キングと呼ばれる男は生ける伝説って話です。
今回は割と長めです。
<<< ヒーロー協会本部 訓練場 特別観覧席 >>>
特別観覧席にて拳法と剣法を極めた武人が二人。
シルバーファングとアトミック侍は本日の強化訓練の様子を見に訪れていた。
「今日も元気にやっとるの〜」
「ああ、羨ましいかぎりだぜ……」
「うわぁああぁあッッ!!」
「強すぎるゥ!キング強すぎるってェ!」
「足を狙えぇぇッ!あちょま」
「イナズマックスぅぅううぅうッ!!!」
「落ち着け皆ッ!!連携を取るんだッ!」
「キング良い男……(////)」
「このオカマ叩き斬っていいか?」
「やめろぉ!」
「隙ありだぜキングゥ!狩―――……ぽへぇ」
「「「「 (懲りねぇなアイツ……) 」」」」
人が宙を舞う。……初日から今日に至るまで繰り広げられている〝強化訓練〟名物の一つだ。
まるで悪夢を見ているみたいだった。……だが、タチの悪いことにこれは夢ではなく現実。
この悪夢を現在進行形で作り出している元凶である地上最強の男…キングは、顔色一つ変えることなく迫りくる無数の攻撃を紙一重で躱しつつ、正確無比な打撃を急所に叩き込んでいった。
怪人の返り血によって塗り固められているであろう必滅の拳足は、対戦相手の命を奪うことなく意識のみを刈り取るに留めている。
「(本気ではないじゃろうが、恐ろしいほどに加減上手じゃのう。一見すると荒々しい動きが、訓練を重ねるごとに洗練……いや、
「(シルバーファングに頭を下げて弟子入りを願い出たと聞いた時には己の耳を疑ったが……なるほど、得心がいったぜ。キングはいまだ発展途上、あれほど別次元な強さを持っていてなお、奴は
気づけば震えていた。
それは恐れゆえか、あるいは武者震いか。……それはアトミック侍のみぞ知る。
「(強欲と謙虚を両立した天才をも淘汰する怪物……。
ふっ、認めてやるよキング。今はまだお前には届かねぇ。だが、いつか必ず……!)」
「キングは同じヒーローと死合わんと思うがのぉ」
「……っ!?」
「此度の強化訓練は、大局的に見て人類全体のためになるからキングは引き受けたとワシは思っておるが」
「分かっている!分かっているが………!!」
〝不公平だ〟……言葉以上に態度が雄弁に物語っていた。
キングは強化訓練の講師になる条件として、
一つ、殺人の禁止。
一つ、ヒーローの志を持たない者の参加禁止。
一つ、途中退場した者の再参加禁止。
一つ、S級ヒーローの参加禁止。
一つ、上記のいずれかに違反した者が入場した時点で強化訓練を終了し、今後こういった催しには二度と出ない。
アトミック侍個人としては四つ目の条件が非常にいただけなかった。……まるで
だから仕方なく、
……三人の弟子達を送り出す彼の瞳が嫉妬に染まっていたのは余談である。
「(……しかし、初日に比べればあらゆる意味でマシにはなった。明らかにヒーローの志なんてものを微塵も持っていないカスどものほうが多かったからな。キングが
アトミック侍の言う通り、初日は本当に酷かった。
いきなりだがキングには謎が多い。……あまりにも多すぎると言えるが特に謎に包まれているのがその戦闘スタイルであり、一般市民はおろか同じヒーローですら彼が戦う姿を目撃したことがないのだ。
理由は簡単、決着が早過ぎるから。
一般市民にしてみれば
そんなキングが強化訓練の講師になったという報せはまさに渡りに船であった。
すぐさま
勝てぬまでも少しでもキングの情報を引き出すことができれば莫大な報酬を手に入れることができる。……そんなアマイマスクよりも甘い考えが裏社会の住人達の頭を支配していた―――……
……
「(まさか、生きて地獄を見ることになるとはな……)」
強面の大男がまるで幼子のように泣き叫んだ。
幾つもの修羅場を潜り抜けてきたであろう歴戦の戦士風の男が体中の穴という穴から
いかにも怪しさ満点な科学者風の男が幼児退行していた。
明らかに人間じゃなさそうな機械?がオーバーヒートを起こしていた。
魅惑の女スパイっぽいのは何をトチ狂ったのか急にキングの前に土下座して踏んでください!と抜かしていた。
「(……あの時たまたま顔が見えちまったが完全にイッてた。忘れてぇ。忘れよう)」
後は似たようなものだ。泣いて許しを請う連中ばかりでお前ら何のためにここに来たの?と突っ込みたいところだが、相手があまりに悪すぎたのだ。
キングが戦闘態勢に入る際に放つ爆裂音。
その真価はズバリ〝選別〟……悪を
Q.では選ばれなかった者は?
