キングと呼ばれる男にも宿敵はいるよって話です。
前後編で分けてみます。
鬱になる。……
『サイタマ?そんな奴知りませんが……?』
……嘘じゃなかったと思う。ジェノスの俺を見る顔が尊敬の色に染まっていたからだ。
……いや、あれは尊敬に収まらない。俺に付き纏う(非)公式ファンクラブ……〝親衛隊〟の連中と同じ絶対不変の信仰を見出した顔だった。
突然だが一つ質問をしたい。
ジェノスと聞いて皆は何を連想する?
……回りくどかった。俺の答えを言おう。
サイタマの弟子、だ。
ジェノスの個性を否定する気はない。……ないが、ジェノスと聞くとこう連想してしまうのだ。
だからジェノスとバッタリ出会った時、思ったんだ。
ジェノスの開幕決闘発言を即承諾したのは、ジェノスを橋渡し役にしてサイタマと会うためだ。
そしてこう諭す―――……〝趣味でヒーローもいいけど、どうせならプロになろうぜ!!〟
協会には俺がO☆NE☆GA☆Iをして、プロになったサイタマを即S級に繰り上げてもらう。……最近協会相手に強気に意見を通すことができると分かったからこその荒業だ。
協会連中は思い知ることになるだろう。……サイタマの異常過ぎる強さに。
そうやってサイタマを矢面に立たせ、入れ替わるように俺はヒーローを引退する。
文句を言う奴もいるだろう。……だが、
足りない頭で瞬時に考えたにしては完璧な計画だ―――……そう、思っていた。
<<< M市 超高層マンション あんしんの家 >>>
「た、ただいまぁ〜サキ氏〜」
「あ、おかえり〜レイタロウ氏。どーしたの?今日は結構遅かったね。……もしかして、浮気?」
「んなわけないでしょ。……
「ふ〜ん。……大丈夫?原型残ってる?」
「殺してないって……。ただ協会本部に行ってS級になってこいとは言ったけど……」
「……その人強いんだね」
「まあ、ねぇ……」ギュ、ギュ〜〜〜
サキ氏が抱き着いてきた。思わず俺も抱き返す。
スゥゥゥ〜、ハァァァ〜。今日の疲れが吹き飛ぶよぉ……。
彼女はたまにしか風呂に入らないからちょっと独特で濃ゆい匂いを漂わせているけど、不快になるほどじゃなくて、むしろ女性特有の香りを強く引き立てるスパイスとなっていた。
ちょうど胸の辺りに顔を押し当てていたサキ氏と目が合う。……サキ氏の、
「レイタロウ氏……私……」
「……!分かってる、ちゃんと穴埋めするから……」
「じゃあいま埋めて」
「……うん」
今夜は長い戦いになりそうだ。
<<< 翌朝 >>>
「89、90、91―――……ん?」
日課の筋トレ(スクワット)を行っている最中、ふとインターホンが鳴った。
「(おいおい今5時だぞ……。まだサキ氏が寝てるってのに誰だぁ……?)」
やれやれと玄関へ向かう。
ガチャッ…「はい、どな「昨日ぶりですキング師匠。早速御自宅に来ましたが迷惑でしたか?」……うん」ガチャッ
見間違いでなければ、でっけぇリュックサックを背負ったジェノスが玄関の前に立っていた。デジャヴ……。
……結局ジェノスを家の中に入れることにした。
軽く恐怖を覚えるくらいインターホンを連打したり借金取りみたく玄関をドンドン叩かれたりしたら近所迷惑だ。……その音でサキ氏はすっかり目が覚めちゃったし。
そのジェノスは現在反省していますと言わんばかりに正座して待機している。対面には俺とサキ氏。
「……はぁ、色々聞きたいことはあるけどさぁ、なぁんで俺の家が分かったのぉ……?」
「あれ?その口調で良いんだ?」
「……何か色々吹っ飛んじゃってさぁ……」
そのため強面とキングエンジンによって乗り切っているのが実情だ。
「はい!師匠の
……ん?いま聞き捨てられないことを言わなかった?
「反応って……?」
「師匠のみが使いこなせるとされる〝キング流気功術〟……俺を直してくれた時のその力が体内にいまだに残っており、その反応を頼りにここまで来ました。……ほぼ直感ですが」
依然として高機能センサーは
その謎を解明するためにもここで引くワケにはいかない。
「改めてお願いします。……俺を弟子にしてください」
「むむっ……。そ、そう言えば昨日言った件は……」
「S級ヒーローになってから来いということでしたら問題ありません」
「……ふぇ?」
「あのあと協会に行き、偶然師匠の友を名乗る
突然
当然不審に思ったジェノスだったが、その疑念はすぐ氷解することとなる。……何故なら
『君も僕と同じ、キングに救われた者なのかな?』
『あぁ、怖がらないで』
『キングの友は僕の友でもある』
『キングが繋いだ縁を途切れさせたくないだけだよ』
「………師匠との関係を明かし、その人物の推薦でS級ヒーローになりました。……大変不本意ですが」
俺なら自力でなんとかした。……そんな態度を隠そうともしないジェノスであったが、原作を読んでいる俺はしっかり理解している。
ジェノスなら誰の手を借りなくてもS級になれることを。それよりちょっと気になることがある。
「君を推薦した人って……」
「確か……A級ヒーローイケメン仮面アマイマスクと」
「やっぱりかぁ。ビュウトくんがねぇ……」
「お知り合いですか?」
お知り合いどころじゃない。何を隠そう〝親衛隊〟の筆頭なのだから。……あの日あの時、彼を助けたことが俺の悩みの一つの始まりとなったんだから。でもね―――……
「知り合いじゃないよぉ。……親友さ」
ジェノスを正式に弟子にすることにした。
プロヒーローになられた以上無碍にはできないし、口約束でもそれを律儀に守ったのなら俺も誠意を見せなければヒーロー以前に人間失格だ。……俺に残されたチッポケなプライドに従った結果である。
しかし同居しようとしてきたのは流石にOUTだ。置物と思ってもらっていいです。……な〜んて言われてもダメなものはダメだ。こちとら結婚四年目なんだぞ全くぅ……。
ならばと隣の部屋をお隣さんから譲ってもらいにいった時にはかなりドン引きしたが。
さて、そんな俺はというと―――……
<<< F市 >>>
……絶賛F市を散歩中だ。
「お、おい。あれってもしかして……!」
「間違いないって!」
「ナマでなんて初めて見た……!」
「キャーッ!こっち見てー!」
「「「「「 キングゥゥゥ!!!! 」」」」」
せめて変装ぐらいはしてくれば良かった。……後悔ばかりが募るが仕方ない。過去のバカな自分を呪うばかりだ。
最近ストレスが溜まり過ぎている気がするため気晴らしになればと思い適当な街を選んで散歩していた。サキ氏とのデートの事前視察も兼ねている。……早速その目論見は瓦解したが。
「なぜ働かなければいけないのか」
「何だ?あの
「ママー!
「見ちゃダメよ」
………………ハゲ。………………ハゲ、だと……?
「我々は断固働きたくない」
「だから変えるのだ」
気付けば声の響くほうへ駆け出していた。
ハゲ。ハゲてる奴なんて、俺の中には一人しかいない!
「このハンマーヘッドが「サイタ……誰?」
……絶望だぁ。
「………ほぅ、あれが噂のキングか。……くだらん、所詮ヒーローなどな……」
一体どんな関節のパニックなんだ……!
次回、キングが負けます。