タツマキちゃん、暇を持て余すって話です。
<<< S市? >>>
「……暇だわ」
街の
S級2位 戦慄のタツマキ
超自然能力の申し子にしてキングやブラストと並ぶ〝ヒーロー協会〟最高戦力の一角。
軍の一個師団に匹敵する戦力を保有すると認められたS級ヒーローの中でも最上位に位置する実力者である彼女は何故、全市規模で勃発している怪人テロを放置してこんな上空を揺蕩っているのか?
単なるサボり?……否、それは違う。
「ホント暇……もしかして連絡サボってるのかしら?」
通信機能も備えた発信機を宙に浮かせ、ある人物と連絡を取る。
「キング!どういうことなの!!?」
『……タツマキか…どういうこととは……?』ドッドッ
ある人物とはキング。……同じS級に籍を置く名実共に地上最強の男に開口一番タツマキは怒鳴り散らかした。
「アンタの言葉を信じてずっとS市の周辺を警戒してるんだけど全然大ムカデが現れないじゃない!!」
『えっ……?』
……なんとタツマキ、キングの言葉を真に受けてずっとS市周辺を彷徨いていたのだ。それはもう草の根をかき分けるように怪しい気配がないか警戒した上で。
「こっちはもう二時間も待ちぼうけよ!ホント信じらんない!私を騙してたのね!?」
『えっ…ちょま……………………あっ』
「何よ!?文句でもあるワケ!!?」
『タ…タツマキ……その……発信機で…話しかけて…いるんだな……?』
「そうよ!それが何なのよ!?」
『……発信機には……位置情報機能がある。……それを使うことを…勧める…』
「フンッ!言うに事欠いてそんな―――」
……意気揚々と自宅を出発し、到着した場所がS市ではなくよりにもよって隣町のR市。
道理で雑魚しか現れないワケだと納得し、タツマキの顔が徐々に真っ赤になっていく。……その時だった。
遠く(恐らくそこがS市)で
『……いま報告が来た。……S市に現れた大ムカデは…金属バットが月までぶっ飛ばしたそうだ……』
「………………………いま見たわ」
『……俺だって…ミスをすることはある。……タツマキ…君だけじゃない……』
「よ、余計なお世話よ!……アンタと一緒にしないでちょうだい!!もう切るわよ!!?」
『えっ…ちょま―――』
一方的にキングとの通話を打ち切ったタツマキ。……それはプライドゆえか、はたまた―――
「フンッ、いいわよ!……だらしのないアンタ達に変わって私が全部相手してあげるんだから!!」
戦慄のタツマキは光となって駆けた。
目的地はない。……とりあえず強そうな奴を見つけて捩じ切れば名誉挽回できるだろうという魂胆だ。
<<< D市 >>>
ゴスッ!!!「ズマ〜〜〜ッ!!!」
怪人電気ナマズ男の顔面が横薙ぎに振るわれた
「アンタァァァァァァァァァ!!?」
勢いそのままにコンクリートブロックに激突し動かなくなった相棒を見て絶叫する怪人舞妓プラズマは、自分達の見通しの甘さをこの期に及んで思い知らされていた。
強すぎる、ヒーローがあまりにも。
「電撃が効かない時はどうしようかって思ってたけど、チャイルドエンペラーの発明品のおかげでなんとかなる。
このまま押し切って倒すぞ……!」
A級17位 雷光ゲンジ
特殊警棒スタンバトンを武器に戦う高機動型ヒーロー。
彼もまた〝強化訓練〟に励み続け、自分の限界を打ち破って強くなったヒーローの一人である。
しかし彼の場合、特筆して強化されたのは装備品であると言えるだろう。
「ッ〜〜〜、おのれェ!この恨み晴らさでおくべきかァァァァァァ!!!」ドンッ
背中の太鼓を叩いて雷撃を発生させる舞妓プラズマ。
長年連れ添った相棒を失った悲しみ、相棒を奪った目の前のヒーローへの怒り・憎悪、諸々の感情が込められた彼女の雷撃は―――
「スタンバトン、フル充電モード!!」
……タイミングよく前方に掲げたスタンバトンに余すことなく吸い込まれていった。これには彼女も面食らう。
