。
……そんなタンクトッパー達の元締めであるマスターにもキングは少なからず苦手意識を抱いていたのだ。
「……キング、今日は俺が奢ろう。いや奢らせてくれ!
日頃舎弟達が
「(礼?礼だって?御礼参りってことか!?日頃タンクトッパー達をボコボコにしている仕返しってことか!!?)礼など……」
「……やはり隠し事はできないな。……実は、お前に相談したいことがあるんだ」
「……何?」
大食堂のちょうど中心に位置するテーブルを囲むように座る二人の大男……キングとタンクトップマスターは、あらかじめ注文しておいた料理(キングはフライドポテト山盛り、マスターは丸々一羽分の鶏の蒸し焼き)をつまみつつポツリポツリと会話していた。
「……俺に遠慮しているのか?」
「……何の…話だ……?」
「いや何……〝地上最強〟の男と謳われているキングの強さ、それを支える食事量がその程度で済むはずがないと思ってな。……俺のを食べるか?」
「いや……問題ない。……普段から……こんなものだ」
「そうなのか?」
嘘は吐いていない。……
「(ぶっちゃけコップ1杯の水を貰うために来ただけなんだけど、誘われたら流石に断りにくいよなぁ……)」
……キングは生まれながらに食が細い。どれくらい細いかと言うと、ご飯茶碗1杯分の米を食べるだけで丸々一週間何も食べなくても平然としていられるくらい食が細い。というか何も食べなくても丸々一ヶ月間全力運動(キング基準)が出来るくらいエネルギー効率が良い。
大気中の酸素を吸い、コップ1杯の水を飲む。……そうして体内に取り込んだ酸素と水の元素を細胞内で自在に変換し、生命維持に必要な栄養素及びエネルギーを生成することができる。
極端な話、キングにとって食事とは他者との円滑なコミュニケーションを図るツールでしかなくなっていたのだ。
「……それより…マスター……俺に…話したい…こととは……なんだ?」
「っ、そうだったな。では早速本題に入ろう……」
食事の手を止め、タンクトップマスターは真剣な表情でキングと向き合う。
これは茶化しちゃいけないなとキングもまた姿勢を正してマスターの話に耳を傾ける。
「タンクトップとは何か、タンクトップキングの意見を聞きたい」
「……は?」
「タンクトップは全てに通ずる。タンクトップの着こなしを極めることが出来れば、俺はキングに負けない超一流のタンクトッパーに成れるんだ」
「……はぁ?」
「だがそのためには、タンクトップとはいったい何なのか俺自身が完全に理解しなければならない。……笑ってくれ、皆からマスターと称えられている俺ですらタンクトップの真理に至れていないのだからな」
「(……帰りてぇ……!)」
「キング、タンクトッパーを名乗る全ての者の真の頂点に立つ男よ。お前に挑むタンクトッパーはお前が憎いから挑んでいるワケではない。その逆だ。お前の完成されたタンクトップの着こなしに憧れ、お前に認めてもらいたいがために挑んでいるのだ。……それはもはや愛だ」
「(……タンクトップ、脱ごうかな……)」
「舎弟達の成長を促したように、俺にも是非タンクトップの何たるかを教えてもらいたい……!」
「………」
頭を深々と下げるマスターに思わず絶句するキング。
……だが、何をすべきかはもう決まっている。
「……俺から……教えられる…ことは…ない」スタスタスタ…
「っ、待ってくれタンクトップキング!!」
即逃走。……断りを入れた上で退席するだけまだマシなほうかもしれないが。
「教えてくれッ!タンクトップとは孤独なのかッ!際限なくタンクトップの発露を求め彷徨い続けることがタンクトッパーに課せられた罰なのかッ!!」
「(知りませんー。明日までに考えといてくださいー)」
明日以降も出来る限り会わないよう、今日からタンクトップを脱ぐことを決意するキング。
タンクトッパーへの苦手意識が割り増しした。
<<< ヒーロー協会本部 多目的ホール >>>
「……ヒーロー協会『地球がヤバい予言緊急対策チーム』リーダー役を任されたシッチだ。……キミ達がまさか本当に集まってくれるとは思っていなかったよ」
協会本部の多目的ホールに集められた面々を見て思わず冷や汗を流すシッチ。
「キミ達〝臭蓋獄〟の囚人が我々の呼びかけに応じてくれたことに深く感謝する」
凶悪犯罪者のみを収監する大監獄……臭蓋獄の囚人達が今まさに目と鼻の先で蠢いているのだ。戦闘の心得などないズブの素人であるシッチが気丈に振る舞えているのは、ひとえにその囚人達を束ねる強力なリーダーが隣にいるからにほかならない。
「静かにしなさーーーい!!」バサバサ
ビクッ「「「「 は、はいボス!! 」」」」
S級17位 ぷりぷりプリズナー
平均的成人男性を自称する男好きの強面オカマヒーローが
