キングと呼ばれる男はある決断をするって話です。
※怪人アンチが含まれます!
苦手な方はブラウザバック推奨!
<<< Z市 >>>
「ここがZ市ですねぇ。早速調査を始めましょう」
他の地域と比べ怪人発生件数が圧倒的に高い街……Z市。その中でも指折りの危険地帯である〝ゴーストタウン〟に二人のヒーローが足を踏み入れる。
A級33位 バネヒゲ
A級29位 黄金ボール
A級ヒーローの中でも指折りの実力者である二人は、この世の地獄と呼んで差し支えないゴーストタウンを悠々と突き進んで行く。……その歩みに恐れはなく、まるで散歩にでも出かけているようだった。
以前までの彼らであればこうはいかなかっただろう。だがしかし、彼らは確実に強くなったのだ。……〝最高〟のヒーローとの全力のぶつかり稽古によって、新たな能力・新境地を切り開く形で。
今回ゴーストタウンを訪れたのはほかでもない、定期災因調査のためである。半端な者には任せられない非常に危険を伴う役目である。……まさにお誂え向きというわけだ。
「……それはそうと黄金ボールさん」
「分かってるぜバネヒゲ」
直後スリングショットを構え、鉄球・形状記憶弾金を適当なオブジェクトに向かって射出する黄金ボール。
気でも触れたのかと第三者がいれば言いそうだが、射出された弾はオブジェクトを通り道に跳弾を繰り返していき、やがて遥か後方にて様子を伺っていた怪人(昆布が頭から生えていた)に迫っていった。
「っ!?やば……」
怪人・昆布インフィニティは自分の気配が向こうに筒抜けであったことを悟る。
そこからの判断は迅速であった。
鋼鉄並の強度を誇る
弾一発ぐらい弾くのなんてワケない……その油断が命取りとなった。
「カハァァァァァァ!!?」
「ウェ、ゲホッ! ゲボッ!! ゲホッ!!!」
即死こそしなかったが酷い有様だ。……片目は潰れ、片腕は千切れかけ、全身から凄まじい量の体液が流れ出て、内臓は再生不能なまでの損傷を被り、自慢の
それでも立っていられるのは、ひとえに目の前で
「〝ゴールデンショットガン〟っと。
……お前も大概しぶてぇな。俺で終わっとけば苦しまずに済んだのによぉ……」
まぁ俺がまだまだ未熟な証拠だなと笑う人間。……到底許せるはずもなかった。
「テメェエえぇエえぇェエぇッッッ!!!!」
「……気付いてねぇみたいだから一つだけ言っとくぜ」
突然、自分の近くの民家を突き破る形で現れた
十字は目前まで迫っていた。回避は間に合わない。
……受けに回った時点で勝敗は決した。
「……お前じゃあ、俺
怪人が負け、ヒーローが勝つ。……ごく当たり前の光景がそこには広がっていた。
「大事ないようで何よりです黄金ボールさん」
「おう、あんな三下に苦戦するほうが難しいってもんだ」
「それは良い、苦戦を強いてくるのはキングさんだけで十分です」
「……あれから何度も挑んでるってのにいまだ傷一つ負わせられねぇ。こんなところで三下狩りをしても意味がねぇんだ……」
「今回はあくまで定期災因調査のためです。……大丈夫です、我々は確実に強くなっています」
「……それはそうとバネヒゲ、さっきのあの南十字星っぽい技はなんだ?……見間違いでなきゃ
「えぇそうですよ?正確には派生技ですがね。……簡単に説明すると、
「……自分で言ってて凄いと思わねぇか?」
「最近習得したばかりでまだ取扱いに慣れていないのですよ。先程の怪人に放ったものが初めてマトモに当たったくらいですから」
やれやれこの天才は……サラッととんでもないことを宣う同僚に思わず溜息が出る。
ウカウカしていると置いていかれちまうかもしれない、そんなことを思い密かに今後の特訓の質と量を見直す決意をした。
「ワタクシのほうは言いましたよ。……さぁ黄金ボールさん、貴方の手の内も教えていただきましょうか。先程の散弾のような攻撃、以前までは使わなかったと記憶していますが?」
「……ノーコメントで」
「む?ワタクシは言ったのに貴方は言わないと?……これは貴方との関係を見直さないといけませんね」
「そんなセコい真似はしねぇよ。……ただ、聞き耳立ててる
「っ!」
瞬間湧き上がる粘つくような殺気。
ここはゴーストタウン。……常人にとっての地獄であり、ヒーローにとっても過酷極まる戦場である。
禁忌に踏み入る者に安息の時は訪れない。
「ここがZ市……その中でも危険な地帯であるゴーストタウンと呼ばれる場所です。師匠」