「(宇宙船の技術を流用して作り出したっていう装備……以前のものと比べて電撃に強い耐性があることが幸いした。……いやむしろ!)」
瞬間的に強烈な電圧を加えられた雷光ゲンジのスタンバトンは、その衝撃を本体の装備にも還元し、内蔵された人工筋肉を活性化させていく。
「(電撃を力に変えている!……これならッ!!)」
機械仕込みのローラースケートをフル稼働させ、急速に敵との距離を詰める。
「こ、来ないでェェェェ!!?」ドンッ ドンッ ドンッ
太鼓を滅多打ちにして雷撃を乱れ撃つ舞妓プラズマ。
それらを紙一重で躱しながらあっという間に間合いに潜り込んだ雷光ゲンジは、前腕部に蓄積した電気を流し込み、最大威力でスタンバトンを振りかぶった。
「雷光スタン落とし!!!」
ズドンッ「がっ!!?………アンタ……」
……肩を抉り、心臓にまで警棒がめり込んでなお、相棒のことを最期まで想い続けた舞妓プラズマ。……相棒への愛に生きた彼女の死に顔は、寂しげながらもどこか安らかなものであった。
「……ふ〜、ここら辺で暴れてた怪人はこれで最後だな。流石に疲れた……」
最後の怪人が沈黙したことでようやく息をつけると額の汗を拭う雷光ゲンジ。……ふと空を見上げた時、上空からこちらを睨みつける一人の少女がいることに気が付く。
新手か!?と身構える雷光ゲンジであったが、よくよく見ると見覚えのあるヒーローだった。
「戦慄のタツマキ……?なんでこんなところに―――」
疑問に思う間もなくタツマキは去っていってしまった。
「えっ?……何だったんだ?」
<<< W市 >>>
「畜生…畜生……何だってんだ、何だってんだよ……!ヒーロー強すぎんだろ……!?」
顔中が腫れ上がった軍人姿のゴリラが覚束ない足取りで路地裏を迷走していた。
マーシャルゴリラ 災害レベル【虎】
災害レベル以上に厄介な脅威として怪人協会内でも一定の評価を受けていた彼が何故、人のいる街中ではなくこんな人けのない路地裏を彷徨っているのか?
「クソッ…クソッ!!……なんで俺があんなヒーローどもにボロ負けしなきゃならねぇ!おかしいだろォ!!?」
こんな無様を晒すに至った経緯を思い起こす。
……人っ子ひとりいない街中を悠々と闊歩していた時だった。突然目の前にヒーローが二人、躍り出てきたのだ。
『C級ヒーロー
『同じくC級ヒーロー赤マフ!覚悟しろ怪人!』
C級4位 レッドサンダー
C級6位 赤マフ
早速バカ二人が現れたと
『やれやれ、出来りゃA級の首が欲しかったんだがな〜!?こうなったらしょうがねぇ、ノコノコ誘き寄せられた
結論から言って、マーシャルゴリラは相手を侮りすぎた。
「(俺は【虎】だぞ!?最低でもB級5人揃えて挑むだろ普通!なんでC級二人だけで……クソッ、クソッ、クソッ!!)」
得意とするナイフ戦術をことごとく躱され防がれ、逆に抜群のコンビネーションによって着実にダメージを蓄積していき堪らず撤退、現在に至っている。
「(クソッ、クソッ!……こうなったら一度アジトまで戻って立て直さなけれゴスッ
顔面一発。……
次いで聞こえてくるのは二人分の足音。……C級のレッドサンダーと赤マフだ。
「おっ、上手く誘い込めたな!」
「よし、これで一帯の怪人は片付いたぞ!」
「うむ、それじゃあ次のポイントに行くか」
A級33位 ヘヴィコング
〝真の強い男になりたい〟…という目標のためにプロヒーローになったA級の中でも指折りの実力者。
例の如く自らを縛っていた限界を打ち破り青天井に強くなったヒーローの一人でもあり、自らの気配や存在を消して自然と一体となる隠形の練度は、かの忍者ヒーローシャドーリングに勝るとも劣らない。
ここはどちらかと言うと都心部に近いが、路地裏などといった陰のある空間はヘヴィコングの絶好の狩場。……よくよく見ればそこかしこに怪人の死骸が転がっている。
誘導されたとはいえマーシャルゴリラは自ら進んで罠に入り込んでしまったのだ。
