落ちこぼれ営業マン異世界戦記   作:羽黒楓

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64 イアリー馬

 ヴェルや、ヴェルの妹のエステルとともに、俺は食卓を囲むことになった。

 奴隷身分のキッサやシュシュ、()(とぎ)三十五番は外で待機。

 すまんな。

 でも、大量のパンと肉を与えられて、シュシュはニッコニコの笑顔だったのでよしとするか。

 俺の目の前に並べられているのも、鳥の丸焼き、高級そうな白いパン、ハム、ソーセージ、その他諸(もろ)々(もろ)、超豪華だ。

 しかもめっちゃうまい。

 貴族の食事って、いいもんだな。

 

「さて、エージ、よくやったわね」

 

 ヴェルが説明するところだと、こうだ。

 昨日、俺たちが戦っている最中、ヴェルはミーシアを乗せて全速力で西へと駆けた。

 そこで、伝書カルトによって急を告げられ、慌てて軍勢を率いてきたエステルと合流した。

 

「だけど、あそこから来るまですげえ早かったよな」

「ふふん、それがイアリー家が帝国でも有数の戦力を持つ理由の一つよ」

 

 ヴェルが得意気に推定Cカップの胸を張って言う。

 推定Bカップの胸をはってエステルも言う。

 

「イアリー家の領地に、高地があるの。そこは昔から馬の産地で、しかもそこでしか育たない特殊な牧草を食べて育つのよ。俗にイアリー馬とも呼ばれるその馬はね、牧草のおかげで特異な体質を持つの」

 

 特異な体質?

 胸が大きく育たないとかか?

 とか冗談でも口に出したら今度こそ脳天かかと落としをくらいそうだと予感したのでやめておく。

 ヴェルが継いで言う。

 

「うちの馬はね、法力を乗せられるの。普通、生物には無機物みたいに法力をのせるのは難しい。やれなくはないけどたいていすぐ死んじゃうし。でもね、うちの馬は大丈夫なのよ。極々軽い法力を馬に乗せると、軽装の軽騎兵で一時間に八十カルマルト走れる。しかもそのスピードを三時間は保てるわ」

「軽装って……まさか武装してその速度?」

「当たり前じゃない。(かっ)(ちゅう)なしだったらもっと出るかもしれないけど、さすがにそれ以上だと馬の足が持たないわ。でも、本人が歩くのもやっとくらいの重武装しても時速五十で三時間いけるわね」

「最強じゃねえか!」

 

 すげえな、それは。

 人を乗せて時速八十キロで三時間巡航できるとか、もはや馬じゃねえぞ。

 

「もちろん、道がしっかりしてないとそこまで出ないけどね」

 

 エステルが付け足す。

 それにしたって尋常じゃない。

 現代の競馬の馬って、確かざっくり時速六十キロといったところで、それも整備された競馬場の馬場で、千メートルから四千メートルのわずか数分間くらいだ。

 競馬で使われるサラブレッドって、スピードに特化した品種改良をされているわけだが、その分足が弱く、レース中の骨折で安楽死なんてこともたびたびある。騎手も厳しい重量制限があり、たとえば競馬で一番有名なレース、ダービーでは騎手と(くら)をあわせて五七キロまでという条件がある。

 女性といっても重騎兵ともなると、その重量は百キロ以上になるんじゃないだろうか。

 それで時速五十キロで三時間!?

 

「無双できるな……」

「そのとおりよ!」

 

 エステルがドヤ顔で言う。

 うっわ、生意気そうな顔。

 

「あのね、そもそもターセル帝国は初代皇帝イシリラル・ターセル大帝が近隣の異民族国家を(へい)(どん)して成立したものだけど、我々イアリー家は当時独立国家としてあり、ターセル大帝とも戦争してたわ。でもね、イアリー騎兵団のあまりの強さに大帝は攻略をあきらめ、その変わり破格の待遇とともにイアリー家を家臣に迎えたのよ。大帝は人をたらしこむのがうまいと評判の方だったみたいで、伝説ではイシリラル・ターセル大帝がそのときのイアリー家当主、ターク候にひざまずいて足を洗ってあげたとか。その器の大きさに感動したターク候は、大帝に臣従を決心したそうよ。イアリー家臣団がターセル帝国に加わったことで、マゼグロン大陸の大半がターセル帝国への臣従を決めたと言われているわ。もう何百年も前のことだけどね」

 

 ほー。

 そうなのか。

 もともと俺は歴史オタクだし、この世界の歴史についても、あとでいろいろ調べてみよう。

 ものすごく面白そうだ。

 

「で、破格の待遇って?」

 

 ヴェルが、コホン、と(せき)(ばら)いをし、

 

「普通、第一等の位というのは、皇帝の血族に連なるものか、初代ターセル候が旗揚げした時点ですでに家臣だった方の子孫でなければならないのよ。異民族出身者は第二等までしかなれないの。でもね! 私達イアリー家に限っていえば、当主が戦争に参加した代に限り、第一等になれるのよ! もちろん、そのときの陛下のお心次第だけど」

 

 と、いうことは……。

 

「つまり!」

 

 もはやエステルは最高級のドヤ顔。

 

「今は第三等騎士でも、お姉さまはいずれ第一等大騎士になるのよ! 第一等といえば、実質的に帝国内すべてに対してとりしきる権限を持つの! 私達のお母様も、魔王軍から土地を奪うっていう戦功をたてて、先帝陛下の覚えもめでたく、第一等大騎士でらしたわ。今の今上、皇帝陛下におかれても、軍事的な後ろ盾は我らがイアリー騎兵団なのよ! つまり!」

 

 ドン、とテーブルを(たた)く。

 

「我らがイアリー馬を駆るイアリー家当主、我が姉ヴェル・ア・レイラ・イアリー(きょう)は、もしかしたら第一等大騎士宰相となり! ついでに皇帝陛下のラスカスの聖石を頂戴できる、かもしれない、すごい方なのよ!」

 

 ラスカスの聖石って……。

 あれか、女性同士で子供を産むための聖石で、たしか……。

 レズプレイで子宮に埋め込むとか言う……。

 うわぁ……。

 馬の話から遠くに来ちゃったなあ……。

 

「ちょっと、やめなさいよ、さすがに不敬よ、そこまでいうと」

 

 ヴェルもちょっと顔を赤らめてそう言う。

 

「それに……そういうのは、この反乱を鎮圧してからのお話でしょ」

 

 そうなのだ。

 そもそも今、皇帝は反乱によって帝都を追われ、こんなところで野営しているのだ。

 帝都を奪還し、帝政を整えてからじゃないと、今の話も夢物語で終わってしまう。

 と、そこに、伝令がやってきた。

 

「あの……お食事は終わりましたか? 将軍閣下が、皇帝陛下ご臨席のもと、今後の相談をしたいとのことです」

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