キングと呼ばれる男に弟子ができるよって話です。
<<< ある日の〝強化訓練〟 終了後 >>>
「(つ、疲れた……。主に精神的に疲れたぉ……。
サキ氏に癒してもらわねば……)」
どうにか堂々と歩きながら自宅を目指していく。……道中でのキングコールがエラいことになっていたが気にしていられる余裕などない。
ワクチンマン襲来から一週間が経った。A市の復興は順調に進んでいる。……誰一人死ななかったこともあり、街の荒れ様とは裏腹に人々の心は生き生きとしている。
それ自体は素直に嬉しい。救えなかったことを責められるよりずっと気が楽だ。
「(あの時は目に付く人をとにかく『気』で治癒して回っていたから、もしかしたら助けられなかった人がいたかもって思っていたけど本当に良かったよぉ。ほかのヒーロー達が凄く頑張ってくれたおかげだな、うん)」
自分よりよっぽどヒーローをしている人達に尊敬の念が止まない。……それに引き換え自分がやったことといえば、『気』で怪我人を治癒しながらみっともなく時間を稼ぎ、いざ件の怪人と遭遇したら全力のキングエンジンをかましてビビらせ、隙をついて
これじゃあヒーローではなく卑怯者。……周囲のキングコールが勢いを増すごとに自分の矮小さが浮き彫りになる気がしていたたまれなくなる。
「(……最近思考がブルーになるな。……大丈夫だ俺、曲がりなりにも役に立ってはいる……!)」
今なお強化訓練は続いている。最初は恐怖で身が竦んで動けなかった参加者達も今となっては勇猛果敢に攻め立ててくるまでに
「(何なのあの人達は?!俺最初に殺しはダメって言ったはずなのにぃ!……剣やら銃やらモーニングスターやらパチンコ玉やら矢やら火炎放射器やらガトリング砲やらタケノコやら超能力やら……!凶器を振りかざして襲いかかって来た時にゃ死を覚悟したよ………!!)」
必死になって抗った。あらゆる感覚を総動員してとにかく躱しまくった。……そして気付いたことがある。
今日まで欠かさず筋トレを継続してきた自分の肉体は、サイタマほどではないかもしれないが中々に極まっていると自負している。……そもそも
そっからはもうヒット&アウェイな日常の始まりだ。ひたすら躱してひたすら叩く。そんな日々を続けていれば流石の俺でも対人戦に慣れてくる。……そう、俺も慣れてくるってことは相手も慣れてくるってこと。
「(もうダメだぁ……!ただでさえ辛勝続きだってのに、あの人達目に見えて強くなってるんだもん……)」
最高のヒーローのメッキがベリベリ剥がれていく。今は辛うじて保たれている均衡が崩れるのも時間の問題だろう。
「(……潮時だな。うん、ヒーロー辞めよう。そもそも俺にヒーローは向いていなかったんだ。
自衛ができればそれで良かったのに中途半端に強くなったのがいけなかったんだ)」
清々しい。これが―――……自由。
「(そうと決まれば早速、辞表を出そう。ヒーローをしている間相当な給料をもらったから当分不自由はしないぞぉ……!思えばサキ氏と新婚旅行にすら行けていなかったな。……山がいいかなぁ、海もいいなぁ……)」
嗚呼、こんなにも楽しいと思えるのは本当に久しぶりだ。これからの人生はきっと輝かしく―――……
「俺はジェノス。……キング、お前に決闘を申し込みたい」
……うぇ?
「(測定不能か……。今のままでは勝機はないと分かっていたがそれでも侮っていた……。奴こそが……)」
……15歳の時、家族と故郷を暴走サイボーグに襲われ全てを失い自身も瀕死の重傷を負うが、その暴走サイボーグを追っていた科学者クセーノ博士に偶然助けられた。
家族の仇を討つため博士にサイボーグ化手術を施してもらい、悪と戦う道を選んだのだ。
しかし、ここ最近行き詰まりを感じるようになっていた。年々凶悪化する怪人災害に、クセーノ博士から授けられた力が通用しにくくなっている。
災害レベル【虎】(実際は【鬼】相当)の怪人相手に勝利こそ収めたものの、ほぼ全壊の損傷を与えられロクに身動きが取れなくなった時にその事実を痛感した。
クセーノ博士に非はない。ひとえに自分が未熟で弱いからだ。……そんなある日だった、更なる改造手術を施されている時にクセーノ博士からある提案を受けたのだ。
『誰かから教えを乞うてみなさい。ジェノス』
『俺にはクセーノ博士がいます』
『ワシはオヌシの師にはなれん。……助けることはできても、導くことはできなんだ……』
『そんなことは……』
『……なに、アテはあるのでな。ヒーロー協会は知っておるな?』
『確か……三年前に設立されたばかりの民間団体と聞いています』
『左様、そのヒーロー協会で近々〝強化訓練〟なる催しが行われるという』
『それが一体……?』
『風の噂によると、
『なっっっ!?