「……ん?あれは―――」
赤マフの指差す方向―――上空から
「……戦慄のタツマキか?」
「え?なんでまたこんなところに?……おーいタツマキさーん!ここら一帯は終わりましたよー!?」
レッドサンダーの呼びかけを無視し、何処かへ飛び去っていくタツマキ。
「「「 ……助けに来てくれたんだよな? 」」」
そう結論付けるほかなかった。
<<< H市 >>>
「いい加減ッ、私に屈服しなッ!!」
空を切り裂き破裂させる音が響き渡る。
弩S 災害レベル【鬼】
空を切り裂くはムチの音。……怪人姫弩Sが敵を屈服させるべく縦横無尽にムチを振り回す戦闘音である。
「断る。……我が漆黒の刃が全てを切り裂くその
「喋んじゃないよッ、聞いてるこっちがむず痒くなンのさッ!!」
A級46位 ダークネスブレイド
対するはA級のダークネスブレイド。……喋らないほうがカッコいい中二病ヒーローはひたすら冷静にムチによる攻撃を受け流し続け
「待たせたな、ダークネスブレイド」
「ッ!!……アンタは……ッ!!?」
左腕部に連射式の鉄砲を連結したワイルドな風貌の男が突然現れ思わずギョッとする弩S。
A級9位 デスガトリング
「プランBからの
「……委細承知した」
ガトリング砲が唸りをあげる。狙いは勿論弩Sだ。
「気でも狂ったのかい!?まだ仲間がズチャッ
突然バランスを崩し倒れ込む弩S。
何事かと自分の足元を見ると、そこにあるべきものが、左足がなくなっていた。
デスガトリングの躊躇のなさに気を取られ、去り際に漆黒の剣で左足をバッサリ斬り落とされていたのだ。
ダークネスブレイドは既にムチの有効範囲外に逃れている。……してやられたと悟った頃には目と鼻の先にまで無数の弾丸が迫っていた。
「舐めんじゃないよクソヒーローどもォ!!」
レベル【鬼】としての自負ゆえか、はたまたヒーロー如きに屈服されたくないからか、片足の喪失感を押し殺して弩Sはムチを振るいまくった。
「(こんなところで退くワケにはいかないのさ!せめてヒーローの一人や二人恋奴隷にしないと私はギョロギョロやオロチに―――)」
ガトリング砲から射出される無数の弾丸を正確無比なムチ捌きではたき落としてゆく弩S。……昨日アジト内で起こった事件が
『……生体反応を発し続けるだけの血と肉と骨が詰まった皮袋みたいなものだ。かなり近付いて見ないと分からないくらいに精巧だが……』
フェニックス男の指摘によって判明したキングによる怪人協会アジトへの潜入工作。……それがもたらした影響はあまりにも深刻であった。
恋奴隷に留まらず、あらかじめ捕らえておいた少なくない数の人間が全て肉人形にすり替えられていた。恐らくオリジナルはその時救出されているだろうとも。
『……どうするギョロギョロ、明日決行する予定だった
『……延期も中止もしない。予定通り明日決行する』
ここで延期しようものなら、それこそヒーロー協会に準備を整える時間を与えることになる。
中止などしたら、下っ端をはじめ災害レベル【鬼】や幹部の気勢をそぎかねず、最悪内乱が起こる可能性すらある。
……内乱が起きたとしてもオロチがいれば鎮圧自体は出来るが、それではせっかくヒーロー協会を潰すために集めた戦力を自らの手で半減させてしまう。
特に幹部はギョロギョロも認めるレベルの悪魔的な殺傷能力を持ち合わせており、それを失うような真似は極力したくはなかった。
『投入する戦力は増やすつもりだ。悠々と待ち構えているであろうヒーローどもを鏖殺できるだけの戦力をな』
だからこそこちらも手を抜かない。使い捨ての先鋒に加えてこちらの最高戦力の一部を放出することを決意した。
『これだけやればいい撹乱になるはずだ。こちらの
最後に、その場にいる怪人達に箝口令を敷いてその場はお開きとなった。
「……………あっ?」
道路に脳漿がぶち撒けられる。……いったい誰の?