ただでさえ人間離れしていたと言うのに翼を生やして帰ってきた時にはいよいよ怪人として討伐されるのかと内心心を躍らせていた囚人達であったが、なんやかんやあってこれからもヒーローとして活動するという話を聞かされ絶望したのは記憶に新しい。
……どういうワケか性的なお仕置きが実行されることは殆どなくなり、代わりに外の景色を見ながら物思いに耽る姿を目撃されることが多くなったそうだが、あくまで余談である。
「……キミ達に集まってもらったのはほかでもない、ヒーロー協会の新しい施策『刑務サポーター』の実験モデルとして正義活動に従事してもらいたいからだ」
「実験だぁ……?」
「ケッ、俺達はモルモットかよ……!」
「……言い方が悪かった。要は一定の戦闘訓練と入念な精神鑑定を受けて問題のなかった者にプロヒーロー達の正義活動のサポートを行ってもらいたいのだ。社会貢献度や勤務態度によっては減刑やプロヒーローとして雇用することも検討している」
「「「「 ……! 」」」」
「しかし初めての試みでな、この施策が今後どういうふうに世間に影響を及ぼすか未知数なのだ。ゆえにお蔵入りも視野に入れていたのだが、それに待ったをかけた男がいた」
「……それって……」チラッ
囚人達は一斉にぷりぷりプリズナーを見る。
「言っておくが俺じゃないぞハニー達。俺の発言力などたかが知れてるからな」
「えっ?じゃあ……?」
「この施策を押し出したのは何を隠そうキングだ」
「「「「 っっっ〜〜〜!!? 」」」」
……この場にいる囚人達は、全員が全員ぷりぷりプリズナーに拉致、もとい逮捕された者だけで構成されているワケではなかった。
かつて表社会で大暴れしていた、あるいは大暴れしかけた者の中には、運悪くキングと出くわし抵抗虚しく捕縛された者もいる。
ツルッパゲの巨漢……ハンマーヘッドがまさにそうだ。
「(キ、キングが……?なんでそんな……)」
「キング曰く、本気で更生しようとしている者達の一助になるのなら積極的に打ち出すべき、とのことだ」
「キングちゃんは罪は憎んでも人は憎まない。……人であるならいくらでもやり直せると、言葉ではなく行動であなた達に伝えたかったんだと俺は思っているぞ」
「「「「 っっ、そんな……! 」」」」
……真相は少しだけ違う。
とある日、キングはチャイルドエンペラーと甘〜いパフェを食べながらこんな相談を持ちかけられていた。
『ヒーローの〝質〟はキングさんがいるだけで担保されるんですが、どうも最近減少傾向にあるんですよね……』
『……俺が厳しくしすぎたせいだね多分』
『いえいえ!そんなことは……!』
実力至上主義の悪い面が浮き彫りになりつつある。……チャイルドエンペラーは勿論のことキングでもそれはしっかりと自覚していた。
キングの指導は傍から見ていると全く容赦がない。実際はキング自身も余裕がないため、人を殺さないギリギリの範囲内で本気を出して対処しているワケだが、そんなもの挑んでいる側からしたら分かりようがない。
それでもキングのやり方を肯定する者のほうが多かったのは奇跡としか言いようがないが、置いてけぼりにされた挙句、夢破れてヒーローを引退する者も決して少なくはなかったのだ。
『数合わせ……なんて言ったら不謹慎だけど、せめて現場で戦うヒーロー達を現場でサポートしてくれる人材がいてくれればなぁ……』
『……そう言うと思って、これはお蔵入りしかけている案の一つなんですが……』
キング、ここで初めて『刑務サポーター』を知る。
『……あぁうん、これは、アレだ。ぷりぷりプリズナーのいる臭蓋獄の囚人達を起用すればいいんじゃないかな?プリズナーを監視役兼指導役に据えれば逃げ出す危険はないはず、たぶん、メイビー』
『……それは考えつきませんでした!確かにプリズナーさんなら引き受けてくれると思います!』
『うん、それに……(プリズナーを監視役兼指導役に従事させれば、それだけ俺と接触する危険性は減るよね。凡庸な脳味噌で考えたにしては完璧じゃないか……?)』
嫌いとまでは言わない。……だが、タンクトップマスター以上にド直球で危険なオカマと顔を合わせる勇気を、キングは持ち合わせていなかったのだ。
閑話休題。
「……俺、やるぜ!」
「……俺も!」
「俺も、もう一度やり直してぇ!」
次から次へと名乗りを上げる囚人達。……彼らの表情から怪訝さは消え、これから先の未来を生きようとする強い意思が宿っていた。
「(……母ちゃん、俺もう一度やり直してみるよ……!)」
「あなた達……!俺は嬉しく思うぞ!よ〜し今日から〝ぷりぷり刑務パートナーズ〟結成だァァァァァァ!!」
「「「「 ざけんじゃねェェェェェェ!!! 」」」」
……何とも締まりがないが、ともあれ未来は明るい。
キングさんの好感度パラメーター(上限100%)
・超合金クロビカリ←(90%)尊敬レベル
・タンクトップマスター←(20%)警戒レベル
・ぷりぷりプリズナー←(1%)危険レベル