「……とうとう来ちゃったかぁ……」
俺ことキングとジェノスは現在ゴーストタウンというメチャクチャヤベェところに来ている。
分かりやすく言うと怪人がカブトムシより発見できる絶対にお近づきになりたくないホットスポットNo.1なところだ。……もちろん俺だって近づきたくなかった。どんだけ強くなっても怪人は怖いし生理的に受け付けない。
……しかし、もうここしかないのだ。
ジェノスの今年の年齢的に本編は既に開始されていると思ったほうが良い。……そうなるとサイタマはここZ市のどこかに住んでいるのは確実。
唐突だが俺は索敵が苦手だ。……より正確に言うとジェノスみたいに広範囲をカバーできるだけの感知能力を持ち合わせていない。索敵手段自体はあるが、効果範囲が文字通り手の届くところまでしかなく、またかなり集中していないと効果が途切れてしまう難点を抱えていた。
ジェノスが弟子入りしにうちに来た時、ジェノスの中の『気』を感知できなかったのもシンプルに俺の力量不足が原因だ。
閑話休題。
Z市のどこかにサイタマが住んでいることは分かっている。が、具体的にどこに住んでいるのかはマンガを読んでいてもサッパリ分からなかった。
ゆえにジェノスの出番である。
「ジェノス君、人の反応はあったぁ?」
「……いえ、怪人の反応自体はそこかしこにあるのですが……」
うーん。もう結構な範囲を探したんだけどなぁ。もうちょっと探してみるかぁ?……でも日が暮れちゃうしなぁ。
「……高速接近反応!!これは……怪人か!?師匠っ!」
「うん、何か近付いてきているねぇ。カサカサカサカサ……ってコレ……!」
もしかして、もしかしなくてもアレだよなぁ。……有史以来、人類の天敵として君臨してきたあの―――……
「接敵まで残り10秒!!」
「……ジェノス君、ここは俺がやるよぉ」
「っ!?……いえ、師匠の手を煩わせるなど!」
「君は見ているだけで良いからさぁ」
「っ、分かりました!」
どうやら向こうさん相当追い詰められているらしく、微かに漂う匂いからその心情が読み取れる。
怒り、驚愕、屈辱、憎悪、恐怖―――……
そこに予想外の爆弾を投下されればどうなるか想像に難くない。……そこまで追い詰めてくれた誰か(たぶんヒーロー)の手柄を横取りするようで気が引けるが、
「俺の殺り方を教えてあげるよぉ」
どうしてこうなった……?
カサカサカサカサ
こんな、こんなはずではなかった……!
カサカサカサカサ
抉り取られた右半身の痛みに苦しみながら、私こと覚醒ゴキブリは這う這うの体でアテもなく敗走している。
カサカサカサカサ
思えば、あのヒーローどもにちょっかいをかけたのがケチのつけ始めだった。
カサカサカサカサ
地底人どもから奪い取ったアジトの外で暇を持て余していた時だった。……ふと遠くのほうが騒がしくなったため、何が起きているのか様子を見に行ってみたのだ。
そこでは、生き残りと思われる地底人どもと二人のヒーローによる激闘が繰り広げられていた。……生き残りといっても地底人どもの数は膨大、数の暴力によってこのままヒーローどもを飲み込むだろう。……そう思っていた。
ヒーローどもは絶妙なコンビネーションを発揮し、1体、また1体と地底人どもを撃破していった。仕舞いには地底人どもの王を名乗る奴が出張ってヒーローどもと対峙したが、最終的には首を刎ね飛ばされてしまった。
ヒーローどもは大した怪我は負っていなさそうだったが、流石に疲労の色は隠せていなかった。
ニチャァァァァァァァ……!
ここで厄介なヒーロー二つの首を取れば〝怪人協会〟内での私の地位は飛躍的に向上することだろう……!
『クックック……!』キンッ
嗚呼、笑いが止まらない。私はなんて幸運なんだ!
キンッ
そうと決まれば早速殺すとしよう……!キンッ
カサカサカサカサカサカサ
音もなく忍び寄りその背後を捉える。キンッ
気付かれて―――……いないッ!キンッ
とった―――……!!!キンッ
ズドンッ
『……へ?』
『カサカサカサカサうるせぇんだよゴキブリ野郎』
『あ、あ、足がぁぁあぁあぁ!!!』
そんな、ソンナ、だって私は、相手の殺意を読み取って、体が勝手に動いて、なんで?ナンデ?ナンデ?!
『貴方の粘つくような悪意ある視線……正直不快でした』
『っっっ!!?』
殺意!早く避けなければ!クソ、クソォ!こんな時に体が言うことを聞かないなんて!!!……え?