「終わりだ―――デスシャワー」
ぶち撒けられたソレが
喧しく鳴り響くガトリング砲。……そこから射出される先程よりも回転のかかった無数の弾丸が弩Sの肉体を抉り貫き、全弾撃ち尽くした頃には全身蜂の巣の惨死体しか残らなかった。
「……
耳元に手を当て、遠くにある高層ビルを見つめながら誰かと通信するデスガトリング。
……あくまで余談となるが、強化訓練によって高められたのは何も個人戦闘能力だけではない。
キングという強大な一個人を打ち負かすために参加者同士で何度も作戦会議を行う内に、それぞれの人柄やスタンスの違いなどを相互に理解し合い、今まで取っ付きにくいと思っていた者とも親交を深め、結果仲間同士でのコミュニケーションや戦闘時の連携の大きな助けとなっていた。
普段は組まない者とも高度な連携を実現できる程度には横の繋がりは強固になったと言ってもいい。
ちなみにプランAのAは
プランBはバラバラに動くという意味のB。
ひらけた場所で言うプラン
ほかにも色んなプランがあるが、本当にたくさんあるためここでは割愛する。
「……キングにこの街まで移送された時は驚いたが、なるほど名采配だったと言わざるを得ないな。チャイルドエンペラーから支給された新武装も十分実戦に耐えうる」
「この
一発屋が隠れ潜んでいる高層ビルの近くに見覚えのある少女、もといヒーローが滞空していた。
「ふんっ、今更来たのか?……随分偉いご身分だな」
デスガトリングの吐き捨てた言葉が届いたのかどうかは分からないが、彼女は何とも言えない苦々しい表情を浮かべた後、颯爽とその場を離れていってしまった。
「戦慄のタツマキ。……ヒーローはお前達だけではない、俺達だって立派な―――」
デスガトリングの独白がタツマキに届くことはなかった。
<<< I市 >>>
「地獄嵐・
……巨大怪人百々目蛸の肉体の
A級5位 地獄のフブキ
彼女の手の動きに合わせるように百々目蛸の体が大きく歪んでいき、体中の穴という穴から夥しい量の血液が零れ出ていった。
やがてピクリとも動かなくなったタイミングでフブキは攻撃の手を緩め、干物と化した百々目蛸の死骸を人のいない場所に適当に放り投げ勝鬨を上げる。
「皆お疲れ様、ひとまず勝利よ!」
「「「「 フブキ様こそ、お疲れ様でした!! 」」」」
「ふふっ、皆ほどじゃないわ。……リリー!」
「は、はい!」
「最近発現したばかりの超能力を武器に纏わせて強化するやり方……とっても良かったわよ!」
「め、滅相もありません!」
A級21位 三節棍のリリー
ひたむきに努力し続けた結果、憧れのフブキのように超能力を発現するに至ったヒーロー。
今は武器に超能力を纏わせるくらいしか出来ないものの、彼女の成長性には大いに期待できるとはフブキの談。
「メガネ!……またあなたのアシストに助けられたわ。
街の被害がこの程度で済んだのは、ひとえにあなたのファインプレーによるものよ」
「ありがとうございます……!」
A級20位 メガネ
意外なことに彼もまたリリーと同じように超能力を発現していた。……他者の心の声が聞こえるテレパシー能力を持ち、広範囲に渡る索敵を担当している彼がいち早く百々目蛸を発見したことで街の被害を最小限に留められたと言っても過言ではない。
余談だが、敵の弱点すらテレパシーで把握できる彼が効率的に指示を出している姿を見て意外とリーダー向きかもしれないとフブキは軽く警戒心を抱いている。
「山猿!……あなたのパワーにはいつも助けられるわ。