A.即座に屈服し、心の底から改心すれば救われるだろう。
Q.屈服もせず、改心もできない愚か者は?
A.死。
推定災害レベル【鬼】を複数体、
チャイルドエンペラーの見立てでは、最低でも【竜】相当の実力がなければキングの前に立つことすらままならないのではないか、とのこと。
……確実に言えることがある。心に悪が巣食う限り、キングエンジンからは逃れられない。
初日は本当に酷かった。……だが同時に幸運でもあった。
その場にいたほぼ全ての悪党たちは改心したことで救われ、ヒーロー達は覚悟を決め、ヒーロー協会からは膿が取り除かれ―――……
……キングは人殺しにならずに済んだのだから。
「それはそうとシルバーファング、お前キングの弟子入りを断ったらしいじゃないか」
「次元違いの強さをワシに求められてもな。それに……」
〝自分に師を名乗る資格などない〟…内心自虐しながらシルバーファングは言葉を紡ぐ。
「……ワシよりキングのほうが上手くやっておる」
また、人が宙を舞う。……宙を舞うソイツをシルバーファングは知っている。知りすぎている。
ついこの間、自分がボコボコにして破門にした青年。
「相変わらずじゃのぉ―――……ガロウ」
〝
もはや強化訓練の名物と化しつつある青年…ガロウの胸中はその一言のみで埋め尽くされていた。
鍛えた肉体。身に付けた技術。磨き上げたセンス。場当たりの発想、瞬発力。
……全てぶつけているというのに敵わない。まるで自分のソレが児戯であると真っ向から否定されているようだ。
初日以降、目障りなゴミどもはほとんどいなくなり、残ったのはヒーロー気取りの偽善者100人そこら。
有象無象に興味はない、俺の狩るべき相手はキング唯一人ッ!!!……そのはずだった。
「っっっ!!?(俺ァいつまで寝てたっっ!?)」
辺りを見回す。……ヒーローどもはどうやら休憩に入っているらしい。どいつもこいつも疲労の色を隠せていない。
ヒーローを名乗っているクセに情けねぇ。……が、俺も正直なところ人のことをとやかく言えないとガロウは痛む体を押さえる。
「……痛ぇ。全身痛ぇ。痛くねぇところがねぇ……」
「やれやれ、どうやら大事ないようですね」
「あん?……バネヒゲか」
「まったく貴方は……。我々と仲良くしろとは言いません。しかしせめて最低限の連携くらいは取ってもらいたいです。単身で突っ込んで毎度宙を舞って楽しいですか?」
「んなわけねぇだろ。そもそも俺に合わせられないお前らが悪い。俺はいつだって実戦で研ぎ澄ましているんだよ」
「それで毎回ぶっ飛ばされてりゃ世話ねぇな」
「あぁ?テメェも人のこと言えんのか黄金ボールっ!?」
「俺はどっかのバカと違って自分の役割はちゃ〜んと理解しているぜ?少なくともこの訓練の名物になるような小っ恥ずかしい真似はしてねぇ」
「……ちょっと待て、何だよ名物って……!」
「ガロウッ!!今日という今日はもう我慢ならないわ!!フブキ組に入ると言いなさいっっ!!!」
「……めんどくせぇのが来やがった……」
馴れ合うつもりなどない。人間怪人を目指す以上、ここにいるヒーローどもは全員敵だ。
キングエンジンの洗練を潜り抜けたことで自信が確固たるものとなったのだから尚更だ。
結果は全戦全敗だが、心では負けちゃいない。
『
『お前マジでスゲェよ。俺なんか足が竦んで……』