『おや、自分の状態が分かっておられないようで』
嘘だ、嘘だ、うそだ、嘘だ、うそだ、ウソダ―――……
だってギョロギョロが言ったんだ、私は【鬼】だって、君に敵うヒーローはそういないってそう言って―――……
こんな、S級でもない雑魚に私が負けて―――……
『ギャアアァァァァァアアァァアアァァアァアッッッ!!?』
『しまった!
『野郎ォ!!半身しか残ってねぇのになんて
『追いましょう黄金ボールさん!!アレを
『おう!!!』
カサカサカサカサ
逃げなければ、逃げなければ……。体の痛みを押してとにかく早く逃げる。……しかしどこに逃げる?
怪人協会?……私にも向こうにも仲間意識は皆無だ。弱った私を嬉々として甚振るのは目に見えている。
野良に戻る?……もはや怪人としての私はほぼ死んでいる。そこら辺のヒーローに呆気なく倒されるのがオチだ。
ヒーロー協会?……論外だ。
私に逃げ場はない、だが死にたくないから逃げている。
………………るな。…………ざけるな。
ふざけるなァァァァァァ!!!
何故私が逃げなければならない!!?こんなの間違っている!マチガッテイルゥゥゥゥゥゥ!!
……戦略的、そう、戦略的撤退だ!私は決して逃げているワケではない!!必ずや再起を果たし、今まで以上の力をもって人間どもを皆殺しにしてやる……!!
「人間どもを恐怖のドン底に叩き落とし、私は楽しく生きてやるぞ!!!!」
カサカサカドッ
「ヒッ?!」
訳が分からなかった。私はあのヒーローどもを完全に引き離せていたはず。
なのに何故、目の前にキングがいる……?
あまりの衝撃に動きが止まってしまった。
ドスッ
それが命取りとなってしまったらしく、キングの拳が私の急所を破壊する。
「ゴバッ……」
拳から伝わった衝撃が急所を起点に全身をくまなく破壊していくのが感覚で分かる。……そんな最悪な人生体験を最期に私の意識は消失した。
「師匠!」
「……うん、何とか仕留めたよぉ。
良かった〜上手くいって」
やれやれと一安心しているキング師匠。……今回もその本気を見ることはできなかったが、色々と分かったこともある。
キング師匠がやった事は至極単純。高速で突進してくる相手に必殺のカウンターを叩き込むというものだ。
……一見簡単そうに思えるが、それが如何に難しいものか実際に見た俺だからこそ言える。
既に事切れたこのゴキブリ型の怪人……俺の高性能センサーをもってしても完全に捕捉しきることができないほどの超スピードで変幻自在に移動していたのだ。
「俺はね」
「!」
「手の届く範囲までしか感知することができないんだ。でも、手の届く範囲にあるものなら必ず感知してみせる。
……君にも見えたんじゃない?」
「……はい」
俺は確かに見た。
ゴキブリ型の怪人を待ち構える際、師匠を中心に円状の結界らしきものが展開されていくのを。
その結界に怪人が飛び込んだと同時にキングエンジンが発動し怪人は動揺。……その動揺を見逃すことなく必殺の打撃を叩き込んだのだ。
驚くべきはその一連の動作全てに雑念が混じっていなかったこと。文字通り自分の全てを無にしてこの世界から存在を消していたのだ。……控えめに言って、天才である。
「索敵だけに使っても役に立たなそうだったから迎撃用に組み立て直したんだけど、これは本当に成功した部類だと思ってるよ。……本当に、毎度助けられている」
おそらく師匠は思考や呼吸すらも無にすることで反射神経と体に染み付いた動きのみで迫りくる敵を返り討ちにしたのだろう。
間合いに踏み込む者は必ず感知され、動揺や油断を誘ったり、殺気を読み取ろうとしても思考そのものを無にした者にはほぼ効果はない。派手さはないが、恐ろしく堅実。
S級ヒーローに抜擢されるほどの埒外の実力者が気分一つで脳ではなく背骨で考えて攻撃してくるなど、相手からしたらたまったもんじゃない。
「……これも『気』を使った技の一つだよぉ。元々怪人が苦手だったから生まれたものなのさ」
「っ!?怪人が苦手……?師匠ほどの方がですか!?」
「俺のこと何だと思ってんのぉ……?というのはさておき、そうだよ。今だって苦手だし怖く感じてる」
「……では何故、師匠はヒーローになったのですか?」
『レイタロウ氏ぃ〜ありがとおぉ〜。やっぱりレイタロウ氏は私のヒーローだよぉ』
「……
<<< A市 ヒーロー協会本部 >>>
「……早速、各ポイントの調査報告きてます」
「まず……Q市調査担当、S級 番犬マン」
「異状なし!?また適当な……」