私の盾になれるのはあなたくらいなものよ」
「身に余る光栄……誠にありがとうございます!」
A級15位 山猿
超能力の発現には至っていないが、単純なフィジカルが以前とは比べ物にならないくらい底上げされており、そこに〝野生スイッチ〟なる元から修得していた肉体強化術を加えることで現ランクに違わぬ戦闘能力を発揮している。
彼に与えられた役目、それは超自然的な力では防ぎきれない物理的な攻撃からリーダーであるフブキを守り通すことであり、彼の健在が直接フブキ組の勝敗に直結していると言っても過言ではなかった。
「マツゲ!……最後になったけど、あなたのアイラッシュカーラー捌きは神業としか言いようがないわ。私の剣はあなた以外にあり得ない」
「……光栄です、フブキ様」
A級14位 マツゲ
山猿と同じく超能力発現には至っていない。だが、得物であるアイラッシュカーラーを完璧に使いこなせるよう特訓を重ねた結果、アイラッシュカーラーで挟めるものであればどんなに硬いものであろうと断ち切る〝美容殺法〟なる新境地に辿り着いた何気に凄い男である。
彼に与えられた役目、それはフブキでも破壊しきれないほど硬い敵を物理的に削って超能力の通りを良くするというものである。
百々目蛸の硬い表皮をアイラッシュカーラーで斬りまくり、その足を数本も切断する快挙を成し遂げているところにマツゲの恐ろしさが垣間見える。
「お姉ちゃん?……って、気の所為か……」
ふと姉であるタツマキが近くにいた気がしたが気の所為だった。……滅多に見れない笑顔を浮かべていたなんて、それこそ自分の妄想であるとフブキは早々に結論付けた。
<<< Y市 >>>
「……魂魄一閃!」
巨大な蛇の怪人ガンリキの首が宙を舞う。
頭を斬り飛ばされた体は失ったものを探すように右往左往とした後、ドサッと力なく地面に倒れ伏しピクピクと体を痙攣させるのみとなった。
「……何事もなく【鬼】を倒せたが、いまだに師匠に追い付けた実感が湧かないな。俺もまだまだか」
A級2位 イアイアン
S級を除いた単独での【鬼】討伐実績堂々の二位(一位はイケメン仮面アマイマスク)を飾るヒーローにして、アトミック侍の一番弟子である凄腕の剣士。
〝魂〟を観測する第三の目とその魂を斬り裂き一撃で即死させる神業を携え、彼は現在Y市の警戒に当たっていた。
「イアイア〜ン!こっちは片付いたわよ〜」
「やれやれ、数だけは多いな……」
「オカマイタチ、ブシドリル」
A級3位 オカマイタチ
A級4位 ブシドリル
血で薄汚れている弟弟子二人の姿を見て、Y市での怪人騒ぎが一段落ついたことを直感するイアイアン。
よくよく耳を澄ませれば街の破壊音や怪人の鳴き声一つ聞こえない。
「ちょうど俺も【鬼】相当の怪人を斬ったところだ。これでY市で暴れている怪人は粗方片付いたな」
「えーうそ!?こっちは良くて【虎】くらいしかいなかったのに……!」
「競うな全く……」
イアイアンの功績に羨望の眼差しを向けるオカマイタチ。
……そんなオカマイタチを呆れた様子で見るブシドリルであったが、彼も正直なところイアイアンが事もなげに成し遂げた快挙を羨ましく思っていた。
師匠であるアトミック侍から常に三人一組で行動するよう言われているため、どうしても個人で戦果を上げる機会に恵まれず、どれだけ災害レベル【竜】相当の怪人を倒しても〝A級三剣士〟として扱われてしまう。
だがしかし、それはひとえに自分の〝個〟としての力が圧倒的に不足しているからにほかならないとブシドリルはしっかり理解していた。