『恐らく二度と訪れぬ好機じゃ。よく考えておきなさい』
「(キング……この男の真の実力を見ないことには何も始まらない……。)お前にとってはあくまで強化訓練の延長だ。……しかし、俺に遠慮は無用。全力で戦ってほしい」
無理は承知の上、誰がどう見ても無茶苦茶なのは自分のほうだということも理解している。……しかし、ヒーロー協会主催の強化訓練ではどうしても自分の本領を発揮できない。ゆえにキングが一人になるところを狙うしかなかった。
そのキングはいま直立不動のまま動かない。
「(やはり無理があったか……)」
「いい…だろう……」
「え?」
「え?」
あっさりOKがもらえた。
「……ただ…ここは……街中…場所を…移そう……」
当然だ。街中で暴れるなんて愚行を犯す気はない。
「感謝する。場所についてだが……」
「心配…ない……一瞬だ」
「は?」
そして―――……
「…………………は?」
……景色が変わった。
「(『気』の操作を極めたらこーんなこともできるようになったんだよなぁ。瞬間移動マジ便利。)……到着…だ」
「そ、んな、バカな………!!?」
理解が追いつかない。今いる場所は市街地ではない。
……人けのない、見渡す限りの荒野だ。
キングが何かしたのは明らかだったが、あらゆる反応を感知する高機能センサーが何の反応も示さなかった。……それはつまり
思い当たる節はある。
キングエンジンによって悪を
Q.では選ばれた者はどうなる?
A.そこで初めてキングと戦う資格を得る。
キング流気功術の解禁。……それは選ばれし真の強者に向けたキングなりの敬意であり
そんなキング流気功術だが、当然ながらキングエンジン以上にその詳細は謎に包まれている。……そもそもキングのお眼鏡にかなう強者などそうはいないが。
余談だが、強化訓練終了直後のボロボロな参加者達が訓練場を出る頃にはほぼ全快の状態でいるのは、キングが『気』を使って肉体を修復しているからである。
キングにしてみればリスク管理の一環として行っているこれら治癒が、皮肉なことにここ最近のヒーロー達の急激なレベルアップに繋がっていたのだ。
「(落ち着け……。想定以上の事態が起こることを想定した上で俺はキングと戦うことを選んだんだ)」
異常事態の連続でオーバーヒートしかけていた思考が急速に冷却される。ジェノス本来の冷静さが取り戻されてゆく。目と鼻の先にいるの最高のヒーローを睨みながら、その思考は加速されてゆく。
「(奴の反応を感知しながら戦うのは下策。不明なことを不明なままにして戦うなど愚の骨頂だが、もはやそれは仕方ないものとするほかない。問題は奴がどのように仕掛けてくるかだが……)」
「……良い…か?」
「っ!!」
キングが口を開く。思わず身構えるジェノス。
「あらかじめ…ルール…を……決めて…おきたい」
「ルール?……構わないが」
「ルール……と…いっても…負けたほうが…勝ったほうの…言うことを…聞く……という…もの……だが」
「……お前が勝ったら?」
「君の…持つ……情報…を…できる……限り…開示…して……もらい…たい……」
「っ!……万が一俺が勝ったら……?」
「君
君達。キングは確かにそう言った。つまり―――……
「(クセーノ博士の存在は割れている、ということか。いや、俺の姿を見れば一目瞭然だ)」
すぐに姿を晒したのは軽率が過ぎた。恩師を危険に晒す自分をぶん殴りたくなる。
キングにその気があろうがなかろうが関係なくなった。この失態を挽回するために必ず勝たねばならない。
「それで構わない。……始めるぞ……!」
「(良いことって、続けてやってくるもんなんだなぁ)」
そう思わずにはいられなかった。ヒーローを辞める決断をした矢先に出会った青年…ジェノスのことは十分過ぎるほど知っている。流石の俺でも〝ワンパンマン〟の実質メインヒロインの顔ぐらいは覚えているとも。
「焼却!!」
そのジェノスがこちらに向けて発射した熱線(多分焼却砲)をスレスレで回避しながら思考する。
「(彼……考えていることが顔に出るタイプなのかなぁ?俺が『気』を使ったことに
ジェノスが跳躍した。……あの体勢は踵落としだろうか。
「(……もしかして………)」
試しにジェノスの横合いを放出した『気』で小突いてみたら、明々後日の方向へ面白いぐらいにすっ飛んでいった。
「(……なるほどね………)」
地面と盛大なキスをしてしまったジェノス。……その顔は驚愕で彩られていた。
「(たぶん俺の『気』を感知できていないんだな……。どうしてかは知らんけど……)」
「(この闘い、俺の勝ちだ)」ニチャァァァ…
「っっっ!!?(
先制で放った焼却砲はいとも容易く避けられ、ならばと間髪入れずに渾身のロケットスタンプを放とうとして……不発に終わった。