「まぁ彼のことですからね……」
「続いてW市の調査報告……」
「担当はA級 ヘビィコング」
「H市……担当はB級のマッシュルームとC級のウマボーン」
「D市……担当はA級 雷光ゲンジ」
「F市……担当はA級 〝蛇咬拳〟のスネック」
「……今さっき報告が来ました」
「Z市……担当はA級 バネヒゲ、同じくA級 黄金ボール」
『複数の怪人と交戦。内一体を取り逃がしかけるも偶然居合わせていたS級 キング、同じくS級 ジェノスによって討伐される。交戦した怪人の中には【虎】以上、もしくは【鬼】相当の強敵がいたというキングの見立て有り。疲労が激しいためしばらく休息をとる。その間の調査を上記S級二名が代行する』
「なんと……【鬼】が……!」
「【鬼】の怪人はキングが倒したということか?」
「……分かったキング。連絡ありがとう」
「……シッチさん?もしや……」
「先程キングから連絡があった。……概ね報告の通り、だそうだ」
「おお、では……」
「A級のバネヒゲ、黄金ボール両名が【鬼】相当の怪人をあと一歩のところまで追い詰めた、とのことだ」
「「「「 っっっ!!? 」」」」
「何ならそれとは別の【鬼】相当の怪人をそのA級二名が倒していたらしい。……大した負傷もせず」
「A級がたった二人で【鬼】を……?」
驚くのも無理はない。
本来災害レベル【鬼】の怪人は、最低でもA級ヒーロー10名が当たって勝つか負けるかの脅威である。S級ヒーローでも相性次第で負けてしまうこともあるのだ。キングからの報告とはいえ
……しかし、思い当たる節はある。
「キングを講師に据えた〝強化訓練〟の成果が出ているということか……」
「だが、始まってから一ヶ月も経っていないのだぞ?
……そんなにすぐに強くなるものなのか?」
『何も不思議なことはないよ。……彼ならここまでやってくれると信じていたからね』
「っ!?……アマイマスクさん」
突然大画面に映し出されるイケメン顔。……A級1位 イケメン仮面アマイマスクである。
その晴れやかで柔和な面立ちは見る者全ての警戒を解くと言われている。
ヒーロー協会の相談役を務めるとともに、キング(非)公式ファンクラブ〝親衛隊〟を纏め上げる中心的人物だ。
『キングのカリスマに当てられれば、もはや以前までの弱い自分ではいられなくなる。……彼は太陽なんだ。大地に芽吹き花開く僕達を見守る輝かしいまでの希望……!かつての醜い僕の心を救ってくれた……』
「あ、あのー、申し訳ございませんアマイマスクさん。
一体何用で?あといま定期災因調査……」
『……天啓を受けてね。僕はキングの報告を全面的に支持するよ。件のA級二名、バネヒゲ君と黄金ボール君の活躍は非常に好ましいものだ。より一層の精進を期待するよ。では』
「あっ……もう切っちゃったよ……」
「あの人のキング推しには凄まじいものを感じるな」
「……続けるか……」
何とも締まらない再開となってしまった。
「……申し訳ありません師匠」
「ん?どーしたのジェノス君」
「師匠が探し求めているサイタマなる人物をとうとう見つけられませんでした……。俺は、弟子失格です」
「……謝らなくちゃいけないのは俺のほうだよぉ。君の時間を潰すだけになっちゃったから……」
「そんなことはありません!師匠のお役に立てるのであれば俺の時間など……!」
「……ジェノス君」
「はい!」
「しばらくサイタマを探すのは後回しにしよう」
「っ、それは……!」
「まだ完全に諦めたワケじゃないけど……俺の勘だと地球はこれならヤバいことになる」
「っ!!」
「恐らくこれまでとは比べ物にならないほどの激闘が待ち受けているだろうね。……君はどうする?できる限り君の意思を尊重したい」
「……師匠、今だけはワガママを許してください。俺は師匠のついて来いという言葉以外受け付けません。それ以外の返答をしたら延々とついていきます」
「……じゃ、ついて来て」
「はい!!」
良かったぁ。もし断られたらどうしようかと思ったよホント。……とはいえ、これで来たる巨大隕石やら深海王との戦いに万全に臨めそうだ。
いやだ
わかりたくない
俺にとって受け入れ難い事実が分かった気がする。
俺はサイタマと同じ立ち位置におり、そのサイタマは恐らく
……俺一人で何とかするしかないってことぉ?
絶望だあぁぁあぁあぁあ!!!
ヒーローがヒーローらしく活躍する様を書きたかったんです!……我が生涯に一片の悔いなし!
……ヒーロー側強化タグを追加したほうが良いですかね?