……理解していたが、どうにもイアイアンが羨ましく思えてしまう。特に単独での【鬼】討伐など自分は一、二回程度しか熟せていないのに、イアイアンは十回以上も成し遂げている。
「まぁそう睨むなよブシドリル。俺達三人の間に大した差なんてない」
「っ、いや……すまん」
「あら〜?ブシドリルってば、もしかして
「くっ……こいつ斬っていいか?」
「駄目に決まっているだろう―――下だ!!」
「「 っっ!!! 」」
イアイアンの掛け声とともにその場から離れた二人。
直後、自分達の立っていた場所から無数の糸のようなものが飛び出し、一瞬で地面をサイコロ状に切断した。
「飛んで火に入る夏の虫」「飛び込んで毛に絡まる正義のヒーロー」
大して上手くもない例えを口にしながら這い上がってきたソレは、一言で言えばロン毛の怪人であった。
魔ロン毛 災害レベル【鬼】
「(直前まで殺気を感じなかった。……コイツやるぞ!)」
「(さっき伸びてきた糸みたいのって髪の毛かしら?地面を綺麗にカットできる切れ味に刀より細く見えにくい視認性の悪さ、強敵ね……)」
「(しかし何だ?……この胸騒ぎは―――)……!?」
「井の中の蛙大海を知らず」
「A級ヒーロー
最初、ただ水道管が破裂しただけだと思っていた。
違った。……正確には
水の中で転がしている二つの目玉、イアイアン達を凝視するその目玉は無機質そのものだった。
エビル天然水 災害レベル【竜】
「(……まずい、あの水の怪人には〝魂〟がない……!
これではいくら攻撃したところで……)」
……イアイアンの魂を両断する神業は、斬る相手に魂があってこそ初めて成り立つ。
この場合〝魂〟とは意志力、もっと言えば心の有り様を指し示すものであり、これは怪人であろうと例外なく保有している。
イアイアンは強化訓練に加えて日々の過酷な修行を乗り越えることで他者の心の有り様を目で見て感じ取る未踏の域に至っていた。
有機生命体であるならば大なり小なり持ち合わせている魂をエビル天然水は欠片も持ち合わせていない。……その恐ろしさは想像を絶する。
「風前の灯」「お前らのいのボバンッ
……水の弾ける音が聞こえた。
……水の蒸発する音が響いた。
……水の干からびる音が虚しく木霊した。
ぎこちなく後ろを振り返る魔ロン毛。
「……フッ、今度は間に合ったわよ」ドヤァ…
「風前の灯」「俺の毛」
自慢のロン毛ごと全身を捩じ切られながらも最後の力を振り絞って呟いた遺言、それは誰の心にも響かなかった。
「はーあ、本当ヤになっちゃうわ!皆私がいないとまるでダメね!……ねっ!?」
「「「 え?……あっ、はい 」」」
「それじゃあ私は別の街まで行くけど、自信がなかったら
「「「 ……分かりました 」」」
「ホントにヤになるわ、私がいないとダメねホント……」
……ナイスタイミングで駆け付けてくれた戦慄のタツマキの文句に言い返すような真似はしなかった三剣士。
気を良くしたのかぶつくさ言いながらもタツマキはそのまま何処かへ飛び去っていってしまった。
「……果てしなく遠いな、S級は……」
これからは【鬼】レベルをA級が、【竜】レベルをS級が、それぞれ単独で撃破しなければヒーローを続けていくのは厳しいかもしれない。
キング一人の存在によってヒーロー全体のレベルが底上げされたとイアイアン達は改めて痛感した。
怪人テロ発生からおよそ三時間経過した、午前10時時点の話である。
次回はS級ヒーロー達の活躍です。お楽しみに!