センサーによる感知も行っているが反応が芳しくない。正体不明の未知の力もだが、キングの肉体から発せられている熱エネルギーがより収束していき、もはや感知すらできないほどに隠蔽されてしまった。
目視を除いて、今のキングの存在を証明するものはない。
「(まだだ、まだ俺は負けていない!!)」
全エネルギーを両手に集中させる。出し惜しみをして勝てる相手ではない。なら―――……
「(俺の全てを、この一撃に懸けるっっ!!)」
「(……こいつは中々……)」
目に見えてジェノスが凄いことになっている。つか眩い。
エネルギーが両手に集中している様子が
「(しかし、今日は本当にツイてるなぁ。平時ならいざ知らず、
巷で噂されるキングエンジンを聴いても、降参したり自滅しない怪人はそれなりにいる。大抵そういうのは強いのしかいないのだが、それでもビビらなかった奴は皆無だ。
最低でも二の足を踏ませ、心に迷いをもたらす。
俺はそういう迷いを見抜くことに長けている。……長けてしまったと言うべきか。
これは俺の持論だが、どんだけ強かろうと決断できなくなった時点で弱くなる。……俺が怪人と遭遇しても生きて帰ってこられる秘訣だ。
閑話休題。
今のジェノスは何と言うか、悩みに圧し潰され、心に全く余裕がなく、瞳が曇りまくっているように見えた。
……まぁなんだかんだ言ったが、つまるところ負けてやる道理なんてこれっぽっちもないってことだ。
それに―――……
「(君のエネルギーには既に
「焼却!!!」
其れは光の柱。……普通の柱との最大の違いは、縦にそびえ立っているのではなく、横……前方向に押し出されているということだ。
目指すはキング。貫くはその命。
必滅の意思が込められた極光はキングに殺到し、その身を呑み込んでいく―――……
「……………やった、か…………?」
ほぼ全てのエネルギーを使い果たし、その場に崩れ落ちてしまう。……指先一つ動かない。
正真正銘いまの自分が出せる全力をぶつけた。これでもし死んでいなかったら敗北を認めるしかない。
前方を見据えるジェノス。
「…………クソッ…………」
……もはや笑うしかない。ふざけるな。
そこには―――……
「勝負アリ……だ」
……無傷の
ジェノスと対面した時点で既にその迷いは見抜けていた。勝率は俺のほうに傾いていたが、万全を期すため俺はある小細工をしておいたのだ。
最初にジェノスの肩に触れた時、なるべく気付かれないよう『気』を流し込み、ジェノスのエネルギーに対する
俺って人間はどうやら人一倍適応能力があるようで、一度見聞きしたことなら時間はかかるが着実に自分の力にすることができる。
肝心なのはそれが俺の肉体に限らず、『気』
適応の進行度合も完了も感覚で分かる。
後は発射された焼却砲を『気』に変換して吸収すればいい。……万が一バレる可能性もあったが、そん時は色々言って誤魔化していたと思う。いやまぁ良かった良かった。
「一つ、教えてくれ」
「(ギクッ)……何…だ?」
「俺の敗因は何なんだ……。何故俺は弱いんだ……」
「……思う…に…君は……焦り…すぎて…いる」
「……焦り?」
「君…には…君の……目標…夢…理想…が…あるん…だろう」
「………」
「それ…自体…は……素晴らしい…ことだ。……ただ…それらを……考え…すぎる…あまり……君は…君の…心を…追い詰めて…いたのでは…ないかと…思って…いる」
「そんな事はない!!俺の選択だッ!!悔いなど……!」
「君…には…君を…大切に……思う…人が…いる…はずだ。……その人が……今の…君を…見て……どう…思うのか…考えて…あげて…やって…ほしい……」
「……っ!(クセーノ博士……)」
「……さて」
「……?………っ!!?」
突然、動かなくなった体が白く輝き出す。損傷箇所が修復されていき、エネルギーが充填されていく。
あっという間に決闘する前の状態に戻っていた。……いや、それ以上に力が湧き上がってくる感覚さえある。
「直して…おいた……」
「あ、ありがとう、ございます……」
「礼は…いい。……それ…より……君の…師匠…に…ついて……」
「っ!!!」
「……尋ね…たい」
「……分かっています」
「……では……」
「……はいっ!俺を―――……弟子にしてくださいッ!
師匠っっっ!!!」
「サイタマという…男を……え?」
「俺はもっと強くなりたい……!師匠の元に置かせてくださいっ!!お願いしますっっ!!!」
「ちょ、ちょま……」
「家事全般なんでもしますっ!いや、させてください!!徹底的にこき使ってもらっても構いません!!!」
「わァ……ぁ………(泣)」
キングの受難は始まったばかりだ。
焼却砲→ロケットスタンプ→焼却砲で負けちゃったジェノス君……。
作者の経験不足の犠牲になったのだ…。