『貴方が先陣を切ってくれなければ、ワタクシ達はキングさんに挑もうとすらしなかったでしょう』
『先輩スゴイです!尊敬しちゃいます!!』
『いまフブキ組に入ればこんな特典が……』
『一人で突っ走るんじゃねぇ!俺達を信じろ!』
『『『『 ガロウ!!! 』』』』
……馴れ合うつもりなど、ない。
打倒キングのために一時的に手を組んでいる。……ただそれだけの関係だ。
本日の強化訓練は一時間もかからず終わった。
しかし、ヒーローに安息の時はない。
年々凶悪化していく怪人災害に対処するためにはヒーロー側の早急なレベルアップは必須である。だがそれは手早く簡単に済ませてはそもそもやる意味がないし、さりとてダラダラ時間をかける余裕もない。
……ヒーローの拘束時間が長くなるという事は、それだけ怪人達に自由な時間を与えることに繋がるからだ。
キングを講師に据えた強化訓練の発案者である童帝、もといチャイルドエンペラーは藁にも縋る思いでS級集会を開いた。
『後進の育成に御協力いただけませんか?』
首を縦に振る者はいなかった―――……
……助けを求める子供の声に応える者はいた。言わずもがなキングである。
そこからはトントン拍子に話が進んだ。
キングの課す訓練内容は、有り体に言えばキングvsその他全員による殴り合いだ。
どちらかが倒れるまで終わらないが、大抵キングが全員を速攻で伸して終わらせる。そこに一切の無駄はなく極めて合理的だ。
実際この強化訓練に参加した全員の身体強度が飛躍的に向上したことは確認済みである。
……しかし、身体強度以上に向上したものがあるとチャイルドエンペラーは確信している。
「(キングさんに威圧されても皆怯まなくなってきた。全員心が強くなっているんだ……!)」
例えキング自身にその気がなくとも、心に悪が巣食っていなかろうと、キングエンジンは間近で聴く者全てに畏怖を与える。
その怖れが怪人達に迷いを与え、致命的なまでの弱体化をもたらしている。……同時にそれがキングとその他大勢を分け隔てる大きな壁となっているのだ。
「(キングさん一人に世界の命運を背負わせたりしない。今度は僕がキングさんの助けになるんだ……!)」
かつてキングから受けた大きな恩。……イジメのようなヒーローネームを付けられたと知り、危うくやさぐれかけた自分のために、上層部に全力のキングエンジンをかましてくれた彼の善意を少年は決して忘れない。
以降、ヒーローネームはそのヒーロー本人が自由に決められることとなった。……上層部の面々の寿命がごっそり削れたのはあくまで余談だ。
「(ん?シルバーファングさん……と、彼は……?)」
今日の強化訓練が終わったので何か甘いスイーツでも食べに出かけようとしたところ、同じS級のシルバーファングと強化訓練の名物となっていた青年…ガロウが何か話し合っているところを目撃してしまう。
「……俺の拳が未熟だと思い知らされた。ジジィ、いや師匠。もう一度あんたの元で鍛え直したい」
「プライド以上に大切なものができたのか……」
「う、うるせぇ!」
「……ふっ、ならまずはお詫び行脚から始めんとな」
「メ、メンドクセェ……」
「ふんッ!」
「あでッ!何すんだジジィ!!」
これもまたキングが繋いだ縁であると、そう思わずにはいられなかった。
今日も平和である。
キング「オシゴトチュラい……イキたくなぁい……」